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第三十三帖 藤裏葉
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33 HUDI-NO-URABA (Ooshima-bon)
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光る源氏の太政大臣時代 三十九歳三月から十月までの物語
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Tale of Hikaru-Genji's Daijo-Daijin era, from March to October at the age of 39
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1 |
第一章 夕霧の物語 雲居雁との筒井筒の恋実る
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1 Tale of Yugiri Yugiri and Kumoi-no-kari get married after long in love
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1.1 |
第一段 夕霧と雲居雁の相思相愛の恋
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1-1 Yugiri and Kumoi-no-kari are deeply in love with each other
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1.1.1 |
御いそぎのほどにも、宰相中将は眺めがちにて、ほれぼれしき心地するを、「 かつはあやしく、わが心ながら 執念きぞかし。あながちにかう思ふことならば、 関守の、うちも寝ぬべきけしきに ★思ひ弱りたまふなるを聞きながら、同じくは、人悪からぬさまに見果てむ」と念ずるも、苦しう思ひ乱れたまふ。
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御入内の準備の最中にも、宰相中将は物思いに沈みがちで、ぼんやりした感じがするが、「一方では、不思議な感じで、自分ながら執念深いことだ。むやみにこんなに恋しいことならば、関守が、目をつぶって許そうというほどに気弱におなりだという噂を聞きながら、同じことなら、体裁の悪くないよう最後まで通そう」と我慢するにつけても、苦しく思い悩んでいらっしゃる。
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六条院の姫君が太子の宮へはいる仕度でだれも繁忙をきわめている時にも、兄の宰相中将は物思いにとらわれていて、ぼんやりとしていることに自身で気がついていた。自身で自身がわからない気もする中将であった。どうしてこんなに執拗にその人を思っているのであろう、これほど苦しむのであれば、二人の恋愛を認めてよいというほどに伯父が弱気になっていることも聞いていたのであるから、もうずっと以前から進んで昔の関係を復活さえさせればよかったのである。しかしできることなら、伯父のほうから正式に婿として迎えようと言って来る日までは昔の雪辱のために待っていたいと煩悶しているのである。
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Ohom-isogi no hodo ni mo, Saisyau-no-Tyuuzyau ha, nagamegati nite, horeboresiki kokoti suru wo, "Katuha ayasiku, waga kokoro nagara sihuneki zo kasi. Anagati ni kau omohu koto nara ba, sekimori no, uti mo ne nu beki kesiki ni omohi yowari tamahu naru wo kiki nagara, onaziku ha, hitowarukara nu sama ni mi hate m." to nenzuru mo, kurusiu omohi midare tamahu.
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1.1.2 |
女君も、 大臣のかすめたまひしことの筋を、「 もし、さもあらば、何の名残かは」と嘆かしうて、あやしく背き背きに、さすがなる ▼ 御もろ恋なり。
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女君も、大臣がちらっとおっしゃった縁談のお話を、「もしも、そうなったら、わたしのことをすっかり忘れてしまうだろう」と嘆かわしくて、不思議と背を向けあった関係ながら、そうはいっても相思相愛の仲である。
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雲井の雁のほうでも父の大臣の洩らした恋人の結婚話から苦しい物思いをしていた。もしもそんなことになったならもう永久に自分などは顧みられないであろうと思うと悲しかった。接近をしようとはせずに、しかもこの二人のしているのは熱烈な相思の恋であった。
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WomnaGimi mo, Otodo no kasume tamahi si koto no sudi wo, "Mosi, samo ara ba, nani no nagori kaha!" to nagekasiu te, ayasiku somuki somuki ni, sasuga naru ohom-morogohi nari.
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1.1.3 |
大臣も、さこそ心強がりたまひしかど、 たけからぬに思しわづらひて、「 かの宮にも、さやうに思ひ立ち果てたまひなば、またとかく 改め思ひかかづらはむほど、人のためも苦しう、わが御方ざまにも人笑はれに、おのづから軽々しきことやまじらむ。忍ぶとすれど、 うちうちのことあやまりも、世に漏りにたるべし。とかく紛らはして、なほ負けぬべきなめり」と、思しなりぬ。
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内大臣も、あれほど強情をお張りになったが、意地の張りがいのないのにご思案にあまって、「あの宮におかれても、そのようにお決めになってしまったら、再びあれこれと改めて別の相手を探す間、その相手にも悪いし、ご自分の方にも物笑いとなって、自然と軽率だという噂の種にされよう。隠そうとしても、内輪の失敗も、世間に漏れているだろう。何とか世間体をつくろって、やはり折れた方が良いようだ」と、お考えになった。
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内大臣も甥の価値をしいて認めようとせずに、結婚問題には冷淡な態度をとり続けてきたのであったが、雲井の雁の心は今も依然とその人にばかり傾いているのを知っては、親心として宰相中将の他家の息女と結婚するのを坐視するに忍びなくなった。話が進行してしまって、中務の宮でも結婚の準備ができたあとでこちらの話を言い出しては中将を苦しめることにもなるし、自身の家のためにも不面目なことになって世上の話題にされやすい。秘密にしていても昔あった関係はもう人が皆知っていることであろう、何かの口実を作って、やはり自分のほうから負けて出ねばならないとまで大臣は決心するに至った。
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Otodo mo, sakoso kokoroduyogari tamahi sika do, takekara nu ni obosi wadurahi te, "Kano Miya ni mo, sayau ni omohitati hate tamahi na ba, mata tokaku aratame omohi kakaduraha m hodo, hito no tame mo kurusiu, waga ohom-kata zama ni mo hitowarahare ni, onodukara karogarosiki koto ya mazira m. Sinobu to sure do, utiuti no kotoayamari mo, yo ni mori ni taru besi. Tokaku magirahasi te, naho make nu beki na' meri." to, obosi nari nu.
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1.1.4 |
上はつれなくて、恨み解けぬ御仲なれば、「 ゆくりなく言ひ寄らむもいかが」と、思し憚りて、「 ことことしくもてなさむも、人の思はむところをこなり。いかなるついでしてかはほのめかすべき」など思すに、 三月二十日、大殿の大宮の御忌日にて、極楽寺に詣でたまへり。
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表面上は何気ないが、恨みの解けないご関係なので、「きっかけもなく言い出すのはどんなものか」と、ご躊躇なさって、「改まって申し出るのも、世間の人が思うところも馬鹿馬鹿しい。どのような機会にそれとなく切り出したらよかろう」などと、お考えだったところ、三月二十日が、大殿の大宮の御忌日なので、極楽寺に参詣なさった。
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表面は何もないふうをしていても、あのことがあってからは心から親しめない間柄になっているのであるから、突然言い出すのも如何なものであると大臣ははばかられた。新しい婿迎えの形式をとるのも他人が見ておかしく思うことであろうから、そんなふうにはせずによい機会に直接話してみたほうがよいかもしれないなどと思っていたが、三月の二十日は大宮の御忌日であって、極楽寺へ一族の参詣することがあった。
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Uhe ha turenaku te, urami toke nu ohom-naka nare ba, "Yukurinaku ihiyora m mo ikaga?" to, obosi habakari te, "Kotokotosiku motenasa m mo, hito no omoha m tokoro woko nari. Ikanaru tuide si te kaha honomekasu beki?" nado obosu ni, Yayohi hatuka, OhoTono no OhoMiya no ohom-kiniti nite, Gokurakuzi ni maude tamahe ri.
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出典1 |
関守の、うちも寝ぬべき |
人知れぬ我が通ひ路の関守は宵々ごとにうちも寝ななむ |
古今集恋三-六三二 在原業平 |
1.1.1 |
出典2 |
御もろ恋 |
みごもりの神しまことの神ならば我が片恋を諸恋になせ |
古今六帖四-二〇二〇 |
1.1.2 |
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1.2 |
第二段 三月二十日、極楽寺に詣でる
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1-2 Naidaijin's famiry visit to Gokuraku-temple at March 20
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1.2.1 |
君達皆ひき連れ、勢ひあらまほしく、上達部などもあまた参り集ひたまへるに、宰相中将、をさをさけはひ劣らず、よそほしくて、容貌など、ただ今の いみじき盛りにねびゆきて、取り集めめでたき人の御ありさまなり。
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ご子息たちを皆引き連れて、ご威勢この上なく、上達部なども大勢参集なさっていたが、宰相中将、少しも引けを取らず、堂々とした様子で、容貌など、ちょうど今が盛りに美しく成人されて、何もかもすべて結構なご様子である。
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内大臣は子息たちを皆引き連れて行っていて、すばらしく権勢のある家のことであるから多数の高官たちも法会に参列したが、宰相中将はそうした高官たちに遜色のない堂々とした風采をしていて、容貌なども今が盛りなようにもととのっているのであるから、高雅な最も貴い若い朝臣と見えた。
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Kimitati mina hikiture, ikihohi aramahosiku, Kamdatime nado mo amata mawiri tudohi tamahe ru ni, Saisyau-no-Tyuuzyau, wosawosa kehahi otora zu, yosohosiku te, katati nado, tada ima no imiziki sakari ni nebi yuki te, tori-atume medetaki hito no ohom-arisama nari.
