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 1<HTML>⏎1 
 2<HEAD>⏎2 
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 6<TITLE>澪標(大島本)</TITLE>⏎3 
 7</HEAD>⏎4 
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5<BODY>⏎
version149<ADDRESS>Latest updated 6/21/2001<BR>6 
version1410渋谷栄一訳(C)(ver.1-2-2)</ADDRESS>7 
d111<P>⏎
 12  <H3>澪標</H3>⏎8 
d113<P>⏎
 14光る源氏の二十八歳初冬十月から二十九歳冬まで内大臣時代の物語<BR>⏎9 
d115<P>⏎
 16第一章 光る源氏の物語 光る源氏の政界領導と御世替わり<BR>⏎10 
 17<OL>⏎11 
 18<LI>故桐壷院の追善法華御八講---<A HREF="#in11">はっきりとお見えになった夢の後は</A>⏎12 
 19<LI>朱雀帝と源氏の朧月夜尚侍をめぐる確執---<A HREF="#in12">御譲位なさろうとの御配慮が近くなったのにつけても</A>⏎13 
 20<LI>東宮の御元服と御世替わり---<A HREF="#in13">翌年の二月に、東宮の御元服の儀式がある</A>⏎14 
 21</OL>⏎15 
 22第二章 明石の物語 明石の姫君誕生<BR>⏎16 
 23<OL>⏎17 
 24<LI>宿曜の予言と姫君誕生---<A HREF="#in21">そうそう、「あの明石で</A>⏎18 
 25<LI>宣旨の娘を乳母に選定---<A HREF="#in22">あのような所には、まともな乳母などもいないだろうこと</A>⏎19 
 26<LI>乳母、明石へ出発---<A HREF="#in23">車で京の中は出て行ったのであった</A>⏎20 
 27<LI>紫の君に姫君誕生を語る---<A HREF="#in24">女君には、言葉に表して</A>⏎21 
 28<LI>姫君の五十日の祝---<A HREF="#in25">「五月五日が、五十日に当たるだろう」と</A>⏎22 
 29<LI>紫の君、嫉妬を覚える---<A HREF="#in26">何度も御覧になりながら、「ああ」と</A>⏎23 
 30</OL>⏎24 
 31第三章 光る源氏の物語 新旧後宮女性の動向<BR>⏎25 
 32<OL>⏎26 
 33<LI>花散里訪問---<A HREF="#in31">このように、この方のお気持ちの御機嫌をとっていらっしゃる間に</A>⏎27 
 34<LI>筑紫の五節と朧月夜尚侍---<A HREF="#in32">このような折にも、あの五節をお忘れにならず</A>⏎28 
 35<LI>旧後宮の女性たちの動向---<A HREF="#in33">院は気楽な御心境になられて</A>⏎29 
 36<LI>冷泉帝後宮の入内争い---<A HREF="#in34">兵部卿親王は、ここ数年来のお心が冷たく案外な仕打ちで</A>⏎30 
 37</OL>⏎31 
 38第四章 明石の物語 住吉浜の邂逅<BR>⏎32 
 39<OL>⏎33 
 40<LI>住吉詣で---<A HREF="#in41">その年の秋に、住吉にご参詣になる</A>⏎34 
 41<LI>住吉社頭の盛儀---<A HREF="#in42">松原の深緑を背景に、花や紅葉をまき散らした</A>⏎35 
 42<LI>源氏、惟光と住吉の神徳を感ず---<A HREF="#in43">君は、まったくご存知なく</A>⏎36 
 43<LI>源氏、明石の君に和歌を贈る---<A HREF="#in44">あの明石の舟が、この騷ぎに圧倒されて</A>⏎37 
 44<LI>明石の君、翌日住吉に詣でる---<A HREF="#in45">あの人は、通り過ぎるのをお待ち申して、次の日が</A>⏎38 
 45</OL>⏎39 
 46第五章 光る源氏の物語 冷泉帝後宮の入内争い<BR>⏎40 
 47<OL>⏎41 
 48<LI>斎宮と母御息所上京---<A HREF="#in51">そう言えば、あの斎宮もお代わりになったので</A>⏎42 
 49<LI>御息所、斎宮を源氏に託す---<A HREF="#in52">こんなにまでもお心に掛けていたのを</A>⏎43 
c150<LI>六条御息所、死去---<A HREF="#in53">七八日あって、お亡くなりになったのであった</A>⏎
44<LI>六条御息所、死去---<A HREF="#in53">七八日あって、お亡くなりになったのであった</A>⏎
 51<LI>斎宮を養女とし、入内を計画---<A HREF="#in54">下向なさった時から</A>⏎45 
 52<LI>朱雀院と源氏の斎宮をめぐる確執---<A HREF="#in55">院におかせられても、あのお下りになった大極殿での</A>⏎46 
 53<LI>冷泉帝後宮の入内争い---<A HREF="#in56">入道の宮は、兵部卿の宮が、姫君を早く入内させたいと</A>⏎47 
 54</OL>⏎48 
d155<P>⏎
version1456 <H4>第一章 光る源氏の物語 光る源氏の政界領導と御世替わり</H4>49 
version1457 <A NAME="in11">[第一段 故桐壷院の追善法華御八講]</A><BR>50 
c158 はっきりとお見えになった夢の後は、院の帝の御ことを心にお掛け申し上げになって、「何とかあの沈んでいらっしゃるという罪、お救い申すことをしたい」と、お嘆きになっていらしたが、このようにお帰りになってからは、そのご準備をなさる。神無月に御八講をお催しになる。世間の人が追従し奉仕すること、昔と同じようである。<BR>⏎
51 はっきりとお見えになった夢の後は、院の帝の御ことを心にお掛け申し上げになって、「何とかあの沈んでいらっしゃるという罪、お救い申すことをしたい」と、お嘆きになっていらしたが、このようにお帰りになってからは、そのご準備をなさる。神無月に御八講をお催しになる。世間の人が追従し奉仕すること、昔と同じようである。<BR>⏎
 59 皇太后、御病気が重くいらっしゃる間でも、「とうとうこの人を失脚させないで終わってしまうことよ」と、悔しくお思いになったが、帝は故院の御遺言をお考えあそばす。きっと何かの報いがあるにちがいないとお思いになったが、復位おさせになって、御気分がすがすがしくなるのであった。時々眼病が起こってお悩みあそばした御目も、さわやかにおなりになったが、「おおよそ長生きできそうになく、心細いことだ」とばかり、長くないことをお考えになりながら、いつもお召しがあって、源氏の君は参内なさる。政治の事なども、隔意なく仰せになり仰せになっては、御本意のようなので、世間一般の人々も、関係なくも、嬉しいこととお喜び申し上げるのであった。<BR>⏎52 
d160<P>⏎
version1461 <A NAME="in12">[第二段 朱雀帝と源氏の朧月夜尚侍をめぐる確執]</A><BR>53 
 62 御譲位なさろうとの御配慮が近くなったのにつけても、尚侍の君、心細げに身の上を嘆いていらっしゃるのが、とてもお気の毒に思し召されるのであった。<BR>⏎54 
 63 「大臣がお亡くなりになり、大宮も頼りなくばかりいらっしゃる上に、わたしの寿命までが長くないような気がするので、とてもお気の毒に、かつてとすっかり変わった状態で後に残されることでしょう。以前から、あの人より軽く思っておいでですが、わたしの愛情はずっと他の誰よりも深いものですから、ただあなたのことだけを、愛しく思い続けてきたのでした。わたし以上の人が、再び望み通りになってご結婚なさっても、並々ならぬ愛情だけは、及ばないだろうと思うのさえ、たまらないのです」<BR>⏎55 
cd5:464-68 と言ってお泣きあそばす。<BR>⏎
 女君、顔は赤くそまって、こぼれるばかりのお美しさで、涙もこぼれたのを、一切の過失を忘れて、しみじみと愛しいと御覧にならずにはいらっしゃれない。<BR>⏎
 「どうしてせめて御子だけでも生まれなかったのだろうか。残念なことよ。ご縁の深いあの方のためでしたら、今すぐにでもお生みになるだろうと思うにつけても、たまらないことよ。身分に限りがあるので、臣下としてお育てになるのだろうね」<BR>⏎
 などと先々のことまで仰せになるので、とても恥ずかしくも悲しくもお思いになる。お顔など、優雅で美しくて、この上ない御愛情が年月とともに深まってお扱いあそばすので、素晴らしい方であるが、それほど深く愛してくださらなかった様子、気持ちなど、自然と物事がお分かりになってくるにつれて、「どうして自分の思慮の若く未熟なのにまかせて、あのような事件まで引き起こして、自分の名はいうまでもなく、あの方のためにさえ」などとお思い出しになると、まことにつらいお身の上である。<BR>⏎
<P>⏎
56-59 と言ってお泣きあそばす。<BR>⏎
 女君、顔は赤くそまって、こぼれるばかりのお美しさで、涙もこぼれたのを、一切の過失を忘れて、しみじみと愛しいと御覧にならずにはいらっしゃれない。<BR>⏎
 「どうしてせめて御子だけでも生まれなかったのだろうか。残念なことよ。ご縁の深いあの方のためでしたら、今すぐにでもお生みになるだろうと思うにつけても、たまらないことよ。身分に限りがあるので、臣下としてお育てになるのだろうね」<BR>⏎
 などと先々のことまで仰せになるので、とても恥ずかしくも悲しくもお思いになる。お顔など、優雅で美しくて、この上ない御愛情が年月とともに深まってお扱いあそばすので、素晴らしい方であるが、それほど深く愛してくださらなかった様子、気持ちなど、自然と物事がお分かりになってくるにつれて、「どうして自分の思慮の若く未熟なのにまかせて、あのような事件まで引き起こして、自分の名はいうまでもなく、あの方のためにさえ」などとお思い出しになると、まことにつらいお身の上である。<BR>⏎
version1469 <A NAME="in13">[第三段 東宮の御元服と御世替わり]</A><BR>60 
c170 翌年の二月に、東宮の御元服の儀式がある。十一歳におなりだが、年齢以上に大きくおとならしく美しくて、まるで源氏の大納言のお顔をもう一つ写したようにお見えになる。たいそう眩しいまでに光り輝き合っていらっしゃるのを、世間の人々は素晴らしいこととお噂申し上げるが、母宮は、たいそうはらはらなさって、どうにもならないことにお心をお痛めになる。<BR>⏎
61 翌年の二月に、東宮の御元服の儀式がある。十一歳におなりだが、年齢以上に大きく おとならしく美しくて、まるで源氏の大納言のお顔をもう一つ写したようにお見えになる。たいそう眩しいまでに光り輝き合っていらっしゃるのを、世間の人々は素晴らしいこととお噂申し上げるが、母宮は、たいそうはらはらなさって、どうにもならないことにお心をお痛めになる。<BR>⏎
 71 主上におかれても、御立派だと拝しあそばして、御位をお譲り申し上げなさる旨などを、やさしくお話し申し上げあそばす。<BR>⏎62 
