第五十帖 東屋


50 ADUMAYA (Ohoshima-bon)


薫君の大納言時代
二十六歳秋八月から九月までの物語



Tale of Kaoru's Dainagon era, from August to September at the age of 26

5
第五章 浮舟の物語 浮舟、三条の隠れ家に身を寄せる


5  Tale of Ukifune  Ukifune lives temporarily at a small house in Sanjo

5.1
第一段 乳母の急報に浮舟の母、動転す


5-1  Ukifune's mother is surprised to hear wet nurse's information

5.1.1  乳母、車請ひて、常陸殿へ往ぬ。北の方にかうかうと言へば、胸つぶれ騷ぎて、「 人もけしからぬさまに言ひ思ふらむ。 正身もいかが思すべき。 かかる筋のもの憎みは、貴人もなきものなり」と、 おのが心ならひに、あわたたしく思ひなりて、夕つ方 参りぬ
 乳母は、車を頼んで、常陸殿邸へ行った。北の方にこれこれでしたと言うと、驚きあわてて、「女房が怪しからんことのように言ったり思ったりするだろう。ご本人もどのようにお思いであろう。このようなことでの嫉妬は、高貴な方も変わりないものだ」と、自分の経験からじっとしてしていられなくなって、夕方参上した。
 乳母めのとは車の拝借を申し出て常陸ひたち様の所へ帰って行った。常陸夫人に昨夜のことを報告するとはっと驚いたふうが見えた。女房たちもけしからぬことだと言いもし、思いもするであろう、夫人はまたどんなふうに思うことか、嫉妬しっとの憎しみというものは貴婦人も何もいっしょなのであるからと、自身の性情から一大事のように思い、じっとはしておられず、その夕方に二条の院へまいった。
  Menoto, kuruma kohi te, Hitati-dono he inu. Kitanokata ni kaukau to ihe ba, mune tubure sawagi te, "Hito mo kesikara nu sama ni ihi omohu ram. Sauzimi mo ikaga obosu beki. Kakaru sudi no mono-nikumi ha, atebito mo naki mono nari." to, onoga kokoro narahi ni, awatatasiku omohi nari te, yuhutukata mawiri nu.
5.1.2  宮おはしまさねば心やすくて、
 宮がいらっしゃらないので安心して、
 宮のおいでにならぬ時であったから常陸の妻は気安く思い、
  Miya ohasimasa ne ba kokoroyasuku te,
5.1.3  「 あやしく心幼げなる人を参らせおきて、うしろやすくは頼みきこえさせながら、 鼬のはべらむやうなる心地のしはべれば、よからぬものどもに、憎み恨みられはべる」
 「妙に子供じみた娘を置いていただき、安心してお頼み申し上げていましたが、鼬がおりますような気がしますので、ろくでもない家の者たちに、憎まれたり恨まれたりしております」
 「まだ幼稚なところの改まりません方をおそばへ置いてまいりましたものですから、あなた様にお任せして安心はさせていただいていながら、気がかりでならぬような思いもいたされまして、いっこう落ち着いてもいられないふうでいますものですから、下品な人たちに腹をたてられたり、うらまれたりもいたしましてございます」
  "Ayasiku kokorowosanage naru hito wo mawirase oki te, usiroyasuku ha tanomi kikoyesase nagara, itati no habera m yau naru kokoti no si habere ba, yokara nu mono-domo ni, nikumi urami rare haberu."
5.1.4  と聞こゆ。
 と申し上げる。
 と昔の中将の君は言いだした。
  to kikoyu.
5.1.5  「 いとさ言ふばかりの 幼さにはあらざめるを。うしろめたげにけしきばみたる 御まかげこそ、わづらはしけれ」
 「とてもそう言うような子供ではないと思いますが。心配そうに疑っていらっしゃるお口ぶりが、気になりますこと」
 「そんなにあなたが言うほど幼稚な人でもないのに、気がかりでならぬように言って興奮しておいでになるから、私はおこられるのではないかと心配ですよ」
  "Ito sa ihu bakari no wosanasa ni ha ara za' meru wo. Usirometage ni kesikibami taru ohom-makage koso, wadurahasikere."
5.1.6  とて 笑ひたまへるが、心恥づかしげなる御まみを見るも、 心の鬼に恥づかしくぞおぼゆる。「 いかに思すらむ」と思へば、えもうち出で聞こえず。
 と言って笑っていらっしゃるのが、気おくれするようなお目もとを見ると、内心気が咎める。「どのように思っていらっしゃるだろう」と思うと、何も申し上げることができない。
 と笑った夫人の眼つきの気品の高さにも常陸の妻は心の鬼から親子を恥知らずのように見られている気がした。胸の中ではどんなに口惜しがっておいでになるかもしれぬと思うと、あの問題には触れていくことができないのであった。
  tote, warahi tamahe ru ga, kokorohadukasige naru ohom-mami wo miru mo, kokoro no oni ni hadukasiku zo oboyuru. "Ikani obosu ram?" to omohe ba, e mo uti-ide kikoye zu.
5.1.7  「 かくてさぶらひたまはば、年ごろの願ひの満つ心地して、人の漏り聞きはべらむもめやすく、おもだたしきことになむ思ひたまふるを、さすがにつつましきことになむはべりける。深き山の本意は、みさをになむはべるべきを」
 「こうしてお側に置かせていただけるなら、長年の願いが叶う気持ちがして、誰が漏れ聞きましても体裁よく、面目がましくことに存じられますが、やはり気兼ねされることでございました。出家の本願は、固く守って変わらぬものでございますものを」
 「こうしておそばへ置いていただきますことは、長い間の念願のかないました気が私もしまして、世間の人に聞かれましても、あの人の名誉になることと存じますが、しかし考えますれば、あまりにも無遠慮なことでございます。尼にして深い山へ入れてしまいましたほうが賢明ないたし方だったのでしょうが」
  "Kakute saburahi tamaha ba, tosigoro no negahi no mitu kokoti si te, hito no mori kiki habera m mo meyasuku, omodatasiki koto ni nam omohi tamahuru wo, sasugani tutumasiki koto ni nam haberi keru. Hukaki yama no ho'i ha, misawo ni nam haberu beki wo."
5.1.8  とて、うち泣くもいといとほしくて、
 と言って、泣くのもとても気の毒で、
 と言って泣くのも中の君にはかわいそうで、
  tote, uti-naku mo ito itohosiku te,
5.1.9  「 ここには、何事かうしろめたくおぼえたまふべき。とてもかくても、疎々しく 思ひ放ちきこえばこそあらめ、 けしからずだちてよからぬ人の、時々ものしたまふめれど、その心を皆人見知りためれば、心づかひして、 便なうはもてなしきこえじと思ふを、いかに推し量りたまふにか」
 「こちらでは、どのようなことを不安に思われるでしょうか。どうなるにせよ、よそよそしく見放しているのならともかく、けしからぬ気を起こして困った方が、時々いらっしゃるようだが、その性質を誰もが知っているので、気をつけて、不都合なお扱いはいたすまいと思うのですが、どのようにお思いなのでしょうか」
