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 5<meta name="GENERATOR" content="IBM WebSphere Studio Homepage Builder Version 14.0.3.0 for Windows">⏎5 
 6<TITLE>宿木(大島本)</TITLE>⏎6 
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<p>First updated 9/20/1996(ver.1-1)<BR>⏎
8<BODY>⏎
cd4:210-13Last updated 6/21/2011(ver.2-2)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)</p>⏎
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9-10<ADDRESS>Last updated 6/21/2011(ver.2-2)<BR>⏎
渋谷栄一校訂(C)</ADDRESS>⏎
 14<H3>宿木</H3>⏎11 
d115<P>⏎
 16薫君の中、大納言時代二十四歳夏から二十六歳夏四月頃までの物語<BR>⏎12 
d117<P>⏎
 18 [主要登場人物]<BR>⏎13 
 19<DL>⏎14 
 20<DT> 薫<かおる>⏎15 
 21<DD>呼称---中納言源朝臣・中納言朝臣・源中納言・中納言・中納言の君・権大納言・右大将・大将殿・大将の君、源氏の子<BR>⏎16 
 22<DT> 匂宮<におうのみや>⏎17 
 23<DD>呼称---兵部卿宮・宮・三の宮、今上帝の第三親王<BR>⏎18 
 24<DT> 今上帝<きんじょうてい>⏎19 
 25<DD>呼称---帝・内裏・主上、朱雀院の第一親王<BR>⏎20 
 26<DT> 明石中宮<あかしのちゅうぐう>⏎21 
 27<DD>呼称---中宮・后・后の宮、源氏の娘<BR>⏎22 
 28<DT> 夕霧<ゆうぎり>⏎23 
 29<DD>呼称---右大臣・右大臣殿・右の大殿・大臣、源氏の長男<BR>⏎24 
 30<DT> 紅梅大納言<こうばいのだいなごん>⏎25 
 31<DD>呼称---按察使大納言・大納言・按察使、致仕大臣の二男<BR>⏎26 
 32<DT> 女三の宮<おんなさんのみや>⏎27 
 33<DD>呼称---母宮・尼宮・入道の宮、薫の母<BR>⏎28 
 34<DT> 麗景殿女御<れいけいでんのにょうご>⏎29 
 35<DD>呼称---藤壺・故左大臣殿の女御・女御・母女御、今上帝の女御<BR>⏎30 
 36<DT> 女二の宮<おんなにのみや>⏎31 
 37<DD>呼称---女宮・藤壺の宮、今上帝の第二内親王<BR>⏎32 
 38<DT> 六の君<ろくのきみ>⏎33 
 39<DD>呼称---六の君・女君、夕霧の娘<BR>⏎34 
 40<DT> 中君<なかのきみ><BR>⏎35 
 41<DD>呼称---二条院の対の御方・兵部卿宮の北の方・宮の御方・対の御方・宮、八の宮の二女<BR>⏎36 
 42<DT> 浮舟<うきふね><BR>⏎37 
 43<DD>呼称---常陸前司殿の姫君<BR>⏎38 
 44<DT> 弁尼君<べんのあまぎみ><BR>⏎39 
 45<DD>呼称---尼君・弁・老い人・朽木<BR>⏎40 
 46</DL>⏎41 
d147<P>⏎
 48第一章 薫と匂宮の物語 女二の宮や六の君との結婚話<BR>⏎42 
 49<OL>⏎43 
 50<LI>藤壺女御と女二の宮---<A HREF="#in11">そのころ、藤壺と聞こゆるは、故左大臣殿の女御に</A>⏎44 
 51<LI>藤壺女御の死去と女二の宮の将来---<A HREF="#in12">十四になりたまふ年、御裳着せたてまつりたまはむとて</A>⏎45 
 52<LI>帝、女二の宮を薫に降嫁させようと考える---<A HREF="#in13">御前の菊移ろひ果てて盛りなるころ</A>⏎46 
 53<LI>帝、女二の宮や薫と碁を打つ---<A HREF="#in14">御碁など打たせたまふ。暮れゆくままに</A>⏎47 
 54<LI>夕霧、匂宮を六の君の婿にと願う---<A HREF="#in15">かかることを、右の大殿ほの聞きたまひて</A>⏎48 
 55</OL>⏎49 
 56第二章 中君の物語 中君の不安な思いと薫の同情<BR>⏎50 
 57<OL>⏎51 
 58<LI>匂宮の婚約と中君の不安な心境---<A HREF="#in21">女二の宮も、御服果てぬれば</A>⏎52 
 59<LI>中君、匂宮の子を懐妊---<A HREF="#in22">宮は、常よりもあはれになつかしく、起き臥し</A>⏎53 
 60<LI>薫、中君に同情しつつ恋慕す---<A HREF="#in23">中納言殿も、「いといとほしきわざかな」と</A>⏎54 
 61<LI>薫、亡き大君を追憶す---<A HREF="#in24">かの人をむなしく見なしきこえたまうてし後</A>⏎55 
 62<LI>薫、二条院の中君を訪問---<A HREF="#in25">人召して、「北の院に参らむに、ことことしからぬ</A>⏎56 
 63<LI>薫、中君と語らう---<A HREF="#in26">もとよりも、けはひはやりかに男々しく</A>⏎57 
 64<LI>薫、源氏の死を語り、亡き大君を追憶---<A HREF="#in27">「秋の空は、今すこし眺めのみまさりはべり</A>⏎58 
 65<LI>薫と中君の故里の宇治を思う---<A HREF="#in28">「世の憂きよりはなど、人は言ひしをも</A>⏎59 
 66<LI>薫、二条院を退出して帰宅---<A HREF="#in29">日さし上がりて、人びと参り集まりなどすれば</A>⏎60 
 67</OL>⏎61 
 68第三章 中君の物語 匂宮と六の君の婚儀<BR>⏎62 
 69<OL>⏎63 
 70<LI>匂宮と六の君の婚儀---<A HREF="#in31">右の大殿には、六条院の東の御殿磨きしつらひて</A>⏎64 
 71<LI>中君の不安な心境---<A HREF="#in32">「幼きほどより心細くあはれなる身どもにて</A>⏎65 
 72<LI>匂宮、六の君に後朝の文を書く---<A HREF="#in33">宮は、いと心苦しく思しながら</A>⏎66 
 73<LI>匂宮、中君を慰める---<A HREF="#in34">されど、見たまふほどは変はるけぢめもなきにや</A>⏎67 
 74<LI>後朝の使者と中君の諦観---<A HREF="#in35">海人の刈るめづらしき玉藻にかづき埋もれたるを</A>⏎68 
 75<LI>匂宮と六の君の結婚第二夜---<A HREF="#in36">宮は、常よりもあはれに、うちとけたるさまに</A>⏎69 
 76<LI>匂宮と六の君の結婚第三夜の宴---<A HREF="#in37">その日は、后の宮悩ましげにおはしますとて</A>⏎70 
 77</OL>⏎71 
 78第四章 薫の物語 中君に同情しながら恋慕の情高まる<BR>⏎72 
 79<OL>⏎73 
 80<LI>薫、匂宮の結婚につけわが身を顧みる---<A HREF="#in41">中納言殿の御前の中に、なまおぼえあざやかならぬや</A>⏎74 
 81<LI>薫と按察使の君、匂宮と六の君---<A HREF="#in42">例の、寝覚がちなるつれづれなれば、按察使の君とて</A>⏎75 
 82<LI>中君と薫、手紙を書き交す---<A HREF="#in43">かくて後、二条院に、え心やすく渡りたまはず</A>⏎76 
 83<LI>薫、中君を訪問して慰める---<A HREF="#in44">さて、またの日の夕つ方ぞ渡りたまへる</A>⏎77 
 84<LI>中君、薫に宇治への同行を願う---<A HREF="#in45">女君は、人の御恨めしさなどは、うち出で語らひ</A>⏎78 
c185<LI>薫、中君に迫る---<A HREF="#in46">女、「さりやあな心憂」と思ふに、何事かは言はれむ</A>⏎
79<LI>薫、中君に迫る---<A HREF="#in46">女、「さりやあな心憂」と思ふに、何事かは言はれむ</A>⏎
 86<LI>薫、自制して退出する---<A HREF="#in47">近くさぶらふ女房二人ばかりあれど、すずろなる男の</A>⏎80 
 87</OL>⏎81 
 88第五章 中君の物語 中君、薫の後見に感謝しつつも苦悩す<BR>⏎82 
 89<OL>⏎83 
 90<LI>翌朝、薫、中君に手紙を書く---<A HREF="#in51">昔よりはすこし細やぎて、あてにらうたかりつる</A>⏎84 
 91<LI>匂宮、帰邸して、薫の移り香に不審を抱く---<A HREF="#in52">宮は、日ごろになりにけるは、わが心さへ</A>⏎85 
 92<LI>匂宮、中君の素晴しさを改めて認識---<A HREF="#in53">またの日も、心のどかに大殿籠もり起きて</A>⏎86 
 93<LI>薫、中君に衣料を贈る---<A HREF="#in54">中納言の君は、かく宮の籠もりおはするを聞くにしも</A>⏎87 
 94<LI>薫、中君をよく後見す---<A HREF="#in55">誰かは、何事をも後見かしづききこゆる人のあらむ</A>⏎88 
c195<LI>薫と中君の、それぞれの苦悩---<A HREF="#in56">「かくて、なほいかでうしろやすく大人しき人にてやみなむ</A>⏎
89<LI>薫と中君の、それぞれの苦悩---<A HREF="#in56">「かくて、なほいかでうしろやすく大人しき人にてやみなむ</A>⏎
 96</OL>⏎90 
 97第六章 薫の物語 中君から異母妹の浮舟の存在を聞く<BR>⏎91 
 98<OL>⏎92 
 99<LI>薫、二条院の中君を訪問---<A HREF="#in61">男君も、しひて思ひわびて、例の、しめやかなる夕つ方</A>⏎93 
 100<LI>薫、亡き大君追慕の情を訴える---<A HREF="#in62">何事につけても、故君の御事をぞ尽きせず思ひたまへる</A>⏎94 
 101<LI>薫、故大君に似た人形を望む---<A HREF="#in63">外の方を眺め出だしたれば、やうやう暗くなりにたるに</A>⏎95 
 102<LI>中君、異母妹の浮舟を語る---<A HREF="#in64">「年ごろは、世にやあらむとも知らざりつる人の</A>⏎96 
 103<LI>薫、なお中君を恋慕す---<A HREF="#in65">「さりげなくて、かくうるさき心をいかで言ひ放つ</A>⏎97 
 104</OL>⏎98 
 105第七章 薫の物語 宇治を訪問して弁の尼から浮舟の詳細について聞く<BR>⏎99 
 106<OL>⏎100 
 107<LI>九月二十日過ぎ、薫、宇治を訪れる---<A HREF="#in71">宇治の宮を久しく見たまはぬ時は</A>⏎101 
 108<LI>薫、宇治の阿闍梨と面談す---<A HREF="#in72">阿闍梨召して、例の、かの忌日の経仏などのこと</A>⏎102 
 109<LI>薫、弁の尼と語る---<A HREF="#in73">「このたびばかりこそ見め」と思して、立ちめぐりつつ</A>⏎103 
 110<LI>薫、浮舟の件を弁の尼に尋ねる---<A HREF="#in74">さて、もののついでに、かの形代のことを</A>⏎104 
 111<LI>薫、二条院の中君に宇治訪問の報告---<A HREF="#in75">明けぬれば帰りたまはむとて</A>⏎105 
 112<LI>匂宮、中君の前で琵琶を弾く---<A HREF="#in76">枯れ枯れなる前栽の中に、尾花の</A>⏎106 
 113<LI>夕霧、匂宮を強引に六条院へ迎え取る---<A HREF="#in77">御琴ども教へたてまつりなどして</A>⏎107 
 114</OL>⏎108 
 115第八章 薫の物語 女二の宮、薫の三条宮邸に降嫁<BR>⏎109 
 116<OL>⏎110 
 117<LI>新年、薫権大納言兼右大将に昇進---<A HREF="#in81">正月晦日方より、例ならぬさまに悩みたまふを</A>⏎111 
 118<LI>中君に男子誕生---<A HREF="#in82">からうして、その暁、男にて生まれたまへるを</A>⏎112 
 119<LI>二月二十日過ぎ、女二の宮、薫に降嫁す---<A HREF="#in83">かくて、その月の二十日あまりにぞ</A>⏎113 
