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第三十六帖 柏木
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36 KASIHAGI (Teika-jihitsu-bon)
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光る源氏の准太上天皇時代 四十八歳春一月から夏四月までの物語
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Tale of Hikaru-Genji's Daijo Tenno era, from January in spring to April in summer, at the age of 48
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4 |
第四章 光る源氏の物語 若君の五十日の祝い
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4 Tale of Genji A celebration of 50 days after the birth
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4.1 |
第一段 三月、若君の五十日の祝い
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4-1 A celebration of 50 days after the birth in March
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4.1.1 |
弥生になれば、空のけしきもものうららかにて、この君、 五十日のほどになりたまひて、いと白ううつくしう、ほどよりはおよすけて、物語などしたまふ。大殿渡りたまひて、
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三月になると、空の様子もどことなく麗かな感じがして、この若君、五十日のほどにおなりになって、とても色白くかわいらしくて、日数の割に大きくなって、おしゃべりなどなさる。大殿がお越しになって、
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三月になると空もうららかな日が続き、六条院の若君の五十日の祝い日も来た。色が白くて、美しいかわいい子でもう声を出して笑ったりするのであった。院がおいでになって、
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Yayohi ni nare ba, sora no kesiki mo mono-uraraka nite, kono Kimi, ika no hodo ni nari tamahi te, ito sirou utukusiu, hodo yori ha oyosuke te, monogatari nado si tamahu. Otodo watari tamahi te,
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4.1.2 |
「 御心地は、さはやかになりたまひにたりや。いでや、いとかひなくもはべるかな。例の御ありさまにて、かく 見なしたてまつらましかば、いかにうれしうはべらまし。心憂く、思し捨てけること」
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「ご気分は、さっぱりなさいましたか。いやもう、何とも張り合いのないことだな。普通のお姿で、このようにお祝い申し上げるのであるならば、どんなにか嬉しいことであろうに。残念なことに、ご出家なさったことよ」
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「もうさっぱりした気分になりましたか。でも御恢復になったかいもありませんね。今までのあなたでこうして快くおなりになったのを見ることができたらどんなにうれしいだろう。あなたは冷酷に私を捨てておしまいになりましたね」
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"Mi-kokoti ha, sahayaka ni nari tamahi ni tari ya? Ideya, ito kahinaku mo haberu kana! Rei no ohom-arisama nite, kaku minasi tatematura masika ba, ikani uresiu habera masi. Kokorouku, obosi sute keru koto."
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4.1.3 |
と、涙ぐみて怨みきこえたまふ。日々に渡りたまひて、今しも、やむごとなく限りなきさまにもてなしきこえたまふ。
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と、涙ぐんでお恨み申し上げなさる。毎日お越しになって、今になって、この上なく大切にお世話申し上げなさる。
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と涙ぐんで恨みをお言いになった。毎日こちらの御殿へおいでにならぬ日はなくなって、こうした今になって最上のお扱いをあそばされるのであった。
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to, namidagumi te urami kikoye tamahu. Hibi ni watari tamahi te, ima simo, yamgotonaku kagiri naki sama ni motenasi kikoye tamahu.
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4.1.4 |
御五十日に餅参らせたまはむとて、容貌異なる御さまを、人びと、「いかに」など聞こえやすらへど、院渡らせたまひて、
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五十日の御祝いに餅を差し上げなさろうとして、尼姿でいられるご様子を、女房たちは、「どうしたものか」とお思い申して躊躇するが、院がお越しあそばして、
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五十日の儀式に母君が尼姿でおいでになるのは、若君の将来を祝うことに不都合ではないかという意見をもつ女房たちもあって、どうしようかと言われているところへ院がおいでになって、
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Ohom-ika ni motihi mawira se tamaha m tote, katati koto naru ohom-sama wo, hitobito, "Ikani?" nado kikoye yasurahe do, Win watara se tamahi te,
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4.1.5 |
「 何か。 女にものしたまはばこそ、同じ筋にて、いまいましくもあらめ」
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「何のかまうことはない。女の子でいらっしゃったら、同じ事で、縁起でもなかろうが」
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「少しもさしつかえない。若君が女であれば母君の運命にあやかってはならないとも考慮すべきだが」
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"Nanika! Womna ni monosi tamaha ba koso, onazi sudi ni te, imaimasiku mo ara me."
