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第三十四帖 若菜上
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34 WAKANA-NO-ZYAU (Meiyu-rinmo-bon)
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光る源氏の准太上天皇時代 三十九歳暮から四十一歳三月までの物語
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Tale of Hikaru-Genji's Daijo Tenno era, from the end of 39 to March the age of 41
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4 |
第四章 光る源氏の物語 紫の上に打ち明ける
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4 Tale of Genji Genji tells Murasaki that he will get married to Sam-no-Miya
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4.1 |
第一段 源氏、結婚承諾を煩悶す
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4-1 Genji worries about a consent to the marriage
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4.1.1 |
六条院は、なま心苦しう、さまざま思し乱る。
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六条院は、何となく気が重くて、あれこれと思い悩みなさる。
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六条院も新しい御婚約についての責任感と、紫夫人との夫婦生活の形式が改められねばならぬことをお思いになる苦痛とがお心でいっしょになって煩悶をしておいでになった。
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Rokudeu-no-Win ha, nama-kokorogurusiu, samazama obosi midaru.
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4.1.2 |
紫の上も、 かかる御定めなむと、かねてもほの聞きたまひけれど、
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紫の上も、このようなご決定があったと、以前からちらっとお聞きになっていたが、
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朱雀院がそうした考えを持っておいでになるということは女王の耳にもはいっていたのであるが、
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Murasakinouhe mo, kakaru ohom-sadame nam to, kanete mo hono-kiki tamahi kere do,
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4.1.3 |
「 さしもあらじ。前斎院をも、ねむごろに聞こえたまふやう なりしかど、わざとしも思し遂げずなりにしを」
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「決してそのようなことはあるまい。前斎院を熱心に言い寄っていらっしゃるようだったが、ことさら思いを遂げようとはなさらなかったのだから」
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そんなことにもなるまい、前斎院にあれほど恋はしておられたがしいて結婚も院はなさらなかったのであるから
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"Sasimo ara zi. Saki-no-Saiwin wo mo, nemgoro ni kikoye tamahu yau nari sika do, wazato simo obosi toge zu nari ni si wo."
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4.1.4 |
など思して、「 さることもやある」とも問ひきこえたまはず、 何心もなくておはするに、いとほしく、
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などとお思いになって、「そのようなことがあったのですか」ともお尋ね申し上げなさらず、平気な顔でいらっしゃるので、おいたわしくて、
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などと思って、そうした問題のありなしも問わずにいて、疑っていないのを御覧になると、院は心苦しくて、
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nado obosi te, "Saru koto mo ya aru?" to mo tohi kikoye tamaha zu, nanigokoro mo naku te ohasuru ni, itohosiku,
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4.1.5 |
「 この事をいかに思さむ。わが心はつゆも変はるまじく、さることあらむにつけては、なかなかいとど 深さこそまさらめ、見定めたまはざらむほど、いかに思ひ疑ひたまはむ」
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「このことをどのようにお思いだろう。自分の心は少しも変わるはずもなく、そのことがあった場合には、かえってますます愛情が深くなることだろうが、それがお分りいただけない間は、どんなにお思い疑いなさるだろう」
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何と思うであろう、自分のこの人に対する愛は少しも変わらないばかりでなく、そういうことになればいよいよ深くなるであろうが、その見きわめがつくまでに、この人は疑って自分自身を苦しめることであろう
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"Kono koto wo ikani obosa m? Waga kokoro ha tuyu mo kaharu maziku, saru koto ara m ni tuke te ha, nakanaka itodo hukasa koso masara me, mi sadame tamaha zara m hodo, ikani omohi utagahi tamaha m?"
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4.1.6 |
など安からず思さる。
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などと、気がかりにお思いになる。
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とお思いになると、お心が静かでありえない。
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nado yasukara zu obosa ru.