 72 同じ月の二十日過ぎ、御譲位の事が急だったので、大后はおあわてになった。<BR>⏎63 
 73 「何の見栄えもしない身の上となりますが、ゆっくりとお目にかからせていただくことを考えているのです」<BR>⏎64 
 74 といって、お慰め申し上げあそばすのであった。<BR>⏎65 
c175 東宮坊には承香殿の皇子がお立ちになった。世の中が一変して、うって変わってはなやかなことが多くなった。源氏の大納言は、内大臣におなりになった。席がふさがって余裕がなかったので、員外の大臣としてお加わりになったのであった。<BR>⏎
66 東宮坊には承香殿の皇子がお立ちになった。世の中が一変して、うって変わってはなやかなことが多くなった。源氏の大納言は、内大臣におなりになった。席がふさがって 余裕がなかったので、員外の大臣としてお加わりになったのであった。<BR>⏎
 76 ただちに政治をお執りになるはずであるが、「そのようないそがしい職務には耐えられない」と言って、致仕の大臣に、摂政をなさるように、お譲り申し上げなさる。<BR>⏎67 
c577-81 「病気を理由にして官職をお返し申し上げたのに、ますます老齢を重ねて、立派な政務はできますまい」<BR>⏎
 とご承諾なさらない。「外国でも、事変が起こり国政が不穏な時は、深山に身を隠してしまった人でさえも、平和な世には、白髪になったのも恥じず進んでお仕えする人を、本当の聖人だと言っていた。病に沈んで、お返し申された官職を、世の中が変わって再びご就任なさるのに、何の差支えもない」と、朝廷、世間ともに決定される。そうした先例もあったので、辞退しきれず、太政大臣におなりになる。お歳も六十三におなりである。<BR>⏎
 世の中がおもしろくなかったことにより、それが一つの理由で隠居していらしたのだが、また元のように盛んになられたので、ご子息たちなども不遇な様子でいらしたが、皆よくおなりになる。とりわけて、宰相中将は、権中納言におなりになる。あの四の君腹の姫君、十二歳におなりになるのを、帝に入内させようと大切にお世話なさる。あの「高砂」を謡った君も、元服させて、たいそう思いのままである。ご夫人方にご子息方がとてもおおぜい次々とお育ちになって、にぎやかそうなのを、源氏の内大臣は羨ましくお思いになる。<BR>⏎
 大殿腹の若君、誰よりも格別におかわいらしゅうて、内裏や東宮御所の童殿上なさる。故姫君がお亡くなりになった悲しみを、大宮と大臣、改めてお嘆きになる。けれど亡くなられた後も、まったくこの大臣のご威光によって、なにもかも引き立てられなさって、ここ数年、思い沈んでいらした跡形もないまでにお栄えになる。やはり昔とお心づかいは変わらず、事あるごとにお渡りになっては、若君の御乳母たちや、その他の女房たちにも、長年の間暇を取らずにいた人々には、皆適当な機会ごとに、便宜を計らっておやりになることをお考えおきになっていたので、幸せ者がきっと多くなったことであろう。<BR>⏎
 二条院でも、同じようにお待ち申し上げていた人々を、殊勝の者だとお考えになって、数年来の胸のつかえが晴れるほどにとお思いになると、中将の君中務の君のような人たちには、身分に応じて情愛をかけておやりになるので、お暇がなくて、外歩きもなさらない。<BR>⏎
68-72 「病気を理由にして 官職をお返し申し上げたのに、ますます老齢を重ねて、立派な政務はできますまい」<BR>⏎
 とご承諾なさらない。「外国でも、事変が起こり国政が不穏な時は、深山に身を隠してしまった人でさえも、平和な世には、白髪になったのも恥じず進んでお仕えする人を、本当の聖人だと言っていた。病に沈んで、お返し申された官職を、世の中が変わって再びご就任なさるのに、何の差支えもない」と、朝廷、世間ともに決定される。そうした先例もあったので、辞退しきれず、太政大臣におなりになる。お歳も六十三におなりである。<BR>⏎
 世の中がおもしろくなかったことにより、それが一つの理由で隠居していらしたのだが、また元のように盛んになられたので、ご子息たちなども不遇な様子でいらしたが、皆よくおなりになる。とりわけて、宰相中将は、権中納言におなりになる。あの四の君腹の姫君、十二歳におなりになるのを、帝に入内させようと大切にお世話なさる。あの「高砂」を謡った君も、元服させて、たいそう思いのままである。ご夫人方にご子息方がとてもおおぜい次々とお育ちになって、にぎやかそうなのを、源氏の内大臣は羨ましくお思いになる。<BR>⏎
 大殿腹の若君、誰よりも格別におかわいらしゅうて、内裏や東宮御所の童殿上なさる。故姫君がお亡くなりになった悲しみを、大宮と大臣、改めてお嘆きになる。けれど亡くなられた後も、まったくこの大臣のご威光によって、なにもかも引き立てられなさって、ここ数年、思い沈んでいらした跡形もないまでにお栄えになる。やはり昔とお心づかいは変わらず、事あるごとにお渡りになっては、若君の御乳母たちや、その他の女房たちにも、長年の間暇を取らずにいた人々には、皆適当な機会ごとに、便宜を計らっておやりになることをお考えおきになっていたので、幸せ者がきっと多くなったことであろう。<BR>⏎
 二条院でも、同じようにお待ち申し上げていた人々を、殊勝の者だとお考えになって、数年来の胸のつかえが晴れるほどにとお思いになると、中将の君中務の君のような人たちには、身分に応じて情愛をかけておやりになるので、お暇がなくて、外歩きもなさらない。<BR>⏎
 82 二条院の東にある邸は、故院の御遺産であったのを、またとなく素晴らしくご改築なさる。「花散里などのようなお気の毒な人々を住まわせよう」などと、お考えで修繕させなさる。<BR>⏎73 
d183<P>⏎
version1484 <H4>第二章 明石の物語 明石の姫君誕生</H4>74 
version1485 <A NAME="in21">[第一段 宿曜の予言と姫君誕生]</A><BR>75 
 86 そうそう、「あの明石で、いたいたしい様子であったことはどうなったろうか」と、お忘れになる時もないので、公、私にわたる忙しさにまぎれ、思うようにお訪ねになれなかったのだが、三月の初めころに、「このごろだろうか」とお思いやりになると、人知れず胸が痛んで、お使いがあったのである。早く帰って参って、<BR>⏎76 
 87 「十六日でした。女の子で、ご無事でございます」<BR>⏎77 
c188 とご報告する。久々の御子誕生でしかも女の子であったのをお思いになると、喜びは一通りでない。「どうして京に迎えて、こうした事をさせなかったのだろう」と、後悔されてならない。<BR>⏎
78 とご報告する。久々の御子誕生でしかも女の子であったのをお思いになると、喜びは一通りでない。「どうして京に迎えて、こうした事をさせなかったのだろう」と、後悔されてならない。<BR>⏎
 89 宿曜の占いで、<BR>⏎79 
c490-93 「お子様は三人。帝后がきっと揃ってお生まれになるであろう。その中の一番低い子は太政大臣となって位人臣を極めるであろう」<BR>⏎
 と勘申したことが、一つ一つ的中するようである。おおよそ、この上ない地位に昇り、政治を執り行うであろうこと、あれほど賢明であったおおぜいの相人連中がこぞって申し上げていたのを、ここ数年来は世情のやっかいさにすっかりお打ち消しになっていらしたが、今上の帝がこのように御即位なされたことを、思いの通り嬉しくお思いになる。ご自身も「及びもつかない方面は、まったくありえないことだ」とお考えになる。<BR>⏎
 「大勢の親王たちの中で、特別にかわいがってくださったが、臣下にとお考えになったお心を思うと、帝位には遠い運命であったのだ。主上がこのように皇位におつきあそばしているのを、真相は誰も知ることでないが、相人の予言は誤りでなかった」<BR>⏎
 とご心中お思いになるのであった。今、これから先の予想をなさると、<BR>⏎
80-83 「お子様は三人。帝后がきっと揃ってお生まれになるであろう。その中の一番低い子は 太政大臣となって位人臣を極めるであろう」<BR>⏎
 と勘申したことが、一つ一つ的中するようである。おおよそ、この上ない地位に昇り、政治を執り行うであろうこと、あれほど賢明であったおおぜいの相人連中がこぞって申し上げていたのを、ここ数年来は世情のやっかいさにすっかりお打ち消しになっていらしたが、今上の帝がこのように御即位なされたことを、思いの通り嬉しくお思いになる。ご自身も 「及びもつかない方面は、まったくありえないことだ」とお考えになる。<BR>⏎
 「大勢の親王たちの中で、特別にかわいがってくださったが、臣下にとお考えになったお心を思うと、帝位には遠い運命であったのだ。主上がこのように皇位におつきあそばしているのを、真相は誰も知ることでないが、相人の予言は誤りでなかった」<BR>⏎
 とご心中お思いになるのであった。今、これから先の予想をなさると、<BR>⏎
 94 「住吉の神のお導き、本当にあの人も世にまたとない運命で、偏屈な父親も大それた望みを抱いたのであったろうか。そういうことであれば、恐れ多い地位にもつくはずの人が、鄙びた田舎でご誕生になったようなのは、お気の毒にもまた恐れ多いことでもあるよ。いましばらくしてから迎えよう」<BR>⏎84 
 95 とお考えになって、東の院、急いで修理せよとの旨、ご催促なさる。<BR>⏎85 
d196<P>⏎
version1497 <A NAME="in22">[第二段 宣旨の娘を乳母に選定]</A><BR>86 
 98 あのような所には、まともな乳母などもいないだろうことをお考えになって、故院にお仕えしていた宣旨の娘、宮内卿兼宰相で亡くなった人の子であるが、母親なども亡くなって、不如意な生活を送っていた人が、頼みにならない結婚をして子を生んだと、お耳になさっていたので、知るつてがあって、何かのついでにお話し申した女房を召し寄せて、しかるべくお話をおまとめになる。<BR>⏎87 
c399-101 まだ若く、世情にも疎い人で、毎日訪れる人もないあばらやで、物思いに沈んでいるような心細さなので、あれこれ深く考えもせずに、この方に関係のあることを一途に素晴らしいとお思い申し上げて、確かにお仕えする旨お答え申し上げさせた。たいそう不憫に一方ではお思いにもなるが、出発させなさる。<BR>⏎
 外出の折に、たいそう人目を忍んでお立ち寄りになった。そうは申し上げたものの、どうしようかしらと思い悩んでいたが、じきじきのお出ましに、いろいろと気もやすまって、<BR>⏎
 「ただ仰せのとおりに」<BR>⏎
88-90 まだ若く、世情にも疎い人で、毎日訪れる人もないあばらやで、物思いに沈んでいるような心細さなので、あれこれ深く考えもせずに、この方に関係のあることを一途に素晴らしいとお思い申し上げて、確かにお仕えする旨お答え申し上げさせた。たいそう不憫に一方ではお思いにもなるが、出発させなさる。<BR>⏎
 外出の折に、たいそう人目を忍んでお立ち寄りになった。そうは申し上げたものの、どうしようかしらと思い悩んでいたが、じきじきのお出ましに、いろいろと気もやすまって、<BR>⏎
 「ただ仰せのとおりに」<BR>⏎
 102 と申し上げる。日柄も悪くなかったので、急いで出発させなさって、<BR>⏎91 
 103 「変なことで、いたわりのないようですが、特別のわけがあってです。わたし自身も思わぬ地方で苦労したことを思いよそえて、しばらくの間しんぼうしてください」<BR>⏎92 