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1.2.2 |
この大臣をば、つらしと思ひきこえたまひしより、見えたてまつるも、心づかひせられて、いといたう用意し、もてしづめてものしたまふを、大臣も、常よりは目とどめたまふ。御誦経など、六条院よりもせさせたまへり。宰相君は、 まして、よろづをとりもちて、あはれにいとなみ仕うまつりたまふ。
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この大臣を、ひどいとお思い申し上げなさってから、お目にかかるのも、つい気が張って、とてもひどく気をつかって、取り澄ましていらっしゃるのを、大臣も、いつもよりは注目なさっている。御誦経など、六条院からもおさせになった。宰相の君は、誰にもまして、万端のことを引き受けて、真心をこめて奉仕していらっしゃる。
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恨めしかったあの時以来、いつも内大臣と逢うのは晴れがましいことに思われて、今日なども親戚じゅうの長者としての敬意だけを十分に見せて、そしてきわめて冷静に落ち着いた態度をとっている宰相中将に、今日の内大臣は特に関心が持たれた。仏前の誦経などは源氏からもさせた。中将は最も愛された祖母の宮の法事であったから、経巻や仏像その他の供養のことにも誠心をこめた奉仕ぶりを見せた。
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Kono Otodo wo ba, turasi to omohi kikoye tamahi si yori, miye tatematuru mo, kokorodukahi se rare te, ito itau youi si, mote-sidume te monosi tamahu wo, Otodo mo, tune yori ha me todome tamahu. Mi-zukyau nado, Rokudeu-no-Win yori mo se sase tamahe ri. Saisyau-no-Kimi ha, masite, yorodu wo torimoti te, ahare ni itonami tukaumaturi tamahu.
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1.2.3 |
夕かけて、皆帰りたまふほど、花は皆散り乱れ、霞たどたどしきに、大臣、昔を思し出でて、なまめかしううそぶき眺めたまふ。宰相も、あはれなる夕べのけしきに、いとどうちしめりて、「雨気あり」と、人びとの騒ぐに、なほ眺め入りてゐたまへり。 心ときめきに見たまふことやありけむ、袖を引き寄せて、
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夕方になって、皆がお帰りになるころ、花はみな散り乱れ、霞の朧ろな中に、内大臣、昔をお思い出して、優雅に口ずさんで物思いに耽っていらっしゃる。宰相も、しみじみとした夕方の景色に、ますます物思いに沈んだ面持ちで、「雨が降りそうです」と、人々が騒いでいるのに、依然として物思いに耽りきっていらっしゃった。心をときめかせて御覧になることがあるのであろうか、袖を引き寄せて、
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夕方になって参会者の次々に帰るころ、木の花は大部分終わりがたになって散り乱れた庭に霞もよどんで春の末の哀愁の深く身にしむ景色を、大臣は顔を上げて母宮のおいでになった昔の日を思いながら、雅趣のある姿でながめていた。宰相中将も身にしむ夕べの気に仏事中よりもいっそうめいった心持ちになって、「雨になりそうだ」などと退散して行く人たちの言い合っている声も聞きながらなお庭のほうばかりがながめられた。好機会であるとも大臣は思ったのか、源中将の袖を引き寄せて、
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Yuhu kake te, mina kaheri tamahu hodo, hana ha mina tiri midare, kasumi tadotadosiki ni, Otodo, mukasi wo obosi ide te, namamekasiu usobuki nagame tamahu. Saisyau mo, ahare naru yuhube no kesiki ni, itodo uti-simeri te, "Amake ari." to, hitobito no sawagu ni, naho nagame iri te wi tamahe ri. Kokorotokimeki ni mi tamahu koto ya ari kem, sode wo hikiyose te,
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1.2.4 |
「 などか、いとこよなくは勘じたまへる。今日の御法の縁をも尋ね思さば、罪許したまひてよや。残り少なくなりゆく末の世に、思ひ捨てたまへるも、恨みきこゆべくなむ」
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「どうして、そんなにひどく怒っておいでなのか。今日の御法要の縁故をお考えになれば、不行届きはお許し下さいよ。余命少なくなってゆく老いの身に、お見限りなさるのも、お恨み申し上げたい」
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「どうしてあなたはそんなに私を憎んでいるのですか。今日の御法会の仏様の縁故で私の罪はもう許してくれたまえ。老人になってどんなに肉身が恋しいかしれない私に、あまり厳罰をあなたが加え過ぎるのも恨めしいことです」
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"Nado ka, ito koyonaku ha kamzi tamahe ru. Kehu no minori no eni wo mo tadune obosa ba, tumi yurusi tamahi te yo ya! Nokori sukunaku nari yuku suwenoyo ni, omohi sute tamahe ru mo, urami kikoyu beku nam."
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1.2.5 |
とのたまへば、うちかしこまりて、
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とおっしゃるので、ちょっと恐縮して、
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などと言うと、中将は畏まって、
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to notamahe ba, uti-kasikomari te,
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1.2.6 |
「 過ぎにし御おもむけも、頼みきこえさすべきさまに、うけたまはりおくことはべりしかど、許しなき御けしきに、憚りつつなむ」
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「故人のご意向も、お頼り申し上げるようにと、承っておりましたが、お許しのないご様子に、遠慮致しておりました」
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「お亡れになりました方の御遺志も、あなたを御信頼申して、庇護されてまいるようにということであったように心得ておりましたが、私をお許しくださいません御様子を拝見するものですから御遠慮しておりました」
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"Sugi ni si ohom-omomuke mo, tanomi kikoyesasu beki sama ni, uketamahari oku koto haberi sika do, yurusi naki mi-kesiki ni, habakari tutu nam."
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1.2.7 |
と聞こえたまふ。
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とお答え申し上げになる。
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と言っていた。
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to kikoye tamahu.
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1.2.8 |
心あわたたしき雨風に、皆ちりぢりに競ひ帰りたまひぬ。君、「 いかに思ひて、例ならず けしきばみたまひつらむ」など、世とともに心をかけたる御あたりなれば、はかなきことなれど、耳とまりて、とやかうやと思ひ明かしたまふ。
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気ぜわしい雨風に、皆ばらばらに急いでお帰りになった。宰相の君は、「どのようにお考えになって、いつもとは違って、あのようなことをおっしゃったのだろうか」などと、絶えず気にかけていらっしゃる内大臣家のことなので、ちょっとしたことであるが、耳が止まって、ああかこうかと、考えながら夜をお明かしになる。
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天侯が悪くなって雨風の中をこの人たちはそれぞれ急ぎ立てられるように家へ帰った。宰相中将は大臣がどうして平生と違った言葉を自分にかけたのであろうと、無関心でいる時のない恋人の家のことであるから、何でもないことも耳にとまって、いろいろな想像を描いていた。
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Kokoro awatatasiki amakaze ni, mina tiridiri ni kihohi kaheri tamahi nu. Kimi, "Ikani omohi te, rei nara zu kesikibami tamahi tu ram?" nado, yo to tomoni kokoro wo kake taru ohom-atari nare ba, hakanaki koto nare do, mimi tomari te, toyakauya to omohi akasi tamahu.
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1.3 |
第三段 内大臣、夕霧を自邸に招待
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1-3 Naidaijin invites Yugiri to his home
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1.3.1 |
ここらの年ごろの思ひのしるしにや、かの大臣も、名残なく思し弱りて、はかなきついでの、わざとはなく、さすがにつきづきしからむを思すに、 四月の朔日ごろ、御前の藤の花、いとおもしろう咲き乱れて、世の常の色ならず、ただに見過ぐさむこと惜しき盛りなるに、遊びなどしたまひて、暮れ行くほどの、いとど色まされるに、頭中将して、御消息あり。
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長い年月思い続けてきた甲斐あってか、あの内大臣も、すっかり気弱になって、ちょっとした機会で、特別にというのでなく、そうはいっても相応しい時期をお考えになって、四月の初旬ころ、お庭先の藤の花、たいそうみごとに咲き乱れて、世間にある藤の花の色とは違って、何もしないのも惜しく思われる花盛りなので、管弦の遊びなどをなさって、日が暮れてゆくころの、ますます色美しくなってゆく時分に、頭中将を使いとして、お手紙がある。
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長い年月の間純情をもって雲井の雁を思っていた宰相中将の心が通じたのか、内大臣は昔のその人とは思われないほど謙遜な娘の親の心になって宰相中将を招くのにわざとらしくない機会を、しかも最もふさわしいような機会のあるのを願っていたが、四月の初めに庭の藤の花が美しく咲いて、すぐれた紫の花房のなびき合うながめを、もてはやしもせずに過ごしてしまうのが残念になって、音楽の遊びを家でした時に、藤の花が夕方になっていっそう鮮明に美しく見えるからといって、長男の頭中将を使いにして源中将を迎えにやった。
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Kokora no tosigoro no omohi no sirusi ni ya, kano Otodo mo, nagori naku obosi yowari te, hakanaki tuide no, wazato ha naku, sasugani tukidukisikara m wo obosu ni, Uduki no tuitati goro, omahe no hudi no hana, ito omosirou saki midare te, yo no tune no iro nara zu, tadani misugusa m koto wosiki sakari naru ni, asobi nado si tamahi te, kure yuku hodo no, itodo iro masare ru ni, Tou-no-Tyuuzyau site, ohom-seusoko ari.
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1.3.2 |
「 一日の花の蔭の対面の、飽かずおぼえはべりしを、御暇あらば、立ち寄りたまひなむや」
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「先日の花の下でお目にかかったことが、堪らなく思われたので、お暇があったら、お立ち寄りなさいませんか」
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「極楽寺の花蔭ではお話もゆっくりとする間のありませんでしたことが遺憾でなりませんでした。それでもしお閑暇があるようでしたらおいでくださいませんか」
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"Hitohi no hana no kage no taimen no, aka zu oboye haberi si wo, ohom-itoma ara ba, tatiyori tamahi na m ya?"
