diff | src/original/text38.html | src/modified/text38.html | ||
---|---|---|---|---|
1 | <HTML>⏎ | 1 | ||
2 | <HEAD>⏎ | 2 | ||
d3 | 3-5 | <meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=UTF-8">⏎ <meta http-equiv="Content-Style-Type" content="text/css">⏎ <meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.3.0 for Windows">⏎ | ||
6 | <TITLE>鈴虫(大島本)</TITLE>⏎ | 3 | ||
7 | </HEAD>⏎ | 4 | ||
cd2:1 | 8-9 | <body background="wallppr063.gif">⏎ First updated 9/20/1996(ver.1-1)<BR>⏎ | 5 | <BODY>⏎ |
cd3:2 | 10-12 | Last updated 6/10/2010(ver.2-2)<BR>⏎ 渋谷栄一校訂(C)<BR>⏎ <P>⏎ | 6-7 | <ADDRESS>Last updated 6/10/2010(ver.2-2)<BR>⏎ 渋谷栄一校訂(C)</ADDRESS>⏎ |
13 | <H3>鈴虫</H3>⏎ | 8 | ||
d1 | 14 | <P>⏎ | ||
15 | 光る源氏の准太上天皇時代五十歳夏から秋までの物語<BR>⏎ | 9 | ||
d1 | 16 | <P>⏎ | ||
17 | [主要登場人物]<BR>⏎ | 10 | ||
18 | <DL>⏎ | 11 | ||
19 | <DT> 光る源氏<ひかるげんじ><BR>⏎ | 12 | ||
20 | <DD>呼称---六条の院・院・大殿の君、五十歳<BR>⏎ | 13 | ||
21 | <DT> 朱雀院<すざくいん>⏎ | 14 | ||
22 | <DD>呼称---院の帝・山の帝・院、源氏の兄<BR>⏎ | 15 | ||
23 | <DT> 女三の宮<おんなさんのみや><BR>⏎ | 16 | ||
24 | <DD>呼称---入道の姫宮・宮、源氏の正妻<BR>⏎ | 17 | ||
25 | <DT> 薫<かおる><BR>⏎ | 18 | ||
26 | <DD>呼称---若君、柏木と女三宮の密通の子<BR>⏎ | 19 | ||
27 | <DT> 蛍兵部卿宮<ほたるひょうぶきょうのみや><BR>⏎ | 20 | ||
28 | <DD>呼称---兵部卿宮・親王、源氏の弟宮<BR>⏎ | 21 | ||
29 | <DT> 冷泉院<れいぜいいん><BR>⏎ | 22 | ||
30 | <DD>呼称---院、桐壺院の子、実は源氏の子<BR>⏎ | 23 | ||
31 | <DT> 夕霧<ゆうぎり><BR>⏎ | 24 | ||
32 | <DD>呼称---大将の君・大将、源氏の長男<BR>⏎ | 25 | ||
33 | <DT> 秋好中宮<あきこのむちゅうぐう><BR>⏎ | 26 | ||
34 | <DD>呼称---中宮、冷泉院の后<BR>⏎ | 27 | ||
35 | <DT> 明石女御<あかしのにょうご>⏎ | 28 | ||
36 | <DD>呼称---春宮の女御、東宮の母<BR>⏎ | 29 | ||
37 | </DL>⏎ | 30 | ||
d1 | 38 | <P>⏎ | ||
39 | 第一章 女三の宮の物語 持仏開眼供養<BR>⏎ | 31 | ||
40 | <OL>⏎ | 32 | ||
41 | <LI>持仏開眼供養の準備---<A HREF="#in11">夏ごろ、蓮の花の盛りに、入道の姫宮の御持仏ども</A>⏎ | 33 | ||
42 | <LI>源氏と女三の宮、和歌を詠み交わす---<A HREF="#in12">堂飾り果てて、講師参う上り、行道の人びと</A>⏎ | 34 | ||
43 | <LI>持仏開眼供養執り行われる---<A HREF="#in13">例の、親王たちなども、いとあまた参りたまへり</A>⏎ | 35 | ||
44 | <LI>三条宮邸を整備---<A HREF="#in14">今しも、心苦しき御心添ひて、はかりもなくかしづき</A>⏎ | 36 | ||
45 | </OL>⏎ | 37 | ||
46 | 第二章 光る源氏の物語 六条院と冷泉院の中秋の宴<BR>⏎ | 38 | ||
47 | <OL>⏎ | 39 | ||
48 | <LI>女三の宮の前栽に虫を放つ---<A HREF="#in21">秋ごろ、西の渡殿の前、中の塀の東の際を</A>⏎ | 40 | ||
49 | <LI>八月十五夜、秋の虫の論---<A HREF="#in22">十五夜の夕暮に、仏の御前に宮おはして、端近う眺め</A>⏎ | 41 | ||
50 | <LI>六条院の鈴虫の宴---<A HREF="#in23">今宵は、例の御遊びにやあらむと推し量りて、兵部卿宮</A>⏎ | 42 | ||
51 | <LI>冷泉院より招請の和歌---<A HREF="#in24">御土器二わたりばかり参るほどに、冷泉院より御消息</A>⏎ | 43 | ||
52 | <LI>冷泉院の月の宴---<A HREF="#in25">人びとの御車、次第のままに引き直し、御前の人びと立ち混みて</A>⏎ | 44 | ||
53 | </OL>⏎ | 45 | ||
54 | 第三章 秋好中宮の物語 出家と母の罪を思う<BR>⏎ | 46 | ||
55 | <OL>⏎ | 47 | ||
56 | <LI>秋好中宮、出家を思う---<A HREF="#in31">六条の院は、中宮の御方に渡りたまひて、御物語など</A>⏎ | 48 | ||
57 | <LI>母御息所の罪を思う---<A HREF="#in32">御息所の、御身の苦しうなりたまふらむありさま</A>⏎ | 49 | ||