c2104-105 などと事の次第を詳しくお頼みになる。<BR>⏎
 主上付きの宮仕えを時々していたので、御覧になる機会もあったが、すっかりやつれきっていた。家のありさまも何とも言いようがなく荒れはてて、それでも、大きな邸で、木立なども気味悪いほどで、「どのように暮らしてきたのだろう」と思われる。人柄は、若々しく美しいので、お見過ごしになれない。何やかやと冗談をなさって、<BR>⏎
93-94 などと事の次第を詳しくお頼みになる。<BR>⏎
 主上付きの宮仕えを時々していたので、御覧になる機会もあったが、すっかりやつれきっていた。家のありさまも何とも言いようがなく荒れはてて、それでも、大きな邸で、木立なども気味悪いほどで、「どのように暮らしてきたのだろう」と思われる。人柄は、若々しく美しいので、お見過ごしになれない。何やかやと冗談をなさって、<BR>⏎
 106 「明石にやらずに自分のほうに置いておきたい気がする。どう思いますか」<BR>⏎95 
cd3:2107-109 とおっしゃるにつけても、「おっしゃるとおり同じことなら、ずっとお側近くにお仕えさせていただけるものなら、わが身の不幸も慰みましようものを」と拝する。<BR>⏎
 「以前から特に親しい仲であったわけではないが<BR>⏎
  別れは惜しい気がするものであるよ<BR>⏎
96-97 とおっしゃるにつけても、「おっしゃるとおり同じことなら、ずっとお側近くにお仕えさせていただけるものなら、わが身の不幸も慰みましようものを」と拝する。<BR>⏎
 「以前から特に親しい仲であったわけではないが<BR>  別れは惜しい気がするものであるよ<BR>⏎
 110 追いかけて行こうかしら」<BR>⏎98 
 111 とおっしゃると、にっこりして、<BR>⏎99 
cd2:1112-113 「口から出まかせの別れを惜しむことばにかこつけて<BR>⏎
  恋しい方のいらっしゃる所にお行きになりませんか」<BR>⏎
100 「口から出まかせの別れを惜しむことばにかこつけて<BR>  恋しい方のいらっしゃる所にお行きになりませんか」<BR>⏎
 114 物馴れてお応えするのを、なかなかたいしたものだとお思いになる。<BR>⏎101 
d1115<P>⏎
version14116 <A NAME="in23">[第三段 乳母、明石へ出発]</A><BR>102 
 117 車で京の中は出て行ったのであった。ごく親しい人をお付けになって、決して漏らさないよう、口止めなさってお遣わしになる。御佩刀、必要な物など、何から何まで行き届かない点はない。乳母にも、めったにないほどのお心づかいのほど、並々でない。<BR>⏎103 
 118 入道が大切にお育てしているであろう様子、想像すると、ついほほ笑まれなさることが多く、また一方で、しみじみといたわしく、ただこの姫君のことがお心から離れないのも、ご愛情が深いからであろう。お手紙にも、「いいかげんな思いで扱ってはならぬ」と、繰り返しご注意なさっていた。<BR>⏎104 
cd2:1119-120 「早くわたしの手元に姫君を引き取って世話をしてあげたい<BR>⏎
  天女が羽衣で岩を撫でるように幾千万年も姫の行く末を祝って」<BR>⏎
105 「早くわたしの手元に姫君を引き取って世話をしてあげたい<BR>  天女が羽衣で岩を撫でるように幾千万年も姫の行く末を祝って」<BR>⏎
 121 摂津の国までは舟で、それから先は、馬で急いで行き着いた。<BR>⏎106 
c2122-123 入道待ち迎えて、喜び恐縮申すこと、この上ない。そちらの方角を向いて拝み恐縮申し上げて、並々ならないお心づかいを思うと、ますます大事に恐れ多いまでに思う。<BR>⏎
 幼い姫君がたいそう不吉なまでに美しくいらっしゃること、またと類がない。「なるほど恐れ多いお心から、大切にお育て申そうとお考えになっていらっしゃるのは、もっともなことであった」と拝すると、辺鄙な田舎に旅出して、夢のような気持ちがした悲しみも忘れてしまった。たいそう美しくかわいらしく思えて、お世話申し上げる。<BR>⏎
107-108 入道待ち迎えて、喜び恐縮申すこと、この上ない。そちらの方角を向いて拝み恐縮申し上げて、並々ならないお心づかいを思うと、ますます大事に 恐れ多いまでに思う。<BR>⏎
 幼い姫君がたいそう不吉なまでに美しくいらっしゃること、またと類がない。「なるほど恐れ多いお心から、大切にお育て申そうとお考えになっていらっしゃるのは、もっともなことであった」と拝すると、辺鄙な田舎に旅出して、夢のような気持ちがした悲しみも忘れてしまった。たいそう美しくかわいらしく思えて、お世話申し上げる。<BR>⏎
 124 子持ちの君も、ここ数か月は物思いに沈んでばかりいて、ますます身も心も弱って、生きているとも思えなかったが、こうしたご配慮があって、少し物思いも慰められたので、頭を上げて、お使いの者にもできる限りのもてなしをする。早く帰参したいと急いで迷惑がっているので、思っていることを少し申し上げ続けて、<BR>⏎109 
cd2:1125-126 「わたし一人で姫君をお世話するには行き届きませんので<BR>⏎
  大きなご加護を期待しております」<BR>⏎
110 「わたし一人で姫君をお世話するには行き届きませんので<BR>  大きなご加護を期待しております」<BR>⏎
 127 と申し上げた。不思議なまでにお心にかかり、早く御覧になりたくお思いになる。<BR>⏎111 
d1128<P>⏎
version14129 <A NAME="in24">[第四段 紫の君に姫君誕生を語る]</A><BR>112 
 130 女君には、言葉に表してろくにお話申し上げなさっていないのを、他からお聞きになることがあってはいけない、とお思いになって、<BR>⏎113 
 131 「こう言うことなのだそうです。妙にうまく行かないものですね。そうおありになって欲しいと思うところには、待ち遠しくて、思っていないところで、残念なことです。女の子だそうなので、何ともつまりません。放っておいてもよいことなのですが、そうもできそうにないことなのです。呼びにやってお見せ申し上げましょう。お憎みなさいますなよ」<BR>⏎114 
 132 とお申し上げになると、お顔がぽっと赤くなって、<BR>⏎115 
c1133 「変ですこと、いつもそのようなことをご注意をいただく私の心の程が、自分ながら嫌になりますわ。嫉妬することは、いつ教えていただいたのかしら」<BR>⏎
116 「変ですこと、いつもそのようなことをご注意をいただく私の心の程が、自分ながら嫌になりますわ。嫉妬することは、いつ教えていただいたのかしら」<BR>⏎
 134 とお恨みになると、すっかり笑顔になって、<BR>⏎117 
 135 「そうですね。誰が教えこたとでしょう。意外にお見受けしますよ。皆が思ってもいないほうに邪推して、嫉妬などなさいます。考えると悲しい」<BR>⏎118 
c1136 とおっしゃってしまいには涙ぐんでいらっしゃる。長い年月恋しくてたまらなく思っていらしたお二人の心の中や、季節折々のお手紙のやりとりなどをお思い出しなさると、「全部が、一時の慰み事であったのだわ」と打ち消される気持ちになる。<BR>⏎
119 とおっしゃってしまいには涙ぐんでいらっしゃる。長い年月恋しくてたまらなく思っていらしたお二人の心の中や、季節折々のお手紙のやりとりなどをお思い出しなさると、「全部が、一時の慰み事であったのだわ」と打ち消される気持ちになる。<BR>⏎
 137 「この人を、これほどまで考えてやり見舞ってやるのは、実は考えていることがあるからですよ。今のうちからお話し申し上げたら、また誤解なさろうから」<BR>⏎120 
 138 と言いさしなさって、<BR>⏎121 
 139 「人柄が美しく見えたのも、場所柄でしょうか、めったにないように思われました」<BR>⏎122 
c1140 などとお話し申し上げになる。<BR>⏎
123 などとお話し申し上げになる。<BR>⏎
 141 しみじみとした夕べの煙、歌を詠み交わしたことなど、はっきりとではないが、その夜の顔かたちをかすかに見たこと、琴の音色が優美であったことも、すべて心惹かれた様子にお話し出すにつけても、<BR>⏎124 
 142 「わたしはこの上なく悲しく嘆いていたのに、一時の慰み事にせよ、心をお分けになったとは」<BR>⏎125 
cd5:2143-147 と穏やかならず、次から次へと恨めしくお思いになって、「わたしはわたし」と、背を向けて物思わしげに、<BR>⏎
 
「しみじみと心の通いあった二人の仲でしたのにね」<BR>⏎
 
と、独り言のようにふっと嘆いて、<BR>⏎
 「愛しあっている同士が同じ方向になびいているのとは違って<BR>⏎
  わたしは先に煙となって死んでしまいたい」<BR>⏎
126-127 と穏やかならず、次から次へと恨めしくお思いになって、「わたしはわたし」と、背を向けて物思わしげに、「しみじみと心の通いあった二人の仲でしたのにね」と、独り言のようにふっと嘆いて、<BR>⏎
 「愛しあっている同士が同じ方向になびいているのとは違って<BR>  わたしは先に煙となって死んでしまいたい」<BR>⏎
 148 「何とおっしゃいます。嫌なことを。<BR>⏎128 
cd5:3149-153  いったい誰のために憂き世を海や山にさまよって<BR>⏎
  止まることのない涙を流して浮き沈みしてきたのでしょうか<BR>⏎
 さあ何としてでも本心をお見せ申しましょう。寿命だけは思うようにならないもののようですが。つまらないことで、恨まれまいと思うのも、ただあなた一人のためですよ」<BR>⏎
 と言って箏のお琴を引き寄せて、調子合わせに軽くお弾きになって、お勧め申し上げなさるが、あの上手だったというのも癪なのであろうか、手もお触れにならない。とてもおっとりと美しくしなやかでいらっしゃる一方で、やはりしつこいところがあって、嫉妬なさっているのが、かえって愛らしい様子でお腹立ちになっていらっしゃるのを、おもしろく相手にしがいがある、とお思いになる。<BR>⏎
<P>⏎
129-131  いったい誰のために憂き世を海や山にさまよって<BR>  止まることのない涙を流して浮き沈みしてきたのでしょうか<BR>⏎
 さあ何としてでも本心をお見せ申しましょう。寿命だけは思うようにならないもののようですが。つまらないことで、恨まれまいと思うのも、ただあなた一人のためですよ」<BR>⏎
 と言って箏のお琴を引き寄せて、調子合わせに軽くお弾きになって、お勧め申し上げなさるが、あの上手だったというのも癪なのであろうか、手もお触れにならない。とてもおっとりと美しくしなやかでいらっしゃる一方で、やはりしつこいところがあって、嫉妬なさっているのが、かえって愛らしい様子でお腹立ちになっていらっしゃるのを、おもしろく相手にしがいがある、とお思いになる。<BR>⏎
version14154 <A NAME="in25">[第五段 姫君の五十日の祝]</A><BR>132 