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1.3.3 |
とあり。御文には、
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とある。お手紙には、
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というのが大臣の伝えさせた言葉である。手紙には、
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to ari. Ohom-humi ni ha,
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1.3.4 |
「 わが宿の藤の色濃きたそかれに ★ 尋ねやは来ぬ春の名残を」 |
「わたしの家の藤の花の色が濃い夕方に 訪ねていらっしゃいませんか、逝く春の名残を惜しみに」 |
わが宿の藤の色濃き黄昏に たづねやはこぬ春の名残を
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"Waga yado no hudi no iro koki tasokare ni tadune yaha ko nu haru no nagori wo |
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1.3.5 |
げに、いとおもしろき枝につけたまへり。 待ちつけたまへるも、心ときめきせられて、かしこまりきこえたまふ。
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おっしゃる通り、たいそう美しい枝に付けていらっしゃった。心待ちしていらっしゃったのにつけても、心がどきどきして、恐縮してお返事を差し上げなさる。
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とあった。歌われてあるとおりにすぐれた藤の花の枝にそれは付けてあった。使いを受けた中将は心のときめくのを覚えた。そして恐縮の意を返事した。
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Geni, ito omosiroki eda ni tuke tamahe ri. Mati tuke tamahe ru mo, kokorotokimeki se rare te, kasikomari kikoye tamahu.
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1.3.6 |
「 なかなかに折りやまどはむ藤の花 たそかれ時のたどたどしくは」 |
「かえって藤の花を折るのにまごつくのではないでしょうか 夕方時のはっきりしないころでは」 |
なかなかに折りやまどはん藤の花 たそがれ時のたどたどしくば
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"Nakanaka ni wori ya madoha m hudi no hana tasokare doki no tadotadosiku ha |
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1.3.7 |
と聞こえて、
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と申し上げて、
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というのである。
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to kikoye te,
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1.3.8 |
「 口惜しくこそ臆しにけれ。取り直したまへよ」
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「残念なほど、気後れしてしまった。適当に取り繕って下さい」
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「気おくれがして歌になりませんよ。直してください」
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"Kutiwosiku koso okusi ni kere. Torinahosi tamahe yo."
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1.3.9 |
と聞こえたまふ。
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と申し上げなさる。
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と宰相中将は従兄に言った。
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to kikoye tamahu.
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1.3.10 |
「 御供にこそ」
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「お供しましょう」
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「お供して行きましょう」
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"Ohom-tomo ni koso."
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1.3.11 |
とのたまへば、
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とおっしゃったが、
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to notamahe ba,
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1.3.12 |
「 わづらはしき随身は、否」
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「面倒なお供はいりません」
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「窮屈な随身はいやですよ」
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"Wadurahasiki zuizin ha, ina."
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1.3.13 |
とて、返しつ。
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と言って、お帰しになった。
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と言って、源中将は従兄を帰した。
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tote, kahesi tu.
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1.3.14 |
大臣の御前に、 かくなむ、とて、御覧ぜさせたまふ。
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大臣の御前に、これこれしかじかです、と言って、御覧にお入れになる。
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中将は父の源氏の居間へ行って、頭中将が使いに来たことを言って内大臣の歌を見せた。
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Otodo no omahe ni, kaku nam, tote, goranze sase tamahu.
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1.3.15 |
「 思ふやうありて ものしたまひつるにやあらむ。さも進みものしたまはばこそは、過ぎにし方の孝なかりし恨みも解けめ」
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「考えがあっておっしゃっているのであろうか。そのように先方から折れて来られたのならば、故人への不孝の恨みも解けることだろう」
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「ほかの意味があってお招きになるのかもしれない。そんなふうな態度に出てくればおもしろくなかった旧恨というものも消されるだろう。どうだね」
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"Omohu yau ari te monosi tamahi turu ni ya ara m? Samo susumi monosi tamaha ba koso ha, sugi ni si kata no keu nakari si urami mo toke me."
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1.3.16 |
とのたまふ。御心おごり、 こよなうねたげなり。
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とおっしゃる。そのご高慢は、この上なく憎らしいほどである。
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と源氏は言った。婿の親として源氏はこんなに自尊心が強かった。
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to notamahu. Mi-kokoroogori, koyonau netage nari.
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1.3.17 |
「 さしもはべらじ。対の前の藤、常よりもおもしろう咲きてはべるなるを、静かなるころほひなれば、遊びせむなどにやはべらむ」
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「そうではございますまい。対の屋の前の藤が、例年よりも美しく咲いているというので、暇なころなので、管弦の遊びをしようなどというのでございましょう」
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「そんな意味でもないでしょう。対の前の藤が例年よりもみごとに咲いていますからこのごろの閑暇なころに音楽の合奏でもしようとされるのでしょう」
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"Sasimo habera zi. Tai no mahe no hudi, tune yori mo omosirou saki te haberu naru wo, siduka naru korohohi nare ba, asobi se m nado ni ya habera m?"
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1.3.18 |
と申したまふ。
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と申し上げなさる。
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と宰相中将は父に言うのであった。
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to mausi tamahu.
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1.3.19 |
「 わざと使ひさされたりけるを、早うものしたまへ」
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「わざわざ使者をさし向けられたのだから、早くお出掛けなさい」
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「特使がつかわされたのだから早く行くがよい」
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"Wazato tukahi sasa re tari keru wo, hayau monosi tamahe."
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1.3.20 |
と 許したまふ。 いかならむと、下には苦しう、ただならず。
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とお許しになる。どんなだろうと、内心は不安で、落ち着かない。
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と源氏は許した。中将はああは言っていても、心のうちは期待されることと、一種の不安とが一つになって苦しかった。
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to yurusi tamahu. Ikanara m to, sita ni ha kurusiu, tada nara zu.
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1.3.21 |
「 直衣こそあまり濃くて、軽びためれ。非参議のほど、何となき若人こそ、二藍はよけれ、ひき繕はむや」
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「直衣はあまりに色が濃過ぎて、身分が軽く見えよう。非参議のうちとか、何でもない若い人は、二藍はよいだろうが、お召し替えになるかね」
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「その直衣の色はあまり濃くて安っぽいよ。非参議級とかまだそれにならない若い人などに二藍というものは似合うものだよ。きれいにして行くがよい」
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"Nahosi koso amari koku te, karobi ta' mere. HiSamgi no hodo, nani to naki wakaudo koso, hutaawi ha yokere, hiki-tukuroha m ya?"
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1.3.22 |
とて、わが御料の心ことなるに、えならぬ御衣ども具して、御供に持たせてたてまつれたまふ。
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とおっしゃって、ご自分のお召し物の格別見事なのに、何ともいえないほど素晴らしい御下着類を揃えて、お供に持たせて差し上げなさる。
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と源氏は自身用に作らせてあったよい直衣に、その下へ着る小袖類もつけて中将の供をして来ていた侍童に持たせてやった。
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tote, waga goreu no kokoro koto naru ni, e nara nu ohom-zo-domo gusi te, ohom-tomo ni mota se te tatemature tamahu.
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出典3 |
藤の色濃きたそかれに |
惆悵春帰留不得 紫藤花下漸黄昏 |
白氏文集十三-六三一 |
1.3.4 |
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1.4 |
第四段 夕霧、内大臣邸を訪問
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1-4 Yugiri visits to Naidaijin's residence
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1.4.1 |
わが御方にて、心づかひいみじう化粧じて、 たそかれも過ぎ、心やましきほどに参うでたまへり。主人の君達、中将をはじめて、七、八人うち連れて迎ヘ入れたてまつる。いづれとなくをかしき容貌どもなれど、なほ、人にすぐれて、 あざやかにきよらなるものから、なつかしう、よしづき、恥づかしげなり。
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ご自分のお部屋で、念入りにおめかしなさって、黄昏時も過ぎ、じれったく思うころに参上なさった。主人のご子息たち、中将をはじめとして、七、八人うち揃ってお出迎えなさる。どの方となくいずれも美しい器量の方々だが、やはり、その人々以上に、水際立って美しい一方、優しく、優雅で、犯しがたい気品がある。
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中将は自身の居間のほうで念の入った化粧をしてから黄昏時も過ぎて、待つほうで気のもまれる時刻に内大臣家へ行った。公達が中将をはじめとして七、八人出て来て宰相中将を座に招じた。皆きれいな公子たちであるが、その中にも源中将は最もすぐれた美貌を持っていた。気高い貴人らしいところがことに目にたった。
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Waga ohom-kata nite, kokorodukahi imiziu kesauzi te, tasokare mo sugi, kokoroyamasiki hodo ni maude tamahe ri. Aruzi no kimi-tati, Tyuuzyau wo hazime te, siti, hati-nin uti-ture te mukahe ire tatematuru. Idure to naku wokasiki katati-domo nare do, naho, hito ni sugure te, azayaka ni kiyora naru monokara, natukasiu, yosiduki, hadukasige nari.