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4.1.6 |
とて、南面に小さき御座などよそひて、参らせたまふ。御乳母、いとはなやかに装束きて、御前のもの、いろいろを尽くしたる籠物、桧破籠の心ばへどもを、内にも外にも、 もとの心を知らぬことなれば、取り散らし、何心もなきを、「 いと心苦しうまばゆきわざなりや」と思す。
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と言って、南面に小さい御座所などを設定して、差し上げなさる。御乳母は、とても派手に衣装を着飾って、御前の物、色々な色彩を尽くした籠物、桧破子の趣向の数々を、御簾の中でも外でも、本当の事は知らないことなので、とり散らかして、無心にお祝いしているのを、「まことに辛く目を背けたい」とお思いになる。
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とお言いになり、南向きの座敷に若君の小さい席を設けて祝い膳が供えられた。新しい乳母たちは皆はなやかな服装をしていて、お膳部から女房たちのためのお料理の盛られた器まで皆きれいな感じのする式場であった。真相を知らぬ人々の寄贈したおびただしい祝品のあるのを御覧になっても、この誤りを正しくしがたい心苦しさから恥ずかしくばかりおなりになる院であった。
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tote, minamiomote ni tihisaki omasi nado yosohi te, mawira se tamahu. Ohom-menoto, ito hanayaka ni sauzoki te, omahe no mono, iroiro wo tukusi taru komono, hiwarigo no kokorobahe-domo wo, uti ni mo to ni mo, moto no kokoro wo sira nu koto nare ba, toritirasi, nanigokoro mo naki wo, "Ito kokorogurusiu mabayuki waza nari ya!" to obosu.
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4.2 |
第二段 源氏と女三の宮の夫婦の会話
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4-2 A dialogue between Genji and Omna-Sam-no-Miya
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4.2.1 |
宮も起きゐたまひて、 御髪の末の所狭う広ごりたるを、いと苦しと思して、額など撫でつけておはするに、几帳を引きやりてゐたまへば、いと恥づかしうて 背きたまへるを、いとど小さう細りたまひて、御髪は惜しみきこえて、長う削ぎたりければ、後ろは異にけぢめも見えたまはぬほどなり。
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宮もお起きなさって、御髪の裾がいっぱいに広がっているのを、とてもうるさくお思いになって、額髪などを撫でつけていらっしゃる時に、御几帳を引き動かしてお座りになると、とても恥ずかしい思いで顔を背けていらっしゃるが、ますます小さく痩せ細りなさって、御髪は惜しみ申されて、長くお削ぎになってあるので、後姿は格別普通の人と違ってお見えにならない程である。
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尼宮も起きておいでになった。切りそろえられた髪の尖が厚くいっぱいに拡がるのを苦しくお思いになり、額の毛などを後ろへなでつけておいでになる時に、院は几帳を横へ寄せてそこへおすわりになると、宮は羞じて横のほうへお向きになったが、以前よりもいっそう小柄にお見えになって、髪は授戒の日にお扱いした僧が惜しんで長く残すようにして切ったのであるから、ちょっと見ては普通の方のように思われた。
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Miya mo okiwi tamahi te, migusi no suwe no tokoroseu hirogori taru wo, ito kurusi to obosi te, hitahi nado nadetuke te ohasuru ni, kityau wo hiki-yari te wi tamahe ba, ito hadukasiu te somuki tamahe ru wo, itodo tihisau hosori tamahi te, migusi ha wosimi kikoye te, nagau sogi tari kere ba, usiro ha koto ni kedime mo miye tamaha nu hodo nari.
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4.2.2 |
すぎすぎ見ゆる鈍色ども、黄がちなる今様色など着たまひて、まだありつかぬ御かたはらめ、かくてしもうつくしき子どもの心地して、なまめかしうをかしげなり。
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次々と重なって見える鈍色の袿に、黄色みのある今流行の紅色などをお召しになって、まだ尼姿が身につかない御横顔は、こうなっても可憐な少女のような気がして、優雅で美しそうである。
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次々に濃くした鈍の幾枚かをお重ねになった下には黄味を含んだ淡色の単衣をお着になって、まだ尼姿になりきってはお見えにならず、美しい子供のような気がしてこれが最もよくお似合いになる姿であるとも艶に見えた。
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Sugisugi miyuru nibiiro-domo, kigati naru imayauiro nado ki tamahi te, mada arituka nu ohom-kataharame, kaku te simo utukusiki kodomo no kokoti si te, namamekasiu wokasige nari.