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4.1.7 |
今の年ごろとなりては、ましてかたみに隔てきこえたまふことなく、あはれなる御仲なれば、しばし心に隔て残したることあらむもいぶせきを、その夜はうち休みて明かしたまひつ。
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長の年月を経たこのごろでは、ましてお互いに心を隔て置き申し上げることもなく、しっくりしたご夫婦仲なので、一時でも心に隔てを残しているようなことがあるのも気が重いのだが、その晩はそのまま寝んで、夜を明かしなさった。
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今日になってはもう二人の間に隔てというものは何一つ残さないことに馴れた御夫妻であったから、この話をすぐに話さずにおいでになるのも院は苦痛にされながらその夜はお寝みになった。
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Ima no tosigoro to nari te ha, masite katamini hedate kikoye tamahu koto naku, ahare naru ohom-naka nare ba, sibasi kokoro ni hedate nokosi taru koto ara m mo ibuseki wo, sono yo ha uti-yasumi te akasi tamahi tu.
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4.2 |
第二段 源氏、紫の上に打ち明ける
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4-2 Genji tells Murasaki that he will get married to Sam-no-Miya
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4.2.1 |
またの日、雪うち降り、空のけしきもものあはれに、過ぎにし方行く先の御物語聞こえ交はしたまふ。
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翌日、雪がちょっと降って、空模様も物思いを催し、過去のこと将来のことをお話し合いなさる。
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翌日はなお雪が降って空も身にしむ色をしていた。六条院は紫の女王と来し方のこと、未来のことをしみじみと話しておいでになった。
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Mata no hi, yuki uti-huri, sora no kesiki mo mono-ahare ni, sugi ni si kata yukusaki no ohom-monogatari kikoye kahasi tamahu.
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4.2.2 |
「 院の頼もしげなくなりたまひにたる、御とぶらひに参りて、あはれなることどものありつるかな。女三の宮の御ことを、いと捨てがたげに思して、 しかしかなむのたまはせつけしかば、心苦しくて、え聞こえ否びずなりにしを、 ことことしくぞ人は言ひなさむかし。
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「院がお弱りになりなさったが、お見舞いに参上して、ひどく胸を打たれることがありました。女三の宮の御身の上の事を、実に放っておきがたく思し召されて、これこれしかじかのことを仰せになったので、お気の毒で、お断り申し上げることができなくなってしまったのを、大げさに人は言いなすだろう。
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「院の御病気がお悪くて衰弱しておいでになるのをお見舞いに上がって、いろいろと身にしむことが多かった。女三の宮のことでいまだに御心配をしておられて、私へこんなことを仰せられた」院はその方を託したいと朱雀院の仰せられた話をくわしくあそばされた。「あまりにお気の毒なので御辞退ができなかったのだが、これをまた世間は大仰に吹聴をするだろうね。
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"Win no tanomosige naku nari tamahi ni taru, ohom-toburahi ni mawiri te, ahare naru koto-domo no ari turu kana! Womna-Sam-no-Miya no ohom-koto wo, ito sute gatage ni obosi te, sikasika nam notamaha se tuke sika ba, kokorogurusiku te, e kikoye inabi zu nari ni si wo, kotokotosiku zo hito ha ihi nasa m kasi.
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4.2.3 |
今は、さやうのことも初ひ初ひしく、すさまじく思ひなりにたれば、 人伝てにけしきばませたまひしには、とかく逃れきこえしを、対面のついでに、 心深きさまなることどもを、のたまひ続けしには ★、えすくすくしくも返さひ申さでなむ。
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今は、そのようなことも気恥ずかしく、関心も持てなくなってきたので、人を通してそれとなく仰せになった時には、何とか逃げ申したが、対面した時に、あわれ深い親心をおっしゃり続けたのには、すげなくご辞退申し上げることができませんでした。
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私はもう今はそうした若い人と新しく結婚するような興味はなくなっているのだから、最初人を介してのお話の時は口実を設けてお断わり申していたのだが、直接お目にかかった際に、御親心というものがあまりに濃厚に見えて、冷淡に辞退をしてしまうことができなかったのですよ。
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Ima ha, sayau no koto mo uhiuhisiku, susamaziku omohi nari ni tare ba, hitodute ni kesikibama se tamahi si ni ha, tokaku nogare kikoye si wo, taimen no tuide ni, kokorohukaki sama naru koto-domo wo, notamahi tuduke si ni ha, e sukusukusiku mo kahesahi mausa de nam.