58 | <LI>秋好中宮の仏道生活---<A HREF="#in33">昨夜はうち忍びてかやすかりし御歩き、今朝は表はれ</A>⏎ | 50 | ||
59 | </OL>⏎ | 51 | ||
d1 | 60 | <P>⏎ | ||
61 | <A HREF="#in41">【出典】</A><BR>⏎ | 52 | ||
62 | <A HREF="#in42">【校訂】</A><BR>⏎ | 53 | ||
d1 | 63 | <P>⏎ | ||
text38 | 64 | <H4>第一章 女三の宮の物語 持仏開眼供養</H4> | 54 | |
text38 | 65 | <A NAME="in11">[第一段 持仏開眼供養の準備]</A><BR> | 55 | |
d1 | 66 | <P>⏎ | ||
67 | 夏ごろ、蓮の花の盛りに、入道の姫宮の御持仏どもあらはしたまへる、供養ぜさせたまふ。<BR>⏎ | 56 | ||
d1 | 68 | <P>⏎ | ||
69 | このたびは、大殿の君の御心ざしにて、御念誦堂の具ども、こまかに調へさせたまへるを、やがてしつらはせたまふ。幡のさまなどなつかしう、心ことなる唐の錦を選び縫はせたまへり。紫の上ぞ、急ぎせさせたまひける。<BR>⏎ | 57 | ||
d1 | 70 | <P>⏎ | ||
71 | 花机の覆ひなどのをかしき目染もなつかしう、きよらなる匂ひ、染めつけられたる心ばへ、目馴れぬさまなり。夜の御帳の帷を、四面ながら上げて、後ろの方に法華の曼陀羅かけたてまつりて、銀の花瓶に、高くことことしき花の色を調へてたてまつり、名香に、唐の百歩の薫衣香を焚きたまへり。<BR>⏎ | 58 | ||
d1 | 72 | <P>⏎ | ||
73 | 阿弥陀仏、脇士の菩薩、おのおの白檀して作りたてまつりたる、こまかにうつくしげなり。閼伽の具は、例の、きはやかに小さくて、青き、白き、紫の蓮を調へて、荷葉の方を合はせたる名香、蜜を隠しほほろげて、焚き匂はしたる、一つ薫りに匂ひ合ひて、いとなつかし。<BR>⏎ | 59 | ||
d1 | 74 | <P>⏎ | ||
75 | 経は、六道の衆生のために六部書かせたまひて、みづからの御持経は、院ぞ御手づから書かせたまひける。これをだに、この世の結縁にて、かたみに導き交はしたまふべき心を、願文に作らせたまへり。<BR>⏎ | 60 | ||
d1 | 76 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 77-78 | さては、阿弥陀経、唐の紙はもろくて、朝夕の御手慣らしにもいかがとて、紙屋の人を召して、ことに仰せ言賜ひて、心ことにきよらに漉かせたまへるに、この春のころほひより、御心とどめて急ぎ書かせたまへるかひありて、端を見たまふ人びと、目もかかやき惑ひたまふ。<BR>⏎ <P>⏎ | 61 | さては,阿弥陀経、唐の紙はもろくて、朝夕の御手慣らしにもいかがとて、紙屋の人を召して、ことに仰せ言賜ひて、心ことにきよらに漉かせたまへるに、この春のころほひより、御心とどめて急ぎ書かせたまへるかひありて、端を見たまふ人びと、目もかかやき惑ひたまふ。<BR>⏎ |
79 | 罫かけたる金の筋よりも、墨つきの上にかかやくさまなども、いとなむめづらかなりける。軸、表紙、筥のさまなど、いへば<A HREF="#k01">さらなり</A><A NAME="t01">か</A>し。これはことに沈の花足の机に据ゑて、仏の<A HREF="#k02">御同じ</A><A NAME="t02">帳</A>台の上に飾らせたまへり。<BR>⏎ | 62 | ||
d1 | 80 | <P>⏎ | ||
text38 | 81 | <A NAME="in12">[第二段 源氏と女三の宮、和歌を詠み交わす]</A><BR> | 63 | |
d1 | 82 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 83-84 | 堂飾り果てて、講師参う上り、行道の人びと参り集ひたまへば、院もあなたに出でたまふとて、宮のおはします西の廂にのぞきたまへれば、狭き心地する仮の御しつらひに、所狭く暑げなるまで、ことことしく装束きたる女房、五、六十人ばかり集ひたり。<BR>⏎ <P>⏎ | 64 | 堂飾り果てて、講師参う上り、行道の人びと参り集ひたまへば、院もあなたに出でたまふとて、宮のおはします西の廂にのぞきたまへれば、狭き心地する仮の御しつらひに、所狭く暑げなるまで、ことことしく装束きたる女房、五,六十人ばかり集ひたり。<BR>⏎ |
85 | 北の廂の簀子まで、童女などはさまよふ。火取りどもあまたして、煙たきまで扇ぎ散らせば、さし寄りたまひて、<BR>⏎ | 65 | ||
d1 | 86 | <P>⏎ | ||
87 | 「空に焚くは、いづくの煙ぞと思ひ分かれぬこそよけれ。富士の嶺よりもけに、くゆり満ち出でたるは、本意なきわざなり。講説の折は、おほかたの鳴りを静めて、のどかにものの心も聞き分くべきことなれば、憚りなき衣の音なひ、人のけはひ、静めてなむよかるべき」<BR>⏎ | 66 | ||
d1 | 88 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 89-90 | など、例の、もの深からぬ若人どもの用意教へたまふ。宮は、人気に圧されたまひて、いと小さくをかしげにて、ひれ臥したまへり。<BR>⏎ <P>⏎ | 67 | など,例の、もの深からぬ若人どもの用意教へたまふ。宮は、人気に圧されたまひて、いと小さくをかしげにて、ひれ臥したまへり。<BR>⏎ |
91 | 「若君、らうがはしからむ。抱き隠したてまつれ」<BR>⏎ | 68 | ||
d1 | 92 | <P>⏎ | ||
93 | などのたまふ。<BR>⏎ | 69 | ||
d1 | 94 | <P>⏎ | ||
95 | 北の御障子も取り放ちて、御簾かけたり。<A HREF="#k03">そなたに</A><A NAME="t03">人</A>びとは入れたまふ。静めて、宮にも、ものの心知りたまふべき下形を聞こえ知らせたまふ、いとあはれに見ゆ。御座を譲りたまへる仏の御しつらひ、見やりたまふも、さまざまに、<BR>⏎ | 70 | ||
d1 | 96 | <P>⏎ | ||
