章.段.行テキストLineNoローマ字LineNo本文ひらがな
48早蕨
4814635第一章 中君の物語 匂宮との結婚を前にした宇治での生活
481.14736第一段 宇治の新春、山の阿闍梨から山草が届く
481.1.14837 (やぶ)()かねば、(はる)(ひかり)()たまふにつけても、「いかでかくながらへにける月日(つきひ)ならむ」と、(ゆめ)のやうにのみおぼえたまふ。 やぶかねば、はるひかりたまふにつけても、"いかでかくながらへにけるつきひならん。"と、ゆめのやうにのみおぼえたまふ。
481.1.24938 ()()時々(ときどき)にしたがひ、花鳥(はなとり)(いろ)をも()をも、(おな)(こころ)()()()つつ、はかなきことをも、本末(もとすゑ)をとりて()()はし、心細(こころぼそ)()()さもつらさも、うち(かた)らひ()はせきこえしにこそ、(なぐさ)(かた)もありしか、をかしきこと、あはれなるふしをも、()()(ひと)もなきままに、よろづかきくらし、心一(こころひと)つをくだきて、(みや)のおはしまさずなりにし(かな)しさよりも、ややうちまさりて(こひ)しくわびしきに、いかにせむと、()()るるも()らず(まど)はれたまへど、()にとまるべきほどは、(かぎ)りあるわざなりければ、()なれぬもあさまし。 ときどきにしたがひ、はなとりいろをもをも、おなこころつつ、はかなきことをも、もとすゑをとりてはし、こころぼそさもつらさも、うちかたらひはせきこえしにこそ、なぐさかたもありしか、をかしきこと、あはれなるふしをも、ひともなきままに、よろづかきくらし、こころひとつをくだきて、みやのおはしまさずなりにしかなしさよりも、ややうちまさりてこひしくわびしきに、いかにせんと、るるもらずまどはれたまへど、にとまるべきほどは、かぎりあるわざなりければ、なれぬもあさまし。
481.1.35040 阿闍梨(あざり)のもとより、 あざりのもとより、
481.1.45141 年改(としあらた)まりては、(なに)ごとかおはしますらむ。御祈(おほんいの)りは、たゆみなく(つか)うまつりはべり。(いま)は、一所(ひとところ)(おほん)ことをなむ、(やす)からず(ねん)じきこえさする」 "としあらたまりては、なにごとかおはしますらん。おほんいのりは、たゆみなくつかうまつりはべり。いまは、ひとところおほんことをなん、やすからずねんじきこえさする。"
481.1.55242 など()こえて、(わらび)、つくづくし、をかしき()()れて、「これは、(わらは)べの供養(くやう)じてはべる初穂(はつほ)なり」とて、たてまつれり。()は、いと()しうて、(うた)は、わざとがましくひき(はな)ちてぞ()きたる。 などこえて、わらび、つくづくし、をかしきれて、"これは、わらはべのくやうじてはべるはつほなり。"とて、たてまつれり。は、いとしうて、うたは、わざとがましくひきはなちてぞきたる。
481.1.65343 (きみ)にとてあまたの(はる)()みしかば<BR/>(つね)(わす)れぬ初蕨(はつわらび)なり "〔きみにとてあまたのはるみしかば<BR/>つねわすれぬはつわらびなり
481.1.75444 御前(おまへ)()(まう)さしめたまへ」 おまへまうさしめたまへ。"
481.1.85545 とあり。 とあり。
481.25646第二段 中君、阿闍梨に返事を書く
481.2.15747 大事(だいじ)(おも)ひまはして()()だしつらむ、と(おぼ)せば、(うた)(こころ)ばへもいとあはれにて、なほざりに、さしも(おぼ)さぬなめりと()ゆる(こと)()を、めでたく(この)ましげに()()くしたまへる(ひと)御文(おほんふみ)よりは、こよなく()とまりて、(なみだ)もこぼるれば、(かへ)(ごと)()かせたまふ。 だいじおもひまはしてだしつらん、とおぼせば、うたこころばへもいとあはれにて、なほざりに、さしもおぼさぬなめりとゆることを、めでたくこのましげにくしたまへるひとおほんふみよりは、こよなくとまりて、なみだもこぼるれば、かへごとかせたまふ。
481.2.25848 「この(はる)()れにか()せむ()(ひと)の<BR/>かたみに()める(みね)早蕨(さわらび) "〔このはるれにかせんひとの<BR/>かたみにめるみねさわらび〕"
481.2.35949 使(つかひ)禄取(ろくと)らせさせたまふ。 つかひろくとらせさせたまふ。
481.2.46050 いと(さか)りに(にほ)(おほ)くおはする(ひと)の、さまざまの(おほん)もの(おも)ひに、すこしうち面痩(おもや)せたまへる、いとあてになまめかしきけしきまさりて、昔人(むかしびと)にもおぼえたまへり。(なら)びたまへりし(をり)は、とりどりにて、さらに()たまへりとも()えざりしを、うち(わす)れては、ふとそれかとおぼゆるまでかよひたまへるを、 いとさかりににほおほくおはするひとの、さまざまのおほんものおもひに、すこしうちおもやせたまへる、いとあてになまめかしきけしきまさりて、むかしびとにもおぼえたまへり。ならびたまへりしをりは、とりどりにて、さらにたまへりともえざりしを、うちわすれては、ふとそれかとおぼゆるまでかよひたまへるを、
481.2.56151 中納言殿(ちうなごんどの)の、(から)をだにとどめて()たてまつるものならましかばと、朝夕(あさゆふ)()ひきこえたまふめるに、(おな)じくは、()えたてまつりたまふ御宿世(おほんすくせ)ならざりけむよ」 "ちうなごんどのの、からをだにとどめてたてまつるものならましかばと、あさゆふひきこえたまふめるに、おなじくは、えたてまつりたまふおほんすくせならざりけんよ。"
481.2.66252 と、()たてまつる(ひと)びとは口惜(くちを)しがる。 と、たてまつるひとびとはくちをしがる。
481.2.76353 かの(おほん)あたりの(ひと)(かよ)()るたよりに、(おほん)ありさまは()えず()()はしたまひけり。()きせず(おも)ひほれたまひて、「(あたら)しき(とし)ともいはず、いや()になむ、なりたまへる」と()きたまひても、「げに、うちつけの心浅(こころあさ)さにはものしたまはざりけり」と、いとど(いま)ぞあはれも(ふか)く、(おも)()らるる。 かのおほんあたりのひとかよるたよりに、おほんありさまはえずはしたまひけり。きせずおもひほれたまひて、"あたらしきとしともいはず、いやになん、なりたまへる。"ときたまひても、"げに、うちつけのこころあささにはものしたまはざりけり。"と、いとどいまぞあはれもふかく、おもらるる。
481.2.86454 (みや)は、おはしますことのいと所狭(ところせ)くありがたければ、「(きゃう)(わた)しきこえむ」と(おぼ)()ちにたり。 みやは、おはしますことのいとところせくありがたければ、"きゃうわたしきこえん、"とおぼちにたり。
481.36555第三段 正月下旬、薫、匂宮を訪問
