diffsrc/original/note39.htmlsrc/modified/note39.html
 1<HTML>⏎1 
 2<HEAD>⏎2 
d33-5<meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=UTF-8">⏎
<meta http-equiv="Content-Style-Type" content="text/css">⏎
<meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.3.0 for Windows">⏎
 6<TITLE>夕霧（大島本）</TITLE>⏎3 
 7</HEAD>⏎4 
cd2:18-9<body background="wallppr062.gif">⏎
First updated 1/31/2002（ver.1-2）<BR>⏎
5<BODY>⏎
cd3:210-12Last updated 7/20/2010（ver.2-2）<BR>⏎
渋谷栄一注釈(C)<BR>⏎
<P>⏎
6-7<ADDRESS>Last updated 7/20/2010（ver.2-2）<BR>⏎
渋谷栄一注釈(C)</ADDRESS>⏎
 13　　<H3>夕霧</H3><BR>⏎8 
d114<P>⏎
 15　[底本]<BR>⏎9 
 16財団法人古代学協会・古代学研究所編　角田文衛・室伏信助監修『大島本　源氏物語』第七巻　一九九六年　角川書店<BR>⏎10 
d117<P>⏎
 18　[参考文献]<BR>⏎11 
 19池田亀鑑編著『源氏物語大成』第二巻「校異篇」一九五六年　中央公論社<BR>⏎12 
d120<P>⏎
 21阿部秋生・秋山　虔・今井源衛・鈴木日出男校注・訳『古典セレクション　源氏物語』第十一巻　一九九八年　小学館<BR>⏎13 
 22柳井　滋・室伏信助・大朝雄二・鈴木日出男・藤井貞和・今西祐一郎校注『新日本古典文学大系　源氏物語』第四巻　一九九六年　岩波書店<BR>⏎14 
 23阿部秋生・秋山　虔・今井源衛・鈴木日出男校注・訳『完訳日本の古典　源氏物語』第七巻　一九八七年　小学館<BR>⏎15 
 24石田穣二・清水好子校注『新潮日本古典集成　源氏物語』第六巻　一九八二年　新潮社<BR>⏎16 
 25阿部秋生・秋山　虔・今井源衛校注・訳『日本古典文学全集　源氏物語』第四巻　一九七四年　小学館<BR>⏎17 
 26玉上琢弥著『源氏物語評釈』第八巻　一九六七年　角川書店<BR>⏎18 
 27山岸徳平校注『日本古典文学大系　源氏物語』第四巻　一九六二年　岩波書店<BR>⏎19 
 28池田亀鑑校注『日本古典全書　源氏物語』第五巻　一九五四年　朝日新聞社<BR>⏎20 
d129<P>⏎
 30伊井春樹編『源氏物語引歌索引』一九七七年　笠間書院<BR>⏎21 
 31榎本正純篇著『源氏物語の草子地　諸注と研究』一九八二年　笠間書院<BR>⏎22 
d132<P>⏎
 33第一章　夕霧の物語　小野山荘訪問<BR>⏎23 
 34<OL>⏎24 
 35<LI>一条御息所と落葉宮、小野山荘に移る---<A HREF="#in11">まめ人の名をとりて、さかしがりたまふ大将</A>⏎25 
 36<LI>八月二十日頃、夕霧、小野山荘を訪問---<A HREF="#in12">八月中の十日ばかりなれば、野辺のけしきも</A>⏎26 
 37<LI>夕霧、落葉宮に面談を申し入れる---<A HREF="#in13">宮は、奥の方にいと忍びておはしませど</A>⏎27 
 38<LI>夕霧、山荘に一晩逗留を決意---<A HREF="#in14">日入り方になり行くに、空のけしきもあはれに</A>⏎28 
 39<LI>夕霧、落葉宮の部屋に忍び込む---<A HREF="#in15">さて、「道いとたどたどしければ、このわたりに</A>⏎29 
 40<LI>夕霧、落葉宮をかき口説く---<A HREF="#in16">聞き入れたまふべくもあらず、悔しう、かくまで</A>⏎30 
 41<LI>迫りながらも明け方近くなる---<A HREF="#in17">風いと心細う、更けゆく夜のけしき、虫の音も</A>⏎31 
 42<LI>夕霧、和歌を詠み交わして帰る---<A HREF="#in18">月隈なう澄みわたりて、霧にも紛れず</A>⏎32 
 43</OL>⏎33 
 44第二章　落葉宮の物語　律師の告げ口<BR>⏎34 
 45<OL>⏎35 
 46<LI>夕霧の後朝の文---<A HREF="#in21">かやうの歩き、慣らひたまはぬ心地に</A>⏎36 
 47<LI>律師、御息所に告げ口---<A HREF="#in22">もののけにわづらひたまふ人は、重しと見れど</A>⏎37 
 48<LI>御息所、小少将君に問い質す---<A HREF="#in23">律師立ちぬる後に、小少将の君を召して</A>⏎38 
 49<LI>落葉宮、母御息所のもとに参る---<A HREF="#in24">渡りたまはむとて、御額髪の濡れまろがれたる</A>⏎39 
 50<LI>御息所の嘆き---<A HREF="#in25">苦しき御心地にも、なのめならずかしこまり</A>⏎40 
 51</OL>⏎41 
 52第三章　一条御息所の物語　行き違いの不幸<BR>⏎42 
 53<OL>⏎43 
 54<LI>御息所、夕霧に返書---<A HREF="#in31">かしこよりまた御文あり。心知らぬ人しも</A>⏎44 
 55<LI>雲居雁、手紙を奪う---<A HREF="#in32">大将殿は、この昼つ方、三条殿におはしにける</A>⏎45 
 56<LI>手紙を見ぬまま朝になる---<A HREF="#in33">とかく言ひしろひて、この御文はひき隠し</A>⏎46 
 57<LI>夕霧、手紙を見る---<A HREF="#in34">ひぐらしの声におどろきて、「山の蔭いかに</A>⏎47 
 58<LI>御息所の嘆き---<A HREF="#in35">かしこには、昨夜もつれなく見えたまひし御けしきを</A>⏎48 
 59<LI>御息所死去す---<A HREF="#in36">いとわりなくおしこめてのたまふを、あらがひはるけむ</A>⏎49 
 60<LI>朱雀院の弔問の手紙---<A HREF="#in37">所々の御弔ひ、いつの間にかと見ゆ。大将殿も</A>⏎50 
 61<LI>夕霧の弔問---<A HREF="#in38">ほどさへ遠くて、入りたまふほど、いと心すごし</A>⏎51 
 62<LI>御息所の葬儀---<A HREF="#in39">今宵しもあらじと思ひつる事どものしたため</A>⏎52 
 63</OL>⏎53 
 64第四章　夕霧の物語　落葉宮に心あくがれる夕霧<BR>⏎54 
 65<OL>⏎55 
 66<LI>夕霧、返事を得られず---<A HREF="#in41">山下ろしいとはげしう、木の葉の隠ろへなくなりて</A>⏎56 
 67<LI>雲居雁の嘆きの歌---<A HREF="#in42">女君、なほこの御仲のけしきを、「いかなるにかありけむ</A>⏎57 
 68<LI>九月十日過ぎ、小野山荘を訪問---<A HREF="#in43">九月十余日、野山のけしきは、深く見知らぬ人だに</A>⏎58 
 69<LI>板ばさみの小少将君---<A HREF="#in44">この人も、ましていみじう泣き入りつつ、「その夜の</A>⏎59 
 70<LI>夕霧、一条宮邸の側を通って帰宅---<A HREF="#in45">道すがらも、あはれなる空を眺めて、十三日の月</A>⏎60 
 71<LI>落葉宮の返歌が届く---<A HREF="#in46">日たけてぞ持て参れる。紫のこまやかなる紙すくよかにて</A>⏎61 
 72</OL>⏎62 
 73第五章　落葉宮の物語　夕霧執拗に迫る<BR>⏎63 
 74<OL>⏎64 
 75<LI>源氏や紫の上らの心配---<A HREF="#in51">六条院にも聞こし召して、いとおとなしう</A>⏎65 
 76<LI>夕霧、源氏に対面---<A HREF="#in52">大将の君、参りたまへるついでありて、思ひたまへらむ</A>⏎66 
 77<LI>父朱雀院、出家希望を諌める---<A HREF="#in53">かくて御法事に、よろづとりもちてせさせたまふ</A>⏎67 
 78<LI>夕霧、宮の帰邸を差配---<A HREF="#in54">大将も、「とかく言ひなしつるも、今はあいなし</A>⏎68 
 79<LI>落葉宮、自邸へ向かう---<A HREF="#in55">集りて聞こえこしらふるに、いとわりなく、あざやかなる</A>⏎69 
 80<LI>夕霧、主人顔して待ち構える---<A HREF="#in56">おはしまし着きたれば、殿のうち悲しげもなく</A>⏎70 
 81<LI>落葉宮、塗籠に籠る---<A HREF="#in57">かく心ごはけれど、今は、堰かれたまふべきならねば</A>⏎71 
 82</OL>⏎72 
 83第六章　夕霧の物語　雲居雁と落葉宮の間に苦慮<BR>⏎73 
 84<OL>⏎74 
 85<LI>夕霧、花散里へ弁明---<A HREF="#in61">六条院にぞおはして、やすらひたまふ。東の上</A>⏎75 
 86<LI>雲居雁、嫉妬に荒れ狂う---<A HREF="#in62">日たけて、殿には渡りたまへり。入りたまふより</A>⏎76 
 87<LI>雲居雁、夕霧と和歌を詠み交す---<A HREF="#in63">昨日今日つゆも参らざりけるもの、いささか参り</A>⏎77 
 88<LI>塗籠の落葉宮を口説く---<A HREF="#in64">かしこには、なほさし籠もりたまへるを、人々</A>⏎78 
 89<LI>夕霧、塗籠に入って行く---<A HREF="#in65">「さりとて、かくのみやは。人の聞き漏らさむことも</A>⏎79 
 90<LI>夕霧と落葉宮、遂に契りを結ぶ---<A HREF="#in66">かうのみ痴れがましうて出で入らむもあやしければ</A>⏎80 
 91</OL>⏎81 
 92第七章　雲居雁の物語　夕霧の妻たちの物語<BR>⏎82 
 93<OL>⏎83 
 94<LI>雲居雁、実家へ帰る---<A HREF="#in71">かくせめても見馴れ顔に作りたまふほど、三条殿</A>⏎84 
 95<LI>夕霧、雲居雁の実家へ行く---<A HREF="#in72">寝殿になむおはするとて、例の渡りたまふ方は</A>⏎85 
 96<LI>蔵人少将、落葉宮邸へ使者---<A HREF="#in73">大臣、かかることを聞きたまひて、人笑はれなるやうに</A>⏎86 
 97<LI>藤典侍、雲居雁を慰める---<A HREF="#in74">いとどしく心よからぬ御けしき、あくがれ惑ひ</A>⏎87 
 98</OL>⏎88 
d199<P>⏎
note39100　<H4>第一章　夕霧の物語　小野山荘訪問</H4>89 
note39101　<A NAME="in11">[第一段　一条御息所と落葉宮、小野山荘に移る]</A><BR>90 
d1102<P>⏎
c1103【まめ人のなをとりてさかしがりたまふ大将】－『集成』は「やや揶揄的な筆致。真木柱の巻に、髭黒が「名に立てるまめ人」とされており、同じ巻に、夕霧も「この世に目馴れぬまめ人」とされていた」。『完訳』は「夕霧は「まめ人」と称されてきたが、ここでは自らそれを意識して落葉の宮接近を合理化する。「さかしが」るのも、そのため。実直な男が盲目的な恋に陥る点で、鬚黒大将とも類似。『宇津保物語』の源実忠や藤原仲頼も、妻子を捨てて貴宮への恋に溺れる」と注す。<BR>⏎
91【まめ人の名をとりて、さかしがりたまふ大将】－『集成』は「やや揶揄的な筆致。真木柱の巻に、髭黒が「名に立てるまめ人」とされており、同じ巻に、夕霧も「この世に目馴れぬまめ人」とされていた」。『完訳』は「夕霧は「まめ人」と称されてきたが、ここでは自らそれを意識して落葉の宮接近を合理化する。「さかしが」るのも、そのため。実直な男が盲目的な恋に陥る点で、鬚黒大将とも類似。『宇津保物語』の源実忠や藤原仲頼も、妻子を捨てて貴宮への恋に溺れる」と注す。<BR>⏎
 104【この一条の宮の御ありさまを】－邸宅の雰囲気をさす表現。<BR>⏎92 
 105【なほ】－副詞「なほ」は「思して」を修飾。『完訳』は「まめ人と言われながらやはり」と訳す。<BR>⏎93 
d1106<P>⏎
 107【御息所も】－落葉宮の母一条御息所。<BR>⏎94 
d1108<P>⏎
 109【ひき返し】－以下「あらじやは」まで、夕霧の心中。『集成』は「ここから夕霧の心」と注して、括弧にはくくらない。<BR>⏎95 
d1110<P>⏎
 111【宮の御けはひありさまを見たまふ】－落葉の宮の雰囲気や様子を。「見たまふ」は、注意を払う、関心をもつ、意。几帳が間にあるので直接見ているのではない。<BR>⏎96 
 112【みづからなど聞こえたまふことはさらになし】－落葉宮御自身が夕霧に直接返事をすること。<BR>⏎97 
 113【いかならむついでに】－以下「けはひを見む」まで、夕霧の心中。<BR>⏎98 
d1114<P>⏎
 115【御息所もののけにいたう患ひたまひて】－一条御息所は二年前から病気がちであった。「柏木」巻に語られている。<BR>⏎99 
 116【小野といふわたりに山里持たまへるに】－二つの「に」格助詞、いずれも場所を表す。京都の北の郊外。修学院離宮のあたり。<BR>⏎100 
 117【御祈りの師に】－大島本は「御いのりのしに」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「御祈りの師にて」と「て」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎101 
 118【山籠もりして里に出でじ】－律師の考え、間接話法、その要旨。<BR>⏎102 
 119【誓ひたるを】－『集成』は「請願を立てているのを」。『完訳』は「誓いを立てているそのお方に」と訳す。「を」格助詞、目的格に解す。また接続助詞「を」順接、原因理由を表す、とも解せる。<BR>⏎103 
 120【麓近くて請じ下ろしたまふゆゑなりけり】－『集成』は「近くに来て、下山して頂きなさるためなのだった」。『完訳』は「麓近くまで下りてもらうようお願いになるためなのだった」と訳す。集成は「麓近くて」を御息所が「麓近くに来て」の意に解している。<BR>⏎104 
d1121<P>⏎
 122【なかなか昔の近きゆかりの君たちは】－大島本は「中／＼むかしの」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「なかなかまことの昔の」と「まことの」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。柏木の弟たちをいう。もって回った言い方。<BR>⏎105 
d1123<P>⏎
cd4:2124-127【弁の君はた思ふ心なきにしもあらでけしきばみけるにことの外なる御もてなし】－『完訳』は「一条の宮に出入りするうちに宮に求婚し、皇女降嫁に反対の母御息所に拒まれたか」と注す。<BR>⏎
【けしきばみけるに】－接続助詞「に」逆接の意。<BR>⏎
<P>⏎
【さりげなく聞こえ馴れたまひにためり】－推量の助動詞「めり」主観的推量は、語り手の推量。<BR>⏎
106-107【弁の君はた思ふ心なきにしもあらでけしきばみけるにことの外なる御もてなし】－『完訳』は「一条の宮に出入りするうちに宮に求婚し、皇女降嫁に反対の母御息所に拒まれたか」と注す。<BR>【けしきばみけるに】－接続助詞「に」逆接の意。<BR>⏎
【さりげなくて聞こえ馴れたまひにためり】－推量の助動詞「めり」主観的推量は、語り手の推量。<BR>⏎
 128【悩みたまふ人は】－御息所をいう。<BR>⏎108 
 129【え聞こえたまはず】－夕霧へのお礼の返事を書くことができない。<BR>⏎109 
d1130<P>⏎
 131【なべての宣旨書きは】－以下「御さまなり」まで、女房の詞。その要旨、間接的話内容であろう。<BR>⏎110 
 132【宮ぞ御返り聞こえたまふ】－落葉の宮が返事を書く。係助詞「ぞ」--「たまふ」連体形の係結び、強調のニュアンス。<BR>⏎111 
 133【ただ一行りなど】－『完訳』は「和歌を一行書きにしたものか」と注す。<BR>⏎112 
 134【言葉もなつかしきところ書き添へたまへるを】－『完訳』は「和歌に添えた言葉か」と注す。<BR>⏎113 
c1135【いよいよ見まほしう目とまりてしげう聞こえかよひたまふ】－主語は夕霧。ますます落葉の宮に引きつけられていく。<BR>⏎
114【いよいよ見まほしう目とまりて、しげう聞こえ通ひたまふ】－主語は夕霧。ますます落葉の宮に引きつけられていく。<BR>⏎
 136【なほつひにあるやうあるべきやう御仲らひなめりと】－大島本は「あるへきやう」とあり、その右側に「此やうノ二字定家本ニ朱ニテ書入難心詞也<朱>」と紙片を貼付して注記する。『集成』『完本』は諸本に従って「あるべき」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。「定家本」には「やう」が有ると注記しているのが注目される。雲居雁の心中。『集成』は「やはり結局は何か事が起るに違いないお二人の仲なのだろう」。『完訳』は「こんな様子では、お二人がやはりしまいには特別の仲になってしまいかねないと」と訳す。大島本の「あるやうあるべきやう」という「やう」の重複はいかにもくどい拙文の感じだが、定家本にはそうあるのである。<BR>⏎115 
d1137<P>⏎
cd2:1138-139【北の方けしきとりて】－夕霧の北の方、すなわち雲居雁。<BR>⏎
<P>⏎
116【北の方けしきとり】－夕霧の北の方、すなわち雲居雁。<BR>⏎
note39140　<A NAME="in12">[第二段　八月二十日頃、夕霧、小野山荘を訪問]</A><BR>117 
d1141<P>⏎
 142【八月中の十日ばかりなれば野辺のけしきもをかしきころなるに】－八月二十日ころ、中秋をや過ぎたころ。<BR>⏎118 
d1143<P>⏎
 144【なにがし律師の】－以下「とぶらひがてら参でむ」まで、夕霧の詞。「某律師」は雲居雁の前では実名で言ったのを、語り手が読者には「某」とぼかして表現したもの。『完訳』は「語り手が固有名詞をぼかした」と注す。<BR>⏎119 
 145【下りたなるに】－「た」は完了の助動詞「たる」の「る」が撥音便化し無表記。「なる」伝聞推定の助動詞。接続助詞「に」順接の意。<BR>⏎120 
 146【患ひたまふなるも】－「なる」伝聞推定の助動詞。<BR>⏎121 
d1147<P>⏎
 148【おほかたにぞ聞こえて】－大島本は「きこえて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「聞こえごちて」と「ごち」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。『集成』は「さりげない用件のように申し上げて」。『完訳』は「一通りの訪問のようにお申し出になって」と訳す。<BR>⏎122 
 149【御前ことことしからで親しき限り五六人ばかり】－大将の公式の前駆は定員十二名。それを親しい者五、六名に限って追従させている。<BR>⏎123 
c1150【松が崎のを小山の色など】－『集成』は「尾山」と宛て、「歌枕。修学院の対岸、高野川の右岸に張り出した形の山。所々に岩盤が露出し、松の木が多い。「尾山」の「尾」は、峯の意」と注す。<BR>⏎
124【松が崎の小山の色など】－『集成』は「尾山」と宛て、「歌枕。修学院の対岸、高野川の右岸に張り出した形の山。所々に岩盤が露出し、松の木が多い。「尾山」の「尾」は、峯の意」と注す。<BR>⏎
 151【都に二なくと尽くしたる家居には】－『完訳』は「六条院の秋の町と対比して、小野の秋の美しさを称揚」と注す。連語「には」比較を表す。<BR>⏎125 
 152【まさりてぞ見ゆるや】－「や」詠嘆の終助詞。語り手の言辞。臨場感ある措辞。視点が夕霧と一体化して語られている。<BR>⏎126 
d1153<P>⏎
 154【とどめたてまつりたまひけれど】－落葉の宮を京の邸に留めたが、の意。<BR>⏎127 
 155【いかでか離れたてまつらむ】－落葉の宮の心中。間接的叙述。「いかでか」--「む」反語表現。<BR>⏎128 
 156【あなたには渡したてまつりたまはず】－落葉の宮を御息所のいる北廂の間にはお入れしない、の意。<BR>⏎129 
d1157<P>⏎
 158【宮の御方】－落葉の宮。<BR>⏎130 
 159【御簾の前に】－大島本は「みす」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「簾（す）」と「み」を削除する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎131 
d1160<P>⏎
 161【いとかたじけなく】－以下「心つきはべりぬる」まで、御息所の詞。<BR>⏎132 
 162【このかしこまりをだに】－副助詞「だに」最小限の意。<BR>⏎133 
 163【聞こえさせでや】－「聞こえさす」謙譲表現。接続助詞「で」否定の意。「や」間投助詞、詠嘆の意。<BR>⏎134 
d1164<P>⏎
 165【渡らせたまひし】－以下「ことの苦しうはべる」まで、夕霧の詞。<BR>⏎135 
cd3:1166-168【六条院に承りさしたることはべりしほどにて】－『完訳』は「口実である。雲居雁の嫉妬で訪問できなかったのが真相」と注す。<BR>⏎
【ほどにてなむ】－係助詞「なむ」の下に、できなかった、という意の言葉が省略された形。<BR>⏎
<P>⏎
136【六条院に承りさしたることはべりしほどにてなむ】－『完訳』は「口実である。雲居雁の嫉妬で訪問できなかったのが真相」と注す。<BR>【ほどにてなむ】－係助詞「なむ」の下に、できなかった、という意の言葉が省略された形。<BR>⏎
note39169　<A NAME="in13">[第三段　夕霧、落葉宮に面談を申し入れる]</A><BR>137 
d1170<P>⏎
 171【ことことしからぬ旅の御しつらひ】－小野の山荘の様子。<BR>⏎138 
 172【人の御けはひ】－落葉の宮。<BR>⏎139 
 173【さばかりななり】－連語「ななり」断定の助動詞＋推量の助動詞。『集成』は「あれが宮なのだろう」。『完訳』は「あのあたりらしい」と訳す。<BR>⏎140 
d1174<P>⏎
 175【あなたの御消息通ふほど】－格助詞「の」は、御息所への、の意。<BR>⏎141 
 176【すこし遠う隔たる隙に】－「少し遠う隔たる」は空間の理由を説明して「隙」を修飾、時間的な間合のあることをいう。<BR>⏎142 
 177【例の少将の君などさぶらふ人びとに】－『完訳』は「落葉の宮づきの女房。小少将。御息所の姪で、その養女格。大和守の妹」と注す。<BR>⏎143 
d1178<P>⏎
 179【かう参り来馴れ】－以下「たぐひあらじかし」まで、夕霧の詞。『完訳』は「宮に聞えよがしに言う」と注す。<BR>⏎144 
 180【年ごろといふばかりに】－柏木が亡くなって足掛け三年になる。その間、夕霧は落葉の宮に援助し続けてきた。<BR>⏎145 
 181【恨めしさなむ】－係助詞「なむ」の下に、辛く思われる、などの意が省略。<BR>⏎146 
 182【いかに古めかしきさまに】－『完訳』は「私を野暮な人間と。自分を貶めながら、好色とは無縁であるかのように言い、相手を安心させる」と注す。<BR>⏎147 
 183【人びとほほ笑みたまふらむと】－『集成』は「あなた方がおかしがっておいでだろうと」。『完訳』は「落葉の宮や御息所など」と注す。<BR>⏎148 
 184【はしたなくなむ】－係助詞「なむ」の下に「はべる」などの語句が省略、強調のニュアンス。<BR>⏎149 
d1185<P>⏎
 186【齢積もらず軽らかなりしほどに】－『完訳』は「「軽らか」は身分について。ここでも自嘲的でありながら、若年からの律儀さを強調し、相手を安心させる」と注す。<BR>⏎150 
 187【面馴れなましかば】－「ましかば」--「まし」反実仮想の構文。<BR>⏎151 
 188【おれて年経る人はたぐひあらじかし】－『集成』は「いつまでもうかうかと過す人間は、またといまいと思われます。もういい加減に、親しい扱いをしてほしい、と言う」と注す。<BR>⏎152 
d1189<P>⏎
 190【げにいとあなづりにくげなるさましたまひつれば】－大島本は「給つれは」とある。「つ」と「へ」は紛らわしい字体である。『集成』『完本』は諸本に従って「たまへれば」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。「げに」は語り手の納得の意。女房の気持と一体化した表現。<BR>⏎153 
 191【さればよ】－女房の心中。『集成』は「やはり、ただではすまないことだと。宮の挨拶がなくては事がすむまいという気持」。『完訳』は「夕霧の宮への恋情に気づく」と注す。<BR>⏎154 
d1192<P>⏎
 193【なかなかなる御いらへ聞こえ出でむは恥づかしう】－女房の詞。連体中止法。余意余情効果がある。<BR>⏎155 
d1194<P>⏎
 195【かかる御愁へ】－以下「知らぬやうなり」まで、女房の詞。「御愁へ」は夕霧のそれ。「聞こしめし知らぬ」は人情や情趣を解さない意。主語は落葉の宮なので敬語表現が使用されている。<BR>⏎156 
d1196<P>⏎
 197【みづから聞こえたまはざめるかたはらいたさに】－「みづから」は母御息所ご自身が、の意。下に「たまふ」という敬語表現があるので。<BR>⏎157 
 198【代はりはべるべきを】－主語は落葉の宮。丁寧語表現。<BR>⏎158 
 199【いとどあるかなきかの心地になりて】－『完訳』は「恐ろしいほど物の怪に病むような御息所を看病するうちに、自分も人心地が失せた。口実である」と注す。<BR>⏎159 
d1200<P>⏎
 201【こは宮の御消息か】－夕霧の詞。または心中、いづれか不明。<BR>⏎160 
 202【心苦しき御悩みを】－以下「本意なき心地なむ」まで、夕霧の詞。「御悩み」は御息所の病気。『完訳』は「以下、宮に直接話しかける趣。宮の居場所の近さを知っている」と注す。<BR>⏎161 
 203【嘆ききこえさせはべるも】－「聞こえさす」最も丁重な謙譲表現。<BR>⏎162 
 204【何のゆゑにか】－『完訳』は「ほかならぬ、あなたのため」と訳す。<BR>⏎163 
 205【ものを思し知る御ありさまなど】－『集成』は「物の怪は、おうおうにして明晰な理解、判断を狂わせる症状を呈するので、「ものをおぼし知る御ありさまなど」と、日頃の御息所の聰明さを特に言う」。『完訳』は「何かと思いにひたっていらっしゃる宮の日々のお暮しなどが」「憂愁に沈む落葉の宮が晴れ晴れしくなるまで、御息所が生きていてほしい、の意。暗に、宮は自分と結ばれて幸福になる、と主張」と注す。<BR>⏎164 
c1206【推し量り聞こえさするによりなむ】－係助詞「なむ」の下に「侍る」などの語句が省略。<BR>⏎
165【推し量りきこえさするによりなむ】－係助詞「なむ」の下に「侍る」などの語句が省略。<BR>⏎
 207【ただあなたざまに思し譲りて】－主語は落葉の宮。あなたは、わたしの訪問をただ母御息所へのご心配とばかりお思いになって、の意。<BR>⏎166 
 208【本意なき心地なむ】－係助詞「なむ」の下に「する」などの語句が省略。<BR>⏎167 
d1209<P>⏎