cd12:5 | 97-108 | 「かかる方の御いとなみをも、もろともに急がむものとは思ひ寄らざりしことなり。よし、後の世にだに、かの花の中の<A HREF="#k04">宿りに</A><A NAME="t04">、</A>隔てなく、とを思ほせ」<BR>⏎ <P>⏎ とて、うち泣きたまひぬ。<BR>⏎ <P>⏎ 「蓮葉を同じ台と契りおきて<BR>⏎ 露の分かるる今日ぞ悲しき」<BR>⏎ <P>⏎ と、御硯にさし濡らして、<A HREF="#k05">香染めなる</A><A NAME="t05">御</A>扇に書きつけたまへり。宮、<BR>⏎ <P>⏎ 「隔てなく蓮の宿を契りても<BR>⏎ 君が心や住まじとすらむ」<BR>⏎ <P>⏎ | 71-75 | 「かかる方の御いとなみをも、もろともに急がむものとは思ひ寄らざりしことなり。よし,後の世にだに、かの花の中の<A HREF="#k04">宿りに</A><A NAME="t04">、</A>隔てなく、とを思ほせ」<BR>⏎ とて,うち泣きたまひぬ。<BR>⏎ 「蓮葉を同じ台と契りおきて<BR> 露の分かるる今日ぞ悲しき」<BR>⏎ と,御硯にさし濡らして、<A HREF="#k05">香染めなる</A><A NAME="t05">御</A>扇に書きつけたまへり。宮、<BR>⏎ 「隔てなく蓮の宿を契りても<BR> 君が心や住まじとすらむ」<BR>⏎ |
109 | と書きたまへれば、<BR>⏎ | 76 | ||
d1 | 110 | <P>⏎ | ||
111 | 「いふかひなくも思ほし朽たすかな」<BR>⏎ | 77 | ||
d1 | 112 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 113-114 | と、うち笑ひながら、なほあはれとものを思ほしたる御けしきなり。<BR>⏎ <P>⏎ | 78 | と,うち笑ひながら、なほあはれとものを思ほしたる御けしきなり。<BR>⏎ |
text38 | 115 | <A NAME="in13">[第三段 持仏開眼供養執り行われる]</A><BR> | 79 | |
d1 | 116 | <P>⏎ | ||
117 | 例の、親王たちなども、いとあまた参りたまへり。御方々より、我も我もと営み出でたまへる捧物のありさま、心ことに、所狭きまで見ゆ。七僧の法服など、すべておほかたのことどもは、皆紫の上せさせたまへり。綾のよそひにて、袈裟の縫目まで、見知る人は、世になべてならずとめでけりとや。むつかしうこまかなることどもかな。<BR>⏎ | 80 | ||
d1 | 118 | <P>⏎ | ||
119 | 講師のいと尊く、ことの心を申して、この世にすぐれたまへる盛りを厭ひ離れたまひて、長き世々に絶ゆまじき御契りを、法華経に結びたまふ、尊く深きさまを表はして、ただ今の世の、才もすぐれ、豊けきさきらを、いとど心して言ひ続けたる、いと尊ければ、皆人、しほたれたまふ。<BR>⏎ | 81 | ||
d1 | 120 | <P>⏎ | ||
cd4:2 | 121-124 | これは、ただ忍びて、御念誦堂の初めと思したることなれど、内裏にも、山の帝も聞こし召して、皆御使どもあり。御誦経の布施など、いと所狭きまで、にはかになむこと広ごりける。<BR>⏎ <P>⏎ 院にまうけさせたまへりけることどもも、削ぐと思ししかど、世の常ならざりけるを、まいて、今めかしきことどもの加はりたれば、夕べの寺に置き所なげなるまで、所狭き勢ひになりてなむ、僧どもは帰りける。<BR>⏎ <P>⏎ | 82-83 | これは,ただ忍びて、御念誦堂の初めと思したることなれど、内裏にも、山の帝も聞こし召して、皆御使どもあり。御誦経の布施など、いと所狭きまで、にはかになむこと広ごりける。<BR>⏎ 院にまうけさせたまへりけることどもも、削ぐと思ししかど、世の常ならざりけるを、まいて,今めかしきことどもの加はりたれば、夕べの寺に置き所なげなるまで,所狭き勢ひになりてなむ、僧どもは帰りける。<BR>⏎ |
text38 | 125 | <A NAME="in14">[第四段 三条宮邸を整備]</A><BR> | 84 | |
d1 | 126 | <P>⏎ | ||
127 | 今しも、心苦しき御心添ひて、はかりもなくかしづききこえたまふ。院の帝は、この御処分の宮に住み離れたまひなむも、つひのことにて、目やすかりぬべく聞こえたまへど、<BR>⏎ | 85 | ||
d1 | 128 | <P>⏎ | ||
cd4:2 | 129-132 | 「よそよそにては、おぼつかなかるべし。明け暮れ見たてまつり、聞こえ承らむこと怠らむに、本意違ひぬべし。げに、あり果てぬ世いくばくあるまじけれど、なほ生ける限りの心ざしをだに失ひ果てじ」<BR>⏎ <P>⏎ と聞こえたまひつつ、この宮をもいとこまかにきよらに造らせたまひ、御封の物ども、国々の御荘、御牧などより奉る物ども、はかばかしきさまのは、皆かの三条の宮の<A HREF="#k06">御倉に</A><A NAME="t06">納</A>めさせたまふ。またも、建て添へさせたまひて、さまざまの御宝物ども、院の御処分に数もなく賜はりたまへるなど、あなたざまの物は、皆かの宮に運び渡し、こまかにいかめしうし置かせたまふ。<BR>⏎ <P>⏎ | 86-87 | 「よそよそにては、おぼつかなかるべし。明け暮れ見たてまつり、聞こえ承らむこと怠らむに、本意違ひぬべし。げに,あり果てぬ世いくばくあるまじけれど、なほ生ける限りの心ざしをだに失ひ果てじ」<BR>⏎ と聞こえたまひつつ、この宮をもいとこまかにきよらに造らせたまひ、御封の物ども、国々の御荘、御牧などより奉る物ども、はかばかしきさまのは、皆かの三条の宮の<A HREF="#k06">御倉に</A><A NAME="t06">納</A>めさせたまふ。またも,建て添へさせたまひて、さまざまの御宝物ども、院の御処分に数もなく賜はりたまへるなど、あなたざまの物は、皆かの宮に運び渡し、こまかにいかめしうし置かせたまふ。<BR>⏎ |
133 | 明け暮れの御かしづき、そこらの女房のことども、上下の<A HREF="#k07">育み</A><A NAME="t07">は</A>、おしなべてわが御扱ひにてなど、急ぎ仕うまつらせたまひける。<BR>⏎ | 88 | ||