481.3.16656 内宴(ないえん)など、もの(さわ)がしきころ()ぐして、中納言(ちうなごん)(きみ)、「(こころ)にあまることをも、また()れにかは(かた)らはむ」と(おぼ)しわびて、兵部卿宮(ひゃうぶきゃうのみや)御方(おほんかた)(まゐ)りたまへり。 ないえんなど、ものさわがしきころぐして、ちうなごんきみ、"こころにあまることをも、またれにかはかたらはん。"とおぼしわびて、ひゃうぶきゃうのみやおほんかたまゐりたまへり。
481.3.26757 しめやかなる夕暮(ゆふぐれ)なれば、(みや)うち(なが)めたまひて、端近(はしちか)くぞおはしましける。(さう)御琴(おほんこと)かき()らしつつ、(れい)の、御心寄(みこころよ)せなる(むめ)()をめでおはする、下枝(しづえ)()()りて(まゐ)りたまへる、(にほ)ひのいと(えん)にめでたきを、(をり)をかしう(おぼ)して、 しめやかなるゆふぐれなれば、みやうちながめたまひて、はしちかくぞおはしましける。さうおほんことかきらしつつ、れいの、みこころよせなるむめをめでおはする、しづえりてまゐりたまへる、にほひのいとえんにめでたきを、をりをかしうおぼして、
481.3.36858 ()(ひと)(こころ)にかよふ(はな)なれや<BR/>(いろ)には()でず(した)(にほ)へる」 "〔ひとこころにかよふはななれや<BR/>いろにはでずしたにほへる〕
481.3.46959 とのたまへば、 とのたまへば、
481.3.57060 ()(ひと)にかこと()せける(はな)()を<BR/>(こころ)してこそ()るべかりけれ "〔ひとにかことせけるはなを<BR/>こころしてこそるべかりけれ
481.3.67161 わづらはしく」 わづらはしく。"
481.3.77262 と、(たはぶ)()はしたまへる、いとよき(おほん)あはひなり。 と、たはぶはしたまへる、いとよきおほんあはひなり。
481.3.87363 こまやかなる御物語(おほんものがたり)どもになりては、かの山里(やまざと)(おほん)ことをぞ、まづはいかにと、(みや)()こえたまふ。中納言(ちうなごん)も、()ぎにし(かた)()かず(かな)しきこと、そのかみより今日(けふ)まで(おも)ひの()えぬよし、折々(をりをり)につけて、あはれにもをかしくも、()きみ(わら)ひみとかいふらむやうに、()こえ()でたまふに、ましてさばかり(いろ)めかしく、(なみだ)もろなる御癖(おほんくせ)は、(ひと)御上(おほんうへ)にてさへ、(そで)もしぼるばかりになりて、かひがひしくぞあひしらひきこえたまふめる。 こまやかなるおほんものがたりどもになりては、かのやまざとおほんことをぞ、まづはいかにと、みやこえたまふ。ちうなごんも、ぎにしかたかずかなしきこと、そのかみよりけふまでおもひのえぬよし、をりをりにつけて、あはれにもをかしくも、きみわらひみとかいふらんやうに、こえでたまふに、ましてさばかりいろめかしく、なみだもろなるおほんくせは、ひとおほんうへにてさへ、そでもしぼるばかりになりて、かひがひしくぞあひしらひきこえたまふめる。
481.47464第四段 匂宮、薫に中君を京に迎えることを言う
481.4.17565 (そら)のけしきもまた、げにぞあはれ()(がほ)(かす)みわたれる。(よる)になりて、(はげ)しう()()づる(かぜ)のけしき、まだ(ふゆ)めきていと(さむ)げに、大殿油(おほとなぶら)()えつつ、(やみ)はあやなきたどたどしさなれど、かたみに()きさしたまふべくもあらず、()きせぬ御物語(おほんものがたり)をえはるけやりたまはで、(よる)もいたう()けぬ。 そらのけしきもまた、げにぞあはれがほかすみわたれる。よるになりて、はげしうづるかぜのけしき、まだふゆめきていとさむげに、おほとなぶらえつつ、やみはあやなきたどたどしさなれど、かたみにきさしたまふべくもあらず、きせぬおほんものがたりをえはるけやりたまはで、よるもいたうけぬ。
481.4.27666 ()にためしありがたかりける(なか)(むつ)びを、「いで、さりとも、いとさのみはあらざりけむ」と、(のこ)りありげに()ひなしたまふぞ、わりなき御心(みこころ)ならひなめるかし。さりながらも、ものに(こころ)えたまひて、(なげ)かしき(こころ)のうちもあきらむばかり、かつは(なぐさ)め、またあはれをもさまし、さまざまに(かた)らひたまふ、(おほん)さまのをかしきにすかされたてまつりて、げに、(こころ)にあまるまで(おも)(むす)ぼほるることども、すこしづつ(かた)りきこえたまふぞ、こよなく(むね)のひまあく心地(ここち)したまふ。 にためしありがたかりけるなかむつびを、"いで、さりとも、いとさのみはあらざりけん。"と、のこりありげにひなしたまふぞ、わりなきみこころならひなめるかし。さりながらも、ものにこころえたまひて、なげかしきこころのうちもあきらむばかり、かつはなぐさめ、またあはれをもさまし、さまざまにかたらひたまふ、おほんさまのをかしきにすかされたてまつりて、げに、こころにあまるまでおもむすぼほるることども、すこしづつかたりきこえたまふぞ、こよなくむねのひまあくここちしたまふ。
481.4.37767 (みや)も、かの人近(ひとちか)(わた)しきこえてむとするほどのことども、(かた)らひきこえたまふを、 みやも、かのひとちかわたしきこえてんとするほどのことども、かたらひきこえたまふを、
481.4.47868 「いとうれしきことにもはべるかな。あいなく、みづからの(あやま)ちとなむ(おも)うたまへらるる。()かぬ(むかし)名残(なごり)を、また(たづ)ぬべき(かた)もはべらねば、おほかたには、(なに)ごとにつけても、心寄(こころよ)せきこゆべき(ひと)となむ(おも)うたまふるを、もし便(びん)なくや(おぼ)()さるべき」 "いとうれしきことにもはべるかな。あいなく、みづからのあやまちとなんおもうたまへらるる。かぬむかしなごりを、またたづぬべきかたもはべらねば、おほかたには、なにごとにつけても、こころよせきこゆべきひととなんおもうたまふるを、もしびんなくやおぼさるべき。"
481.4.57969 とて、かの、「異人(ことびと)とな(おも)ひわきそ」と、(ゆづ)りたまひし(こころ)おきてをも、すこしは(かた)りきこえたまへど、岩瀬(いはせ)(もり)呼子鳥(よぶこどり)めいたりし()のことは、(のこ)したりけり。(こころ)のうちには、「かく(なぐさ)めがたき形見(かたみ)にも、げに、さてこそ、かやうにも(あつか)ひきこゆべかりけれ」と、(くや)しきことやうやうまさりゆけど、(いま)はかひなきものゆゑ、「(つね)にかうのみ(おも)はば、あるまじき(こころ)もこそ()()れ。()がためにもあぢきなく、をこがましからむ」と(おも)(はな)る。「さても、おはしまさむにつけても、まことに(おも)後見(うしろみ)きこえむ(かた)は、また()れかは」と(おぼ)せば、御渡(おほんわた)りのことどもも(こころ)まうけせさせたまふ。 とて、かの、"ことびととなおもひわきそ。"と、ゆづりたまひしこころおきてをも、すこしはかたりきこえたまへど、いはせもりよぶこどりめいたりしのことは、のこしたりけり。こころのうちには、"かくなぐさめがたきかたみにも、げに、さてこそ、かやうにもあつかひきこゆべかりけれ。"と、くやしきことやうやうまさりゆけど、いまはかひなきものゆゑ、"つねにかうのみおもはば、あるまじきこころもこそれ。がためにもあぢきなく、をこがましからん。"とおもはなる。"さても、おはしまさんにつけても、まことにおもうしろみきこえんかたは、またれかは。"とおぼせば、おほんわたりのことどももこころまうけせさせたまふ。