note39210　<A NAME="in14">[第四段　夕霧、山荘に一晩逗留を決意]</A><BR>168 
d1211<P>⏎
 212【ひぐらしの鳴きしきりて】－大島本は「ひくらしの」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「ひぐらし」と「の」を削除する。『新大系』は底本のままとする。「ひぐらしの鳴きつるなべに日は暮れぬと思ふは山の蔭にぞありける」（古今集秋上、二〇四、読人しらず）。<BR>⏎169 
 213【垣ほに生ふる撫子の】－「あな恋し今も見てしが山賤の垣ほに咲ける大和撫子」（古今集恋四、六九五、読人しらず）。「日入方になり行くに--山の蔭は--垣ほに生ふる撫子の」の情景は右の古今集歌二首にもとづく。<BR>⏎170 
 214【うちなびける色も】－『集成』は「くびをかしげた花の淡い紅色も」。『完訳』は「風に揺れなびいている色合いも」と訳す。<BR>⏎171 
d1215<P>⏎
 216【もの思ひ続けらる】－「らる」自発の助動詞。<BR>⏎172 
 217【読むなり】－「なり」伝聞推定の助動詞。語り手の言辞。臨場感のある表現。<BR>⏎173 
d1218<P>⏎
 219【いと苦しげにしたまふなりとて】－主語は御息所。「なり」伝聞推定の助動詞。<BR>⏎174 
 220【あまた参らざりけるに】－接続助詞「に」順接、原因理由を表す。<BR>⏎175 
 221【思ふこともうち出でつべき折かな】－夕霧の心中。<BR>⏎176 
d1222<P>⏎
cd6:3223-228【まかでむ方も見えずなりゆくはいかがすべき】－夕霧の詞。『完訳』は「霧で帰れない。恋の常套句」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
【山里のあはれを添ふる夕霧に立ち出でむ空もなき心地して】－夕霧から落葉の宮への贈歌。「霧」「立ち」「空」が縁語。「夕霧に衣は濡れて草枕旅寝するかも逢はぬ君ゆゑ」（古今六帖、霧）。<BR>⏎
<P>⏎
【山賤の籬をこめて立つ霧も心そらなる人はとどめず】－落葉の宮の返歌。「山」「立つ」「霧」「心」「空」の語句を受けて、「霧」を落葉の宮自身に、「心そらなる人」を夕霧に喩えて、「とどめず」と切り返す。<BR>⏎
<P>⏎
177-179【まかでむ方も見えずなり行くは、いかがすべき】－夕霧の詞。『完訳』は「霧で帰れない。恋の常套句」と注す。<BR>⏎
【山里のあはれを添ふる夕霧に--立ち出でむ空もなき心地して】－夕霧から落葉の宮への贈歌。「霧」「立ち」「空」が縁語。「夕霧に衣は濡れて草枕旅寝するかも逢はぬ君ゆゑ」（古今六帖、霧）。<BR>⏎
【山賤の籬をこめて立つ霧も--心そらなる人はとどめず】－落葉の宮の返歌。「山」「立つ」「霧」「心」「空」の語句を受けて、「霧」を落葉の宮自身に、「心そらなる人」を夕霧に喩えて、「とどめず」と切り返す。<BR>⏎
 229【中空なるわざかな】－以下「かかることこそ」まで、夕霧の詞。「中空」「家路」「籬」など宮の和歌の中の語句の歌語を使用して優美にいう。<BR>⏎180 
 230【つきなき人はかかることこそ】－夕霧自身をいう。恋に馴れない人は、の意。『集成』は「不馴れな男は、こんな目に会うのですね」。『完訳』は「こうしたことの不似合いな男でしたらこのお仕打ちももっともなことでしょうが」と訳す。係助詞「こそ」の下に「あらめ」などの語句が省略された形。<BR>⏎181 
d1231<P>⏎
 232【忍びあまりぬる筋も】－『集成』は「もはや抑えがたい胸の内も」。『完訳』は「これ以上包みきれない胸の中をも」と訳す。<BR>⏎182 
 233【年ごろもむげに見知りたまはぬにはあらねど知らぬ顔にのみもてなしたまへるを】－主語は落葉の宮。宮自身も実は夕霧の気持ちを知っていたのだがという解説的叙述。<BR>⏎183 
 234【またかかる折ありなむや】－夕霧の心中。連語「なむや」は、「な」完了の助動詞、確述の意と「む」推量の助動詞、推量の意。「や」係助詞、疑問の意。強い疑問の推量のニュアンスを表す。<BR>⏎184 
d1235<P>⏎
c1236【情けなうあはつけきもものには】－以下「知らせたてまつらむ」まで、夕霧の心中。<BR>⏎
185【情けなうあはつけきものには】－以下「知らせたてまつらむ」まで、夕霧の心中。<BR>⏎
 237【思はれたてまつるとも】－自分が思われ申す、という謙譲表現。<BR>⏎186 
 238【いかがはせむ】－反語表現。仕方のないことだ、の意。<BR>⏎187 
d1239<P>⏎
 240【人を召せば】－夕霧の供人。<BR>⏎188 
 241【御司の将監よりかうぶり得たる睦ましき人】－「御司」は左近衛府をさす。「将監」は近衛府第三等官で従六位下相当官。「かうぶり得たる」は五位に叙せられた、の意。<BR>⏎189 
d1242<P>⏎
 243【この律師に】－以下「人もとりなすべし」まで、夕霧の詞。<BR>⏎190 
 244【随身などの男どもは】－随身たちは栗栖野に遣って人少なにさせる。<BR>⏎191 
 245【栗栖野の荘】－小野の近くにある夕霧の荘園。<BR>⏎192 
 246【あるやうあるべし】－将監の心中。<BR>⏎193 
d1247<P>⏎
note39248　<A NAME="in15">[第五段　夕霧、落葉宮の部屋に忍び込む]</A><BR>194 
d1249<P>⏎
 250【道いとたどたどしければ】－以下「下るるほどまでなむ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎195 
 251【宿借りはべる】－連体中止法、余意余情表現。<BR>⏎196 
 252【許されあらなむ】－「なむ」終助詞、願望の意。<BR>⏎197 
cd2:1253-254【までなど】－大島本は「まてなと」とある。『完本』は諸本に従って「までなむと」と「む」を補訂する。『集成』『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎
<P>⏎
198【まで--など】－大島本は「まてなと」とある。『完本』は諸本に従って「までなむと」と「む」を補訂する。『集成』『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎
 255【つれなくのたまふ】－『完訳』は「さりげなく。一方的な態度」と注す。<BR>⏎199 
 256【例はかやうに】－以下「うたてもあるかな」まで、落葉の宮の心中と地の文が融合した形。<BR>⏎200 
 257【はひ渡りたまふは人も】－大島本は「はひ（△＆ひ）わたり給ハ人も」とある。「人」と「ん」の字体の類似から生じた異文。『集成』『完本』は諸本に従って「はひわたりたまはむも」と「校訂する。『新大系』は底本のまま「はひわたり給（たまは）ば人も」と整定する。<BR>⏎201 
 258【御消息聞こえ伝へにゐざり入る人】－夕霧から落葉の宮へのご口上を伝えるために膝行して中へ入っていく女房の意。<BR>⏎202 
d1259<P>⏎
 260【あさましうて見返りたるに】－主語は女房。<BR>⏎203 
 261【北の御障子の外にゐざり出でさせたまふを】－母屋から母御息所のいる北廂間に通じる襖障子の向う側へ、の意。「出でさせたまふ」という最高敬語表現。<BR>⏎204 
cd2:1262-263【いとようたどりて引きとどめたてまつりつ】－主語は夕霧。夕霧には敬語表現のないことに注意。<BR>⏎
<P>⏎
205【いとようたどりて、ひきとどめたてまつりつ】－主語は夕霧。夕霧には敬語表現のないことに注意。<BR>⏎
 264【障子はあなたより鎖すべき方なかりければ】－落葉の宮は母屋の外側に出たので、外側からは錠が掛けられない。<BR>⏎206 
 265【こなたよりこそ鎖す錠などもあれ】－係助詞「こそ」--「あれ」已然形、逆接用法。<BR>⏎207 
d1266<P>⏎
 267【いとあさましう】－以下「御心のほどになむ」まで、女房の詞。「あさましう」連体中止法、余意余情表現。下に「なむある」などの語句が省略。<BR>⏎208 
d1268<P>⏎
 269【かばかりにて】－以下「重なりぬらむ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎209 
cd2:1270-271【数ならずとも御耳馴れぬる年月も重なりぬらむ】－『完訳』は「夕霧のいやみな自卑。多年、この邸に昵懇を重ねてきた、の気持のみならず、権勢家としての自分の名声を誇る気持もこめる」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
210【数ならずとも、御耳馴れぬる年月も重なりぬらむ】－『完訳』は「夕霧のいやみな自卑。多年、この邸に昵懇を重ねてきた、の気持のみならず、権勢家としての自分の名声を誇る気持もこめる」と注す。<BR>⏎
 272【いとのどやかにさまよくもてしづめて】－『集成』は「とてももの静かにたしなみよく落着いた態度で」と訳す。『完訳』は「簾中に入ってもまるであわてない。夕霧らしい態度というべき」「まことにもの静かな様子で、見苦しからず落ち着いて」と注す。<BR>⏎211 
d1273<P>⏎
note39274　<A NAME="in16">[第六段　夕霧、落葉宮をかき口説く]</A><BR>212 
d1275<P>⏎
 276【悔しうかくまで】－落葉の宮の心中。『集成』は「不覚だった、こんなにまでこの人を近づけてしまってと、悔む気持ばかり先立って、やり場のない思いなので。皇女としての誇りが深く傷つけられた思い」。『完訳』は「こうまでもご自分をお見下しになるのかと」「夕霧のぶしつけな態度に自尊心が傷つけられた思い」と注す。<BR>⏎213 
d1277<P>⏎
 278【いと心憂く】－以下「いとかたじけなければ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎214 
 279【御心許されでは御覧ぜられじ】－主語は落葉の宮。「で」接続助詞、打消の意。「られ」受身の助動詞。「じ」打消推量の助動詞。<BR>⏎215 
 280【千々に砕けはべる思ひに堪へぬぞや】－「堪へ」未然形。「ぬ」打消の助動詞。係助詞「ぞ」。間投助詞「や」詠嘆の意。『集成』は「君恋ふと心は千々にくだくるをなど数ならぬわが身なるらむ」（曽丹集）を指摘。『完訳』は「君恋ふる心は千々にくだくれど一つも失せぬものにぞありける」（後拾遺集恋四、八〇一、和泉式部）を指摘。<BR>⏎216 
d1281<P>⏎
 282【いかがはせむ】－反語表現。もはやどうすることもできない、の意。<BR>⏎217 
 283【知らせはべらむとばかりなり】－「む」推量の助動詞、意志。副助詞「ばかり」限定のニュアンス。<BR>⏎218 
 284【いとかたじけなければ】－『集成』は「これ以上のことには及ばぬ、という含意」と注す。<BR>⏎219 
d1285<P>⏎
 286【あながちに情け深う用意したまへり】－『完訳』は「無作法な態度を省みて自己を抑制」と注す。<BR>⏎220 
d1287<P>⏎
 288【障子を押さへたまへるは】－主語は落葉の宮。<BR>⏎221 
 289【引きも開けず】－副助詞「も」強調のニュアンス。開けようと思えば簡単に開けられるのに開けないで、の意。<BR>⏎222 
d1290<P>⏎
 291【かばかりのけぢめをと】－以下「あはれなれ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎223 
d1292<P>⏎
 293【人の御ありさま】－落葉の宮をいう。<BR>⏎224 
 294【さはいへどことに見ゆ】－『集成』は「そうは言っても（そう美しい方ではないといっても）格段にすぐれている。宮様だけのことはある」。『完訳』は「夫柏木の情の薄さから宮の容貌が劣ると推測した。それを受けて「さはいへど」」と注す。<BR>⏎225 
 295【うちとけたまへるままの】－くつろいだ姿、すなわち普段着のままの姿。<BR>⏎226 
 296【気近うしみたる匂ひなど】－「気近し」は親しみやすい意。<BR>⏎227 
d1297<P>⏎
note39298　<A NAME="in17">[第七段　迫りながらも明け方近くなる]</A><BR>228 
d1299<P>⏎
 300【艶あるほどなれど】－大島本は「えむあるほとなれと」とある。『集成』『完訳』は諸本に従って「艶なるほどなれば」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎229 
 301【ただありのあはつけ人だに】－『集成』は「何の趣味もない間抜けな人でも」。『完訳』は「情趣など解せぬ軽薄な人でさえ」と訳す。<BR>⏎230 
 302【格子もさながら】－格子を上げたままの状態。<BR>⏎231 
 303【とどめがたう】－涙を留めがたく、の意。<BR>⏎232 
d1304<P>⏎
 305【なほかう思し知らぬ】－以下「思し知らぬにしもあらじを」まで、夕霧の詞。<BR>⏎233 
 306【世づかぬまでしれじれしきうしろやすさなども】－夕霧自身の態度振る舞いをいう。『完訳』は「相手（女）に安心な男とする」と注す。<BR>⏎234 
d1307<P>⏎
cd2:1308-309【えなむ静めはつまじき心地しはべる】－『集成』は「「つれなき心もつかふ」かもしれないとおどす」。『完訳』は「自分も薄情に強引に出るか、と反転」と注す。「やすきほどの人」と同様に「つれなき心を使」おうか、と脅しに出る。<BR>⏎
<P>⏎
235【えなむ静め果つまじき心地しはべる】－『集成』は「「つれなき心もつかふ」かもしれないとおどす」。『完訳』は「自分も薄情に強引に出るか、と反転」と注す。「やすきほどの人」と同様に「つれなき心を使」おうか、と脅しに出る。<BR>⏎
 310【よろづに聞こえせめられたまひて】－主語は落葉の宮。「られ」受身の助動詞。<BR>⏎236 
d1311<P>⏎
 312【世を知りたる方の心やすきやうに】－以下「身の憂さなりや」まで、落葉の宮の心中に沿った叙述と心中文。『集成』は「夫を持ったことがあるから組みしやすいと言わんばかりに、時折夕霧が匂わすのも、不愉快で。落葉の宮の気持。「世」は、前の「世の中」とともに、男女の仲の意」。『完訳』は「結婚の経験があるので言い寄りやすいといわんばかりに。以下、宮の心中に転ずる」と注す。<BR>⏎237 
d1313<P>⏎
 314【憂きみづからの罪を】－以下「思ひなすべきにかはあらむ」まで、落葉の宮の詞。不本意にも柏木と結婚したことをいう。<BR>⏎238 
d1315<P>⏎
cd2:1316-317【我のみや憂き世を知れるためしにて濡れそふ袖の名を朽たすべき】－落葉宮の歌。『完訳』は「夕霧の「世の中を--あらじを」に対応。「濡れ添ふ」は、柏木との結婚で流した涙に、夕霧との仲で流す涙を添える意。「くたす」は評判を朽たす、涙で袖を朽たす、の両意。己が身の不幸を痛恨する歌」と注す。係助詞「や」疑問の意は「朽たすべき」連体形に係る。<BR>⏎
<P>⏎
239【我のみや憂き世を知れるためしにて--濡れそふ袖の名を朽たすべき】－落葉宮の歌。『完訳』は「夕霧の「世の中を--あらじを」に対応。「濡れ添ふ」は、柏木との結婚で流した涙に、夕霧との仲で流す涙を添える意。「くたす」は評判を朽たす、涙で袖を朽たす、の両意。己が身の不幸を痛恨する歌」と注す。係助詞「や」疑問の意は「朽たすべき」連体形に係る。<BR>⏎
 318【わが心に続けて忍びやかにうち誦じたまへるも】－主語は夕霧。よく聞き取れないないところを推測して補い一首に仕立て上げて口ずさんだ。<BR>⏎240 
 319【かたはらいたく】－落葉宮の心中。<BR>⏎241 
cd2:1320-321【いかに言ひつるぞと】－どうして歌など詠んだのだろうと、後悔の気持ち。<BR>⏎
<P>⏎
242【いかに言ひつることぞと】－どうして歌など詠んだのだろうと、後悔の気持ち。<BR>⏎
 322【げに悪しう聞こえつかし】－夕霧の詞。<BR>⏎243 
d1323<P>⏎
cd2:1324-325【おほかたは我濡衣を着せずとも朽ちにし袖の名やは隠るる】－夕霧の返歌。「濡れ添ふ袖」「名を朽たす」の語句を受けて、「濡衣」「朽ちにし袖」と返す。「名やは隠るる」反語表現、汚名は歴然としているではないか、と切り返した。『完訳』は「すでに汚名を立てたのだから、自分との間に悪評を立てても構わぬではないか、の意。宮を傷つける歌だが、宮の微妙な心の動きを顧慮しない」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
244【おほかたは我濡衣を着せずとも--朽ちにし袖の名やは隠るる】－夕霧の返歌。「濡れ添ふ袖」「名を朽たす」の語句を受けて、「濡衣」「朽ちにし袖」と返す。「名やは隠るる」反語表現、汚名は歴然としているではないか、と切り返した。『完訳』は「すでに汚名を立てたのだから、自分との間に悪評を立てても構わぬではないか、の意。宮を傷つける歌だが、宮の微妙な心の動きを顧慮しない」と注す。<BR>⏎
 326【ひたぶるに思しなりねかし】－夕霧の歌に添えた詞。『集成』は「何もかも捨てた気持におなり下さい」と訳す。<BR>⏎245 
d1327<P>⏎
 328【あさましと思す】－主語は落葉宮。<BR>⏎246 
 329【心強うもてなしたまへど】－主語は落葉宮。<BR>⏎247 
 330【はかなう引き寄せたてまつりて】－主語は夕霧に変わる。<BR>⏎248 
 331【かばかりたぐひなき】－以下「さらにさらに」まで、夕霧の詞。<BR>⏎249 
 332【さらにさらに】－『集成』は「無体な振舞には及ばないと誓う」。『完訳』は「ぶしつけな言葉である」と注す。<BR>⏎250 
d1333<P>⏎
note39334　<A NAME="in18">[第八段　夕霧、和歌を詠み交わして帰る]</A><BR>251 
d1335<P>⏎
 336【故君の御こともすこし聞こえ出でて】－柏木のこと。主語は夕霧。<BR>⏎252 
 337【過ぎにし方に思し貶すをば】－落葉宮が柏木よりも夕霧を軽く思うこと。<BR>⏎253 
d1338<P>⏎
 339【かれは位なども】－以下「思ほされむ」まで、落葉宮の心中。<BR>⏎254 
 340【誰れ誰れも】－大島本は「たれ／＼も」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「誰も誰も」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎255 
 341【見馴れたまひにしを】－『集成』は「「たまふ」と敬語があるのは、地の文の気持が混入したもの」。『完訳』は「宮の心中叙述ながら、語り手の宮への尊敬「たまふ」が混入」と注す。<BR>⏎256 
 342【よそに聞くあたりにだにあらず】－夕霧は柏木の異母妹雲居雁を北の方にしている、という縁者。<BR>⏎257 
 343【大殿などの聞き思ひたまはむことよ】－故夫柏木の父致仕の大臣。<BR>⏎258 
 344【院にもいかに聞こし召し思ほされむ】－落葉宮の父朱雀院。<BR>⏎259 
d1345<P>⏎
 346【わが心一つに】－以下、落葉の宮の心中に即した地の文。初めは心中文、文末の「わびしければ」が地の文に融合。<BR>⏎260 
d1347<P>⏎
 348【明かさでだに出でたまへ】－落葉宮の詞。<BR>⏎261 
d1349<P>⏎
 350【あさましや】－以下「思ひたまへらるれ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎262 
 351【ことあり顔に分けはべらむ朝露の思はむところよ】－『集成』は「実際は、逢って帰るわけでもないので、言う」。『完訳』は「契り交したかのように」「朝露が一晩中起きていた二人を変に思うだろう。「露」の縁で、「置く」「起く」を連想させる」と注す。<BR>⏎263 
 352【をこがましきさまを】－大島本は「おこかましきさまを」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「かうをこがましきを」と「かう」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。『集成』は「手出しをしなかったことを言う」と注す。<BR>⏎264 
 353【知らぬことと】－大島本は「し（し＄<朱>）か（か＄し<朱>）らぬことゝ」とある。すなわち初め「し」を朱筆でミセケチにし次いで「か」を朱筆でミセケチにして「し」と訂正する。『集成』『完本』は諸本に従って「知らぬことこと」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎265 
d1354<P>⏎
cd2:1355-356【荻原や軒端の露にそぼちつつ八重立つ霧を分けぞ行くべき】－夕霧から落葉宮への贈歌。『完訳』は「露と霧の中を涙ながらに帰る自分に同情を引こうとする歌」と注す。「夕霧に衣は濡れて草枕旅寝するかも逢はぬ君ゆゑ」（古今六帖一）。<BR>⏎
<P>⏎
266【荻原や軒端の露にそぼちつつ--八重立つ霧を分けぞ行くべき】－夕霧から落葉宮への贈歌。『完訳』は「露と霧の中を涙ながらに帰る自分に同情を引こうとする歌」と注す。「夕霧に衣は濡れて草枕旅寝するかも逢はぬ君ゆゑ」（古今六帖一）。<BR>⏎
 357【濡衣はなほえ干させたまはじ】－以下「御心づからこそは」まで、歌に続けた夕霧の詞。<BR>⏎267 
d1358<P>⏎
 359【げにこの御名の】－以下「口ぎよう答へむ」まで、落葉宮の心中に沿った叙述。語り手の落葉の宮への敬語が混入して「御名」とある。<BR>⏎268 
 360【心の問はむにだに】－「なき名ぞと人には言ひてありぬべし心の問はばいかが答へむ」（後撰集恋三、七二六、読人しらず）。<BR>⏎269 
d1361<P>⏎
cd2:1362-363【分け行かむ草葉の露をかことにてなほ濡衣をかけむとや思ふ】－落葉宮の返歌。「露」の語句を受けて返す。<BR>⏎
<P>⏎
270【分け行かむ草葉の露をかことにて--なほ濡衣をかけむとや思ふ】－落葉宮の返歌。「露」の語句を受けて返す。<BR>⏎
 364【めづらかなることかな】－歌に添えた詞。『完訳』は「心外な。非難めく気持」と注す。<BR>⏎271 
d1365<P>⏎
 366【年ごろ人に違へる】－以下、夕霧の心中に沿った叙述。<BR>⏎272 
 367【心ばせ人になりて】－『集成』は「よく気を配る人というほどの意」と注す。<BR>⏎273 
 368【かうあながちに】－以下「をこがましくや」まで、夕霧の心中。<BR>⏎274 
 369【道の露けさもいと所狭し】－『集成』は「帰り路の露けさも一方ならぬものがある。歩みなずむ気持と悲しみを同時に言う」。『異本紫明抄』は「帰るさの路やは変はる変はらねど解くるに惑ふ今朝の沫雪」（後拾遺集恋二、六七一、藤原道信）を指摘。朝帰りは同じ趣向だが、露と雪との違いがある。<BR>⏎275 
d1370<P>⏎
note39371　<H4>第二章　落葉宮の物語　律師の告げ口</H4>276 
note39372　<A NAME="in21">[第一段　夕霧の後朝の文]</A><BR>277 
d1373<P>⏎
 374【殿におはせば】－夕霧の自邸、三条殿。ここは夕霧の心中に即した仮定の文脈。<BR>⏎278 
 375【六条院の東の御殿に】－花散里のもとをさす。夕霧の養母。<BR>⏎279 
d1376<P>⏎
 377【例ならぬ御歩きありけり】－女房たちの詞。「けり」過去の助動詞、詠嘆の意。<BR>⏎280 
d1378<P>⏎
c1379【香の唐櫃】－『集成』は「香を入れて、収めた装束に匂いを移らせる唐櫃」。『完訳』は「香を着物に移らせるための唐櫃」と注す。<BR>⏎
281【香の御唐櫃】－『集成』は「香を入れて、収めた装束に匂いを移らせる唐櫃」。『完訳』は「香を着物に移らせるための唐櫃」と注す。<BR>⏎
 380【御前に参りたまふ】－源氏の御前をさす。挨拶のためである。<BR>⏎282 
d1381<P>⏎
 382【かしこに御文たてまつりたまへれど御覧じも入れず】－源氏のもとに行く前に夕霧は手紙を小野に差し出したもの。場面は小野に移る。「御覧じも入れず」の主語は落葉宮。<BR>⏎283 
c1383【にはかにあさまししかりし】－以下、落葉の宮の心中に沿った叙述。<BR>⏎
284【にはかにあさましかりし】－以下、落葉の宮の心中に沿った叙述。<BR>⏎
 384【人のもの言ひ隠れなき世なれば】－『異本紫明抄』は「ここにしも何匂ふらむ女郎花人の物言ひさがにくき世に」（拾遺集雑、一〇九八、僧正遍昭）を指摘。<BR>⏎285 
d1385<P>⏎
 386【人びとありしままに聞こえ漏らさなむ】－以下「いかがはせむ」まで、落葉の宮の心中文。心中に即した地の文の中に直接話法のように嵌め込まれている。『集成』は「夕霧が近づいたけれども何ごともなかったその実情を、いっそ告げてほしいと思う」と注す。<BR>⏎286 
d1387<P>⏎
 388【昔の物語にもあめれど】－『完訳』は「他人には知られても親には隠しだてをする話。『伊勢物語』や『平中物語』などに多い」と注す。「あめれど」の主体は語り手。<BR>⏎287 
d1389<P>⏎
 390【何かはほのかに聞きたまひて】－以下「まだきに心苦し」まで、女房の詞。「ほのかに聞きたまひて」の主語は御息所。<BR>⏎288 
 391【いかならむと思ふどち】－宮と夕霧の仲がこれからどうなるのかと関心をもっている女房同士。「心もとなくて」にかかる。<BR>⏎289 
d1392<P>⏎
 393【なほむげに聞こえさせたまはざらむも】－以下「若々しきやうにぞはべらむ」まで、女房の詞。夕霧からの手紙を開いて見るように勧める。<BR>⏎290 
d1394<P>⏎
 395【あやしう何心もなきさまにて】－以下「え見ずとを言へ」まで、落葉宮の詞。<BR>⏎291 
 396【人にかばかりにても見ゆるあはつけさの】－『集成』は「男の人にあの程度にせよお逢いした至らなさを」と訳す。<BR>⏎292 
 397【慰めがたくなむ】－係助詞「なむ」の下に「思ふ」などの語句が省略。<BR>⏎293 
 398【え見ずとを言へ】－「を」間投助詞、強調の意。<BR>⏎294 
d1399<P>⏎
 400【さるは憎げもなく】－『集成』は「とはいえ。落葉の宮のご不興にもかかわらず、というほどの含み」と注す。語り手の夕霧弁護の句。<BR>⏎295 
d1401<P>⏎
cd2:1402-403【魂をつれなき袖に留めおきてわが心から惑はるるかな】－夕霧から落葉の宮への贈歌。『河海抄』は「飽かざりし袖の中にや入りにけむ我が魂のなき心地する」（古今集雑下、九九二、陸奥）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
296【魂をつれなき袖に留めおきて--わが心から惑はるるかな】－夕霧から落葉の宮への贈歌。『河海抄』は「飽かざりし袖の中にや入りにけむ我が魂のなき心地する」（古今集雑下、九九二、陸奥）を指摘。<BR>⏎
 404【ほかなるものはとか】－以下「さらに行く方知らずのみなむ」まで、歌に続けた手紙文。『奥入』は「身を捨てて行きやしにけむ思ふよりほかなるものは心なりけり」（古今集雑下、九七七、躬恒）を指摘。<BR>⏎297 
 405【さらに行く方知らず】－『一葉集』は「我が恋はむなしき空に満ちぬらし思ひやれども行く方もなし」（古今集恋一、四八八、読人しらず）を指摘。<BR>⏎298 
d1406<P>⏎
 407【人はえまほにも見ず】－女房は正面から手紙を見ることができない。<BR>⏎299 