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4.2.3 |
「 いで、あな心憂。墨染こそ、なほ、いとうたて目もくるる色なりけれ。かやうにても、見たてまつることは、絶ゆまじきぞかしと、思ひ慰めはべれど、古りがたうわりなき心地する涙の人悪ろさを、いとかう 思ひ捨てられたてまつる身の咎に思ひなすも、さまざまに胸いたう口惜しくなむ。 ▼ 取り返すものにもがなや」
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「まあ、何と情けない。墨染の衣は、やはり、まことに目の前が暗くなる色だな。このようになられても、お目にかかることは変わるまいと、心を慰めておりますが、相変わらず抑え難い心地がする涙もろい体裁の悪さを、実にこのように見捨てられ申したわたしの悪い点として思ってみますにつけても、いろいろと胸が痛く残念です。昔を今に取り返すことができたらな」
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「墨染めという色は少し困りますね。どうしても悲しい色でね、目がくらむ気がします。こうおなりになってもいっしょに暮らすことができるのだからと思って、みずから慰めようとしていますが、まだ今でも涙だけはあきらめてくれずに流れ出すので困りますよ。こんなふうにあなたに捨てられたのも、私自身の罪であると考えられることも苦痛のきわみですよ。取り返せないものだろうか」
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"Ide, ana kokorou! Sumizome koso, naho, ito utate me mo kururu iro nari kere! Kayau nite mo, mi tatematuru koto ha, tayu maziki zo kasi to, omohi nagusame habere do, huri gatau warinaki kokoti suru namida no hitowarosa wo, ito kau omohi sute rare tatematuru mi no toga ni omohi nasu mo, samazama ni mune itau kutiwosiku nam. Torikahesu mono ni mo gana ya!"
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4.2.4 |
と、うち嘆きたまひて、
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とお嘆きになって、
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と院は御歎息をあそばして、
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to, uti-nageki tamahi te,
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4.2.5 |
「 今はとて思し離れば、まことに御心と厭ひ捨てたまひけると、恥づかしう心憂くなむおぼゆべき。 なほ、あはれと思せ」
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「もうこれっきりとお見限りなさるならば、本当に本心からお捨てになったのだと、顔向けもできず情けなく思われることです。やはり、いとしい者と思って下さい」
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「ほんとうの尼の気持ちになっておしまいになれば、それは病気のためでなく、私がいやにおなりになったためにそうおなりになった気もして、私は情けないでしょうよ。やはり私を愛してください」
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"Ima ha tote obosi hanare ba, makoto ni mi-kokoro to itohi sute tamahi keru to, hadukasiu kokorouku nam oboyu beki. Naho, ahare to obose."
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4.2.6 |
と聞こえたまへば、
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と申し上げなさると、
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こうお言いになると、
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to kikoye tamahe ba,
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4.2.7 |
「 かかるさまの人は、もののあはれも知らぬものと聞きしを、ましてもとより知らぬことにて、いかがは聞こゆべからむ」
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「このような出家の身には、もののあわれもわきまえないものと聞いておりましたが、ましてもともと知らないことなので、どのようにお答え申し上げたらよいでしょうか」
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「この境地にいては人を愛したりすることができないものだと聞いていますもの、まして私などは初めから愛するということがわからなかったのですから、どうお返事を申し上げればいいか存じません」
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"Kakaru sama no hito ha, mono no ahare mo sira nu mono to kiki si wo, masite motoyori sira nu koto nite, ikaga ha kikoyu bekara m."
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4.2.8 |
とのたまへば、
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とおっしゃるので、
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と宮はお返辞をあそばされる。
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to notamahe ba,
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4.2.9 |
「 かひなのことや。 思し知る方もあらむものを」
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「情けないことだ。お分りになることがおありでしょうに」
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「しかたのない方ですね、おわかりになることもあるでしょうが」
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"Kahina' no koto ya! Obosi siru kata mo ara m mono wo."
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4.2.10 |
とばかりのたまひさして、若君を見たてまつりたまふ。
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とだけ途中までおっしゃって、若君を拝見なさる。
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と言いさしたまま院は言葉をお切りになって、若君を見ようとあそばされた。
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to bakari notamahi sasi te, Wakagimi wo mi tatematuri tamahu.
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出典12 |
取り返すものにもがなや |
取り返すものにもがなやいにしへを在りしながらの我が身と思はむ |
出典未詳-源氏釈所引 |
4.2.3 |
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4.3 |
第三段 源氏、老後の感懐
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4-3 Genji's sorrow of old age
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4.3.1 |
御乳母たちは、やむごとなく、めやすき限りあまたさぶらふ。召し出でて、仕うまつるべき心おきてなどのたまふ。
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御乳母たちは、家柄が高く、見た目にも無難な人たちばかりが大勢伺候している。お呼び出しになって、お世話申すべき心得などをおっしゃる。
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乳母には貴族の出の人ばかりが何人も選ばれて付いていた。その人たちを呼び出して、若君の取り扱いについての注意をお与えに院はなるのであった。
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Ohom-Menoto-tati ha, yamgotonaku, meyasuki kagiri amata saburahu. Mesiide te, tukaumaturu beki kokorookite nado notamahu.
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4.3.2 |
「 あはれ、残り少なき世に、生ひ出づべき人にこそ」
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「ああかわいそうに、残り少ない晩年に、ご成人して行くのだな」
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「かわいそうに未来の少ない老いた父を持って、おくればせに大きくなってゆこうとするのだね」
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"Ahare, nokori sukunaki yo ni, ohiidu beki hito ni koso."