 「ここにお置きになって、何もあなたが気がかりに思う必要はないのですよ。十分のことはできなくても、私が愛していないのなら不安は不安でしょうが、そうではありませんよ。悪い癖をお出しになる方が時々ここへはおいでになるけれど、女房たちだって皆知っていて警戒をしますから、あの人の迷惑になるようにはしないだろうと思いますけれど、あなたはどんな想像をしておいでになるの」
  "Koko ni ha, nanigoto ka usirometaku oboye tamahu beki. Totemo kakutemo, utoutosiku omohi hanati kikoye ba koso ara me, kesikara zu dati te yokara nu hito no, tokidoki monosi tamahu mere do, sono kokoro wo mina hito misiri ta' mere ba, kokorodukahi si te, binnau ha motenasi kikoye zi to omohu wo, ikani osihakari tamahu ni ka."
5.1.10  とのたまふ。
 おっしゃる。
 こう言っていた。
  to notamahu.
5.1.11  「 さらに、御心をば隔てありても思ひきこえさせはべらず。かたはらいたう 許しなかりし筋は、何にかかけても聞こえさせはべらむ。 その方ならで、思ほし放つまじき綱もはべるをなむ、とらへ所に頼みきこえさする」
 「まったく、お心隔てがあるとは存じ上げておりません。お恥ずかしいことに認知していただけなかったことは、どうして今さら申し上げましょう。そのことでなくても、離れない縁がございますのを、よりどころとしてお頼み申し上げています」
 「あなた様の御愛情を疑うということは決してございません。昔の宮様があの方を子にしてくださいませんでしたことも、あなたへお恨みする筋はないのでございます。それは別にいたしましても、あなた様と私とは血縁があるのでございますから、それだけでおすがりもいたすのでございます」
  "Sarani, mi-kokoro wo ba hedate ari te mo omohi kikoyesase habera zu. Kataharaitau yurusi nakari si sudi ha, nani ni ka kake te mo kikoyesase habera m. Sono kata nara de, omohosi hanatu maziki tuna mo haberu wo nam, torahedokoro ni tanomi kikoye sasuru."
5.1.12  など、おろかならず聞こえて、
 などと、並々ならずお頼み申し上げて、
 などと真心を見せて言ったあとで、
  nado, oroka nara zu kikoye te,
5.1.13  「 明日明後日、かたき物忌にはべるを、おほぞうならぬ所にて過ぐして、またも参らせはべらむ」
 「明日明後日に、固い物忌みがございますので、厳重な所で過ごして、改めて参上させましょう」
 「明日あす明後日あさってがあの方のために大事な謹慎日なのでございますが、こういたしましたお出入りの人の多い所でない場所でその間を過ごさせまして、またおつれいたしましょう」
  "Asu asate, kataki monoimi ni haberu wo, ohozou nara nu tokoro nite sugusi te, mata mo mawira se habera m."
5.1.14  と聞こえて、いざなふ。「 いとほしく本意なきわざかな」と思せど、えとどめたまはず。 あさましうかたはなることに驚き騷ぎたれば、をさをさものも聞こえで出でぬ。
 と申し上げて、連れて行く。「お気の毒に不本意なことだわ」とお思いになるが、引き止めなさることもできない。思いがけない不祥事に驚き騒いでいたので、ろくろく挨拶も申し上げないで出発した。
 と常陸夫人は言い、姫君をつれて行こうとするのであった。中の君はこれを本意ほいないことに思ったが、とめることはできなかった。あのできごとに心の乱れている女であったから、あまり長く話もせずに去った。
  to kikoye te, izanahu. "Itohosiku ho'i naki waza kana !" to obose do, e todome tamaha zu. Asamasiu kataha naru koto ni odoroki sawagi tare ba, wosawosa mono mo kikoye de ide nu.
注釈661人もけしからぬ「人」は中君付きの女房。以下「貴人もなきものなり」まで、浮舟母の詞。5.1.1
注釈662正身も中君自身、の意。5.1.1
注釈663かかる筋のもの憎みは男女関係のことでの嫉妬。5.1.1
注釈664おのが心ならひに『集成』は「自分のいつもの考えから推して」。『完訳』は「これまでの自分の経験から」と注す。5.1.1
注釈665参りぬ二条院に。5.1.1
注釈666あやしく以下「恨みられはべる」まで、浮舟母の詞。5.1.3
注釈667鼬のはべらむやうなる心地『細流抄』は「いたちは狐の性の類也。狐は狐疑いとて物をよく疑ふ心のある物也。その如くにいたちも疑ひの心のあるもの也。うしろやすくは思へど疑はしき心のあると也。いたちのまかげなどいふも疑心のある故也」と指摘。『完訳』は「心配なあまり落ち着かぬことか。東国ふうの田舎じみた比喩であろう」と注す。5.1.3
注釈668いとさ言ふばかりの以下「わづらはしけれ」まで、中君の詞。5.1.5
注釈669幼さ大島本は「をさなさ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「幼げさ」と「げ」を補訂する。『新大系』は底本のまま「幼さ」とする。5.1.5
注釈670御まかげ鼬が人を怪しんで目の上に手をかざすしぐさ。浮舟母の「鼬のはべらむやうなる心地」を受けて言った語句。心配ご無用の意。5.1.5
注釈671笑ひたまへるが心恥づかしげなる御まみを格助詞「が」同格を表す。笑っていらっしゃる、その気後れしそうなお目もとを、の文意。5.1.6
注釈672心の鬼に浮舟母の良心の呵責。『完訳』は「内心気が咎める。中の君の言う「--幼げさにはあらざめるを」は、浮舟は夫を横取りできる年齢のくせに、ぐらいにも受け取れよう」と注す。5.1.6
注釈673いかに思すらむ浮舟母の心中の思い。主語は中君。5.1.6
注釈674かくてさぶらひたまはば以下「なむはべるべきを」まで、浮舟母の詞。5.1.7
注釈675ここには何事か大島本は「こゝにハ」とある。『完本』は諸本に従って「ここは」と「に」を削除する。『集成』『新大系』は底本のまま「ここには」とする。以下「いかに推し量りたまふにか」まで、中君の詞。5.1.9
注釈676思ひ放ちきこえばこそ私中君が浮舟を。5.1.9
注釈677けしからずだちてよからぬ人の匂宮の行動をさしていう。5.1.9
注釈678便なうはもてなしきこえじ自分にとって不都合が生じるようには匂宮をお扱い申すまい、の意。5.1.9
注釈679さらに御心を以下「きこえさする」まで、浮舟母の詞。5.1.11
注釈680許しなかりし筋は故八宮から浮舟が実子として認知してもらえなかったことをさす。5.1.11
注釈681その方ならで思ほし放つまじき綱も大島本は「おもほし」とある。『完本』は諸本に従って「思し」と「も」を削除する。『集成』『新大系』は底本のまま「思ほし」とする。『完訳』は「八の宮につながる縁以外にも、無関係ではない絆もあるとする。自分が中の君の母の姪にあたることをいう」と注す。5.1.11
注釈682明日明後日以下「参らせはべらむ」まで、浮舟母の詞。『集成』は「物忌は普通二日間のことが多い」。『完訳』は「物忌にかこつけて引き取る」と注す。5.1.13
注釈683いとほしく本意なきわざかな中君の心中の思い。5.1.14
注釈684あさましう以下の文の主語は浮舟母。5.1.14
5.2
第二段 浮舟の母、娘を三条の隠れ家に移す


5-2  Ukifune's mother removes Ukifune's living from Niou-no-miya's home to a house in Sanjo