 155 「五月五日が、五十日に当たるだろう」と、人知れず日数を数えなさって、どうしているかといとしくお思いやりになる。「どのようなことでも、どんなにも立派にでき、嬉しいことであろうに。残念なことだ。よりによって、あのような土地に、おいたわしくお生まれになったことよ」とお思いになる。「男君であったならば、こんなにまではお心におかけなさらないのだが、恐れ多くもおいたわしく、ご自分の運命も、このご誕生に関連して不遇もあったのだ」とご理解なさる。<BR>⏎133 
 156 お使いの者をお立てになる。<BR>⏎134 
 157 「必ずその日に違わずに到着せよ」<BR>⏎135 
 158 とおっしゃったので、五日に到着した。ご配慮のほども、世にまたなく結構な有様で、実用的なお見舞いの品々もある。<BR>⏎136 
cd3:2159-161 「海松は、いつも変わらない蔭にいたのでは、今日が五日の節句の⏎
  五十日の祝とどうしてお分りになりましょうか<BR>⏎
 飛んで行きたい気持ちです。やはりこのまま過していることはできないから、ご決心をなさい。いくらなんでも、心配なさることは、決してありません」<BR>⏎
137-138 「海松は、いつも変わらない蔭にいたのでは、今日が五日の節句の<BR>  五十日の祝とどうしてお分りになりましょうか<BR>⏎
 飛んで行きたい気持ちです。やはりこのまま過していることはできないから、ご決心をなさい。いくらなんでも、心配なさることは、決してありません」<BR>⏎
 162 と書いてある。<BR>⏎139 
c5163-167 入道は、いつもの喜び泣きをしていた。このような時には、生きていた甲斐があるとべそをかくのも、無理はないと思われる。<BR>⏎
 ここでも、万事至らぬところのないまで盛大に準備していたが、このお使いが来なかったら、闇夜の錦のように何の見栄えもなく終わってしまったであろう。乳母も、この女君が感心するくらい理想的な人柄なのを、よい相談相手として、憂き世の慰めにしているのであった。さして劣らない女房を、縁故を頼って迎えて付けさせているが、すっかり落ちぶれはてた宮仕え人で、出家や隠棲しようとしていた人々が残っていたというのであるが、この人はこの上なくおっとりとして気位高かった。<BR>⏎
 聞くに値する世間話などをして、大臣の君のご様子、世間から大切にされていらっしゃるご評判なども、女心にまかせて果てもなく話をするので、「なるほどこのようにお思い出してくださるよすがを残した自分も、たいそう偉いものだ」とだんだん思うようになるのであった。お手紙を一緒に見て、心の中で、<BR>⏎
 「ああこんなにも意外に、幸福な運命のお方もあるものだわ。不幸なのはわたしだわ」<BR>⏎
 と自然と思い続けられるが、「乳母はどうしているか」などと、やさしく案じてくださっているのも、もったいなくて、どんなに嫌なことも慰められるのであった。<BR>⏎
140-144 入道は、いつもの 喜び泣きをしていた。このような時には、生きていた甲斐があるとべそをかくのも、無理はないと思われる。<BR>⏎
 ここでも、万事至らぬところのないまで盛大に準備していたが、このお使いが来なかったら、闇夜の錦のように何の見栄えもなく終わってしまったであろう。乳母も、この女君が感心するくらい理想的な人柄なのを、よい相談相手として、憂き世の慰めにしているのであった。さして劣らない女房を、縁故を頼って迎えて付けさせているが、すっかり落ちぶれはてた宮仕え人で、出家や隠棲しようとしていた人々が残っていたというのであるが、この人はこの上なくおっとりとして気位高かった。<BR>⏎
 聞くに値する世間話などをして、大臣の君のご様子、世間から大切にされていらっしゃるご評判なども、女心にまかせて果てもなく話をするので、「なるほどこのようにお思い出してくださるよすがを残した自分も、たいそう偉いものだ」とだんだん思うようになるのであった。お手紙を一緒に見て、心の中で、<BR>⏎
 「ああこんなにも意外に、幸福な運命のお方もあるものだわ。不幸なのはわたしだわ」<BR>⏎
 と自然と思い続けられるが、「乳母はどうしているか」などと、やさしく案じてくださっているのも、もったいなくて、どんなに嫌なことも慰められるのであった。<BR>⏎
 168 お返事には、<BR>⏎145 
cd5:3169-173 「人数に入らないわたしのもとで育つわが子を<BR>⏎
  今日の五十日の祝いはどうしているかと尋ねてくれる人は他にいません<BR>⏎
 いろいろと物思いに沈んでおります様子を、このように時たまのお慰めに掛けておりますわたしの命も心細く存じられます。仰せの通りに、安心させていただきたいものです」<BR>⏎
 と心からお頼み申し上げた。<BR>⏎
<P>⏎
146-148 「人数に入らないわたしのもとで育つわが子を<BR>  今日の五十日の祝いはどうしているかと尋ねてくれる人は他にいません<BR>⏎
 いろいろと物思いに沈んでおります様子を、このように時たまのお慰めに掛けておりますわたしの命も 心細く存じられます。仰せの通りに、安心させていただきたいものです」<BR>⏎
 と心からお頼み申し上げた。<BR>⏎
version14174 <A NAME="in26">[第六段 紫の君、嫉妬を覚える]</A><BR>149 
 175 何度も御覧になりながら、「ああ」と、長く嘆息して独り言をおっしゃるのを、女君は、横目で御覧やりになって、<BR>⏎150 
 176 「浦から遠方に漕ぎ出す舟のように」<BR>⏎151 
cd4:3177-180 とひっそりと独り言を言って、物思いに沈んでいらっしゃるのを、<BR>⏎
 「ほんとうに、こんなにまで邪推なさるのですね。これはただこれだけの愛情ですよ。土地の様子など、ふと想像する時々に、昔のことが忘れられないで漏らす独り言を、よくお聞き過しなさらないのですね」<BR>⏎
 などとお恨み申されて、上包みだけをお見せ申し上げになさる。筆跡などがとても立派で、高貴な方も引け目を感じそうなので、「これだからであろう」と、お思いになる。<BR>⏎
<P>⏎
152-154 とひっそりと独り言を言って、物思いに沈んでいらっしゃるのを、<BR>⏎
 「ほんとうに、こんなにまで邪推なさるのですね。これはただこれだけの愛情ですよ。土地の様子など、ふと想像する時々に、昔のことが忘れられないで漏らす独り言を、よくお聞き過しなさらないのですね」<BR>⏎
 などとお恨み申されて、上包みだけをお見せ申し上げになさる。筆跡などがとても立派で、高貴な方も引け目を感じそうなので、「これだからであろう」と、お思いになる。<BR>⏎
version14181 <H4>第三章 光る源氏の物語 新旧後宮女性の動向</H4>155 
version14182 <A NAME="in31">[第一段 花散里訪問]</A><BR>156 
c1183 このようにこの方のお気持ちの御機嫌をとっていらっしゃる間に、花散里などをすっかり途絶えていらっしゃったのは、お気の毒なことである。公事も忙しく、気軽には動けないご身分であるため、ご遠慮されるのに加えても、目新しくお心を動かすことが来ない間、慎重にしていらっしゃるようである。<BR>⏎
157 このようにこの方のお気持ちの御機嫌をとっていらっしゃる間に、花散里などをすっかり途絶えていらっしゃったのは、お気の毒なことである。公事も忙しく、気軽には動けないご身分であるため、ご遠慮されるのに加えても、目新しくお心を動かすことが来ない間、慎重にしていらっしゃるようである。<BR>⏎
 184 五月雨の降る所在ない頃、公私ともに暇なので、お思い立ってお出かけになった。訪れはなくても、朝に夕につけ、何から何までお気をつけてお世話申し上げていらっしゃるのを頼りとして、過ごしていらっしゃる所なので、今ふうに思わせぶりに、すねたり恨んだりなさることがないので、お心安いようである。この何年間に、ますます荒れがひどくなって、もの寂しい感じで暮らしていらっしゃる。<BR>⏎158 
 185 女御の君にお話申し上げなさってから、西の妻戸の方には夜が更けてからお立ち寄りになった。月の光が朧ろに差し込んで、ますます優美なご態度、限りなく美しくお見えになる。ますます気後れするが、端近くに物思いに耽りながら眺めていらっしゃったそのままで、ゆったりとお振る舞いになるご様子、どこといって難がない。水鶏がとても近くで鳴いているので、<BR>⏎159 
cd3:2186-188 「せめて水鶏だけでも戸を叩いて知らせてくれなかったら<BR>⏎
  どのようにしてこの荒れた邸に月の光を迎え入れることができたでしょうか」<BR>⏎
 とたいそうやさしく、恨み言を抑えていらっしゃるので、<BR>⏎
160-161 「せめて水鶏だけでも戸を叩いて知らせてくれなかったら<BR>  どのようにしてこの荒れた邸に月の光を迎え入れることができたでしょうか」<BR>⏎
 とたいそうやさしく、恨み言を抑えていらっしゃるので、<BR>⏎
 189 「それぞれに捨てがたい人よ。このような人こそ、かえって気苦労することだ」<BR>⏎162 
 190 とお思いになる。<BR>⏎163 
cd2:1191-192 「どの家の戸でも叩く水鶏の音に見境なしに戸を開けたら<BR>⏎
  わたし以外の月の光が入って来たら大変だ<BR>⏎
164 「どの家の戸でも叩く水鶏の音に見境なしに戸を開けたら<BR>  わたし以外の月の光が入って来たら大変だ<BR>⏎
 193 心配ですね」<BR>⏎165 
c2194-195 とはやはり言葉の上では申し上げなさるが、浮気めいたことなど、疑いの生じるご性質ではない。長い年月、お待ち申し上げていらしたのも、まったく並み大抵の気持ちとはお思いにならなかった。「空を眺めなさるな」と、お約束申された時のことも、お話し出されて、<BR>⏎
 「どうしてまたとない不幸だと、ひどく嘆き悲しんだのでしょう。辛い身の上にとっは、同じ悲しさですのに」<BR>⏎
166-167 とはやはり言葉の上では申し上げなさるが、浮気めいたことなど、疑いの生じるご性質ではない。長い年月、お待ち申し上げていらしたのも、まったく並み大抵の気持ちとはお思いにならなかった。「空を眺めなさるな」と、お約束申された時のことも、お話し出されて、<BR>⏎
 「どうしてまたとない不幸だと、ひどく嘆き悲しんだのでしょう。辛い身の上にとっは、同じ悲しさですのに」<BR>⏎
 196 とおっしゃるのも、おっとりとしていらしてかわいらしい。例によって、どこからお出しになる言葉であろうか、言葉の限りを尽くしてお慰め申し上げになる。<BR>⏎168 
d1197<P>⏎
version14198 <A NAME="in32">[第二段 筑紫の五節と朧月夜尚侍]</A><BR>169 
 199 このような折にも、あの五節をお忘れにならず、「また会いたいものだ」と、心に掛けていらっしゃるが、たいそう難しいことで、お忍びで行くこともできない。<BR>⏎170 
 200 女は、物思いが絶えないのを、親はいろいろと縁談を勧めることもあるが、普通の結婚生活を送ることを断念していた。<BR>⏎171 
 201 気兼ねのいらない邸を造ってからは、「このような人々を集めて、思い通りにお世話なさる子どもが出て来たら、その人の後見にもしよう」とお思いになる。<BR>⏎172 
c1202 東の院の造りようは、かえって見所が多く今風である。風流を解する受領など選んで、それぞれに分担させて急がせなさる。<BR>⏎