 120<LI>中君の男御子、五十日の祝い---<A HREF="#in84">宮の若君の五十日になりたまふ日数へ取りて</A>⏎114 
 121<LI>薫、中君の若君を見る---<A HREF="#in85">若君を切にゆかしがりきこえたまへば</A>⏎115 
 122<LI>藤壺にて藤の花の宴催される---<A HREF="#in86">「夏にならば、三条の宮塞がる方になりぬべし</A>⏎116 
 123<LI>女二の宮、三条宮邸に渡御す---<A HREF="#in87">按察使大納言は、「我こそかかる目も見むと思ひしか</A>⏎117 
 124</OL>⏎118 
 125第九章 薫の物語 宇治で浮舟に出逢う<BR>⏎119 
 126<OL>⏎120 
 127<LI>四月二十日過ぎ、薫、宇治で浮舟に邂逅---<A HREF="#in91">賀茂の祭など、騒がしきほど過ぐして</A>⏎121 
 128<LI>薫、浮舟を垣間見る---<A HREF="#in92">若き人のある、まづ降りて、簾うち上ぐめり</A>⏎122 
 129<LI>浮舟、弁の尼と対面---<A HREF="#in93">尼君は、この殿の御方にも、御消息聞こえ出だしたりけれど</A>⏎123 
 130<LI>薫、弁の尼に仲立を依頼---<A HREF="#in94">日暮れもていけば、君もやをら出でて</A>⏎124 
 131</OL>⏎125 
d1132<P>⏎
 133<A HREF="#in101">【出典】</A><BR>⏎126 
 134<A HREF="#in102">【校訂】</A><BR>⏎127 
d1135<P>⏎
text49136 <H4>第一章 薫と匂宮の物語 女二の宮や六の君との結婚話</H4>128 
text49137 <A NAME="in11">[第一段 藤壺女御と女二の宮]</A><BR>129 
d1138<P>⏎
 139 そのころ、藤壺と聞こゆるは、故左大臣殿の女御になむおはしける。まだ春宮と聞こえさせし時、人より先に参りたまひにしかば、睦ましくあはれなる方の御思ひは、ことにものしたまふめれど、そのしるしと見ゆるふしもなくて年経たまふに、中宮には、宮たちさへあまた、ここら大人びたまふめるに、さやうのこともすくなくて、ただ女宮一所をぞ持ちたてまつりたまへりける。<BR>⏎130 
d1140<P>⏎
 141 わがいと口惜しく、人におされたてまつりぬる宿世、嘆かしくおぼゆる代はりに、「この宮をだに、いかで行く末の心も慰むばかりにて見たてまつらむ」と、かしづききこえたまふことおろかならず。御容貌もいとをかしくおはすれば、帝もらうたきものに思ひきこえさせたまへり。<BR>⏎131 
d1142<P>⏎
 143 女一の宮を、世にたぐひなきものにかしづききこえさせたまふに、おほかたの世のおぼえこそ及ぶべうもあらね、うちうちの御ありさまは、をさをさ劣らず。父大臣の御勢ひ、厳しかりし名残、いたく衰へねば、ことに心もとなきことなどなくて、さぶらふ人びとのなり姿よりはじめ、たゆみなく、時々につけつつ、調へ好み、今めかしくゆゑゆゑしきさまにもてなしたまへり。<BR>⏎132 
d1144<P>⏎
text49145 <A NAME="in12">[第二段 藤壺女御の死去と女二の宮の将来]</A><BR>133 
d1146<P>⏎
 147 十四になりたまふ年、御裳着せたてまつりたまはむとて、春よりうち始めて、異事なく思し急ぎて、何事もなべてならぬさまにと思しまうく。<BR>⏎134 
d1148<P>⏎
 149 いにしへより伝はりたりける宝物ども、この折にこそはと、探し出でつつ、いみじく営みたまふに、女御、夏ごろ、もののけにわづらひたまひて、いとはかなく亡せたまひぬ。言ふかひなく口惜しきことを、内裏にも思し嘆く。<BR>⏎135 
d1150<P>⏎
 151 心ばへ情け情けしく、なつかしきところおはしつる御方なれば、殿上人どもも、「こよなくさうざうしかるべきわざかな」と、惜しみきこゆ。おほかたさるまじき際の女官などまで、しのびきこえぬはなし。<BR>⏎136 
d1152<P>⏎
 153 宮は、まして若き御心地に、心細く悲しく思し入りたるを、聞こし召して、心苦しくあはれに思し召さるれば、御四十九日過ぐるままに、忍びて参らせ<A HREF="#k01">たてまつらせ</A><A NAME="t01">た</A>まへり。日々に、渡らせたまひつつ見たてまつらせたまふ。<BR>⏎137 
d1154<P>⏎
 155 黒き御衣にやつれておはするさま、いとどらうたげにあてなるけしきまさりたまへり。心ざまもいとよく大人びたまひて、母女御よりも今すこしづしやかに、重りかなるところはまさりたまへるを、うしろやすくは見たてまつらせたまへど、まことには、御母方とても、後見と頼ませたまふべき、叔父などやうのはかばかしき人もなし。わづかに大蔵卿、修理大夫などいふは、女御にも異腹なりける。<BR>⏎138 
d1156<P>⏎
 157 ことに世のおぼえ重りかにもあらず、やむごとなからぬ人びとを<A HREF="#k02">頼もし人</A><A NAME="t02">に</A>ておはせむに、「女は心苦しきこと多かりぬべきこそいとほしけれ」など、御心一つなるやうに思し扱ふも、やすからざりけり。<BR>⏎139 
d1158<P>⏎
cd2:1159-160 <A NAME="in13">[第三段 帝女二の宮を薫に降嫁させようと考える]</A><BR>⏎
<P>⏎
140 <A NAME="in13">[第三段 帝女二の宮を薫に降嫁させようと考える]</A><BR>⏎
 161 御前の菊移ろひ果てて盛りなるころ、空のけしきのあはれにうちしぐるるにも、まづこの御方に渡らせたまひて、昔のことなど聞こえさせたまふに、御いらへなども、おほどかなるものから、いはけなからずうち聞こえさせたまふを、うつくしく思ひきこえさせたまふ。<BR>⏎141 
d1162<P>⏎
 163 かやうなる御さまを見知りぬべからむ人の、もてはやしきこえむも、などかはあらむ、朱雀院の姫宮を、六条の院に譲りきこえたまひし折の定めどもなど、思し召し出づるに、<BR>⏎142 
d1164<P>⏎
cd4:2165-168 「しばしは、いでや飽かずもあるかな。さらでもおはしなまし、と聞こゆることどもありしかど、源中納言の、人よりことなるありさまにて、かくよろづを後見たてまつるにこそ、そのかみの御おぼえ衰へず、やむごとなきさまにてはながらへたまふめれ。さらずは、御心より外なる事どもも出で来て、おのづから人に軽められたまふこともやあらまし」<BR>⏎
<P>⏎
 など思し続けて、「ともかくも、御覧ずる世にや思ひ定めまし」と思し寄るには、やがてそのついでのままに、この中納言より他に、よろしかるべき人、またなかりけり。<BR>⏎
<P>⏎
143-144 「しばしは、いでや飽かずもあるかな。さらでもおはしなまし、と聞こゆることどもありしかど、源中納言の、人よりことなるありさまにて、かくよろづを後見たてまつるにこそ、そのかみの御おぼえ衰へず、やむごとなきさまにてはながらへたまふめれ。さらずは、御心より外なる事どもも出で来て、おのづから人に軽められたまふこともやあらまし」<BR>⏎
 など思し続けて、「ともかくも、御覧ずる世にや思ひ定めまし」と思し寄るには、やがてそのついでのままに、この中納言より他に、よろしかるべき人、またなかりけり。<BR>⏎
 169 「宮たちの御かたはらにさし並べたらむに、何事もめざましくはあらじを。もとより思ふ人持たりて、聞きにくきことうちまずまじくはた、あめるを、つひにはさやうのことなくてしもえあらじ。さらぬ先に、さもやほのめかしてまし」<BR>⏎145 
d1170<P>⏎
cd4:2171-174 など折々思し召しけり。<BR>⏎
<P>⏎
 <A NAME="in14">[第四段 帝女二の宮や薫と碁を打つ]</A><BR>⏎
<P>⏎
146-147 など折々思し召しけり。<BR>⏎
 <A NAME="in14">[第四段 帝女二の宮や薫と碁を打つ]</A><BR>⏎
 175 御碁など打たせたまふ。暮れゆくままに、時雨をかしきほどに、花の色も夕映えしたるを御覧じて、<A HREF="#k03">人</A><A NAME="t03">召</A>して、<BR>⏎148 
d1176<P>⏎
 177 「ただ今、殿上には誰れ誰れか」<BR>⏎149 
d1178<P>⏎
 179 と問はせたまふに、<BR>⏎150 
d1180<P>⏎
 181 「中務親王、上野親王、中納言源朝臣さぶらふ」<BR>⏎151 
d1182<P>⏎
 183 と奏す。<BR>⏎152 
d1184<P>⏎
 185 「中納言朝臣こなたへ」<BR>⏎153 
d1186<P>⏎
cd2:1187-188 と仰せ言ありて参りたまへり。げにかく取り分きて召し出づるもかひありて、遠くより薫れる匂ひよりはじめ、人に異なるさましたまへり。<BR>⏎
<P>⏎
154 と仰せ言ありて参りたまへり。げにかく取り分きて召し出づるもかひありて、遠くより薫れる匂ひよりはじめ、人に異なるさましたまへり。<BR>⏎
 189 「今日の時雨、常よりことにのどかなるを、遊びなどすさまじき方にて、いとつれづれなるを、<A HREF="#no1">いたづらに日を送る戯れ</A><A NAME="te1">に</A>て、これなむよかるべき」<BR>⏎155 
d1190<P>⏎
cd2:1191-192 とて碁盤召し出でて、御碁の敵に召し寄す。いつもかやうに、気近くならしまつはしたまふにならひにたれば、「さにこそは」と思ふに、<BR>⏎
<P>⏎
156 とて碁盤召し出でて、御碁の敵に召し寄す。いつもかやうに、気近くならしまつはしたまふにならひにたれば、「さにこそは」と思ふに、<BR>⏎
 193 「好き賭物はありぬべけれど、軽々しくはえ渡すまじきを、何をかは」<BR>⏎157 
d1194<P>⏎
 195 などのたまはする御けしき、いかが見ゆらむ、いとど心づかひしてさぶらひたまふ。<BR>⏎158 
d1196<P>⏎
cd4:2197-200 さて打たせたまふに、三番に<A HREF="#k04">数</A><A NAME="t04">一</A>つ負けさせたまひぬ。<BR>⏎
<P>⏎
 「ねたきわざかな」とて、「まづ今日は、<A HREF="#no2">この花一枝許す</A><A NAME="te2">」</A><BR>⏎
<P>⏎
159-160 さて打たせたまふに、三番に<A HREF="#k04">数</A><A NAME="t04">一</A>つ負けさせたまひぬ。<BR>⏎
 「ねたきわざかな」とて、「まづ今日は、<A HREF="#no2">この花一枝許す</A><A NAME="te2">」</A><BR>⏎
 201 とのたまはすれば、御いらへ聞こえさせで、下りておもしろき枝を折りて参りたまへり。<BR>⏎161 
d1202<P>⏎
cd3:1203-205 「世の常の垣根に匂ふ花ならば<BR>⏎
  心のままに折りて見ましを」<BR>⏎
<P>⏎
162 「世の常の垣根に匂ふ花ならば<BR>  心のままに折りて見ましを」<BR>⏎
 206 と奏したまへる、用意あさからず見ゆ。<BR>⏎163 
d1207<P>⏎
cd3:1208-210 「霜にあへず枯れにし園の菊なれど<BR>⏎
  残りの色はあせずもあるかな」<BR>⏎
<P>⏎
164 「霜にあへず枯れにし園の菊なれど<BR>  残りの色はあせずもあるかな」<BR>⏎
 211 とのたまはす。<BR>⏎165 
d1212<P>⏎
cd4:2213-216 かやうに折々ほのめかさせたまふ御けしきを、人伝てならず承りながら、例の心の癖なれば、急がしくしもおぼえず。<BR>⏎
<P>⏎
 「いでや本意にもあらず。さまざまにいとほしき人びとの御ことどもをも、よく聞き過ぐしつつ年経ぬるを、今さらに聖のものの、世に帰り出でむ心地すべきこと」<BR>⏎
<P>⏎
166-167 かやうに折々ほのめかさせたまふ御けしきを、人伝てならず承りながら、例の心の癖なれば、急がしくしもおぼえず。<BR>⏎
 「いでや本意にもあらず。さまざまにいとほしき人びとの御ことどもをも、よく聞き過ぐしつつ年経ぬるを、今さらに聖のものの、世に帰り出でむ心地すべきこと」<BR>⏎
 217 と思ふも、かつはあやしや。<BR>⏎168 
d1218<P>⏎
 219 「ことさらに心を尽くす人だにこそあなれ」とは思ひながら、「后腹に<A HREF="#k05">おはせば</A><A NAME="t05">し</A>も」とおぼゆる心の内ぞ、あまりおほけなかりける。<BR>⏎169 
d1220<P>⏎
text49221 <A NAME="in15">[第五段 夕霧、匂宮を六の君の婿にと願う]</A><BR>170 