5.2.1   かやうの方違へ所と思ひて、小さき家まうけたりけり。三条わたりに、さればみたるが、まだ造りさしたる所なれば、はかばかしきしつらひもせでなむありける。
 このような方違えの場所と思って、小さい家を準備していたのであった。三条近辺に、しゃれた家が、まだ造りかけのところなので、これといった設備もできていなかった。
 姫君のための何かの場合に使おうと思い、この人は家をかねて一つ用意させてあった。三条辺でしゃれた作りの家なのであるが、まだまったくはでき上がっていず、行き渡った装飾がされているのでもなかった。
  Kayau no katatagahe dokoro to omohi te, tihisaki ihe mauke tari keri. Samdeu watari ni, sarebami taru ga, mada tukuri sasi taru tokoro nare ba, hakabakasiki siturahi mo se de nam ari keru.
5.2.2  「 あはれ、この御身一つを、よろづにもて悩みきこゆるかな。心にかなはぬ世には、あり経まじきものにこそありけれ。 みづからばかりは、ただひたぶるに品々しからず人げなう、ただ さる方にはひ籠もりて過ぐしつべし。 このゆかりは、心憂しと思ひきこえしあたりを、睦びきこゆるに、便なきことも出で来なば、いと人笑へなるべし。あぢきなし。 ことやうなりともここを人にも知らせず、忍びておはせよ。おのづからともかくも仕うまつりてむ」
 「ああ、この方一人を、いろいろと持て余し申し上げることよ。思い通りにいかない世の中では、長生きなんかするものではない。自分一人は、平凡にまったくの身分もなく人並みでない、ただ受領の後妻として引っ込んで過ごせもしよう。こちらのご親戚筋は、つらいとお思い申し上げた方を、お親しみ申し上げて、不都合なことが出てきたら、実に物笑いなことでしょう。つまらないことだ。粗末な家であるけれども、この家を誰にも知らせず、こっそりといらっしゃいませ。そのうち何とかうまくして上げましょう」
 「あなた一人で苦労が尽きない。薄命な自分などは、明日というようなものを頼みにせず早く死んでおればよかったのですよ。自分だけは生まれた家にもふさわしくない地方官の家の中にはいって、一生をしんぼうもしよう、ただあなたをそうした人と同じように扱わせることが忍ばれないことに思われましてね、お姉様をおたよらせしてやったのですが、醜いことがそこで起こればいっそう世間体の恥ずかしいことになります。いやなことですよ。不都合な家でもこの家に隠れていらっしゃい。だれにも知れないようにしてね、私はどんなにでもしてあなたのためによくしてあげますから」
  "Ahare, kono ohom-mi hitotu wo, yoroduni mote nayami kikoyuru kana! Kokoro ni kanaha nu yo ni ha, ari hu maziki mono ni koso ari kere. Midukara bakari ha, tada hitaburuni sinazinasikara zu hitoge nau, tada saru kata ni hahi komori te sugusi tu besi. Kono yukari ha, kokorousi to omohi kikoye si atari wo, mutubi kikoyuru ni, binnaki koto mo ideki na ba, ito hitowarahe naru besi. Adikinasi. Koto yau nari tomo, koko wo hito ni mo sirase zu, sinobi te ohase yo. Onodukara tomokakumo tukaumaturi te m."
5.2.3  と言ひおきて、みづからは帰りなむとす。 君は、うち泣きて、「 世にあらむこと所狭げなる身」と、思ひ屈したまへるさま、いとあはれなり。親はた、ましてあたらしく惜しければ、 つつがなくて思ふごと見なさむと思ひ、 さるかたはらいたきことにつけて、人にもあはあはしく思はれむが、やすからぬなりけり。
 と言い置いて、自分自身は帰ろうとする。姫君は、ちょっと泣いて、「生きているのも肩身の狭い思いだ」と、沈んでいらっしゃる様子、とても気の毒である。母親は母親で、それ以上に惜しくも残念なので、何の支障もなくて思う通りに縁づけてやりたいと思い、あのいたたまれない事件によって、人からいかにも軽薄に思われたり言われたりするのが、気になってならないのであった。
 こう言い置いて常陸の妻は娘のところから帰ろうとした。姫君は泣いて、生きているだけでさえ人迷惑な自分らしいと気をめいらせているのがかわいそうに見えた。親の心にはまして不憫ふびんで、もったいないほど美しいこの人を、その価値にふさわしい結婚がさせたいと思う心から、二条の院でのできごとのようなことがうわさになり、その名の傷つけられるのを残念がっているのであった。
  to ihioki te, midukara ha kaheri na m to su. Kimi ha, uti-naki te, "Yo ni ara m koto tokorosege naru mi." to, omohi kusi tamahe ru sama, ito ahare nari. Oya hata, masite atarasiku wosikere ba, tutuganaku te omohu goto minasa m to omohi, saru kataharaitaki koto ni tuke te, hito ni mo ahaahasiku omoha re m ga, yasukara nu nari keri.