 408【例のけしきなる今朝の御文にもあらざめれど】－後朝の文らしくないことをいう。「あらざめれど」は女房の視点を通しての叙述。<BR>⏎300 
 409【なほえ思ひはるけず】－『集成』は「普通の後朝の文のような今朝のお手紙でもないようだが、女房たちにはどうも十分に納得がいかない」。『完訳』は「昨夜何事があったのかと不審がる」と注す。<BR>⏎301 
d1410<P>⏎
 411【いかなる御ことにかはあらむ】－以下「思ふも危うく」まで、女房の詞。<BR>⏎302 
 412【かかる方に頼みきこえては】－「かかる方」は、夫としての意。<BR>⏎303 
d1413<P>⏎
 414【見劣りやしたまはむ】－『集成』は「夫になったら、夕霧は思ったほどでもないかもしれない、と危ぶむ。柏木の前例もあるからであろう」。『完訳』は「夕霧の予測に反して宮が劣って見え、彼が宮を冷遇するのではないかと、女房たちは以前の柏木と宮の関係を根拠に不安に思うらしい」と注す。<BR>⏎304 
d1415<P>⏎
note39416　<A NAME="in22">[第二段　律師、御息所に告げ口]</A><BR>305 
d1417<P>⏎
 418【日中の御加持果てて】－大島本は「日中の」とある。『集成』『新大系』は底本のままとする。『完本』は諸本に従って「昼日中の」と「昼」を補訂する。<BR>⏎306 
d1419<P>⏎
 420【大日如来虚言したまはずは】－以下「はかなものなり」まで、阿闍梨の詞。『集成』は「は」を係助詞に解し、読点で下に掛けて読む。『完訳』は「は」を終助詞に解し詠嘆の意にとって、句点で文を完結する。<BR>⏎307 
 421【などてか】－「なきやうはあらむ」に係る。反語表現。<BR>⏎308 
 422【御修法】－大島本は「御す法」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「御修法に」と「に」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎309 
d1423<P>⏎
 424【声はかれて怒りたまふ】－『集成』は「修法に声は嗄れて、いかめしく言い放たれる」。『完訳』は「声はしわがれて肩をいからしておられる」と訳す。<BR>⏎310 
d1425<P>⏎
 426【そよやこの大将はいつよりここには参り通ひたまふぞ】－阿闍梨の詞。<BR>⏎311 
d1427<P>⏎
 428【さることもはべらず】－以下「かたじけなく聞きはべりし」まで、御息所の詞。<BR>⏎312 
d1429<P>⏎
 430【いであなかたは】－以下「もはら受けひかず」まで、阿闍梨の詞。『集成』は「いや、それは見苦しい。いらざる弁解だというほどの意」と注す。<BR>⏎313 
 431【後夜に参う上りつるに】－六時の勤行の一つ。夜半から暁にかけて行われる。<BR>⏎314 
 432【かの西の妻戸より】－落葉宮のいる寝殿の西表の妻戸。<BR>⏎315 
cd2:1433-434【昨夜も御車も返へして】－係助詞「も」、最初の「も」は同例の意、後出の「も」は強調の意。過去にも見掛けたことがあったという含み。<BR>⏎
<P>⏎
316【昨夜も御車も返して】－係助詞「も」、最初の「も」は同例の意、後出の「も」は強調の意。過去にも見掛けたことがあったという含み。<BR>⏎
 435【げにいと香うばしき香の】－「げに」は、法師ばらの言うことを受けた意。<BR>⏎317 
 436【げにさなりけり】－「げに」は、自分自身で納得した気持ち。『集成』は「なるほどそうだったのかと」。『完訳』は「個人個人特有の薫香を用いるので誰であるか分る」と注す。<BR>⏎318 
 437【このこといと切にもあらぬことなり】－『集成』は「このご縁組は、たって望ましいことでもありませぬ」。『完訳』は「この大将のこちらへのお通いは、まったくどうしても是非にといったものではございません」と訳す。<BR>⏎319 
d1438<P>⏎
 439【童にものしたまうし時より】－主語は夕霧。敬語が付いている。<BR>⏎320 
 440【いと益なし】－『集成』は「お二人のご縁組は何のためにもなりませぬ」と訳す。<BR>⏎321 
d1441<P>⏎
 442【女人の悪しき身をうけ】－女は罪深いとする仏教思想。<BR>⏎322 
 443【長夜の闇】－『完訳』は「無明長夜の闇。煩悩ゆえに、死後も未来永劫に迷いさまよって真理の光明を見られないこと」と注す。<BR>⏎323 
c1444【ただかやうなる罪により】－愛欲の罪。<BR>⏎
324【ただかやうの罪により】－愛欲の罪。<BR>⏎
 445【さるいみじき報いをも受くるものなる】－「さる」は、女性に生まれて無明長夜の闇に迷うことをさす。<BR>⏎325 
d1446<P>⏎
 447【いとあやしきことなり】－以下「すくよかにものしたまふ人を」まで、御息所の詞。<BR>⏎326 
 448【うち休みて対面せむ】－以下「立ち止まりたまへる」まで、御達の詞を引用。その中にさらに夕霧の詞を引用。「うち休みて」の主語は夕霧。<BR>⏎327 
 449【さやうにて泊りたまへるにやあらむ】－「さやうにて」は「昨夜も御車も返して」の内容をさす。<BR>⏎328 
 450【ものしたまふ人を】－「を」間投助詞、詠嘆。接続助詞の逆接的ニュアンスもある。『完訳』は「夕霧が宮に通じるはずがない、の気持をこめる。しかし律師の説得力ある言葉に、夕霧への信頼感が揺れる」と注す。<BR>⏎329 
d1451<P>⏎
 452【さることもやありけむ】－以下「はひ入りもやしたまひけむ」まで、御息所の心中。<BR>⏎330 
 453【たはやすく心許されぬことはあらじ】－主語は御息所。夕霧を信頼。<BR>⏎331 
 454【人少なにておはするけしき】－落葉宮の周辺。<BR>⏎332 
 455【たまへりけむ】－大島本は「給へりけむ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「たまひけむ」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎333 
d1456<P>⏎
note39457　<A NAME="in23">[第三段　御息所、小少将君に問い質す]</A><BR>334 
d1458<P>⏎
 459【かかることなむ聞きつる】－以下「あらじとは思ひながら」まで、御息所の詞。「かかること」は、小少将の君には具体的に言った内容を、語り手が要約したもの。<BR>⏎335 
d1460<P>⏎
 461【年ごろ忍びわたり】－以下「いかに聞こえはべるにか」まで、小少将の君の詞。<BR>⏎336 
 462【心の内を聞こえ知らせむ】－夕霧の心の中を落葉の宮に。<BR>⏎337 
 463【ありがたう用意ありてなむ】－『完訳』は「無体な行為には出なかったと弁明」と注す。<BR>⏎338 
 464【いかに聞こえはべるにか】－会話文の引用句がなく、即地の文に続く文章の呼吸。<BR>⏎339 
d1465<P>⏎
 466【律師とは思ひも寄らで】－主語は小少将の君。<BR>⏎340 
 467【人の】－他の女房をさす。<BR>⏎341 
 468【ものものたまはで】－主語は御息所。『完訳』は「小少将の言葉から、夕霧を見たとする律師の話を信頼し、二人に実事があったと思い込む。宮に裏切られた思い」と注す。<BR>⏎342 
 469【見たてまつるもいといとほしう】－小少将の君が御息所を。<BR>⏎343 
 470【何にありのままに】－以下「いとど思し乱るらむ」まで、小少将の君の心中。<BR>⏎344 
d1471<P>⏎
 472【障子は鎖してなむ】－小少将の詞。係助詞「なむ」の下に「はべりつる」などの語句が省略。実事はなかったように言う。<BR>⏎345 
d1473<P>⏎
 474【とてもかくても】－以下「ここにさぶらひて」まで、御息所の詞。『完訳』は「掛け金があろうとなかろうと。襖を隔てただけで。二人の実事を思い込む御息所には、小少将の気休めの言葉もかえって逆効果」と注す。<BR>⏎346 
 475【うちうちの御心きようおはすとも】－落葉宮の心をさす。<BR>⏎347 
 476【よからぬ童べなど】－『集成』は「たちのよくない京童べ。都の無頼の若者たち」。『完訳』は「口さがない若者。ここは、僧たちに従う召使か」と注す。<BR>⏎348 
 477【まさに言ひ残してむや】－「言い残す」は、言わずに置くの意。係助詞「や」反語の意が加わって、言わないことがあろうか、きっと言い触らすにちがいない。「てむ」連語、当然の結果を予想する。<BR>⏎349 
 478【人にはいかに言ひあらがひ】－世間の人に対して。<BR>⏎350 
 479【言ふべきにかあらむ】－反語表現。<BR>⏎351 
d1480<P>⏎
 481【いといとほしげなり】－大島本は「いと／＼ほしけなる」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「いとほしげなり」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎352 
 482【思し嘆かる】－主語は御息所。「る」自発の助動詞。<BR>⏎353 
d1483<P>⏎
 484【かうすこしものおぼゆる隙に】－以下「久しうなりぬる心地すや」まで、御息所の詞。主語は御息所自身。<BR>⏎354 
 485【渡らせたまうべう聞こえよ】－落葉宮にこちらにいらっしゃるよう申し上げなさい、の意。<BR>⏎355 
 486【そなたへ参り来べけれど】－主語は御息所。娘ではあるが皇女なので、自らは「参る」という謙譲語表現をし、宮には「渡らせたまふ」という尊敬語表現を使う。<BR>⏎356 
d1487<P>⏎
 488【参りて】－主語は小少将の君。会話文をはさんで「とばかり聞こゆ」に係る。<BR>⏎357 
d1489<P>⏎
 490【しかなむ聞こえさせたまふ】－小少将の君の詞。「しか」は語り手が言い換えたもの。<BR>⏎358 
d1491<P>⏎
 492【とばかり聞こゆ】－『完訳』は「小少将は自分が密告者のようになりかねないので、ばつがわるい。御息所の言葉だけを伝えた」と注す。副助詞「ばかり」限定の意に注意。<BR>⏎359 
d1493<P>⏎
note39494　<A NAME="in24">[第四段　落葉宮、母御息所のもとに参る]</A><BR>360 
d1495<P>⏎
 496【濡れまろがれたる】－連体中止法。以下にも「ほころびたる」も連体中止法。助詞を省略した間合をもたせる余意余情表現である。<BR>⏎361 
 497【御衣ほころびたる】－『完訳』は「夕霧に引っぱられて綻びていた」と注す。<BR>⏎362 
d1498<P>⏎
 499【この人びともいかに思ふらむ】－以下「つれなくてありしよ」まで、落葉宮の心中。<BR>⏎363 
 500【まだえ知りたまはで】－主語は母御息所。<BR>⏎364 
d1501<P>⏎
 502【心地のいみじう悩ましきかな】－以下「上りたる心地す」まで、落葉宮の詞。<BR>⏎365 
c1503【直らぬさまにもなりなむ】－「なり」動詞、連用形に、完了の助動詞「な」確述の意と推量の助動詞「む」、推量の意が付いて、強い推量の意を表す。以下の文の主語になっている。<BR>⏎
366【直らぬさまにもありなむ】－「なり」動詞、連用形に、完了の助動詞「な」確述の意と推量の助動詞「む」、推量の意が付いて、強い推量の意を表す。以下の文の主語になっている。<BR>⏎
 504【いとめやすかりぬべくこそ】－係助詞「こそ」の下に「あれ」已然形、などの語句が省略された形。強い意志を表す。『集成』は「何もかも好都合というものです」。『完訳』は「そのほうがいやな噂も立たず見苦しいこともなかろうに」と訳す。<BR>⏎367 
d1505<P>⏎
cd2:1506-507【ものをいと苦しうさまざまに思すには気ぞ上りける】－『万水一露』は「双紙の地也」と指摘。<BR>⏎
<P>⏎
368【ものをいと苦しう、さまざまに思すには、気ぞ上がりける】－『万水一露』は「双紙の地也」と指摘。<BR>⏎
 508【上にこの御こと】－以下「同じさまに聞こえさせたまへ」まで、小少将の君の詞。<BR>⏎369 
 509【いかなりしことぞと問はせたまひつれば】－主語は御息所。<BR>⏎370 
d1510<P>⏎
 511【嘆いたまへるけしきは】－御息所が。<BR>⏎371 
 512【さればよと】－落葉宮の心中。<BR>⏎372 
d1513<P>⏎
 514【このことにのみもあらず】－以下「思はせたてまつること」まで、落葉宮の心中。『完訳』は「以下、不本意なわが身を柏木との過往に遡って思念」と注す。<BR>⏎373 
 515【身の思はずになりそめしより】－柏木との不本意な結婚をさす。<BR>⏎374 
cd2:1516-517【いみじうものをのみ思はせたてまつれることと】－母御息所に対して。<BR>⏎
<P>⏎
375【いみじうものをのみ思はせたてまつること】－母御息所に対して。<BR>⏎
 518【生けるかひなく思ひ続けたまひて】－『源注余滴』は「ねぬなはの苦しかるらむ人よりも我ぞ益田の生けるかひなき」（拾遺集恋四、八九四、読人しらず）を指摘。<BR>⏎376 
 519【この人は】－夕霧をさす。以下「聞き苦しかるべう」まで、落葉宮の心中。ただし、その引用句はなく、地の文に続く。<BR>⏎377 
 520【まいていふかひなく】－以下「いかなる名を朽たさまし」まで、落葉の宮の心中。『完訳』「実事がなくともこんなにつらいのだから、まして、意気地なく夕霧の言いなりになっていたら」と注す。<BR>⏎378 
 521【人の言によりて】－「人」は夕霧。接続助詞「て」順接、下文の反実仮想の助動詞「まし」と呼応して、仮定の意を含む。<BR>⏎379 
 522【いかなる名を朽たさまし】－『完訳』は「「まし」に注意。夕霧の言葉に従わずによかったとするが、実は法師たちの噂にのぼされている」と注す。<BR>⏎380 
d1523<P>⏎
 524【かばかりになりぬる高き人の】－以下「人に見ゆるやうはあらじかし」まで、落葉宮の心中。「かばかりになりぬる貴き人」とは皇女の意。<BR>⏎381 
 525【夕つ方ぞ】－係助詞「ぞ」は「渡りたまへる」に係る。<BR>⏎382 
d1526<P>⏎
 527【なほ渡らせたまへ】－御息所からの消息。<BR>⏎383 
d1528<P>⏎
 529【中の塗籠の戸開けあはせて】－『完訳』は「女房や僧などの目を避けるべく、この塗籠を通り抜けるか」と注す。<BR>⏎384 
d1530<P>⏎
note39531　<A NAME="in25">[第五段　御息所の嘆き]</A><BR>385 
d1532<P>⏎
 533【苦しき御心地にもなのめならずかしこまりかしづききこえたまふ】－主語は御息所。母が娘の皇女に対して礼儀を尽くす態度。<BR>⏎386 
d1534<P>⏎
c1535【いと乱りがはしくはべれば】－以下「悔しきまでなむ」まで、御息所の詞。<BR>⏎
387【いと乱りがはしげにはべれば】－以下「悔しきまでなむ」まで、御息所の詞。<BR>⏎
 536【心苦しうてなむ】－係助詞「なむ」の下に「はべる」などの語句が省略。<BR>⏎388 
 537【はかなくなむ】－係助詞「なむ」の下に「はべる」などの語句が省略。<BR>⏎389 
 538【後かならずしも対面のはべるべきにもはべらざめり】－「後」は、来世。親子は一世の縁という。『河海抄』は「一世には二たび見えぬ父母を置きてや長く吾が別れなむ」（万葉集巻五、八九一）を引歌として指摘。<BR>⏎390 
 539【まためぐり参るともかひやははべるべき】－仏教の輪廻転生の考え。反語表現。『集成』は「もう一度この世に生を享けましても、何にもならぬことでございます。お互い顔も見知らぬであろうからである」と注す。『源注拾遺』は「契りありて此の世にまたも生まるとも面変はりして見もや忘れむ」（後拾遺集哀傷、五六六、藤原実方）を引歌として指摘。<BR>⏎391 
d1540<P>⏎
c1541【ただ時のまに隔たりぬべき世の中を】－『集成』は「思えば、ほんの一時のうちに別れ別れにならねばならない無常迅速のこの世ですのに、それを勝手についつい親子の情にほだされてきましたのも、今となってはくやまれるほどでございます」と訳す。<BR>⏎
392【ただ時の間に隔たりぬべき世の中を】－『集成』は「思えば、ほんの一時のうちに別れ別れにならねばならない無常迅速のこの世ですのに、それを勝手についつい親子の情にほだされてきましたのも、今となってはくやまれるほどでございます」と訳す。<BR>⏎
 542【あながちにならひはべりにけるも】－『休聞抄』は「思ふとていとこそ人に馴れざらめしか習ひてぞ見ねば恋しき」（拾遺集恋四、九〇〇、読人しらず）を引歌として指摘。<BR>⏎393 
 543【悔しきまでなむ】－係助詞「なむ」の下に「思ふ」などの語句が省略。<BR>⏎394 
d1544<P>⏎
 545【ものづつみをいたうしたまふ本性に際々しうのたまひさはやぐべきにもあらねば】－落葉宮の性格。『完訳』は「宮の遠慮深く寡黙な性分。ここで宮が夕霧との一件を弁明せず、御息所も不憫さから何も尋ねない」と注す。<BR>⏎395 
 546【問ひきこえたまはず】－主語は御息所。御息所の誤解思い込みは解消されないまま、母と娘の間の気まずさは続く。<BR>⏎396 
d1547<P>⏎
 548【とかう手づからまかなひ直しなどしたまへど】－主語は御息所。病床から起き上がって礼儀を尽くしていた御息所が自ら宮に食事の給仕をする。<BR>⏎397 
 549【ただ御心地のよろしう見えたまふぞ胸すこしあけたまふ】－御息所のご気分がよく見えたので、宮はわずかほっとなさる、というさま。<BR>⏎398 
d1550<P>⏎
note39551　<H4>第三章　一条御息所の物語　行き違いの不幸</H4>399 
note39552　<A NAME="in31">[第一段　御息所、夕霧に返書]</A><BR>400 
d1553<P>⏎
 554【大将殿より少将の君にとて御使ひあり】－大島本は「御つかひ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「御文」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。女房の取り次ぎの詞。<BR>⏎401 
d1555<P>⏎
 556【またわびしきや】－『集成』は「宮の思いを直接地の文として書く」。『完訳』は「宮や小少将の立場に即した語り手の感想」と注す。<BR>⏎402 
d1557<P>⏎
 558【いかなる御文にか】－御息所の詞。<BR>⏎403 
d1559<P>⏎
 560【さすがに問ひたまふ】－前に「いかなりしなども問ひきこえたまはず」を受けて、そうは言ってもやはり気がかりで、という文脈。『完訳』は「二人の実事を確信する御息所は、その結婚を不本意としながらも、結ばれた上は夕霧が今夜も来るのを当然と考え、手紙だけ来たのを不審に思う」と注す。<BR>⏎404 
 561【人知れず思し弱る心も添ひて下に待ちきこえたまひけるにさもあらぬなめりと思ほすも】－主語は御息所。『集成』は「御息所は、ひそかに、宮を夕霧に許そうと、折れる気持にもなっていられて。事ここに及んでは止むを得ないという気持になっていたのである」と注す。<BR>⏎405 
d1562<P>⏎
 563【いでその御文】－以下「甘えたるさまなるべし」まで、御息所の詞。<BR>⏎406 
 564【あいなき甘えたるさまなるべし】－この文の前に、返事をしないのは、という内容が略されている。前文の「こそよからめ」という係結びの構文が、逆接的文脈のニュアンスを介在させるので、このような言い方になっている。<BR>⏎407 
d1565<P>⏎
 566【召し寄す】－夕霧からの手紙を。<BR>⏎408 
d1567<P>⏎
 568【あさましき御心のほどを】－以下、和歌の末尾「つつみ果てずは」まで、夕霧の消息文。<BR>⏎409 
d1569<P>⏎
cd2:1570-571【せくからに浅さぞ見えむ山川の流れての名をつつみ果てずは】－「塞く」「浅さ」「流れ」が「山川」の縁語。<BR>⏎
<P>⏎
410【せくからに浅さぞ見えむ山川の--流れての名をつつみ果てずは】－「塞く」「浅さ」「流れ」が「山川」の縁語。<BR>⏎
 572【今宵つれなきを】－今夜の訪問のないのを、の意。<BR>⏎411 
d1573<P>⏎
 574【故督の君の】－以下「思ひのたまはむこと」まで、御息所の心中。<BR>⏎412 
 575【こなたに力ある心地して慰めしだに】－『完訳』は「皇女で正妻ゆえの強みがある気がして慰めた、それでさえけっして満足できなかった」と注す。<BR>⏎413 
d1576<P>⏎
 577【なほいかがのたまふとけしきをだに見む】－御息所の心中。<BR>⏎414 
 578【くるるやうにしたまふ目おし絞りて】－「したまふ」は連体形で下の「目」を修飾する。<BR>⏎415 
d1579<P>⏎
 580【頼もしげなく】－以下、和歌の末尾「宿を借りけむ」まで、御息所の返書。<BR>⏎416 
 581【渡りたまへる】－主語は、落葉宮。<BR>⏎417 
d1582<P>⏎
cd2:1583-584【女郎花萎るる野辺をいづことて一夜ばかりの宿を借りけむ】－『河海抄』は「秋の野に狩りぞ暮れぬる女郎花今宵ばかりの宿もかさなむ」（古今六帖二、小鷹狩）を指摘。「女郎花」を宮に、「野辺」を小野山荘に喩える。『集成』は「今宵の訪れのないのを責めた歌であるが、同時に、母親として娘を許すという意志表示にもなっている」。『完訳』は「二人の結婚を前提に夕霧の訪れぬのをなじる歌」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
418【女郎花萎るる野辺をいづことて--一夜ばかりの宿を借りけむ】－『河海抄』は「秋の野に狩りぞ暮れぬる女郎花今宵ばかりの宿もかさなむ」（古今六帖二、小鷹狩）を指摘。「女郎花」を宮に、「野辺」を小野山荘に喩える。『集成』は「今宵の訪れのないのを責めた歌であるが、同時に、母親として娘を許すという意志表示にもなっている」。『完訳』は「二人の結婚を前提に夕霧の訪れぬのをなじる歌」と注す。<BR>⏎
 585【御もののけのたゆめけるにや】－女房の詞。今まで御息所の気分が良かったのは、の意が省略されている。<BR>⏎419 
d1586<P>⏎
 587【なほ渡らせたまひね】－女房の詞。物の怪が落葉の宮に移らないように。<BR>⏎420 
d1588<P>⏎
 589【御身の憂きままに】－副詞「ままに」。--につれての意と、--と同時にの意があるが、ここは後者の意であろう。『集成』は「情けなさを思うあまり」。『完訳』は「情けなさにつけても」と訳す。<BR>⏎421 
d1590<P>⏎
note39591　<A NAME="in32">[第二段　雲居雁、手紙を奪う]</A><BR>422 
d1592<P>⏎
 593【三条殿におはしにける】－連体中止法。間合が生きている。<BR>⏎423 
 594【今宵立ち返り参でたまはむに】－小野山荘に行くことをさす。昨晩一泊した。今夜も行けば結婚の三日通いにとられる。以下「聞き苦しかるべし」まで、夕霧の心中に即した地の文。そのため敬語「たまふ」がある。<BR>⏎424 
 595【千重にもの思ひ重ねて】－『源氏釈』は「心には千重に思へど人にいはぬ我が恋ひ妻を見むよしもがな」（古今六帖四、恋）を指摘。『源注余滴』は「和泉なる信太の森の楠の木の千重に別れて物をこそ思へ」（古今六帖二、森）を指摘。<BR>⏎425 
d1596<P>⏎
 597【昼の御座に臥したまへり】－以下「御心ならひなべかめり」まで、国宝「源氏物語絵巻」詞書にある。<BR>⏎426 
d1598<P>⏎
 599【この御返り持て参れるを】－母御息所が代筆した返書。「頼もしげなくなりにて」以下「宿を借りけむ」までの内容をさす。<BR>⏎427 
 600【女君もの隔てたるやうなれど】－『集成』は「人ごとのような顔をしていらしたが」。『完訳』は「女君は、その場からは何か隔て越しのようであったけれど」と訳す。<BR>⏎428 
cd2:1601-602【はひ寄りて御う後より取りたまうつ】－国宝「源氏物語絵巻」には夕霧の背後から右手を伸ばした雲居雁の立ち姿が描かれている。<BR>⏎
<P>⏎
429【はひ寄りて、御後ろより取りたまうつ】－国宝「源氏物語絵巻」には夕霧の背後から右手を伸ばした雲居雁の立ち姿が描かれている。<BR>⏎
 603【あさましうこはいかにしたまふぞ】－以下「むげに恥ぢたまはぬよ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎430 
 604【六条の東の上の御文なり】－花散里からの手紙であると嘘をつく。花散里は、夕霧の養母。<BR>⏎431 
 605【院の御前にはべりて】－源氏の御前をさす。<BR>⏎432 
 606【今の間いかに】－『大系』は「あはざりし時いかなりし物とてかただ今の間も見ねば恋しき（後撰集恋一、五六四、読人しらず）「いかなれや昔思ひしほどよりも今の間思ふ事のまさるは」（落窪物語）を指摘。<BR>⏎433 
 607【思はむところをむげに恥ぢたまはぬよ】－『集成』は「わたしがどう思おうと、ちっとも気になさらないことだ」。『完訳』は「わたしがどう思おうとまるではずかしいとお思いにならないのですね」と訳す。<BR>⏎434 
d1608<P>⏎
 609【さすがに】－奪ってはみたものの、やはり、の意。本当に養母からの手紙であったらとも思う。はしたなさと嫉妬心むきだしにするのも体裁悪いので。<BR>⏎435 
d1610<P>⏎
 611【年月に添ふるあなづらはしさは御心ならひなべかめり】－雲居雁の詞。夕霧の「とし月にそへていたうあなつりたまふこそうれたけれ」の言葉を取って返す。<BR>⏎436 
d1612<P>⏎
 613【かくうるはしだちたまへるに】－夕霧の態度をさす。<BR>⏎437 
 614【若やかにをかしきさましてのたまへば】－主語は雲居雁。<BR>⏎438 
d1615<P>⏎
 616【そはともかくもあらむ】－以下「いづこの栄えかあらむ」まで、夕霧の詞。代名詞「そ」は、互いに相手が悪くなったと言ったことをさす。<BR>⏎439 
c2617-618【またあらしかし】－読点で、下文にかけて読む句。<BR>⏎
【もの懼ぢしたる鳥の兄鷹のもののやうなるは】－「兄鷹（せう）」。雄鷹は雌鷹にびくびくしているという譬えによる。終助詞「は」詠嘆の意。句点で文が切れる。<BR>⏎
440-441【またあらじかし】－読点で、下文にかけて読む句。<BR>⏎
【もの懼ぢしたる鳥の兄鷹やうのもののやうなるは】－「兄鷹（せう）」。雄鷹は雌鷹にびくびくしているという譬えによる。終助詞「は」詠嘆の意。句点で文が切れる。<BR>⏎
 619【さるかたくなしき者に】－夕霧自身をさしていう。<BR>⏎442 
d1620<P>⏎
 621【あまたが中になほ際まさりことなるけぢめ見えたるこそ】－『完訳』は「大勢の妻妾の中でれっきとした地位を保つこと」と注す。<BR>⏎443 
c1622【わが心地も古りがたく】－夕霧の気持ち。<BR>⏎
444【わが心地もなほ古りがたく】－夕霧の気持ち。<BR>⏎
 623【翁のなにがし守りけむやうに】－走り出た兎が偶然に当たって首を折った切株を再度期待して見守ったという、「韓非子」五蠹篇に見える話。『源注拾遺』は「住吉の小集楽（をづめ）に出でてうつつにもおの妻すらを鏡と見つも（万葉集巻十六、三八〇八）を指摘。<BR>⏎445 
 624【この文のけしきなく】－この手紙を取り返そうの素振り。<BR>⏎446 