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1.4.2 |
大臣、御座ひきつくろはせなどしたまふ御用意、おろかならず。御 冠などしたまひて、出でたまふとて、北の方、若き女房などに、
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内大臣、お座席を整え直させたりなさるご配慮、並大抵でない。御冠などお付けになって、お出になろうとして、北の方や、若い女房などに、
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内大臣は若い甥のために座敷の中の差図などをこまごまとしていた。大臣は夫人や若い女房などに、
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Otodo, omasi hiki-tukuroha se nado si tamahu ohom-youi, oroka nara zu. Ohom-kauburi nado si tamahi te, ide tamahu tote, Kitanokata, wakaki nyoubau nado ni,
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1.4.3 |
「 覗きて見たまへ。いと警策にねびまさる人なり。用意などいと静かに、ものものしや。あざやかに、抜け出でおよすけたる方は、父大臣にもまさりざまにこそあめれ。
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「覗いて御覧なさい。たいそう立派になって行かれる方だ。態度などもとても沈着で、堂々としたものだ。はっきりと、抜きん出て成人された点では、父の大臣よりも勝っているようだ。
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「のぞいてごらん。ますますきれいになった人だよ。とりなしが静かで、堂々として鮮明な美しさは源氏の大臣以上だろう。
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"Nozoki te mi tamahe. Ito kauzaku ni nebi masaru hito nari. Youi nado ito siduka ni, monomonosi ya! Azayaka ni, nukeide oyosuke taru kata ha, titi-Otodo ni mo masari-zama ni koso a' mere.
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1.4.4 |
かれは、ただいと切になまめかしう愛敬づきて、見るに笑ましく、世の中忘るる心地ぞしたまふ。 公ざまは、すこしたはれて、あざれたる方なりし、ことわりぞかし。
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あの方は、ただ非常に優美で愛嬌があって、見るとついほほ笑みたくなり、世の中の憂さを忘れるような気持ちにおさせになる。政治の面では、多少柔らかさ過ぎて、謹厳さに欠けるところがあったのは、もっともなことだ。
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お父様のほうはただただ艶で、愛嬌があって、見ている者のほうも自然に笑顔が作られるようで、人生の苦というようなものを忘れ去ることのできる力があった。公務を執ることなどはそうまじめにできなかったものだ。しかもこれが道理だと思われたものだ。
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Kare ha, tada ito seti ni namamekasiu aigyauduki te, miru ni wemasiku, yononaka wasururu kokoti zo si tamahu. Ohoyakezama ha, sukosi tahare te, azare taru kata nari si, kotowari zo kasi.
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1.4.5 |
これは、才の際もまさり、心もちゐ男々しく、すくよかに足らひたりと、世におぼえためり」
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この方は、学問の才能も優れ、心構えも男らしく、しっかりしていて申し分ないと、世間の評判のようだ」
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この人のほうは学問が十分にできているし、性質がしっかりとしていてりっぱな官吏だと世間から認められているらしいよ」
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Kore ha, zae no kiha mo masari, kokoromotiwi wowosiku, sukuyoka ni tarahi tari to, yo ni oboye ta' meri."
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1.4.6 |
などのたまひてぞ、対面したまふ。ものまめやかに、むべむべしき御物語は、すこしばかりにて、花の興に移りたまひぬ。
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などとおっしゃって、対面なさる。儀礼的で、固苦しいご挨拶は、少しだけにして、花の美しさに興味はお移りになった。
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などと言っていたが、身なりを正しく直して宰相中将に面会した。まじめな話は挨拶に続いて少ししただけであとは藤の宴に移った。
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nado notamahi te zo, taimen si tamahu. Mono-mameyaka ni, mubemubesiki ohom-monogatari ha, sukosi bakari nite, hana no kyou ni uturi tamahi nu.
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1.4.7 |
「 春の花、いづれとなく、皆開け出づる色ごとに、 目おどろかぬはなきを、心短くうち捨てて散りぬるが、恨めしうおぼゆるころほひ、この花のひとり立ち後れて、 ▼ 夏に咲きかかるほどなむ、あやしう心にくくあはれにおぼえはべる。色もはた、なつかしきゆかりにしつべし」
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「春の花、どれもこれも皆咲き出す色ごとに、目を驚かさない物はないが、気ぜわしく人の気も構わず散ってしまうのが、恨めしく思われるころに、この藤の花だけがひとり遅れて、夏に咲きかかるのが、妙に奥ゆかしくしみじみと思われます。色も色で、懐しい由縁の物といえましょう」
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「春の花というものは、どの花だって咲いた最初に目ざましい気のしないものはないが、長くは人を楽しませずにどんどんと散ってしまうのが恨めしい気のするころに、藤の花だけが一歩遅れて、夏にまたがって咲くという点でいいものだと心が惹かれて、私はこの花を愛するのですよ。色だって人の深い愛情を象徴しているようでいいものだから」
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"Haru no hana, idure to naku, mina hirake iduru iro goto ni, me odoroka nu ha naki wo, kokoromizikaku uti-sute te tiri nuru ga, uramesiu oboyuru korohohi, kono hana no hitori tati-okure te, natu ni saki kakaru hodo nam, ayasiu kokoronikuku ahare ni oboye haberu. Iro mo hata, natukasiki yukari ni si tu besi."
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1.4.8 |
とて、うちほほ笑みたまへる、けしきありて、匂ひきよげなり。
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と言って、ちょっとほほ笑んでいらっしゃる、風格があって、つややかでお美しい。
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と言って微笑している大臣の顔も品がよくてきれいであった。
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tote, uti-hohowemi tamahe ru, kesiki ari te, nihohi kiyoge nari.
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出典4 |
夏に咲きかかる |
夏にこそ咲きかかりけれ藤の花松にとのみも思ひけるかな |
拾遺集夏-八三 源重之 |
1.4.7 |
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1.5 |
第五段 藤花の宴 結婚を許される
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1-5 There is a banquet of admiring wisteria blossom and permission of marriage
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1.5.1 |
月はさし出でぬれど、花の色さだかにも見えぬほどなるを、もてあそぶに心を寄せて、大酒参り、御遊びなどしたまふ。大臣、ほどなく空酔ひをしたまひて、乱りがはしく強ひ酔はしたまふを、 さる心して、いたうすまひ悩めり。
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月は昇ったが、花の色がはっきりと見えない時分なのだが、花を愛でる心に寄せて、御酒を召して、管弦のお遊びなどをなさる。大臣、程もなく空酔いをなさって、遠慮もせずに無理に酔わせなさるが、用心して、とても断るのに困っているようである。
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月が出ても藤の色を明らかに見せるほどの明りは持たないのであるが、ともかくも藤を愛する宴として酒杯が取りかわされ、音楽の遊びをした。しばらくして大臣は酔った振りになって宰相中将に酒をしいようとした。源中将は酔いつぶされまいとして、それを辞し続けていた。
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Tuki ha sasi-ide nure do, hana no iro sadaka ni mo miye nu hodo naru wo, mote-asobu ni kokoro wo yose te, ohomiki mawiri, ohom-asobi nado si tamahu. Otodo, hodo naku sorawehi wo si tamahi te, midarigahasiku sihi wehasi tamahu wo, saru kokoro site, itau sumahi nayame ri.
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1.5.2 |
「 君は、末の世にはあまるまで、天の下の有職にものしたまふめるを、齢古りぬる人、思ひ捨てたまふなむつらかりける。 文籍にも、家礼といふことあるべくや ★。 なにがしの教へも、よく思し知るらむと思ひたまふるを、いたう心悩ましたまふと、恨みきこゆべくなむ」
|
「あなたは、この末世にできすぎるほどの、天下の有識者でいらっしゃるようだが、年を取った者を、お忘れになっていらっしゃるのが辛いことだ。古典にも、家礼ということがあるではありませんか。誰それの教えにも、よくご存知でいらっしゃろうと存じますが、ひどく辛い思いをおさせになると、お恨み申し上げたいのです」
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「あなたは末世に過ぎた学才のある人物でいながら、年のいった者を憐んでくれないのは恨めしい。書物にもあるでしょう、家の礼というものが。甥は伯父を愛して敬うべきものですよ。孔子の教えには最もよく通じていられるはずなのだが、私を悩まし抜かれたとそう恨みが言いたい」
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"Kimi ha, suwe no yo ni ha amaru made, ame no sita no iusoku ni monosi tamahu meru wo, yohahi huri nuru hito, omohi sute tamahu nam turakari keru. Bunseki ni mo, karei to ihu koto aru beku ya! Nanigasi no wosihe mo, yoku obosi siru ram to omohi tamahuru wo, itau kokoronayamasi tamahu to, urami kikoyu beku nam."
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1.5.3 |
などのたまひて、 酔ひ泣きにや、をかしきほどにけしきばみたまふ。
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などとおっしゃって、酔い泣きというのか、ほどよく抑えて意中を仄めかしなさる。
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などと言って、それは酒に酔って感傷的になっているのか源中将を少しばかり困らせた。
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nado notamahi te, wehinaki ni ya, wokasiki hodo ni kesikibami tamahu.