5.2.4   心地なくなどはあらぬ人の、なま腹立ちやすく、思ひのままにぞすこしありける。 かの家にも隠ろへては据ゑたりぬべけれど、しか隠ろへたらむをいとほしと思ひて、かく扱ふに、年ごろかたはら去らず、明け暮れ見ならひて、かたみに心細くわりなしと思へり。
 思慮が浅いというのではない人で、やや腹を立てやすくて、気持ちのままに行動するところが少しあったのだった。あの家でも隠して置けたであろうが、そのように引っ込ませておくのを気の毒に思って、このようにお世話するので、長年側を離れず、毎日一緒にいたので、互いに心細く堪え難く思っていた。
 聡明そうめいな点もある女ながらすぐ腹をたてるわがままなところも持つ女なのである。かみの本宅のほうにも隠して住ませておくことはできたのであるが、そうしたみじめな起居おきふしはさせたくないとして別居をさせ始めたのであって、生まれてからずっといっしょにばかりいた母と子であるため、双方で心細く思い、悲しがっているのである。
  Kokoti naku nado ha ara nu hito no, nama-haradati yasuku, omohi no mama ni zo sukosi ari keru. Kano ihe ni mo kakurohe te ha suwe tari nu bekere do, sika kakurohe tara m wo itohosi to omohi te, kaku atukahu ni, tosigoro katahara sara zu, akekure minarahi te, katamini kokorobosoku warinasi to omohe ri.
5.2.5  「 ここは、またかくあばれて、危ふげなる所なめり。さる心したまへ。曹司曹司にある物ども、召し出でて使ひたまへ。宿直人のことなど 言ひおきてはべるも、いとうしろめたけれど、 かしこに腹立ち恨みらるるが、いと苦しければ」
 「ここは、まだこうして造作が整っていず、危なっかしい所のようです。用心しなさい。あちこちの部屋にある道具類を、持ち出してお使いなさい。宿直人のことなどを言いつけてありますのも、とても気がかりですが、あちらに怒られ恨まれるのが、とても困るので」
 「ここはまだよくでき上がっていないで、危険でもある家ですからね、よく気をおつけなさい。宿直とのいをする侍のことなども私はよく命じておきましたけれど、まったく安心はできない。でも家のほうで腹をたてたり、恨んだりする人がありますから帰りますよ」
  "Koko ha, mata kaku abare te, ayahuge naru tokoro na' meri. Saru kokorosi tamahe. Zausi zausi ni aru mono-domo, mesiide te tukahi tamahe. Tonowibito no koto nado ihioki te haberu mo, ito usirometakere do, kasiko ni haradati urami raruru ga, ito kurusikere ba."
5.2.6  と、うち泣きて帰る。
 と、ちょっと泣いて帰る。
 泣く泣く母は帰って行った。
  to, uti-naki te kaheru.
注釈685かやうの方違へ所と思ひて主語は浮舟母。5.2.1
注釈686あはれこの御身一つを以下「仕うまつりてむ」まで、浮舟母の詞。浮舟の身の処遇に困惑する。5.2.2
注釈687みづからばかりは自分浮舟の母自身は、の意。『完訳』は「自分一人は常陸介の後妻の境遇に甘んじて人並以下に生きてよい。しかし浮舟だけは高貴な別世界にと願っている」と注す。5.2.2
注釈688さる方に受領の後妻という境遇をさす。5.2.2
注釈689このゆかりは心憂し大島本は「このゆかりハ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「この御ゆかりは」と「御」を補訂する。『新大系』は底本のまま「このゆかりは」とする。『集成』は「このご親戚は(中の君方は)ひどいなさりようとお恨み申した所なのに。子と認めてもらえなかったことをいう」と注す。5.2.2
注釈690ことやうなりとも普通でないさま。粗末な家の造りであるが。5.2.2
注釈691ここを三条の隠れ家。5.2.2
注釈692君は浮舟。5.2.3
注釈693世にあらむこと所狭げなる身浮舟の思い。生きているのも肩身の狭い思い。5.2.3
注釈694つつがなくて思ふごと見なさむ浮舟母の思い。浮舟を無事に縁付けてやりたい。5.2.3
注釈695さるかたはらいたきこと匂宮に迫られた一件をさす。5.2.3
注釈696心地なくなどはあらぬ人の三光院「草子地也」と指摘。『完訳』は「以下、中将の君の人柄。思慮に欠ける人ではないが、少し怒りっぽく、気持を抑えられぬところがいささかある」と注す。5.2.4
注釈697かの家にも常陸介邸。5.2.4
注釈698ここはまた以下「苦しければ」まで、浮舟母の詞。5.2.5
注釈699言ひおきてはべるも浮舟母が宿直人に。5.2.5
注釈700かしこに常陸介から。5.2.5
5.3
第三段 母、左近少将と和歌を贈答す