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4.3.3 |
とて、抱き取りたまへば、いと心やすくうち笑みて、つぶつぶと肥えて白ううつくし。大将などの稚児生ひ、ほのかに思し出づるには似たまはず。女御の御宮たち、はた、父帝の御方ざまに、王気づきて気高うこそおはしませ、ことにすぐれてめでたうしもおはせず。
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と言って、お抱きになると、とても人見知りせずに笑って、まるまると太っていて色白でかわいらしい。大将などが幼い時の様子、かすかにお思い出しなさるのには似ていらっしゃらない。明石女御の宮たちは、それはそれで、父帝のお血筋を引いて、皇族らしく高貴ではいらっしゃるが、特別優れて美しいというわけでもいらっしゃらない。
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と言って、お抱き取りになると、若君は快い笑みをお見せした。よく肥って色が白い。大将の幼児時代に思い比べてごらんになっても似ていない。女御の宮方は皆父帝のほうによく似ておいでになって、王者らしい相貌の気高いところはあるが、ことさらお美しいということもないのに、
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tote, idaki tori tamahe ba, ito kokoroyasuku uti-wemi te, tubutubu to koye te sirou utukusi. Daisyau nado no tigoohi, honoka ni obosi iduru ni ha ni tamaha zu. Nyougo no ohom-Miya-tati, hata, titi-Mikado no ohom-katazama ni, waukeduki te kedakau koso ohasimase, koto ni sugure te medetau simo ohase zu.
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4.3.4 |
この君、いとあてなるに添へて、愛敬づき、まみの薫りて、笑がちなるなどを、いとあはれと見たまふ。 思ひなしにや、なほ、いとようおぼえたりかし。ただ今ながら、眼居の のどかに恥づかしきさまも、やう離れて、薫りをかしき顔ざまなり。
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この若君、とても上品な上に加えて、かわいらしく、目もとがほんのりとして、笑顔がちでいるのなどを、とてもかわいらしいと御覧になる。気のせいか、やはり、とてもよく似ていた。もう今から、まなざしが穏やかで人に優れた感じも、普通の人とは違って、匂い立つような美しいお顔である。
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この若君は貴族らしい上品なところに愛嬌も添っていて、目つきが美しくよく笑うのを御覧になりながら院は愛情をお感じになった。思いなしか知らぬが故衛門督によく似ていた。これほどの幼児でいてすでに貴公子らしいりっぱな眼眸をして艶な感じを持っていることも普通の子供に違っているのである。
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Kono Kimi, ito ate naru ni sohe te, aigyauduki, mami no kawori te, wegati naru nado wo, ito ahare to mi tamahu. Omohinasi ni ya, naho, ito you oboye tari kasi. Tada ima nagara, manakowi no nodoka ni hadukasiki sama mo, yau hanare te, kawori wokasiki kaho zama nari.
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4.3.5 |
宮はさしも思し分かず。人はた、さらに知らぬことなれば、 ただ一所の御心の内にのみぞ、
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宮はそんなにもお分りにならず、女房たちもまた、全然知らないことなので、ただお一方のご心中だけが、
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母の宮はそうであるとも確かにはわかっておいでにならなかったし、その他の人はもとより気のつかぬことであったから、ただ院お一人の心の中だけで、
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Miya ha sasimo obosi waka zu. Hito hata, sarani sira nu koto nare ba, tada hito-tokoro no mi-kokoro no uti ni nomi zo,
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4.3.6 |
「 あはれ、はかなかりける人の契りかな」
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「ああ、はかない運命の人であったな」
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哀れな因縁である
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"Ahare, hakanakari keru hito no tigiri kana!"
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4.3.7 |
と見たまふに、大方の世の定めなさも思し続けられて、涙のほろほろとこぼれぬるを、 今日は言忌みすべき日をと、おし拭ひ隠したまふ。
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とお思いになると、世間一般の無常の世も思い続けられなさって、涙がほろほろとこぼれたのを、今日の祝いの日には禁物だと、拭ってお隠しになる。
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と故人のことを考えておいでになると、人生の無常さも次々に思われて涙のほろほろとこぼれるのを、今日は祝いの式ではないかと恥じてお隠しになり
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to mi tamahu ni, ohokata no yo no sadame nasa mo obosi tuduke rare te, namida no horohoro to kobore nuru wo, kehu ha kotoimi su beki hi wo to, osi-nogohi kakusi tamahu.