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1.5.4 |
「 いかでか。昔を思うたまへ出づる御変はりどもには、身を捨つるさまにもとこそ、思うたまへ知りはべるを、いかに御覧じなすことにかはべらむ。もとより、おろかなる心のおこたりにこそ」
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「どうしてそのような。今は亡き方々を思い出しますお身変わりとして、わが身を捨ててまでもと、存じておりますのに、どのように御覧になってのことでございましょうか。もともと、わたしのうかつな心の至らなさのためです」
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「伯父様を決して粗略には思っておりません。御恩のあるお祖父様の代わりと思いますだけでも、私の一身を伯父様の犠牲にしてもいいと信じているのですが、どんなことがお気に入らなかったのでしょう。もともと頭がよくないのでございますから、自身でも気づかずに失礼をしていたのでございましょう」
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"Ikadeka? Mukasi wo omou tamahe iduru ohom-kahari-domo ni ha, mi wo suturu sama ni mo to koso, omou tamahe siri haberu wo, ikani goranzi nasu koto ni ka habera m? Moto yori, oroka naru kokoro no okotari ni koso."
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1.5.5 |
と、かしこまりきこえたまふ。御時よく、さうどきて、
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と、恐縮して申し上げなさる。頃合いを見計らって、はやし立てて、
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とうやうやしく源中将は言うのであった。よいころを見て大臣は機嫌よくはしゃぎ出して
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to, kasikomari kikoye tamahu. Ohom-toki yoku, saudoki te,
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1.5.6 |
「 ▼ 藤の裏葉の」
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「藤の裏葉の」
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「藤のうら葉の」(春日さす藤のうら葉のうちとけて君し思はばわれも頼まん)
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"Hudi no uraha no"
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1.5.7 |
とうち誦じたまへる、御けしきを賜はりて、頭中将、花の色濃く、ことに ▼ 房長きを折りて、客人の御盃に加ふ。取りて、もて悩むに、大臣、
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とお謡いになった、そのお心をお受けになって、頭中将、藤の花の色濃く、特に花房の長いのを折って、客人のお杯に添えになる。受け取って、もてあましていると、内大臣、
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と歌った。命ぜられて頭中将が色の濃い、ことに房の長い藤を折って来て源中将の杯の台に置き添えた。源中将は杯を取ったが、酒の注がれる迷惑を顔に現わしている時、大臣は、
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to uti-zuzi tamahe ru, mi-kesiki wo tamahari te, Tou-no-Tyuuzyau, hana no iro koku, kotoni husa nagaki wo wori te, marauto no ohom-sakaduki ni kuhahu. Tori te, mote nayamu ni, Otodo,
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1.5.8 |
「 紫にかことはかけむ藤の花 まつより過ぎてうれたけれども」 |
「紫色のせいにしましょう、藤の花の 待ち過ぎてしまって恨めしいことだが」 |
紫にかごとはかけん藤の花 まつより過ぎてうれたけれども
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"Murasaki ni kakoto ha kake m hudi no hana matu yori sugi te uretakere domo |
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1.5.9 |
宰相、盃を持ちながら、けしきばかり拝したてまつりたまへるさま、いとよしあり。
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宰相中将、杯を持ちながら、ほんの形ばかり拝舞なさる様子、実に優雅である。
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と歌った。杯を持ちながら頭を下げて謝意を表した源中将はよい形であった。
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Saisyau, sakaduki wo moti nagara, kesiki bakari haisi tatematuri tamahe ru sama, ito yosi ari.
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1.5.10 |
「 いく返り露けき春を過ぐし来て ★ 花の紐解く折にあふらむ」 |
「幾度も湿っぽい春を過ごして来ましたが 今日初めて花の開くお許しを得ることができました」 |
いく返り露けき春をすぐしきて 花の紐とく折に逢ふらん
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"Iku kaheri tuyukeki haru wo sugusi ki te hana no himo toku wori ni ahu ram |
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1.5.11 |
頭中将に賜へば、
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頭中将にお廻しになると、
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と歌った源中将は杯を頭中将にさした。
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Tou-no-Tyuuzyau ni tamahe ba,
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1.5.12 |
「 たをやめの袖にまがへる藤の花 見る人からや色もまさらむ」 |
「うら若い女性の袖に見違える藤の花は 見る人の立派なためかいっそう美しさを増すことでしょう」 |
たをやめの袖にまがへる藤の花 見る人からや色もまさらん
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"Tawoyame no sode ni magahe ru hudi no hana miru hito kara ya iro mo masara m |
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1.5.13 |
次々順流るめれど、酔ひの紛れにはかばかしからで、これよりまさらず。
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次々と杯が回り歌を詠み添えて行ったようであるが、酔いの乱れに大したこともなく、これより優れていない。
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頭中将の歌である。二男以下にもその型で杯がまわされ「みさかな」の歌がそれぞれ出たわけであるが、酔っている人たちの作ったものであったから、以上の三首よりよいというものもなかった。
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Tugitugi zunnagaru mere do, wehi no magire ni hakabakasikara de, kore yori masara zu.
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出典5 |
家礼といふこと |
高祖五日一朝太公 如家人父子礼 |
史記-高祖本紀 |
1.5.2 |
出典6 |
藤の裏葉の |
春日さす藤の裏葉のうらとけて君し思はば我も頼まむ |
後撰集春下-一〇〇 読人しらず |
1.5.6 |
出典7 |
房長きを折りて |
聞得園中花養艶 請君許折一枝花 |
和漢朗詠下-七八四 無名 |
1.5.7 |
出典8 |
いく返り露けき春を |
幾返り咲き散る花を眺めつつ物を思ひ暮らす春に逢ふらむ |
新古今集恋一-一〇一七 大中臣能宣 |
1.5.10 |
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1.6 |
第六段 夕霧、雲居雁の部屋を訪う
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1-6 Yugiri goes into Kumoi-no-kari's room and gets married to her
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1.6.1 |
七日の夕月夜、影ほのかなるに、池の鏡のどかに澄みわたれり。げに、まだほのかなる梢どもの、さうざうしきころなるに、いたうけしきばみ横たはれる松の、木高きほどにはあらぬに、かかれる花のさま、世の常ならずおもしろし。
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七日の夕月夜、月の光は微かであるのに、池の水が鏡のように静かに澄み渡っている。なるほど、まだ茂らない梢が、物足りないころなので、たいそう気取って横たわっている松の、木高くないのに、咲き掛かっている藤の花の様子、世になく美しい。
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七日の夕月夜の中に池がほの白く浮かんで見えた。大臣の言葉のように、春の花が皆散ったあとで若葉もありなしの木の梢の寂しいこのごろに、横が長く出た松の、たいして大木でないのへ咲きかかった藤の花は非常に美しかった。
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Nanuka no yuhudukuyo, kage honoka naru ni, ike no kagami nodoka ni sumi watare ri. Geni, mada honoka naru kozuwe-domo no, sauzausiki koro naru ni, itau kesikibami yokotahare ru matu no, kodakaki hodo ni ha ara nu ni, kakare ru hana no sama, yo no tune nara zu omosirosi.
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1.6.2 |
例の、弁少将、声いとなつかしくて、「 葦垣」を謡ふ ★。大臣、
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例によって、弁少将が、声をたいそう優しく「葦垣」を謡う。大臣、
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例の美音の弁の少将がなつかしい声で催馬楽の「葦垣」を歌うのであった。
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Rei no, Ben-no-Seusyau, kowe ito natukasiku te, Asigaki wo utahu. Otodo,
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1.6.3 |
「 いとけやけうも仕うまつるかな」
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「実に妙な歌を謡うものだな」
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「すばらしいね」
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"Ito keyakeu mo tukaumaturu kana!"
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1.6.4 |
と、うち乱れたまひて、
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と、冗談をおっしゃって、
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と大臣は戯談を言って、
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to, uti-midare tamahi te,
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|
1.6.5 |
「 年経にけるこの家の」
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「年を経たこの家の」
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「年経にけるこの家の」
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"Tosi he ni keru kono ihe no"
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1.6.6 |
と、うち加へたまへる御声、いとおもしろし。をかしきほどに乱りがはしき御遊びにて、もの思ひ残らずなりぬめり。
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と、お添えになるお声、誠に素晴らしい。興趣ある中に冗談も混じった管弦のお遊びで、気持ちのこだわりもすっかり解けてしまったようである。
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と上手に声を添えた。おもしろい夕月夜の藤の宴に宰相中将の憂愁は余す所なく解消された。
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to, uti-kuhahe tamahe ru ohom-kowe, ito omosirosi. Wokasiki hodo ni midarigahasiki ohom-asobi nite, monoomohi nokora zu nari nu meri.
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1.6.7 |
やうやう夜更け行くほどに、いたうそら悩みして、
|
だんだんと夜が更けて行くにつれて、ひどく苦しげな様子をして見せて、
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夜がふけてから源中将は酔いに悩むふうを作って、
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Yauyau yo huke yuku hodo ni, itau sora-nayami si te,
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1.6.8 |
「 乱り心地いと堪へがたうて、まかでむ空もほとほとしうこそはべりぬべけれ。宿直所譲りたまひてむや」
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「酔いが回ってひどく辛いので、帰り道も危なそうです。泊まる部屋を貸していただけませんか」
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「あまり酔って苦しくてなりません。無事に帰りうる自信も持てませんからあなたの寝室を拝借できませんか」
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"Midarigokoti ito tahe gatau te, makade m sora mo hotohotosiu koso haberi nu bekere. Tonowidokoro yuduri tamahi te m ya?"
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1.6.9 |
と、中将に愁へたまふ。大臣、
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と、頭中将に訴えなさる。大臣が、
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と頭中将に言っていた。大臣は、
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to, Tyuuzyau ni urehe tamahu. Otodo,
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1.6.10 |
「 朝臣や、御休み所求めよ。翁いたう酔ひ進みて無礼なれば、まかり入りぬ」
|
「朝臣よ、お休み所になる部屋を用意しなさい。老人はひどく酔いが回って失礼だから、引っ込むよ」
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「ねえ朝臣、寝床をどこかで借りなさい。老人は酔っぱらってしまって失礼だからもう引き込むよ」
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"Asom ya, ohom-yasumidokoro motome yo. Okina itau wehi susumi te murai nare ba, makari iri nu."