5-3  Ukifune's mother and Sakon-shosho compose and exchange waka

5.3.1   少将の扱ひを、守は、またなきものに思ひ急ぎて、「 もろ心に、さま悪しく、営まず」と怨ずるなりけり。「 いと心憂くこの人により、かかる紛れどももあるぞかし」と、 またなく思ふ方のことのかかれば、つらく心憂くて、をさをさ見入れず。
 少将の待遇を、常陸介は、この上ないものに思って準備し、「一緒に、ぶざまにも、世話をしてくれない」と恨むのであった。「とても億劫で、この人のために、このような厄介事が起こったのだ」と、この上もなく大事な娘がこのようなことになったので、つらく情けなくて、少しも世話をしない。
 婿の少将の歓待を最も大事なこととしているかみは、妻がいっしょに家にいてしないのをおこるのである。夫人は不愉快で、この少将のために姫君の身に災難も降りかかることになったと、だれよりも愛する子のことであったから、反感ばかりがその男に持たれて、気を入れた世話などはできなかった。
  Seusyau no atukahi wo, Kami ha, matanaki mono ni omohi isogi te, "Morogokoro ni, sama asiku, itonama zu." to wenzuru nari keri. "Ito kokorouku, kono hito ni yori, kakaru magire-domo mo aru zo kasi." to, matanaku omohu kata no koto no kakare ba, turaku kokorouku te, wosawosa miire zu.
5.3.2   かの宮の御前にて、いと人げなく見えしに、多く思ひ落としてければ、「 私ものに思ひかしづかましを」など、思ひしことは やみにたり。「 ここにては、いかが見ゆらむ。まだ うちとけたるさま見ぬに」と思ひて、 のどかにゐたまへる昼つ方、 こなたに渡りて、ものより覗く。
 あの宮の御前で、たいそう貧相に見えたので、たぶんに軽蔑してしまっていたので、「秘蔵の婿にとお世話申し上げたい」などと、思った気持ちもなくなってしまった。「ここでは、どのように見えるであろうか。まだ気を許した姿は見えないが」と思って、くつろいでいらした昼頃、こちらの対に来て、物蔭から覗く。
 二条の院の宮の御前でみすぼらしく見た時から軽蔑けいべつする気になった夫人であったから、姫君の婿として大事に扱ってみたいなどと好意を持ったことは忘れていた。家ではどんなふうに見えるであろう、まだ自家の中で打ち解けた姿をしているところを自分は見なかったと思い、少将がくつろいでいる昼ごろに今ではかみの愛嬢の居室いまに使われている西座敷へ来て夫人は物蔭ものかげからのぞいた。
  Kano Miya no omahe nite, ito hitoge naku miye si ni, ohoku omohi-otosi te kere ba, "Watakusimono ni omohi kasiduka masi wo." nado, omohi si koto ha yami ni tari. "Koko nite ha, ikaga miyu ram. Mada utitoke taru sama mi nu ni." to omohi te, nodokani wi tamahe ru hirutukata, konata ni watari te, mono yori nozoku.
5.3.3  白き綾のなつかしげなるに、 今様色の擣目などもきよらなるを着て、端の方に前栽見るとて居たるは、「 いづこかは劣る。いときよげなめるは」と見ゆ。娘、 まだ片なりに、何心もなきさまにて添ひ臥したり。 宮の上の並びておはせし御さまどもの思ひ出づれば、「 口惜しのさまどもや」と見ゆ。
 白い綾の柔らかい感じの下着に、紅梅色の打ち目なども美しいのを着て、端の方に前栽を見ようとして座っているのは、「どこが劣ろうか。とても美しいようだ」と見える。娘は、とてもまだ幼なそうで、無心な様子で添い臥していた。宮の上が並んでいらしたご様子を思い出すと、「物足りない二人だわ」と見える。
 柔らかい白綾しろあやの服の上に、薄紫の打ち目のきれいにできた上着などを重ねて、縁側に近い所へ、庭の植え込みを見るために出てすわっている姿は、決して醜い男だとは見えない。娘は未完成に見える若さで、無邪気に身を横たえていた。
  Siroki aya no natukasige naru ni, imayauiro no utime nado mo kiyora naru wo ki te, hasi no kata ni sensai miru tote wi taru ha, "Iduko kaha otoru. Ito kiyoge na' meru ha." to miyu. Musume, mada katanari ni, nanigokoro mo naki sama nite sohihusi tari. Miya no Uhe no narabi te ohase si ohom-sama-domo no omohi idure ba, "Kutiwosi no sama-domo ya!" to miyu.
5.3.4   前なる御達にものなど言ひ戯れて、うちとけたるは、 いと見しやうに、匂ひなく人悪ろげにて見えぬを、「 かの宮なりしは、異少将なりけり」と 思ふ折しも、言ふことよ
 前にいる御達に、何か冗談を言って、くつろいでいるのは、とても見たように、見栄えがしなく貧相には見えないのは、「あの宮にいた時とは、まるで別の少将だなあ」と思ったとたんに、こう言うではないか。
 母の目には兵部卿ひょうぶきょうの宮が夫人と並んでおいでになった時の華麗さが浮かんできて、どちらもつまらぬ夫婦であるとまた思った。そばにいる女房らに冗談じょうだんを言っている余裕のある様子などをながめていると、この間のように美しいもない男とは見えないため、二条の院でのぞいた時のは他の少将であったかと思う時も時、
  Mahe naru gotati ni mono nado ihi tahabure te, utitoke taru ha, ito mi si yau ni, nihohi naku hitowaroge nite miye nu wo, "Kano Miya nari si ha, koto Seusyau nari keri." to omohu wori simo, ihu koto yo!
5.3.5  「 兵部卿宮の萩の、なほことにおもしろくもあるかな。いかで、さる種ありけむ。同じ枝さしなどのいと艶なるこそ。一日参りて、 出でたまふほどなりしかば、え折らずなりにき。『 ことだに惜しき』と 、宮のうち誦じたまへりしを、若き人たちに見せたらましかば」
 「兵部卿宮の萩が、やはり格別に美しかったなあ。どのようにして、あのような種ができたのであろうか。同じ萩ながら枝ぶりが実に優美であったよ。先日参上して、お出かけになるところだったので、折ることができずになってしまった。『色が褪せることさえ惜しいのに』と、宮が口ずさみなさったのを、若い女房たちに見せたならば」
 「兵部卿の宮のおやしきはぎはきれいなものだよ。どうしてあんな種があったのだろう。同じ花でも枝ぶりがなんというよさだったろう。この間伺った時にはもうすぐお出かけになる時だったから折っていただいて来ることができなかったよ。その時『うつろはんことだに惜しき秋萩に』というのをお歌いになった宮様を若い人たちに見せたかったよ」
  "Hyaubukayau-no-Miya no hagi no, naho koto ni omosiroku mo aru kana! Ikade, saru tane ari kem. Onazi edasasi nado no ito en naru koso. Hitohi mawiri te, ide tamahu hodo nari sika ba, e wora zu nari ni ki. 'Koto dani wosiki.' to, Miya no uti-zuzi tamahe ri si wo, wakaki hito-tati ni mise tara masika ba."