173 東の院の造りようは、かえって見所が多く 今風である。風流を解する受領など選んで、それぞれに分担させて急がせなさる。<BR>⏎
 203 尚侍の君を、今でもお諦め申すことがおできになれない。失敗に懲りもせずに再び、お気持ちをお見せになることもあるが、女は嫌なことに懲りなさって、昔のようにお相手申し上げなさらない。かえって、窮屈で、間柄を物足りないと、お思いになる。<BR>⏎174 
d1204<P>⏎
version14205 <A NAME="in33">[第三段 旧後宮の女性たちの動向]</A><BR>175 
c1206 院は気楽な御心境になられて、四季折々につけて、風雅な管弦の御遊など、御機嫌よろしうおいであそばす。女御更衣、みな院の御所に伺候していらっしゃるが、東宮の御母女御だけは、特別にはなやかにおなりになることもなく、尚侍の君のご寵愛に圧倒されていらっしゃったのが、このようにうって変わって、結構なご幸福で、離れて東宮にお付き添い申し上ていらっしゃった。<BR>⏎
176 院は気楽な御心境になられて、四季折々につけて、風雅な管弦の御遊など、御機嫌よろしうおいであそばす。女御更衣、みな院の御所に伺候していらっしゃるが、東宮の御母女御だけは、特別にはなやかにおなりになることもなく、尚侍の君のご寵愛に圧倒されていらっしゃったのが、このようにうって変わって、結構なご幸福で、離れて東宮にお付き添い申し上ていらっしゃった。<BR>⏎
 207 この内大臣のご宿直所は、昔から淑景舎である。梨壷に東宮はいらっしゃるので、隣同士の誼で、どのようなこともお話し合い申し上げなさって、東宮をもご後見申し上げになさる。<BR>⏎177 
c1208 入道后の宮は、御位を再びお改めになるべきでもないので、太上天皇に准じて御封を賜りあそばす。院司たちが任命されて、その様子は格別立派である。御勤行、功徳のことを、毎日のお仕事になさっている。ここ数年来、世間に遠慮して参内も難しく、お会い申されないお悲しみに胸塞がる思いでいらっしゃったが、お思いの通りに、参内退出なさるのもまことに結構なので、大后は、「嫌なものは世の移り変わりよ」とお嘆きになる。<BR>⏎
178 入道后の宮は、御位を再びお改めになるべきでもないので、太上天皇に准じて 御封を賜りあそばす。院司たちが任命されて、その様子は格別立派である。御勤行、功徳のことを、毎日のお仕事になさっている。ここ数年来、世間に遠慮して参内も難しく、お会い申されないお悲しみに胸塞がる思いでいらっしゃったが、お思いの通りに、参内退出なさるのもまことに結構なので、大后は、「嫌なものは世の移り変わりよ」とお嘆きになる。<BR>⏎
 209 内大臣は何かにつけて、たいそう恥じ入るほどにお仕え申し上げ、好意をお寄せ申し上げなさるので、かえって見ていられないようなのを、人々もそんなにまでなさらずともよかろうにと、お噂申し上げるのだった。<BR>⏎179 
d1210<P>⏎
version14211 <A NAME="in34">[第四段 冷泉帝後宮の入内争い]</A><BR>180 
 212 兵部卿親王は、ここ数年来のお心が冷たく案外な仕打ちで、ただ世間のおもわくだけを気になさっていらしたことを、内大臣は恨めしくお思いになっておられて、昔のようにお親しみ申し上げなさらない。<BR>⏎181 
c1213 世間一般に対しては、誰に対しても結構なお心なのであるが、この宮あたりに対しては、むしろ冷淡な態度も、ままおとりになるのを、入道の宮は、困ったことで不本意なことだとお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎
182 世間一般に対しては、誰に対しても結構なお心なのであるが、この宮あたりに対しては、むしろ冷淡な態度も、ままおとりになるのを、入道の宮は、困ったことで不本意なことだとお思い申し上げていらっしゃった。<BR>⏎
 214 天下の政事は、まったく二分して、太政大臣と、この内大臣のお心のままである。<BR>⏎183 
 215 権中納言の御娘、その年の八月に入内させなさる。祖父大臣が率先なさって、儀式などもたいそう立派である。<BR>⏎184 
cd2:1216-217 兵部卿宮の中の君も、そのように志して大切にお世話なさっているとの評判は高いが、内大臣は、他より一段と勝るようにともお考えにはならないのであった。どうなさるおつもりであろうか。<BR>⏎
<P>⏎
185 兵部卿宮の中の君も、そのように志して大切にお世話なさっているとの評判は高いが、内大臣は、他より一段と勝るようにともお考えにはならないのであった。どうなさるおつもりであろうか。<BR>⏎
version14218 <H4>第四章 明石の物語 住吉浜の邂逅</H4>186 
version14219 <A NAME="in41">[第一段 住吉詣で]</A><BR>187 
 220 その年の秋に、住吉にご参詣になる。願ほどきなどをなさるご予定なので、盛大なご行列で、世間でも大騷ぎして、上達部、殿上人らが、我も我もとお供申し上げになさる。<BR>⏎188 
c1221 ちょうどその折、あの明石の人は、毎年恒例にして参詣するのが、去年今年は差し障りがあって、参詣できなかった、そのお詫びも兼ねて思い立ったのであった。<BR>⏎
189 ちょうどその折、あの明石の人は、毎年恒例にして参詣するのが、去年今年は差し障りがあって、参詣できなかった、そのお詫びも兼ねて 思い立ったのであった。<BR>⏎
 222 舟で参詣した。岸に着ける時、見ると、大騷ぎして参詣なさる人々の様子、渚にいっぱいあふれていて、尊い奉納品を列をなさせていた。楽人、十人ほど、衣装を整え、顔形の良い者を選んでいた。<BR>⏎190 
 223 「どなたが参詣なさるのですか」<BR>⏎191 
 224 と尋ねたらしいので、<BR>⏎192 
c3225-227 「内大臣殿が御願ほどきに参詣なさるのを、知らない人もいたのだなあ」<BR>⏎
 と言ってとるにたりない身分の低い者までもが、気持ちよさそうに笑う。<BR>⏎
 「なるほどあきれたことよ、他の月日もあろうにかえって、このご威勢を遠くから眺めるのも、わが身の程が情なく思われる。とはいえ、お離れ申し上げられない運命ながら、このような賤しい身分の者でさえも、何の物思いもないふうで、お仕えしているのを晴れがましいことに思っているのに、どのような罪深い身で、心に掛けてお案じ申し上げていながら、これほどの評判であったご参詣のことも知らずに、出掛けて来たのだろう」<BR>⏎
193-195 「内大臣殿が御願ほどきに参詣なさるのを、知らない人もいたのだなあ」<BR>⏎
 と言ってとるにたりない身分の低い者までもが、気持ちよさそうに笑う。<BR>⏎
 「なるほどあきれたことよ、他の月日もあろうにかえって、このご威勢を遠くから眺めるのも、わが身の程が情なく思われる。とはいえ、お離れ申し上げられない運命ながら、このような賤しい身分の者でさえも、何の物思いもないふうで、お仕えしているのを晴れがましいことに思っているのに、どのような罪深い身で、心に掛けてお案じ申し上げていながら、これほどの評判であったご参詣のことも知らずに、出掛けて来たのだろう」<BR>⏎
 228 などと思い続けると、実に悲しくなって、人知れず涙がこぼれるのであった。<BR>⏎196 
d1229<P>⏎
version14230 <A NAME="in42">[第二段 住吉社頭の盛儀]</A><BR>197 
 231 松原の深緑を背景に、花や紅葉をまき散らしたように見える袍衣姿の、濃いのや薄いのが、数知れず見える。六位の中でも蔵人は麹塵色がはっきりと見えて、あの賀茂の瑞垣を恨んだ右近将監も靫負になって、ものものしそうな随身を伴った蔵人である。<BR>⏎198 
 232 良清も同じ衛門佐で、誰よりも格別物思いもない様子で、仰々しい緋色姿が、たいそう美しげである。<BR>⏎199 
 233 すべて見た人々は、うって変わってはなやかになり、何の憂えもなさそうに見えて、散らばっている中で、若々しい上達部、殿上人が、我も我もと競争で、馬や鞍などまで飾りを整え美しく装いしていらっしゃるのは、たいそうな物であると、田舎者も思った。<BR>⏎200 
 234 お車を遠く見やると、かえって、心が苦しくなって、恋しいお姿をも拝することができない。河原左大臣のご先例にならって、童随身を賜っていらっしゃったが、とても美しそうに装束を着て、みずらを結って、紫の裾濃の元結が優美で、身の丈や姿もそろって、かわいらしい格好をして十人、格別はなやかに見える。<BR>⏎201 
 235 大殿腹の若君、この上なく大切にお扱いになって、馬に付き添う供人、童の具合など、みな揃いの衣装で、他とは変わって服装で区別していた。<BR>⏎202 
 236 雲居遥かな立派さを見るにつけても、若君の人数にも入らない様子でいらっしゃるのを、ひどく悲しいと思う。ますます御社の方角をお拝み申し上げる。<BR>⏎203 
 237 摂津の国守が参上して、ご饗応の準備、普通の大臣などが参詣なさる時よりは、格別にまたとないくらい立派に奉仕したことであろうよ。<BR>⏎204 
 238 とてもいたたまれない思いなので、<BR>⏎205 
 239 「あの中に立ちまじって、とるに足らない身の上で、少しばかりの捧げ物をしても、神も御覧になり、お認めくださるはずもあるまい。帰るにしても中途半端である。今日は難波に舟を泊めて、せめてお祓いだけでもしよう」<BR>⏎206 
 240 と思って、漕いで行った。<BR>⏎207 
d1241<P>⏎
version14242 <A NAME="in43">[第三段 源氏、惟光と住吉の神徳を感ず]</A><BR>208 
 243 君は、まったくご存知なく、一晩中、いろいろな神事を奉納させなさる。真実に、神がお喜びになるにちがいないことを、あらゆる限りなさって、過去の御願果たしに加えて、前例のないくらいまで、楽や舞の奉納の大騷ぎして夜をお明かしになる。<BR>⏎209 
 244 惟光などのような人は、心中に神のご神徳をしみじみとありがたく思う。ちょっと出ていらっしゃたので、お側に寄って、申し上げた。<BR>⏎210 
cd2:1245-246 「住吉の松を見るにつけ感慨無量です<BR>⏎
  昔のことがを忘れられずに思われますので」<BR>⏎
211 「住吉の松を見るにつけ感慨無量です<BR>  昔のことがを忘れられずに思われますので」<BR>⏎
 247 いかにもと、お思い出しになって、<BR>⏎212 
cd2:1248-249 「あの須磨の大嵐が荒れ狂った時に<BR>⏎
  念じた住吉の神の御神徳をどうして忘られようぞ<BR>⏎
213 「あの須磨の大嵐が荒れ狂った時に<BR>  念じた住吉の神の御神徳をどうして忘られようぞ<BR>⏎
 250 霊験あらたかであったな」<BR>⏎214 
 251 とおっしゃるのも、たいそう素晴らしい。<BR>⏎215 
d1252<P>⏎
version14253 <A NAME="in44">[第四段 源氏、明石の君に和歌を贈る]</A><BR>216 