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1.6.11 |
と言ひ捨てて、入りたまひぬ。
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と言い捨てて、お入りになってしまった。
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と言い捨てて居間のほうへ行ってしまった。
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to ihi sute te, iri tamahi nu.
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1.6.12 |
中将、
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頭中将が、
|
頭中将が、
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Tyuuzyau,
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1.6.13 |
「 花の蔭の旅寝よ。いかにぞや、苦しきしるべにぞはべるや」
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「花の下の旅寝ですね。どういうものだろう、辛い案内役ですね」
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「花の蔭の旅寝ですね。どうですか、あとで迷惑になる案内役ではないかしら」
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"Hana no kage no tabine yo! Ikani zo ya, kurusiki sirube ni zo haberu ya!"
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1.6.14 |
と言へば、
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と言うと、
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to ihe ba,
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1.6.15 |
「 松に契れるは、あだなる花かは。ゆゆしや」
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「松と約束したのは、浮気な花なものですか。縁起でもありません」
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「寄りかかって松と同じ精神で咲く藤なのですから、これは軽薄な花なものですか。とにかくそんな縁起でもない言葉は使わないでおきましょう」
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"Matu ni tigire ru ha, ada naru hana kaha? Yuyusi ya!"
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1.6.16 |
と責めたまふ。中将は、心のうちに、「ねたのわざや」と思ふところあれど、人ざまの思ふさまにめでたきに、「かうもあり果てなむ」と、心寄せわたることなれば、うしろやすく導きつ。
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と反発なさる。中将は、心中に、「憎らしいな」と思うところがあるが、人柄が理想通り立派なので、「最後はこのようになって欲しい」と、願って来たことなので、心許して案内した。
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と言って、中将の先導をなお求める宰相中将であった。頭中将は負けたような気がしないでもなかったが、源中将はりっぱな公子であったから、ぜひ妹との結婚を成立させたいとはこの人の念願だったことであって、満足を感じながら従弟を妹の所へ導いた。
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to seme tamahu. Tyuuzyau ha, kokoro no uti ni, "Neta no waza ya!" to omohu tokoro are do, hitozama no omohu sama ni medetaki ni, "Kau mo ari hate na m." to, kokoroyose wataru koto nare ba, usiroyasuku mitibiki tu.
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1.6.17 |
男君は、夢かとおぼえたまふにも、わが身いとどいつかしうぞおぼえたまひけむかし。女は、いと 恥づかしと思ひしみてものしたまふも、ねびまされる御ありさま、いとど飽かぬところなくめやすし。
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男君は、夢かと思われなさるにつけても、自分の身がますます立派に思われなさったことであろう。女は、とても恥ずかしいと思い込んでいらっしゃるが、大人になったご様子は、ますます不足なところもなく素晴らしい。
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宰相中将はこうした立場を与えられるに至った夢のような運命の変わりようにも自己の優越を感じた。雲井の雁はすっかり恥ずかしがっているのであったが、別れた時に比べてさらに美しい貴女になっていた。
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WotokoGimi ha, yume ka to oboye tamahu ni mo, waga mi itodo itukasiu zo oboye tamahi kem kasi. Womna ha, ito hadukasi to omohi simi te monosi tamahu mo, nebi masare ru ohom-arisama, itodo aka nu tokoro naku meyasusi.
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1.6.18 |
「 世の例にもなりぬべかりつる身を ★、心もてこそ、かうまでも思し許さるめれ。 あはれを知りたまはぬも、さま異なるわざかな」
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「世間の話の種となってしまいそうな身の上を、その誠実さをもって、このようにお許しになったのでしょう。わたしの気持ちをお分りになって下さらないとは、変なことですね」
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「みじめな失恋者で終わらなければならなかった私が、こうして許しを受けてあなたの良人になり得たのは、あなたに対する熱誠がしからしめたのですよ。だのにあなたは無関心に冷ややかにしておいでになる」
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"Yo no tamesi ni mo nari nu bekari turu mi wo, kokoro mote koso, kau made mo obosi yurusa ru mere. Ahare wo siri tamaha nu mo, sama koto naru waza kana!"
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1.6.19 |
と、怨みきこえたまふ。
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と、お恨み申し上げなさる。
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と男は恨んだ。
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to, urami kikoye tamahu.
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1.6.20 |
「 少将の ★進み出だしつる『葦垣』の趣きは、耳とどめたまひつや。いたき主かな。『 河口の』とこそ、さしいらへまほしかりつれ」
|
「少将が進んで謡い出した『葦垣』の心は、お分りでしたか。ひどい人ですね。『河口の』と、言い返したかったなあ」
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「少将の歌われた『葦垣』の歌詞を聞きましたか。ひどい人だ。『河口の』(河口の関のあら垣や守れどもいでてわが寝ぬや忍び忍びに)と私は返しに謡いたかった」
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"Seusyau no susumi idasi turu Asigaki no omomuki ha, mimi todome tamahi tu ya? Itaki nusi kana! "Kahaguti no" to koso, sasi-irahe mahosikari ture!"
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1.6.21 |
とのたまへば、 女、いと聞き苦し、と思して、
|
とおっしゃると、女は、とても聞き苦しい、とお思いになって、
|
女はあらわな言葉に羞恥を感じて、
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to notamahe ba, Womna, ito kikigurusi, to obosi te,
|
|
1.6.22 |
「 浅き名を言ひ流しける河口は いかが漏らしし関の荒垣 |
「軽々しい浮名を流したあなたの口は どうしてお漏らしになったのですか |
「浅き名を言ひ流しける河口は いかがもらしし関のあら垣
|
"Asaki na wo ihi nagasi keru kahaguti ha ikaga morasi si seki no aragaki |
|
1.6.23 |
あさまし」
|
あきれました」
|
いけないことでしたわ」
|
Asamasi."
|
|
1.6.24 |
とのたまふさま、いとこめきたり。すこしうち笑ひて、
|
とおっしゃる様子は、実におっとりしている。少し微笑んで、
|
と言う様子が娘らしい。男は少し笑って、
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to notamahu sama, ito komeki tari. Sukosi uti-warahi te,
|
|
1.6.25 |
「 漏りにける岫田の関を河口の 浅きにのみはおほせざらなむ |
「浮名が漏れたのはあなたの父大臣のせいでもありますのに わたしのせいばかりになさらないで下さい |
「もりにけるきくだの関の河口の 浅きにのみはおはせざらなん
|
"Mori ni keru Kukita-no-seki wo kahaguti no asaki ni nomi ha ohose zara nam |
|
1.6.26 |
年月の積もりも、いとわりなくて悩ましきに、ものおぼえず」
|
長い歳月の思いも、本当に切なくて苦しいので、何も分りません」
|
長い年月に堆積した苦悩と、今夜の酒の酔いで私はもう何もわからなくなった」
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Tosituki no tumori mo, ito warinaku te nayamasiki ni, mono oboye zu."
|
|
1.6.27 |
と、酔ひにかこちて、苦しげにもてなして、 明くるも知らず顔なり ★。人びと、聞こえわづらふを、大臣、
|
と、酔いのせいにして、苦しそうに振る舞って、夜の明けて行くのも知らないふうである。女房たちが、起こしかねているのを、大臣が、
|
と酔いに託して帳台の内の人になった。宰相中将は夜の明けるのも気がつかない長寝をしていた。女房たちが気をもんでいるのを見て、大臣は、
|
to, wehi ni kakoti te, kurusige ni motenasi te, akuru mo sirazugaho nari. Hitobito, kikoye wadurahu wo, Otodo,
|
|
1.6.28 |
「 したり顔なる朝寝かな」
|
「得意顔した朝寝だな」
|
「得意になった朝寝だね」
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"Sitarigaho naru asai kana!"
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1.6.29 |
と、とがめたまふ。されど、明かし果てでぞ出でたまふ。 ねくたれの御朝顔、見るかひありかし ★。
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と、文句をおっしゃる。けれども、すっかり夜が明け果てないうちにお帰りになる。その寝乱れ髪の朝のお顔は、見がいのあったことだ。
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と言っていた。そしてすっかり明るくなってから源中将は帰って行った。この中将の寝起き姿を見た人は美しく思ったことであろう。
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to, togame tamahu. Saredo, akasi hate de zo ide tamahu. Nekutare no ohom-asagaho, miru kahi ari kasi.