5.3.6  とて、 我も歌詠みゐたり。
 と言って、自分でも歌を詠んでいた。
  と言うではないか。そして少将は自身でも歌を作っていた。
  tote, ware mo uta yomi wi tari.
5.3.7  「 いでや。心ばせのほどを思へば、人ともおぼえず、 出で消えはいとこよなかりけるに。何ごと 言ひたるぞ
 「どんなものかしら。気持ちのほどを思うと、人並みにも思えず、人前に出ては普段より見劣りがしていたのだが。どのように詠むのであろうか」
 あの利己心をなまなましく見せた時のことを思うと人とも見なされない男で、はなはだしく幻滅を感じさせた男に、ろくな歌はできるはずもない
  "Ideya! Kokorobase no hodo wo omohe ba, hito to mo oboye zu, ide kiye ha ito koyonakari keru ni. Nanigoto ihi taru zo."
5.3.8  とつぶやかるれど、いと心地なげなるさまは、さすがにしたらねば、 いかが言ふとて、試みに、
 とぶつぶつ言いたくなるが、大して物の分からない様子には、そうはいっても見えないので、どのように詠むかと、試しに、
 と母はつぶやかれたのであるが、そうまでも軽蔑してしまうことのできぬふうはさすがにしているため、どう答えるかためそうと思い、
  to tubuyaka rure do, ito kokotinage naru sama ha, sasugani si tara ne ba, ikaga ihu tote, kokoromi ni,
5.3.9  「 しめ結ひし小萩が上も迷はぬに
   いかなる露に映る下葉ぞ
 「囲いをしていた小萩の上葉は乱れもしないのに
  どうした露で色が変わった下葉なのでしょう
  しめゆひし小萩が上もまよはぬに
  いかなる露にうつる下葉ぞ
    "Sime yuhi si kohagi ga uhe mo mayoha nu ni
    ikanaru tuyu ni uturu sitaba zo
5.3.10  とあるに、 惜しくおぼえて
 と言うと、捨て難く思って、
 と取り次がせてやると、少将はしゅうとめを気の毒に思って、
  to aru ni, wosiku oboye te,
5.3.11  「 宮城野の小萩がもとと知らませば
   露も心を分かずぞあらまし
 「宮城野の小萩のもとと知っていたならば
  露は少しも心を分け隔てしなかったでしょうに
  「宮城野みやぎのの小萩がもとと知らませば
  つゆも心を分かずぞあらまし
    "Miyagino no kohagi ga moto to sira mase ba
    tuyu mo kokoro wo waka zu zo ara masi
5.3.12   いかでみづから聞こえさせあきらめむ
 何とか自分自身で申し開きしたいものです」
 そのうち自身でこの申しわけをさせていただきましょう」
  Ikade midukara kikoyesase akirame m."
5.3.13  と言ひたり。
 言っていた。
 と返事を伝えさせた。
  to ihi tari.
注釈701少将の扱ひを常陸介の娘婿の世話。5.3.1
注釈702もろ心にさま悪しく営まず「さま悪しく」挿入句。「もろ心に」は「営まず」にかかる。5.3.1
注釈703いと心憂く以下「あるぞかし」まで、浮舟母の心中の思い。5.3.1
注釈704この人により少将をさす。5.3.1
注釈705またなく思ふ方の浮舟をさす。5.3.1
注釈706かの宮の御前にて匂宮の御前で。5.3.2
注釈707私ものに思ひかしづかましをなど思ひしことはかつて浮舟母は少将を浮舟の婿にと望んでいた。5.3.2
注釈708ここにては以下「見ぬに」まで、浮舟母の思い。「ここ」は常陸介邸に通って来る少将の様子を想像する。5.3.2
注釈709うちとけたるさま少将の態度。5.3.2
注釈710のどかにゐたまへる主語は少将。5.3.2
注釈711こなたに渡りて主語は浮舟母。5.3.2
注釈712今様色『新大系』は「平安中期に流行した紅花染めの薄色」と注す。5.3.3
注釈713いづこかは劣る以下「いときよげなめるを」まで、浮舟母の少将を見ての感想。5.3.3
注釈714まだ片なりに大島本は「またかたなりに」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「いとまだ」と「いと」を補訂する。『新大系』は底本のまま「まだ」とする。5.3.3
注釈715宮の上の並びておはせし御さまども「宮の上」で一語。中君が匂宮と寄り添っていた様子と比較。5.3.3
注釈716口惜しのさまどもや浮舟母の感想。少将と自分の娘夫婦について。5.3.3
注釈717前なる御達にものなど言ひ戯れて主語は少将。5.3.4
注釈718いと見しやうに匂ひなく人悪ろげにて見えぬを大島本は「人わろけにて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「人わろげにも」と校訂する。『新大系』は底本のまま「人わろげにて」とする。副詞「いと」は「見えぬ」にかかる。かつて二条院で見たときのようにここ常陸介邸ではみっともなくも見えない。5.3.4
注釈719かの宮なりしは異少将なりけり実際は同一人物なのだが、まるで別人に見えたろいう驚き。5.3.4
注釈720思ふ折しも言ふことよ『完訳』は「そう思った折も折、こう言うではないか。少将への侮蔑」。語り手の批評の辞。5.3.4
注釈721兵部卿宮の以下「見せたらましかば」まで、少将の詞。匂宮邸での体験を語る。同一人物であったことを自ら証明する。5.3.5
注釈722出でたまふほどなりしかば主語は匂宮。5.3.5
注釈723ことだに惜しきと『源氏釈』は「移ろはむことだに惜しき秋萩に折れぬばかりもおける露かな」(拾遺集秋、一八三、伊勢)を指摘。5.3.5
注釈724我も自分でも、の意。少将が和歌を詠んだ。5.3.6
注釈725いでや心ばせのほどを以下「言ひたるぞ」まで、浮舟母の心中の思い。5.3.7
注釈726出で消えはいとこよなかりけるに『集成』は「宮のお前でのみすぼらしさは、もう言いようもなかたのに」と訳す。「出で消え」は人前に出て見劣りがすること。5.3.7
注釈727言ひたるぞ大島本は独自異文。他本「いひゐたるそ」とある。『集成』『完本』等は「言ひゐたるぞ」と校訂する。『新大系』は底本のまま「言ひたるぞ」とする。5.3.7
注釈728いかが言ふとて大島本は「いかゝいふとて」とある。『完本』は諸本に従って「いかが言ふと」と「て」を削除する。『集成』『新大系』は底本のまま「いかが言ふとて」とする。『完訳』は「どんな返歌がよめるかと試す」と注す。5.3.8
注釈729しめ結ひし小萩が上も迷はぬに--いかなる露に映る下葉ぞ浮舟母から少将への贈歌。「小萩」を浮舟、「露」を実の娘、「下葉」を少将に喩え、寝返った少将をなじる。5.3.9
注釈730惜しくおぼえて大島本は「おしくおほえて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「いとほしく」と校訂する。『新大系』は底本のまま「お(を)しく」とする。5.3.10
注釈731宮城野の小萩がもとと知らませば--露も心を分かずぞあらまし少将の返歌。「小萩」「露」の語句を受けて、「宮城野の小萩」は、皇族の血を引く浮舟、「露」は自分自身を喩えて、「心を分かずぞあらまし」と返す。「ませば--まし」反実仮想の構文。5.3.11
注釈732いかでみづから聞こえさせあきらめむ歌に続けた詞。5.3.12
出典19 ことだに惜しき 移ろはむことだに惜しき秋萩を折れるばかりも置ける露かな 拾遺集秋-一八三 伊勢 5.3.5
校訂40 思ひしこと 思ひしこと--おもひ(ひ/+し)こと 5.3.2
校訂41 知らませ 知らませ--しらさ(さ/#ま)せ 5.3.11
5.4
第四段 母、薫のことを思う