481.58070第五段 中君、姉大君の服喪が明ける
481.5.18171 かしこにも、よき若人童(わかうどわらは)など(もと)めて、(ひと)びとは(こころ)ゆき(がほ)にいそぎ(おも)ひたれど、(いま)はとてこの伏見(ふしみ)()らし()てむも、いみじく心細(こころぼそ)ければ、(なげ)かれたまふこと()きせぬを、さりとても、またせめて(こころ)ごはく、()()もりてもたけかるまじく、「(あさ)からぬ(なか)(ちぎ)りも、()()てぬべき御住(おほんす)まひを、いかに(おぼ)しえたるぞ」とのみ、(うら)みきこえたまふも、すこしはことわりなれば、いかがすべからむ、と(おも)(みだ)れたまへり。 かしこにも、よきわかうどわらはなどもとめて、ひとびとはこころゆきがほにいそぎおもひたれど、いまはとてこのふしみらしてんも、いみじくこころぼそければ、なげかれたまふこときせぬを、さりとても、またせめてこころごはく、もりてもたけかるまじく、"あさからぬなかちぎりも、てぬべきおほんすまひを、いかにおぼしえたるぞ。"とのみ、うらみきこえたまふも、すこしはことわりなれば、いかがすべからん、とおもみだれたまへり。
481.5.28272 如月(きさらぎ)朔日(ついたち)ごろとあれば、ほど(ちか)くなるままに、(はな)()どものけしきばむも(のこ)りゆかしく、「(みね)(かすみ)()つを見捨(みす)てむことも、おのが常世(とこよ)にてだにあらぬ旅寝(たびね)にて、いかにはしたなく人笑(ひとわら)はれなることもこそ」など、よろづにつつましく、心一(こころひと)つに(おも)()かし()らしたまふ。 きさらぎついたちごろとあれば、ほどちかくなるままに、はなどものけしきばむものこりゆかしく、"みねかすみつをみすてんことも、おのがとこよにてだにあらぬたびねにて、いかにはしたなくひとわらはれなることもこそ。"など、よろづにつつましく、こころひとつにおもかしらしたまふ。
481.5.38373 御服(おほんぶく)も、(かぎ)りあることなれば、()()てたまふに、(みそぎ)(あさ)心地(ここち)ぞする。親一所(おやひとところ)は、()たてまつらざりしかば、(こひ)しきことは(おも)ほえず。その御代(おほんか)はりにも、この(たび)(ころも)(ふか)()めむと、(こころ)には(おぼ)しのたまへど、さすがに、さるべきゆゑもなきわざなれば、()かず(かな)しきこと(かぎ)りなし。 おほんぶくも、かぎりあることなれば、てたまふに、みそぎあさここちぞする。おやひとところは、たてまつらざりしかば、こひしきことはおもほえず。そのおほんかはりにも、このたびころもふかめんと、こころにはおぼしのたまへど、さすがに、さるべきゆゑもなきわざなれば、かずかなしきことかぎりなし。
481.5.48474 中納言殿(ちうなごんどの)より、御車(みくるま)御前(おまへ)(ひと)びと、博士(はかせ)などたてまつれたまへり。 ちうなごんどのより、みくるまおまへひとびと、はかせなどたてまつれたまへり。
481.5.58575 「はかなしや(かすみ)衣裁(ころもた)ちしまに<BR/>(はな)のひもとく(をり)()にけり」 "〔はかなしやかすみころもたちしまに<BR/>はなのひもとくをりにけり〕
481.5.68676 げに、色々(いろいろ)いときよらにてたてまつれたまへり。御渡(おほんわた)りのほどの(かづ)(もの)どもなど、ことことしからぬものから、品々(しなじな)にこまやかに(おぼ)しやりつつ、いと(おほ)かり。 げに、いろいろいときよらにてたてまつれたまへり。おほんわたりのほどのかづものどもなど、ことことしからぬものから、しなじなにこまやかにおぼしやりつつ、いとおほかり。
481.5.78777 (をり)につけては、(わす)れぬさまなる御心寄(みこころよ)せのありがたく、はらからなども、えいとかうまではおはせぬわざぞ」 "をりにつけては、わすれぬさまなるみこころよせのありがたく、はらからなども、えいとかうまではおはせぬわざぞ。"
481.5.88878 など、(ひと)びとは()こえ()らす。あざやかならぬ古人(ふるびと)どもの(こころ)には、かかる(かた)(こころ)にしめて()こゆ。(わか)(ひと)は、時々(ときどき)()たてまつりならひて、(いま)はと(こと)ざまになりたまはむを、さうざうしく、「いかに(こひ)しくおぼえさせたまはむ」と()こえあへり。 など、ひとびとはこえらす。あざやかならぬふるびとどものこころには、かかるかたこころにしめてこゆ。わかひとは、ときどきたてまつりならひて、いまはとことざまになりたまはんを、さうざうしく、"いかにこひしくおぼえさせたまはん。"とこえあへり。
481.68979第六段 薫、中君が宇治を出立する前日に訪問
481.6.19080 みづからは、(わた)りたまはむこと明日(あす)とての、まだつとめておはしたり。(れい)の、客人居(まらうとゐ)(かた)におはするにつけても、(いま)はやうやうもの()れて、「(われ)こそ、(ひと)より(さき)に、かうやうにも(おも)ひそめしか」など、ありしさま、のたまひし(こころ)ばへを(おも)()でつつ、「さすがに、かけ(はな)れ、ことの(ほか)になどは、はしたなめたまはざりしを、わが(こころ)もて、あやしうも(へだ)たりにしかな」と、(むね)いたく(おも)(つづ)けられたまふ。 みづからは、わたりたまはんことあすとての、まだつとめておはしたり。れいの、まらうとゐかたにおはするにつけても、いまはやうやうものれて、"われこそ、ひとよりさきに、かうやうにもおもひそめしか。"など、ありしさま、のたまひしこころばへをおもでつつ、"さすがに、かけはなれ、ことのほかになどは、はしたなめたまはざりしを、わがこころもて、あやしうもへだたりにしかな。"と、むねいたくおもつづけられたまふ。
481.6.29181 垣間見(かいまみ)せし障子(さうじ)(あな)(おも)()でらるれば、()りて()たまへど、この(なか)をば()ろし()めたれば、いとかひなし。 かいまみせしさうじあなおもでらるれば、りてたまへど、このなかをばろしめたれば、いとかひなし。