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4.2.4 |
深き御山住みに移ろひたまはむほどにこそは、渡したてまつらめ。あぢきなくや思さるべき。いみじきことありとも、御ため、 あるより変はることはさらにあるまじきを、心なおきたまひそよ。
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深い山住み生活にお移りになるころには、こちらにお迎え申し上げることになろう。おもしろくなくお思いでしょうか。たとえどんなことがあっても、あなたにとって、今までと変わることは決してありませんから、気にかけないでくださいよ。
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郊外の寺へいよいよ院がおはいりになる時になってここへ迎えようと思う。味気ないこととあなたは思うでしょう。そのためにどんな苦しいことが一方に起こっても、私があなたを思うことは現在と少しも変わらないだろうから不快に思ってはいけませんよ。
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Hukaki mi-yamazumi ni uturohi tamaha m hodo ni koso ha, watasi tatematura me. Adikinaku ya obosa ru beki? Imiziki koto ari tomo, ohom-tame, aru yori kaharu koto ha sarani aru maziki wo, kokoro na oki tamahi so yo.
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4.2.5 |
かの御ためこそ、心苦しからめ。それもかたはならずもてなしてむ。誰も誰も、のどかにて過ぐしたまはば」
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あちらの方にとってこそ、お気の毒でしょう。その方も見苦しからずお世話しよう。皆が皆、穏やかにお過ごしくださったなら」
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宮のためにはかえって不幸なことだと私は知っているが、それも体面は作ってあげることを上手にしますよ。そして双方平和な心でいてもらえれば私はうれしいだろう」
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Kano ohom-tame koso, kokorogurusikara me. Sore mo kataha nara zu motenasi te m. Tare mo tare mo, nodoka nite sugusi tamaha ba."
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4.2.6 |
など聞こえたまふ。
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などと申し上げなさる。
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などと言われるのであった。
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nado kikoye tamahu.
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4.2.7 |
はかなき御すさびごとをだに、めざましきものに思して、心やすからぬ御心ざまなれば ★、「いかが思さむ」と思すに、いとつれなくて、
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ちょっとしたお浮気でさえ、目障りなとお思いなさって、心穏やかでないご性分なので、「どうお思いかしら」とお思いになると、まったく平静で、
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ちょっとした恋愛問題を起こしても自身が侮辱されたように思う女王であったから、どんな気がするだろうとあやぶみながら話されたのであったが、夫人は非常に冷静なふうでいて、
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Hakanaki ohom-susabigoto wo dani, mezamasiki mono ni obosi te, kokoroyasukara nu mi-kokorozama nare ba, "Ikaga obosa m?" to obosu ni, ito turenaku te,
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4.2.8 |
「あはれなる御譲りにこそはあなれ。ここには、いかなる心をおきたてまつるべきにか。めざましく、 かくてなど、咎めらるまじくは、 心やすくてもはべなむを、かの母女御の御方ざまにても、疎からず思し数まへてむや」
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「ほんとうにお気の毒なご依頼ですこと。わたしには、どのような快からぬ心をお抱き申しましょうか。目障りな、こうしていてなどと、咎められないようでしたら、安心してここにいさせていただきましょうが、あちらの御母女御の御縁からいっても、仲好くしていただけるでしょうから」
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「親としての御愛情から出ましたお頼みでございましょうね。私が不快になど思うわけはございません。あちらで私を失礼な女だとも、なぜ遠慮をしてどこへでも行ってしまわないかともおとがめにならなければ、私は安心しております。お母様の女御は私の叔母様でいらっしゃるわけですから、その続き合いで私を大目に見てくださるでしょうか」
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"Ahare naru ohom-yuduri ni koso ha a' nare. Koko ni ha, ikanaru kokoro wo oki tatematuru beki ni ka? Mezamasiku, kakute nado, togame raru maziku ha, kokoroyasuku te mo habe' na m wo, kano haha-Nyougo no ohom-katazama nite mo, utokara zu obosi kazumahe te m ya?"