d1222<P>⏎
 223 かかることを、<A HREF="#k06">右の大殿</A><A NAME="t06">ほ</A>の聞きたまひて、<BR>⏎171 
d1224<P>⏎
 225 「六の君は、さりともこの君にこそは。しぶしぶなりとも、まめやかに恨み寄らば、つひには、えいなび果てじ」<BR>⏎172 
d1226<P>⏎
 227 と思しつるを、「思ひの外のこと出で来ぬべかなり」と、ねたく思されければ、兵部卿宮はた、わざとにはあらねど、折々につけつつ、をかしきさまに聞こえたまふことなど絶えざりければ、<BR>⏎173 
d1228<P>⏎
cd2:1229-230 「さはれなほざりの好きにはありとも、さるべきにて、御心とまるやうもなどかなからむ。<A HREF="#no3">水漏るまじく</A><A NAME="te3">思</A>ひ定めむとても、なほなほしき際に下らむはた、いと人悪ろく、飽かぬ心地すべし」<BR>⏎
<P>⏎
174 「さはれなほざりの好きにはありとも、さるべきにて、御心とまるやうもなどかなからむ。<A HREF="#no3">水漏るまじく</A><A NAME="te3">思</A>ひ定めむとても、なほなほしき際に下らむはた、いと人悪ろく、飽かぬ心地すべし」<BR>⏎
 231 など思しなりにたり。<BR>⏎175 
d1232<P>⏎
cd4:2233-236 「女子うしろめたげなる世の末にて、帝だに婿求めたまふ世に、ましてただ人の盛り過ぎむもあいなし」<BR>⏎
<P>⏎
 など誹らはしげにのたまひて、中宮をもまめやかに恨み申したまふこと、たび重なれば、聞こし召しわづらひて、<BR>⏎
<P>⏎
176-177 「女子うしろめたげなる世の末にて、帝だに婿求めたまふ世に、ましてただ人の盛り過ぎむもあいなし」<BR>⏎
 など誹らはしげにのたまひて、中宮をもまめやかに恨み申したまふこと、たび重なれば、聞こし召しわづらひて、<BR>⏎
 237 「いとほしく、かくおほなおほな<A HREF="#k07">思ひ</A><A NAME="t07">心</A>ざして年経たまひぬるを、あやにくに逃れきこえたまはむも、情けなきやうならむ。親王たちは、御後見からこそ、ともかくもあれ。<BR>⏎178 
d1238<P>⏎
cd8:4239-246 主上の、御代も末になり行くとのみ思しのたまふめるを、ただ人こそ、ひと事に定まりぬれば、また心を分けむことも難げなめれ。それだに、かの大臣のまめだちながら、こなたかなた羨みなくもてなしてものしたまはずやはある。ましてこれは、思ひおきてきこゆることも叶はば、あまたもさぶらはむになどかあらむ」<BR>⏎
<P>⏎
 など<A HREF="#k08">例ならず</A><A NAME="t08">言</A>続けて、あるべかしく聞こえさせたまふを、<BR>⏎
<P>⏎
 「わが御心にも、もとよりもて離れて、はた思さぬことなれば、あながちには、などてかはあるまじきさまにも聞こえさせたまはむ。ただいとことうるはしげなるあたりにとり籠められて、心やすくならひたまへるありさまの所狭からむことを、なま苦しく思すにもの憂きなれど、げにこの大臣に、あまり怨ぜられ果てむもあいなからむ」<BR>⏎
<P>⏎
 などやうやう思し弱りにたるべし。あだなる御心なれば、かの按察使大納言の、紅梅の御方をも、なほ思し絶えず、花紅葉につけてもののたまひわたりつつ、いづれをもゆかしくは思しけり。されどその年は変はりぬ。<BR>⏎
<P>⏎
179-182 主上の、御代も末になり行くとのみ思しのたまふめるを、ただ人こそ、ひと事に定まりぬれば、また心を分けむことも難げなめれ。それだに、かの大臣のまめだちながら、こなたかなた羨みなくもてなしてものしたまはずやはある。ましてこれは、思ひおきてきこゆることも叶はば、あまたもさぶらはむになどかあらむ」<BR>⏎
 など<A HREF="#k08">例ならず</A><A NAME="t08">言</A>続けて、あるべかしく聞こえさせたまふを、<BR>⏎
 「わが御心にも、もとよりもて離れて、はた思さぬことなれば、あながちには、などてかはあるまじきさまにも聞こえさせたまはむ。ただいとことうるはしげなるあたりにとり籠められて、心やすくならひたまへるありさまの所狭からむことを、なま苦しく思すにもの憂きなれど、げにこの大臣に、あまり怨ぜられ果てむもあいなからむ」<BR>⏎
 などやうやう思し弱りにたるべし。あだなる御心なれば、かの按察使大納言の、紅梅の御方をも、なほ思し絶えず、花紅葉につけてもののたまひわたりつつ、いづれをもゆかしくは思しけり。されどその年は変はりぬ。<BR>⏎
text49247 <H4>第二章 中君の物語 中君の不安な思いと薫の同情</H4>183 
text49248 <A NAME="in21">[第一段 匂宮の婚約と中君の不安な心境]</A><BR>184 
d1249<P>⏎
cd2:1250-251 女二の宮も、御服果てぬれば、「いとど何事にか憚りたまはむ。さも聞こえ出でば」と思し召したる御けしきなど、告げきこゆる人びともあるを、「あまり知らず顔ならむも、ひがひがしうなめげなり」と思し起こして、ほのめかしまゐらせたまふ折々もあるに、「はしたなきやうは、などてかはあらむ。そのほどに思し定めたなり」と伝てにも聞く、みづから御けしきをも見れど、心の内には、なほ飽かず過ぎたまひにし人の悲しさのみ、忘るべき世なくおぼゆれば、「うたてかく契り深くものしたまひける人の、などてかは、さすがに疎くては過ぎにけむ」と心得がたく思ひ出でらる。<BR>⏎
<P>⏎
185 女二の宮も、御服果てぬれば、「いとど何事にか憚りたまはむ。さも聞こえ出でば」と思し召したる御けしきなど、告げきこゆる人びともあるを、「あまり知らず顔ならむも、ひがひがしうなめげなり」と思し起こして、ほのめかしまゐらせたまふ折々もあるに、「はしたなきやうは、などてかはあらむ。そのほどに思し定めたなり」と伝てにも聞く、みづから御けしきをも見れど、心の内には、なほ飽かず過ぎたまひにし人の悲しさのみ、忘るべき世なくおぼゆれば、「うたてかく契り深くものしたまひける人の、などてかは、さすがに疎くては過ぎにけむ」と心得がたく思ひ出でらる。<BR>⏎
 252 「口惜しき品なりとも、かの御ありさまにすこしもおぼえたらむ人は、心もとまりなむかし。昔ありけむ香の煙につけてだに、今一度見たてまつるものにもがな」とのみおぼえて、やむごとなき方ざまに、いつしかなど急ぐ心もなし。<BR>⏎186 
d1253<P>⏎
 254 <A HREF="#k09">右の大殿</A><A NAME="t09">に</A>は急ぎたちて、「八月ばかりに」と聞こえたまひけり。二条院の対の御方には、聞きたまふに、<BR>⏎187 
d1255<P>⏎
cd2:1256-257 「さればよ。いかでかは、数ならぬありさまなめれば、かならず人笑へに憂きこと出で来むものぞ、とは<A HREF="#k10">思ふ思ふ</A><A NAME="t10">過</A>ごしつる世ぞかし。あだなる御心と聞きわたりしを、頼もしげなく思ひながら、目に近くては、ことにつらげなること見えず、あはれに深き契りをのみしたまへるを、にはかに変はりたまはむほど、いかがはやすき心地はすべからむ。ただ人の仲らひなどのやうに、いとしも名残なくなどはあらずとも、いかにやすげなきこと多からむ。なほいと憂き身なめれば、つひには、山住みに帰るべきなめり」<BR>⏎
<P>⏎
188 「さればよ。いかでかは、数ならぬありさまなめれば、かならず人笑へに憂きこと出で来むものぞ、とは<A HREF="#k10">思ふ思ふ</A><A NAME="t10">過</A>ごしつる世ぞかし。あだなる御心と聞きわたりしを、頼もしげなく思ひながら、目に近くては、ことにつらげなること見えず、あはれに深き契りをのみしたまへるを、にはかに変はりたまはむほど、いかがはやすき心地はすべからむ。ただ人の仲らひなどのやうに、いとしも名残なくなどはあらずとも、いかにやすげなきこと多からむ。なほいと憂き身なめれば、つひには、山住みに帰るべきなめり」<BR>⏎
 258 と思すにも、「やがて跡絶えなましよりは、山賤の待ち思はむも人笑へなりかし。返す返すも、宮ののたまひおきしことに違ひて、草のもとを離れにける心軽さ」を、恥づかしくもつらくも思ひ知りたまふ。<BR>⏎189 
d1259<P>⏎
 260 「故姫君の、いとしどけなげに、ものはかなきさまにのみ、何事も思しのたまひしかど、心の底のづしやかなるところは、こよなくもおはしけるかな。中納言の君の、今に忘るべき世なく嘆きわたりたまふめれど、もし世におはせましかば、またかやうに思すことはありもやせまし。<BR>⏎190 
d1261<P>⏎
cd2:1262-263 それをいと深く、いかでさはあらじ、と思ひ入りたまひて、とざまかうざまに、もて離れむことを思して、容貌をも変へてむとしたまひしぞかし。かならずさるさまにてぞおはせまし。<BR>⏎
<P>⏎
191 それをいと深く、いかでさはあらじ、と思ひ入りたまひて、とざまかうざまに、もて離れむことを思して、容貌をも変へてむとしたまひしぞかし。かならずさるさまにてぞおはせまし。<BR>⏎
 264 今思ふに、いかに重りかなる御心おきてならまし。亡き御影どもも、我をばいかにこよなきあはつけさと見たまふらむ」<BR>⏎192 
d1265<P>⏎
 266 と恥づかしく悲しく思せど、「何かは、かひなきものから、かかるけしきをも見えたてまつらむ」と忍び返して、聞きも入れぬさまにて過ぐしたまふ。<BR>⏎193 
d1267<P>⏎
text49268 <A NAME="in22">[第二段 中君、匂宮の子を懐妊]</A><BR>194 
d1269<P>⏎
 270 宮は、常よりもあはれになつかしく、起き臥し語らひ契りつつ、この世ならず、長きことをのみぞ頼みきこえたまふ。<BR>⏎195 
d1271<P>⏎
cd6:3272-277 さるはこの五月ばかりより、例ならぬさまに悩ましくしたまふこともありけり。こちたく苦しがりなどはしたまはねど、常よりももの参ることいとどなく、臥してのみおはするを、まださやうなる人のありさま、よくも見知りたまはねば、「ただ暑きころなれば、かくおはするなめり」とぞ思したる。<BR>⏎
<P>⏎
 さすがにあやしと思しとがむることもありて、「もしいかなるぞ。さる人こそ、かやうには悩むなれ」など、のたまふ折もあれど、いと恥づかしくしたまひて、さりげなくのみもてなしたまへるを、さし過ぎ聞こえ出づる人もなければ、たしかにもえ知りたまはず。<BR>⏎
<P>⏎
 八月になりぬれば、その日など、他よりぞ伝へ聞きたまふ。宮は、隔てむとにはあらねど、言ひ出でむほど心苦しくいとほしく思されて、さものたまはぬを、女君は、それさへ心憂くおぼえたまふ。忍びたることにもあらず、世の中なべて知りたることを、そのほどなどだにのたまはぬことと、いかが恨めしからざらむ。<BR>⏎
<P>⏎
196-198 さるはこの五月ばかりより、例ならぬさまに悩ましくしたまふこともありけり。こちたく苦しがりなどはしたまはねど、常よりももの参ることいとどなく、臥してのみおはするを、まださやうなる人のありさま、よくも見知りたまはねば、「ただ暑きころなれば、かくおはするなめり」とぞ思したる。<BR>⏎
 さすがにあやしと思しとがむることもありて、「もしいかなるぞ。さる人こそ、かやうには悩むなれ」など、のたまふ折もあれど、いと恥づかしくしたまひて、さりげなくのみもてなしたまへるを、さし過ぎ聞こえ出づる人もなければ、たしかにもえ知りたまはず。<BR>⏎
 八月になりぬれば、その日など、他よりぞ伝へ聞きたまふ。宮は、隔てむとにはあらねど、言ひ出でむほど心苦しくいとほしく思されて、さものたまはぬを、女君は、それさへ心憂くおぼえたまふ。忍びたることにもあらず、世の中なべて知りたることを、そのほどなどだにのたまはぬことと、いかが恨めしからざらむ。<BR>⏎
 278 かく渡りたまひにし後は、ことなることなければ、内裏に参りたまひても、夜泊ることはことにしたまはず、ここかしこの御夜離れなどもなかりつるを、にはかにいかに思ひたまはむと、心苦しき紛らはしに、このころは、時々御宿直とて参りなどしたまひつつ、かねてよりならはしきこえたまふをも、ただつらき方にのみぞ思ひおかれたまふべき。<BR>⏎199 
d1279<P>⏎
text49280 <A NAME="in23">[第三段 薫、中君に同情しつつ恋慕す]</A><BR>200 
d1281<P>⏎
 282 中納言殿も、「いといとほしきわざかな」と聞きたまふ。「<A HREF="#no4">花心におはする宮</A><A NAME="te4">な</A>れば、あはれとは思すとも、今めかしき方にかならず御心移ろひなむかし。女方も、いとしたたかなるわたりにて、ゆるびなく聞こえまつはしたまはば、月ごろも、さもならひたまはで、待つ夜多く過ごしたまはむこそ、あはれなるべけれ」<BR>⏎201 