 625【をこつり取らむの心にて】－大島本は「をこつりとゝむ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「取らむ」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。「をこつり」清音。だましとる。『源注拾遺』は「あだ人のをこつり棹の危うさにうけ引くことのかたくもあるかな」（古今六帖五　思ひわづらふ）を指摘。<BR>⏎447 
d1626<P>⏎
 627【ものの映え映えしさ作り出でたまふほど】－以下「ならはしたまはで」まで、雲居雁の詞。落葉宮との関係をいう。<BR>⏎448 
 628【古りぬる人苦しや】－雲居雁自身をいう。三十一歳。夕霧は二十九歳。<BR>⏎449 
 629【今めかしくなり変はれる御けしきのすさまじさも】－大島本は「いまめかしさも」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「今めかしくなり変はれる御けしきのすさまじさも」と、「くなり変はれる御けしきのすさまじ」を補訂する。『新大系』は底本のままとし、脚注に「底本の脱文である」と注す。夕霧を諷していう。<BR>⏎450 
 630【かねてよりならはしたまはで】－『源氏釈』は「かねてよりつらさを我にならはさでにはかに物を思はするかな」（出典未詳）を指摘。<BR>⏎451 
d1631<P>⏎
 632【にはかにと】－以下「いとほしう」まで、夕霧の詞。<BR>⏎452 
c1633【よからずもの聞こえ知らする人ぞある人そあるべき】－後文から大輔の乳母を指して言っていることがわかる。<BR>⏎
453【よからずもの聞こえ知らする人ぞあるべき】－後文から大輔の乳母を指して言っていることがわかる。<BR>⏎
 634【かの緑の袖の名残】－夕霧が六位の叙せられたことをさす。「少女」巻に見える。『河海抄』は「松ならば引く人けふはありなまし袖の緑ぞかひなかりける」（拾遺集雑春、一〇二七、大中臣能宣）を指摘。<BR>⏎454 
 635【もてなしたてまつらむと】－あなた雲居雁を。<BR>⏎455 
 636【思ふやうあるにや】－『集成』は「魂胆でもあるのでしょうか」、「や」を係助詞に解す。『完訳』は「意趣でもあるのでしょうよ」、「や」を間投助詞に解す。<BR>⏎456 
 637【あいなき人の御ためにも】－『集成』は「巻き添えにされたお人（落葉の宮）にとってもご迷惑なことです」と訳す。<BR>⏎457 
d1638<P>⏎
 639【つひにあるべきことと思せば】－『完訳』は「結局は宮を得ることになろうと」と注す。<BR>⏎458 
 640【大輔の乳母いと苦しと聞きて】－雲居雁の乳母。「少女」巻で夕霧を蔑んだ人。<BR>⏎459 
d1641<P>⏎
note39642　<A NAME="in33">[第三段　手紙を見ぬまま朝になる]</A><BR>460 
d1643<P>⏎
 644【つれなく大殿籠もりぬれば】－主語は夕霧。『異本紫明抄』は「人にあはむ月のなきには思ひおきてむね走り火に心焼けをり（古今集誹諧歌、一〇三〇、小野小町）を指摘。<BR>⏎461 
 645【いかで取りてしがなと】－以下「何ごとありつらむ」まで、夕霧の心中。途中に地の文の引用句「と」が介在する。『完訳』は「「と」は「--ありつらむと」と並列で、夕霧の心中叙述の文脈を構成」と注す。<BR>⏎462 
d1646<P>⏎
 647【女君の寝たまへるに】－『集成』は「眠っていられる間」、「に」を格助詞に解す。『完訳』は「眠っていらっしゃるので」、「に」を接続助詞、順接の意に解す。<BR>⏎463 
 648【御座の下などに】－大島本は「したなとに」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「下など」と「に」を削除する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎464 
d1649<P>⏎
 650【女はかく求めむとも】－大島本は「女なは」とある。「な」は衍字であろう。『集成』は「「女君」と呼ばず、敬語抜きなのは、その人に遠慮抜きで親しく密着した書き方。次に夕霧も単に「男」と呼ばれる」。『完訳』は「「男」とともに、夫婦のあり方を強調した呼称」と注す。<BR>⏎465 
 651【心にも入れねば】－「取りし文のことも」にかかる。「君達のあわて遊び」以下「引きしろへば」まで、挿入句。<BR>⏎466 
 652【書読み手習ひなど】－『集成』は「漢籍の素読をしたり、お習字をしたりなど。これは少し大きい子たちのお勉強である」と注す。<BR>⏎467 
 653【取りし文のことも思ひ出でたまはず】－主語は雲居雁。<BR>⏎468 
d1654<P>⏎
 655【見ぬさまならむも散らしてけると推し量りたまふべし】－夕霧の心中。苦悩。<BR>⏎469 
d1656<P>⏎
 657【昨夜の御文は】－以下「何ごとかありけむ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎470 
 658【見せたまはで】－句点。余意余情効果。<BR>⏎471 
 659【何ごとかありけむ】－『集成』は「どんなご用だったのだろう」。下文の「さりげなく」と呼応させて自問のように訳す。『完訳』は「どんなことだったのでしょうか」。相手への問い掛けとして訳す。<BR>⏎472 
d1660<P>⏎
 661【文はをこがましう取りてけり】－雲居雁の心中。後悔、反省の気持ち。<BR>⏎473 
d1662<P>⏎
c1663【一夜の御山風に】－以下「聞こえたまへかし」まで、雲居雁の詞。「御山風」は小野山荘訪問を喩える。皮肉を込める。<BR>⏎
474【一夜の深山風に】－以下「聞こえたまへかし」まで、雲居雁の詞。「御山風」は小野山荘訪問を喩える。皮肉を込める。<BR>⏎
 664【あやまりたまへる】－小野の山風に当たって身体の具合を悪くした、の意。<BR>⏎475 
 665【悩ましさななり】－「ななり」は断定の助動詞＋伝聞推定の助動詞。--であるようだ、の意。<BR>⏎476 
d1666<P>⏎
 667【いでこのひがこと】－以下「ほほ笑むらむものを」まで、夕霧の詞。『集成』は「何と、そんな見当違いなことを、いつもいつもおっしゃるでない。邪推だと、たしなめる」と注す。『完訳』は「まあ、そんなつまらぬことをいつも口になさらぬがよい」と訳す。<BR>⏎477 
d1668<P>⏎
 669【その文よいづら】－夕霧の詞。<BR>⏎478 
d1670<P>⏎
note39671　<A NAME="in34">[第四段　夕霧、手紙を見る]</A><BR>479 
d1672<P>⏎
 673【ひぐらしの声におどろきて】－『源氏物語引歌』は「ひぐらしの鳴きつるなべに日は暮れぬと思ふは山の蔭にぞありける」（古今集秋上、二〇四、読人しらず）を指摘。<BR>⏎480 
cd2:1674-675【山の蔭いかに】－以下「御返事をだに」まで、夕霧の心中。「山の蔭」は小野山荘をさす。直前の「ひぐらしの」歌による措辞。<BR>⏎
【いかに霧りふたがりぬらむ】－『完訳』は「涙に濡れて思い屈する意」と注す。<BR>⏎
481【山の蔭いかに霧りふたがりぬらむ】－以下「御返事をだに」まで、夕霧の心中。「山の蔭」は小野山荘をさす。直前の「ひぐらしの」歌による措辞。<BR>【いかに霧りふたがりぬらむ】－『完訳』は「涙に濡れて思い屈する意」と注す。<BR>⏎
 676【いとほしうて】－『集成』は「困ってしまって」。『完訳』は「あの宮がおいたわしく思われるので」と訳す。<BR>⏎482 
 677【眺めおはする】－連体中止法。<BR>⏎483 
d1678<P>⏎
 679【御座の奥の】－『集成』は「夕霧のだろう」。『完訳』は「夕霧の。一説に雲居雁の」と注す。<BR>⏎484 
 680【これにさし挟みたまへるなりけり】－夕霧の心中。「けり」過去の助動詞、詠嘆の意。<BR>⏎485 
 681【一夜のことを心ありて聞きたまうける】－夕霧の心中。『完訳』は「意味ありげに。御息所の「女郎花--」の歌から宮との実事が思われていると察する」と注す。<BR>⏎486 
d1682<P>⏎
 683【昨夜だにいかに】－以下「文をだに」まで、夕霧の心中。『集成』は「昨夜だって、どんな思いで夜をお明かしだったろう、今日も、今までお返事もさし上げないでと」。『完訳』は「御息所の判断では昨夜は結婚の第二夜。それを無視したと気づく」と注す。「昨夜だに」の副助詞「だに」は、軽いほうを示して重いほうを暗示する文脈を作る。昨夜すらまして今日は、の気持ち。「文をだに」の下には「差し上げないで」の意が省略。否定の語句と呼応して最小限のそれさえ、という気持ちを含む表現。<BR>⏎487 
d1684<P>⏎
 685【おぼろけに】－以下「今宵の明けつらむ」まで、夕霧の心中。『集成』は「娘を許すとまで書いた御息所の苦衷を察する」と注す。<BR>⏎488 
d1686<P>⏎
 687【女君ぞいとつらう心憂き】－雲居雁をさす。<BR>⏎489 
d1688<P>⏎
 689【すずろにかく】－以下「わがならはしぞや」まで、夕霧の心中。<BR>⏎490 
 690【わがならはしぞやと--すべて泣きぬべき心地】－『源氏釈』は「海人のかるもに棲む虫のわれからと音をこそ泣かめ世をば恨みじ（古今集恋五、八〇七、典侍藤原直子朝臣）を引歌指摘。「や」詠嘆の意。<BR>⏎491 
cd2:1691-692【身もつらく】－大島本は「身もつらく」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「身もつらくて」と「て」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。。<BR>⏎
<P>⏎
492【身もつらく】－大島本は「身もつらく」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「身もつらくて」と「て」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎
 693【心やすく対面も】－以下「なほ吉からむことをこそ」まで、夕霧の心中。<BR>⏎493 
 694【人もかくのたまふ】－「人」は御息所をさす。<BR>⏎494 
 695【坎日にもありけるを】－「ありける」という過去表現。「坎日」は陰陽道で外出その他を忌む日。『完訳』は「宮との結婚を一方的にきめこんで、それが凶日から始るのを避けようとする夕霧には、宮や御息所の苦悩が想像できない」と注す。<BR>⏎495 
d1696<P>⏎
 697【うるはしき心に】－『完訳』は「几帳面な心に。語り手の皮肉」と注す。<BR>⏎496 
d1698<P>⏎
 699【いとめづらしき御文を】－以下「ひたやごもりにや」まで、夕霧から一条御息所への返書。<BR>⏎497 
 700【この御咎めをなむ】－句点で文が切れる。係助詞「なむ」の下に「いかにせむ」などの語句が省略された形。『集成』は「このお叱りは何としたことなのでしょう」。『完訳』は「このお咎めをどうお受けしたらよいのでしょうか」と訳す。<BR>⏎498 
d1701<P>⏎
cd2:1702-703【秋の野の草の茂みは分けしかど仮寝の枕結びやはせし】－「草」「枕」「結び」が縁語。「結びやはせし」反語表現。仮初の契りを結んだおぼえはありません、の意。<BR>⏎
<P>⏎
499【秋の野の草の茂みは分けしかど--仮寝の枕結びやはせし】－「草」「枕」「結び」が縁語。「結びやはせし」反語表現。仮初の契りを結んだおぼえはありません、の意。<BR>⏎
 704【昨夜の罪はひたやごもりにや】－『異本紫明抄』は「憂きによりひたやごもりと思へども近江の海は打出てみよ」（和泉式部集）を指摘。『集成』は「一方的な決めつけ方だという気持」と注す。『完訳』は「それを黙ってお受けしなければならないのでしょうか」と訳す。「にや」の下に「あらむ」などの語句が省略された形。<BR>⏎500 
d1705<P>⏎
 706【御厩に足疾き御馬に移し置きて】－『源注拾遺』は「常陸なるをのだの御牧の露草をうつしは駒のおくにぞありける」（閑院左大将朝光卿集）を指摘。『集成』は「移鞍（うつしぐら）という。移馬（うつしうま、官吏の公用の乗馬用として左右の馬寮に飼われている馬）に置く一定の型式の鞍。駿足の馬に公用の鞍を用いさせたというのは、使命の重さを印象づける」と注す。<BR>⏎501 
d1707<P>⏎
 708【昨夜より】－以下「まかでつると言へ」まで、夕霧の詞。大夫に嘘を言うように命じる。<BR>⏎502 
d1709<P>⏎
note39710　<A NAME="in35">[第五段　御息所の嘆き]</A><BR>503 
d1711<P>⏎
 712【昨夜もつれなく見えたまひし御けしきを】－「つれなく」は訪問のなかったことをさす。副助詞「も」は強調のニュアンスを添える。<BR>⏎504 
 713【後の聞こえをもつつみあへず】－後々の評判とは、御息所のほうから手紙を贈って宮の結婚を許した、ということをさす。<BR>⏎505 
 714【いかばかりの御心にかはと】－以下、御息所の心中に即した地の文。「御心」は夕霧の心を推測したもの。<BR>⏎506 
d1715<P>⏎
 716【なかなか正身の御心のうちは】－『集成』は「夕霧の訪れのないのをかえって幸いとするほどの気持であろう」。『完訳』は「世間体を気にする御息所とは対照的」と注す。<BR>⏎507 
 717【おぼえぬ人にうちとけたりし】－夕霧をさす。<BR>⏎508 
 718【いみじうおぼいたるを】－主語は落葉宮。<BR>⏎509 
 719【いと心苦しう】－以下「添ふべかりける」まで、御息所の心中。<BR>⏎510 
d1720<P>⏎
 721【今さらに】－以下「はべりけるかな」まで、御息所の詞。<BR>⏎511 
 722【心幼くて】－大島本は「をさなくて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「心幼くて」と「心」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎512 
 723【負ひたまふべきことを】－『集成』は「を」格助詞、目的格の意に解し、読点で文を下に続ける。『完訳』は「を」間投助詞、詠嘆の意に解し、句点で文を結ぶ。<BR>⏎513 
 724【さる心したまへ】－『完訳』は「世間の非難をつのらせぬよう、慎重にふるまってほしい、の意」と注す。<BR>⏎514 
d1725<P>⏎
 726【数ならぬ身ながらもよろづに育みきこえつるを】－御息所は落葉の宮に対して宮様ゆえに、母子の関係ではあるが、自ら遜り娘に尊敬語を使用する。<BR>⏎515 
 727【見たてまつりおきつることと】－お世話申してきた、の意。<BR>⏎516 
 728【いといはけて強き御心おきての】－『源注拾遺』は「逢ふことの片寄せにする網の目にいはけなきまで恋ひかかりぬる」（古今六帖三、網）を指摘。<BR>⏎517 
 729【とどめまほしうなむ】－係助詞「なむ」の下に「思ひはべる」などの語句が省略。<BR>⏎518 
d1730<P>⏎
 731【ただ人だに】－臣下の人でさえ、まして皇女は、のニュアンス。<BR>⏎519 
c1732【女の人二人と見る例は心憂くあはつけきわざなるを】－『河海抄』は「忠臣不事二君、貞女不更二夫」（史記、田単列伝）を指摘。<BR>⏎
520【女の、人二人と見るためしは、心憂くあはつけきわざなるを】－『河海抄』は「忠臣不事二君、貞女不更二夫」（史記、田単列伝）を指摘。<BR>⏎
 733【さばかりおぼろけにて】－そんないい加減なことで、の意。<BR>⏎521 
c1734【人の近づき聞こゆべきにもあらぬを】－推量の助動詞「べき」当然の意。「を」について、『集成』は接続助詞、逆接の意に解し、読点で下文に続けて読み、『完訳』は間投助詞、詠嘆の意に解し、句点で文を結ぶ。<BR>⏎
522【人の近づききこゆべきにもあらぬを】－推量の助動詞「べき」当然の意。「を」について、『集成』は接続助詞、逆接の意に解し、読点で下文に続けて読み、『完訳』は間投助詞、詠嘆の意に解し、句点で文を結ぶ。<BR>⏎
 735【思ひのほかに心にもつかぬ御ありさまと】－御息所は落葉宮の柏木との結婚を不本意なことと思っていた。<BR>⏎523 
 736【御宿世にこそは】－係助詞「こそ」「は」の下に「あれ」などの語句が省略。<BR>⏎524 
d1737<P>⏎
 738【この父大臣】－落葉宮の夫の父親である致仕太政大臣。<BR>⏎525 
 739【許いたまふべき御けしき】－朱雀院の御内意。<BR>⏎526 
 740【思ひ寄りはべりし】－大島本は「おもひより」とある。『集成』『新大系』は底本のままとする。『完本』は諸本に従って「思ひ弱り」と「わ」を補訂する。<BR>⏎527 
 741【大空をかこちて見たてまつり過ぐすを】－『異本紫明抄』は「身の憂きを世の憂きとのみながむればいかに大空苦しかるらむ」（出典未詳）を指摘。『源注拾遺』は「世の中はいかに苦しと思ふらむここらの人に恨みらるれば」（古今集雑体、一〇六二、在原元方）「大空は恋しき人の形見かはもの思ふごとに眺めらるらむ」（古今集恋四、七四三、境人実）を指摘。『評釈』は「逢ふことはいとど雲居の大空に立つ名のみしてやみぬばかりか」（後撰集恋一、五三五、読人しらず）を指摘する。<BR>⏎528 
 742【よその御名をば】－世間でのあなたの評判、の意。<BR>⏎529 
 743【世の常の御ありさまにだにあらば】－世間並の夫婦、の意。副助詞「だに」せめて--だけでも、という最低限のニュアンスを添える。<BR>⏎530 
d1744<P>⏎
 745【つぶつぶと泣きたまふ】－『集成』は「かきくどいて」。『完訳』は「しきりに涙をおこぼしになる」と訳す。<BR>⏎531 
d1746<P>⏎
note39747　<A NAME="in36">[第六段　御息所死去す]</A><BR>532 
d1748<P>⏎
 749【いとわりなくおしこめてのたまふを】－主語は御息所。<BR>⏎533 
 750【ただうち泣きたまへるさま】－落葉宮の様子。<BR>⏎534 
 751【うちまもりつつ】－主語は御息所。<BR>⏎535 
d1752<P>⏎
 753【あはれ何ごとかは】－以下「契り深かりけむ」まで、御息所の詞。「何ごとかは--劣りたまへる」反語表現。<BR>⏎536 
 754【いかなる御宿世にて】－疑問表現。前世の因果を思う。<BR>⏎537 
d1755<P>⏎
 756【のたまふままに】－連語「ままに」、同時進行の意。おっしゃっているうちに。<BR>⏎538 
 757【もののけなどもかかる弱目に所得るものなりければ】－『湖月抄』は「地」と注す。<BR>⏎539 
 758【願など立て】－蘇生の願文。<BR>⏎540 
d1759<P>⏎
 760【深き誓ひにて】－以下「仏もつらくおぼえたまふべきこと」まで、願文の趣旨。<BR>⏎541 
 761【出で立ちて壇こぼちて】－最初の接続助詞「て」逆接用法、後出の接続助詞「て」順接用法。「壇壊つ」は、修法の護摩壇。加持の僧侶は効験がないと判断すると護摩壇を壊して帰山する。<BR>⏎542 
d1762<P>⏎
 763【ほのかに聞きたまひて】－主語は御息所。『完訳』は「御息所は少し意識を回復する」と注す。<BR>⏎543 
 764【今宵もおはすまじきなめり】－御息所の心中。<BR>⏎544 
d1765<P>⏎
c1766【心憂く世の例にも】－以下「残しけむ」まで、御息所の心中。「世の例」は、『完訳』は「皇女なのに一夜で男に捨てられる例」と注す。<BR>⏎
545【心憂く。世のためしにも】－以下「残しけむ」まで、御息所の心中。「世の例」は、『完訳』は「皇女なのに一夜で男に捨てられる例」と注す。<BR>⏎
 767【さる言の葉を】－夕霧に贈った手紙、特に「女郎花」の歌をさす。<BR>⏎546 
d1768<P>⏎
 769【あへなくいみじと言へばおろかなり】－『全集』は「語り手のことば」と注す。<BR>⏎547 
 770【例のごと取り入れたるなめり】－僧たちの心中。『集成』は「いつものように物の怪が気を失わせたのだろうと」。『完訳』は「物の怪が魂を奪って、自分のほうに取り込める意」と注す。<BR>⏎548 
d1771<P>⏎
 772【人びと参りて】－女房たち。<BR>⏎549 
d1773<P>⏎
 774【今はいふかひなし】－以下「御心にはかなふべき」まで、女房の詞。<BR>⏎550 
c1775【限りある道には】－『集成』は「きまった運命の死出の旅路では」。『完訳』は「決められた死出の御旅路から」と訳す。<BR>⏎
551【限りある道は】－『集成』は「きまった運命の死出の旅路では」。『完訳』は「決められた死出の御旅路から」と訳す。<BR>⏎
 776【いかでか】－「--かなふべき」反語表現。<BR>⏎552 
d1777<P>⏎
 778【いとゆゆしう】－以下「去らせたまへ」まで、女房の詞。<BR>⏎553 
 779【亡き御ためにも罪深きわざなり】－『完訳』は「死者に執して後を追うようなのは、死者の成仏を妨げるとする」と注す。<BR>⏎554 
d1780<P>⏎
 781【さるべき限り片へこそ立ちとまれ】－『集成』は「しかるべき僧たちだけ。近親者とともに三十日の忌に篭る僧たちであろう」、完訳「葬儀を行うべき人々だけ。三十日の忌に篭る僧たちか」と注す。係助詞「こそ」--「とまれ」係結び、逆接用法。<BR>⏎555 
 782【いと悲しう心細し】－『評釈』は「第三者として眺めている作者（物語の語り手）の判断なのである。この語はなくてもよい。しかし語り手はつぶやかずにはいられないのだ」と注す。<BR>⏎556 
d1783<P>⏎
note39784　<A NAME="in37">[第七段　朱雀院の弔問の手紙]</A><BR>557 
d1785<P>⏎
 786【日ごろ重く悩みたまふと】－以下「思し慰めたまへ」まで、朱雀院から落葉の宮への弔問の手紙文。<BR>⏎558 
 787【うちたゆみてなむ】－係助詞「なむ」の下に「はべりける」などの語句が省略。余意余情の効果表現。<BR>⏎559 
 788【思ひ嘆いたまふらむありさま】－『完訳』は「御息所の死よりも、宮の悲嘆ぶりを想像して同情する」と注す。<BR>⏎560 
 789【なべての世のことわりに思し慰めたまへ】－『集成』は「世間の人誰しも逃れられぬ（無常の）道理なのだと、お心をお慰めなさい。出家人らしい言い方」と注す。<BR>⏎561 
d1790<P>⏎
 791【さこそあらめ】－御息所の遺言の趣旨。死後すぐに葬られることを希望していた。地の文で語る。<BR>⏎562 
 792【今日やがてをさめたてまつるとて】－『完訳』は「当時は蘇生を期待して葬儀を延ばすのが普通」と注す。当時の葬儀（火葬）は夜に行われた。<BR>⏎563 
 793【御甥の大和守にてありけるぞ】－御息所の甥の大和守。『完訳』は「大和守（従五位上）が親類縁者の代表だけに、家柄の低い一族と知れる」と注す。<BR>⏎564 
d1794<P>⏎
 795【骸をだにしばし見たてまつらむとて】－『伊行釈』は「空蝉はからを見つつも慰めつ深草の山煙だに立て」（古今集哀傷、八三一、僧都勝延）を指摘。<BR>⏎565 
 796【宮は惜しみきこえたまひけれど】－『集成』は「葬儀の日延べを希望する趣」と注す。<BR>⏎566 
d1797<P>⏎
 798【今日より後日ついで悪しかりけり】－夕霧の詞。『完訳』は「以下、時間を遡って、夕霧が自邸を出る様子。弔問に赴く口実」と注す。場面は夕霧の三条殿。<BR>⏎567 
d1799<P>⏎
 800【宮の思し嘆くらむことを推し量りきこえたまうて】－夕霧の心中。「人聞きには」と対照させて語る。推量の助動詞「らむ」視界外推量や「推し量りきこえ」などに、これから出向く様子がうかがえる。<BR>⏎568 
d1801<P>⏎
 802【かくしも急ぎわたりたまふべきことならず】－女房の詞。特別に御息所の縁者でもない夕霧が急いで弔問に出かける必要はない、という。<BR>⏎569 
d1803<P>⏎
note39804　<A NAME="in38">[第八段　夕霧の弔問]</A><BR>570 
d1805<P>⏎
 806【ほどさへ遠くて】－副助詞「さへ」添加の意。『完訳』は「気がせくうえ、道のりまでも」と注す。<BR>⏎571 
 807【ゆゆしげに引き隔てめぐらしたる儀式の方は隠して】－死の穢れを忌むために祭場との間に幕が引き廻らされている。<BR>⏎572 
 808【この西面に】－落葉宮が居間として使っている部屋。<BR>⏎573 
 809【妻戸の簀子におし掛かりたまうて】－主語は夕霧。妻戸の前の簀子の高欄に寄り掛かった姿。<BR>⏎574 
 810【女房呼び出でさせたまふに】－「させ」使役の助動詞。接続助詞「に」逆接用法。<BR>⏎575 
d1811<P>⏎
 812【少将の君は参る】－落葉の宮づきの女房、小少将の君。夕霧の前に出る。<BR>⏎576 
 813【涙もろにおはせぬ心強さなれど】－夕霧の性格。感傷的でなく意志がしっかりしている性格。理性的で頑迷な性格。<BR>⏎577 
 814【所のさま人のけはひなどを】－『完訳』は「小野という場所柄、宮の悲嘆する様子などを。狭い山荘で、隣室の様子も感取。「けはひ」に注意」と注す。<BR>⏎578 
 815【ややためらひて】－主語は夕霧。<BR>⏎579 
d1816<P>⏎
 817【よろしうおこたりたまふさまに】－以下「あさましうなむ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎580 
d1818<P>⏎
 819【思したりしさま】－以下「乱れにしぞかし」まで、落葉宮の心中。「思したりし」の主語は御息所。<BR>⏎581 
d1820<P>⏎
 821【いかに聞こえさせたまふとか】－以下「あまりにはべりぬべし」まで、女房たちの詞。<BR>⏎582 
d1822<P>⏎
cd2:1823-824【いとかるらかならぬ御さまにて】－夕霧をさす。近衛大将。遠路はるばる自ら急いで弔問に訪れたことをいう。<BR>⏎
<P>⏎
583【いと軽らかならぬ御さまにて】－夕霧をさす。近衛大将。遠路はるばる自ら急いで弔問に訪れたことをいう。<BR>⏎
 825【ただ推し量りて】－以下「言ふべきこともおぼえず」まで、落葉宮の詞。『集成』は「そなたたちのはからい次第に。よいように返事せよ、の意」。『完訳』は「私の気持を察して。宮は、母の死は夕霧との一件ゆえと思うので、応対する気にもなれない」と注す。<BR>⏎584 
d1826<P>⏎
 827【ただ今は】－以下「聞こえさせはべりぬ」まで、小少将の君の詞。<BR>⏎585 
 828【御ありさまにてなむ】－係助詞「なむ」の下に「おはす」などの語句が省略された形。<BR>⏎586 
d1829<P>⏎
 830【聞こえやるべき方もなきを】－以下「なむゆかしき」まで、夕霧の詞。<BR>⏎587 
 831【いかにしてかくにはかに】－主語は御息所。<BR>⏎588 
d1832<P>⏎
 833【かこちきこえさする】－以下「聞こえさせ承らむ」まで、小少将の君の詞。「かこちきこえさする」の相手は夕霧。<BR>⏎589 
 834【乱りがはしき心地どもの惑ひに】－女房たちの「心惑ひ」複数形。<BR>⏎590 
 835【さらばかく】－『集成』は「夕霧が「またしづまりたまひなむに、参り来む」と、辞去する旨を告げたのに応ずる」と注す。<BR>⏎591 
 836【思し惑へる御心地も】－落葉宮の悲しみの気持ち。<BR>⏎592 
 837【聞こえさせ承らむ】－主語は小少将君。小少将君が落葉宮に夕霧の言葉をお話し申し上げ宮の返事を承りましょう、の意。<BR>⏎593 
d1838<P>⏎