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4.2.9 |
と、卑下したまふを、
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と、謙遜なさるのを、
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と卑下した。
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to, hige si tamahu wo,
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4.2.10 |
「 あまり、かう、うちとけたまふ御ゆるしも、いかなればと、うしろめたくこそあれ。まことは、さだに思しゆるいて、 われも人も心得て、なだらかにもてなし過ぐしたまはば、 いよいよあはれになむ。
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「あまり、こんなに、快くお許しくださるのも、どうしてかと、不安に思われます。ほんとうは、せめてそのように大目に見てくださって、自分もあちらの方も事情を分かりあって、穏やかに暮らしてくださるなら、一層ありがたいことです。
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「あなたのそれほど寛大過ぎるのもなぜだろうとかえって私に不安の念が起こる。それはまあ冗談だが。まあそんなふうにも見てあなたが許していてくれて、一方にもその心得でいてもらって、平和が得られれば私はいよいよあなたを尊敬するだろう。中傷する者があって何を言おうともほんとうと思ってはいけませんよ。
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"Amari, kau, utitoke tamahu ohom-yurusi mo, ikanare ba to, usirometaku koso are. Makoto ha, sa dani obosi yurui te, ware mo hito mo kokoroe te, nadaraka ni motenasi sugusi tamaha ba, iyoiyo ahare ni nam.
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4.2.11 |
ひがこと聞こえなどせむ人の言、聞き入れたまふな。すべて、世の人の口といふものなむ、誰が 言ひ出づることともなく、おのづから人の仲らひなど、 うちほほゆがみ、 思はずなること 出で来るものなるを、心ひとつにしづめて、ありさまに従ふなむよき。まだきに騒ぎて、あいなきもの怨みしたまふな」
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根も葉もない噂などをする人の話は、信じなさるな。総じて、世間の人の口というものは、誰が言い出したということもなく、自然と他人の夫婦仲などを、事実とは違えて、意外な話が出て来るもののようですが、自分一人の心におさめて、成り行きに従うのが良い。早まって騷ぎ出して、つまらない嫉妬をなさるな」
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すべて噂というものは、だれがためにするところがあって言い出すというのでもなく、良いことは言わずに、悪いことを言うのがおもしろくて言いふらさせるものだが、そんなことから意外な悲劇がかもされもするのだから、人の言葉に動揺を受けないで、ただなるがままになっているのがいいのです。まだ実現されもせぬうちから物思いをして私をむやみに恨むようなことをしないでくださいね」
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Higakoto kikoye nado se m hito no koto, kiki ire tamahu na. Subete, yo no hito no kuti to ihu mono nam, taga ihi iduru koto to mo naku, onodukara hito no nakarahi nado, uti-hohoyugami, omoha zu naru koto idekuru mono naru wo, kokoro hitotu ni sidume te, arisama ni sitagahu nam yoki. Madaki ni sawagi te, ainaki mono urami si tamahu na."
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4.2.12 |
と、いとよく教へきこえたまふ。
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と、たいそう良くお教え申し上げなさる。
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こう院はおさとしになった。
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to, ito yoku wosihe kikoye tamahu.
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4.3 |
第三段 紫の上の心中
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4-3 Murasaki worries herself for her future
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4.3.1 |
心のうちにも、
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心の中でも、
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女王は言葉だけでなく心の中でも、
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Kokoro no uti ni mo,
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4.3.2 |
「 かく空より出で来にたるやうなることにて、 逃れたまひがたきを、憎げにも聞こえ なさじ。 わが心に憚りたまひ、いさむることに従ひたまふべき、 おのがどちの心より起これる懸想にもあらず。せかるべき方なきものから、をこがましく思ひむすぼほるるさま、世人に漏り聞こえじ。
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「このように空から降って来たようなことなので、ご辞退できなかったのだから、恨み言は申し上げまい。ご自身気が咎めなさり、他人の諌めに従いなさるような、当人同士の心から出た恋でない。せき止めるすべもないものだから、馬鹿らしくうち沈んでいる様子、世間の人に漏れ見せまい。
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こんなふうに天から降ってきたような話で、院としては御辞退のなされようもない問題に対して嫉妬はすまい、言えばとてそのとおりになるものでもなく、成り立った話をお破りになることはないであろう、院のお心から発した恋でもないから、やめようもないのに、無益な物思いをしているような噂は立てられたくないと思った。
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"Kaku sora yori ideki ni taru yau naru koto nite, nogare tamahi gataki wo, nikuge ni mo kikoye nasa zi. Waga kokoro ni habakari tamahi, isamuru koto ni sitagahi tamahu beki, onoga-doti no kokoro yori okore ru kesau ni mo ara zu. Seka ru beki kata naki monokara, wokogamasiku omohi musubohoruru sama, yohito ni mori kikoye zi.