d1 | 134 | <P>⏎ | ||
text38 | 135 | <H4>第二章 光る源氏の物語 六条院と冷泉院の中秋の宴</H4> | 89 | |
text38 | 136 | <A NAME="in21">[第一段 女三の宮の前栽に虫を放つ]</A><BR> | 90 | |
d1 | 137 | <P>⏎ | ||
138 | 秋ごろ、西の渡殿の前、中の塀の東の際を、おしなべて野に作らせたまへり。閼伽の棚などして、その方にしなさせたまへる御しつらひなど、いとなまめきたり。<BR>⏎ | 91 | ||
d1 | 139 | <P>⏎ | ||
140 | 御弟子に従ひきこえたる尼ども、御乳母、古人どもは、さるものにて、若き盛りのも、心定まり、さる方にて世を尽くしつべき限りは選りてなむ、なさせたまひける。<BR>⏎ | 92 | ||
d1 | 141 | <P>⏎ | ||
142 | <A HREF="#k08">さるきほひ</A><A NAME="t08">に</A>は、我も我もときしろひけれど、大殿の君聞こしめして、<BR>⏎ | 93 | ||
d1 | 143 | <P>⏎ | ||
144 | 「あるまじきことなり。心ならぬ人すこしも混じりぬれば、かたへの人苦しう、あはあはしき聞こえ出で来るわざなり」<BR>⏎ | 94 | ||
d1 | 145 | <P>⏎ | ||
146 | と諌めたまひて、十余人ばかりのほどぞ、容貌異にてはさぶらふ。<BR>⏎ | 95 | ||
d1 | 147 | <P>⏎ | ||
148 | この野に虫ども放たせたまひて、風すこし涼しくなりゆく夕暮に、渡りたまひつつ、虫の音を聞きたまふやうにて、なほ思ひ離れぬさまを聞こえ悩ましたまへば、<BR>⏎ | 96 | ||
d1 | 149 | <P>⏎ | ||
150 | 「例の御心はあるまじきことにこそはあなれ」<BR>⏎ | 97 | ||
d1 | 151 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 152-153 | と、ひとへにむつかしきことに思ひきこえたまへり。<BR>⏎ <P>⏎ | 98 | と,ひとへにむつかしきことに思ひきこえたまへり。<BR>⏎ |
154 | 人目にこそ変はることなくもてなしたまひしか、内には憂きを知りたまふけしきしるく、こよなう変はりにし御心を、いかで見えたてまつらじの御心にて、多うは思ひなりたまひにし御世の背きなれば、今はもて離れて心やすきに、<BR>⏎ | 99 | ||
d1 | 155 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 156-157 | 「なほ、かやうに」<BR>⏎ <P>⏎ | 100 | 「なほ,かやうに」<BR>⏎ |
158 | など聞こえたまふぞ苦しうて、「人離れたらむ御住まひにもがな」と思しなれど、およすけてえさも強ひ申したまはず。<BR>⏎ | 101 | ||
d1 | 159 | <P>⏎ | ||
text38 | 160 | <A NAME="in22">[第二段 八月十五夜、秋の虫の論]</A><BR> | 102 | |
d1 | 161 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 162-163 | 十五夜の夕暮に、仏の御前に宮おはして、端近う眺めたまひつつ念誦したまふ。若き尼君たち二、三人、花奉るとて鳴らす閼伽坏の音、水のけはひなど聞こゆる、さま変はりたるいとなみに、そそきあへる、いとあはれなるに、例の渡りたまひて、<BR>⏎ <P>⏎ | 103 | 十五夜の夕暮に、仏の御前に宮おはして、端近う眺めたまひつつ念誦したまふ。若き尼君たち二,三人、花奉るとて鳴らす閼伽坏の音、水のけはひなど聞こゆる、さま変はりたるいとなみに、そそきあへる、いとあはれなるに、例の渡りたまひて、<BR>⏎ |
164 | 「虫の音いとしげう乱るる夕べかな」<BR>⏎ | 104 | ||
d1 | 165 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 166-167 | とて、われも忍びてうち誦じたまふ阿弥陀の大呪、いと尊くほのぼの聞こゆ。げに、声々聞こえたる中に、鈴虫のふり出でたるほど、はなやかにをかし。<BR>⏎ <P>⏎ | 105 | とて,われも忍びてうち誦じたまふ阿弥陀の大呪、いと尊くほのぼの聞こゆ。げに,声々聞こえたる中に、鈴虫のふり出でたるほど、はなやかにをかし。<BR>⏎ |
168 | 「秋の虫の声、いづれとなき中に、松虫なむすぐれたるとて、中宮の、はるけき野辺を分けて、いとわざと尋ね取りつつ放たせたまへる、しるく鳴き伝ふるこそ少なかなれ。名には違ひて、命のほどはかなき虫にぞあるべき。<BR>⏎ | 106 | ||
d1 | 169 | <P>⏎ | ||
170 | 心にまかせて、人聞かぬ奥山、はるけき野の松原に、声惜しまぬも、いと隔て心ある虫になむありける。鈴虫は、心やすく、今めいたるこそらうたけれ」<BR>⏎ | 107 | ||
d1 | 171 | <P>⏎ | ||
172 | などのたまへば、宮、<BR>⏎ | 108 | ||
d1 | 173 | <P>⏎ | ||
cd3:1 | 174-176 | 「おほかたの秋をば憂しと知りにしを<BR>⏎ ふり捨てがたき鈴虫の声」<BR>⏎ <P>⏎ | 109 | 「おほかたの秋をば憂しと知りにしを<BR> ふり捨てがたき鈴虫の声」<BR>⏎ |
177 | と忍びやかにのたまふ。いとなまめいて、あてにおほどかなり。<BR>⏎ | 110 | ||
d1 | 178 | <P>⏎ | ||
cd5:2 | 179-183 | 「いかにとかや。いで、思ひの外なる御ことにこそ」とて、<BR>⏎ <P>⏎ 「心もて草の宿りを厭へども<BR>⏎ なほ鈴虫の声ぞふりせぬ」<BR>⏎ <P>⏎ | 111-112 | 「いかにとかや。いで,思ひの外なる御ことにこそ」とて、<BR>⏎ 「心もて草の宿りを厭へども<BR> なほ鈴虫の声ぞふりせぬ」<BR>⏎ |