d1283<P>⏎
 284 など思ひ寄るにつけても、<BR>⏎202 
d1285<P>⏎
 286 「あいなしや、わが心よ。何しに譲りきこえけむ。昔の人に心をしめてし後、おほかたの世をも思ひ離れて澄み果てたりし方の心も濁りそめにしかば、ただかの御ことをのみ、とざまかうざまには思ひながら、さすがに人の心許されであらむことは、初めより思ひし本意なかるべし」<BR>⏎203 
d1287<P>⏎
cd6:3288-293 と憚りつつ、「ただいかにして、すこしもあはれと思はれて、うちとけたまへらむけしきをも見む」と、行く先のあらましごとのみ思ひ続けしに、人は同じ心にもあらずもてなして、さすがに、一方にもえさし放つまじく思ひたまへる慰めに、同じ身ぞと言ひなして、本意ならぬ方におもむけたまひしが、ねたく恨めしかりしかば、「まづその心おきてを違へむとて、急ぎせしわざぞかし」など、あながちに女々しくものぐるほしく率て歩き、たばかりきこえしほど思ひ出づるも、「いとけしからざりける心かな」と、返す返すぞ悔しき。<BR>⏎
<P>⏎
 「宮も、さりとも、そのほどのありさま思ひ出でたまはば、わが聞かむところをもすこしは憚りたまはじや」と思ふに、「いでや今は、その折のことなど、かけてものたまひ出でざめりかし。なほあだなる方に進み、移りやすなる人は、女のためのみにもあらず、頼もしげなく軽々しき事もありぬべきなめりかし」<BR>⏎
<P>⏎
 など憎く思ひきこえたまふ。わがまことにあまり一方にしみたる心ならひに、人はいとこよなくもどかしく見ゆるなるべし。<BR>⏎
<P>⏎
204-206 と憚りつつ、「ただいかにして、すこしもあはれと思はれて、うちとけたまへらむけしきをも見む」と、行く先のあらましごとのみ思ひ続けしに、人は同じ心にもあらずもてなして、さすがに、一方にもえさし放つまじく思ひたまへる慰めに、同じ身ぞと言ひなして、本意ならぬ方におもむけたまひしが、ねたく恨めしかりしかば、「まづその心おきてを違へむとて、急ぎせしわざぞかし」など、あながちに女々しくものぐるほしく率て歩き、たばかりきこえしほど思ひ出づるも、「いとけしからざりける心かな」と、返す返すぞ悔しき。<BR>⏎
 「宮も、さりとも、そのほどのありさま思ひ出でたまはば、わが聞かむところをもすこしは憚りたまはじや」と思ふに、「いでや今は、その折のことなど、かけてものたまひ出でざめりかし。なほあだなる方に進み、移りやすなる人は、女のためのみにもあらず、頼もしげなく軽々しき事もありぬべきなめりかし」<BR>⏎
 など憎く思ひきこえたまふ。わがまことにあまり一方にしみたる心ならひに、人はいとこよなくもどかしく見ゆるなるべし。<BR>⏎
text49294 <A NAME="in24">[第四段 薫、亡き大君を追憶す]</A><BR>207 
d1295<P>⏎
cd2:1296-297 「かの人をむなしく見なしきこえたまうてし後、思ふには、帝の御女を賜はむと思ほしおきつるも、うれしくもあらず、この君を見ましかばとおぼゆる心の、月日に添へてまさるも、ただかの御ゆかりと思ふに、思ひ離れがたきぞかし。<BR>⏎
<P>⏎
208 「かの人をむなしく見なしきこえたまうてし後、思ふには、帝の御女を賜はむと思ほしおきつるも、うれしくもあらず、この君を見ましかばとおぼゆる心の、月日に添へてまさるも、ただかの御ゆかりと思ふに、思ひ離れがたきぞかし。<BR>⏎
 298 はらからといふ中にも、限りなく思ひ交はしたまへりしものを、今はとなりたまひにし果てにも、『とまらむ人を同じごとと思へ』とて、『よろづは思はずなることもなし。ただかの思ひおきてしさまを違へたまへるのみなむ、口惜しう恨めしきふしにて、この世には残るべき』とのたまひしものを、天翔りても、かやうなるにつけては、いとどつらしとや見たまふらむ」<BR>⏎209 
d1299<P>⏎
cd2:1300-301 などつくづくと人やりならぬ独り寝したまふ夜な夜なは、はかなき風の音にも目のみ覚めつつ、来し方行く先、人の上さへ、あぢきなき世を思ひめぐらしたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
210 などつくづくと人やりならぬ独り寝したまふ夜な夜なは、はかなき風の音にも目のみ覚めつつ、来し方行く先、人の上さへ、あぢきなき世を思ひめぐらしたまふ。<BR>⏎
 302 なげのすさびにものをも言ひ触れ、気近く使ひならしたまふ人びとの中には、おのづから憎からず思さるるもありぬべけれど、まことには心とまるもなきこそ、さはやかなれ。<BR>⏎211 
d1303<P>⏎
cd4:2304-307 さるはかの君たちのほどに劣るまじき際の人びとも、時世に<A HREF="#k11">したがひつつ</A><A NAME="t11">衰</A>へて、心細げなる住まひするなどを、尋ね取りつつあらせなど、いと多かれど、「今はと世を逃れ背き離れむ時、この人こそと、取り立てて、<A HREF="#no5">心とまるほだし</A><A NAME="te5">に</A>なるばかりなることはなくて過ぐしてむ」と思ふ心深かりしを、「いとさも悪ろく、わが心ながら、ねぢけてもあるかな」<BR>⏎
<P>⏎
 など常よりも、やがて<A HREF="#k12">まどろまず</A><A NAME="t12">明</A>かしたまへる朝に、霧の籬より、花の色々おもしろく見えわたれる中に、<A HREF="#no6">朝顔のはかなげにて</A><A NAME="te6">混</A>じりたるを、なほことに目とまる心地したまふ。「<A HREF="#no7">明くる間咲きて</A><A NAME="te7">」</A>とか、常なき世にもなずらふるが、心苦しきなめりかし。<BR>⏎
<P>⏎
212-213 さるはかの君たちのほどに劣るまじき際の人びとも、時世に<A HREF="#k11">したがひつつ</A><A NAME="t11">衰</A>へて、心細げなる住まひするなどを、尋ね取りつつあらせなど、いと多かれど、「今はと世を逃れ背き離れむ時、この人こそと、取り立てて、<A HREF="#no5">心とまるほだし</A><A NAME="te5">に</A>なるばかりなることはなくて過ぐしてむ」と思ふ心深かりしを、「いとさも悪ろく、わが心ながら、ねぢけてもあるかな」<BR>⏎
 など常よりも、やがて<A HREF="#k12">まどろまず</A><A NAME="t12">明</A>かしたまへる朝に、霧の籬より、花の色々おもしろく見えわたれる中に、<A HREF="#no6">朝顔のはかなげにて</A><A NAME="te6">混</A>じりたるを、なほことに目とまる心地したまふ。「<A HREF="#no7">明くる間咲きて</A><A NAME="te7">」</A>とか、常なき世にもなずらふるが、心苦しきなめりかし。<BR>⏎
 308 格子も上げながら、いとかりそめにうち臥しつつのみ明かしたまへば、この花の開くるほどをも、ただ一人のみ見たまひける。<BR>⏎214 
d1309<P>⏎
text49310 <A NAME="in25">[第五段 薫、二条院の中君を訪問]</A><BR>215 
d1311<P>⏎
 312 人召して、<BR>⏎216 
d1313<P>⏎
 314 「北の院に参らむに、ことことしからぬ車さし出でさせよ」<BR>⏎217 
d1315<P>⏎
 316 とのたまへば、<BR>⏎218 
d1317<P>⏎
 318 「宮は、昨日より内裏になむおはしますなる。昨夜、御車率て帰りはべりにき」<BR>⏎219 
d1319<P>⏎
 320 と申す。<BR>⏎220 
d1321<P>⏎
cd2:1322-323 「さはれかの対の御方の悩みたまふなる、訪らひきこえむ。今日は内裏に参るべき日なれば、日たけぬさきに」<BR>⏎
<P>⏎
221 「さはれかの対の御方の悩みたまふなる、訪らひきこえむ。今日は内裏に参るべき日なれば、日たけぬさきに」<BR>⏎
 324 とのたまひて、御装束したまふ。出でたまふままに、降りて花の中に混じりたまへるさま、ことさらに艶だち色めきてももてなしたまはねど、あやしく、ただうち見るになまめかしく恥づかしげにて、いみじくけしきだつ色好みどもになずらふべくもあらず、おのづからをかしくぞ見えたまひける。朝顔引き寄せたまへる、露いたくこぼる。<BR>⏎222 
d1325<P>⏎
cd2:1326-327 「今朝の間の色にや賞でむ置く露の<BR>⏎
  消えぬにかかる花と見る見る<BR>⏎
223 「今朝の間の色にや賞でむ置く露の<BR>  消えぬにかかる花と見る見る<BR>⏎
 328 はかな」<BR>⏎224 
d1329<P>⏎
 330 と独りごちて、折りて持たまへり。<A HREF="#no8">女郎花をば</A><A NAME="te8">、</A><A HREF="#k13">見過ぎて</A><A NAME="t13">ぞ</A>出でたまひぬる。<BR>⏎225 
d1331<P>⏎
 332 明け離るるままに、霧立ち乱る空をかしきに、<BR>⏎226 
d1333<P>⏎
 334 「女どちは、しどけなく朝寝したまへらむかし。格子妻戸うちたたき声づくらむこそ、うひうひしかるべけれ。朝まだきまだき来にけり」<BR>⏎227 
d1335<P>⏎
 336 と思ひながら、人召して、中門の開きたるより見せたまへば、<BR>⏎228 
d1337<P>⏎
 338 「御格子ども参りてはべるべし。女房の御けはひもしはべりつ」<BR>⏎229 
d1339<P>⏎
 340 と申せば、下りて、霧の紛れにさまよく歩み入りたまへるを、「宮の忍びたる所より帰りたまへるにや」と見るに、露にうちしめりたまへる香り、例の、いとさまことに匂ひ来れば、<BR>⏎230 
d1341<P>⏎
cd4:2342-345 「なほめざましくはおはすかし。心をあまりをさめたまへるぞ憎き」<BR>⏎
<P>⏎
 などあいなく、若き人びとは、聞こえあへり。<BR>⏎
<P>⏎
231-232 「なほめざましくはおはすかし。心をあまりをさめたまへるぞ憎き」<BR>⏎
 などあいなく、若き人びとは、聞こえあへり。<BR>⏎
 346 おどろき顔にはあらず、よきほどにうちそよめきて、御茵さし出でなどするさまも、いとめやすし。<BR>⏎233 
d1347<P>⏎
 348 「これにさぶらへと許させたまふほどは、人びとしき心地すれど、なほかかる御簾の前にさし放たせたまへるうれはしさになむ、しばしばもえさぶらはぬ」<BR>⏎234 
d1349<P>⏎
 350 とのたまへば、<BR>⏎235 
d1351<P>⏎
cd2:1352-353 「さらばいかがはべるべからむ」<BR>⏎
<P>⏎
236 「さらばいかがはべるべからむ」<BR>⏎
 354 など聞こゆ。<BR>⏎237 
d1355<P>⏎
cd8:4356-363 「北面などやうの隠れぞかし。かかる古人などのさぶらはむにことわりなる休み所は。それもまたただ御心なれば、愁へ<A HREF="#k14">きこゆべき</A><A NAME="t14">に</A>もあらず」<BR>⏎
<P>⏎
 とて長押に寄りかかりておはすれば、例の、人びと、<BR>⏎
<P>⏎
 「なほあしこもとに」<BR>⏎
<P>⏎
 などそそのかしきこゆ。<BR>⏎
<P>⏎
238-241 「北面などやうの隠れぞかし。かかる古人などのさぶらはむにことわりなる休み所は。それもまたただ御心なれば、愁へ<A HREF="#k14">きこゆべき</A><A NAME="t14">に</A>もあらず」<BR>⏎
 とて長押に寄りかかりておはすれば、例の、人びと、<BR>⏎
 「なほあしこもとに」<BR>⏎
 などそそのかしきこゆ。<BR>⏎
text49364 <A NAME="in26">[第六段 薫、中君と語らう]</A><BR>242 
d1365<P>⏎
cd2:1366-367 もとよりも、けはひはやりかに男々しくなどはものしたまはぬ人柄なるを、いよいよしめやかにもてなしをさめたまへれば、今はみづから聞こえたまふことも、やうやううたてつつましかりし方、すこしづつ薄らぎて、面馴れたまひにたり。<BR>⏎
<P>⏎
243 もとよりも、けはひはやりかに男々しくなどはものしたまはぬ人柄なるを、いよいよしめやかにもてなしをさめたまへれば、今はみづから聞こえたまふことも、やうやううたてつつましかりし方、すこしづつ薄らぎて、面馴れたまひにたり。<BR>⏎