481.6.39282 (うち)にも、(ひと)びと(おも)()できこえつつうちひそみあへり。(なか)(みや)は、まして、もよほさるる御涙(おほんなみだ)(かは)に、明日(あす)(わた)りもおぼえたまはず、ほれぼれしげにてながめ()したまへるに、 うちにも、ひとびとおもできこえつつうちひそみあへり。なかみやは、まして、もよほさるるおほんなみだかはに、あすわたりもおぼえたまはず、ほれぼれしげにてながめしたまへるに、
481.6.49383 (つき)ごろの()もりも、そこはかとなけれど、いぶせく(おも)うたまへらるるを、片端(かたはし)もあきらめきこえさせて、(なぐさ)めはべらばや。(れい)の、はしたなくなさし(はな)たせたまひそ。いとどあらぬ()心地(ここち)しはべり」 "つきごろのもりも、そこはかとなけれど、いぶせくおもうたまへらるるを、かたはしもあきらめきこえさせて、なぐさめはべらばや。れいの、はしたなくなさしはなたせたまひそ。いとどあらぬここちしはべり。"
481.6.59484 ()こえたまへれば、 こえたまへれば、
481.6.69585 「はしたなしと(おも)はれたてまつらむとしも(おも)はねど、いさや、心地(ここち)(れい)のやうにもおぼえず、かき(みだ)りつつ、いとどはかばかしからぬひがこともやと、つつましうて」 "はしたなしとおもはれたてまつらんとしもおもはねど、いさや、ここちれいのやうにもおぼえず、かきみだりつつ、いとどはかばかしからぬひがこともやと、つつましうて。"
481.6.79686 など、(くる)しげにおぼいたれど、「いとほし」など、これかれ()こえて、(なか)障子(さうじ)(くち)にて対面(たいめん)したまへり。 など、くるしげにおぼいたれど、"いとほし"など、これかれこえて、なかさうじくちにてたいめんしたまへり。
481.6.89787 いと心恥(こころは)づかしげになまめきて、また「このたびは、ねびまさりたまひにけり」と、()(おどろ)くまで(にほ)(おほ)く、「(ひと)にも()用意(ようい)など、あな、めでたの(ひと)や」とのみ()えたまへるを、姫宮(ひめみや)は、面影(おもかげ)さらぬ(ひと)(おほん)ことをさへ(おも)()できこえたまふに、いとあはれと()たてまつりたまふ。 いとこころはづかしげになまめきて、また"このたびは、ねびまさりたまひにけり。"と、おどろくまでにほおほく、"ひとにもよういなど、あな、めでたのひとや。"とのみえたまへるを、ひめみやは、おもかげさらぬひとおほんことをさへおもできこえたまふに、いとあはれとたてまつりたまふ。
481.6.99888 ()きせぬ御物語(おほんものがたり)なども、今日(けふ)言忌(こといみ)すべくや」 "きせぬおほんものがたりなども、けふこといみすべくや。"
481.6.109989 など()ひさしつつ、 などひさしつつ、
481.6.1110090 (わた)らせたまふべき所近(ところちか)く、このころ()ぐして(うつ)ろひはべるべければ、夜中暁(よなかあかつき)と、つきづきしき(ひと)()ひはべるめる、何事(なにごと)(をり)にも、(うと)からず(おぼ)しのたまはせば、()にはべらむ(かぎ)りは、()こえさせ(うけたまは)りて()ぐさまほしくなむはべるを、いかがは(おぼ)()すらむ。(ひと)(こころ)さまざまにはべる()なれば、あいなくやなど、一方(ひとかた)にもえこそ(おも)ひはべらね」 "わたらせたまふべきところちかく、このころぐしてうつろひはべるべければ、よなかあかつきと、つきづきしきひとひはべるめる、なにごとをりにも、うとからずおぼしのたまはせば、にはべらんかぎりは、こえさせうけたまはりてぐさまほしくなんはべるを、いかがはおぼすらん。ひとこころさまざまにはべるなれば、あいなくやなど、ひとかたにもえこそおもひはべらね。"
481.6.1210191 ()こえたまへば、 こえたまへば、
481.6.1310292 宿(やど)をばかれじと(おも)心深(こころふか)くはべるを、(ちか)く、などのたまはするにつけても、よろづに(みだ)れはべりて、()こえさせやるべき(かた)もなく」 "やどをばかれじとおもこころふかくはべるを、ちかく、などのたまはするにつけても、よろづにみだれはべりて、こえさせやるべきかたもなく。"
481.6.1410393 など、所々言(ところどころい)()ちて、いみじくものあはれと(おも)ひたまへるけはひなど、いとようおぼえたまへるを、「(こころ)からよそのものに()なしつる」と、いと(くや)しく(おも)ひゐたまへれど、かひなければ、その()のことかけても()はず、(わす)れにけるにやと()ゆるまで、けざやかにもてなしたまへり。 など、ところどころいちて、いみじくものあはれとおもひたまへるけはひなど、いとようおぼえたまへるを、"こころからよそのものになしつる。"と、いとくやしくおもひゐたまへれど、かひなければ、そののことかけてもはず、わすれにけるにやとゆるまで、けざやかにもてなしたまへり。
481.710494第七段 中君と薫、紅梅を見ながら和歌を詠み交す
481.7.110595 御前近(おまへちか)紅梅(こうばい)の、(いろ)()もなつかしきに、(うぐひす)だに見過(みす)ぐしがたげにうち()きて(わた)るめれば、まして「(はる)(むかし)の」と(こころ)(まど)はしたまふどちの御物語(おほんものがたり)に、(をり)あはれなりかし。(かぜ)のさと()()るるに、(はな)()客人(まらうと)御匂(おほんにほ)ひも、(たちばな)ならねど、昔思(むかしおも)()でらるるつまなり。「つれづれの(まぎ)らはしにも、()()(なぐさ)めにも、(こころ)とどめてもてあそびたまひしものを」など、(こころ)にあまりたまへば、 おまへちかこうばいの、いろもなつかしきに、うぐひすだにみすぐしがたげにうちきてわたるめれば、まして"はるむかしの"とこころまどはしたまふどちのおほんものがたりに、をりあはれなりかし。かぜのさとるるに、はなまらうとおほんにほひも、たちばなならねど、むかしおもでらるるつまなり。"つれづれのまぎらはしにも、なぐさめにも、こころとどめてもてあそびたまひしものを。"など、こころにあまりたまへば、
481.7.210697 ()(ひと)もあらしにまよふ山里(やまざと)に<BR/>(むかし)おぼゆる(はな)()ぞする」 "〔ひともあらしにまよふやまざとに<BR/>むかしおぼゆるはなぞする〕
481.7.310798 ()ふともなくほのかにて、たえだえ()こえたるを、なつかしげにうち()じなして、 ふともなくほのかにて、たえだえこえたるを、なつかしげにうちじなして、
481.7.410899 (そで)ふれし(むめ)()はらぬ(にほ)ひにて<BR/>()ごめ(うつ)ろふ宿(やど)やことなる」 "〔そでふれしむめはらぬにほひにて<BR/>ごめうつろふやどやことなる〕
481.7.5109100 ()へぬ(なみだ)をさまよくのごひ(かく)して、言多(ことおほ)くもあらず、 へぬなみだをさまよくのごひかくして、ことおほくもあらず、