184 | <A HREF="#k09">など</A><A NAME="t09">聞</A>こえたまひて、琴の御琴召して、珍しく弾きたまふ。宮の御数珠引き怠りたまひて、御琴になほ心入れたまへり。<BR>⏎ | 113 | ||
d1 | 185 | <P>⏎ | ||
186 | 月さし出でて、いとはなやかなるほどもあはれなるに、空をうち眺めて、世の中さまざまにつけて、はかなく移り変はるありさまも思し続けられて、例よりもあはれなる音に掻き鳴らしたまふ。<BR>⏎ | 114 | ||
d1 | 187 | <P>⏎ | ||
text38 | 188 | <A NAME="in23">[第三段 六条院の鈴虫の宴]</A><BR> | 115 | |
d1 | 189 | <P>⏎ | ||
190 | 今宵は、例の御遊びにやあらむと推し量りて、兵部卿宮渡りたまへり。大将の君、殿上人のさるべきなど<A HREF="#k10">具して</A><A NAME="t10">参</A>りたまへれば、こなたにおはしますと、御琴の音を尋ねて、やがて参りたまふ。<BR>⏎ | 116 | ||
d1 | 191 | <P>⏎ | ||
192 | 「いとつれづれにて、わざと遊びとはなくとも、久しく絶えにたるめづらしき物の音など、聞かまほしかりつる独り琴を、いとよう尋ねたまひける」<BR>⏎ | 117 | ||
d1 | 193 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 194-195 | とて、宮も、こなたに御座よそひて入れたてまつりたまふ。内裏の御前に、今宵は月の宴あるべかりつるを、とまりてさうざうしかりつるに、この院に人びと参りたまふと聞き伝へて、これかれ上達部なども参りたまへり。虫の音の定めをしたまふ。<BR>⏎ <P>⏎ | 118 | とて,宮も、こなたに御座よそひて入れたてまつりたまふ。内裏の御前に、今宵は月の宴あるべかりつるを、とまりてさうざうしかりつるに、この院に人びと参りたまふと聞き伝へて、これかれ上達部なども参りたまへり。虫の音の定めをしたまふ。<BR>⏎ |
196 | 御琴どもの声々掻き合はせて、おもしろきほどに、<BR>⏎ | 119 | ||
d1 | 197 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 198-199 | 「<A HREF="#no1">月見る宵の、いつとても</A><A NAME="te1">も</A>のあはれならぬ折はなきなかに、<A HREF="#no2">今宵の新たなる月の色</A><A NAME="te2">に</A>は、げになほ、わが世の外までこそ、よろづ思ひ流さるれ。故権大納言、何の折々にも、亡きにつけていとど偲ばるること多く、公、私、ものの折節のにほひ失せたる心地こそすれ。花鳥の色にも音にも、思ひわきまへ、いふかひあるかたの、いとうるさかりしものを」<BR>⏎ <P>⏎ | 120 | 「<A HREF="#no1">月見る宵の、いつとても</A><A NAME="te1">も</A>のあはれならぬ折はなきなかに、<A HREF="#no2">今宵の新たなる月の色</A><A NAME="te2">に</A>は、げになほ、わが世の外までこそ、よろづ思ひ流さるれ。故権大納言、何の折々にも、亡きにつけていとど偲ばるること多く、公,私、ものの折節のにほひ失せたる心地こそすれ。花鳥の色にも音にも、思ひわきまへ、いふかひあるかたの、いとうるさかりしものを」<BR>⏎ |
200 | などのたまひ出でて、みづからも掻き合はせたまふ御琴の音にも、袖濡らしたまひつ。御簾の内にも、耳とどめてや聞きたまふらむと、片つ方の御心には思しながら、かかる御遊びのほどには、まづ恋しう、内裏などにも思し出でける。<BR>⏎ | 121 | ||
d1 | 201 | <P>⏎ | ||
202 | 「今宵は鈴虫の宴にて明かしてむ」<BR>⏎ | 122 | ||
d1 | 203 | <P>⏎ | ||
204 | と思しのたまふ。<BR>⏎ | 123 | ||
d1 | 205 | <P>⏎ | ||
text38 | 206 | <A NAME="in24">[第四段 冷泉院より招請の和歌]</A><BR> | 124 | |
d1 | 207 | <P>⏎ | ||
208 | 御土器二わたりばかり参るほどに、冷泉院より御消息あり。御前の<A HREF="#k11">御遊び</A><A NAME="t11">に</A>はかにとまりぬるを口惜しがりて、左大弁、式部大輔、また人びと率ゐて、さるべき限り参りたれば、大将などは六条の院にさぶらひ<A HREF="#k12">たまふ、と聞こし</A><A NAME="t12">召</A>してなりけり。<BR>⏎ | 125 | ||
d1 | 209 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 210-211 | 「雲の上をかけ離れたるすみかにも<BR>⏎ もの忘れせぬ秋の夜の月<BR>⏎ | 126 | 「雲の上をかけ離れたるすみかにも<BR> もの忘れせぬ秋の夜の月<BR>⏎ |
212 | <A HREF="#no3">同じくは</A><A NAME="te3">」</A><BR>⏎ | 127 | ||
d1 | 213 | <P>⏎ | ||
214 | と聞こえたまへれば、<BR>⏎ | 128 | ||
d1 | 215 | <P>⏎ | ||
216 | 「何ばかり所狭き身のほどにもあらずながら、今はのどやかにおはしますに、参り馴るることもをさをさなきを、本意なきことに思しあまりて、おどろかさせたまへる、かたじけなし」<BR>⏎ | 129 | ||
d1 | 217 | <P>⏎ | ||
cd5:2 | 218-222 | とて、にはかなるやうなれど、参りたまはむとす。<BR>⏎ <P>⏎ 「月影は同じ雲居に見えながら<BR>⏎ わが宿からの秋ぞ変はれる」<BR>⏎ <P>⏎ | 130-131 | とて,にはかなるやうなれど、参りたまはむとす。<BR>⏎ 「月影は同じ雲居に見えながら<BR> わが宿からの秋ぞ変はれる」<BR>⏎ |