 839【げにこそ】－以下「御返りもあらばなむ」まで、夕霧の詞。『完訳』は「小少将の言葉を受け、宮と同様に自分も悲嘆が深いとする」と注す。<BR>⏎594 
 840【聞こえ慰めたまひて】－主語はあなた、小少将君が落葉宮を。<BR>⏎595 
 841【御返りもあらばなむ】－係助詞「なむ」の下に「うれしく思ふ」などの語句が省略。<BR>⏎596 
d1842<P>⏎
 843【立ちわづらひたまふも軽々しう】－『完訳』は「葬儀当日、縁者でもないのにぐずぐずしている自分を、高貴の身分柄、軽率と反省」と注す。夕霧の心中を地の文で語る。<BR>⏎597 
d1844<P>⏎
note39845　<A NAME="in39">[第九段　御息所の葬儀]</A><BR>598 
d1846<P>⏎
 847【今宵しもあらじと思ひつる】－主語は夕霧。以下「いとあへなし」まで、夕霧の心中に即して語る。<BR>⏎599 
 848【近き御荘の人びと】－夕霧の荘園、栗栖野の人々。<BR>⏎600 
 849【添ひてなむ】－係助詞「なむ」の下に「ありける」などの語句が省略。<BR>⏎601 
d1850<P>⏎
 851【ありがたき殿の御心おきて】－大和守の詞。『集成』は「めったにない大将殿（夕霧）のご配慮です」。『完訳』は「願ってもない殿のご配慮で」と訳す。<BR>⏎602 
d1852<P>⏎
 853【名残だになくあさましきこと】－落葉宮の心中。<BR>⏎603 
 854【親と聞こゆともいとかくはならはすまじきものなりけり】－『完訳』は「語り手の言辞。親子の間柄とはいえ、異常に仲睦まじくしすぎたために、こうも悲嘆しなければならないのだ」と注す。真淵『新釈』は「思ふとていとこそ人に馴れざらめしかならひてぞ見ねば恋しき」（拾遺集恋四、九〇〇、読人しらず）を指摘。<BR>⏎604 
d1855<P>⏎
 856【かく心細くては】－以下「心の隙あらじ」まで、大和守の詞。<BR>⏎605 
d1857<P>⏎
 858【なほ峰の煙をだに】－以下「住み果てなむ」まで、落葉宮の心中に即した地の文。<BR>⏎606 
d1859<P>⏎
 860【御忌に籠もれる】－『集成』は「死穢のため、三十日間、近親者が忌に籠る」。『完訳』は「喪中の四十九日間」と注す。<BR>⏎607 
 861【そなたの渡殿】－「そなた」は寝殿の西表と西の対を結ぶ方面をさす。<BR>⏎608 
 862【月ごろ経ければ九月になりぬ】－一条御息所の逝去は八月二十日ごろであった。八月九月と両月にわたるので、「月ごろ」といったもの。<BR>⏎609 
d1863<P>⏎
note39864　<H4>第四章　夕霧の物語　落葉宮に心あくがれる夕霧</H4>610 
note39865　<A NAME="in41">[第一段　夕霧、返事を得られず]</A><BR>611 
d1866<P>⏎
 867【山下ろしいとはげしう木の葉の隠ろへなくなりてよろづの事いといみじきほどなれば】－九月の小野山里の様子。いちはやく晩秋を迎えた風情。<BR>⏎612 
 868【干る間もなく思し嘆き】－涙の乾く間もなく、の意。<BR>⏎613 
 869【命さへ心にかなはずと】－『異本紫明抄』は「命だに心にかなふものならば何か別れの悲しからまし」（古今集離別、三八七、白女）を指摘。『集成』は「意味するところは逆だが、この歌を踏んだものか」と注す。『河海抄』は「命さへ心にかなふものならば死には安くぞあるべかりける」（出典未詳）を指摘。『源注拾遺』は「恋しきに命をかふるものならば死には安くぞあるべかりける」（古今集恋一、五一七、読人しらず）も指摘する。<BR>⏎614 
d1870<P>⏎
 871【大将殿は日々に訪らひきこえ】－お見舞いの使者を差し向ける、の意。<BR>⏎615 
 872【念仏の僧など慰むばかり】－『集成』は「一息つけるようにと」。『完訳』は「気が紛れるようにと」と訳す。<BR>⏎616 
 873【取りてだに御覧ぜず】－主語は落葉宮。夕霧からの手紙を手に取りさえしない。<BR>⏎617 
 874【すずろにあさましき】－以下、落葉宮の心中に即した叙述。『集成』は「以下、落葉の宮の思い」。『完訳』は「以下、心内語に転ずる」と注す。夕霧との一件をさす。<BR>⏎618 
 875【弱れる御心地に】－御息所の病状をいう。<BR>⏎619 
 876【後の世の御罪にさへやなるらむ】－成仏の妨げ、の意。<BR>⏎620 
d1877<P>⏎
 878【心惑ひしたまへる】－夕霧の心中を地の文に語る。<BR>⏎621 
d1879<P>⏎
 880【悲しきことも】－以下「若々しきやうに」まで、夕霧の心中。<BR>⏎622 
 881【若々しきやうに】－『完訳』は「結婚の経験があるのに、世間知らずのようではないか、の気持」と注す。<BR>⏎623 
 882【異事の筋に】－以下「なつかしうおぼえし」まで、夕霧の心中。<BR>⏎624 
 883【花や蝶やと】－当時の慣用句。「男女などを寄せつつ、花や蝶やと言へれば」（三宝絵、序）とある。『源注拾遺』は「みな人は花や蝶やと急ぐ日も我が心をば君ぞ知りける」（枕草子）を指摘。<BR>⏎625 
 884【書けばこそあらめ】－係助詞「こそ」--「あらめ」逆接用法。書いたのならばともかく、そうではないのに、の意。<BR>⏎626 
 885【いかにと問ふ人は】－夕霧自身をさす。<BR>⏎627 
d1886<P>⏎
 887【大宮の亡せたまへりしを】－夕霧の祖母死去の折。<BR>⏎628 
 888【公々しき作法ばかり】－表向きの儀式。『集成』は「源氏も、致仕の大臣の人柄について「人柄あやしうはなやかに、男々しきかたによりて、親などの御孝をも、いかめしきさまをばたてて、人にも見おどろかさむの心あり、まことにしみて深きところはなき人になむものせられける」（野分）と夕霧に語ったことがある」と注す。<BR>⏎629 
 889【六条院のなかなかねむごろに】－『完訳』は「六条院が、実の親でもないのにかえって懇切に」と訳す。<BR>⏎630 
 890【わが方ざまといふ中にも】－『集成』は「自分の親というひいき目からだけでなく」と訳す。<BR>⏎631 
 891【その折に故衛門督をば取り分きて思ひつきにしぞかし】－『完訳』は「柏木が祖母大宮の死を心から哀悼していたので、自分は彼に共感し親しみをおぼえた、の意」と注す。<BR>⏎632 
d1892<P>⏎
note39893　<A NAME="in42">[第二段　雲居雁の嘆きの歌]</A><BR>633 
d1894<P>⏎
 895【女君なほこの御仲のけしきを】－雲居雁、夕霧と落葉宮の関係を疑う。「女君」の述語は「たてまつれたまへる」。<BR>⏎634 
d1896<P>⏎
 897【いかなるにかありけむ】－以下「こまやかにしたまふめりしか」まで、雲居雁の心中。<BR>⏎635 
 898【こそ文通はしも】－係助詞「こそ」は「たまふめりしか」已然形に係る。「文通はし」名詞。<BR>⏎636 
d1899<P>⏎
 900【夕暮の空を眺め入りて臥したまへるところに】－文脈は主語が夕霧に変わる。<BR>⏎637 
 901【若君して】－夕霧と雲居雁の子。<BR>⏎638 
 902【はかなき紙の端に】－『集成』は「ありあわせた」。『完訳』は「これといったことのない紙の端に」と訳す。<BR>⏎639 
d1903<P>⏎
cd2:1904-905【あはれをもいかに知りてか慰めむあるや恋しき亡きや悲しき】－雲居雁から夕霧への贈歌。「ある」は落葉宮をさし、「亡き」は御息所をさす。<BR>⏎
<P>⏎
640【あはれをもいかに知りてか慰めむ--あるや恋しき亡きや悲しき】－雲居雁から夕霧への贈歌。「ある」は落葉宮をさし、「亡き」は御息所をさす。<BR>⏎
 906【おぼつかなきこそ心憂けれ】－歌に添えた言葉。夕霧の本心を知りたいが、はっきりしないのが情けない、の意。<BR>⏎641 
d1907<P>⏎
c1908【先きざきもかく】－大島本は「さま（ま＄き）／＼も」とある。すなわち「ま」をミセケチにして「き」と訂正する。『集成』『新大系』は底本の訂正に従う。『完本』は底本の訂正以前と諸本に従って「さまざまも」と校訂する。以下「亡きがよそへや」まで、夕霧の心中。<BR>⏎
642【先ざきも、かく】－大島本は「さま（ま＄き）／＼も」とある。すなわち「ま」をミセケチにして「き」と訂正する。『集成』『新大系』は底本の訂正に従う。『完本』は底本の訂正以前と諸本に従って「さまざまも」と校訂する。以下「亡きがよそへや」まで、夕霧の心中。<BR>⏎
 909【似げなの亡きがよそへや】－『集成』は「「亡きや悲しき」と、自分が御息所の死を悲しんでいるのかもしれないといった言い方は、今さらしらじらしい。落葉の宮とのことをはっきり疑っているくせに、という気持」と注す。『休聞抄』は「むら鳥の立ちにし我が名今さらにことなしぶともしるしあらめや」（古今集恋三、六七四、読人しらず）指摘。<BR>⏎643 
 910【いとどしく】－大島本は「いとゝしく」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「いととく」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎644 
d1911<P>⏎
cd2:1912-913【いづれとか分きて眺めむ消えかへる露も草葉のうへと見ぬ世を】－夕霧から雲居雁への返歌。「ある」「亡き」から「消えかへる露」と詠み返した。『集成』は「落葉の宮のことははぐらかした返歌」。『弄花抄』は「我が宿の菊の垣根におく霜の消えかへりてぞ恋しかりける」（古今集恋二、五六四、紀友則）を指摘。『源注拾遺』は「露をだにあだなるものと思ひけむ我が身も草もおかぬばかりを」（古今集哀傷、八六〇、藤原これもと）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
645【いづれとか分きて眺めむ消えかへる--露も草葉のうへと見ぬ世を】－夕霧から雲居雁への返歌。「ある」「亡き」から「消えかへる露」と詠み返した。『集成』は「落葉の宮のことははぐらかした返歌」。『弄花抄』は「我が宿の菊の垣根におく霜の消えかへりてぞ恋しかりける」（古今集恋二、五六四、紀友則）を指摘。『源注拾遺』は「露をだにあだなるものと思ひけむ我が身も草もおかぬばかりを」（古今集哀傷、八六〇、藤原これもと）を指摘。<BR>⏎
 914【おほかたにこそ悲しけれ】－一般論としてはぐらかす。<BR>⏎646 
d1915<P>⏎
 916【露のあはれをばさしおきて】－『集成』は「この世の無常を悲しむなどということは、知ったことではなくて。夕霧の歌の言葉によっていう」。『完訳』は「露の世の悲しみは二の次のこととして」と注す。<BR>⏎647 
d1917<P>⏎
 918【なほかくおぼつかなく思しわびて】－主語は夕霧。<BR>⏎648 
 919【御忌など過ぐして】－『集成』は「三十日の忌籠り」。『完訳』は「忌中の四十九日」と注す。<BR>⏎649 
d1920<P>⏎
 921【今はこの御なき名の】－以下「かなふべきにこそは」まで、夕霧の心中。『集成』は「「御」は地の文の気持の混入したもの」。『完訳』は「世間一般の男性と同様に、無遠慮な態度で宮を得ようと居直る」と注す。<BR>⏎650 
d1922<P>⏎
 923【思したばかりにければ】－大島本は「おほしたハかりにけれは」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「思したちにけり」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎651 
d1924<P>⏎
 925【かの一夜ばかりの御恨み文を】－御息所からの手紙をさす。『完訳』は「夕霧は、これを拠りどころに宮をくどき、世間にも二人には実事があったとしらしめようとする」と注す。<BR>⏎652 
d1926<P>⏎
note39927　<A NAME="in43">[第三段　九月十日過ぎ、小野山荘を訪問]</A><BR>653 
d1928<P>⏎
 929【九月十余日野山のけしきは】－晩秋九月十日過ぎの小野の野山の景色。後文に「十三日の月のいとはなやかにさし出でぬれば」とある。<BR>⏎654 
 930【ただにやはおぼゆる】－反語表現。<BR>⏎655 
 931【山風に堪へぬ木々の梢も峰の葛葉も心あわたたしう争ひ散る紛れに】－『異本紫明抄』は「風はやみ峰の葛葉のともすればあやかりやすき人の心か」（拾遺集哀傷、一二五一、藤原これもと）を指摘。<BR>⏎656 
cd2:1932-933【木枯の吹き払ひたるに鹿はただ籬のもとにたたずみつつ】－『完訳』は「木枯らしが吹きはらうと、鹿は垣根のすぐ近くにたたずんでは」と訳し、前出「に」接続助詞、後出「に」格助詞、に解す。「吹き払ひたる」を準体言と見て両方とも格助詞「に」場所、所を表す意とも解せる。<BR>⏎
【たたずみつつ】－「つつ」接続助詞、同じ動作の反復・継続。<BR>⏎
657【木枯の吹き払ひたるに鹿はただ籬のもとにたたずみつつ】－『完訳』は「木枯らしが吹きはらうと、鹿は垣根のすぐ近くにたたずんでは」と訳し、前出「に」接続助詞、後出「に」格助詞、に解す。「吹き払ひたる」を準体言と見て両方とも格助詞「に」場所、所を表す意とも解せる。<BR>【たたずみつつ】－「つつ」接続助詞、同じ動作の反復・継続。<BR>⏎
 934【うち鳴くも愁へ顔なり】－夕霧の感情移入による表現。『完訳』は「妻を恋い慕って鳴く鹿に、宮を恋い慕う夕霧の心をかたどる」と注す。<BR>⏎658 
d1935<P>⏎
 936【滝の声は】－音羽の滝。<BR>⏎659 
 937【草むらの虫のみぞよりどころなげに鳴き弱りて】－『完訳』は「草が枯れて隠れ処のない虫に、頼るべき人のない宮をかたどる」と注す。下文の龍胆を宮に、虫は仕える女房たちをかたどるとも解せよう。<BR>⏎660 
 938【枯れたる草の下より龍胆のわれひとりのみ心長うはひ出でて露けく見ゆるなど】－『河海抄』は「我が宿の花ふみしだく鳥うたむ野はなければやここにしもくる」（古今集物名、紀友則）を指摘。『集成』は「龍胆は、枝ざしなどもむつかしけれど、異花どもの皆霜枯れたるに、いと花やかなる色あひにさし出でたる、いとをかし」（枕草子、草の花は）を指摘。擬人法。<BR>⏎661 
 939【折から所からにやいと堪へがたきほどのもの悲しさなり】－『異本紫明抄』は「ただ思ふ人のかたみにいかになどみなはらわたのたゆる声なり」（出典未詳）を指摘。<BR>⏎662 
d1940<P>⏎
 941【例の妻戸のもとに】－寝殿の西南の妻戸。<BR>⏎663 
 942【影弱りたる夕日】－光の弱くなった夕日。九月十三日の夕方。<BR>⏎664 
 943【何心もなうさし来たるに】－『完訳』は「愁傷の場に夕陽のさす趣」と注す。擬人法。「に」接続助詞、順接の意。<BR>⏎665 
 944【わざとなく扇をさし隠したまへる】－夕霧の動作、姿態。『完訳』は「粋な懸想人の風姿でもある」と評す。<BR>⏎666 
 945【女こそかうはあらまほしけれそれだにえあらぬを】－女房の視点・心中で夕霧の美しさを語る。係助詞「こそ」--「あらまほしけれ」已然形、逆接用法。<BR>⏎667 
d1946<P>⏎
 947【奥に人や添ひゐたらむと】－「人」は他の女房をさす。『完訳』は「夕霧は狭い簀子にいて、簾中の小少将の君と対座。簾の奥に誰か一緒にいるかと警戒する」と注す。<BR>⏎668 
d1948<P>⏎
 949【なほ近くて】－大島本は「な越ちかくて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「なほ近くてを」と「を」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。以下「いと深しや」まで、夕霧の詞。<BR>⏎669 
 950【隔て残るべくやは】－「やは」反語表現。他人行儀でよいはずがない。<BR>⏎670 
 951【霧もいと深しや】－『集成』は「霧も深いから、姿も見えまいと、小少将をさそう」と注す。<BR>⏎671 
d1952<P>⏎
 953【裾をひきそばめつつゐたり】－『集成』は「着物の裾が簀子に出たのを横に引き隠して」。『完訳』は「着物の裾を片寄せながらすわっている」と注す。<BR>⏎672 
 954【大和守の妹なれば】－小少将の君は大和守の妹という紹介。落葉宮とは従姉妹。<BR>⏎673 
 955【幼くより生ほし立てたまうければ】－御息所が小少将の君を。<BR>⏎674 
 956【橡の衣一襲】－大島本は「つるはミのきぬ」とある。『集成』『完本』は「橡の喪衣」と「喪」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎675 
d1957<P>⏎
 958【かく尽きせぬ御ことは】－以下「忍ぶべき方なし」まで、夕霧の詞。<BR>⏎676 
 959【聞こえなむ方なき】－大島本は「きこえなむ」とある。『集成』『完本』は「聞こえむ」と「な」を削除する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎677 
 960【御心のつらさ】－落葉宮の冷淡な心。<BR>⏎678 
 961【見る人ごとに咎められはべれば今はさらに忍ぶべき方なし】－『休聞抄』は「忍ぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで」（拾遺集恋一、六二二、平兼盛）を指摘。<BR>⏎679 
d1962<P>⏎
note39963　<A NAME="in44">[第四段　板ばさみの小少将君]</A><BR>680 
d1964<P>⏎
 965【この人もましていみじう泣き入りつつ】－小少将の君も夕霧以上に。<BR>⏎681 
d1966<P>⏎
 967【その夜の御返りさへ】－以下「暮らさせたまうし」まで、小少将の君の詞。<BR>⏎682 
 968【見えはべらずなりにしを】－主語は御息所。<BR>⏎683 
 969【暗うなりにしほどの空のけしきに】－『集成』は「いよいよ大将の訪れがないと確信された頃」と注す。<BR>⏎684 
 970【引き入れたてまつる】－物の怪が御息所の魂を。<BR>⏎685 
d1971<P>⏎
 972【過ぎにし御ことにも】－柏木逝去の折をさす。<BR>⏎686 
 973【ほとほと御心惑ひぬべかりし】－主語は御息所。<BR>⏎687 
 974【こしらへきこえむ】－御息所が落葉宮を。<BR>⏎688 
 975【この御嘆きをば】－御息所の逝去。<BR>⏎689 
 976【御前にはただわれかの御けしきにて】－『河海抄』は「夢にだに何かも見えぬ見ゆれども我かも惑ふ恋の繁きに」（万葉集巻十一）を指摘する。<BR>⏎690 
d1977<P>⏎
 978【そよやそもあまりに】－以下「あるべきことかは」まで、夕霧の詞。<BR>⏎691 
 979【誰をかはよるべに思ひきこえたまはむ】－反語表現。暗に自分をおいて他に頼る人はいない、という。<BR>⏎692 
 980【御山住みもいと深き峰に】－西山に籠もっている朱雀院をさす。<BR>⏎693 
d1981<P>⏎
 982【心憂き御けしき聞こえ知らせたまへ】－落葉宮にあなた小少将の君からよく申し上げて下さい、の意。<BR>⏎694 
 983【よろづのことさるべきにこそ】－万事が前世からの宿縁である。係助詞「こそ」の下に「あれ」などの語句が省略。<BR>⏎695 
 984【まづはかかる御別れの御心にかなはば】－『源氏物語引歌』は「命だに心にかなふものならば何か別れの悲しからまし」（古今集離別、三八七、白女）を指摘。<BR>⏎696 
 985【あるべきことかは】－反語表現。主語、突然の御息所の逝去という意が省略されている。<BR>⏎697 
d1986<P>⏎
 987【鹿のいといたく鳴くをわれ劣らめやとて】－『源氏釈』は「秋なれば山とよむまで鳴く鹿に我劣らめや独り寝る夜は」（古今集恋二、五八二、読人しらず）を指摘。<BR>⏎698 
d1988<P>⏎
cd4:2989-992【里遠み小野の篠原わけて来て我も鹿こそ声も惜しまね】－夕霧から小少将の君への贈歌。「鹿」「然（しか）」の掛詞。『河海抄』は「山城の小野の山人里遠み仮の宿りをとりぞかねつる」（出典未詳）を指摘。『集成』は「山城の小野の山辺の里遠み仮の宿りもとりぞかねつる」（能宣集）を指摘。『全集』は「浅茅生の小野の篠原忍ぶとも人こそ知るらめや言ふ人なしに」（古今集恋一、五〇五、読人しらず）「浅茅生の小野の篠原忍ぶれどなどか人の恋しき」（後撰集恋一、五七八、源等）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
【藤衣露けき秋の山人は鹿の鳴く音に音をぞ添へつる】－小少将の君の返歌。「鹿」の語句を受けて返す。『全集』は「山里は秋こそことにわびしけれ鹿の鳴く音に目を覚ましつつ」（古今集秋上、二一四、壬生忠岑）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
699-700【里遠み小野の篠原わけて来て--我も鹿こそ声も惜しまね】－夕霧から小少将の君への贈歌。「鹿」「然（しか）」の掛詞。『河海抄』は「山城の小野の山人里遠み仮の宿りをとりぞかねつる」（出典未詳）を指摘。『集成』は「山城の小野の山辺の里遠み仮の宿りもとりぞかねつる」（能宣集）を指摘。『全集』は「浅茅生の小野の篠原忍ぶとも人こそ知るらめや言ふ人なしに」（古今集恋一、五〇五、読人しらず）「浅茅生の小野の篠原忍ぶれどなどか人の恋しき」（後撰集恋一、五七八、源等）を指摘。<BR>⏎
【藤衣露けき秋の山人は--鹿の鳴く音に音をぞ添へつる】－小少将の君の返歌。「鹿」の語句を受けて返す。『全集』は「山里は秋こそことにわびしけれ鹿の鳴く音に目を覚ましつつ」（古今集秋上、二一四、壬生忠岑）を指摘。<BR>⏎
 993【よからねど折からに--聞きなしたまへり】－『岷江入楚』は「草子地歟」と指摘。<BR>⏎701 
d1994<P>⏎
 995【今はかくあさましき】－以下「聞こえやるべき」まで、落葉宮の詞。伝言。<BR>⏎702 
cd2:1996-997【夢の世をすこし思ひ覚ます折】－「夢」「覚ます」縁語表現。<BR>⏎
<P>⏎
703【夢の世を、すこしも思ひ覚ます折】－「夢」「覚ます」縁語表現。<BR>⏎
 998【言はせたまふ】－「せ」使役の助動詞。落葉宮が小少将の君をして夕霧に。<BR>⏎704 
 999【いみじういふかひなき御心なりけり】－夕霧の心中。<BR>⏎705 
d11000<P>⏎
note391001　<A NAME="in45">[第五段　夕霧、一条宮邸の側を通って帰宅]</A><BR>706 
d11002<P>⏎
c11003【道すがらもあはれなる空を眺めて十三日の月いとはなやかにさし出でぬれば】－小野山荘からの帰途。九月十三日の月がさし昇る。十三夜の月として賞美されている。<BR>⏎
707【道すがらも、あはれなる空を眺めて、十三日の月のいとはなやかにさし出でぬれば】－小野山荘からの帰途。九月十三日の月がさし昇る。十三夜の月として賞美されている。<BR>⏎
 1004【小倉の山もたどるまじう】－『源氏釈』は「秋の夜の月の光し明ければ小倉の山も越えぬべらなり」（古今集秋上、一九五、在原元方）、『紹巴抄』は「いづくにか今宵の月の曇るべき小倉の山も名をや変ふらむ」（新古今集秋上、四〇五、大江千里）、『源注拾遺』は「大堰川浮かべる舟の篝火に小倉の山も名のみなりけり」（後撰集雑三、一二三二、在原業平）「秋の色は千種ながらにさやけきを誰か小倉の山といふらむ」（是則集）を指摘。<BR>⏎708 
 1005【一条の宮は道なりけり】－落葉宮の本邸。<BR>⏎709 
d11006<P>⏎
 1007【はるばると下ろし籠めて】－ずっと一面に格子を下ろしているさま。<BR>⏎710 
cd2:11008-1009【人影も見えず月のみ】－「（人）影」「月」縁語。<BR>⏎
【月のみ遣水の面をあらはに澄みましたるに】－「澄む」「住む」の掛詞。月を擬人化した表現。<BR>⏎
711【人影も見えず月のみ遣水の面をあらはに澄みましたるに】－「（人）影」「月」縁語。<BR>【月のみ遣水の面をあらはに澄みましたるに】－「澄む」「住む」の掛詞。月を擬人化した表現。<BR>⏎
 1010【大納言ここにて遊びなどしたまうし】－柏木をさす。死の直前に権大納言に任じられた。<BR>⏎712 
d11011<P>⏎
cd2:11012-1013【見し人の影住み果てぬ池水にひとり宿守る秋の夜の月】－夕霧の独詠歌。柏木を偲ぶ。「人の影」「（月の）影」、「住み」「澄み」の掛詞。「影」「澄み」「月」縁語。『異本紫明抄』は「亡き人の影だに見えぬ遣水の底に涙を流してぞこし」（後撰集哀傷、一四〇三、伊勢）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
713【見し人の影澄み果てぬ池水に--ひとり宿守る秋の夜の月】－夕霧の独詠歌。柏木を偲ぶ。「人の影」「（月の）影」、「住み」「澄み」の掛詞。「影」「澄み」「月」縁語。『異本紫明抄』は「亡き人の影だに見えぬ遣水の底に涙を流してぞこし」（後撰集哀傷、一四〇三、伊勢）を指摘。<BR>⏎
 1014【殿におはしても】－夕霧の邸。三条邸。<BR>⏎714 
 1015【月を見つつ心は空にあくがれ】－「月」「空」縁語。<BR>⏎715 
d11016<P>⏎
 1017【さも見苦しうあらざりし御癖かな】－女房のひそひそ話。<BR>⏎716 
d11018<P>⏎
 1019【上はまめやかに】－雲居雁。『集成」は「「上」は、北の方の称。「御達」に対する」と注す。<BR>⏎717 
d11020<P>⏎
 1021【あくがれたちぬる御心なめり】－以下「末に恥がましきことやあらむ」まで、雲居雁の心中。<BR>⏎718 
 1022【さる方にならひたまへる】－一夫多妻の同居生活をさす。<BR>⏎719 
c11023【引き出でつつ】－接続助詞「つつ」同じ動作の反復継続。<BR>⏎
720【ひき出でつつ】－接続助詞「つつ」同じ動作の反復継続。<BR>⏎
 1024【しかならひなましかば】－「ましかば」--「過ぐしてまし」反実仮想の構文。<BR>⏎721 
 1025【なかなか過ごしてまし】－大島本は「すこして」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「過ぐして」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎722 
d11026<P>⏎
 1027【夜明け方近く】－「朝霧の晴れ間も待たず」に係る。<BR>⏎723 
 1028【かたみにうち出でたまふことなくて背き背きに嘆き明かして】－挿入句。『源注拾遺』は「我が背子をいづく行かめとさき竹の背向（そがひ）に寝しく今し悔しも」（万葉集巻七）指摘。<BR>⏎724 
 1029【いと心づきなしと思せど】－主語は雲居雁。<BR>⏎725 
 1030【漏りて聞きつけらる】－雲居雁の耳に入る。「らる」尊敬の助動詞。<BR>⏎726 
d11031<P>⏎
c11032【いつとかはおどろかすべき明けぬ夜の夢覚めてとか言ひしひとこと】－夕霧から落葉宮への贈歌。宮の「あさましき夢の世をすこしも思ひ覚ます折あらば」と言った言葉を受けて詠み贈る。<BR>⏎
727【いつとかはおどろかすべき明けぬ夜の--夢覚めてとか言ひしひとこと】－夕霧から落葉宮への贈歌。宮の「あさましき夢の世をすこしも思ひ覚ます折あらば」と言った言葉を受けて詠み贈る。<BR>⏎
 1033【上より落つる】－『源氏釈』は「いかにしていかに住むらむ奥山の上より落つる音無の滝」（出典未詳）を指摘。<BR>⏎728 
d11034<P>⏎