481.7.6110101 「またもなほ、かやうにてなむ、(なに)ごとも()こえさせよかるべき」 "またもなほ、かやうにてなん、なにごともこえさせよかるべき。"
481.7.7111102 など、()こえおきて()ちたまひぬ。 など、こえおきてちたまひぬ。
481.7.8112103 御渡(おほんわた)りにあるべきことども、(ひと)びとにのたまひおく。この宿守(やどもり)に、かの(ひげ)がちの宿直人(とのゐびと)などはさぶらふべければ、このわたりの(ちか)御荘(みさう)どもなどに、そのことどもものたまひ(あづ)けなど、こまやかなることどもをさへ(さだ)めおきたまふ。 おほんわたりにあるべきことども、ひとびとにのたまひおく。このやどもりに、かのひげがちのとのゐびとなどはさぶらふべければ、このわたりのちかみさうどもなどに、そのことどもものたまひあづけなど、こまやかなることどもをさへさだめおきたまふ。
481.8113104第八段 薫、弁の尼と対面
481.8.1114105 (べん)ぞ、 べんぞ、
481.8.2115106 「かやうの御供(おほんとも)にも、(おも)ひかけず(なが)(いのち)いとつらくおぼえはべるを、(ひと)もゆゆしく見思(みおも)ふべければ、(いま)()にあるものとも(ひと)()られはべらじ」 "かやうのおほんともにも、おもひかけずながいのちいとつらくおぼえはべるを、ひともゆゆしくみおもふべければ、いまにあるものともひとられはべらじ。"
481.8.3116107 とて、容貌(かたち)()へてけるを、しひて()()でて、いとあはれと()たまふ。(れい)の、昔物語(むかしものがたり)などせさせたまひて、 とて、かたちへてけるを、しひてでて、いとあはれとたまふ。れいの、むかしものがたりなどせさせたまひて、
481.8.4117108 「ここには、なほ、時々(ときどき)(まゐ)()べきを、いとたつきなく心細(こころぼそ)かるべきに、かくてものしたまはむは、いとあはれにうれしかるべきことになむ」 "ここには、なほ、ときどきまゐべきを、いとたつきなくこころぼそかるべきに、かくてものしたまはんは、いとあはれにうれしかるべきことになん。"
481.8.5118109 など、えも()ひやらず()きたまふ。 など、えもひやらずきたまふ。
481.8.6119110 (いと)ふにはえて()びはべる(いのち)のつらく、またいかにせよとて、うち()てさせたまひけむ、と(うら)めしく、なべての()(おも)ひたまへ(しづ)むに、(つみ)もいかに(ふか)くはべらむ」 "いとふにはえてびはべるいのちのつらく、またいかにせよとて、うちてさせたまひけん、とうらめしく、なべてのおもひたまへしづむに、つみもいかにふかくはべらん。"
481.8.7120111 と、(おも)ひけることどもを(うれ)へかけきこゆるも、かたくなしげなれど、いとよく()(なぐさ)めたまふ。 と、おもひけることどもをうれへかけきこゆるも、かたくなしげなれど、いとよくなぐさめたまふ。
481.8.8121112 いたくねびにたれど、(むかし)、きよげなりける名残(なごり)()()てたれば、(ひたひ)のほど、様変(さまか)はれるに、すこし(わか)くなりて、さる(かた)(みや)びかなり。 いたくねびにたれど、むかし、きよげなりけるなごりてたれば、ひたひのほど、さまかはれるに、すこしわかくなりて、さるかたみやびかなり。
481.8.9122113 (おも)ひわびては、などかかる(さま)にもなしたてまつらざりけむ。それに()ぶるやうもやあらまし。さても、いかに心深(こころふか)(かた)らひきこえてあらまし」 "おもひわびては、などかかるさまにもなしたてまつらざりけん。それにぶるやうもやあらまし。さても、いかにこころふかかたらひきこえてあらまし。"
481.8.10123114 など、一方(ひとかた)ならずおぼえたまふに、この(ひと)さへうらやましければ、(かく)ろへたる几帳(きちゃう)をすこし()きやりて、こまかにぞ(かた)らひたまふ。げに、むげに(おも)ひほけたるさまながら、ものうち()ひたるけしき、用意(ようい)口惜(くちを)しからず、ゆゑありける(ひと)名残(なごり)()えたり。 など、ひとかたならずおぼえたまふに、このひとさへうらやましければ、かくろへたるきちゃうをすこしきやりて、こまかにぞかたらひたまふ。げに、むげにおもひほけたるさまながら、ものうちひたるけしき、よういくちをしからず、ゆゑありけるひとなごりえたり。
481.8.11124115 「さきに()(なみだ)(かは)()()げば<BR/>(ひと)におくれぬ(いのち)ならまし」 "〔さきになみだかはげば<BR/>ひとにおくれぬいのちならまし〕
481.8.12125116 と、うちひそみ()こゆ。 と、うちひそみこゆ。
481.8.13126117 「それもいと罪深(つみふか)かなることにこそ。かの(きし)(いた)ること、などか。さしもあるまじきことにてさへ、(ふか)(そこ)(しづ)()ぐさむもあいなし。すべて、なべてむなしく(おも)ひとるべき()になむ」 "それもいとつみふかかなることにこそ。かのきしいたること、などか。さしもあるまじきことにてさへ、ふかそこしづぐさんもあいなし。すべて、なべてむなしくおもひとるべきになん。"
481.8.14127118 などのたまふ。 などのたまふ。
481.8.15128119 ()()げむ(なみだ)(かは)(しづ)みても<BR/>(こひ)しき瀬々(せぜ)(わす)れしもせじ "〔げんなみだかはしづみても<BR/>こひしきせぜわすれしもせじ
481.8.16129120 いかならむ()に、すこしも(おも)(なぐさ)むることありなむ」 いかならんに、すこしもおもなぐさむることありなん。"
481.8.17130121 と、()てもなき心地(ここち)したまふ。 と、てもなきここちしたまふ。
481.8.18131122 (かへ)らむ(かた)もなく(なが)められて、()()れにけれど、すずろに旅寝(たびね)せむも、(ひと)のとがむることやと、あいなければ、(かへ)りたまひぬ。 かへらんかたもなくながめられて、れにけれど、すずろにたびねせんも、ひとのとがむることやと、あいなければ、かへりたまひぬ。
481.9132123第九段 弁の尼、中君と語る
481.9.1133124 (おも)ほしのたまへるさまを(かた)りて、(べん)は、いとど(なぐさ)めがたくくれ(まど)ひたり。皆人(みなひと)(こころ)ゆきたるけしきにて、もの()ひいとなみつつ、()いゆがめる容貌(かたち)()らず、つくろひさまよふに、いよいよやつして、 おもほしのたまへるさまをかたりて、べんは、いとどなぐさめがたくくれまどひたり。みなひとこころゆきたるけしきにて、ものひいとなみつつ、いゆがめるかたちらず、つくろひさまよふに、いよいよやつして、