223 | 異なることなかめれど、ただ昔今の御ありさまの思し続けられけるままなめり。御使に盃賜ひて、禄いと二なし。<BR>⏎ | 132 | ||
d1 | 224 | <P>⏎ | ||
text38 | 225 | <A NAME="in25">[第五段 冷泉院の月の宴]</A><BR> | 133 | |
d1 | 226 | <P>⏎ | ||
227 | 人びとの御車、次第のままに引き直し、御前の人びと立ち混みて、静かなりつる御遊び紛れて、出でたまひぬ。院の御車に、親王たてまつり、大将、左衛門督、藤宰相など、おはしける限り皆参りたまふ。<BR>⏎ | 134 | ||
d1 | 228 | <P>⏎ | ||
229 | 直衣にて、軽らかなる御よそひどもなれば、下襲ばかりたてまつり加へて、月ややさし上がり、更けぬる空おもしろきに、若き人びと、笛などわざとなく吹かせたまひなどして、忍びたる御参りのさまなり。<BR>⏎ | 135 | ||
d1 | 230 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 231-232 | うるはしかるべき折節は、所狭くよだけき儀式を尽くして、かたみに御覧ぜられたまひ、また、いにしへのただ人ざまに思し返りて、今宵は軽々しきやうに、ふとかく参りたまへれば、いたう驚き、待ち喜びきこえたまふ。<BR>⏎ <P>⏎ | 136 | うるはしかるべき折節は、所狭くよだけき儀式を尽くして、かたみに御覧ぜられたまひ、また,いにしへのただ人ざまに思し返りて、今宵は軽々しきやうに、ふとかく参りたまへれば、いたう驚き、待ち喜びきこえたまふ。<BR>⏎ |
233 | ねびととのひたまへる御容貌、いよいよ異ものならず。いみじき御盛りの世を、御心と思し捨てて、静かなる御ありさまに、あはれ少なからず。<BR>⏎ | 137 | ||
d1 | 234 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 235-236 | その夜の歌ども、唐のも大和のも、心ばへ深うおもしろくのみなむ。例の、言<A HREF="#k13">足らぬ</A><A NAME="t13">片</A>端は、まねぶもかたはらいたくてなむ。明け方に文など講じて、とく人びとまかでたまふ。<BR>⏎ <P>⏎ | 138 | その夜の歌ども、唐のも大和のも、心ばへ深うおもしろくのみなむ。例の,言<A HREF="#k13">足らぬ</A><A NAME="t13">片</A>端は,まねぶもかたはらいたくてなむ。明け方に文など講じて、とく人びとまかでたまふ。<BR>⏎ |
text38 | 237 | <H4>第三章 秋好中宮の物語 出家と母の罪を思う</H4> | 139 | |
text38 | 238 | <A NAME="in31">[第一段 秋好中宮、出家を思う]</A><BR> | 140 | |
d1 | 239 | <P>⏎ | ||
240 | 六条院は、中宮の御方に渡りたまひて、御物語など聞こえたまふ。<BR>⏎ | 141 | ||
d1 | 241 | <P>⏎ | ||
242 | 「今はかう静かなる御住まひに、しばしばも参りぬべく、何とはなけれど、過ぐる齢に添へて、忘れぬ昔の御物語など、承り聞こえまほしう思ひたまふるに、何にもつかぬ身のありさまにて、さすがにうひうひしく、所狭くもはべりてなむ。<BR>⏎ | 142 | ||
d1 | 243 | <P>⏎ | ||
244 | 我より後の人びとに、方々につけて後れゆく心地しはべるも、いと常なき世の心細さの、のどめがたうおぼえはべれば、世離れたる住まひにもやと、やうやう思ひ立ちぬるを、残りの人びとのものはかなからむ、漂はしたまふな、と先々も<A HREF="#k14">聞こえ</A><A NAME="t14">つ</A>けし心違へず、思しとどめてものせさせたまへ」<BR>⏎ | 143 | ||
d1 | 245 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 246-247 | など、まめやかなるさまに聞こえさせたまふ。<BR>⏎ <P>⏎ | 144 | など,まめやかなるさまに聞こえさせたまふ。<BR>⏎ |
248 | 例の、いと若うおほどかなる御けはひにて、<BR>⏎ | 145 | ||
d1 | 249 | <P>⏎ | ||
250 | 「九重の隔て深うはべりし年ごろよりも、おぼつかなさのまさるやうに思ひたまへらるるありさまを、いと思ひの外に、むつかしうて、皆人の背きゆく世を、厭はしう思ひなることもはべりながら、その心の内を聞こえさせうけたまはらねば、何事もまづ頼もしき蔭には聞こえさせならひて、いぶせくはべる」<BR>⏎ | 146 | ||
d1 | 251 | <P>⏎ | ||
252 | と聞こえたまふ。<BR>⏎ | 147 | ||
d1 | 253 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 254-255 | 「げに、公ざまにては、限りある折節の御里居も、いとよう待ちつけきこえさせしを、今は何事につけてかは、御心にまかせさせたまふ御移ろひも<A HREF="#k15">はべらむ</A><A NAME="t15">。</A>定めなき世と言ひながらも、さして厭はしきことなき人の、さはやかに背き離るるもありがたう、心やすかるべきほどにつけてだに、おのづから思ひかかづらふほだしのみはべるを、などか、その人まねにきほふ御道心は、かへりてひがひがしう推し量りきこえさする人もこそはべれ。かけてもいとあるまじき御ことになむ」<BR>⏎ <P>⏎ | 148 | 「げに,公ざまにては、限りある折節の御里居も、いとよう待ちつけきこえさせしを、今は何事につけてかは、御心にまかせさせたまふ御移ろひも<A HREF="#k15">はべらむ</A><A NAME="t15">。</A>定めなき世と言ひながらも、さして厭はしきことなき人の、さはやかに背き離るるもありがたう、心やすかるべきほどにつけてだに、おのづから思ひかかづらふほだしのみはべるを、などか,その人まねにきほふ御道心は、かへりてひがひがしう推し量りきこえさする人もこそはべれ。かけてもいとあるまじき御ことになむ」<BR>⏎ |