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出典9 |
葦垣 |
葦垣真垣 真垣かき分けて てふ越すと 負ひ越すと誰 てふ越すと 誰か 誰か この事を 親に まうよこし申し 轟ける この家 この家の 弟嫁 親に まうよこしけらしも |
催馬楽-葦垣 |
1.6.2 |
出典10 |
世の例にもなりぬべかり |
恋侘びて死ぬてふことはまだなきを世のためしにもなりぬべきかな |
後撰集恋六-一〇三六 壬生忠岑 |
1.6.18 |
出典11 |
河口の |
河口の 関の荒垣や 関の荒垣や 守れども はれ 守れども 出でて我寝ぬや 出でて我寝ぬや 関の荒垣 |
催馬楽-河口 |
1.6.20 |
出典12 |
明くるも知らず顔 |
玉簾明くるも知らで寝しものを夢にも見じとゆめ思ひきや |
伊勢集-五五 |
1.6.27 |
出典13 |
ねくたれの御朝顔 |
寝くたれの朝顔の花秋霧におも隠しつつ見えぬ君かな |
河海抄所引-出典未詳 |
1.6.29 |
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1.7 |
第七段 後朝の文を贈る
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1-7 Yugiri writes a letter next a new married morning
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1.7.1 |
御文は、なほ忍びたりつるさまの 心づかひにてあるを、なかなか今日はえ聞こえたまはぬを、もの言ひさがなき御達つきじろふに、大臣渡りて見たまふぞ、いとわりなきや。
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お手紙は、やはり人目を忍んだ配慮で届けられたのを、かえって今日はお返事をお書き申し上げになれないのを、口の悪い女房たちが目引き袖引きしているところに、内大臣がお越しになって御覧になるのは、本当に困ったことよ。
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第一夜の翌朝の手紙も以前の続きで忍んで送られたのであるが、はばかる必要のない日になって、かえって雲井の雁が返事の書けないふうであるのを、蓮葉な女房たちは肱を突き合って笑っている所へ大臣が出て来て手紙を読んでみた。雲井の雁はますます羞恥に堪えられなくなった。
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Ohom-humi ha, naho sinobi tari turu sama no kokorodukahi nite aru wo, nakanaka kehu ha e kikoye tamaha nu wo, monoihi saganaki gotati tukizirohu ni, Otodo watari te mi tamahu zo, ito warinaki ya!
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1.7.2 |
「 尽きせざりつる御けしきに、いとど思ひ知らるる身のほどを。 堪へぬ心にまた 消えぬべきも、
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「打ち解けて下さらなかったご様子に、ますます思い知られるわが身の程よ。耐えがたいつらさに、またも死んでしまいそうだが、
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やはり昔と同じように冷ややかなあなたに逢っていよいよ自分が哀れな者に思われるのですが、おさえられぬ恋からまたこの手紙を書くのです。
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"Tuki se zari turu mi-kesiki ni, itodo omohi sira ruru mi no hodo wo. Tahe nu kokoro ni mata kiye nu beki mo,
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1.7.3 |
とがむなよ忍びにしぼる手もたゆみ 今日あらはるる袖のしづくを」 |
お咎め下さいますな、人目を忍んで絞る手も力なく 今日は人目にもつきそうな袖の涙のしずくを」 |
咎むなよ忍びにしぼる手もたゆみ 今日あらはるる袖のしづくを
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Togamu na yo sinobi ni siboru te mo tayumi kehu araha ruru sode no siduku wo |
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1.7.4 |
など、いと馴れ顔なり。うち笑みて、
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などと、たいそう馴れ馴れしい詠みぶりである。微笑んで、
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などと手紙はなれなれしく書いてあった。大臣は笑顔をして、
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nado, ito naregaho nari. Uti-wemi te,
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1.7.5 |
「 手をいみじうも書きなられにけるかな ★ ★」
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「筆跡もたいそう上手になられたものだなあ」
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「字が非常に上手になったね」
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"Te wo imiziu mo kaki nara re ni keru kana!"
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1.7.6 |
などのたまふも、昔の名残なし。
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などとおっしゃるのも、昔の恨みはない。
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などと言っていることも昔とはたいした変わりようである。
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nado notamahu mo, mukasi no nagori nasi.
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1.7.7 |
御返り、いと出で来がたげなれば、「見苦しや」とて、さも思し憚りぬべきことなれば、渡りたまひぬ。
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お返事が、直ぐに出来かねているので、「みっともないぞ」とおっしゃって、ご躊躇なっているのももっともなことなので、あちらへお行きになった。
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返事の歌を詠みにくそうにしている娘を見て、「どうしたというものだ。見苦しい」と言って、雲井の雁が父をはばかる気持ちも察して大臣は去ってしまった。
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Ohom-kaheri, ito ideki gatage nare ba, "Migurusi ya!" tote, samo obosi habakari nu beki koto nare ba, watari tamahi nu.
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1.7.8 |
御使の禄、なべてならぬさまにて賜へり。中将、をかしきさまにもてなしたまふ。常にひき隠しつつ隠ろへありきし御使、今日は、面もちなど、人びとしく振る舞ふめり。右近将監なる人の、むつましう思し使ひたまふなりけり。
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お使いの者への褒禄は、並大抵でなくお与えになった。頭中将が、風情のある様にお持てなしなさる。いつも人目を忍んでは持ち運んでいたお使い、今日は顔の表情など、人かどに振る舞っているようである。右近将監である人で、親しくお使いになっている者であった。
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手紙の使いは派手な纏頭を得た。そして頭中将が饗応の役を勤めたのであった。始終隠して手紙を届けに来た人は、はじめて真人間として扱われる気がした。これは右近の丞で宰相中将の手もとに使っている男であった。
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Ohom-tukahi no roku, nabete nara nu sama nite tamahe ri. Tyuuzyau, wokasiki sama ni motenasi tamahu. Tuneni hiki-kakusi tutu kakurohe ariki si ohom-tukahi, kehu ha, omomoti nado, hitobitosiku hurumahu meri. Ukon-no-zou naru hito no, mutumasiu obosi tukahi tamahu nari keri.
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1.7.9 |
六条の大臣も、かくと聞こし召してけり。宰相、常よりも光添ひて参りたまへれば、うちまもりたまひて、
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六条の大臣も、これこれとお聞き知りになったのであった。宰相中将、いつもより美しさが増して、参上なさったので、じっと御覧になって、
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源氏も内大臣邸であった前夜のことを知った。宰相中将が平生よりも輝いた顔をして出て来たのを見て、
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Rokudeu-no-Otodo mo, kaku to kikosimesi te keri. Saisyau, tune yori mo hikari sohi te mawiri tamahe re ba, uti-mamori tamahi te,
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1.7.10 |
「 今朝はいかに。文などものしつや。賢しき人も、女の筋には乱るる例あるを、人悪ろくかかづらひ、心いられせで過ぐされたるなむ、すこし人に抜けたりける御心とおぼえける。
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「今朝はどうした。手紙など差し上げたか。賢明な人でも、女のことでは失敗する話もあるが、見苦しいほど思いつめたり、じれたりせずに過ごされたのは、少し人より優れたお人柄だと思ったことだ。
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「今朝はどうしたか、もう手紙は書いたか。聡明な人も恋愛では締まりのないことをするようにもなるものだが、最初の関係を尊重して、しかもあくせくとあせりもせず自然に解決される時を待っていた点で、平凡人でないことを認めるよ。
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"Kesa ha ikani? Humi nado monosi tu ya? Sakasiki hito mo, womna no sudi ni ha midaruru tamesi aru wo, hitowaroku kakadurahi, kokoroira re se de sugusa re taru nam, sukosi hito ni nuke tari keru mi-kokoro to oboye keru.
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1.7.11 |
大臣の御おきての、あまりすくみて、名残なくくづほれたまひぬるを、 世人も言ひ出づることあらむや。さりとても、わが方たけう思ひ顔に、心おごりして、好き好きしき心ばへなど 漏らしたまふな。
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内大臣のご方針が、あまりにもかたくなで、すっかり折れてしまわれたのが、世間の人も噂するだろうよ。だからといって、自分の方が偉い顔をして、いい気になって、浮気心などをお出しなさるな。
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内大臣があまりに強硬な態度をとり過ぎて、ついにはすっかり負けて出たということで世間は何かと評をするだろう。しかしあまり優越感を持ち過ぎて慢心的に放縦なほうへ転向することのないようにしなくてはならない。
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Otodo no ohom-okite no, amari sukumi te, nagori naku kuduhore tamahi nuru wo, yohito mo ihi iduru koto ara m ya? Saritote mo, waga kata takeu omohigaho ni, kokoroogori si te, sukizukisiki kokorobahe nado morasi tamahu na.
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1.7.12 |
さこそおいらかに、大きなる心おきてと見ゆれど、下の心ばへ 男々しからず癖ありて、人見えにくきところつきたまへる人なり」
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あのようにおおらかで、寛大な性格と見えるが、内心は男らしくなくねじけていて、付き合いにくいところがおありの方である」
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今度の態度は寛大であっても、大臣の性格は、生一本でなくて気むずかしい点があるのだからね」
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Sakoso oiraka ni, ohoki naru kokorookite to miyure do, sita no kokorobahe wowosikara zu kuse ari te, hito miye nikuki tokoro tuki tamahe ru hito nari."
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1.7.13 |
など、例の教へきこえたまふ。ことうちあひ、めやすき御あはひ、と思さる。
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などと、例によってご教訓申し上げなさる。釣り合いもよく、恰好のご夫婦だ、とお思いになる。
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などとまた源氏は教訓した。円満な結果を得て、宰相中将につりあいのよい妻のできたことで源氏は満足しているのである。
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nado, rei no wosihe kikoye tamahu. Koto uti-ahi, meyasuki ohom-ahahi, to obosa ru.