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4.3.8 |
「 ▼ 静かに思ひて嗟くに堪へたり」
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「静かに思って嘆くことに堪へた」
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『五十八翁方有後静思堪喜亦堪嗟』
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"Siduka ni omohi te nageku ni tahe tari"
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4.3.9 |
と、うち誦うじたまふ。 五十八を十取り捨てたる御齢なれど、末になりたる 心地したまひて、いとものあはれに思さる。「 汝が爺に」とも、諌めまほしう思しけむかし ★。
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と、朗誦なさる。五十八から十とったお年齢だが、晩年になった心地がなさって、まことにしみじみとお感じになる。「おまえの父親に似るな」とでも、お諌めなさりたかったのであろうよ。
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とお歌いになった。五十八から十を引いたお年なのであるが、もう晩年になった気があそばされて白楽天のその詩の続きの『慎勿頑愚似汝爺』を歌いたく思召したかもしれない。
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to, uti-zuuzi tamahu. Gozihu-hati wo towo tori sute taru ohom-yohahi nare do, suwe ni nari taru kokoti si tamahi te, ito mono ahare ni obosa ru. "Nandi ga titi ni" to mo, isame mahosiu obosi kem kasi.
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出典13 |
静かに思ひて嗟くに堪へたり |
五十八翁方有後 静思堪喜亦堪嗟 |
白氏文集二十八-二八二一 |
4.3.8 |
出典14 |
五十八 |
五十八翁方有後 静思堪喜亦堪嗟 |
白氏文集二十八-二八二一 |
4.3.9 |
出典15 |
汝が爺に |
持盃祝願無他語 慎勿頑愚似汝爺 |
白氏文集二十八-二八二一 |
4.3.9 |
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4.4 |
第四段 源氏、女三の宮に嫌味を言う
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4-4 Genji says disagreeable to Omna-Sam-no-Miya
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4.4.1 |
「 このことの心知れる人、女房の中にもあらむかし。知らぬこそ、ねたけれ。烏滸なりと見るらむ」と、安からず思せど、「 わが御咎あることは あへなむ。 二つ言はむには、女の御ためこそ、いとほしけれ」
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「この事情を知って人、女房の中にもきっといることだろう。知らないのは、悔しい。馬鹿だと思っているだろう」、と穏やかならずお思いになるが、「自分の落度になることは堪えよう。二つを問題にすれば、女宮のお立場が、気の毒だ」
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あの秘密にあずかった者がここの女房の中にいるはずである。その人たちは自分を愚人として侮蔑しているのであろうとお思われになることは不快であったが、自分のことは忍んでもよいが、宮をその人たちはどう思っているかという点までを思うと、宮のためにおかわいそうである
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"Kono koto no kokorosire ru hito, nyoubau no naka ni mo ara m kasi. Sira nu koso, netakere. Woko nari to miru ram." to, yasukara zu obose do, "Waga ohom-toga aru koto ha ahe na m. Hutatu iha m ni ha, Womna no ohom-tame koso, itohosikere."
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4.4.2 |
など思して、色にも出だしたまはず。 いと何心なう物語して笑ひたまへるまみ、口つきのうつくしきも、「 心知らざらむ人はいかがあらむ。なほ、いとよく似通ひたりけり」と見たまふに、「 親たちの、 子だにあれかしと、泣いたまふらむにも、え見せず、人知れずはかなき形見ばかりをとどめ置きて、 さばかり思ひ上がり、およすけたりし身を、心もて失ひつるよ」
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などとお思いになって、顔色にもお出しにならない。とても無邪気にしゃべって笑っていらっしゃる目もとや、口もとのかわいらしさも、「事情を知らない人はどう思うだろう。やはり、父親にとてもよく似ている」、と御覧になると、「ご両親が、せめて子供だけでも残してくれていたらと、お泣きになっていようにも、見せることもできず、誰にも知られずはかない形見だけを残して、あれほど高い望みをもって、優れていた身を、自分から滅ぼしてしまったことよ」
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などと院はお思いになって、あくまでも知らぬ顔を続けておいでになるのであった。無邪気にうれしそうな声をたてる若君の目つき、口つきは知らぬ人にわからぬことであろうが、自分が見れば全くよく似ているとお思いになる院は、親たちが子供でもあればよかったと言って悲しんでいるのに、これを見せてやることもできず、秘密な所にこの子だけを形見に残して、あの思い上がった男が、自身の心から命を縮めて死んだかと衛門督が哀れ
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nado obosi te, iro ni mo idasi tamaha zu. Ito nanigokoro nau monogatari si te warahi tamahe ru mami, kutituki no utukusiki mo, "Kokorosira zara m hito ha ikaga ara m? Naho, ito yoku nikayohi tari keri." to mi tamahu ni, "Oya-tati no, ko dani are kasi to, nai tamahu ram ni mo, e mise zu, hito sire zu hakanaki katami bakari wo todome oki te, sabakari omohiagari, oyosuke tari si mi wo, kokoro mote usinahi turu yo."