 254 あの明石の舟が、この騷ぎに圧倒されて、立ち去ったことも申し上げると、「知らなかったなあ」と、しみじみと気の毒にお思いになる。神のお導きとお思い出しになるにつけ、おろそかには思われないので、「せめてちょっとした手紙だけでも遣わして、気持ちを慰めてやりたい。かえってつらい思いをしていることだろう」とお思いになる。<BR>⏎217 
 255 御社をご出発になって、あちこちの名所に遊覧なさる。難波のお祓い、七瀬に立派にお勤めになる。堀江のあたりを御覧になって、<BR>⏎218 
 256 「今はた同じ難波なる」<BR>⏎219 
cd12:8257-268 と無意識のうちに、ふと朗誦なさったのを、お車の近くにいる惟光、聞きつけたのであろうか、そのような御用もあろうかと、いつものように懐中に準備しておいた柄の短い筆などを、お車を止めた所で差し上げた。「よく気がつくな」と感心なさって、畳紙に、<BR>⏎
 「身を尽くして恋い慕っていた甲斐のあるここで<BR>⏎
  めぐり逢えたとは、縁は深いのですね」<BR>⏎
 と書いてお与えになると、あちらの事情を知っている下人を遣わして贈るのであった。馬を多数並べて、通り過ぎて行かれるにつけても、心が乱れるばかりで、ほんの歌一首ばかりのお手紙であるが、実にしみじみともったいなく思われて、涙がこぼれた。<BR>⏎
 「とるに足らない身の上で、何もかもあきらめておりましたのに<BR>⏎
  どうして身を尽くしてまでお慕い申し上げることになったのでしょう」<BR>⏎
 田蓑の島で禊を勤めるお祓いの木綿につけて差し上げる。日も暮れ方になって行く。<BR>⏎
 夕潮が満ちて来て、入江の鶴も声惜しまず鳴く頃のしみじみとした情趣からであろうか、人の目も憚らず、お逢いしたいとまで思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎
 「涙に濡れる旅の衣は、昔海浜を流浪した時と同じようだ<BR>⏎
  田蓑の島という名の蓑の名には身は隠れないので」<BR>⏎
 道すがら、結構な遊覧や奏楽をして大騷ぎなさるが、お心にはなおも掛かって思いをお馳せになる。遊女連中が集まって参っているが、上達部と申し上げても、若々しく風流好みの方は、皆目を留めていらっしゃるようである。けれども、「さあ風流なことも、ものの情趣も、相手の人柄によるものだろう。普通の恋愛でさえ、少し浮ついたものは、心を留める点もないものだから」とお思いになると、自分の心の赴くままに、嬌態を演じあっているのも嫌に思われるのであった。<BR>⏎
<P>⏎
220-227 と無意識のうちに、ふと朗誦なさったのを、お車の近くにいる惟光、聞きつけたのであろうか、そのような御用もあろうかと、いつものように懐中に準備しておいた柄の短い筆などを、お車を止めた所で差し上げた。「よく気がつくな」と感心なさって、畳紙に、<BR>⏎
 「身を尽くして恋い慕っていた甲斐のあるここで<BR>  めぐり逢えたとは、縁は深いのですね」<BR>⏎
 と書いてお与えになると、あちらの事情を知っている下人を遣わして贈るのであった。馬を多数並べて、通り過ぎて行かれるにつけても、心が乱れるばかりで、ほんの歌一首ばかりのお手紙であるが、実にしみじみともったいなく思われて、涙がこぼれた。<BR>⏎
 「とるに足らない身の上で、何もかもあきらめておりましたのに<BR>  どうして身を尽くしてまでお慕い申し上げることになったのでしょう」<BR>⏎
 田蓑の島で禊を勤める お祓いの木綿につけて差し上げる。日も暮れ方になって行く。<BR>⏎
 夕潮が満ちて来て、入江の鶴も声惜しまず鳴く頃のしみじみとした情趣からであろうか、人の目も憚らず、お逢いしたいとまで思わずにはいらっしゃれない。<BR>⏎
 「涙に濡れる旅の衣は、昔海浜を流浪した時と同じようだ<BR>  田蓑の島という名の蓑の名には身は隠れないので」<BR>⏎
 道すがら、結構な遊覧や奏楽をして大騷ぎなさるが、お心にはなおも掛かって思いをお馳せになる。遊女連中が集まって参っているが、上達部と申し上げても、若々しく風流好みの方は、皆目を留めていらっしゃるようである。けれども、「さあ風流なことも、ものの情趣も、相手の人柄によるものだろう。普通の恋愛でさえ、少し浮ついたものは、心を留める点もないものだから」とお思いになると、自分の心の赴くままに、嬌態を演じあっているのも嫌に思われるのであった。<BR>⏎
version14269 <A NAME="in45">[第五段 明石の君、翌日住吉に詣でる]</A><BR>228 
c1270 あの人は、通り過ぎるのをお待ち申して、次の日が日柄も悪くはなかったので、幣帛を奉る。身分相応の願ほどきなど、ともかくも済ませたのであった。また一方かえって物思いが加わって、朝に晩に、取るに足らない身の上を嘆いている。<BR>⏎
229 あの人は、通り過ぎるのをお待ち申して、次の日が日柄も悪くはなかったので、幣帛を奉る。身分相応の願ほどきなど、ともかくも済ませたのであった。また一方かえって物思いが加わって、朝に晩に、取るに足らない身の上を嘆いている。<BR>⏎
 271 今頃は京にお着きになっただろうと思われる日数もたたないうちに、お使いがある。近々のうちに迎えることをおっしゃっていた。<BR>⏎230 
c1272 「とても頼りがいありそうに、一人前に扱ってくださるようだけれども、どうかしらまた故郷を出て、どっちつかずの心細い思いをするのではないかしら」<BR>⏎
231 「とても頼りがいありそうに、一人前に扱ってくださるようだけれども、どうかしらまた故郷を出て、どっちつかずの心細い思いをするのではないかしら」<BR>⏎
 273と思い悩む。<BR>⏎232 
 274 入道も、そのように手放すのは、まことに不安で、そうかといって、このように埋もれて過すことを考えると、かえって今までよりも、物思いが増す。いろいろと気後れがして、決心しがたい旨を申し上げる。<BR>⏎233 
d1275<P>⏎
version14276 <H4>第五章 光る源氏の物語 冷泉帝後宮の入内争い</H4>234 
version14277 <A NAME="in51">[第一段 斎宮と母御息所上京]</A><BR>235 
c1278 そう言えば、あの斎宮もお代わりになったので、御息所も上京なさって後、昔と変わりなく何くれとなくお見舞い申し上げなさることは、世にまたとないほど、お心を尽くしてなさるが、「昔でさえ冷淡であったお気持ちを、なまじ会うことによってかえって昔ながらのつらい思いをすることはするまい」と、きっぱりと思い絶っていらしたので、お出向きになることはない。<BR>⏎
236 そう言えば、あの斎宮もお代わりになったので、御息所も上京なさって後、昔と変わりなく何くれとなくお見舞い申し上げなさることは、世にまたとないほど、お心を尽くしてなさるが、「昔でさえ冷淡であったお気持ちを、なまじ会うことによってかえって昔ながらのつらい思いをすることはするまい」と、きっぱりと思い絶っていらしたので、お出向きになることはない。<BR>⏎
 279 無理してお心を動かし申しなさったところで、自分ながら先々どう変わるかわからず、あれこれと関わりになるお忍び歩きなども、窮屈にお思いになっていたので、無理してお出向きにもならない。<BR>⏎237 
 280 斎宮を、「どんなにご成人なさったろう」と、お会いしてみたくお思いになる。<BR>⏎238 
c2281-282 昔どおりあの六条の旧邸をたいそうよく修理なさったので、優雅にお住まいになっているのであった。風雅でいらっしゃること、変わらないままで、優れた女房などが多く、風流な人々の集まる所で、何となく寂しいようであるが、気晴らしをなさってお暮らしになっているうちに、急に重くお患いになられて、たいそう心細い気持ちにおなりになったので、仏道を忌む所辺りに何年も過ごしていたことも、ひどく気になさって、尼におなりになった。<BR>⏎
 内大臣、お聞きになって、色恋といった仲ではないが、やはり風雅に関することでのお話相手になるお方とお思い申し上げていたのを、このようにご決意なさったのが残念に思われなさって、驚いたままお出向きになった。いつ尽きるともないしみじみとしたお見舞いの言葉を申し上げになる。⏎
239-240 昔どおりあの六条の旧邸をたいそうよく修理なさったので、優雅にお住まいになっているのであった。風雅でいらっしゃること、変わらないままで、優れた女房などが多く、風流な人々の集まる所で、何となく寂しいようであるが、気晴らしをなさってお暮らしになっているうちに、急に重くお患いになられて、たいそう心細い気持ちにおなりになったので、仏道を忌む所辺りに何年も過ごしていたことも、ひどく気になさって、尼におなりになった。<BR>⏎
 内大臣、お聞きになって、色恋といった仲ではないが、やはり風雅に関することでのお話相手になるお方と お思い申し上げていたのを、このようにご決意なさったのが残念に思われなさって、驚いたままお出向きになった。いつ尽きるともないしみじみとしたお見舞いの言葉を申し上げになる。⏎
 283 お近くの御枕元にご座所を設けて、脇息に寄り掛かって、お返事などを申し上げなさるのも、たいそう衰弱なさっている感じなので、「いつまでも変わらない心の中を、お分かり頂けないままになるのではないか」と、残念に思われて、ひどくお泣きになる。<BR>⏎241 
d1284<P>⏎
version14285 <A NAME="in52">[第二段 御息所、斎宮を源氏に託す]</A><BR>242 
 286 こんなにまでもお心に掛けていたのを、女も、万感胸に迫る思いになって、斎宮の御事をお頼み申し上げになる。<BR>⏎243 
c3287-289 「心細い状況で先立たれなさるのを、きっと何かにつけて面倒を見て上げてくださいまし。また他に後見を頼む人もなく、この上もなくお気の毒な身の上でございまして。何の力もないながらも、もうしばらく平穏に生き長らえていられるうちは、あれやこれや物の分別がおつきになるまでは、お世話申そうと存じておりましたが」<BR>⏎
 と言って息も絶え絶えにお泣きになる。<BR>⏎
 「このようなお言葉がなくてでさえも、放ってお置き申すことはあるはずもないのに、ましてや気のつく限りは、どのようなことでもご後見申そうと存じております。けっして、ご心配申されることはありません」<BR>⏎
244-246 「心細い状況で先立たれなさるのを、きっと何かにつけて面倒を見て上げてくださいまし。また他に後見を頼む人もなく、この上もなくお気の毒な身の上でございまして。何の力もないながらも、もうしばらく平穏に生き長らえていられるうちは、あれやこれや物の分別がおつきになるまでは、お世話申そうと存じておりましたが」<BR>⏎
 と言って息も絶え絶えにお泣きになる。<BR>⏎
 「このようなお言葉がなくてでさえも、放ってお置き申すことはあるはずもないのに、ましてや気のつく限りは、どのようなことでもご後見申そうと存じております。けっして、ご心配申されることはありません」<BR>⏎
 290 などと申し上げなさると、<BR>⏎247 
c1291 「とても難しいこと。本当に信頼できる父親などで、後を任せられる人がいてさえ、女親に先立たれた娘は、実にかわいそうなもののようでございます。ましてやご寵愛の人のようになるにつけても、つまらない嫉妬心が起こり、他の女の人からも憎まれたりなさいましょう。嫌な気のまわしようですが、けっしてそのような色めいたことはお考えくださいますな。悲しいわが身を引き比べてみましても、女というものは、思いも寄らないことで気苦労をするものでございましたので、何とかしてそのようなこととは関係なく、後見していただきたく存じます」<BR>⏎