481.9.2134125 (ひと)はみないそぎたつめる(そで)(うら)に<BR/>一人藻塩(ひとりもしほ)()るる海人(あま)かな」 "〔ひとはみないそぎたつめるそでうらに<BR/>ひとりもしほるるあまかな〕
481.9.3135126 (うれ)へきこゆれば、 うれへきこゆれば、
481.9.4136127 塩垂(しほた)るる海人(あま)(ころも)(こと)なれや<BR/>()きたる(なみ)()るるわが(そで) "〔しほたるるあまころもことなれや<BR/>きたるなみるるわがそで
481.9.5137128 ()()みつかむことも、いとありがたかるべきわざとおぼゆれば、さまに(したが)ひて、ここをば()()てじとなむ(おも)ふを、さらば対面(たいめん)もありぬべけれど、しばしのほども、心細(こころぼそ)くて()ちとまりたまふを()おくに、いとど(こころ)もゆかずなむ。かかる容貌(かたち)なる(ひと)も、かならずひたぶるにしも()()もらぬわざなめるを、なほ()(つね)(おも)ひなして、時々(ときどき)()えたまへ」 みつかんことも、いとありがたかるべきわざとおぼゆれば、さまにしたがひて、ここをばてじとなんおもふを、さらばたいめんもありぬべけれど、しばしのほども、こころぼそくてちとまりたまふをおくに、いとどこころもゆかずなん。かかるかたちなるひとも、かならずひたぶるにしももらぬわざなめるを、なほつねおもひなして、ときどきえたまへ。"
481.9.6138129 など、いとなつかしく(かた)らひたまふ。(むかし)(ひと)のもてつかひたまひしさるべき御調度(みてうど)どもなどは、(みな)この(ひと)にとどめおきたまひて、 など、いとなつかしくかたらひたまふ。むかしひとのもてつかひたまひしさるべきみてうどどもなどは、みなこのひとにとどめおきたまひて、
481.9.7139130 「かく、(ひと)より(ふか)(おも)(しづ)みたまへるを()れば、(さき)()も、()()きたる(ちぎ)りもや、ものしたまひけむと(おも)ふさへ、(むつ)ましくあはれになむ」 "かく、ひとよりふかおもしづみたまへるをれば、さきも、きたるちぎりもや、ものしたまひけんとおもふさへ、むつましくあはれになん。"
481.9.8140131 とのたまふに、いよいよ(わらは)べの()ひて()くやうに、(こころ)をさめむ(かた)なくおぼほれゐたり。 とのたまふに、いよいよわらはべのひてくやうに、こころをさめんかたなくおぼほれゐたり。
482141132第二章 中君の物語 匂宮との京での結婚生活が始まる
482.1142133第一段 中君、京へ向けて宇治を出発
482.1.1143134 (みな)かき(はら)ひ、よろづとりしたためて、御車(みくるま)ども()せて、御前(おまへ)(ひと)びと、四位五位(しゐごゐ)いと(おほ)かり。(おほん)みづからも、いみじうおはしまさまほしけれど、ことことしくなりて、なかなか()しかるべければ、ただ(しの)びたるさまにもてなして、(こころ)もとなく(おぼ)さる。 みなかきはらひ、よろづとりしたためて、みくるまどもせて、おまへひとびと、しゐごゐいとおほかり。おほんみづからも、いみじうおはしまさまほしけれど、ことことしくなりて、なかなかしかるべければ、ただしのびたるさまにもてなして、こころもとなくおぼさる。
482.1.2144135 中納言殿(ちうなごんどの)よりも、御前(おまへ)(ひと)数多(かずおほ)くたてまつれたまへり。おほかたのことをこそ、(みや)よりは(おぼ)しおきつめれ、こまやかなるうちうちの御扱(おほんあつか)ひは、ただこの殿(との)より、(おも)()らぬことなく(とぶ)らひきこえたまふ。 ちうなごんどのよりも、おまへひとかずおほくたてまつれたまへり。おほかたのことをこそ、みやよりはおぼしおきつめれ、こまやかなるうちうちのおほんあつかひは、ただこのとのより、おもらぬことなくとぶらひきこえたまふ。
482.1.3145136 日暮(ひく)れぬべしと、(うち)にも()にも、もよほしきこゆるに、(こころ)あわたたしく、いづちならむと(おも)ふにも、いとはかなく(かな)しとのみ(おも)ほえたまふに、御車(みくるま)()大輔(たいふ)(きみ)といふ(ひと)()ふ、 ひくれぬべしと、うちにもにも、もよほしきこゆるに、こころあわたたしく、いづちならんとおもふにも、いとはかなくかなしとのみおもほえたまふに、みくるまたいふきみといふひとふ、
482.1.4146137 「ありふればうれしき()にも()ひけるを<BR/>()宇治川(うぢがは)()げてましかば」 "〔ありふればうれしきにもひけるを<BR/>うぢがはげてましかば〕
482.1.5147138 うち()みたるを、「(べん)(あま)(こころ)ばへに、こよなうもあるかな」と、(こころ)づきなうも()たまふ。いま一人(ひとり) うちみたるを、"べんあまこころばへに、こよなうもあるかな。"と、こころづきなうもたまふ。いまひとり
482.1.6148139 ()ぎにしが(こひ)しきことも(わす)れねど<BR/>今日(けふ)はたまづもゆく(こころ)かな」 "〔ぎにしがこひしきこともわすれねど<BR/>けふはたまづもゆくこころかな〕
482.1.7149140 いづれも年経(としへ)たる(ひと)びとにて、(みな)かの御方(おほんかた)をば、心寄(こころよ)せまほしくきこえためりしを、(いま)はかく(おも)(あらた)めて言忌(こといみ)するも、「心憂(こころう)()や」とおぼえたまへば、ものも()はれたまはず。 いづれもとしへたるひとびとにて、みなかのおほんかたをば、こころよせまほしくきこえためりしを、いまはかくおもあらためてこといみするも、"こころうや。"とおぼえたまへば、ものもはれたまはず。
482.1.8150142 (みち)のほどの、(はる)けくはげしき山路(やまみち)のありさまを()たまふにぞ、つらきにのみ(おも)ひなされし(ひと)御仲(おほんなか)(かよ)ひを、「ことわりの()()なりけり」と、すこし(おぼ)()られける。七日(なぬか)(つき)のさやかにさし()でたる(かげ)、をかしく(かす)みたるを()たまひつつ、いと(とほ)きに、ならはず(くる)しければ、うち(なが)められて、 みちのほどの、はるけくはげしきやまみちのありさまをたまふにぞ、つらきにのみおもひなされしひとおほんなかかよひを、"ことわりのなりけり。"と、すこしおぼられける。なぬかつきのさやかにさしでたるかげ、をかしくかすみたるをたまひつつ、いととほきに、ならはずくるしければ、うちながめられて、
482.1.9151143 (なが)むれば(やま)より()でて()(つき)も<BR/>()()みわびて(やま)にこそ()れ」 "〔ながむればやまよりでてつきも<BR/>みわびてやまにこそれ〕
482.1.10152144 様変(さまか)はりて、つひにいかならむとのみ、あやふく、()(すゑ)うしろめたきに、(とし)ごろ(なに)ごとをか(おも)ひけむとぞ、()(かへ)さまほしきや。 さまかはりて、つひにいかならんとのみ、あやふく、すゑうしろめたきに、としごろなにごとをかおもひけんとぞ、かへさまほしきや。