256 | と聞こえたまふを、「深うも汲みはかりたまはぬなめりかし」と、つらう思ひきこえたまふ。<BR>⏎ | 149 | ||
d1 | 257 | <P>⏎ | ||
text38 | 258 | <A NAME="in32">[第二段 母御息所の罪を思う]</A><BR> | 150 | |
d1 | 259 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 260-261 | 御息所の、御身の苦しうなりたまふらむありさま、いかなる煙の中に惑ひたまふらむ、亡き影にても、人に疎まれたてまつりたまふ御名のりなどの出で来けること、かの院にはいみじう隠したまひけるを、おのづから人の口さがなくて、伝へ聞こし召しける後、いと悲しういみじくて、なべての世の厭はしく思しなりて、仮にても、かののたまひけむありさまの詳しう聞かまほしきを、まほにはえうち出で聞こえたまはで、ただ、<BR>⏎ <P>⏎ | 151 | 御息所の、御身の苦しうなりたまふらむありさま、いかなる煙の中に惑ひたまふらむ、亡き影にても、人に疎まれたてまつりたまふ御名のりなどの出で来けること、かの院にはいみじう隠したまひけるを、おのづから人の口さがなくて、伝へ聞こし召しける後、いと悲しういみじくて、なべての世の厭はしく思しなりて、仮にても、かののたまひけむありさまの詳しう聞かまほしきを、まほにはえうち出で聞こえたまはで、ただ,<BR>⏎ |
262 | 「亡き人の御ありさまの、罪軽からぬさまに、ほの聞くことのはべりしを、さるしるしあらはならでも、推し量り伝へつべきことにはべりけれど、後れしほどのあはればかりを忘れぬことにて、もののあなた思うたまへやらざりけるがものはかなさを、いかでよう言ひ聞かせむ人の勧めをも聞きはべりて、みづからだに、かの炎をも冷ましはべりにしがなと、やうやう積もるになむ、思ひ知らるることもありける」<BR>⏎ | 152 | ||
d1 | 263 | <P>⏎ | ||
cd4:2 | 264-267 | など、かすめつつぞのたまふ。<BR>⏎ <P>⏎ 「げに、さも思しぬべきこと」と、あはれに見たてまつりたまうて、<BR>⏎ <P>⏎ | 153-154 | など,かすめつつぞのたまふ。<BR>⏎ 「げに,さも思しぬべきこと」と、あはれに見たてまつりたまうて、<BR>⏎ |
268 | 「その炎なむ、誰も逃るまじきことと知りながら、朝の露のかかれるほどは、思ひ捨てはべらぬになむ。目蓮が仏に近き聖の身にて、たちまちに救ひけむ例にも、え継がせたまはざらむものから、玉の<A HREF="#k16">簪</A><A NAME="t16">捨</A>てさせたまはむも、この世には恨み残るやうなるわざなり。<BR>⏎ | 155 | ||
d1 | 269 | <P>⏎ | ||
270 | やうやうさる御心ざしをしめたまひて、かの御煙晴るべきことをせさせたまへ。しか思ひたまふることはべりながら、もの騒がしきやうに、静かなる本意もなきやうなるありさまに明け暮らしはべりつつ、みづからの勤めに添へて、今静かにと思ひたまふるも、げにこそ、心幼きことなれ」<BR>⏎ | 156 | ||
d1 | 271 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 272-273 | など、世の中なべてはかなく、厭ひ捨てまほしきことを聞こえ交はしたまへど、なほ、やつしにくき御身のありさまどもなり。<BR>⏎ <P>⏎ | 157 | など,世の中なべてはかなく、厭ひ捨てまほしきことを聞こえ交はしたまへど、なほ,やつしにくき御身のありさまどもなり。<BR>⏎ |
text38 | 274 | <A NAME="in33">[第三段 秋好中宮の仏道生活]</A><BR> | 158 | |
d1 | 275 | <P>⏎ | ||
276 | 昨夜はうち忍びてかやすかりし御歩き、今朝は表はれたまひて、上達部ども、参りたまへる限りは皆御送り仕うまつりたまふ。<BR>⏎ | 159 | ||
d1 | 277 | <P>⏎ | ||
cd2:1 | 278-279 | 春宮の女御の御ありさま、並びなく、いつきたてたまへるかひがひしさも、大将のまたいと人に異なる御さまをも、いづれとなくめやすしと思すに、なほ、この冷泉院を思ひきこえたまふ<A HREF="#k17">御心ざしは、すぐれて深くあはれにぞおぼえたまふ</A><A NAME="t17">。</A>院も常にいぶかしう思ひきこえたまひしに、御対面のまれにいぶせうのみ思されけるに、急がされたまひて、かく心安きさまにと思しなりけるになむ。<BR>⏎ <P>⏎ | 160 | 春宮の女御の御ありさま、並びなく、いつきたてたまへるかひがひしさも、大将のまたいと人に異なる御さまをも、いづれとなくめやすしと思すに、なほ,この冷泉院を思ひきこえたまふ<A HREF="#k17">御心ざしは、すぐれて深くあはれにぞおぼえたまふ</A><A NAME="t17">。</A>院も常にいぶかしう思ひきこえたまひしに、御対面のまれにいぶせうのみ思されけるに、急がされたまひて、かく心安きさまにと思しなりけるになむ。<BR>⏎ |
280 | 中宮ぞ、なかなかまかでたまふこともいと難うなりて、ただ人の仲のやうに並びおはしますに、今めかしう、なかなか昔よりもはなやかに、御遊びをもしたまふ。何ごとも御心やれるありさまながら、ただかの御息所の御事を思しやりつつ、行なひの御心進みにたるを、人の許しきこえたまふまじきことなれば、功徳のことを立てて思しいとなみ、いとど心深う、世の中を思し取れるさまになりまさりたまふ。<BR>⏎ | 161 | ||
d2 | 281-282 | ⏎ <P>⏎ | ||
text38 | 283 | <a name="in41">【出典】<BR> | 162 | |