 368 悩ましく思さるらむさまも、「いかなれば」など問ひきこえたまへど、はかばかしくもいらへきこえたまはず、常よりもしめりたまへるけしきの<A HREF="#k15">心苦しき</A><A NAME="t15">も</A>、あはれにおぼえたまひて、こまやかに、世の中のあるべきやうなどを、はらからやうの者のあらましやうに、教へ慰めきこえたまふ。<BR>⏎244 
d1369<P>⏎
cd4:2370-373 声なども、わざと似たまへりともおぼえざりしかど、あやしきまでただそれとのみおぼゆるに、人目見苦しかるまじくは、簾もひき上げてさし向かひきこえまほしく、うち悩みたまへらむ容貌ゆかしくおぼえたまふも、「なほ世の中にもの思はぬ人は、えあるまじきわざにやあらむ」とぞ思ひ知られたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
 「人びとしくきらきらしき方にははべらずとも、心に思ふことあり、嘆かしく身をもて悩むさまになどはなくて過ぐしつべきこの世と、みづから思ひたまへし、心から、悲しきことも、をこがましく悔しきもの思ひをも、かたがたにやすからず思ひはべるこそ、いとあいなけれ。官位などいひて、大事にすめる、ことわりの愁へにつけて嘆き思ふ人よりも、これや今すこし罪の深さはまさるらむ」<BR>⏎
<P>⏎
245-246 声なども、わざと似たまへりともおぼえざりしかど、あやしきまでただそれとのみおぼゆるに、人目見苦しかるまじくは、簾もひき上げてさし向かひきこえまほしく、うち悩みたまへらむ容貌ゆかしくおぼえたまふも、「なほ世の中にもの思はぬ人は、えあるまじきわざにやあらむ」とぞ思ひ知られたまふ。<BR>⏎
 「人びとしくきらきらしき方にははべらずとも、心に思ふことあり、嘆かしく身をもて悩むさまになどはなくて過ぐしつべきこの世と、みづから思ひたまへし、心から、悲しきことも、をこがましく悔しきもの思ひをも、かたがたにやすからず思ひはべるこそ、いとあいなけれ。官位などいひて、大事にすめる、ことわりの愁へにつけて嘆き思ふ人よりも、これや今すこし罪の深さはまさるらむ」<BR>⏎
 374 など言ひつつ、折りたまへる花を、扇にうち置きて見ゐたまへるに、やうやう赤みもて行くも、なかなか色のあはひをかしく見ゆれば、やをらさし入れて、<BR>⏎247 
d1375<P>⏎
cd3:1376-378 「よそへてぞ見るべかりける白露の<BR>⏎
  契りかおきし朝顔の花」<BR>⏎
<P>⏎
248 「よそへてぞ見るべかりける白露の<BR>  契りかおきし朝顔の花」<BR>⏎
 379 ことさらびてしももてなさぬに、「露落とさで持たまへりけるよ」と、をかしく見ゆるに、置きながら枯るるけしきなれば、<BR>⏎249 
d1380<P>⏎
cd2:1381-382 「消えぬまに枯れぬる花のはかなさに<BR>⏎
  おくるる露はなほぞまされる<BR>⏎
250 「消えぬまに枯れぬる花のはかなさに<BR>  おくるる露はなほぞまされる<BR>⏎
 383 <A HREF="#no9">何にかかれる</A><A NAME="te9">」</A><BR>⏎251 
d1384<P>⏎
cd2:1385-386 といと忍びて言も続かず、つつましげに言ひ消ちたまへるほど、「なほいとよく似たまへるものかな」と思ふにも、まづぞ悲しき。<BR>⏎
<P>⏎
252 といと忍びて言も続かず、つつましげに言ひ消ちたまへるほど、「なほいとよく似たまへるものかな」と思ふにも、まづぞ悲しき。<BR>⏎
text49387 <A NAME="in27">[第七段 薫、源氏の死を語り、亡き大君を追憶]</A><BR>253 
d1388<P>⏎
 389 「<A HREF="#no10">秋の空は、今すこし眺め</A><A NAME="te10">の</A>みまさりはべり。つれづれの紛らはしにもと思ひて、先つころ、宇治にものしてはべりき。<A HREF="#no11">庭も籬もまことにいとど荒れ果て</A><A NAME="te11">て</A><A HREF="#k16">はべりしに</A><A NAME="t16">、</A>堪へがたきこと多くなむ。<BR>⏎254 
d1390<P>⏎
cd2:1391-392 故院の亡せたまひて後、二三年ばかりの末に、世を背きたまひし嵯峨の院にも、六条の院にも、さしのぞく人の、心をさめむ方なくなむはべりける。木草の色につけても、涙にくれてのみなむ帰りはべりける。かの御あたりの人は、上下心浅き人なくこそはべりけれ。<BR>⏎
<P>⏎
255 故院の亡せたまひて後、二三年ばかりの末に、世を背きたまひし嵯峨の院にも、六条の院にも、さしのぞく人の、心をさめむ方なくなむはべりける。木草の色につけても、涙にくれてのみなむ帰りはべりける。かの御あたりの人は、上下心浅き人なくこそはべりけれ。<BR>⏎
 393 方々集ひものせられける人びとも、皆所々あかれ散りつつ、おのおの思ひ離るる住まひをしたまふめりしに、はかなきほどの女房などはた、まして心をさめむ方なくおぼえけるままに、ものおぼえぬ心にまかせつつ、山林に入り混じり、すずろなる田舎人になりなど、あはれに惑ひ散るこそ多くはべりけれ。<BR>⏎256 
d1394<P>⏎
cd8:4395-402 さてなかなか皆荒らし果て、忘れ草生ほして後なむ、この右の大臣も渡り住み、宮たちなども方々ものしたまへば、昔に返りたるやうにはべめる。さる世に、たぐひなき悲しさと見たまへしことも、年月経れば、思ひ覚ます折の出で来るにこそは、と見はべるに、げに限りあるわざなりけり、となむ見えはべる。<BR>⏎
<P>⏎
 かくは聞こえさせながらも、かのいにしへの悲しさは、まだいはけなくもはべりけるほどにて、いとさしもしまぬにやはべりけむ。なほこの近き夢こそ、覚ますべき方なく思ひたまへらるるは、同じこと、世の常なき悲しびなれど、罪深き方はまさりてはべるにやと、それさへなむ心憂くはべる」<BR>⏎
<P>⏎
 とて泣きたまへるほど、いと心深げなり。<BR>⏎
<P>⏎
 昔の人を、いとしも思ひきこえざらむ人だに、この人の思ひたまへるけしきを見むには、すずろにただにもあるまじきを、まして我もものを心細く思ひ乱れたまふにつけては、いとど常よりも、面影に恋しく悲しく思ひきこえたまふ心なれば、今すこしもよほされて、ものもえ聞こえたまはず、ためらひかねたまへるけはひを、かたみにいとあはれと思ひ交はしたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
257-260 さてなかなか皆荒らし果て、忘れ草生ほして後なむ、この右の大臣も渡り住み、宮たちなども方々ものしたまへば、昔に返りたるやうにはべめる。さる世に、たぐひなき悲しさと見たまへしことも、年月経れば、思ひ覚ます折の出で来るにこそは、と見はべるに、げに限りあるわざなりけり、となむ見えはべる。<BR>⏎
 かくは聞こえさせながらも、かのいにしへの悲しさは、まだいはけなくもはべりけるほどにて、いとさしもしまぬにやはべりけむ。なほこの近き夢こそ、覚ますべき方なく思ひたまへらるるは、同じこと、世の常なき悲しびなれど、罪深き方はまさりてはべるにやと、それさへなむ心憂くはべる」<BR>⏎
 とて泣きたまへるほど、いと心深げなり。<BR>⏎
 昔の人を、いとしも思ひきこえざらむ人だに、この人の思ひたまへるけしきを見むには、すずろにただにもあるまじきを、まして我もものを心細く思ひ乱れたまふにつけては、いとど常よりも、面影に恋しく悲しく思ひきこえたまふ心なれば、今すこしもよほされて、ものもえ聞こえたまはず、ためらひかねたまへるけはひを、かたみにいとあはれと思ひ交はしたまふ。<BR>⏎
text49403 <A NAME="in28">[第八段 薫と中君の故里の宇治を思う]</A><BR>261 
d1404<P>⏎
 405 「<A HREF="#no12">世の憂きよりは</A><A NAME="te12">な</A>ど、人は言ひしをも、さやうに思ひ比ぶる心もことになくて、年ごろは過ぐしはべりしを、今なむ、なほいかで静かなるさまにても過ぐさまほしく思うたまふるを、さすがに心にもかなはざめれば、弁の尼こそうらやましくはべれ。<BR>⏎262 
d1406<P>⏎
 407 この二十日あまりのほどは、かの近き寺の鐘の声も聞きわたさまほしくおぼえはべるを、忍びて渡させたまひてむや、と聞こえさせばやとなむ思ひはべりつる」<BR>⏎263 
d1408<P>⏎
 409 とのたまへば、<BR>⏎264 
d1410<P>⏎
 411 「荒らさじと思すとも、いかでかは。心やすき男だに、往き来のほど荒ましき山道にはべれば、思ひつつなむ月日も隔たりはべる。故宮の御忌日は、かの阿闍梨に、さるべきことども皆言ひおきはべりにき。かしこは、なほ尊き方に思し譲りてよ。時々見たまふるにつけては、心惑ひの絶えせぬもあいなきに、罪失ふさまになしてばや、となむ思ひたまふるを、またいかが思しおきつらむ。<BR>⏎265 
d1412<P>⏎
 413 ともかくも定めさせたまはむに従ひてこそは、とてなむ。あるべからむやうに<A HREF="#k17">のたまはせよ</A><A NAME="t17">か</A>し。何事も疎からず承らむのみこそ、本意のかなふにてははべらめ」<BR>⏎266 
d1414<P>⏎
cd4:2415-418 などまめだちたることどもを聞こえたまふ。経仏など、この上も供養じたまふべきなめり。かやうなるついでにことづけて、やをら籠もり<A HREF="#k18">ゐなばや、など</A><A NAME="t18">お</A>もむけたまへるけしきなれば、<BR>⏎
<P>⏎
 「いとあるまじきことなり。なほ何事も心のどかに思しなせ」<BR>⏎
<P>⏎
267-268 などまめだちたることどもを聞こえたまふ。経仏など、この上も供養じたまふべきなめり。かやうなるついでにことづけて、やをら籠もり<A HREF="#k18">ゐなばや、など</A><A NAME="t18">お</A>もむけたまへるけしきなれば、<BR>⏎
 「いとあるまじきことなり。なほ何事も心のどかに思しなせ」<BR>⏎
 419 と教へきこえたまふ。<BR>⏎269 
d1420<P>⏎
text49421 <A NAME="in29">[第九段 薫、二条院を退出して帰宅]</A><BR>270 
d1422<P>⏎
 423 日さし上がりて、人びと参り集まりなどすれば、あまり長居もことあり顔ならむによりて、出でたまひなむとて、<BR>⏎271 
d1424<P>⏎
 425 「いづこにても、御簾の外にはならひはべらねば、はしたなき心地しはべりてなむ。今また、かやうにもさぶらはむ」<BR>⏎272 
d1426<P>⏎
cd2:1427-428 とて立ちたまひぬ。「宮のなどかなき折には来つらむ」と思ひたまひぬべき御心なるもわづらはしくて、侍の別当なる右京大夫召して、<BR>⏎
<P>⏎
273 とて立ちたまひぬ。「宮のなどかなき折には来つらむ」と思ひたまひぬべき御心なるもわづらはしくて、侍の別当なる右京大夫召して、<BR>⏎
 429 「昨夜まかでさせたまひぬと承りて参りつるを、まだしかりければ口惜しきを。内裏にや参るべき」<BR>⏎274 
d1430<P>⏎
 431 とのたまへば、<BR>⏎275 
d1432<P>⏎
 433 「今日は、まかでさせたまひなむ」<BR>⏎276 
d1434<P>⏎
 435 と申せば、<BR>⏎277 
d1436<P>⏎
cd6:3437-442 「さらば夕つ方も」<BR>⏎
<P>⏎
 とて出でたまひぬ。<BR>⏎
<P>⏎
 なほこの御けはひありさまを聞きたまふたびごとに、などて昔の人の御心おきてをもて違へて、思ひ隈なかりけむと、悔ゆる心のみまさりて、心にかかりたるもむつかしく、「なぞや人やりならぬ心ならむ」と思ひ返したまふ。そのままにまだ精進にて、いとどただ行なひをのみしたまひつつ、明かし暮らしたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
278-280 「さらば夕つ方も」<BR>⏎
 とて出でたまひぬ。<BR>⏎
 なほこの御けはひありさまを聞きたまふたびごとに、などて昔の人の御心おきてをもて違へて、思ひ隈なかりけむと、悔ゆる心のみまさりて、心にかかりたるもむつかしく、「なぞや人やりならぬ心ならむ」と思ひ返したまふ。そのままにまだ精進にて、いとどただ行なひをのみしたまひつつ、明かし暮らしたまふ。<BR>⏎
 443 母宮の、なほいとも若くおほどきて、しどけなき御心にも、かかる御けしきを、いとあやふくゆゆしと思して、<BR>⏎281 
d1444<P>⏎
 445 「<A HREF="#no13">幾世しもあらじを</A><A NAME="te13">、</A>見たてまつらむほどは、なほかひあるさまにて見えたまへ。世の中を思ひ捨てたまはむをも、かかる容貌にては、さまたげきこゆべきにもあらぬを、この世の言ふかひなき心地すべき心惑ひに、いとど罪や得むとおぼゆる」<BR>⏎282 