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4.4.3 |
と、あはれに惜しければ、めざましと思ふ心もひき返し、うち泣かれたまひぬ。
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と、しみじみと惜しまれるので、けしからぬと思う気持ちも思い直されて、つい涙がおこぼれになった。
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にお思われになって、失敬なことであると罪を憎んでおいでになった感情も消え、泣かれておしまいになるのであった。
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to, ahare ni wosikere ba, mezamasi to omohu kokoro mo hiki-kahesi, uti-naka re tamahi nu.
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4.4.4 |
人びとすべり隠れたるほどに、宮の御もとに寄りたまひて、
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女房たちがそっと席をはずした間に、宮のお側に近寄りなさって、
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女房たちがいつの間にかお居間を出てしまったのを御覧になってから、院は宮の近くへお寄りになって、
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Hitobito suberi kakure taru hodo ni, Miya no ohom-moto ni yori tamahi te,
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4.4.5 |
「 この人をば、いかが見たまふや。かかる人を捨てて、背き果てたまひぬべき世にやありける。あな、心憂」
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「この子を、どのようにお思いになりますか。このような子を見捨てて、出家なさらねばならなかったものでしょうか。何とも、情けない」
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「この人を何と思うのですか、こんなにかわいい人を置いて、この世をよくも捨てられましたね。冷酷ですよ」
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"Kono hito woba, ikaga mi tamahu ya? Kakaru hito wo sute te, somuki hate tamahi nu beki yo ni ya ari keru. Ana, kokorou!"
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4.4.6 |
と、おどろかしきこえたまへば、顔うち赤めておはす。
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と、ご注意をお引き申し上げなさると、顔を赤くしていらっしゃる。
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と不意にお言いかけになった。宮は顔を赤めておいでになった。
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to, odorokasi kikoye tamahe ba, kaho uti-akame te ohasu.
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4.4.7 |
「 誰が世にか種は蒔きしと人問はば ★ いかが岩根の松は答へむ |
「いったい誰が種を蒔いたのでしょうと人が尋ねたら 誰と答えてよいのでしょう、岩根の松は |
たが世にか種は蒔きしと人問はば いかが岩根の松は答へん
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"Taga yo ni ka tane ha maki si to hito toha ba ikaga ihane no matu ha kotahe m |
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4.4.8 |
あはれなり」
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不憫なことだ」
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かわいそうですよ」
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Ahare nari."
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4.4.9 |
など、忍びて聞こえたまふに、御いらへもなうて、ひれふしたまへり。ことわりと思せば、しひても聞こえたまはず。
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などと、そっと申し上げなさると、お返事もなくて、うつ臥しておしまいになった。もっともなことだとお思いになるので、無理に催促申し上げなさらない。
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ともそっとお言いになったが、宮はお返辞もあそばさずにひれ伏しておしまいになった。もっともであるとお思いになって、しいてものをお言わせしようともあそばされない。
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nado, sinobi te kikoye tamahu ni, ohom-irahe mo nau te, hirehusi tamahe ri. Kotowari to obose ba, sihite mo kikoye tamaha zu.
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4.4.10 |
「 いかに思すらむ。もの深うなどはおはせねど、いかでかはただには」
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「どうお思いでいるのだろう。思慮深い方ではいらっしゃらないが、どうして平静でいられようか」
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どんなお気持ちでおられるのであろう、奥深い感情などは持っておられぬが、虚心平気でおいでにはなれないはずである
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"Ikani obosu ram? Mono hukau nado ha ohase ne do, ikadeka ha tada ni ha."
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4.4.11 |
と、推し量りきこえたまふも、 いと心苦しうなむ。
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と、ご推察申し上げなさるのも、とてもおいたわしい思いである。
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と想像ができるのも心苦しいことであった。
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to, osihakari kikoye tamahu mo, ito kurusiu nam.
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出典16 |
誰が世にか種は蒔き |
梓弓磯辺の小松誰が世によろづ世かねて種を蒔きけむ |
古今集雑上-九〇七 読人しらず |
4.4.7 |
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4.5 |
第五段 夕霧、事の真相に関心
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4-5 Yugiri is interested in the affair
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4.5.1 |
大将の君は、かの心に余りて、ほのめかし出でたりしを、
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大将の君は、あの思い余って、ちらっと言い出した事を、
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大将は衛門督が思い余って自分に洩らしたことはどんな訳のあることであろう。
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Daisyau-no-Kimi ha, kano kokoro ni amari te, honomekasi ide tari si wo,
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4.5.2 |
「 いかなることにかありけむ。すこしものおぼえたるさまなら ましかば、さばかりうち出でそめたりしに、いとようけしきは見て ましを。いふかひなきとぢめにて、折悪しういぶせくて、あはれにもありしかな」
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「どのような事であったのだろうか。もう少し意識がはっきりしている状態であったならば、あれほど言い出した事なのだから、十分に事情が察せられたろうに。何とも言いようのない最期であったので、折も悪くはっきりしないままで、残念なことであったな」
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故人があれほどまで弱っていない時であったなら、自身から言い出したことなのであるから、もう少し核心に触れたことも聞き出せたであろうが、もうあの際であったのがおりを得ないことで残念であった
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"Ikanaru koto ni ka ari kem? Sukosi mono oboye taru sama nara masika ba, sabakari uti-ide some tari si ni, ito you kesiki ha mi te masi wo. Ihu kahi naki todime nite, wori asiu ibuseku te, ahare ni mo ari si kana!"