c1 | 284 | </a><A NAME="no1">出典1</A> いつとても月見ぬ秋はなきものをわきて今宵の珍しきかな(後撰集秋中-三二五 藤原雅正)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎ | 163 | <A NAME="no1">出典1</A> いつとても月見ぬ秋はなきものをわきて今宵の珍しきかな(後撰集秋中-三二五 藤原雅正)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎ |
285 | <A NAME="no2">出典2</A> 三五夜中新月色 二千里外故人心(白氏文集巻十四-七二四)<A HREF="#te2">(戻)</A><BR>⏎ | 164 | ||
286 | <A NAME="no3">出典3</A> あたら夜の月と花とを同じくはあはれ知れらむ人に見せばや(後撰集春下-一〇三 源信明)<A HREF="#te3">(戻)</A><BR>⏎ | 165 | ||
d1 | 287 | ⏎ | ||
text38 | 288 | <p> <a name="in42">【校訂】<BR> | 166 | |
289 | 備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△<BR>⏎ | 167 | ||
c1 | 290 | </a><A NAME="k01">校訂1</A> さらなり--さゝ(ゝ/$ら<朱>)なり<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎ | 168 | <A NAME="k01">校訂1</A> さらなり--さゝ(ゝ/$ら<朱>)なり<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎ |
291 | <A NAME="k02">校訂2</A> 御同じ--御(御/+お)なを(を/#)し<A HREF="#t02">(戻)</A><BR>⏎ | 169 | ||
292 | <A NAME="k03">校訂3</A> そなたに--それ(れ/#な)たに<A HREF="#t03">(戻)</A><BR>⏎ | 170 | ||
293 | <A NAME="k04">校訂4</A> 宿りに--やとり(り/+に)<A HREF="#t04">(戻)</A><BR>⏎ | 171 | ||
294 | <A NAME="k05">校訂5</A> 香染めなる--かうそめの(の/$なる)<A HREF="#t05">(戻)</A><BR>⏎ | 172 | ||
295 | <A NAME="k06">校訂6</A> 御倉に--みく(く/+ら<朱>)にも(も/$<朱>)<A HREF="#t06">(戻)</A><BR>⏎ | 173 | ||
296 | <A NAME="k07">校訂7</A> 育み--はゝ(ゝ/$)くみ<A HREF="#t07">(戻)</A><BR>⏎ | 174 | ||
297 | <A NAME="k08">校訂8</A> さるきほひ--さか(か/$る<朱>)きほひ<A HREF="#t08">(戻)</A><BR>⏎ | 175 | ||
298 | <A NAME="k09">校訂9</A> など--なえ(え/$と<朱>)<A HREF="#t09">(戻)</A><BR>⏎ | 176 | ||
299 | <A NAME="k10">校訂10</A> 具して--ゝ(ゝ/$く<朱>)して<A HREF="#t10">(戻)</A><BR>⏎ | 177 | ||
300 | <A NAME="k11">校訂11</A> 御遊び--(/+御<朱>)あそひ<A HREF="#t11">(戻)</A><BR>⏎ | 178 | ||
c1 | 301 | <A NAME="k12">校訂12</A> たまふ、と聞こし--給(給/+ふ<朱>)時(時/とき<朱>)こし<A HREF="#t12">(戻)</A><BR>⏎ | 179 | <A NAME="k12">校訂12</A> たまふ,と聞こし--給(給/+ふ<朱>)時(時/とき<朱>)こし<A HREF="#t12">(戻)</A><BR>⏎ |
302 | <A NAME="k13">校訂13</A> 足らぬ--たゝ(ゝ/$ら<朱>)ぬ<A HREF="#t13">(戻)</A><BR>⏎ | 180 | ||
303 | <A NAME="k14">校訂14</A> 聞こえ--き(き/+こえ<朱>)<A HREF="#t14">(戻)</A><BR>⏎ | 181 | ||
304 | <A NAME="k15">校訂15</A> はべらむ--あ(あ/$侍<朱>)らむ<A HREF="#t15">(戻)</A><BR>⏎ | 182 | ||
305 | <A NAME="k16">校訂16</A> 簪--かんか(か/$さ<朱>)し<A HREF="#t16">(戻)</A><BR>⏎ | 183 | ||
306 | <A NAME="k17">校訂17</A> 御心ざしは、すぐれて深くあはれにぞおぼえたまふ--(/+御心さしはすくれてふかく哀にそおほえ給<朱>)<A HREF="#t17">(戻)</A><BR>⏎ | 184 | ||
d1 | 307 | </p>⏎ | ||
308 | <p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><BR>⏎ | 185 | ||
309 | <a href="roman38.html">ローマ字版 </a><BR>⏎ | 186 | ||
310 | <a href="version38.html">現代語訳 </a><BR>⏎ | 187 | ||
311 | <a href="note38.html">注釈</a><BR>⏎ | 188 | ||
312 | <a href="data38.html">大島本</a><BR>⏎ | 189 | ||
313 | <a href="okuiri38.html">自筆本奥入</a><BR>⏎ | 190 | ||
d1 | 314 | </p>⏎ | ||
315 | <hr size="4">⏎ | 191 | ||
316 | </body>⏎ | 192 | ||
317 | </HTML>⏎ | 193 | ||
i0 | 195 |