d1446<P>⏎
 447 とのたまふが、かたじけなくいとほしくて、よろづを思ひ消ちつつ、御前にてはもの思ひなきさまを作りたまふ。<BR>⏎283 
d1448<P>⏎
text49449 <H4>第三章 中君の物語 匂宮と六の君の婚儀</H4>284 
text49450 <A NAME="in31">[第一段 匂宮と六の君の婚儀]</A><BR>285 
d1451<P>⏎
 452 右の大殿には、六条院の東の御殿磨きしつらひて、限りなくよろづを整へて待ちきこえたまふに、十六日の月やうやうさし上がるまで心もとなければ、いとしも御心に入らぬことにて、いかならむと、やすからず思ほして、案内したまへば、<BR>⏎286 
d1453<P>⏎
 454 「この夕つ方、内裏より出でたまひて、二条院になむおはしますなる」<BR>⏎287 
d1455<P>⏎
cd7:3456-462 と人申す。思す人持たまへればと、心やましけれど、今宵過ぎむも人笑へなるべければ、御子の頭中将して聞こえたまへり。<BR>⏎
<P>⏎
 「<A HREF="#no14">大空の月だに宿る</A><A NAME="te14">わ</A>が宿に<BR>⏎
  待つ宵過ぎて見えぬ君かな」<BR>⏎
<P>⏎
 宮は「なかなか今なむとも見えじ、心苦し」と思して、内裏におはしけるを御文聞こえたまへりけり。御返りやいかがありけむ、なほいとあはれに思されければ、忍びて渡りたまへりけるなりけり。らうたげなるありさまを、見捨てて出づべき心地もせず、いとほしければ、よろづに契り慰めて、もろともに月を眺めておはするほどなりけり。<BR>⏎
<P>⏎
288-290 と人申す。思す人持たまへればと、心やましけれど、今宵過ぎむも人笑へなるべければ、御子の頭中将して聞こえたまへり。<BR>⏎
 「<A HREF="#no14">大空の月だに宿る</A><A NAME="te14">わ</A>が宿に<BR>  待つ宵過ぎて見えぬ君かな」<BR>⏎
 宮は「なかなか今なむとも見えじ、心苦し」と思して、内裏におはしけるを御文聞こえたまへりけり。御返りやいかがありけむ、なほいとあはれに思されければ、忍びて渡りたまへりけるなりけり。らうたげなるありさまを、見捨てて出づべき心地もせず、いとほしければ、よろづに契り慰めて、もろともに月を眺めておはするほどなりけり。<BR>⏎
 463 女君は、日ごろもよろづに思ふこと多かれど、いかでけしきに出ださじと念じ返しつつ、つれなく覚ましたまふことなれば、ことに聞きもとどめぬさまに、おほどかにもてなしておはするけしき、いとあはれなり。<BR>⏎291 
d1464<P>⏎
 465 中将の参りたまへるを聞きたまひて、さすがにかれもいとほしければ、出でたまはむとて、<BR>⏎292 
d1466<P>⏎
 467 「今、いと疾く参り来む。一人月な見たまひそ。心そらなればいと苦しき」<BR>⏎293 
d1468<P>⏎
 469 と聞こえ<A HREF="#k19">おきたまひて</A><A NAME="t19">、</A>なほかたはらいたければ、隠れの方より寝殿へ渡りたまふ、御うしろでを見送るに、ともかくも思はねど、ただ<A HREF="#no15">枕の浮きぬべき心地</A><A NAME="te15">す</A>れば、「心憂きものは人の心なりけり」と、我ながら思ひ知らる。<BR>⏎294 
d1470<P>⏎
text49471 <A NAME="in32">[第二段 中君の不安な心境]</A><BR>295 
d1472<P>⏎
 473 「幼きほどより心細くあはれなる身どもにて、世の中を思ひとどめたるさまにもおはせざりし人一所を頼みきこえさせて、さる山里に年経しかど、いつとなくつれづれにすごくありながら、いとかく心にしみて世を憂きものとも思はざりしに、うち続きあさましき御ことどもを思ひしほどは、世にまたとまりて片時経べくもおぼえず、恋しく悲しきことのたぐひあらじと思ひしを、命長くて今までもながらふれば、人の思ひたりしほどよりは、人にもなるやうなるありさまを、長かるべきこととは思はねど、見る限りは憎げなき御心ばへもてなしなるに、やうやう思ふこと薄らぎてありつるを、この<A HREF="#k20">折ふし</A><A NAME="t20">の</A>身の憂さはた、言はむ方なく、限りとおぼゆるわざなりけり。<BR>⏎296 
d1474<P>⏎
 475 ひたすら世になくなりたまひにし人びとよりは、さりともこれは、時々もなどかは、とも思ふべきを、今宵かく見捨てて出でたまふつらさ、来し方行く先、皆かき乱り心細くいみじきが、わが心ながら思ひやる方なく、心憂くもあるかな。おのづからながらへば」<BR>⏎297 
d1476<P>⏎
 477 など慰めむことを思ふに、さらに<A HREF="#no16">姨捨山の月澄み昇り</A><A NAME="te16">て</A>、夜更くるままによろづ思ひ乱れたまふ。松風の吹き来る音も、荒ましかりし山おろしに思ひ比ぶれば、いとのどかになつかしく、めやすき御住まひなれど、今宵はさもおぼえず、<A HREF="#no17">椎の葉の音</A><A NAME="te17">に</A>は劣りて思ほゆ。<BR>⏎298 
d1478<P>⏎
cd3:1479-481 「山里の松の蔭にもかくばかり<BR>⏎
  身にしむ秋の風はなかりき」<BR>⏎
<P>⏎
299 「山里の松の蔭にもかくばかり<BR>  身にしむ秋の風はなかりき」<BR>⏎
 482 来し方忘れにけるにやあらむ。<BR>⏎300 
d1483<P>⏎
 484 老い人どもなど、<BR>⏎301 
d1485<P>⏎
cd2:1486-487 「今は入らせたまひね。<A HREF="#no18">月見るは忌み</A><A NAME="te18">は</A>べるものを。あさましく、はかなき御くだものをだに御覧じ入れねば、いかにならせたまはむ」と。「あな見苦しや。ゆゆしう思ひ出でらるることもはべるを、いとこそわりなく」<BR>⏎
<P>⏎
302 「今は入らせたまひね。<A HREF="#no18">月見るは忌み</A><A NAME="te18">は</A>べるものを。あさましく、はかなき御くだものをだに御覧じ入れねば、いかにならせたまはむ」と。「あな見苦しや。ゆゆしう思ひ出でらるることもはべるを、いとこそわりなく」<BR>⏎
 488 とうち嘆きて、<BR>⏎303 
d1489<P>⏎
cd4:2490-493 「いでこの御ことよ。さりとも、かうておろかにはよもなり果てさせたまはじ。さいへど、もとの心ざし深く思ひそめつる仲は、名残なからぬものぞ」<BR>⏎
<P>⏎
 など言ひあへるも、さまざまに聞きにくく、「今は、いかにもいかにもかけて言はざらなむ、ただにこそ見め」と思さるるは、人には言はせじ、我一人怨みきこえむとにやあらむ。「いでや中納言殿の、さばかりあはれなる御心深さを」など、そのかみの人びとは言ひあはせて、「人の御宿世のあやしかりけることよ」と言ひあへり。<BR>⏎
<P>⏎
304-305 「いでこの御ことよ。さりとも、かうておろかにはよもなり果てさせたまはじ。さいへど、もとの心ざし深く思ひそめつる仲は、名残なからぬものぞ」<BR>⏎
 など言ひあへるも、さまざまに聞きにくく、「今は、いかにもいかにもかけて言はざらなむ、ただにこそ見め」と思さるるは、人には言はせじ、我一人怨みきこえむとにやあらむ。「いでや中納言殿の、さばかりあはれなる御心深さを」など、そのかみの人びとは言ひあはせて、「人の御宿世のあやしかりけることよ」と言ひあへり。<BR>⏎
text49494 <A NAME="in33">[第三段 匂宮、六の君に後朝の文を書く]</A><BR>306 
d1495<P>⏎
 496 宮は、いと心苦しく思しながら、今めかしき御心は、いかでめでたきさまに待ち思はれむと、心懸想して、えならず薫きしめたまへる御けはひ、言はむ方なし。待ちつけきこえたまへる所のありさまも、いとをかしかりけり。人のほど、ささやかにあえかになどはあらで、よきほどになりあひたる心地したまへるを、<BR>⏎307 
d1497<P>⏎
 498 「いかならむ。ものものしくあざやぎて、心ばへもたをやかなる方はなく、ものほこりかになどやあらむ。さらばこそ、うたてあるべけれ」<BR>⏎308 
d1499<P>⏎
 500 などは思せど、さやなる御けはひにはあらぬにや、御心ざしおろかなるべくも思されざりけり。<A HREF="#no19">秋の夜なれど</A><A NAME="te19">、</A>更けにしかばにや、ほどなく明けぬ。<BR>⏎309 
d1501<P>⏎
 502 帰りたまひても、対へはふともえ渡りたまはず、しばし大殿籠もりて、起きてぞ御文書きたまふ。<BR>⏎310 
d1503<P>⏎
 504 「御けしきけしうはあらぬなめり」<BR>⏎311 
d1505<P>⏎
cd2:1506-507 と御前なる人びとつきじろふ。<BR>⏎
<P>⏎
312 と御前なる人びとつきじろふ。<BR>⏎
 508 「対の御方こそ心苦しけれ。天下にあまねき御心なりとも、おのづからけおさるることもありなむかし」<BR>⏎313 
d1509<P>⏎
cd2:1510-511 などただにしもあらず、皆馴れ仕うまつりたる人びとなれば、やすからずうち言ふどももありて、すべてなほねたげなるわざにぞありける。「御返りも、こなたにてこそは」と思せど、「夜のほどおぼつかなさも、常の隔てよりはいかが」と、心苦しければ、急ぎ渡りたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
314 などただにしもあらず、皆馴れ仕うまつりたる人びとなれば、やすからずうち言ふどももありて、すべてなほねたげなるわざにぞありける。「御返りも、こなたにてこそは」と思せど、「夜のほどおぼつかなさも、常の隔てよりはいかが」と、心苦しければ、急ぎ渡りたまふ。<BR>⏎
 512 寝くたれの御容貌、いとめでたく見所ありて、入りたまへるに、臥したるもうたてあれば、すこし起き上がりておはするに、うち赤みたまへる顔の匂ひなど、今朝しもことにをかしげさまさりて見えたまふに、あいなく涙ぐまれて、しばしうちまもりきこえたまふを、恥づかしく思してうつ臥したまへる、髪のかかり、髪ざしなど、なほいとありがたげなり。<BR>⏎315 
d1513<P>⏎
 514 宮も、なまはしたなきに、こまやかなることなどは、ふともえ言ひ出でたまはぬ面隠しにや、<BR>⏎316 
d1515<P>⏎
 516 「などかくのみ悩ましげなる御けしきならむ。暑きほどのこととか、のたまひしかば、いつしかと涼しきほど待ち出でたるも、なほはればれしからぬは、見苦しきわざかな。さまざまにせさすることも、あやしく験なき心地こそすれ。さはありとも、修法はまた延べてこそはよからめ。験あらむ僧もがな。なにがし僧都をぞ、夜居にさぶらはすべかりける」<BR>⏎317 
d1517<P>⏎
cd2:1518-519 などやうなるまめごとを<A HREF="#k21">のたまへば</A><A NAME="t21">、</A>かかる方にも言よきは、心づきなくおぼえたまへど、むげにいらへきこえざらむも例ならねば、<BR>⏎
<P>⏎
318 などやうなるまめごとを<A HREF="#k21">のたまへば</A><A NAME="t21">、</A>かかる方にも言よきは、心づきなくおぼえたまへど、むげにいらへきこえざらむも例ならねば、<BR>⏎
 520 「昔も、人に似ぬありさまにて、かやうなる折はありしかど、おのづからいとよくおこたるものを」<BR>⏎319 
d1521<P>⏎
 522 とのたまへば、<BR>⏎320 
d1523<P>⏎
 524 「いとよくこそ、さはやかなれ」<BR>⏎321 
d1525<P>⏎
 526 とうち笑ひて、「なつかしく愛敬づきたる方は、これに並ぶ人はあらじかし」とは思ひながら、なほまた、とくゆかしき方の心焦られも立ち添ひたまへるは、御心ざしおろかにもあらぬなめりかし。<BR>⏎322 
d1527<P>⏎
text49528 <A NAME="in34">[第四段 匂宮、中君を慰める]</A><BR>323 
d1529<P>⏎
cd2:1530-531 されど見たまふほどは変はるけぢめもなきにや、後の世まで誓ひ頼めたまふことどもの尽きせぬを聞くにつけても、げにこの世は<A HREF="#no20">短かめる命待つ間</A><A NAME="te20">も</A>、つらき御心に見えぬべければ、「後の契りや違はぬこともあらむ」と思ふにこそ、<A HREF="#no21">なほこりずまに、またも</A><A NAME="te21">頼</A>まれぬ<A HREF="#k22">べけれとて</A><A NAME="t22">、</A>いみじく念ずべかめれど、え忍びあへぬにや、今日は泣きたまひぬ。<BR>⏎