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4.5.3 |
と、面影忘れがたうて、兄弟の君たちよりも、しひて悲しとおぼえたまひけり。
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と、その面影が忘れることができなくて、兄弟の君たちよりも、特に悲しく思っていらっしゃった。
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などと考えていて、兄弟たち以上にこの人は故人を恋しがっていた。
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to, omokage wasure gatau te, harakara no Kimi-tati yori mo, sihite kanasi to oboye tamahi keri.
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4.5.4 |
「 女宮のかく世を背きたまへるありさま、おどろおどろしき御悩みにもあらで、すがやかに思し立ちけるほどよ。また、さりとも、許しきこえたまふべきことかは。
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「女宮がこのように出家なさった様子、大したご病気でもなくて、きれいさっぱりとご決心なさったものよ。また、そうだからといって、お許し申し上げなさってよいことだろうか。
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女三の宮がにわかに出家を遂げられたことも何か訳のあることらしい、そう大病でもおありにならなかった方を、院が何の抗議もあそばされずに尼にさせておしまいになってよいはずはないのである。
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"Womnamiya no kaku yo wo somuki tamahe ru arisama, odoroodorosiki ohom-nayami ni mo ara de, sugayaka ni obosi tati keru hodo yo. Mata, saritomo, yurusi kikoye tamahu beki koto kaha.
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4.5.5 |
二条の上の、さばかり限りにて、泣く泣く申したまふと聞きしをば、いみじきことに思して、つひにかくかけとどめたてまつりたまへるものを」
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二条の上が、あれほど最期に見えて、泣く泣くお願い申し上げなさったと聞いたのは、とんでもないことだとお考えになって、とうとうあのようにお引き留め申し上げなさったものを」
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二条の院の夫人があの重態になっていられた場合に、泣く泣く許しを乞われたのさえもお拒みになったのであるから
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Nideu-no-Uhe no, sabakari kagiri nite, nakunaku mausi tamahu to kiki si wo ba, imiziki koto ni obosi te, tuhini kaku kake todome tatematuri tamahe ru mono wo."
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4.5.6 |
など、 取り集めて思ひくだくに、
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などと、あれこれと思案をこらしてみると、
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というようなことも大将は考えられ、衛門督の問題と女三の宮の御出家とは関連したことに違いないということに思いは帰着した。
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nado, tori-atume te omohi kudaku ni,
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4.5.7 |
「 なほ、昔より絶えず見ゆる心ばへ、え忍ばぬ折々ありきかし。いとよう もて静めたるうはべは、人よりけに用意あり、のどかに、何ごとをこの人の心のうちに思ふらむと、 見る人も苦しきまでありしかど、 すこし弱きところつきて、なよび過ぎたりしけぞかし。
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「やはり、昔からずっと抱き続けていた気持ちが、抑え切れない時々があったのだ。とてもよく静かに落ち着いた表面は、誰よりもほんとうに嗜みがあり、穏やかで、どのようなことをこの人は考えているのだろうかと、周囲の人も気づまりなほどであったが、少し感情に溺れやすいところがあって、もの柔らか過ぎたためだ。
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昔から宮をお思いしていて、忍び余るような物思いの影を自分などに見せたこともある人である、自制していて表面だけはあくまでも冷静で、この人の心には何を思っているのかとうかがうのに苦しむほどであったが、感情に負けるところがあって、あまりに彼は弱い男であった、
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"Naho, mukasi yori taye zu miyuru kokorobahe, e sinoba nu woriwori ari ki kasi. Ito you mote-sidume taru uhabe ha, hito yori keni youi ari, nodoka ni, nanigoto wo kono hito no kokoro no uti ni omohu ram to, miru hito mo kurusiki made ari sika do, sukosi yowaki tokoro tuki te, nayobi sugi tari si ke zo kasi.