248 「とても難しいこと。本当に信頼できる父親などで、後を任せられる人がいてさえ、女親に先立たれた娘は、実にかわいそうなもののようでございます。ましてやご寵愛の人のようになるにつけても、つまらない嫉妬心が起こり、他の女の人からも憎まれたりなさいましょう。嫌な気のまわしようですが、けっしてそのような色めいたことはお考えくださいますな。悲しいわが身を引き比べてみましても、女というものは、思いも寄らないことで気苦労をするものでございましたので、何とかしてそのようなこととは関係なく、後見していただきたく存じます」<BR>⏎
 292 などと申し上げなさるので、「つまらなことをおっしゃるな」とお思いになるが、<BR>⏎249 
cd4:3293-296 「ここ数年来、何事も思慮深くなっておりますものを、昔の好色心が今に残っているようにおっしゃいますのは不本意なことです。いずれそのうちに」<BR>⏎
 と言って外は暗くなり、内側は大殿油がかすかに物越しに透けて見えるので、「もしや」とお思いになって、そっと御几帳の隙間から御覧になると、頼りなさそうな燈火に、お髪がたいそう美しそうにくっきりと尼削ぎにして、寄り伏していらっしゃる、絵に描いたような様に見えて、ひどく胸を打つ。東面に添い伏していらっしゃるのが斎宮なのであろう。御几帳が無造作に押しやられている隙間から、お目を凝らして見通して御覧になると、頬杖をついてたいそう悲しくお思いの様子である。わずかしか見えないが、とても器量がよさそうに見える。<BR>⏎
 お髪の掛ったところ、頭の恰好感じ、上品で気高い感じがする一方で、小柄で愛嬌がおありになる感じが、はっきりお見えになるので、心惹かれ好奇心がわいてくるが、「あれほどおっしゃっているのだから」と、お思い直しなさる。<BR>⏎
<P>⏎
250-252 「ここ数年来、何事も思慮深くなっておりますものを、昔の好色心が今に残っているようにおっしゃいますのは不本意なことです。いずれそのうちに」<BR>⏎
 と言って外は暗くなり、内側は大殿油がかすかに物越しに透けて見えるので、「もしや」とお思いになって、そっと御几帳の隙間から御覧になると、頼りなさそうな燈火に、お髪がたいそう美しそうにくっきりと尼削ぎにして、寄り伏していらっしゃる、絵に描いたような様に見えて、ひどく胸を打つ。東面に添い伏していらっしゃるのが斎宮なのであろう。御几帳が無造作に押しやられている隙間から、お目を凝らして見通して御覧になると、頬杖をついて たいそう悲しくお思いの様子である。わずかしか見えないが、とても器量がよさそうに見える。<BR>⏎
 お髪の掛ったところ、頭の恰好感じ、上品で気高い感じがする一方で、小柄で愛嬌がおありになる感じが、はっきりお見えになるので、心惹かれ好奇心がわいてくるが、「あれほどおっしゃっているのだから」と、お思い直しなさる。<BR>⏎
 297 「とても苦しさがひどくなりました。恐れ多いことですが、もうお引き取りあそばしませ」<BR>⏎253 
c5298-302 とおっしゃって女房に臥せさせられなさる。<BR>⏎
 「お側近くに伺った甲斐があって、いくらか具合がよくなられたのなら嬉しく存じられるのですが、おいたわしいことです。いかがなお具合ですか」<BR>⏎
 と言ってお覗きになる様子なので、<BR>⏎
 「たいそうひどい格好でございますよ。病状が本当にこれが最期と思われる時にちょうどお越しくださいましたのは、まことに深いご宿縁であると思われます。気にかかっていたことを、少しでもお話申し上げましたので、死んだとしても、頼もしく思われます」<BR>⏎
 とお申し上げになる。<BR>⏎
254-258 とおっしゃって女房に臥せさせられなさる。<BR>⏎
 「お側近くに伺った甲斐があって、いくらか具合がよくなられたのなら嬉しく存じられるのですが、おいたわしいことです。いかがなお具合ですか」<BR>⏎
 と言ってお覗きになる様子なので、<BR>⏎
 「たいそうひどい格好でございますよ。病状が本当にこれが最期と思われる時にちょうどお越しくださいましたのは、まことに深いご宿縁であると思われます。気にかかっていたことを、少しでもお話申し上げましたので、死んだとしても、頼もしく思われます」<BR>⏎
 とお申し上げになる。<BR>⏎
 303 「このようなご遺言を承る一人にお考えくださったのも、ますます恐縮に存じます。故院の御子たちが、大勢いらっしゃるが、親しく思ってくださる方は、ほとんどおりませんが、院の上がご自分の皇女たちと同じようにお考え申されていらしたので、そのようにお頼み申しましょう。多少一人前といえるような年齢になりましたが、お世話するような姫君もいないので、寂しく思っていたところでしたから」<BR>⏎259 
cd2:1304-305 などと申し上げて、お帰りになった。お見舞い、以前よりもっとねんごろに頻繁にお訪ねになる。<BR>⏎
<P>⏎
260 などと申し上げて、お帰りになった。お見舞い、以前よりもっとねんごろに 頻繁にお訪ねになる。<BR>⏎
version14306 <A NAME="in53">[第三段 六条御息所、死去]</A><BR>261 
c1307 七八日あってお亡くなりになったのであった。あっけなくお思いなさるにつけて、人の寿命もまことはかなくて、何となく心細くお思いになって、内裏へも参内なさらず、あれこれと御葬送のことなどをお指図なさる。他に頼りになる人が格別いらっしゃらないのであった。かつての斎宮の宮司など、前々から出入りしていた者が、なんとか諸事を取り仕切ったのであった。<BR>⏎
262 七八日あってお亡くなりになったのであった。あっけなくお思いなさるにつけて、人の寿命もまことはかなくて、何となく心細くお思いになって、内裏へも参内なさらず、あれこれと御葬送のことなどをお指図なさる。他に頼りになる人が格別いらっしゃらないのであった。かつての斎宮の宮司など、前々から出入りしていた者が、なんとか諸事を取り仕切ったのであった。<BR>⏎
 308 君ご自身もお越しになった。宮にご挨拶申し上げなさる。<BR>⏎263 
 309 「何もかもどうしてよいか分からずにおります」<BR>⏎264 
c1310 と女別当を介して、お伝え申された。<BR>⏎
265 と女別当を介して、お伝え申された。<BR>⏎
 311 「お話し申し上げ、またおっしゃられたことがございましたので、今は、隔意なくお思いいただければ、嬉しく存じます」<BR>⏎266 
 312 と申し上げなさって、女房たちを呼び出して、なすべきことどもをお命じになる。たいそう頼もしい感じで、長年の冷淡なお気持ちも、償われそうに見える。実に厳かに、邸の家司たち、大勢お仕えさせなさった。しみじみと物思いに耽りながら、ご精進の生活で、御簾を垂れこめて勤行をおさせになる。<BR>⏎267 
 313 宮には、常にお見舞い申し上げなさる。だんだんとお心がお静まりになってからは、ご自身でお返事などを申し上げなさる。気詰りにお思いになっていたが、御乳母などが、「恐れ多うございます」と、お勧め申し上げるのであった。<BR>⏎268 
c1314 雪、霙、降り乱れる日、「どんなに宮邸の様子は、心細く物思いに沈んでいられるだろうか」とご想像なさって、お使いを差し向けなさった。<BR>⏎
269 雪、霙、降り乱れる日、「どんなに宮邸の様子は、心細く物思いに沈んでいられるだろうか」とご想像なさって、お使いを差し向けなさった。<BR>⏎
 315 「ただ今の空の様子を、どのように御覧になっていられますか。<BR>⏎270 
cd2:1316-317  雪や霙がしきりに降り乱れている中空を、亡き母宮の御霊が<BR>⏎
  まだ家の上を離れずに天翔けっていらっしゃるのだろうと悲しく思われます」<BR>⏎
271  雪や霙がしきりに降り乱れている中空を、亡き母宮の御霊が<BR>  まだ家の上を離れずに天翔けっていらっしゃるのだろうと悲しく思われます」<BR>⏎
 318 空色の紙の、曇ったような色にお書きになっていた。若い宮のお目にとまるほどにと、心をこめてお書きになっていらっしゃるのが、たいそう見る目にも眩しいほどである。<BR>⏎272 
 319 宮は、ひどくお返事申し上げにくくお思いになるが、誰彼が、<BR>⏎273 
 320 「ご代筆では、とても不都合なことです」<BR>⏎274 
cd3:2321-323 とお責め申し上げるので、鈍色の紙で、たいそう香をたきしめた優美な紙に、墨つきの濃淡を美しく交えて、<BR>⏎
 「消えそうになく生きていますのが悲しく思われます<BR>⏎
  毎日涙に暮れてわが身がわが身とも思われません世の中に」<BR>⏎
275-276 とお責め申し上げるので、鈍色の紙で、たいそう香をたきしめた優美な紙に、墨つきの濃淡を美しく交えて、<BR>⏎
 「消えそうになく生きていますのが悲しく思われます<BR>  毎日涙に暮れてわが身がわが身とも思われません世の中に」<BR>⏎
 324 遠慮がちな書きぶり、とてもおっとりしていて、ご筆跡は優れてはいないが、かわいらしく上品な書風に見える。<BR>⏎277 
d1325<P>⏎
version14326 <A NAME="in54">[第四段 斎宮を養女とし、入内を計画]</A><BR>278 
c1327 下向なさった時から、ただならずお思いであったが、「今はいつでも心に掛けて、どのようにも言い寄ることができるのだ」とお思いになる一方では、いつものように思い返して、<BR>⏎
279 下向なさった時から、ただならずお思いであったが、「今はいつでも心に掛けて、どのようにも言い寄ることができるのだ」とお思いになる一方では、いつものように 思い返して、<BR>⏎
 328 「気の毒なことだ。故御息所が、とても気がかりに心配していらしたのだから。当然のことであるが、世間の人々も、同じようにきっと想像するにちがいないことだから、予想をくつがえして、潔白にお世話申し上げよう。主上がもう少し御分別がおつきになる年ごろにおなりあそばしたら、後宮生活をおさせ申し上げて、娘がいなくて物寂しいから、そうお世話する人として」とお考えになった。<BR>⏎280 
 329 たいそう誠実で懇切なお便りをさし上げなさって、しかるべき時々にはお出向きなどなさる。<BR>⏎281 
 330 「恐れ多いことですが、亡き御母君のご縁の者とお思いくださって、親しくお付き合いいただければ、本望でございます」<BR>⏎282 
 331 などと申し上げなさるが、むやみに恥ずかしがりなさる内気な人柄なので、かすかにでもお声などをお聞かせ申すようなことは、とてもこの上なくとんでもないこととお思いになっていたので、女房たちもお返事に困って、このようなご性分をお困り申し上げあっていた。<BR>⏎283 
c1332 「女別当内侍などという女房たち、ある者は同じ御血縁の王孫などで、教養のある人々が多くいるのであろう。このひそかに思っている後宮生活をおさせ申すにしても、けっして他の妃たちに劣るようなことはなさそうだ。何とかはっきりと、ご器量を見たいものだ」<BR>⏎