<P>⏎
324 されど見たまふほどは変はるけぢめもなきにや、後の世まで誓ひ頼めたまふことどもの尽きせぬを聞くにつけても、げにこの世は<A HREF="#no20">短かめる命待つ間</A><A NAME="te20">も</A>、つらき御心に見えぬべければ、「後の契りや違はぬこともあらむ」と思ふにこそ、<A HREF="#no21">なほこりずまに、またも</A><A NAME="te21">頼</A>まれぬ<A HREF="#k22">べけれとて</A><A NAME="t22">、</A>いみじく念ずべかめれど、え忍びあへぬにや、今日は泣きたまひぬ。<BR>⏎
 532 日ごろも、「いかでかう思ひけりと見えたてまつらじ」と、よろづに紛らはしつるを、さまざまに思ひ集むることし多かれば、さのみもえもて隠されぬにや、こぼれそめては、えとみにも<A HREF="#k23">ためらはぬ</A><A NAME="t23">を</A>、いと恥づかしくわびしと思ひて、いたく背きたまへば、しひてひき向けたまひつつ、<BR>⏎325 
d1533<P>⏎
 534 「聞こゆるままに、あはれなる御ありさまと見つるを、なほ隔てたる御心こそありけれな。さらずは、夜のほどに思し変はりにたるか」<BR>⏎326 
d1535<P>⏎
cd2:1536-537 とてわが御袖して涙を拭ひたまへば、<BR>⏎
<P>⏎
327 とてわが御袖して涙を拭ひたまへば、<BR>⏎
 538 「夜の間の心変はりこそ、のたまふにつけて、推し量られはべりぬれ」<BR>⏎328 
d1539<P>⏎
cd4:2540-543 とてすこしほほ笑みぬ。<BR>⏎
<P>⏎
 「げにあが君や、幼なの御もの言ひやな。<A HREF="#k24">されど</A><A NAME="t24">ま</A>ことには、心に隈のなければ、いと心やすし。いみじくことわりして聞こゆとも、いとしるかるべきわざぞ。むげに世のことわりを知りたまはぬこそ、らうたきものからわりなけれ。よしわが身になしても思ひめぐらしたまへ。<A HREF="#no22">身を心ともせぬ</A><A NAME="te22">あ</A>りさまなり。もし思ふやうなる世もあらば、人にまさりける心ざしのほど、知らせたてまつるべきひとふしなむある。たはやすく言出づべきことにもあらねば、命のみこそ」<BR>⏎
<P>⏎
329-330 とてすこしほほ笑みぬ。<BR>⏎
 「げにあが君や、幼なの御もの言ひやな。<A HREF="#k24">されど</A><A NAME="t24">ま</A>ことには、心に隈のなければ、いと心やすし。いみじくことわりして聞こゆとも、いとしるかるべきわざぞ。むげに世のことわりを知りたまはぬこそ、らうたきものからわりなけれ。よしわが身になしても思ひめぐらしたまへ。<A HREF="#no22">身を心ともせぬ</A><A NAME="te22">あ</A>りさまなり。もし思ふやうなる世もあらば、人にまさりける心ざしのほど、知らせたてまつるべきひとふしなむある。たはやすく言出づべきことにもあらねば、命のみこそ」<BR>⏎
 544 などのたまふほどに、かしこにたてまつれたまへる御使、いたく酔ひ過ぎにければ、すこし憚るべきことども忘れて、けざやかにこの南面に参れり。<BR>⏎331 
d1545<P>⏎
text49546 <A NAME="in35">[第五段 後朝の使者と中君の諦観]</A><BR>332 
d1547<P>⏎
 548 海人の刈るめづらしき玉藻にかづき埋もれたるを、「さなめり」と、人びと見る。いつのほどに急ぎ書きたまへらむと見るも、やすからずはありけむかし。宮も、あながちに隠すべきにはあらねど、さしぐみはなほいとほしきを、すこしの用意はあれかしと、かたはらいたけれど、今はかひなければ、女房して御文とり入れさせたまふ。<BR>⏎333 
d1549<P>⏎
 550 「同じくは、隔てなきさまにもてなし果ててむ」と思ほして、ひき開けたまへるに、「継母の宮の御手なめり」と見ゆれば、今すこし心やすくて、うち置きたまへり。宣旨書きにても、うしろめたのわざや。<BR>⏎334 
d1551<P>⏎
 552 「さかしらは、かたはらいたさに、そそのかしはべれど、いと悩ましげにてなむ。<BR>⏎335 
d1553<P>⏎
cd3:1554-556  女郎花しをれぞまさる朝露の<BR>⏎
  いかに置きける名残なるらむ」<BR>⏎
<P>⏎
336  女郎花しをれぞまさる朝露の<BR>  いかに置きける名残なるらむ」<BR>⏎
 557 あてやかにをかしく書きたまへり。<BR>⏎337 
d1558<P>⏎
 559 「かことがましげなるもわづらはしや。まことは、心やすくてしばしはあらむと思ふ世を、思ひの外にもあるかな」<BR>⏎338 
d1560<P>⏎
 561 などはのたまへど、<BR>⏎339 
d1562<P>⏎
 563 「また二つとなくて、さるべきものに思ひならひたるただ人の仲こそ、かやうなることの恨めしさなども、見る人苦しくはあれ、思へばこれはいと難し。つひにかかるべき御ことなり。宮たちと聞こゆるなかにも、筋ことに世人思ひきこえたれば、幾人も幾人も得たまはむことも、もどきあるまじければ、人も、この御方いとほしなども思ひたらぬなるべし。かばかりものものしくかしづき据ゑたまひて、心苦しき方、おろかならず思したるをぞ、幸ひおはしける」<BR>⏎340 
d1564<P>⏎
 565 と聞こゆめる。みづからの心にも、あまりにならはしたまうて、にはかにはしたなかるべきが嘆かしきなめり。<BR>⏎341 
d1566<P>⏎
 567 「かかる道を、いかなれば浅からず人の思ふらむと、昔物語などを見るにも、人の上にても、あやしく聞き思ひしは、げにおろかなるまじきわざなりけり」<BR>⏎342 
d1568<P>⏎
cd2:1569-570 とわが身になりてぞ、何ごとも思ひ知られたまひける。<BR>⏎
<P>⏎
343 とわが身になりてぞ、何ごとも思ひ知られたまひける。<BR>⏎
text49571 <A NAME="in36">[第六段 匂宮と六の君の結婚第二夜]</A><BR>344 
d1572<P>⏎
 573 宮は、常よりもあはれに、うちとけたるさまにもてなしたまひて、<BR>⏎345 
d1574<P>⏎
 575 「むげにもの参らざなるこそ、いと悪しけれ」<BR>⏎346 
d1576<P>⏎
cd2:1577-578 とてよしある御くだもの召し寄せ、またさるべき人召して、ことさらに調ぜさせなどしつつ、そそのかしきこえたまへど、いとはるかにのみ思したれば、「見苦しきわざかな」と嘆ききこえたまふに、暮れぬれば、夕つ方、寝殿へ渡りたまひぬ。<BR>⏎
<P>⏎
347 とてよしある御くだもの召し寄せ、またさるべき人召して、ことさらに調ぜさせなどしつつ、そそのかしきこえたまへど、いとはるかにのみ思したれば、「見苦しきわざかな」と嘆ききこえたまふに、暮れぬれば、夕つ方、寝殿へ渡りたまひぬ。<BR>⏎
 579 風涼しく、おほかたの空をかしきころなるに、今めかしきにすすみたまへる御心なれば、いとどしく艶なるに、もの思はしき人の御心のうちは、よろづに忍びがたきことのみぞ多かりける。<A HREF="#no23">ひぐらしの鳴く声に、山の蔭</A><A NAME="te23">の</A>み恋しくて、<BR>⏎348 
d1580<P>⏎
cd3:1581-583 「おほかたに聞かましものをひぐらしの<BR>⏎
  声恨めしき秋の暮かな」<BR>⏎
<P>⏎
349 「おほかたに聞かましものをひぐらしの<BR>  声恨めしき秋の暮かな」<BR>⏎
 584 今宵はまだ更けぬに出でたまふなり。御前駆の声の遠くなるままに、<A HREF="#no24">海人も釣すばかり</A><A NAME="te24">に</A>なるも、「我ながら憎き心かな」と、思ふ思ふ聞き臥したまへり。はじめよりもの思はせ<A HREF="#k25">たまひし</A><A NAME="t25">あ</A>りさまなどを思ひ出づるも、疎ましきまでおぼゆ。<BR>⏎350 
d1585<P>⏎
 586 「この悩ましきことも、いかならむとすらむ。いみじく命短き族なれば、かやうならむついでにもやと、はかなくなりなむとすらむ」<BR>⏎351 
d1587<P>⏎
 588 と思ふには、「惜しからねど、悲しくもあり、またいと罪深くもあなるものを」など、まどろまれぬままに思ひ明かしたまふ。<BR>⏎352 
d1589<P>⏎
text49590 <A NAME="in37">[第七段 匂宮と六の君の結婚第三夜の宴]</A><BR>353 
d1591<P>⏎
 592 その日は、后の宮悩ましげにおはしますとて、誰も誰も、参りたまへれど、御風邪におはしましければ、ことなることもおはしまさずとて、大臣は昼まかでたまひにけり。中納言の君誘ひきこえたまひて、一つ御車にてぞ出でたまひにける。<BR>⏎354 
d1593<P>⏎
 594 「今宵の儀式、いかならむ。きよらを尽くさむ」と思すべかめれど、限りあらむかし。この君も、心恥づかしけれど、親しき方のおぼえは、わが方ざまにまたさるべき人もおはせず、ものの栄にせむに、心ことにおはする人なればなめりかし。例ならずいそがしく参でたまひて、人の上に見なしたるを口惜しとも思ひたらず、何やかやともろ心に扱ひたまへるを、大臣は、人知れずなまねたしと思しけり。<BR>⏎355 
d1595<P>⏎
cd2:1596-597 宵すこし過ぐるほどにおはしましたり。寝殿の南の廂、東に寄りて御座参れり。御台八つ、例の御皿など、うるはしげにきよらにて、また小さき台二つに、花足の御皿なども、今めかしくせさせたまひて、餅参らせたまへり。めづらしからぬこと書きおくこそ憎けれ。<BR>⏎
<P>⏎
356 宵すこし過ぐるほどにおはしましたり。寝殿の南の廂、東に寄りて御座参れり。御台八つ、例の御皿など、うるはしげにきよらにて、また小さき台二つに、花足の御皿なども、今めかしくせさせたまひて、餅参らせたまへり。めづらしからぬこと書きおくこそ憎けれ。<BR>⏎
 598 大臣渡りたまひて、「夜いたう更けぬ」と、女房してそそのかし申したまへど、いとあざれて、とみにも出でたまはず。北の方の御はらからの左衛門督、藤宰相などばかりものしたまふ。<BR>⏎357 
d1599<P>⏎
 600 からうして出でたまへる御さま、いと見るかひある心地す。主人の頭中将、盃ささげて御台参る。次々の御土器、二度、三度参りたまふ。中納言のいたく勧めたまへるに、宮すこしほほ笑みたまへり。<BR>⏎358 
d1601<P>⏎
 602 「わづらはしきわたりを」<BR>⏎359 
d1603<P>⏎
cd2:1604-605 とふさはしからず思ひて言ひしを、思し出づるなめり。されど見知らぬやうにて、いとまめなり。<BR>⏎
<P>⏎
360 とふさはしからず思ひて言ひしを、思し出づるなめり。されど見知らぬやうにて、いとまめなり。<BR>⏎
 606 東の対に出でたまひて、御供の人びともてはやしたまふ。おぼえある殿上人どもいと多かり。<BR>⏎361 
d1607<P>⏎
cd4:2608-611 四位六人は、女の装束に細長添へて、五位十人は、三重襲の唐衣、裳の腰も皆けぢめあるべし。六位四人は、綾の細長、袴など。かつは限りあることを飽かず思しければ、ものの色、しざまなどをぞ、きよらを尽くしたまへりける。<BR>⏎
<P>⏎
 召次、舎人などの中には、乱りがはしきまでいかめしくなむありける。げにかくにぎははしくはなやかなることは、見るかひあれば、物語などに、まづ言ひたてたるにやあらむ。されど詳しくはえぞ数へ立てざりけるとや。<BR>⏎
<P>⏎
362-363 四位六人は、女の装束に細長添へて、五位十人は、三重襲の唐衣、裳の腰も皆けぢめあるべし。六位四人は、綾の細長、袴など。かつは限りあることを飽かず思しければ、ものの色、しざまなどをぞ、きよらを尽くしたまへりける。<BR>⏎
 召次、舎人などの中には、乱りがはしきまでいかめしくなむありける。げにかくにぎははしくはなやかなることは、見るかひあれば、物語などに、まづ言ひたてたるにやあらむ。されど詳しくはえぞ数へ立てざりけるとや。<BR>⏎
text49612 <H4>第四章 薫の物語 中君に同情しながら恋慕の情高まる</H4>364 
text49613 <A NAME="in41">[第一段 薫、匂宮の結婚につけわが身を顧みる]</A><BR>365 
d1614<P>⏎
 615 中納言殿の御前の中に、なまおぼえあざやかならぬや、暗き紛れに立ちまじりたりけむ、帰りてうち嘆きて、<BR>⏎366 