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4.5.8 |
いみじうとも、さるまじきことに心を乱りて、かくしも身に代ふべきことに やはありける。人のためにもいとほしう、わが身はいたづらにやなすべき。さるべき昔の契りといひながら、いと軽々しう、あぢきなきことなりかし」
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どんなにせつなく思い込んだとしても、あってはならないことに心を乱して、このように命を引き換えにしてよいことだろうか。相手のためにもお気の毒であるし、わが身は滅ぼすことではないか。そのようになるはずの前世からの因縁と言っても、まことに軽率で、つまらないことであるぞ」
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どんなにすぐれた恋人であっても、許されない恋に狂熱を傾け、最後に身をあやまるようなことをしてはならないのである、一方の人のためにも気の毒なことであるし、彼が自身の命をそれに捨てたのも賢明なことではない、皆前生の因縁とはいいながらも、やはり軽率なことであったと、
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Imiziu tomo, sarumaziki koto ni kokoro wo midari te, kaku simo mi ni kahu beki koto ni yaha ari keru. Hito no tame ni mo itohosiu, waga mi ha itadura ni ya nasu beki. Sarubeki mukasi no tigiri to ihi nagara, ito karugarusiu, adikinaki koto nari kasi."
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4.5.9 |
など、心一つに思へど、 女君にだに聞こえ出でたまはず。さるべきついでなくて、院にもまだえ申したまはざりけり。さるは、かかることをなむかすめし、と申し出でて、御けしきも見まほしかりけり。
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などと、自分独りで思うが、女君にさえ申し上げなさらない。適当な機会がなくて、院にもまだ申し上げることができなかった。とはいえ、このようなことを小耳にはさみました、と申し出て、ご様子も窺って見てみたい気持ちでもあった。
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大将は自身一人で思っていて夫人にも話さなかった。またよい機会もなくて院に故人の心をお伝えすることもまだ果たさなかった。大将としてはまたそれを話し出した時に秘密の全貌の見られることも願っているのであるから好機は容易に見いだせないのであるらしい。
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nado, kokoro hitotu ni omohe do, Womnagimi ni dani kikoye ide tamaha zu. Sarubeki tuide naku te, Win ni mo mada e mausi tamaha zari keri. Saruha, kakaru koto wo nam kasume si, to mausi ide te, mi-kesiki mo mi mahosikari keri.
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4.5.10 |
父大臣、母北の方は、涙のいとまなく思し沈みて、はかなく 過ぐる日数をも知りたまはず、御わざの法服、御装束、何くれのいそぎをも、 君たち、御方々、とりどりになむ、せさせたまひける。
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父大臣と、母北の方は、涙の乾かぬ間なく悲しみにお沈みになって、いつの間にか過ぎて行く日数をもお分かりにならず、ご法要の法服、ご衣装、何やかやの準備も、弟の君たち、姉妹の方々が、それぞれ準備なさるのであった。
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故大納言の父母は涙の晴れ間もないほど悲しみにおぼれて暮らしているのであって、日のたつ数もわからなかった。法事などの用意も子息たちや婿君たちの手でするばかりであった。
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Titi-Otodo, haha-Kitanokata ha, namida no itoma naku obosi sidumi te, hakanaku suguru hikazu wo mo siri tamaha zu, ohom-waza no hohubuku, ohom-sauzoku, nani kure no isogi wo mo, Kimi-tati, ohom-katagata, toridori ni nam, se sase tamahi keru.
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4.5.11 |
経仏のおきてなども、右大弁の君せさせたまふ。七日七日の御誦経などを、人の聞こえおどろかすにも、
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経や仏像の指図なども、右大弁の君がおさせになる。七日七日ごとの御誦経などを、周囲の人が注意を促すにつけても、
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供養する経巻や仏像も二男の左大弁が主になって作らせていた。七日七日の誦経の日が次々来るたびに、その注意を子息たちがすると、
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Kyau Hotoke no okite nado mo, Udaiben-no-Kimi se sase tamahu. Nanukananuka no mi-zukyau nado wo, hito no kikoye odorokasu ni mo,
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4.5.12 |
「 我にな聞かせそ。かくいみじと思ひ惑ふに、なかなか 道妨げにもこそ」
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「わたしに何も聞かせるな。このようにひどく悲しい思いに暮れているのに、かえって往生の妨げとなってはいけない」
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「もういっさい何も聞かせないようにしてくれ。あれに関した話を聴けばまた悲しみが湧くばかりだから、かえってあれの行く道を妨げることになる」
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"Ware ni na kika se so. Kaku imizi to omohi madohu ni, nakanaka miti samatage ni mo koso."
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4.5.13 |
とて、亡きやうに思し惚れたり。
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と言って、死んだ人のようにぼんやりしていらっしゃる。
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と言うだけで、大臣も死んだ人のようになっていた。
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tote, naki yau ni obosi hore tari.
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Last updated 9/22/2010(ver.2-3) 渋谷栄一校訂(C) Last updated 5/27/2010(ver.2-2) 渋谷栄一注釈(C) |
Last updated 1/13/2002 渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2) |
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Last updated 5/27/2010 (ver.2-2) Written in Japanese roman letters by Eiichi Shibuya (C) |
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Picture "Eiri Genji Monogatari"(1650 1st edition)
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