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4.3.3 |
式部卿宮の大北の方、常にうけはしげなることどもをのたまひ出でつつ、 あぢきなき大将の御ことにてさへ、あやしく恨み嫉みたまふなるを、かやうに聞きて、 いかにいちじるく思ひ合はせたまはむ」
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式部卿宮の大北の方が、常に呪わしそうな言葉をおっしゃっては、どうにもならない大将の御身の上の事についてまで、変に恨んだり妬んだりなさるというが、このように聞いて、どんなにかそれ見たことかと思うことだろう」
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継母である式部卿の宮の夫人が始終自分を詛うようなことを言っておいでになって、左大将の結婚についても自分のせいでもあるように、曲がった恨みをかけておいでになるのであるから、この話を聞いた時に、詛いが成就したように思うことであろう
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Sikibukyau-no-Miya no Oho-Kitanokata, tune ni ukehasige naru koto-domo wo notamahi ide tutu, adikinaki Daisyau no ohom-koto nite sahe, ayasiku urami sonemi tamahu naru wo, kayauni kiki te, ikani itiziruku omohi ahase tamaha m."
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4.3.4 |
など、 おいらかなる人の御心といへど、いかでかはかばかりの隈はなからむ。今はさりともとのみ、わが身を思ひ上がり、うらなくて 過ぐしける世の、人笑へならむことを、 下には思ひ続けたまへど、いとおいらかにのみもてなしたまへり。
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などと、おっとりしたご性分とはいえ、どうしてこの程度の邪推をなさらないことがあろうか。今はもう大丈夫とばかり、わが身の上を気位を高く持って、気兼ねなく過ごして来た夫婦仲が、物笑いになろうことを、心の中では思い続けなさるが、表面はとても穏やかにばかり振る舞っていらっしゃった。
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などと、穏やかな性質の夫人もこれくらいのことは心の蔭では思われたのであった。今になってはもう幸福であることを疑わなかった自分であった。思い上がって暮らした自分が今後はどんな屈辱に甘んじる女にならねばならぬかしれぬと紫の女王は愁いながらもおおようにしていた。
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nado, oyiraka naru hito no ohom-kokoro to ihe do, ikade ka ha kabakari no kuma ha nakara m. Ima ha saritomo to nomi, waga mi wo omohiagari, uranaku te sugusi keru yo no, hitowarahe nara m koto wo, sita ni ha omohi tuduke tamahe do, ito oyiraka ni nomi motenasi tamahe ri.
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注釈250 | かく空より出で来にたるやうなることにて | 4.3.2 |
注釈251 | 逃れたまひがたきを | 4.3.2 |
注釈252 | わが心に憚りたまひ | 4.3.2 |
注釈253 | おのがどちの心より起これる懸想にもあらず | 4.3.2 |
注釈254 | 式部卿宮の大北の方 | 4.3.3 |
注釈255 | あぢきなき大将の御ことにてさへ | 4.3.3 |
注釈256 | いかにいちじるく思ひ合はせたまはむ | 4.3.3 |
注釈257 | おいらかなる人の御心といへどいかでかはかばかりの隈はなからむ | 4.3.4 |
注釈258 | 過ぐしける世の | 4.3.4 |
注釈259 | 下には思ひ続けたまへどいとおいらかにのみもてなしたまへり | 4.3.4 |
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Last updated 9/21/2010(ver.2-3) 渋谷栄一校訂(C) Last updated 4/2/2010(ver.2-2) 渋谷栄一注釈(C) |
Last updated 11/15/2001 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2) |
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Last updated 4/2/2010 (ver.2-2) Written in Japanese roman letters by Eiichi Shibuya (C) |
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Picture "Eiri Genji Monogatari"(1650 1st edition)
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