284 「女別当内侍などという女房たち、ある者は同じ御血縁の王孫などで、教養のある人々が多くいるのであろう。このひそかに思っている後宮生活をおさせ申すにしても、けっして他の妃たちに劣るようなことはなさそうだ。何とかはっきりと、ご器量を見たいものだ」<BR>⏎
 333 とお思いになるのも、すっかり心の許すことのできる御親心ではなかったのであろうか。<BR>⏎285 
cd2:1334-335 ご自分でもお気持ちが揺れ動いていたので、こう考えているということも、他人にはお漏らしにならない。ご法事の事なども格別にねんごろにおさせになるので、ありがたいご厚志を、宮家の人々も皆喜んでいた。<BR>⏎
<P>⏎
286 ご自分でもお気持ちが揺れ動いていたので、こう考えているということも、他人にはお漏らしにならない。ご法事の事なども格別にねんごろにおさせになるので、ありがたいご厚志を、宮家の人々も皆喜んでいた。<BR>⏎
 336 とりとめもなく過ぎて行く月日につれて、ますます心寂しく、心細いことばかりが増えていくので、お仕えしている女房たちも、だんだんと散り散りに去っていったりなどして、下京の京極辺なので、人の気配も気遠く、山寺の入相の鐘の声々が聞こえてくるにつけても、声を上げて泣く有様で、日を送っていらっしゃる。同じ御母親と申した中でも、片時の間もお離れ申されず、いつもご一緒申していらっしゃって、斎宮にも親が付き添ってお下りになることは、先例のないことであるが、無理にお誘い申し上げなさったお心のほどなのであるが、死出の旅路には、ご一緒申し上げられなかったことを、涙の乾く間もなくお嘆きになっていた。<BR>⏎287 
 337 お仕えしている女房たち、身分の高い人も低い人も多数いる。けれども、内大臣が、<BR>⏎288 
cd3:2338-340 「御乳母たちでさえ、自分勝手なことをしでかしてはならないぞ」<BR>⏎
 などと親ぶって申していらっしゃったので、「とても立派で気の引けるご様子なので、不始末なことをお耳に入れまい」と言ったり思ったりしあって、ちょっとした色めいた事も、まったくない。<BR>⏎
<P>⏎
289-290 「御乳母たちでさえ、自分勝手なことを しでかしてはならないぞ」<BR>⏎
 などと親ぶって申していらっしゃったので、「とても立派で気の引けるご様子なので、不始末なことをお耳に入れまい」と言ったり思ったりしあって、ちょっとした色めいた事も、まったくない。<BR>⏎
version14341 <A NAME="in55">[第五段 朱雀院と源氏の斎宮をめぐる確執]</A><BR>291 
 342 院におかせられても、あのお下りになった大極殿での厳かであった儀式の折に、不吉なまでに美しくお見えになったご器量を、忘れがたくお思いおかれていらしたので、<BR>⏎292 
 343 「院に参内なさって、斎院など、ご姉妹の宮たちがいらっしゃるのと同じようにして、お暮らしになりなさい」<BR>⏎293 
c3344-346 と御息所にも申し上げあそばした。けれども「高貴な方々が伺候していらっしゃるので、大勢のお世話役がいなくては」とご躊躇なさり、「院の上は、とても御病気がちでいらっしゃるのも心配で、その上物思いの種が加わるだろうか」と、ご遠慮申してこられたのに、今となっては、まして誰が後見を申そう、と女房たちは諦めていたが、懇切に院におかれては仰せになるのであった。<BR>⏎
 内大臣は、お聞きになって、「院からご所望があるのを、背いて、横取りなさるのも恐れ多いこと」とお思いになるが、宮のご様子がとてもかわいらしいので、手放すのもまた残念な気がして、入道の宮にご相談申し上げになるのであった。<BR>⏎
 「これこれのことで、思案いたしておりますが、母御息所は、とても重々しく思慮深い方でおりましたが、つまらない浮気心から、とんでもない浮き名までも流して、嫌な者と思われたままになってしまいましたが、本当にお気の毒に存じられてなりません。この世では、その恨みが晴れずに終わってしまったが、ご臨終となった際に、この斎宮のご将来を、ご遺言されましたので、信頼できる者とかねてお思いになって、心中の思いをすっかり残さず頼もうと、恨みは恨みとしても、やはりお考えになっていてくださったのだと存じますにつけても、たまらない気がして。直接関わりあいのない事柄でさえも、気の毒なことは見過ごしがたい性分でございますので、何とかして亡くなった後からでも、生前のお恨みが晴れるほどに、と存じておりますが、主上におかせられましても、あのように大きうおなりあそばしていますが、まだご幼年でおいであそばしますから、少し物事の分別のある方がお側におられてもよいのではないかと存じましたが、ご判断に」<BR>⏎
294-296 と御息所にも申し上げあそばした。けれども「高貴な方々が伺候していらっしゃるので、大勢のお世話役がいなくては」とご躊躇なさり、「院の上は、とても御病気がちでいらっしゃるのも心配で、その上物思いの種が加わるだろうか」と、ご遠慮申してこられたのに、今となっては、まして誰が後見を申そう、と女房たちは諦めていたが、懇切に院におかれては仰せになるのであった。<BR>⏎
 内大臣は、お聞きになって、「院からご所望があるのを、背いて、横取りなさるのも 恐れ多いこと」とお思いになるが、宮のご様子がとてもかわいらしいので、手放すのもまた残念な気がして、入道の宮にご相談申し上げになるのであった。<BR>⏎
 「これこれのことで、思案いたしておりますが、母御息所は、とても重々しく思慮深い方でおりましたが、つまらない浮気心から、とんでもない浮き名までも流して、嫌な者と思われたままになってしまいましたが、本当にお気の毒に存じられてなりません。この世では、その恨みが晴れずに終わってしまったが、ご臨終となった際に、この斎宮のご将来を、ご遺言されましたので、信頼できる者とかねてお思いになって、心中の思いをすっかり残さず頼もうと、恨みは恨みとしても、やはりお考えになっていてくださったのだと存じますにつけても、たまらない気がして。直接関わりあいのない事柄でさえも、気の毒なことは見過ごしがたい性分でございますので、何とかして亡くなった後からでも、生前のお恨みが晴れるほどに、と存じておりますが、主上におかせられましても、あのように大きうおなりあそばしていますが、まだご幼年でおいであそばしますから、少し物事の分別のある方がお側におられてもよいのではないかと存じましたが、ご判断に」<BR>⏎
 347 などと申し上げなさると、<BR>⏎297 
c3348-350 「とてもよくお考えくださいました院におかせられても、お思いあそばしますことは、なるほどもったいなくお気の毒なことですが、あのご遺言にかこつけて、知らないふりをしてご入内申し上げなさい。今では、そのようことは、特別にお思いではなく、御勤行がちになられていますので、このように申し上げなさっても、さほど深くお咎めになることはありますまいと存じます」<BR>⏎
 「それではご意向があって、一人前に扱っていただけるならば、促す程度のことを、口添えをすることに致しましょう。あれこれと、十分に遺漏なく配慮尽くし、これほどまで深く考えておりますことを、そっくりそのままお話しましたが、世間の人々はどのように取り沙汰するだろうかと、心配でございます」<BR>⏎
 などと申し上げなさって、後には、「仰せのとおり知らなかったようにして、ここにお迎えしてしまおう」とお考えになる。<BR>⏎
298-300 「とてもよくお考えくださいました. 院におかせられても、お思いあそばしますことは、なるほどもったいなく お気の毒なことですが、あのご遺言にかこつけて、知らないふりをしてご入内申し上げなさい。今では、そのようことは、特別にお思いではなく、御勤行がちになられていますので、このように申し上げなさっても、さほど深くお咎めになることはありますまいと存じます」<BR>⏎
 「それではご意向があって、一人前に扱っていただけるならば、促す程度のことを、口添えをすることに致しましょう。あれこれと、十分に遺漏なく配慮尽くし、これほどまで深く考えておりますことを、そっくりそのままお話しましたが、世間の人々はどのように取り沙汰するだろうかと、心配でございます」<BR>⏎
 などと申し上げなさって、後には、「仰せのとおり知らなかったようにして、ここにお迎えしてしまおう」とお考えになる。<BR>⏎
 351 女君にも、このように考えていることをご相談申し上げなさって、<BR>⏎301 
 352 「お話相手にしてお過ごしになるのに、とてもよいお年頃どうしでしょう」<BR>⏎302 
cd2:1353-354 とお話し申し上げなさると、嬉しいこととお思いになって、ご移転のご準備をなさる。<BR>⏎
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303 とお話し申し上げなさると、嬉しいこととお思いになって、ご移転のご準備をなさる。<BR>⏎
version14355 <A NAME="in56">[第六段 冷泉帝後宮の入内争い]</A><BR>304 
 356 入道の宮は、兵部卿の宮が、姫君を早く入内させたいとお世話に大騒ぎしていらっしゃるらしいのを、「内大臣とお仲が悪いので、どのようにご待遇なさるのかしら」と、お心を痛めていらっしゃる。<BR>⏎305 
 357 権中納言の御娘は、弘徽殿の女御と申し上げる。大殿のお子として、たいそう美々しく大切にお世話なされている。主上もちょうどよい遊び相手に思し召されていた。<BR>⏎306 
 358 「宮の中の君も同じお年頃でいらっしゃるので、困ったお人形遊びの感じがしようから、年長のご後見は、まこと嬉しいこと」<BR>⏎307 
 359 とお思いになり仰せにもなって、そのようなご意向を幾度も奏上なさる一方で、内大臣が万事につけ行き届かぬ所なく、政治上のご後見は言うまでもなく、日常のことにつけてまで、細かいご配慮が、たいそう情愛深くお見えになるので、頼もしいことにお思い申し上げていたが、いつもご病気がちでいらっしゃるので、参内などなさっても、心安くお側に付いていることも難しいので、少しおとなびた方で、お側にお付きするお世話役が、是非とも必要なのであった。<BR>⏎308 
d2360-361
<P>⏎
 362<A HREF="index.html">源氏物語の世界ヘ</A><BR>⏎309 
 363<A HREF="text14.html">本文</A><BR>⏎310 
 364<A HREF="roman14.html">ローマ字版</A><BR>⏎311 
 365<A HREF="note14.html">注釈</A><BR>⏎312 
 366<A HREF="data14.html">大島本</A><BR>⏎313 
 367<A HREF="okuiri14.html">自筆本奥入</A><BR>⏎314 
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 369<hr size="4">⏎315 
 370</body>⏎316 
 371</HTML>⏎317 
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