5-4  Ukifune's mother thinks Kaoru

5.4.1  「 故宮の御こと聞きたるなめり」と思ふに、「いとどいかで人と等しく」とのみ 思ひ扱はるあいなう、大将殿の御さま容貌ぞ、恋しう 面影に見ゆる。同じうめでたしと見たてまつりしかど、宮は 思ひ離れたまひて、心もとまらず。 あなづりて押し入りたまへりけるを、思ふもねたし。
 「故宮の御事を聞いているらしい」と思うと、「ますます何とかして人並みな結婚を」とばかり心にかかる。筋ちがいながら、大将殿のご様子や器量が、恋しく面影に現れる。同じく素晴らしい方と拝見したが、宮は問題にもなさらず、念頭にも思ってくださらない。侮って無理に入り込みなさったのを、思うにつけても悔しい。
 八の宮のことを聞いて知ったらしいと思うと、いっそうその娘が大事に思われ、どうして他の子などといっしょに扱われようと考えられる母であった。理由もなくこの時にかおるの面影が目に見えてきて、心のかれる思いがした。同じように美貌びぼうでおありになるとは宮を思ったが、こうした憧憬どうけいを持って思うことはできない。娘を侮って無法に私室へ闖入ちんにゅうあそばされた方であると思うとくちおしいのである。
  "Ko-Miya no ohom-koto kiki taru na' meri." to omohu ni, "Itodo ikade hito to hitosiku." to nomi omohi atukaha ru. Ainau, Daisyau-dono no ohom-sama katati zo, kohisiu omokage ni miyuru. Onaziu medetasi to mi tatematuri sika do, Miya ha omohi hanare tamahi te, kokoro mo tomara zu. Anaduri te osiiri tamahe ri keru wo, omohu mo netasi.
5.4.2  「 この君は、さすがに尋ね思す心ばへのありながら、うちつけにも言ひかけたまはず、つれなし顔なるしもこそいたけれ、よろづにつけて 思ひ出でらるれば若き人は、まして、かくや 思ひはてきこえたまふらむ。 わがものにせむと、かく 憎き人を思ひけむこそ、見苦しきことなべかりけれ」
 「この君は、何と言っても言い寄ろうとするお気持ちがありながら、急にはおっしゃらず、平気を装っていらっしゃるのは大したものだ、なにごとにつけても思い出されるので、若い娘は、わたし以上に、このようにお思い申し上げていらっしゃるだろう。自分の婿にしようと、このような憎い男を思ったのこそ、見苦しいことであった」
 大将は娘に興味を持っておいでになりながら直接に恋の手紙を送ろうともせず、表面はあくまで素知らぬ顔で通しているのも階級的な差別にもとづくと思われるのはつらいがりっぱな態度であるなどと、母親は薫にばかり好感の持たれる自分を認め、若い姫君はまして二人の貴人を比較して見て大将に心の傾くことであろうと思われる。姫君の婿にしようなどと少将のような無価値な男を思ったことが自分にあったのが恥ずかしい
  "Kono Kimi ha, sasugani tadune obosu kokorobahe no ari nagara, utitukeni mo ihikake tamaha zu, turenasigaho naru simo koso itakere, yoroduni tuke te omohiide rarure ba, wakaki hito ha, masite, kaku ya omohihate kikoye tamahu ram. Waga mono ni se m to, kaku nikuki hito wo omohi kem koso, migurusiki koto na' bekari kere."
5.4.3  など、ただ心にかかりて、眺めのみせられて、とてやかくてやと、よろづによからむあらまし事を思ひ続くるに、いと難し。
 などと、ただ気になって、物思いばかりがされて、ああしたらこうしたらと、万事に良い将来の事を思い続けるが、とても実現は難しい。
 などと母は姫君についての物思いばかりをし続け、ああもして、こうもなってとよいほうへと空想を進めるのであったが、また反省してみて、自分の願いは実現が困難なことである、
  nado, tada kokoro ni kakari te, nagame nomi se rare te, tote ya kakute ya to, yoroduni yokara m aramasigoto wo omohi tudukuru ni, ito katasi.
5.4.4  「 やむごとなき御身のほど、御もてなし、 見たてまつりたまへらむ人は、今すこしなのめならず、 いかばかりにてかは心をとどめたまはむ。世の人のありさまを見聞くに、劣りまさり、いやしうあてなる、品に従ひて、容貌も心もあるべきものなりけり。
 「高貴なご身分や、ご風采、ご結婚申し上げなさった方は、もう一段優れた方であるから、どのような人であったらお心を止めてくださるだろうか。世間の人のありさまを見たり聞いたりすると、優劣は、身分の高低や、出自の尊卑によって、器量も気立ても決まるものであった。
 あの高貴さと、あの風采ふうさいの備わった大将は、もっともっと資格の完全な人を愛するはずである、顧みられる価値が姫君にあるかどうかは疑わしい。世間を見ると、容貌と性情は尊卑の階級によって自然に備わるものらしい。
  "Yamgotonaki ohom-mi no hodo, ohom-motenasi, mi tatematuri tamahe ra m hito ha, ima sukosi nanome nara zu, ikabakari nite kaha kokoro wo todome tamaha m. Yo no hito no arisama wo mi kiku ni, otori masari, iyasiu ate naru, sina ni sitagahi te, katati mo kokoro mo aru beki mono nari keri.
5.4.5   わが子どもを見るに、この君に似るべきやはある。少将を、この家のうちにまたなき者に思へども、 宮に見比べたてまつりしは、いとも口惜しかりしに推し量らる。当帝の御かしづき女を得たてまつりたまへらむ人の御目移しには、いともいとも恥づかしく、つつましかるべきものかな」
 自分の娘たちを見ても、この姫君に似た者がいようか。少将を、この家の内でまたとない人のように思っているが、宮とご比較申しては、まったく話にもならないほどに推察される。今上帝の御秘蔵の娘をいただきなさったような方のお目から見れば、とてもとても恥ずかしく、気が引けるにちがいないな」
 自分の子供たちの中に、だれ一人姫君に近い容貌ようぼうを持つ者がないではないか、少将は家ではすぐれた美男のように良人おっとなどは見、自分ももとはそう思っていたのが、兵部卿の宮とお見くらべした時に、つまらなさを知ったということからでも推理していくことができるのである。現代の帝王の御秘蔵の内親王を妻にしている人の、いま一人の妻に姫君を擬してみるのは恥ずかしい
  Waga kodomo wo miru ni, kono Kimi ni niru beki yaha aru. Seusyau wo, kono ihe no uti ni matanaki mono ni omohe do mo, Miya ni mi-kurabe tatematuri si ha, itomo kutiwosikari si ni osihakara ru. Toudai no ohom-kasidukimusume wo e tatematuri tamahe ra m hito no ohom-meutusi ni ha, itomo itomo hadukasiku, tutumasikaru beki mono kana!"
5.4.6  と思ふに、すずろに心地もあくがれにけり。
 と思うと、何となく気分もうわの空になってしまった。
 と、こんなことを考えていくと、しまいには頭もぼうとしてくるのであった。
  to omohu ni, suzuro ni kokoti mo akugare ni keri.
注釈733故宮の御こと聞きたるなめりと思ふに主語は浮舟母。5.4.1
注釈734思ひ扱はる浮舟を。「る」自発の助動詞。5.4.1
注釈735あいなう大将殿の『完訳』は「筋ちがいながら、薫を想起する中将の君への、語り手の評言」と注す。5.4.1
注釈736面影に見ゆる浮舟母は薫を。5.4.1
注釈737思ひ離れたまひて『集成』は「「離れ」は「はなたれ」の誤脱か。「たまひ」は宮に対する敬語。以下、薫へと傾く母君の長い思案を述べる」と注す。5.4.1
注釈738あなづりて押し入りたまへりけるを浮舟を見下して匂宮は押し入った。5.4.1
注釈739この君は薫。以下「なべかりけれ」まで、浮舟母の心中。『完訳』は「心中叙述が地の文に流れる形」と注す。5.4.2
注釈740思ひ出でらるれば大島本は「思は(は=いイ<朱>)て(て+らるれハわかき人ハましてかくや思はて<朱>)」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「思ひ出でらるれば」と校訂する。『新大系』は底本のまま「思はてらるれば」とする。5.4.2
注釈741若き人はまして以下「ことなるべかりけれ」まで、浮舟母の心中の思い。5.4.2
注釈742思ひはて大島本は「思はて<朱>」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「思ひ出で」と校訂する。『新大系』は底本のまま「思はて」とする。5.4.2
注釈743わがものにせむと少将を浮舟の婿にしようと、かつては考えたことがある。5.4.2
注釈744憎き人少将。5.4.2
注釈745やむごとなき御身のほど以下「つつましかるべきものかな」まで、浮舟母の心中の思い。薫の身分や風采を思う。5.4.4
注釈746見たてまつりたまへらむ人は薫が結婚申し上げなさった方、女二宮。5.4.4
注釈747いかばかりにてかは浮舟がどれほど薫に認めてもらえようか。5.4.4
注釈748わが子どもを見るにこの君に似るべきやはある反語表現の構文。「わが子」は常陸介との間にできた娘たち、「この君」は浮舟をさす。5.4.5
注釈749宮に見比べ匂宮。5.4.5
校訂42 思ひ出でらるれば、若き人は、まして、かくや思ひはて 思ひ出でらるれば、若き人は、まして、かくや思ひはて--思は(は/=いイ)て(/+らるれはわかき人はましてかくや思はて<朱>) 5.4.2
5.5
第五段 浮舟の三条のわび住まい