 1035【とや書いたまひつらむ】－大島本は「かい給つらむ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「書いたまへらむ」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。『弄花抄』は「双紙詞歟いかてよからんと夕霧の吟し給ふによて也」と指摘。三光院説「いかてよからんなとの給ふを雲居雁の聞とかめて文の内を推し給ふ也」。『評釈』は「語り手の注釈である」と注す。<BR>⏎729 
 1036【いかでよからむ】－『集成』は「前注に引く歌（源氏釈所引歌）とは別の引歌があるかとも考えられるが、「いかにしていかによからむ」の調べにならって口ずさんだものか」と注す。<BR>⏎730 
cd2:11037-1038【御返り事をだに見つけてしがななほいかなることぞ】－雲居雁の心中。<BR>⏎
<P>⏎
731【御返り事をだに見つけてしがな。なほ、いかなることぞ】－雲居雁の心中。<BR>⏎
note391039　<A NAME="in46">[第六段　落葉宮の返歌が届く]</A><BR>732 
d11040<P>⏎
 1041【かひなきよしを書きて】－宮の返事が頂けない旨を書いて。<BR>⏎733 
d11042<P>⏎
 1043【いとほしさに】－以下「盗みたる」まで、小少将の君の文言。<BR>⏎734 
 1044【かのありつる御文に】－『完訳』は「以前夕霧が贈った手紙の余白に、宮が古歌や自作の歌を書きつけた。小少将がその部分をひそかに盗んで破り、同封してきた」と注す。<BR>⏎735 
 1045【手習ひすさびたまへるを】－主語は落葉宮。<BR>⏎736 
d11046<P>⏎
 1047【ひき破りて入れたる】－大島本は「入たる」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「入たり」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎737 
c11048【目にはみたまうてけり】－夕霧の心中。完了の助動詞「て」確述。過去助動詞「けり」詠嘆。驚嘆のニュアンス。<BR>⏎
738【目には見たまうてけり】－夕霧の心中。完了の助動詞「て」確述。過去助動詞「けり」詠嘆。驚嘆のニュアンス。<BR>⏎
 1049【いと人悪ろかりける】－『休聞抄』は「双」と指摘。『完訳』は「語り手の夕霧への評語」と注す。<BR>⏎739 
 1050【見続けたまへれば】－『集成』は「文句を続けてご覧になると」。『完訳』は「散らし書きの文字を継いで」と訳す。<BR>⏎740 
d11051<P>⏎
cd2:11052-1053【朝夕に泣く音を立つる小野山は絶えぬ涙や音無の瀧】－落葉宮の手習歌。『完訳』は「亡母追慕の歌」と注す。『大系』は「恋ひ侘びぬ音をだに泣かむ声立てていづれなるらむ音無の滝」（拾遺集恋二、七四九、読人しらず）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
741【朝夕に泣く音を立つる小野山は--絶えぬ涙や音無の滝】－落葉宮の手習歌。『完訳』は「亡母追慕の歌」と注す。『大系』は「恋ひ侘びぬ音をだに泣かむ声立てていづれなるらむ音無の滝」（拾遺集恋二、七四九、読人しらず）を指摘。<BR>⏎
 1054【とやとりなすべからむ】－夕霧と語り手の視点が一体化した表現。<BR>⏎742 
d11055<P>⏎
c11056【人の上などまで】－以下「心焦られそ」まで、夕霧の心中。「人の上」は柏木のことをさす。<BR>⏎
743【人の上などにて】－以下「心焦られそ」まで、夕霧の心中。「人の上」は柏木のことをさす。<BR>⏎
 1057【身のことにては】－夕霧、我が身を反省。<BR>⏎744 
d11058<P>⏎
note391059　<H4>第五章　落葉宮の物語　夕霧執拗に迫る</H4>745 
note391060　<A NAME="in51">[第一段　源氏や紫の上らの心配]</A><BR>746 
d11061<P>⏎
 1062【いとおとなしう】－以下「口入るべきことならず」まで、源氏の心中。前半、源氏の心中と地の文とが混合した表現。「いとほしう」以下が直接心中文。<BR>⏎747 
 1063【わがいにしへすこしあざればみあだなる名を取りたまうし】－源氏、好色の半生を振り返り反省する。「たまうし」という敬語表現が混在する。<BR>⏎748 
 1064【面起こしに】－夕霧を我が不名誉を挽回してくれた子だと賞賛。<BR>⏎749 
 1065【うれしう思しわたるを】－「思し」という敬語が混在。<BR>⏎750 
d11066<P>⏎
c11067【いとほしういづ方につけても】－以下、純粋な源氏の心中文となる。雲居雁に対してもまた落葉宮に対しても。<BR>⏎
751【いとほしう、いづ方にも】－以下、純粋な源氏の心中文となる。雲居雁に対してもまた落葉宮に対しても。<BR>⏎
 1068【さし離れたる仲らひにてだにあらで】－夕霧と雲居雁と落葉宮の関係。致仕太政大臣から見れば、夕霧は我が甥であり、娘雲居雁の夫、落葉宮は我が子柏木の妻であった人。その女性に甥であり娘婿である夕霧が懸想をしている、ということ。<BR>⏎752 
 1069【大臣なども】－致仕太政大臣。<BR>⏎753 
cd4:21070-1073【さばかりのことたどたぬにはあらじ】－『完訳』は「大将がそれくらいのことことは考えつかぬわけでもあるまい」と訳す。主語は夕霧。<BR>⏎
<P>⏎
【いとほしけれどあいなく聞こしめし嘆く】－『集成』は「困ったことになったものだと、そんなことにまで気を廻してこの話を心配なさる」と訳す。<BR>⏎
<P>⏎
754-755【さばかりのこと、たどらぬにはあらじ】－『完訳』は「大将がそれくらいのことことは考えつかぬわけでもあるまい」と訳す。主語は夕霧。<BR>⏎
【いとほしけれと、あいなく聞こしめし嘆く】－『集成』は「困ったことになったものだと、そんなことにまで気を廻してこの話を心配なさる」と訳す。<BR>⏎
 1074【思し出でつつ】－主語は源氏。<BR>⏎756 
 1075【亡からむ後うしろめたう思ひきこゆるさまをのたまへば】－源氏が亡くなった後のこと、後に遺された紫の上の身の上を落葉宮のようになりはせぬかと、心配する。<BR>⏎757 
cd2:11076-1077【心憂くさまで後らしたまふべきにや】－紫の上の心中。『源注余滴』は「限りなき雲居のよそに別るとも人を心におくらさむやは」（古今集離別、三六七、読人しらず）を指摘する。<BR>⏎
<P>⏎
758【心憂く、さまで後らかしたまふべきにや】－紫の上の心中。『源注余滴』は「限りなき雲居のよそに別るとも人を心におくらさむやは」（古今集離別、三六七、読人しらず）を指摘する。<BR>⏎
 1078【女ばかり身をもてなすさまも所狭うあはれなるべきものはなし】－以下「いかで保つべきぞ」まで、紫の上の心中。『集成』は「落葉の宮に同情する紫の上の思い」。『完訳』は「宮と雲居雁へお同情から、一般論を導く」と注す。<BR>⏎759 
 1079【何につけてか】－係助詞「か」は「慰むべきぞは」に係る。反語表現。「は」終助詞、詠嘆の意。<BR>⏎760 
d11080<P>⏎
 1081【生ほしたてけむ親もいと口惜しかるべきものにはあらずや】－『伊行釈』は「かかる身に生ほし立てけむたらちねのおやさへつらき恋をするかな」（出典未詳）。『源注拾遺』は「たらちねの親もつらしなかくばかり思ひに迷ふ世にとどめたる」（新撰万葉集下）と「身の憂きに思ひあまりのはてはては親さへつらきものにぞありける」（玉葉集恋五、一七七二、藤原慶子）を指摘。<BR>⏎761 
d11082<P>⏎
 1083【無言太子とか】－「仏説太子慕魄経」に見える。<BR>⏎762 
 1084【悲しきことにする昔のたとひのやうに】－『集成』は「つらい無言の行を引合に出す昔の言い伝えのように」と訳す。<BR>⏎763 
d11085<P>⏎
 1086【今はただ女一の宮の御ためなり】－『評釈』は「作者は、女一の宮を考えてであると弁解した。つまりここは、紫の上の心に託して作者が自身の心を書き過ぎたため、言いわけのつもりなのである」と注す。女一宮は明石女御が生んだ今上の第一皇女。紫の上が手もとに引き取って養育している（若菜下）。<BR>⏎764 
d11087<P>⏎
note391088　<A NAME="in52">[第二段　夕霧、源氏に対面]</A><BR>765 
d11089<P>⏎
 1090【思ひたまへらむけしきもゆかしければ】－主語は源氏。夕霧が悩んでいる様子を。<BR>⏎766 
d11091<P>⏎
 1092【御息所の忌果てぬらむな】－以下「いと悪ろきわざなりや」まで、源氏の詞。<BR>⏎767 
 1093【三年】－みそとせ横山本・池田本・三条西家本　『集成』は「三十年」と校訂し「人の死後、月日のたつことの早さをいう当時の諺と思われる。朝顔の巻にも同様の表現がある」と注す。<BR>⏎768 
 1094【夕べの露かかるほどのむさぼりよ】－「朝の露に名利を貪り、夕の陽に子孫を憂ふ」（白氏文集、不致仕）。<BR>⏎769 
d11095<P>⏎
c11096【まことに惜しげなき人だにこそはべめれ】－大島本は「たにこそはへめれ」とある。『集成』『完本』は底本に従って「人だにおのがじしは離れがたく思ふ世にこそはべめれ」と「おのがじしは離れがたく思ふ世に」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。夕霧の詞。<BR>⏎
770【まことに惜しげなき人だにこそ、はべめれ】－大島本は「たにこそはへめれ」とある。『集成』『完本』は底本に従って「人だにおのがじしは離れがたく思ふ世にこそはべめれ」と「おのがじしは離れがたく思ふ世に」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。夕霧の詞。<BR>⏎
 1097【御息所の四十九日のわざなど】－以下「悲しうはべりけれ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎771 
 1098【大和守なにがしの朝臣一人】－夕霧の詞。大和守某朝臣一人。「某」は実名を語り手が朧化した表現。<BR>⏎772 
d11099<P>⏎
 1100【院よりも】－以下「人ざまもよくおはすべし」まで、源氏の詞。『集成』は「夕霧の言葉を受けて、院からのお世話もあろうから御息所の御法事に疎漏はあるまい、と言う」。『完訳』は「以下、源氏は遠まわしに、夕霧の反応を試そうとする」と注す。<BR>⏎773 
 1101【この近き年ごろ】－柏木の死後。<BR>⏎774 
 1102【この更衣こそ】－一条御息所。<BR>⏎775 
 1103【さてもありぬべき人の】－『集成』は「もっと生きていて欲しい人が」。『完訳』は「まずまずと思うような人が」と訳す。<BR>⏎776 
d11104<P>⏎
 1105【御心はいかがものしたまふらむ】－以下「ものになむはべる」まで、夕霧の詞。『完訳』は「夕霧は誘導尋問をかわし、御息所の話題に転換」と注す。推量の助動詞「らむ」視界外推量、夕霧の空とぼけ。<BR>⏎777 
 1106【心ばせになむ】－係助詞「なむ」の下に「おはしき」などの語句が省略された形。<BR>⏎778 
 1107【親しううちとけたまはざりしかど】－『完訳』は「親しく話を交わしたことがあるのに、そらとぼけて言う」と注す。<BR>⏎779 
d11108<P>⏎
 1109【宮の御こともかけずいとつれなし】－『集成』は「源氏の目に映じた夕霧の態度」と注す。<BR>⏎780 
d11110<P>⏎
 1111【かばかりのすくよけ心に】－以下「あいなし」まで、源氏の感想。<BR>⏎781 
d11112<P>⏎
note391113　<A NAME="in53">[第三段　父朱雀院、出家希望を諌める]</A><BR>782 
d11114<P>⏎
c11115【御法事よろづとりもちてせさせたまふ】－主語は夕霧。「せ」「させ」（使役の助動詞）「たまふ」（尊敬の補助動詞）。『完訳』は「御息所の四十九日の法事。夕霧が主宰し、大和守がこれを準備」と注す。<BR>⏎
783【御法事に、よろづとりもちてせさせたまふ】－主語は夕霧。「せ」「させ」（使役の助動詞）「たまふ」（尊敬の補助動詞）。『完訳』は「御息所の四十九日の法事。夕霧が主宰し、大和守がこれを準備」と注す。<BR>⏎
 1116【さやはあるべき】－『集成』は「おだやかならぬことだ」。『完訳』は「そんなことがあってよいものか」「致仕の大臣は、自分が依頼されると思っていたので腹を立てる」と注す。<BR>⏎784 
 1117【わりなきや】－『評釈』は「作者も読みあげる女房も、聞く姫君、女君、傍らの女房たちも、女たちは皆一様に顔をあげ、悔しいため息をつく」。『集成』は「宮にとっては濡衣だというほどの気持の草子地」と注す。<BR>⏎785 
 1118【昔の御心あれば】－「昔」は故人柏木をさし、「御心」は御縁というほどの意。<BR>⏎786 
 1119【君達参で訪らひたまふ】－大島本は「きむたちまて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「君達も」と校訂する。『新大系』は「君達まで」と整定する。柏木の弟たち。ここは法要に参列。<BR>⏎787 
d11120<P>⏎
 1121【宮はかくて住み果てなむと思し立つことありけれど】－落葉宮は小野に籠もったまま出家しようと決心。<BR>⏎788 
d11122<P>⏎
 1123【いとあるまじきことなり】－以下「ともかうも」まで、朱雀院から落葉宮への手紙文の趣旨。<BR>⏎789 
 1124【げにあまたとざまかうざまに身をもてなしたまふべきことにもあらねど】－「げに」は落葉宮が夕霧を避けて出家したいと言った趣旨を受けたもの。『集成』は「柏木との結婚、そして夕霧とのことを婉曲に言ったもの」と注す。<BR>⏎790 
 1125【あるまじき名を立ち】－『完訳』は「夕霧と宮の仲は断ち切れまいとも懸念し、さらには尼の身で愛欲の罪を犯すのを恐れる」と注す。<BR>⏎791 
 1126【この世後の世中空に】－現世における幸福、来世における極楽往生、どちらも得ることなく、中途半端におわる。<BR>⏎792 
d11127<P>⏎
 1128【すべなきやうに人の思ひ言ふも】－大島本は「すへなき」とある。『集成』『完本』は「末（すゑ）なき」と整定する。『新大系』は「すべなき」とする。父親娘揃って出家したことを指していう。<BR>⏎793 
d11129<P>⏎
 1130【世の憂きにつけて厭ふは】－『完訳』は「夕霧の言い寄る時に出家するのは、かえってよからぬ噂が立つ、の気持」と注す。<BR>⏎794 
 1131【心と思ひ取る方ありて今すこし思ひ静め】－大島本は「心とおもひしつめ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「心と思ひ取る方ありて今すこし思ひ静め」と「取る方ありて今すこし」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎795 
d11132<P>⏎
 1133【この浮きたる御名をぞ聞こし召したるべき】－『細流抄』は「草子地也」と指摘。『全集』は「朱雀院の文面の背後を補足説明した語り手のことば」と注す。<BR>⏎796 
 1134【さやうのことの思はずなるにつけて倦じたまへると】－『集成』は「夕霧との間に実事があり、その後、夕霧の態度が煮えきらないので出家したと世間に取り沙汰されることを朱雀院は心配する」と注す。<BR>⏎797 
 1135【表はれてものしたまはむも】－公然と夕霧と再婚すること。<BR>⏎798 
 1136【何かは、我さへ聞き扱はむ】－朱雀院の心中。夕霧のことをはっきりと言えば、落葉の宮が恥ずかしく思うのが、気の毒だ、という気持ち。<BR>⏎799 
 1137【この筋は】－夕霧の件をさす。<BR>⏎800 
d11138<P>⏎
note391139　<A NAME="in54">[第四段　夕霧、宮の帰邸を差配]</A><BR>801 
d11140<P>⏎
 1141【とかく言ひなしつるも】－以下「いとうひうひしかるべし」まで、夕霧の心中。<BR>⏎802 
 1142【かの御心に許したまはむことは】－落葉宮をさす。<BR>⏎803 
 1143【いかがはせむ】－反語表現。どうしようもない。<BR>⏎804 
d11144<P>⏎
 1145【一条に渡りたまふべき日その日ばかりと定めて】－『集成』は「帰宅、しかも結婚と夕霧は決め込んでいるので、暦によって吉日を選ぶ」と注す。<BR>⏎805 
 1146【あるべき作法めでたう】－『集成』は「婚儀にふさわしい諸式」「しかるべき立派な品々を整え」。『完訳』は「移転のためのしかるべき儀礼」「必要な諸式も立派に」と訳す。<BR>⏎806 
 1147【かの家にぞ】－大和守の家で。<BR>⏎807 
d11148<P>⏎
 1149【御車御前などたてまつれたまふ】－夕霧が小野山荘の落葉宮に差し向けなさる。<BR>⏎808 
 1150【思しのたまふを】－「を」格助詞、目的格を表す。<BR>⏎809 
cd3:21151-1153【人びといみじうきこえ】－落葉宮付きの女房たち。『集成』は「きつくご意見申し」。『完訳』は「無理にお勧め申し」と訳す。<BR>⏎
<P>⏎
【さらに承はらじ】－以下「仕うまつりそめたまうて」まで、大和守の詞。『集成』は「有無を言わせぬ口調で帰京をすすめる」と注す。<BR>⏎
810-811【人びといみじう聞こえ】－落葉宮付きの女房たち。『集成』は「きつくご意見申し」。『完訳』は「無理にお勧め申し」と訳す。<BR>⏎
【さらに承らじ】－以下「仕うまつりそめたまうて」まで、大和守の詞。『集成』は「有無を言わせぬ口調で帰京をすすめる」と注す。<BR>⏎
 1154【このほどの宮仕へは】－落葉宮の世話を「宮仕へ」という。<BR>⏎812 
d11155<P>⏎
 1156【かくよろづに思しいとなむを】－主語は夕霧。<BR>⏎813 
 1157【この方にとりて思たまふるには】－『集成』は「ご結婚ということで考えてみますと」。『完訳』は「あちらさまのご懸想からというふうに考えますと」と訳す。<BR>⏎814 
cd2:11158-1159【御心にかなはぬためし多くはべれ】－皇女が自分の意に反して再婚した例は多くある。<BR>⏎
<P>⏎
815【御心にかなはぬためし、多くはべれ】－皇女が自分の意に反して再婚した例は多くある。<BR>⏎
 1160【一所やは】－落葉宮をさす。「やは」--「負はせたまふべき」反語表現。あなた一人だけが非難を受けるのでない。<BR>⏎816 
 1161【顧みたまふべきやうかあらむ】－反語表現。お気をつけなさることはできない。<BR>⏎817 
d11162<P>⏎
 1163【君たちの聞こえ知らせたてまつりたまはぬなり】－「君たち」は女房たちをさす。『集成』は「一転して、女房たちに苦情を言う」と注す。<BR>⏎818 
 1164【さるまじきことをも】－手紙の取り次ぎなどをさす。<BR>⏎819 
d11165<P>⏎
 1166【左近少将を責む】－宮付きの女房。左近の君と小少将の君。前の「君たち」。<BR>⏎820 
d11167<P>⏎
note391168　<A NAME="in55">[第五段　落葉宮、自邸へ向かう]</A><BR>821 
d11169<P>⏎
 1170【集りて聞こえこしらふるに】－主語は女房たち。<BR>⏎822 
c11171【いとわりなくて】－以下、落葉宮の心に即した叙述。<BR>⏎
823【いとわりなく】－以下、落葉宮の心に即した叙述。<BR>⏎
 1172【あざやかなる御衣ども人びとのたてまつり替へさするも】－喪服から婚儀にふさわしい華やかな衣裳に着替えさせる。<BR>⏎824 
d11173<P>⏎
 1174【いみじの衰へや】－以下「心憂き身を」まで、落葉の宮の心中。<BR>⏎825 
d11175<P>⏎
 1176【時違ひぬ夜も更けぬべし】－女房の詞。『集成』は「出発の時刻も吉時を選ぶ」と注す。<BR>⏎826 
d11177<P>⏎
 1178【時雨いと心あわたたしう吹きまがひよろづにもの悲しければ】－『完訳』は「宮の心象風景でもある」と注す。時雨は晩秋から初冬にかけての季節の景物。<BR>⏎827 
d11179<P>⏎
cd2:11180-1181【のぼりにし峰の煙にたちまじり思はぬ方になびかずもがな】－落葉宮の独詠歌。『河海抄』は「須磨の海人の塩焼く煙風をいたみ思はぬ方にたなびきにけり」（古今集恋四、七〇八、読人しらず）を指摘。夕霧の意のままになるよりは、ここで死にたい、の意。<BR>⏎
<P>⏎
828【のぼりにし峰の煙にたちまじり--思はぬ方になびかずもがな】－落葉宮の独詠歌。『河海抄』は「須磨の海人の塩焼く煙風をいたみ思はぬ方にたなびきにけり」（古今集恋四、七〇八、読人しらず）を指摘。夕霧の意のままになるよりは、ここで死にたい、の意。<BR>⏎
 1182【御鋏などやうのものは】－髪を下ろさないように。<BR>⏎829 
d11183<P>⏎
 1184【かくもて騒がざらむにてだに】－以下「思すまじかべきわざを」まで、落葉宮の心中。<BR>⏎830 
 1185【身にてか】－係助詞「か」は「忍ばむ」連体形に係る。こっそり髪を下ろそうか、けっしてせぬ。反語表現。<BR>⏎831 
d11186<P>⏎
 1187【傍らのみまもられたまて】－『集成』は「誰もいないお側が見つめられるばかりで。御息所がお側にいないさびしさである」。『完訳』は「『蜻蛉日記』康保元年秋、母を喪った作者が京の邸に変える条に、また鳴滝から京に連れ戻される条に類似」と注す。<BR>⏎832 
 1188【こち渡りたまうし時】－「こち」は小野山荘をさす。「し」過去の助動詞。小野に来たころを回想。<BR>⏎833 
 1189【御心地の苦しきにも御髪かき撫で】－母御息所が気分悪いながらも宮の御髪を、の意。<BR>⏎834 
 1190【御佩刀に添へて経筥を添へたるが御傍らも離れねば】－「御佩刀」は守刀。「経」は法華経か。いずれも亡き母御息所から贈られた形見の品。<BR>⏎835 
d11191<P>⏎
cd2:11192-1193【恋しさの慰めがたき形見にて涙にくもる玉の筥かな】－落葉宮の独詠歌。「形見」「筺」の掛詞。<BR>⏎
<P>⏎
836【恋しさの慰めがたき形見にて--涙にくもる玉の筥かな】－落葉宮の独詠歌。「形見」「筺」の掛詞。<BR>⏎
 1194【黒きもまだしあへさせたまはず】－喪中に用いる黒漆塗の経箱もまだ新調せずに。<BR>⏎837 
 1195【誦経にせさせたまひしを形見にとどめたまへるなりけり】－僧へのお布施の料として作らせたのだが、の意。『細流抄』は「草子地也」と注す。<BR>⏎838 
 1196【浦島の子が心地なむ】－浦島子が龍宮から玉手筥を持ち帰った気分。『奥入』は「夏の夜は浦島の子が箱なれやはかなく明けて悔しかるらむ」（拾遺集夏、一二一、中務）。『河海抄』は「常世べに雲立ちわたる水の江の浦島の子が言持ちわたる大和べに風吹き上げて雲放れ退き居りともよ吾を忘るな」（丹後国風土記）。『孟津抄』は「明けてだに何かはせむ水の江の浦島の子を思ひやりつつ」（後撰集雑一、一一〇五、中務）を指摘。<BR>⏎839 
d11197<P>⏎
note391198　<A NAME="in56">[第六段　夕霧、主人顔して待ち構える]</A><BR>840 
d11199<P>⏎
 1200【降りたまふを】－接続助詞「を」逆接の気分。<BR>⏎841 
 1201【いとあやしう若々しき御さまかな】－女房たちの心中。<BR>⏎842 
c11202【殿は東の対の南面をわが御方を仮にしつらひて住みつき顔におはす】－大島本は「わか御方を」とある。『集成』は諸本に従って「わが御方」と「を」を削除する。『完本』は諸本に従って「わが御方に」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。夕霧は東対の南面を自分の部屋に設えて主人顔をしている。宮にとっては疎ましいさま。<BR>⏎
843【殿は、東の対の南面を、わが御方を、仮にしつらひて、住みつき顔におはす】－大島本は「わか御方を」とある。『集成』は諸本に従って「わが御方」と「を」を削除する。『完本』は諸本に従って「わが御方に」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。夕霧は東対の南面を自分の部屋に設えて主人顔をしている。宮にとっては疎ましいさま。<BR>⏎
 1203【三条殿には】－夕霧の本邸、北の方の雲居雁がいる邸。<BR>⏎844 
d11204<P>⏎
 1205【にはかにあさましうも】－以下「ありしことぞ」まで、女房の詞。<BR>⏎845 
d11206<P>⏎
 1207【なよらかにをかしばめることを】－『孟津抄』は「草子地也」と指摘。『完訳』は「以下、語り手の評言」と注す。<BR>⏎846 
 1208【好ましからず思す人は】－夕霧をいう。「思す」という敬語は皮肉にも聞こえる。<BR>⏎847 
 1209【されど年経にけることを】－「年経にけること」以下、「たまうけるなり」まで、夕霧の心中に即した語り手の文。「年経にけること」は落葉宮との関係。<BR>⏎848 
 1210【過ぐしたまうける】－夕霧に対する敬語。<BR>⏎849 
 1211【思ひなして】－主語は夕霧。<BR>⏎850 
 1212【思ひ寄る人もなし】－夕霧の振る舞いと宮の気持ちの違いを女房は誰一人気づかない意。<BR>⏎851 
 1213【とてもかうても宮の御ためにぞいとほしげなる】－『細流抄』は「草子地也」と指摘。『完訳』は「語り手の評言」と注す。<BR>⏎852 
d11214<P>⏎
 1215【御まうけなどさま変はりて】－新婚の祝儀、喪中のため普通の祝儀とは違うさま。<BR>⏎853 
c11216【物のはじめゆゆしげなれど】－新婚の諸式が縁起でもないようだが。<BR>⏎
854【もののはじめゆゆしげなれど】－新婚の諸式が縁起でもないようだが。<BR>⏎
 1217【もの参らせなど】－「など」の下に「して」などの語句が省略。<BR>⏎855 
d11218<P>⏎
 1219【御心ざしまことに長う】－以下「聞こえさせにくくなむ」まで、小少将君の詞。<BR>⏎856 
 1220【立ち帰りてもの思し沈みて】－『完訳』は「宮は、自邸に帰ってうれしいはずなのに、かえって」と注す。<BR>⏎857 
 1221【こしらへきこゆるをも】－小少将君ら女房が、夕霧との結婚を納得するように執り成し申し上げる。<BR>⏎858 
 1222【何ごとも身のためこそはべれ】－「身」は、我が身。『集成』は「挿入句。女房の分際として、不興を買うわけにはいかない、の意」。『完訳』は「「はべれ」まで挿入句。主人の機嫌を損ねては、女房として身が立たない意。使用人根性の弁」と注す。<BR>⏎859 
 1223【いとわづらはしう】－『集成』は「ご不興がいかにも恐ろしく」。『完訳』は「ほんとに面倒なことで」と訳す。<BR>⏎860 
 1224【聞こえさせにくくなむ】－係助詞「なむ」の下に「はべる」などの語句が省略。<BR>⏎861 
d11225<P>⏎
 1226【いとあやしう】－以下「御心にこそありけれ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎862 
d11227<P>⏎
 1228【思ひ寄れるさま】－『集成』は「落葉の宮の処遇についてのこと。雲居の雁と並ぶ正室としてお扱いするということなのであろう」と注す。<BR>⏎863 
 1229【人の御ためも】－落葉宮をさす。<BR>⏎864 
d11230<P>⏎