482.2153145第二段 中君、京の二条院に到着
482.2.1154146 (よひ)うち()ぎてぞおはし()きたる。()()らぬさまに、()もかかやくやうなる殿造(とのづく)りの、()つば()つばなる(なか)()()れて、(みや)、いつしかと()ちおはしましければ、御車(みくるま)のもとに、みづから()らせたまひて()ろしたてまつりたまふ。 よひうちぎてぞおはしきたる。らぬさまに、もかかやくやうなるとのづくりの、つばつばなるなかれて、みや、いつしかとちおはしましければ、みくるまのもとに、みづかららせたまひてろしたてまつりたまふ。
482.2.2155147 (おほん)しつらひなど、あるべき(かぎ)りして、女房(にょうばう)局々(つぼねつぼね)まで、御心(みこころ)とどめさせたまひけるほどしるく()えて、いとあらまほしげなり。いかばかりのことにかと()えたまへる(おほん)ありさまの、にはかにかく(さだ)まりたまへば、「おぼろけならず(おぼ)さるることなめり」と、世人(よひと)(こころ)にくく(おも)ひおどろきけり。 おほんしつらひなど、あるべきかぎりして、にょうばうつぼねつぼねまで、みこころとどめさせたまひけるほどしるくえて、いとあらまほしげなり。いかばかりのことにかとえたまへるおほんありさまの、にはかにかくさだまりたまへば、"おぼろけならずおぼさるることなめり。"と、よひとこころにくくおもひおどろきけり。
482.2.3156148 中納言(ちうなごん)は、三条(さんでう)(みや)に、この二十余日(にじふよにち)のほどに(わた)りたまはむとて、このころは日々(ひび)におはしつつ()たまふに、この院近(ゐんちか)きほどなれば、けはひも()かむとて、夜更(よふ)くるまでおはしけるに、たてまつれたまへる御前(おまへ)(ひと)びと(かへ)(まゐ)りて、ありさまなど(かた)りきこゆ。 ちうなごんは、さんでうみやに、このにじふよにちのほどにわたりたまはんとて、このころはひびにおはしつつたまふに、このゐんちかきほどなれば、けはひもかんとて、よふくるまでおはしけるに、たてまつれたまへるおまへひとびとかへまゐりて、ありさまなどかたりきこゆ。
482.2.4157149 いみじう御心(みこころ)()りてもてなしたまふなるを()きたまふにも、かつはうれしきものから、さすがに、わが(こころ)ながらをこがましく、(むね)うちつぶれて、「ものにもがなや」と、(かへ)(がへ)(ひと)りごたれて、 いみじうみこころりてもてなしたまふなるをきたまふにも、かつはうれしきものから、さすがに、わがこころながらをこがましく、むねうちつぶれて、"ものにもがなや。"と、かへがへひとりごたれて、
482.2.5158150 「しなてるや(にほ)(みづうみ)()(ふね)の<BR/>まほならねどもあひ()しものを」 "〔しなてるやにほみづうみふねの<BR/>まほならねどもあひしものを〕
482.2.6159151 とぞ()ひくたさまほしき。 とぞひくたさまほしき。
482.3160152第三段 夕霧、六の君の裳着を行い、結婚を思案す
482.3.1161153 (みぎ)大殿(おほとの)は、(ろく)(きみ)(みや)にたてまつりたまはむこと、この(つき)にと(おぼ)(さだ)めたりけるに、かく(おも)ひの(ほか)(ひと)を、このほどより(さき)にと(おぼ)(がほ)にかしづき()ゑたまひて、(はな)れおはすれば、「いとものしげに(おぼ)したり」と()きたまふも、いとほしければ、御文(おほんふみ)時々(ときどき)たてまつりたまふ。 みぎおほとのは、ろくきみみやにたてまつりたまはんこと、このつきにとおぼさだめたりけるに、かくおもひのほかひとを、このほどよりさきにとおぼがほにかしづきゑたまひて、はなれおはすれば、"いとものしげにおぼしたり。"ときたまふも、いとほしければ、おほんふみときどきたてまつりたまふ。
482.3.2162154 御裳着(おほんもぎ)のこと、()(ひび)きていそぎたまへるを、()べたまはむも人笑(ひとわら)へなるべければ、二十日(はつか)あまりに()せたてまつりたまふ。 おほんもぎのこと、ひびきていそぎたまへるを、べたまはんもひとわらへなるべければ、はつかあまりにせたてまつりたまふ。
482.3.3163155 (おな)じゆかりにめづらしげなくとも、この中納言(ちうなごん)をよそ(びと)(ゆづ)らむが口惜(くちを)しきに、 おなじゆかりにめづらしげなくとも、このちうなごんをよそびとゆづらんがくちをしきに、
482.3.4164156 「さもやなしてまし。(とし)ごろ人知(ひとし)れぬものに(おも)ひけむ(ひと)をも()くなして、もの心細(こころぼそ)くながめゐたまふなるを」 "さもやなしてまし。としごろひとしれぬものにおもひけんひとをもくなして、ものこころぼそくながめゐたまふなるを。"
482.3.5165157 など(おぼ)()りて、さるべき(ひと)してけしきとらせたまひけれど、 などおぼりて、さるべきひとしてけしきとらせたまひけれど、
482.3.6166158 ()のはかなさを()(ちか)()しに、いと心憂(こころう)く、()もゆゆしうおぼゆれば、いかにもいかにも、さやうのありさまはもの()くなむ」 "のはかなさをちかしに、いとこころうく、もゆゆしうおぼゆれば、いかにもいかにも、さやうのありさまはものくなん。"
482.3.7167159 と、すさまじげなるよし()きたまひて、 と、すさまじげなるよしきたまひて、
482.3.8168160 「いかでか、この(きみ)さへ、おほなおほな言出(ことい)づることを、もの()くはもてなすべきぞ」 "いかでか、このきみさへ、おほなおほなこといづることを、ものくはもてなすべきぞ。"
482.3.9169161 (うら)みたまひけれど、(した)しき御仲(おほんなか)らひながらも、(ひと)ざまのいと心恥(こころは)づかしげにものしたまへば、えしひてしも()こえ(うご)かしたまはざりけり。 うらみたまひけれど、したしきおほんなからひながらも、ひとざまのいとこころはづかしげにものしたまへば、えしひてしもこえうごかしたまはざりけり。
482.4170162第四段 薫、桜の花盛りに二条院を訪ね中君と語る
482.4.1171163 花盛(はなざか)りのほど、二条(にでう)(ゐん)(さくら)()やりたまふに、(ぬし)なき宿(やど)のまづ(おも)ひやられたまへば、「(こころ)やすくや」など、(ひと)りごちあまりて、(みや)(おほん)もとに(まゐ)りたまへり。 はなざかりのほど、にでうゐんさくらやりたまふに、ぬしなきやどのまづおもひやられたまへば、"こころやすくや。"など、ひとりごちあまりて、みやおほんもとにまゐりたまへり。