5-5  Ukifune and her lonely life at a small house in Sanjo

5.5.1   旅の宿りは、つれづれにて、庭の草もいぶせき心地するに、 いやしき東声したる者どもばかりのみ出で入り、慰めに見るべき前栽の花もなし。うちあばれて、晴れ晴れしからで明かし暮らすに、 宮の上の御ありさま思ひ出づるに、 若い心地に恋しかりけり。 あやにくだちたまへりし人の御けはひも、さすがに思ひ出でられて、
 旅の宿は、所在なくて、庭の草もうっとうしい気がするので、卑しい東国の声をした連中ばかりが出入りして、慰めとして見ることのできる前栽の花もない。未完成の所で、気分も晴れないまま明かし暮らすので、宮の上のご様子を思い出すと、若い気持ちに恋しかった。困ったことをなさった方のご様子も、やはり思い出されて、
 仮り住居ずまいにいる姫君は退屈していた。庭の草も目ざわりになるばかりできたないし、東国なまりの男たちばかりが出入りする人影であったし、慰めになる花はなかったし、落ち着かぬ所に晴れ晴れしからず暮らしている若い姫君の心には、宮の夫人が恋しく思われてならなかった。闖入ちんにゅうしておいでになった宮の御様子もさすがに思い出されて、
  Tabi no yadori ha, turedure nite, niha no kusa mo ibuseki kokoti suru ni, iyasiki adumagowe si taru mono-domo bakari nomi ideiri, nagusame ni miru beki sensai no hana mo nasi. Uti-abare te, harebaresikara de akasi kurasu ni, Miya-no-Uhe no ohom-arisama omohi iduru ni, wakai kokoti ni kohisikari keri. Ayanikudati tamahe ri si hito no ohom-kehahi mo, sasugani omohi ide rare te,
5.5.2  「 何事にかありけむ。いと多くあはれげにのたまひしかな」
 「何と言ったのだろうか。とてもたくさんしみじみとおっしゃったなあ」
 内容はこまごまともわからなかったものの身にしむお話しぶりでいろいろと自分へお告げになったことがあった、
  "Nanigoto ni ka ari kem? Ito ohoku aharege ni notamahi si kana!"
5.5.3  名残をかしかりし御移り香も、まだ残りたる心地して、恐ろしかりしも 思ひ出でらる
 立ち去った後の御移り香が、まだ残っている気がして、恐ろしかったことも思い出される。
 お帰りになったあとで周囲に残っていたかんばしいにおいがまだ今も自分の身に残っている気がして、恐ろしい思いをしたことさえ姫君は追想された。
  Nagori wokasikari si ohom-uturiga mo, mada nokori taru kokoti si te, osorosikari si mo omohi ide raru.
5.5.4  「 母君、たつやと 、いとあはれなる文を書きておこせたまふ。おろかならず心苦しう思ひ扱ひたまふめるに、かひなうもて扱はれたてまつること」と うち泣かれて
 「母君が、どうしているだろうかと、とてもしみじみとした手紙を書いてお寄こしになる。並々ならずおいたわしく気づかってくださるようなのに、世話していただく効もないようなこと」とつい泣けてきて、
 母のほうからはしみじみと情のこもった手紙が送って来られた。こんなにも愛してくれる母に心配ばかりをかける自身の運命が悲しくて姫君は泣いてしまった。
  "HahaGimi, tatu ya to, ito ahare naru humi wo kaki te okose tamahu. Oroka nara zu kokorogurusiu omohi atukahi tamahu meru ni, kahinau mote-atukaha re tatematuru koto." to uti-naka re te,
5.5.5  「 いかにつれづれに見ならはぬ心地したまふらむ。 しばし忍び過ぐしたまへ」
 「どのように所在なく落ち着かない気がなさっていることでしょう。しばらく隠れてお過ごしなさい」
 れないあなたの日送りはどんなにつれづれかと思います。しばらくしんぼうをしていらっしゃい。
  "Ikani turedure ni minaraha nu kokoti si tamahu ram. Sibasi sinobi sugusi tamahe."
5.5.6  とある返り事に、
 とあるのに対する返事に、
 とも書かれてあった、返事に、
  to aru kaherigoto ni,
5.5.7  「 つれづれは何か。心やすくてなむ。
 「所在なさが何でしょう。この方が気楽です。
 退屈なことなどはなんでもありません。かえって今が気楽でよいという気もします。
  "Turedure ha nanika. Kokoroyasuku te nam.
5.5.8    ひたぶるにうれしからまし世の中に
  あらぬ所と思はましかば
  一途に嬉しいことでしょう
 ここが世の中で別の世界だと思えるならば
  ひたぶるにうれしからまし世の中に
  あらぬ所と思はましかば
    Hitaburuni uresikara masi yononaka ni
    ara nu tokoro to omoha masika ba
5.5.9  と、幼げに言ひたるを 見るままに、ほろほろとうち泣きて、「 かう惑はしはふるるやうにもてなすこと」と、いみじければ、
 と、子供っぽく詠んだのを見ながら、ほろほろと泣いて、「このように行方も定めずふらふらさせていること」と、ひどく悲しいので、
 と姫君は書いた。この歌の幼稚な表現にも母の夫人はほろほろと泣いて、こんなに漂泊人さすらいびとのようにさせておく親の無力さが悲しくなり、
  to, wosanageni ihi taru wo miru mama ni, horohoro to uti-naki te, "Kau madohasi hahururu yau ni motenasu koto." to, imizikere ba,
5.5.10  「 憂き世にはあらぬ所を求めても
   君が盛りを見るよしもがな
 「憂き世ではない所を尋ねてでも
  あなたの盛りの世を見たいものです
  うき世にはあらぬ所を求めても
  君が盛りを見るよしもがな
    "Ukiyo ni ha ara nu tokoro wo motome te mo
    Kimi ga sakari wo miru yosi mo gana
5.5.11  と、 なほなほしきことどもを言ひ交はしてなむ、心のべける
 と、素直な思いのままに詠み交わして、心情を吐露するのであった。
 歌らしくもないこんな歌をよみ、親子はそうした贈答を心の慰めにした。
  to, nahonahosiki koto-domo wo ihikahasi te nam, kokoro nobe keru.
注釈750旅の宿りは浮舟の三条の隠れ家の生活。5.5.1
注釈751いやしき東声したる者ども常陸介の家来たちの声。5.5.1
注釈752宮の上の御ありさま中君の二条院における生活ぶり。5.5.1
注釈753若い心地に浮舟。5.5.1
注釈754あやにくだちたまへりし人匂宮が迫ってきたことをさす。5.5.1
注釈755何事にかありけむ以下「のたまひしかな」まで、浮舟の心中。『完訳』は「無我夢中だった浮舟は、匂宮の言葉までは覚えていない」と注す。5.5.2
注釈756思ひ出でらる「らる」自発の助動詞。5.5.3
注釈757母君たつやと以下「たてまつること」まで、浮舟の心中。『集成』は「「たつやと」は、諸本異同はないが、解しがたい。『玉の小櫛』は、「いかにやと」の誤写とするが首肯しがたい。旧説は「母君だつやと」と読んで、母君らしくか、と解する」と注す。5.5.4
注釈758うち泣かれて「れ」自発の助動詞。5.5.4
注釈759いかにつれづれに以下「過ぐしたまへ」まで、浮舟の母君の手紙の一節。5.5.5
注釈760つれづれは何か以下「思はましかば」まで、浮舟の母への返事。「何か」で文は切れる。反語表現。5.5.7
注釈761ひたぶるにうれしからまし世の中に--あらぬ所と思はましかば「まし--ましかば」反語仮想の倒置法表現。『河海抄』は「世の中にあらぬ所もえてしがな年ふりにたるかたち隠さむ」(拾遺集雑上、五〇六、読人しらず)。『花鳥余情』は「恋ひわびてへじとぞ思ふ世の中にあらぬ所やいづこなるらむ」(曽丹集)を指摘。5.5.8
注釈762見るままに浮舟の返書を。主語は浮舟母。5.5.9
注釈763かう惑はしはふるるやうにもてなすこと浮舟母の心中。5.5.9
注釈764憂き世にはあらぬ所を求めても--君が盛りを見るよしもがな浮舟母の返歌。「世」「あらぬ所」の語句を用いて「君が盛りを見るよしもがな」と返す。5.5.10
注釈765なほなほしきことどもを言ひ交はしてなむ心のべける『弄花抄』は「哥のさまを人にをしへんとの紫式部か心也」と指摘。『集成』は「何の曲もない思ったままの歌を」と注す。5.5.11
出典20 たつやと 花散ると厭ひしものを夏衣たつや遅きと風を待つかな 拾遺集夏-八二 盛明親王 5.5.4
出典21 あらぬ所と 世の中にあらぬ所も得てしかな年ふりにたる形隠さむ 拾遺集雑上-五〇六 読人しらず 5.5.8
校訂43 しばし しばし--(/+しはし<朱>) 5.5.5
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渋谷栄一校訂(C)
Last updated 7/21/2011(ver.2-2)
渋谷栄一注釈
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渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)
現代語訳
与謝野晶子
電子化
上田英代(古典総合研究所)
底本
角川文庫 全訳源氏物語
校正・
ルビ復活
kompass(青空文庫)

2004年8月6日

渋谷栄一訳
との突合せ
若林貴幸、宮脇文経

2005年9月7日

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Written in Japanese roman letters
by Eiichi Shibuya(C)
Picture "Eiri Genji Monogatari"(1650 1st edition)
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