 1231【いでやただ今は】－以下「御心なつかはせたまひそ」まで、小少将の君の詞。<BR>⏎865 
 1232【またいたづら人に見なしたてまつるべきにや】－御息所に続いて宮も亡くなってしまうのではないか、の意。<BR>⏎866 
 1233【あが君】－集成「多く、相手に懇願する時に呼び掛ける言葉」と注す。<BR>⏎867 
d11234<P>⏎
 1235【いとまだ知らぬ世かな】－以下「ことわらせむ」まで、夕霧の詞。『集成』は「まだ知らぬ」。『完訳』は「また知らぬ」と整定。<BR>⏎868 
 1236【人よりけに思し落とすらむ身こそ】－『完訳』は「柏木よりも。「身」は夕霧自身」と注す。<BR>⏎869 
d11237<P>⏎
 1238【まだ知らぬは】－以下「はべらむとすらむ」まで、小少将の君の詞。「まだ知らぬ」は夕霧の言葉を受けて返した。『集成』は「まだ知らぬ」。『完訳』は「また知らぬ」と整定。<BR>⏎870 
 1239【世づかぬ御心がまへの】－夕霧を恋愛経験未熟ゆえだと非難する。『集成』は「夕霧のやり方を軽くたしなめる」。『完訳』は「恋愛体験に乏しく、情愛の機微が分らぬ、とからかう」と注す。<BR>⏎871 
 1240【いづ方にかは】－「すらむ」にかかる。疑問形の構文だが、趣旨は夕霧の方を道理に反するとしよう、という含み。<BR>⏎872 
d11241<P>⏎
 1242【すこしうち笑ひぬ】－『完訳』は「少将は少し笑顔になる」。やや皮肉をこめた微笑。<BR>⏎873 
d11243<P>⏎
note391244　<A NAME="in57">[第七段　落葉宮、塗籠に籠る]</A><BR>874 
d11245<P>⏎
c11246【かく心ごはけれと】－小少将の君をさす。『湖月抄』は「草子地よりいふ也」と注す。<BR>⏎
875【かく心ごはけれど】－小少将の君をさす。『湖月抄』は「草子地よりいふ也」と注す。<BR>⏎
 1247【堰かれたまふべきならねば】－主語は夕霧。「れ」受身の助動詞。<BR>⏎876 
d11248<P>⏎
 1249【いと心憂く】－以下「人の心なりけり」まで、落葉宮の心中。<BR>⏎877 
 1250【人の心なりけり】－小少将の君をさす。完訳「夕霧への憤りはもちろん、手引した小少将にも裏切られたと、今にして「--けり」と気づく」と注す。<BR>⏎878 
 1251【若々しきやうには言ひ騒ぐとも】－落葉宮の心中。居直りの気持ち。<BR>⏎879 
 1252【これもいつまでにかは】－『集成』は「以下、落葉の宮の心」。『全集』は「語り手の言辞。情交は時間の問題」と注す。<BR>⏎880 
 1253【かばかりに乱れ立ちにたる人の心どもは】－夕霧に心をかよわしている浮足立った女房たちの思慮。宮の心中に立った視点。<BR>⏎881 
d11254<P>⏎
 1255【男君は】－『集成』は「夫の君といった感じの呼び方」。『完訳』は「男女関係強調の呼称」と注す。<BR>⏎882 
 1256【かばかりにては何のもて離るることかはと】－『集成』は「もうこうなっては、相手ものがれようのないことだと」。『完訳』は「これくらいのことでどうしてあきらめられるものかと」と訳す。宮が塗籠に隠れたことをさす。「なにの--かは」反語表現。<BR>⏎883 
 1257【山鳥の心地ぞしたまうける】－『異本紫明抄』は「昼は来て夜は別るる山鳥の影見る時ぞ音は泣かれける」（新古今集恋五、一三七一、読人しらず）。『河海抄』は「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜を一人かも寝む」（拾遺集恋三、七七八、柿本人麿）を指摘。山鳥は雌雄が峯を隔てて別々に寝るとされていた（俊頼髄脳・奥義抄・袖中抄）。<BR>⏎884 
cd2:11258-1259【かくてのみことといへば直面なるべければ】－『集成』は「こんなことでは、下手をすると、露骨なにらみ合いということになりかねないので」。『完訳』は「いつまでもこうしていたのでは、人に顔を見られてきまりわるい思いをするのがおちだから」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
885【かくてのみ、ことといへば、直面なべければ】－『集成』は「こんなことでは、下手をすると、露骨なにらみ合いということになりかねないので」。『完訳』は「いつまでもこうしていたのでは、人に顔を見られてきまりわるい思いをするのがおちだから」と注す。<BR>⏎
 1260【ただいささかの隙をだに】－夕霧の詞。<BR>⏎886 
d11261<P>⏎
cd2:11262-1263【怨みわび胸あきがたき冬の夜にまた鎖しまさる関の岩門】－夕霧から落葉宮への贈歌。<BR>⏎
<P>⏎
887【怨みわび胸あきがたき冬の夜に--また鎖しまさる関の岩門】－夕霧から落葉宮への贈歌。<BR>⏎
 1264【聞こえむ方なき御心なりけり】－歌に添えた言葉。<BR>⏎888 
d11265<P>⏎
note391266　<H4>第六章　夕霧の物語　雲居雁と落葉宮の間に苦慮</H4>889 
note391267　<A NAME="in61">[第一段　夕霧、花散里へ弁明]</A><BR>890 
d11268<P>⏎
 1269【東の上】－花散里。夕霧の母代。<BR>⏎891 
d11270<P>⏎
 1271【一条の宮】－以下「いかなる御ことにかは」まで、花散里の詞。<BR>⏎892 
 1272【いかなる御ことにかは】－疑問の構文。下に「あらむ」などの語句が省略。<BR>⏎893 
d11273<P>⏎
 1274【御几帳添へたれど】－夕霧との間に御簾の他にさらに御几帳を添えて隔てている、意。<BR>⏎894 
 1275【側よりほのかにはなほ見えたてまつりたまふ】－主語は花散里。『集成』は「養母としての花散里の飾らない人柄が示されている」。『完訳』は「彼女が夕霧を見たいためでもある」と注す。<BR>⏎895 
d11276<P>⏎
 1277【さやうにもなほ人の】－以下「さかなきものにあれ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎896 
c11278【また見譲るべき人なき】－大島本は「ゆつる」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「見譲る」と「見」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。自分夕霧以外に世話をする人はいない、意。<BR>⏎
897【また見譲るべき人のなき】－大島本は「ゆつる」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「見譲る」と「見」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。自分夕霧以外に世話をする人はいない、意。<BR>⏎
 1279【亡からむ後の後見にとやうなることのはべりしかば】－御息所から夕霧に贈られた「女郎花」歌を踏まえて言う。<BR>⏎898 
c11280【もとよりの心ざしもはべりしかば】－『完訳』は「柏木の遺言をさすか」「もとより故人とのよしみもございますこととて」と注す。<BR>⏎
899【もとよりの心ざしもはべりしことにて】－『完訳』は「柏木の遺言をさすか」「もとより故人とのよしみもございますこととて」と注す。<BR>⏎
 1281【かく思たまへなりぬるを】－落葉宮を宮邸に迎えて結婚したことをさす。<BR>⏎900 
 1282【あやしう人こそもの言ひさがなきものにあれ】－『河海抄』は「ここにしも何匂ふらむ女郎花人の物言ひさがにくき世に」（拾遺集雑秋、一〇九八、僧正遍昭）を指摘。<BR>⏎901 
d11283<P>⏎
 1284【とうち笑ひつつ】－夕霧の会話文と会話文の間に挿入した地の文。余裕を見せた笑み。<BR>⏎902 
d11285<P>⏎
 1286【かの正身なむ】－以下「はべりけれ」まで、夕霧の詞。落葉宮をさす。<BR>⏎903 
 1287【尼になりなむと】－「なり」動詞、連用形、「な」完了の助動詞、確述の意、「む」推量の助動詞、意志の意。尼になってしまいたい、の意。なお願望の終助詞「なむ」は未然形に接続し、他に対する誂えの願望を表す。自らの願望は終助詞「ばや」である。<BR>⏎904 
 1288【何かは】－『集成』は「正しくは反語で受けるべきであるが、「またかの遺言は違へじ」で受けられる」と注す。<BR>⏎905 
 1289【さやうに嫌疑離れても】－夕霧との仲の嫌疑を離れるとは、出家し尼になったとしても、の意。<BR>⏎906 
 1290【かの遺言は違へじと】－御息所が宮の後見を頼むという遺言。<BR>⏎907 
d11291<P>⏎
 1292【院の渡らせたまへらむにも】－源氏がこちらにいらっしゃった時に。<BR>⏎908 
 1293【思しのたまはむを】－主語は源氏。<BR>⏎909 
 1294【げにかやうの筋にてこそ】－『完訳』は「恋は盲目と世間で言うとおり」と注す。<BR>⏎910 
d11295<P>⏎
 1296【人のいつはりにやと】－以下「のとやかに慣らひたまうて」まで、花散里の詞。<BR>⏎911 
 1297【三条の姫君の思さむことこそいとほしけれ】－雲居雁をさす。夕霧の北の方を「姫君」と、ちょっと変わった言い方をした。<BR>⏎912 
 1298【慣らひたまうて】－接続助詞「て」逆接の意で言いさした、余情表現。<BR>⏎913 
d11299<P>⏎
 1300【らうたげにも】－以下「さがなものを」まで、夕霧の詞。「らうたげに」は花散里の「姫君」という呼称のしかたをさしていう。<BR>⏎914 
 1301【などてかそれをも】－「見たてまつり果てはべりぬれ」まで、夕霧の詞。「それ」は雲居雁をさす。「などてか--はべらむ」反語構文。<BR>⏎915 
 1302【御ありさまどもにても推し量らせたまへ】－六条院のご夫人方のお互いに嫉妬しないありさまからご想像してほしい、の意。<BR>⏎916 
d11303<P>⏎
 1304【ことの乱れ出で来ぬる後】－浮気沙汰が表面化した後。<BR>⏎917 
d11305<P>⏎
 1306【南の御殿の御心もちゐこそ】－紫の上の気立てをいう。<BR>⏎918 
 1307【さてはこの御方の御心などこそは】－紫の上に次いでは、こちら花散里の気立てが、の意。<BR>⏎919 
d11308<P>⏎
 1309【もののためしに】－以下「おぼえはべれ」まで、花散里の詞。<BR>⏎920 
 1310【引き出でたまふほどに】－目的語は花散里自分を。<BR>⏎921 
 1311【身の人悪ろきおぼえこそあらはれぬべう】－『完訳』は「夫からの冷遇に腹も立てない女の手本にされるのでは、名誉でもない、の気持。軽い皮肉である」と注す。係助詞「こそ」の結びは流れている。「べけれ」と言い切った表現よりも言いさした表現に余情効果が生じる。<BR>⏎922 
d11312<P>⏎
 1313【さてをかしきことは院のみづからの】－話題転換、源氏の身の上について話題を転じる。<BR>⏎923 
 1314【いささかあだあだしき御心づかひをば】－夕霧の「あだあだしき御心遣ひ」をさす。<BR>⏎924 
 1315【大事と思いて】－主語は源氏。<BR>⏎925 
d11316<P>⏎
 1317【さなむ常に】－以下「をさめてはべる心を」まで、夕霧の詞。「仰せらるる」は連体中止法、余情表現と見る。<BR>⏎926 
 1318【この道を】－女性関係の問題をさす。<BR>⏎927 
 1319【をさめてはべる心を】－夕霧自身の心。「を」間投助詞、詠嘆の意。<BR>⏎928 
d11320<P>⏎
 1321【御前に参りたまへれば】－夕霧が源氏の御前に。<BR>⏎929 
 1322【何かは聞き顔にも】－源氏の心中。「何かは」反語表現。「聞き顔にも」の下に「見えむ」などの語句が省略。<BR>⏎930 
d11323<P>⏎
 1324【いとめでたくきよらに】－以下「などかおごらざらむ」まで、源氏の目に映じた夕霧の姿を心中に思う。『完訳』は「夕霧二十九歳。父親としての源氏の目と心にそって貫祿十分なその風姿が語られる」と注す。<BR>⏎931 
 1325【さるさまの好き事をしたまふとも】－落葉宮との関係をさす。<BR>⏎932 
d11326<P>⏎
 1327【もの思ひ知らぬ若人のほどにはたおはせず】－夕霧をさしていう。<BR>⏎933 
 1328【ことわりぞかし】－挿入句。上の「ねびととのほりたまへる」は下の「女にて」の原因理由を表す。<BR>⏎934 
 1329【などかめでざらむ】－反語表現。誰でも素晴らしいと思う、の意。<BR>⏎935 
d11330<P>⏎
note391331　<A NAME="in62">[第二段　雲居雁、嫉妬に荒れ狂う]</A><BR>936 
d11332<P>⏎
 1333【日たけて殿には渡りたまへり】－夕霧、日が高くなってから三条殿に帰邸。<BR>⏎937 
 1334【入りたまふより若君たち】－格助詞「より」時間の起点を表す、入るや否や、の意。<BR>⏎938 
 1335【女君は帳の内に臥したまへり】－『完訳』は「雲居雁は一睡もせず夕霧の帰邸を待っていたのだろう」と注す。<BR>⏎939 
d11336<P>⏎
 1337【入りたまへれど】－夕霧が御帳台の中に。<BR>⏎940 
 1338【つらきにこそはあめれ】－夕霧の心中。雲居雁の気持を推察。<BR>⏎941 
d11339<P>⏎
 1340【いづことておはしつるぞ】－以下「なり果てなむとて」まで、雲居雁の詞。皮肉をこめた言い方。<BR>⏎942 
 1341【まろは早う死にき】－『源注拾遺』は「あらばこそ初めも果ても思ほえめ今日にも逢はで消えにしものを」（大和物語）「恋しとも今は思はず魂の逢ひ見ぬさきに亡くなりぬれば」（興風集）を指摘。<BR>⏎943 
d11342<P>⏎
 1343【御心こそ鬼より】－以下「え疎みはつまじ」まで、夕霧の詞。『完訳』は「相手の言葉じりを捉えてからかい、美貌をほめて機嫌をとる」と注す。係助詞「こそ」--「おはすれ」已然形、読点、逆接用法。『源注拾遺』は「恋しくは影をだに見て慰めよ我が打ち解けて忍ぶ顔なり」（後撰集恋五、九一〇、読人しらず）「影見ればいとど心ぞ惑はるる近からぬけの疎きなりけり」（後撰集恋五、九一一、伊勢）を指摘。<BR>⏎944 
d11344<P>⏎
 1345【心やましうて】－『完訳』は「雲居雁は真剣なだけに、夫のごまかしの冗談に腹が立つ」と訳す。<BR>⏎945 
d11346<P>⏎
 1347【めでたきさまに】－以下「くやしきものを」まで、雲居雁の詞。夕霧の姿をさしていう。<BR>⏎946 
 1348【あり経べき身にもあらねば】－雲居雁わが身をいう。<BR>⏎947 
 1349【失せなむとするをかくだにな思し出でそ】－大島本は「うせなむとする越」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「失せなむとす。なほ」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。『集成』は「今日のようにたまに思い出して尋ねてくるようなこともしてほしくない、の意」。『完訳』は「「さまは憎げも--」を受け、私を美貌とさえ思い出すな、の意。相手のうれしがらせが快く耳に残った。人の好さが躍如」と注す。<BR>⏎948 
d11350<P>⏎
 1351【匂ひやかにうち赤みたまへる顔】－『完訳』は「興奮して赤らむ顔も魅力的」と注す。<BR>⏎949 
d11352<P>⏎
 1353【かく心幼げに】－以下「神々しき気を添へばや」まで、夕霧の詞。からかいの言葉。<BR>⏎950 
d11354<P>⏎
 1355【何ごと言ふぞ】－以下「うしろめたし」まで、雲居雁の詞。『完訳』は「雲居雁はいよいよ興奮。相手への敬語も省く。以下、短い言葉を矢つぎばやに発する」と注す。<BR>⏎951 
d11356<P>⏎
 1357【こまやかに笑ひて】－『集成』は「こみあげるように」。『完訳』は「にこやかな笑顔になって」と訳す。<BR>⏎952 
d11358<P>⏎
 1359【近くてこそ】－以下「契りきこえしか」まで、夕霧の詞。係助詞「こそ」--「見たまはざらめ」已然形、逆接用法。「見たまはざらめ」の目的語は、わたし夕霧を。<BR>⏎953 
 1360【よそにはなにか】－大島本は「なにか」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「などか」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。「なにか」--「聞きたまはざらむ」反語表現。<BR>⏎954 
d11361<P>⏎
 1362【いとつれなく言ひて】－『集成』は「相手にもせずあしらって」。『完訳』は「まったく取り合う様子もなくあしらって」と訳す。<BR>⏎955 
 1363【何くれと慰めこしらへきこえ慰めたまへば】－大島本は「なにくれとなくさめこしらへきこえなくさめ給へハ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「何くれとこしらへきこえ慰めたまへば」と「慰め」を削除する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎956 
 1364【いと若やかに心うつくしう】－雲居雁の心根。<BR>⏎957 
 1365【いとあはれと思すものから】－主語は夕霧。<BR>⏎958 
d11366<P>⏎
 1367【かれもいとわが心を】－以下「あべいかな」まで、夕霧の詞。落葉宮を思う。<BR>⏎959 
 1368【本意ならぬことにて】－夕霧との結婚を不本意なことと考えて。<BR>⏎960 
d11369<P>⏎
 1370【しばしはとだえ置くまじう】－結婚当初だから絶え間なく通おうと。<BR>⏎961 
 1371【今日も御返りだになきよ】－夕霧の心中。落葉宮のもとからの返書。<BR>⏎962 
 1372【心にかかりつつ】－大島本は「心にかゝりつゝ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「心にかかりて」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。<BR>⏎963 
d11373<P>⏎
note391374　<A NAME="in63">[第三段　雲居雁、夕霧と和歌を詠み交す]</A><BR>964 
d11375<P>⏎
 1376【つゆも参らざりけるもの】－主語は雲居雁。<BR>⏎965 
d11377<P>⏎
cd2:11378-1379【昔より御ために】－以下「命こそ定めなき世なれ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎
【御ために心ざしの】－あなたのためにわたしの気持ちの、の意。<BR>⏎
966【昔より御ために心ざしの】－以下「命こそ定めなき世なれ」まで、夕霧の詞。<BR>【御ために心ざしの】－あなたのためにわたしの気持ちの、の意。<BR>⏎
 1380【ここかしこすすみけしきばみしあたりを】－「ここかしこ」が主語。縁談を申し込んできた。<BR>⏎967 
 1381【女だにさしもあらじ】－女性には多数の縁談の申し込みを断ることがよくある、というのが前提になっている。<BR>⏎968 
 1382【人ももどきし】－世間の人が皮肉った。<BR>⏎969 
d11383<P>⏎
 1384【いにしへだに重かりけり】－まして現在は昔以上に重々しい、の含み。<BR>⏎970 
 1385【思し捨つまじき人びといと所狭きまで数添ふめれば】－夕霧と雲居雁の間にできた子供たちをさす。<BR>⏎971 
 1386【御心ひとつに】－あなた雲居雁の考え一つで。<BR>⏎972 
cd2:11387-1388【命こそさだめなき世なれ】－『集成』は「人の命は不定だが、私のあなたへの情愛は不変だ、の意」と注す。係助詞「こそ」--「なれ」已然形の係結び、逆接のニュアンスの余意余情表現。<BR>⏎
<P>⏎
973【命こそ定めなき世なれ】－『集成』は「人の命は不定だが、私のあなたへの情愛は不変だ、の意」と注す。係助詞「こそ」--「なれ」已然形の係結び、逆接のニュアンスの余意余情表現。<BR>⏎
 1389【女も】－『完訳』は「男女関係強調の呼称」と注す。<BR>⏎974 
d11390<P>⏎
cd2:11391-1392【さすがに契り深かりけるかなと】－『完訳』は「恨めしくもあるが、やはり。雲居雁は素直な性格を印象づける」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
975【さすがに契り深かりけるかな】－『完訳』は「恨めしくもあるが、やはり。雲居雁は素直な性格を印象づける」と注す。<BR>⏎
 1393【なよびたる御衣ども脱いたまうて】－主語は夕霧。<BR>⏎976 
d11394<P>⏎
cd2:11395-1396【馴るる身を恨むるよりは松島の海人の衣に裁ちやかへまし】－雲居雁の独詠歌。手にとった源氏の下着から「馴るる」と出る。「恨む」「裏」、「尼」「海人」は掛詞。「馴るる」「裏」「衣」「裁ち」、「浦」「松島」は縁語。『完訳』は「夫に飽きられた悲しみを、衣の縁語表現でまとめた歌」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
977【馴るる身を恨むるよりは松島の--海人の衣に裁ちやかへまし】－雲居雁の独詠歌。手にとった源氏の下着から「馴るる」と出る。「恨む」「裏」、「尼」「海人」は掛詞。「馴るる」「裏」「衣」「裁ち」、「浦」「松島」は縁語。『完訳』は「夫に飽きられた悲しみを、衣の縁語表現でまとめた歌」と注す。<BR>⏎
 1397【なほうつし人にてはえ過ぐすまじかりけり】－歌に付いて出た言葉。『源氏釈』は「かひすらも妹背ぞなべてある物をうつし人にて我ひとり寝る」（出典未詳）を指摘。<BR>⏎978 
d11398<P>⏎
cd4:21399-1402【さも心うき御心かな】－夕霧の詞。<BR>⏎
<P>⏎
【松島の海人の濡衣なれぬとて脱ぎ替へつてふ名を立ためやは】－夕霧の返歌。「松島」「海人」「馴る」「裁つ」の語句を受けて返す。「やは」反語表現。私を捨てて尼になったという噂が立ってよいものか。『河海抄』は「松島や小島の磯にあさりせし海人の袖こそかくは濡れしか」（後拾遺集恋四、八二八、源重之）。『源氏物語事典』は「音に聞く松が浦島今日ぞ見るむべも心あるあまは住みけり」（後撰集雑一、一〇九四、素性法師）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
979-980【さも心憂き御心かな】－夕霧の詞。<BR>⏎
【松島の海人の濡衣なれぬとて--脱ぎ替へつてふ名を立ためやは】－夕霧の返歌。「松島」「海人」「馴る」「裁つ」の語句を受けて返す。「やは」反語表現。私を捨てて尼になったという噂が立ってよいものか。『河海抄』は「松島や小島の磯にあさりせし海人の袖こそかくは濡れしか」（後拾遺集恋四、八二八、源重之）。『源氏物語事典』は「音に聞く松が浦島今日ぞ見るむべも心あるあまは住みけり」（後撰集雑一、一〇九四、素性法師）を指摘。<BR>⏎
 1403【うち急ぎていとなほなほしや】－三光院説「草子地也」と指摘。『全集』は「語り手の夕霧に対するからかい。読者の夕霧に対する非難を先取りする軽い諧謔」と注す。<BR>⏎981 
d11404<P>⏎
note391405　<A NAME="in64">[第四段　塗籠の落葉宮を口説く]</A><BR>982 
d11406<P>⏎
 1407【かしこには】－一条宮邸の落葉宮をさす。<BR>⏎983 
 1408【なほさし籠もりたまへるを】－塗籠の中に落葉宮が。<BR>⏎984 
d11409<P>⏎
 1410【かくてのみやは】－以下「聞こえたまはめ」まで、女房たちの詞。<BR>⏎985 
cd2:11411-1412【例のありさまにて】－いつものご座所に戻って。<BR>⏎
<P>⏎
986【例の御ありさまにて】－いつものご座所に戻って。<BR>⏎
 1413【心づきなく恨めしかりける人のゆかりと】－夕霧をさす。『一葉抄』は「双紙の地也」と注す。『集成』は「夕霧と結婚することに対する外部の悪評、夕霧のせいで母御息所の亡くなったを落葉の宮は思う」と注す。<BR>⏎987 
 1414【戯れにくくめづらかなり】－夕霧の詞。『異本紫明抄』は「ありぬやと試みがてら逢ひ見ねば戯れにくきまでぞ恋しき」（古今集誹諧、一〇二五、読人しらず）を指摘。『完訳』は「冗談も言いにくく、非常識で融通もきかないほど珍しい、の意」と注す。<BR>⏎988 
 1415【人もいとほしと見たてまつる】－主語は小少将の君。目的語は夕霧とも落葉宮とも、また二人とも解せる。<BR>⏎989 
d11416<P>⏎
 1417【いささかも人心地する折あらむに】－以下「聞こえたまふ」まで、小少将の君の詞。ただし「いささかも」から「過ぐさむ」までは宮の言葉を伝えたもの。<BR>⏎990 
 1418【忘れたまはずは】－主語は夕霧。あなたがわたしを。<BR>⏎991 
 1419【ともかうも聞こえむ】－主語はわたし落葉宮。<BR>⏎992 
 1420【この御服のほどは】－『集成』は「御息所の喪に服している間は。一年間ということになる」と注す。<BR>⏎993 
 1421【あやにくに】－母親の服喪中にも関わらず夕霧と結婚したことをさす。<BR>⏎994 
cd2:11422-1423【知らぬ人なくなりぬるを】－目的語、夕霧とのことを、が省略。<BR>⏎
<P>⏎
995【知らぬ人なくなりぬめるを】－目的語、夕霧とのことを、が省略。<BR>⏎
 1424【思ふ心は】－以下「思はずなりける世かな」まで、夕霧の詞。<BR>⏎996 
 1425【例のやうにて】－以下「過ぐしつべくなむ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎997 
d11426<P>⏎
 1427【なほかかる乱れに添へて】－以下「御心がまへなり」まで、落葉宮の詞。小少将の君を介して。喪中の悲しみに取り乱している折に、の意。<BR>⏎998 
 1428【わりなき御心】－夕霧の求婚。<BR>⏎999 
d11429<P>⏎
 1430【はるかにのみもてなしたまへり】－『異本紫明抄』は「陸奥のちかの塩釜近ながら遥けくのみも思ほゆるかな」（古今六帖、しほ）を指摘。<BR>⏎1000 
d11431<P>⏎
note391432　<A NAME="in65">[第五段　夕霧、塗籠に入って行く]</A><BR>1001 
d11433<P>⏎
 1434【さりとてかくのみやは人の聞き漏らさむこともことわり】－夕霧の心中。<BR>⏎1002 
d11435<P>⏎
 1436【うちうちの御心づかひは】－以下「いとほしけれ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎1003 
 1437【情けばまむ】－『完訳』は「宮の気持に逆わず、表向きだけの夫婦でいよう。本心ではない」と注す。<BR>⏎1004 
 1438【人の御名】－あなた落葉宮の評判。<BR>⏎1005 
 1439【いかがはいとほしかるべき】－「いかがは」--「べき」は強調表現。<BR>⏎1006 
d11440<P>⏎
 1441【この人を責めたまへば】－夕霧が小少将の君を。<BR>⏎1007 
 1442【げにと思ひ】－大島本は「けにとも（も＄）」とある。すなわち「も」をミセケチにする。『集成』『完本』は諸本に従って「げにとも」と校訂する。『新大系』は底本の訂正に従う。主語は小少将の君。『一葉集』は「双紙の地也」と指摘。『林逸抄』は「双紙の地也又は少将か心也」と注す。<BR>⏎1008 