482.4.2172164 ここがちにおはしましつきて、いとよう()()れたまひにたれば、「めやすのわざや」と()たてまつるものから、(れい)の、いかにぞやおぼゆる(こころ)()ひたるぞ、あやしきや。されど、(じち)御心(みこころ)ばへは、いとあはれにうしろやすくぞ(おも)ひきこえたまひける。 ここがちにおはしましつきて、いとようれたまひにたれば、"めやすのわざや。"とたてまつるものから、れいの、いかにぞやおぼゆるこころひたるぞ、あやしきや。されど、じちみこころばへは、いとあはれにうしろやすくぞおもひきこえたまひける。
482.4.3173165 (なに)くれと御物語聞(おほんものがたりき)こえ()はしたまひて、(ゆふ)(かた)(みや)内裏(うち)(まゐ)りたまはむとて、御車(みくるま)装束(さうぞく)して、(ひと)びと(おほ)(まゐ)(あつ)まりなどすれば、()()でたまひて、(たい)御方(おほんかた)(まゐ)りたまへり。 なにくれとおほんものがたりきこえはしたまひて、ゆふかたみやうちまゐりたまはんとて、みくるまさうぞくして、ひとびとおほまゐあつまりなどすれば、でたまひて、たいおほんかたまゐりたまへり。
482.4.4174166 山里(やまざと)のけはひ、ひきかへて、御簾(みす)のうち(こころ)にくく()みなして、をかしげなる(わらは)の、透影(すきかげ)ほの()ゆるして、御消息聞(おほんせうそこき)こえたまへれば、御茵(おほんしとね)さし()でて、(むかし)心知(こころし)れる(ひと)なるべし、()()御返(おほんかへ)()こゆ。 やまざとのけはひ、ひきかへて、みすのうちこころにくくみなして、をかしげなるわらはの、すきかげほのゆるして、おほんせうそこきこえたまへれば、おほんしとねさしでて、むかしこころしれるひとなるべし、おほんかへこゆ。
482.4.5175167 朝夕(あさゆふ)(へだ)てもあるまじう(おも)うたまへらるるほどながら、そのこととなくて()こえさせむも、なかなかなれなれしきとがめやと、つつみはべるほどに、()中変(なかか)はりにたる心地(ここち)のみぞしはべるや。御前(おまへ)(こずゑ)霞隔(かすみへだ)てて()えはべるに、あはれなること(おほ)くもはべるかな」 "あさゆふへだてもあるまじうおもうたまへらるるほどながら、そのこととなくてこえさせんも、なかなかなれなれしきとがめやと、つつみはべるほどに、なかかはりにたるここちのみぞしはべるや。おまへこずゑかすみへだててえはべるに、あはれなることおほくもはべるかな。"
482.4.6176168 ()こえて、うち(なが)めてものしたまふけしき、心苦(こころぐる)しげなるを、 こえて、うちながめてものしたまふけしき、こころぐるしげなるを、
482.4.7177169 「げに、おはせましかば、おぼつかなからず()(かへ)り、かたみに(はな)(いろ)(とり)(こゑ)をも、(をり)につけつつ、すこし(こころ)ゆきて()ぐしつべかりける()を」 "げに、おはせましかば、おぼつかなからずかへり、かたみにはないろとりこゑをも、をりにつけつつ、すこしこころゆきてぐしつべかりけるを。"
482.4.8178170 など、(おぼ)()づるにつけては、ひたぶるに()()もりたまへりし()まひの心細(こころぼそ)さよりも、()かず(かな)しう、口惜(くちを)しきことぞ、いとどまさりける。 など、おぼづるにつけては、ひたぶるにもりたまへりしまひのこころぼそさよりも、かずかなしう、くちをしきことぞ、いとどまさりける。
482.5179171第五段 匂宮、中君と薫に疑心を抱く
482.5.1180172 (ひと)びとも、 ひとびとも、
482.5.2181173 ()(つね)に、ことことしくなもてなしきこえさせたまひそ。(かぎ)りなき御心(みこころ)のほどをば、(いま)しもこそ、()たてまつり()らせたまふさまをも、()えたてまつらせたまふべけれ」 "つねに、ことことしくなもてなしきこえさせたまひそ。かぎりなきみこころのほどをば、いましもこそ、たてまつりらせたまふさまをも、えたてまつらせたまふべけれ。"
482.5.3182174 など()こゆれど、人伝(ひとづ)てならず、ふとさし()()こえむことの、なほつつましきを、やすらひたまふほどに、(みや)()でたまはむとて、(おほん)まかり(まう)しに(わた)りたまへり。いときよらにひきつくろひ化粧(けさう)じたまひて、()るかひある(おほん)さまなり。 などこゆれど、ひとづてならず、ふとさしこえんことの、なほつつましきを、やすらひたまふほどに、みやでたまはんとて、おほんまかりまうしにわたりたまへり。いときよらにひきつくろひけさうじたまひて、るかひあるおほんさまなり。
482.5.4183175 中納言(ちうなごん)はこなたになりけり、と()たまひて、 ちうなごんはこなたになりけり、とたまひて、
482.5.5184176 「などか、むげにさし(はな)ちては、()だし()ゑたまへる。(おほん)あたりには、あまりあやしと(おも)ふまで、うしろやすかりし心寄(こころよ)せを。わがためはをこがましきこともや、とおぼゆれど、さすがにむげに(へだ)(おほ)からむは、(つみ)もこそ()れ。(ちか)やかにて、昔物語(むかしものがたり)もうち(かた)らひたまへかし」 "などか、むげにさしはなちては、だしゑたまへる。おほんあたりには、あまりあやしとおもふまで、うしろやすかりしこころよせを。わがためはをこがましきこともや、とおぼゆれど、さすがにむげにへだおほからんは、つみもこそれ。ちかやかにて、むかしものがたりもうちかたらひたまへかし。"
482.5.6185177 など、()こえたまふものから、 など、こえたまふものから、
482.5.7186178 「さはありとも、あまり(こころ)ゆるびせむも、またいかにぞや。(うたが)はしき(した)(こころ)にぞあるや」 "さはありとも、あまりこころゆるびせんも、またいかにぞや。うたがはしきしたこころにぞあるや。"
482.5.8187179 と、うち(かへ)しのたまへば、一方(ひとかた)ならずわづらはしけれど、わが御心(みこころ)にも、あはれ(ふか)(おも)()られにし(ひと)御心(みこころ)を、(いま)しもおろかなるべきならねば、「かの(ひと)(おも)ひのたまふめるやうに、いにしへの御代(おほんか)はりとなずらへきこえて、かう(おも)()りけりと、()えたてまつるふしもあらばや」とは(おぼ)せど、さすがに、とかくやと、かたがたにやすからず()こえなしたまへば、(くる)しう(おぼ)されけり。 と、うちかへしのたまへば、ひとかたならずわづらはしけれど、わがみこころにも、あはれふかおもられにしひとみこころを、いましもおろかなるべきならねば、"かのひとおもひのたまふめるやうに、いにしへのおほんかはりとなずらへきこえて、かうおもりけりと、えたてまつるふしもあらばや。"とはおぼせど、さすがに、とかくやと、かたがたにやすからずこえなしたまへば、くるしうおぼされけり。