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1.7.14 |
御子とも見えず、すこしがこのかみばかりと見えたまふ。ほかほかにては、同じ顔を写し取りたると見ゆるを、御前にては、さまざま、あなめでたと見えたまへり。
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ご子息とも見えず、少しばかり年長程度にお見えである。別々に見ると、同じ顔を写し取ったように似て見えるが、御前では、それぞれに、ああ素晴らしいとお見えでいらっしゃった。
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宰相中将は子のようにも見えなかった。少し年上の兄というほどに源氏は見えるのである。別々に見る時は同じ顔を写し取ったように思われる中将と源氏の並んでいるのを見ると、二人の美貌には異なった特色があった。
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Ohom-ko to mo miye zu, sukosi ga konokami bakari to miye tamahu. Hokahoka nite ha, onazi kaho wo utusi tori taru to miyuru wo, omahe nite ha, samazama, ana medeta to miye tamahe ri.
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1.7.15 |
大臣は、 薄き御直衣、白き御衣の唐めきたるが、紋けざやかにつやつやと透きたるをたてまつりて、なほ尽きせずあてになまめかしうおはします。
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大臣は、薄縹色の御直衣に、白い御袿の唐風の織りが、紋様のくっきりと浮き出て艶やかに透けて見えるのをお召しになって、今もこの上なく上品で優美でいらっしゃる。
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源氏は薄色の直衣の下に、白い支那風に見える地紋のつやつやと出た小袖を着ていて、今も以前に変わらず艶に美しい。
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Otodo ha, usuki ohom-nahosi, siroki ohom-zo no karameki taru ga, mon kezayaka ni tuyatuya to suki taru wo tatematuri te, naho tuki se zu ate ni namamekasiu ohasimasu.
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1.7.16 |
宰相殿は、 すこし色深き御直衣に、丁子染めの焦がるるまでしめる、白き綾のなつかしきを着たまへる、ことさらめきて艶に見ゆ。
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宰相殿は、少し色の濃い縹色の御直衣に、丁子染めで焦げ茶色になるまで染めた袿と、白い綾の柔らかいのを着ていらっしゃるのは、格別に優雅にお見えになる。
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宰相中将は少し父よりは濃い直衣に、下は丁字染めのこげるほどにも薫物の香を染ませた物や、白やを重ねて着ているのが、顔をことさら引き立てているように見えた。
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Saisyau-dono ha, sukosi iro hukaki ohom-nahosi ni, tyauzizome no kogaruru made sime ru, siroki aya no natukasiki wo ki tamahe ru, kotosara meki te en ni miyu.
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注釈78 | 尽きせざりつる御けしきに | 1.7.2 |
注釈79 | とがむなよ忍びにしぼる手もたゆみ--今日あらはるる袖のしづくを | 1.7.3 |
注釈80 | 手をいみじうも書きなられにけるかな | 1.7.5 |
注釈81 | 六条の大臣もかくと聞こし召してけり | 1.7.9 |
注釈82 | 今朝はいかに | 1.7.10 |
注釈83 | 世人も言ひ出づることあらむや | 1.7.11 |
注釈84 | 御子とも見えず、すこしがこのかみばかりと見えたまふ | 1.7.14 |
注釈85 | 薄き御直衣白き御衣の唐めきたるが紋けざやかにつやつやと透きたるをたてまつりて | 1.7.15 |
注釈86 | すこし色深き御直衣に、丁子染めの焦がるるまでしめる、白き綾のなつかしきを着たまへる | 1.7.16 |
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1.8 |
第八段 夕霧と雲居雁の固い夫婦仲
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1-8 Yugiri and his wife are in deeoly new married life
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1.8.1 |
灌仏率てたてまつりて、御導師遅く参りければ、日暮れて、御方々より童女出だし、布施など、公ざまに変はらず、心々にしたまへり。御前の作法を移して、君達なども参り集ひて、なかなか、うるはしき御前よりも、あやしう心づかひせられて臆しがちなり。
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灌仏会の誕生仏をお連れ申して来て、御導師が遅く参上したので、日が暮れてから、六条院の御方々から女童たちを使者に立てて、お布施など、宮中の儀式と違わず、思い思いになさった。御前での作法を真似て、公達なども参集して、かえって、格式ばった御前での儀式よりも、妙に気がつかわれて気後れするのである。
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今日は御所からもたらされて灌仏が六条院でもあることになっていたが、導師の来るのが遅くなって、日が暮れてから各夫人付きの童女たちが見物のために南の町へ送られてきて、それぞれ変わった布施が夫人たちから出されたりした。御所の灌仏の作法と同じようにすべてのことが行なわれた。殿上役人である公達もおおぜい参会していたが、そうした人たちもかえって六条院でする作法のほうを晴れがましく考えられて、気おくれが出るふうであった。
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Kwanbutu wi te tatematuri te, ohom-dausi osoku mawiri kere ba, hi kure te, ohom-katagata yori warahabe idasi, huse nado, ohoyakezama ni kahara zu, kokorogokoro ni si tamahe ri. Omahe no sahohu wo utusi te, kimi-tati nado mo mawiri tudohi te, nakanaka, uruhasiki gozen yori mo, ayasiu kokorodukahi se rare te okusigati nari.
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1.8.2 |
宰相は、静心なく、いよいよ化粧じ、ひきつくろひて出でたまふを、わざとならねど、情けだちたまふ若人は、恨めしと思ふもありけり。年ごろの積もり取り添へて、思ふやうなる御仲らひなめれば、 ▼ 水も漏らむやは。
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宰相は、心落ち着かず、ますますおめかしし、衣服を整えてお出かけになるのを、特別にではないが、多少お情けをおかけの若い女房などは、恨めしいと思っている人もいるのであった。長年の思いが加わって、理想的なご夫婦仲のようなので、水も漏れまい。
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宰相中将は落ち着いてもいられなかった。化粧をよくして身なりを引き繕って新婦の所へ出かけるのであった。情人として扱われてはいないが、少しの関係は持っている若い女房などで恨めしく思っているのもあった。苦難を積んで護って来た年月が背景になっている若夫婦の間には水が洩るほどの間隙もないのである。
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Saisyau ha, sidukokoro naku, iyoiyo kesauzi, hiki-tukurohi te ide tamahu wo, wazato nara ne do, nasakedati tamahu wakaudo ha, uramesi to omohu mo ari keri. Tosigoro no tumori tori sohe te, omohu yau naru ohom-nakarahi na' mere ba, midu mo mora m yaha!
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1.8.3 |
主人の大臣、いとどしき近まさりを、うつくしきものに思して、いみじうもてかしづききこえたまふ。負けぬる方の口惜しさは、なほ思せど、 罪も残るまじうぞ、まめやかなる御心ざまなどの、年ごろ異心なくて過ぐしたまへるなどを、ありがたく思し許す。
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主人の内大臣、ますます側に近づくほど美しいのを、かわいらしくお思いになって、たいそう大切にお世話申し上げなさる。負けたことの悔しさは、やはりお持ちだが、こだわりもなく、誠実なご性格などで、長年の間浮気沙汰などもなくてお過ごしになったのを、めったにないことだとお認めになる。
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内大臣も婿にしていよいよ宰相中将の美点が明瞭に見えて非常に大事がった。負けたほうは自分であると意識することで大臣の自尊心は傷つけられたのであるが、中将の娘に対する誠実さは、今までだれとの結婚談にも耳をかさず独身で通して来た点でも認められると思うことで、不満の償われることは十分であった。
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Aruzi-no-Otodo, itodosiki tikamasari wo, utukusiki mono ni obosi te, imiziu mote-kasiduki kikoye tamahu. Make nuru kata no kutiwosisa ha, naho obose do, tumi mo nokoru maziu zo, mameyaka naru mi-kokorozama nado no, tosigoro kotogokoro naku te sugusi tamahe ru nado wo, arigataku obosi yurusu.
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1.8.4 |
女御の御ありさまなどよりも、はなやかにめでたくあらまほしければ、 北の方、さぶらふ人びとなどは、心よからず思ひ言ふもあれど、 何の苦しきことかはあらむ。 按察使の 北の方なども、 かかる方にて、うれしと思ひきこえたまひけり。
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弘徽殿女御のご様子などよりも、派手で立派で理想的だったので、北の方や、仕えている女房などは、おもしろからず思ったり言ったりする者もいるが、何の構うことがあろうか。按察使大納言の北の方なども、このように結婚が決まって、嬉しくお思い申し上げていらっしゃるのであった。
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女御よりもかえって雲井の雁のほうが幸福ではなやかな女性と見えるのを夫人や、そのほうの女房たちは不快がったのであるが、そんなことなどは何でもない。雲井の雁の実母である按察使大納言の夫人も、娘がよい婿を得たことで喜んだ。
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Nyougo no ohom-arisama nado yori mo, hanayaka ni medetaku aramahosikere ba, Kitanokata, saburahu hitobito nado ha, kokoroyokara zu omohi ihu mo are do, nani no kurusiki koto kaha ara m? Azeti-no-Kitanokata nado mo, kakaru kata nite, uresi to omohi kikoye tamahi keri.
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出典14 |
水も漏らむやは |
などてかくあふごかたみになりにけむ水漏らさじと結びしものを |
伊勢物語-六一 |
1.8.2 |
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Last updated 9/21/2010(ver.2-3) 渋谷栄一校訂(C) Last updated 2/27/2010(ver.2-2) 渋谷栄一注釈(C) |
Last updated 10/7/2001 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2) |
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Last updated 2/27/2010 (ver.2-2) Written in Japanese roman letters by Eiichi Shibuya(C)
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Picture "Eiri Genji Monogatari"(1650 1st edition)
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