 1443【見たてまつるも今は】－目的語は夕霧。<BR>⏎1009 
 1444【人通はしたまふ塗籠の北の口より】－宮が女房の出入りを許していらっしゃる塗籠の北の口から。<BR>⏎1010 
d11445<P>⏎
 1446【いみじうあさましうつらし】－落葉宮の心。<BR>⏎1011 
 1447【さぶらふ人をも】－以下「見せつべかりけり」まで落葉宮の心。<BR>⏎1012 
 1448【頼もしき人もなくなり果てたまひぬる御身を】－『完訳』は「信頼していた小少将の君にも裏切られた感じ」と注す。<BR>⏎1013 
d11449<P>⏎
 1450【男は】－『集成』は「男女対座の場面なので、「男」と端的に呼ぶ」。『完訳』は「男女関係強調の呼称」と注す。<BR>⏎1014 
 1451【つらく心づきなしとのみ思いたり】－主語は落葉宮。<BR>⏎1015 
d11452<P>⏎
 1453【いとかう言はむ方なきものに】－以下「捨てつる身と思しなせ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎1016 
 1454【身のほどは】－夕霧の身。我が身のつたなさは、の意。<BR>⏎1017 
 1455【あるまじき心のつきそめけむも】－『完訳』は「人臣の身で皇女を娶ろうとする心づもりをいう」と注す。<BR>⏎1018 
 1456【とり返すものならぬうちに】－『奥入』は「取り返すものにもがなや世の中をありしながらの我が身と思はむ」（出典未詳）。『弄花抄』は「むら鳥の立ちにし我が名今さらにことなしぶともしるしあらめや」（古今集恋三、六七四、読人しらず）を指摘。<BR>⏎1019 
 1457【何のたけき御名にかはあらむ】－反語表現、いまさら何にもならない。<BR>⏎1020 
d11458<P>⏎
 1459【深き淵になずらへたまて捨てつる身と思しなせ】－『異本紫明抄』は「身を捨てて深き淵にも入りぬべし底の知らまほしさに」（後拾遺集恋一、六四七、源道済）。『河海抄』は「世の中の憂きたびごとに身を投げば深き谷こそ浅くなりなめ」（古今集誹諧、一〇六一、読人しらず）。『評釈』は「そこひなき淵やは騒ぐ山川の浅き瀬にこそあだ波は立て」（古今集恋四、七二二、素性法師）を指摘。<BR>⏎1021 
d11460<P>⏎
 1461【いとうたていかなれば】－以下「さやおぼすらむ」まで、夕霧の心中。<BR>⏎1022 
 1462【いみじう思ふ人も】－『集成』は「どんなに決心の固い人でも」。『完訳』は「どんなに気強い女でも」と訳す。<BR>⏎1023 
 1463【岩木よりけになびきがたきは】－「人、木石に非ざれば皆情あり」（白氏文集、李夫人）。<BR>⏎1024 
 1464【契り遠うて憎しなど思ふやうあなるを】－『完訳』は「前世の因縁で憎むのなら、これはどうしょうもないが、の意」と注す。<BR>⏎1025 
d11465<P>⏎
 1466【と思ひ寄るに】－『集成』は「「と思ひ寄るに」以下、地の文だが、「思ひ出づるも」「思ひ続けらるれば」と、敬語を欠き、夕霧の思いに密着した書き方」と注す。<BR>⏎1026 
 1467【三条の君の思ひたまふらむこと】－雲居雁がお悲しみであろうこと。推量の助動詞「らむ」視界外推量、遥かに思い遣るニュアンス。<BR>⏎1027 
 1468【うち頼み解けたまへるさまを】－雲居雁が夕霧を信頼し打ち解けていらした、の意。<BR>⏎1028 
 1469【思ひ続けらるれば】－「らるれ」自発の助動詞。『集成』は「落葉宮にうとまれ、雲居の雁からは怨まれる結果になったのも、皆自分の招いたことだ、と苦い思いを反芻する」と注す。<BR>⏎1029 
d11470<P>⏎
note391471　<A NAME="in66">[第六段　夕霧と落葉宮、遂に契りを結ぶ]</A><BR>1030 
d11472<P>⏎
 1473【かうのみ痴れがましうて出で入らむもあやしければ】－『集成』は「いつもこんなことでおめおめ間抜け者然と出入りするのも不体裁なので」。『完訳』は「こうして、いかにもばかげた有様で出入りするのも変なものであるから」。「かく」副詞、「痴れがまし」を修飾。副助詞「のみ」のニュアンスを添える。<BR>⏎1031 
 1474【宮は思いて】－主語「宮は」を添えて強調する。「女は」とはないことに注意。<BR>⏎1032 
 1475【をこがましき御心かな】－夕霧の心中。『集成』は「みっともないほどの意地の張りようかと」。『完訳』は「大将は、愚かしい方よと」と訳す。<BR>⏎1033 
 1476【かつはつらきもののあはれなり】－地の文から語り手の夕霧と落葉宮に対する評語に移る表現。<BR>⏎1034 
d11477<P>⏎
 1478【埋もれたる御衣ひきやり】－主語は夕霧。落葉宮の被っていた御衣を払いのける。<BR>⏎1035 
 1479【御髪かきやりなどして】－主語は夕霧。<BR>⏎1036 
 1480【ほの見たてまつりたまふ】－『完訳』は「宮の顔をほのかに見る。情交のあったことをにおわせる表現」と注す。<BR>⏎1037 
d11481<P>⏎
 1482【男の御さまは】－『完訳』は「以下、宮の心情に即した行文。「男」の呼称も情交の場を強調」と注す。<BR>⏎1038 
 1483【うちとけてものしたまふは】－『完訳』は「肌を許し合う仲として見直すと、夕霧の美しさが際だつ。契り交した後の女の心の変化に注意」と注す。<BR>⏎1039 
d11484<P>⏎
 1485【故君の異なることなかりしだに】－以下「見忍びなむや」まで、落葉宮の心中。『集成』は「以下、落葉の宮の思い」。『完訳』は「女三の宮を思う柏木は、ことさら宮を低く見た。宮の劣等感の原因」と注す。<BR>⏎1040 
 1486【御容貌まほにおはせずと】－柏木が思いまた落葉宮に言ったこと。落葉宮の心中文に敬語「思す」がまじる。<BR>⏎1041 
 1487【ましてかういみじう衰へにたるありさまを】－柏木との結婚当時以上に年衰え醜くなった、の意。『完訳』は「宮は二十代後半であろう。ちなみに女三の宮は二十四、五歳。確かに、女盛りは過ぎている」と注す。<BR>⏎1042 
 1488【見忍びなむや】－主語は夕霧。敬語がないことに注意。結婚後の夫婦間の心情。<BR>⏎1043 
 1489【と思ふもいみじう恥づかしう】－大島本は「はつかしう」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「恥づかし」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。作中人物の気持ちと地の文が一体化した表現。<BR>⏎1044 
d11490<P>⏎
 1491【ただかたはらいたう】－『集成』は「以下、宮の心中を説明する」と注す。<BR>⏎1045 
 1492【ここもかしこも】－朱雀院や致仕の太政大臣をさす。<BR>⏎1046 
cd2:11493-1494【折さへいと心憂けれは】－母御息所の喪中であることをさす。<BR>⏎
<P>⏎
1047【折さへいと心憂ければ】－母御息所の喪中であることをさす。<BR>⏎
 1495【例の御座の方に】－塗籠から出ていつもの御座所に移る。<BR>⏎1048 
 1496【大和守のしわざなりけり】－語り手の説明的叙述。<BR>⏎1049 
d11497<P>⏎
 1498【人びとも鮮やかならぬ色の】－女房たち。喪中ゆえに服飾の色も目立たないものを用いる。<BR>⏎1050 
 1499【女所にてしどけなくよろづのことならひたる宮の内に】－『集成』は「女世帯なので、諸事しまりもなく今までやってこられた邸内に」。『完訳』は「女ばかりの住いとて、万事締りのないのが習慣になっていた邸内だったのを」と訳す。<BR>⏎1051 
 1500【この人一人のみ扱ひ行ふ】－大和守一人が取り仕切る。<BR>⏎1052 
d11501<P>⏎
 1502【やむごとなき客人のおはする】－夕霧をさす。<BR>⏎1053 
 1503【もと勤めざりける家司などうちつけに参りて】－以前には真面目に勤めなかった家司が急にやって来て、の意。<BR>⏎1054 
d11504<P>⏎
note391505　<H4>第七章　雲居雁の物語　夕霧の妻たちの物語</H4>1055 
note391506　<A NAME="in71">[第一段　雲居雁、実家へ帰る]</A><BR>1056 
d11507<P>⏎
cd2:11508-1509【作りたまふほどに】－主語は夕霧。<BR>⏎
<P>⏎
1057【作りたまふほど】－主語は夕霧。<BR>⏎
 1510【限りなめりと】－以下「まことなりけり」まで、雲居雁の心中、地の文に織り交ぜて叙述。<BR>⏎1058 
d11511<P>⏎
 1512【世を試みつる心地して】－『集成』は「夫婦の仲を見届けてしまった気がして」。『完訳』は「男女の仲らいの定めなさがすっかり分ってしまったような心地がして」と訳す。<BR>⏎1059 
 1513【女御の里におはするほどなどに】－弘徽殿の女御。雲居雁とは異母姉妹。<BR>⏎1060 
 1514【急ぎ渡りたまはず】－三条邸に急いで帰らない。<BR>⏎1061 
d11515<P>⏎
 1516【さればよいと急に】－以下「し出でたまうつべき」まで、夕霧の心中。<BR>⏎1062 
cd2:11517-1518【ひがひがしきことどもし出でつべき】－『集成』は「相手が相手だから、離縁話に発展しかねない、とあやぶむ」。「し出でつべき」連体中止法、余情余意表現。<BR>⏎
<P>⏎
1063【ひがひがしきことどもし出でたまうつべき】－『集成』は「相手が相手だから、離縁話に発展しかねない、とあやぶむ」。「し出でつべき」連体中止法、余情余意表現。<BR>⏎
 1519【姫君たちさてはいと幼きとをぞ率ておはしにける】－挿入句。直前の「止まりたまへれば」はこの句の下の「見つけて」に続く。<BR>⏎1064 
 1520【上を恋ひたてまつりて】－母上を恋しがって。<BR>⏎1065 
d11521<P>⏎
 1522【迎へにたてまつれたまへど】－人をして迎えに差し向けなさるが、の意。<BR>⏎1066 
d11523<P>⏎
note391524　<A NAME="in72">[第二段　夕霧、雲居雁の実家へ行く]</A><BR>1067 
d11525<P>⏎
 1526【寝殿になむおはする】－弘徽殿女御が里下りの時に用いる寝殿の部屋に雲居雁も一緒にいる。<BR>⏎1068 
 1527【例の渡りたまふ方は御達のみさぶらふ】－雲居雁が実家に帰った時に用いる部屋は女房たちがいる。<BR>⏎1069 
d11528<P>⏎
 1529【今さらに若々しの御まじらひや】－以下「もてなしたまふべくや」まで、夕霧の詞。女房を介して雲居雁に伝える。弘徽殿の女御と一緒にいることをさす。当時の若い女性は宮廷に仕える人からその有様や情報などを聞くのを喜んだ。<BR>⏎1070 
 1530【など寝殿の御まじらひは】－女御と話しこんで子供をほったらかしているのを非難。「は」終助詞、詠嘆の意。<BR>⏎1071 
c11531【ふさはしからぬ御心の筋は】－わたし夕霧には似合わなしくないあなたのご気性は、の意。<BR>⏎
1072【ふさはしからぬ御心の筋とは】－わたし夕霧には似合わなしくないあなたのご気性は、の意。<BR>⏎
 1532【さるべきにや】－前世からの宿縁か、の意。<BR>⏎1073 
 1533【くだくだしき人の数々】－夕霧と雲居雁の間にできた大勢の子供たち。<BR>⏎1074 
 1534【かたみに見捨つべきにやは】－「やは」反語表現。お互いに見捨ててよいはずでない。<BR>⏎1075 
 1535【はかなき一節に】－落葉の宮との一件をいう。<BR>⏎1076 
d11536<P>⏎
 1537【何ごとも今はと】－以下「うれしうこそはあらめ」まで、雲居雁の詞。<BR>⏎1077 
 1538【見飽きたまひにける身なれば】－主語は夕霧。夕霧がわたし雲居雁を見飽きた、の意。<BR>⏎1078 
 1539【何かはとて】－『集成』は「何もおとなしくしているに及ぶまいと思いまして。夕霧の非難に答えて、勝手にこうしていますと、居直った言いぶり」と注す。「なにかは」の下に「直さむ」などの語句が省略。反語表現。<BR>⏎1079 
 1540【あやしき人びとは】－子供たちをいう。自分の生んだ子なので「あやしき」とへりくだって言う。夕霧の「くだくだしき人」に対応した言い方。<BR>⏎1080 
d11541<P>⏎
cd2:11542-1543【なだらかの御いらへや言ひもてゆけば誰が名か惜しき】－皮肉。『完訳』は「あなたが悪く噂されるのがおち、の気持」と注す。『奥入』は「言ひ立てば誰が名か惜しき信濃なる木曾路の橋のふみし絶えなば」（出典未詳）。『異本紫明抄』は「恋ひ死なば誰が名は立たじ世の中の常なきものと言ひはなすとも」（古今集恋二、六〇三、清原深養父）。『源注拾遺』は「里人も語り継ぐがねよしゑやし恋ひても誰が名ならめや」（万葉集巻十二）「人目多みただに逢はずてけだしくも我が恋ひ死なば誰が名あらむも」（万葉集巻十二）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
1081【なだらかの御いらへや。言ひもていけば、 誰が名か惜しき】－皮肉。『完訳』は「あなたが悪く噂されるのがおち、の気持」と注す。『奥入』は「言ひ立てば誰が名か惜しき信濃なる木曾路の橋のふみし絶えなば」（出典未詳）。『異本紫明抄』は「恋ひ死なば誰が名は立たじ世の中の常なきものと言ひはなすとも」（古今集恋二、六〇三、清原深養父）。『源注拾遺』は「里人も語り継ぐがねよしゑやし恋ひても誰が名ならめや」（万葉集巻十二）「人目多みただに逢はずてけだしくも我が恋ひ死なば誰が名あらむも」（万葉集巻十二）を指摘。<BR>⏎
 1544【あやしう中空なるころかな】－夕霧の心中。<BR>⏎1082 
 1545【かしこにまたいかに】－落葉宮を思う。<BR>⏎1083 
 1546【いかなる人かうやうなることをかしうおぼゆらむ】－夕霧の心中。「人」は一般男性をす。「かうやうのこと」は色恋沙汰をさす。推量の助動詞「らむ」原因推量のニュアンス。<BR>⏎1084 
d11547<P>⏎
 1548【人の見聞かむも若々しきを】－以下「もてなしはべりなむ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎1085 
 1549【限りとのたまひ果てば】－主語はあなた雲居雁が。<BR>⏎1086 
 1550【さて試みむ】－「さて」は雲居雁が言うように、「試みむ」は自分夕霧がしよう、の意。<BR>⏎1087 
 1551【かしこなる人びともらうたげに】－三条邸に残っている子供たち。<BR>⏎1088 
 1552【選り残したまへるやうあらむとは】－『集成』は「出来の悪いのだけを残して行ったのだろうという嫌味」と注す。<BR>⏎1089 
d11553<P>⏎
 1554【すがすがしき御心にて】－以下「渡したまはむ」まで、雲居雁の心中。『集成』は「まっすぐなご性分だから。以下、雲居の雁の心中。子供を全部取られはしないかと恐れる」。『完訳』は「夕霧の思いきりのよい性格。一説に、雲居雁は素直な性格」と注す。<BR>⏎1090 
 1555【この君達をさへ】－副助詞「さへ」は三条邸に残してきた子供たちに加えてこの連れて来た子供たちまでが、のニュアンス。<BR>⏎1091 
 1556【知らぬ所に率て渡したまはむ】－落葉宮の一条邸へ。<BR>⏎1092 
d11557<P>⏎
 1558【いざたまへかし】－以下「見たてまつらむ」まで、夕霧の詞。<BR>⏎1093 
 1559【かしこにも人びとのらうたきを】－三条邸にいる兄弟たちをさす。<BR>⏎1094 
d11560<P>⏎
 1561【母君の御教へに】－以下「いと悪しきわざなり」まで、夕霧の詞。<BR>⏎1095 
d11562<P>⏎
note391563　<A NAME="in73">[第三段　蔵人少将、落葉宮邸へ使者]</A><BR>1096 
d11564<P>⏎
 1565【大臣かかることを聞きたまひて】－致仕の太政大臣。雲居雁の父、夕霧の舅。<BR>⏎1097 
d11566<P>⏎
 1567【しばしはさても見たまはで】－以下「心ばへも見えなむ」まで、致仕の太政大臣の詞。ここで文が切れる。「見たまはで」の下に「かく渡りたまふ」などの語句が省略。雲居雁の短慮に対する諌めの言葉。<BR>⏎1098 
 1568【おのづから思ふところものせらるらむものを】－夕霧の行動についていう。<BR>⏎1099 
 1569【よしかく言ひそめつとならば】－「言ひそめつ」の主語は雲居雁。ただし敬語はない。娘の立場にたっていう。<BR>⏎1100 
 1570【何かは愚れてふとしも帰りたまふ】－「何かは」--「たまふ」連体形、反語表現。<BR>⏎1101 
d11571<P>⏎
 1572【のたまはせて】－大臣に対する重い敬語表現。<BR>⏎1102 
 1573【この宮に】－一条宮邸の落葉の宮へ。<BR>⏎1103 
 1574【蔵人少将の君を御使にて】－致仕太政大臣の子息、柏木の弟。<BR>⏎1104 
d11575<P>⏎
cd2:11576-1577【契りあれや君を心にとどめおきてあはれと思ふ恨めしと聞く】－致仕太政大臣から故柏木の妻の落葉宮への贈歌。『完訳』は「「あはれ」は宮が長男柏木の妻だったから、「うらめし」は宮が娘雲居雁の夫を奪ったから。怒りを皮肉に言い込めた」と注す。『異本紫明抄』は「よそに我人々ごとを聞きしかばあはれとも思ふあな憂とも思ふ」（朝忠集）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
1105【契りあれや君を心にとどめおきて--あはれと思ふ恨めしと聞く】－致仕太政大臣から故柏木の妻の落葉宮への贈歌。『完訳』は「「あはれ」は宮が長男柏木の妻だったから、「うらめし」は宮が娘雲居雁の夫を奪ったから。怒りを皮肉に言い込めた」と注す。『異本紫明抄』は「よそに我人々ごとを聞きしかばあはれとも思ふあな憂とも思ふ」（朝忠集）を指摘。<BR>⏎
 1578【なほえ思し放たじ】－歌に添えた言葉。『完訳』は「こちらをも顧みよ、の気持」と注す。<BR>⏎1106 
d11579<P>⏎
 1580【ただ入りに入りたまふ】－『集成』は「もの馴れた様子でずんずん入って行かれる。一条の宮には以前から出入りし馴れた様子」。『完訳』は「門内まで乗り入れる。普通、貴人の邸では門前で挨拶して下車」と注す。<BR>⏎1107 
d11581<P>⏎
 1582【南面の簀子に円座さし出でて】－寝殿の南面の簀子。普通の応対待遇。接続助詞「て」逆接のニュアンス。<BR>⏎1108 
 1583【人びともの聞こえにくし】－女房たち。<BR>⏎1109 
d11584<P>⏎
 1585【この君はなかにいと容貌よくめやすきさまにて】－蔵人少将。柏木の兄弟の中で。<BR>⏎1110 
 1586【いにしへを思ひ出でたるけしきなり】－柏木在世中を。<BR>⏎1111 
d11587<P>⏎
 1588【参り馴れにたる心地して】－以下「許さずやあらむ」まで、少将の詞。<BR>⏎1112 
 1589【さも御覧じ許さずやあらむ】－『完訳』は「来なれた者として大目には見ていただけないのか、の意」と注す。<BR>⏎1113 
d11590<P>⏎
 1591【われはさらにえ書くまじ】－落葉宮の詞。女房たちに言ったもの。<BR>⏎1114 
d11592<P>⏎
 1593【御心ざしも】－以下「聞こえさすべきにやは」まで、女房の詞。反語表現。<BR>⏎1115 
d11594<P>⏎
 1595【故上おはせましかば】－以下「隠いたまはまし」まで、落葉宮の心中。「ましかば」--「まし」反実仮想の構文。<BR>⏎1116 
d11596<P>⏎
cd2:11597-1598【何ゆゑか世に数ならぬ身ひとつを憂しとも思ひかなしとも聞く】－落葉宮の返歌。『完訳』は「「数ならぬ身ひとつ」と、夕霧とは無関係に、一人を強調。下の句は、大臣の歌の下句に照応」と注す。『奥入』は「月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つはもとの身にして」（古今集恋五、七四七、在原業平）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
1117【何ゆゑか世に数ならぬ身ひとつを--憂しとも思ひかなしとも聞く】－落葉宮の返歌。『完訳』は「「数ならぬ身ひとつ」と、夕霧とは無関係に、一人を強調。下の句は、大臣の歌の下句に照応」と注す。『奥入』は「月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つはもとの身にして」（古今集恋五、七四七、在原業平）を指摘。<BR>⏎
 1599【おしつつみて】－上包みに包んで。<BR>⏎1118 
d11600<P>⏎
 1601【時々さぶらふに】－以下「心地なむしはべる」まで、少将の詞。<BR>⏎1119 
 1602【今よりはよすがある心地して】－『完訳』は「暗に、姉婿の夕霧が夫になった縁から訪れやすく、常に参上しよう、といやがらせに言う」と注す。<BR>⏎1120 
 1603【内外なども許されぬべき】－御簾の内側と外側、御簾の中への自由な出入りをいう。<BR>⏎1121 
 1604【年ごろのしるし現はれはべる心地なむしはべる】－『完訳』は「自分も夕霧同様にしばしば参上して忠勤に励んだので、同じように扱ってもらえそう。宮を好色の女と言わんばかりのいやみ」と注す。<BR>⏎1122 
d11605<P>⏎
note391606　<A NAME="in74">[第四段　藤典侍、雲居雁を慰める]</A><BR>1123 
d11607<P>⏎
 1608【いとどしく心よからぬ御けしき】－落葉宮の機嫌。致仕太政大臣からの手紙によってますます不機嫌となる。<BR>⏎1124 
c11609【あくがれまどひたまふほど】－主語は夕霧。<BR>⏎
1125【あくがれ惑ひたまふほど】－主語は夕霧。<BR>⏎
 1610【大殿の君は】－雲居雁。大殿邸にいる女君のニュアンス。<BR>⏎1126 
 1611【典侍かかることを聞くに】－藤典侍。惟光の娘、「少女」巻に初出、「藤裏葉」「若菜下」巻にも登場。<BR>⏎1127 
d11612<P>⏎
 1613【われを世とともに】－以下「出で来にけるを」まで、藤典侍の心中。<BR>⏎1128 
 1614【かくあなづりにくきことも】－『完訳』は「雲居雁は北の方とはいえ、皇女の身の宮を軽視できない。藤典侍の同情の裏には、今まで雲居雁に見下げられてきた恨みがこもる」と注す。<BR>⏎1129 
d11615<P>⏎
 1616【文などは時々たてまつれば】－挿入句。今までに文通はしていたので。直前の「思ひて」はこの句の下の「聞こえたり」に続く。<BR>⏎1130 
d11617<P>⏎
cd2:11618-1619【数ならば身に知られまし世の憂さを人のためにも濡らす袖かな】－藤典侍から雲居雁への贈歌。「身」は我が身、「人」はあなた雲居雁。『異本紫明抄』は「我が身にはきにけるものを憂き事は人の上とも思ひけるかな」（小町集）を指摘。<BR>⏎
<P>⏎
1131【数ならば身に知られまし世の憂さを--人のためにも濡らす袖かな】－藤典侍から雲居雁への贈歌。「身」は我が身、「人」はあなた雲居雁。『異本紫明抄』は「我が身にはきにけるものを憂き事は人の上とも思ひけるかな」（小町集）を指摘。<BR>⏎
 1620【なまけやけしとは見たまへど】－主語は雲居雁。<BR>⏎1132 
 1621【かれもいとただにはおぼえじ】－雲居雁の心中。「かれ」は藤典侍をさす。<BR>⏎1133 
d11622<P>⏎
cd2:11623-1624【人の世の憂きをあはれと見しかども身にかへむとは思はざりしを】－雲居雁の返歌。「身」「世」「憂」「人」の語句を用いて返す。『集成』は「よく同情して下さいました、の意」と注す。<BR>⏎
<P>⏎
1134【人の世の憂きをあはれと見しかども--身にかへむとは思はざりしを】－雲居雁の返歌。「身」「世」「憂」「人」の語句を用いて返す。『集成』は「よく同情して下さいました、の意」と注す。<BR>⏎
 1625【思しけるままと】－藤典侍は雲居雁がお心のままに詠んだ歌と理解する。<BR>⏎1135 
 1626【あはれに見る】－『集成』は「同情する」。『完訳』は「しみじみお気の毒に思っている」と訳す。<BR>⏎1136 
d11627<P>⏎
 1628【この昔御中絶えのほどに】－夕霧と雲居雁の仲が父大臣によって妨げられていた間、「少女」巻から「藤裏葉」巻で結婚するまで、六年間あった。<BR>⏎1137 
 1629【内侍のみこそ】－「思ひとめたまへりしか」にかかる。逆接用法。<BR>⏎1138 
 1630【こと改めて後は】－夕霧と雲居雁が結婚して後。<BR>⏎1139 
d11631<P>⏎
 1632【この御腹には】－雲居雁腹をさす。<BR>⏎1140 
 1633【太郎君】－『完訳』は「以下の子供の人数、雲居雁腹と藤典侍腹の割り振りは諸本によっても異同が多く、そのいずれによっても他の巻の記述と矛盾する」と注す。<BR>⏎1141 
cd2:11634-1635【とりどりに生ひ出でたまける】－大島本は「たま（ま＋ウ<朱>）ける」とある。すなわち朱筆で「う」を補入する。『集成』は「たまひける」と整定する。『完本』『新大系』は底本の訂正以前の「たまける」と整定する。<BR>⏎
<P>⏎
1142【とりどりに生ひ出でたまひける】－大島本は「たま（ま＋ウ<朱>）ける」とある。すなわち朱筆で「う」を補入する。『集成』は「たまひける」と整定する。『完本』『新大系』は底本の訂正以前の「たまける」と整定する。<BR>⏎
 1636【三の君次郎君は東の御殿にぞ取り分きてかしづきたてまつりたまふ】－六条院の東町、花散里の御殿で養育。<BR>⏎1143 
 1637【院も見馴れたまうて】－源氏も日頃御覧になって、の意。<BR>⏎1144 
d11638<P>⏎
 1639【この御仲らひのこと言ひやるかたなくとぞ】－『弄花抄』は「紫式部か語也巻々如此」。『細流抄』は「例の作者の語也」。『評釈』は「いま姫君に語って聞かせる女房（この物語の本文をよみあげる女房）の言葉となる。「言ひやる方なく」とは、昔の、源氏を見た古女房の言葉であり、それをここに伝えるのだ、と、ことわるのである」。『集成』は「このご一統のお話は、とても語り尽せたものではないとのことです。語り手の口ぶりをそのまま伝える草子地の筆法」「夕霧と落葉の宮の物語を、夕霧の家庭に生じた一波瀾という印象で収束しようとする語り手の意図がうかがえる」。『完訳』は「問題が複雑すぎて語り尽せないとする。語り手の省筆の弁」「律儀者の子沢山を印象づけながら、ほろ苦い家庭喜劇の幕が閉じられる。次巻からは本筋へ復帰」。<BR>⏎1145 
d21640-1641⏎
<P>⏎
 1642<A HREF="index.html">源氏物語の世界ヘ</A><BR>⏎1146 
 1643<A HREF="text39.html">本文</A><BR>⏎1147 
 1644<A HREF="roman39.html">ローマ字版 </A><BR>⏎1148 
 1645<A HREF="version39.html">現代語訳 </A><BR>⏎1149 
 1646<A HREF="data39.html">大島本</A><BR>⏎1150 
 1647<A HREF="okuiri39.html">自筆本奥入</A><BR>⏎1151 
d11648⏎
 1649<hr size="4">⏎1152 
 1650</body>⏎1153 
 1651</HTML>⏎1154 
i01156