d1616<P>⏎
 617 「わが殿の、などかおいらかに、この殿の御婿にうちならせたまふまじき。あぢきなき御独り住みなりや」<BR>⏎367 
d1618<P>⏎
cd2:1619-620 と中門のもとにてつぶやきけるを聞きつけたまひて、をかしとなむ思しける。夜の更けてねぶたきに、かのもてかしづかれつる人びとは、心地よげに酔ひ乱れて寄り臥しぬらむかしと、うらやましきなめりかし。<BR>⏎
<P>⏎
368 と中門のもとにてつぶやきけるを聞きつけたまひて、をかしとなむ思しける。夜の更けてねぶたきに、かのもてかしづかれつる人びとは、心地よげに酔ひ乱れて寄り臥しぬらむかしと、うらやましきなめりかし。<BR>⏎
 621 君は、入りて臥したまひて、<BR>⏎369 
d1622<P>⏎
 623 「はしたなげなるわざかな。ことことしげなるさましたる親の出でゐて、離れぬなからひなれど、これかれ、火明くかかげて、勧めきこゆる盃などを、いとめやすくもてなしたまふめりつるかな」<BR>⏎370 
d1624<P>⏎
cd4:2625-628 と宮の御ありさまを、めやすく思ひ出でたてまつりたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
 「げに我にても、よしと思ふ女子持たらましかば、この<A HREF="#k26">宮をおきたてまつりて</A><A NAME="t26">、</A>内裏にだにえ参らせざらまし」と思ふに、「誰れも誰れも、宮にたてまつらむと心ざしたまへる女は、なほ源中納言にこそと、とりどりに言ひならふなるこそ、わがおぼえの口惜しくはあらぬなめりな。さるはいとあまり世づかず、古めきたるものを」など、心おごりせらる。<BR>⏎
<P>⏎
371-372 と宮の御ありさまを、めやすく思ひ出でたてまつりたまふ。<BR>⏎
 「げに我にても、よしと思ふ女子持たらましかば、この<A HREF="#k26">宮をおきたてまつりて</A><A NAME="t26">、</A>内裏にだにえ参らせざらまし」と思ふに、「誰れも誰れも、宮にたてまつらむと心ざしたまへる女は、なほ源中納言にこそと、とりどりに言ひならふなるこそ、わがおぼえの口惜しくはあらぬなめりな。さるはいとあまり世づかず、古めきたるものを」など、心おごりせらる。<BR>⏎
 629 「内裏の御けしきあること、まことに思したたむに、かくのみもの憂くおぼえば、いかがすべからむ。おもだたしきことにはありとも、いかがはあらむ。いかにぞ、故君にいとよく似たまへらむ時に、うれしからむかし」と思ひ寄らるるは、さすがにもて離るまじき心なめりかし。<BR>⏎373 
d1630<P>⏎
text49631 <A NAME="in42">[第二段 薫と按察使の君、匂宮と六の君]</A><BR>374 
d1632<P>⏎
 633 例の、寝覚がちなるつれづれなれば、按察使の君とて、人よりはすこし思ひましたまへるが局におはして、その夜は明かしたまひつ。明け過ぎたらむを、人の咎むべきにもあらぬに、苦しげに急ぎ起きたまふを、ただならず思ふべかめり。<BR>⏎375 
d1634<P>⏎
cd3:1635-637 「うち渡し世に許しなき関川を<BR>⏎
  みなれそめけむ名こそ惜しけれ」<BR>⏎
<P>⏎
376 「うち渡し世に許しなき関川を<BR>  みなれそめけむ名こそ惜しけれ」<BR>⏎
 638 いとほしければ、<BR>⏎377 
d1639<P>⏎
cd3:1640-642 「<A HREF="#no25">深からず上は見ゆれど関川</A><A NAME="te25">の</A><BR>⏎
  下の通ひは絶ゆるものかは」<BR>⏎
<P>⏎
378 「<A HREF="#no25">深からず上は見ゆれど関川</A><A NAME="te25">の</A><BR>  下の通ひは絶ゆるものかは」<BR>⏎
 643 深しと、のたまはむにてだに頼もしげなきを、この上の浅さは、いとど心やましくおぼゆらむかし。妻戸押し開けて、<BR>⏎379 
d1644<P>⏎
 645 「まことは、この空見たまへ。いかでかこれを知らず顔にては明かさむとよ。艶なる人まねにてはあらで、いとど明かしがたくなり行く、夜な夜なの寝覚には、この世かの世までなむ思ひやられて、あはれなる」<BR>⏎380 
d1646<P>⏎
cd2:1647-648 など言ひ紛らはしてぞ出でたまふ。ことにをかしきことの数を尽くさねど、<A HREF="#k27">さまの</A><A NAME="t27">な</A>まめかしき見なしにやあらむ、情けなくなどは人に思はれたまはず。かりそめの戯れ言をも言ひそめたまへる人の、気近くて見たてまつらばや、とのみ思ひきこゆるにや、あながちに、世を背きたまへる宮の御方に、<A HREF="#k28">縁を</A><A NAME="t28">尋</A>ねつつ参り集まりてさぶらふも、あはれなること、ほどほどにつけつつ多かるべし。<BR>⏎
<P>⏎
381 など言ひ紛らはしてぞ出でたまふ。ことにをかしきことの数を尽くさねど、<A HREF="#k27">さまの</A><A NAME="t27">な</A>まめかしき見なしにやあらむ、情けなくなどは人に思はれたまはず。かりそめの戯れ言をも言ひそめたまへる人の、気近くて見たてまつらばや、とのみ思ひきこゆるにや、あながちに、世を背きたまへる宮の御方に、<A HREF="#k28">縁を</A><A NAME="t28">尋</A>ねつつ参り集まりてさぶらふも、あはれなること、ほどほどにつけつつ多かるべし。<BR>⏎
 649 宮は、女君の御ありさま、昼見きこえたまふに、いとど御心ざしまさりけり。おほきさよきほどなる人の、様体いときよげにて、髪のさがりば、頭つきなどぞ、ものよりことに、あなめでた、と見えたまひける。色あひあまりなるまで匂ひて、ものものしく気高き顔の、まみいと恥づかしげにらうらうじく、すべて何ごとも足らひて、容貌よき人と言はむに、飽かぬところなし。<BR>⏎382 
d1650<P>⏎
cd4:2651-654 二十に一つ二つぞ余りたまへりける。いはけなきほどならねば、片なりに飽かぬところなく、あざやかに、盛りの花と見えたまへり。限りなくもてかしづきたまへるに、かたほならず。げに<A HREF="#no26">親にては、心も惑はし</A><A NAME="te26">た</A>まひつべかりけり。<BR>⏎
<P>⏎
 ただやはらかに愛敬づきらうたきことぞ、かの対の御方はまづ思ほし出でられける。もののたまふいらへなども、恥ぢらひたれど、またあまりおぼつかなくはあらず、すべていと見所多く、かどかどしげなり。<BR>⏎
<P>⏎
383-384 二十に一つ二つぞ余りたまへりける。いはけなきほどならねば、片なりに飽かぬところなく、あざやかに、盛りの花と見えたまへり。限りなくもてかしづきたまへるに、かたほならず。げに<A HREF="#no26">親にては、心も惑はし</A><A NAME="te26">た</A>まひつべかりけり。<BR>⏎
 ただやはらかに愛敬づきらうたきことぞ、かの対の御方はまづ思ほし出でられける。もののたまふいらへなども、恥ぢらひたれど、またあまりおぼつかなくはあらず、すべていと見所多く、かどかどしげなり。<BR>⏎
 655 よき若人ども三十人ばかり、童六人、かたほなるなく、装束なども、例のうるはしきことは、目馴れて思さるべかめれば、引き違へ、心得ぬまでぞ好みそしたまへる。三条殿腹の大君を、春宮に参らせたまへるよりも、この御ことをば、ことに思ひおきてきこえたまへるも、宮の御おぼえありさまからなめり。<BR>⏎385 
d1656<P>⏎
text49657 <A NAME="in43">[第三段 中君と薫、手紙を書き交す]</A><BR>386 
d1658<P>⏎
cd10:5659-668 かくて後、二条院に、え心やすく渡りたまはず。軽らかなる御身ならねば、思すままに、昼のほどなどもえ出でたまはねば、やがて同じ南の町に、年ごろありしやうにおはしまして、暮るれば、またえ引き避きても渡りたまはずなどして、待ち遠なる折々あるを、<BR>⏎
<P>⏎
 「かからむとすることとは思ひしかど、さしあたりては、いとかくやは名残なかるべき。げに心あらむ人は、数ならぬ身を知らで、交じらふべき世にもあらざりけり」<BR>⏎
<P>⏎
 と返す返すも山路分け出でけむほど、うつつともおぼえず悔しく悲しければ、<BR>⏎
<P>⏎
 「なほいかで忍びて<A HREF="#k29">渡りなむ</A><A NAME="t29">。</A>むげに背くさまにはあらずとも、しばし心をも慰めばや。憎げにもてなしなどせばこそ、うたてもあらめ」<BR>⏎
<P>⏎
 など心一つに思ひあまりて、恥づかしけれど、中納言殿に文たてまつれたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
387-391 かくて後、二条院に、え心やすく渡りたまはず。軽らかなる御身ならねば、思すままに、昼のほどなどもえ出でたまはねば、やがて同じ南の町に、年ごろありしやうにおはしまして、暮るれば、またえ引き避きても渡りたまはずなどして、待ち遠なる折々あるを、<BR>⏎
 「かからむとすることとは思ひしかど、さしあたりては、いとかくやは名残なかるべき。げに心あらむ人は、数ならぬ身を知らで、交じらふべき世にもあらざりけり」<BR>⏎
 と返す返すも山路分け出でけむほど、うつつともおぼえず悔しく悲しければ、<BR>⏎
 「なほいかで忍びて<A HREF="#k29">渡りなむ</A><A NAME="t29">。</A>むげに背くさまにはあらずとも、しばし心をも慰めばや。憎げにもてなしなどせばこそ、うたてもあらめ」<BR>⏎
 など心一つに思ひあまりて、恥づかしけれど、中納言殿に文たてまつれたまふ。<BR>⏎
 669 「一日の御ことをば、阿闍梨の伝へたりしに、詳しく聞きはべりにき。かかる御心の名残なからましかば、いかに<A HREF="#k30">いとほしくと</A><A NAME="t30">思</A>ひたまへらるるにも、おろかならずのみなむ。<A HREF="#k31">さりぬべく</A><A NAME="t31">は</A>、みづからも」<BR>⏎392 
d1670<P>⏎
 671 と聞こえたまへり。<BR>⏎393 
d1672<P>⏎
cd2:1673-674 陸奥紙に、ひきつくろはずまめだち書きたまへるしも、いとをかしげなり。宮の御忌日に、例のことどもいと尊くせさせたまへりけるを、喜びたまへるさまの、おどろおどろしくはあらねど、げに思ひ知りたまへるなめりかし。例は、これよりたてまつる御返りをだに、つつましげに思ほして、はかばかしくも続けたまはぬを、「みづから」とさへのたまへるが、めづらしくうれしきに、心ときめきもしぬべし。<BR>⏎
<P>⏎
394 陸奥紙に、ひきつくろはずまめだち書きたまへるしも、いとをかしげなり。宮の御忌日に、例のことどもいと尊くせさせたまへりけるを、喜びたまへるさまの、おどろおどろしくはあらねど、げに思ひ知りたまへるなめりかし。例は、これよりたてまつる御返りをだに、つつましげに思ほして、はかばかしくも続けたまはぬを、「みづから」とさへのたまへるが、めづらしくうれしきに、心ときめきもしぬべし。<BR>⏎
 675 宮の今めかしく好みたちたまへるほどにて、思しおこたりけるも、げに心苦しく推し量らるれば、いとあはれにて、をかしやかなることもなき御文を、うちも置かず、ひき返しひき返し見ゐたまへり。御返りは、<BR>⏎395 
d1676<P>⏎
 677 「承りぬ。一日は、聖だちたるさまにて、ことさらに忍びはべしも、さ思ひたまふるやうはべるころほひにてなむ。名残とのたまはせたるこそ、すこし浅くなりにたるやうにと、恨めしく思うたまへらるれ。よろづはさぶらひてなむ。あなかしこ」<BR>⏎396 
d1678<P>⏎
cd2:1679-680 とすくよかに、白き色紙のこはごはしきにてあり。<BR>⏎
<P>⏎
397 とすくよかに、白き色紙のこはごはしきにてあり。<BR>⏎
text49681 <A NAME="in44">[第四段 薫、中君を訪問して慰める]</A><BR>398 
d1682<P>⏎
cd2:1683-684 さてまたの日の夕つ方ぞ渡りたまへる。人知れず思ふ心し添ひたれば、あいなく心づかひいたくせられて、なよよかなる御衣どもを、いとど匂はし添へたまへるは、あまりおどろおどろしきまであるに、丁子染の扇の、もてならしたまへる移り香などさへ、喩へむ方なくめでたし。<BR>⏎
<P>⏎
399 さてまたの日の夕つ方ぞ渡りたまへる。人知れず思ふ心し添ひたれば、あいなく心づかひいたくせられて、なよよかなる御衣どもを、いとど匂はし添へたまへるは、あまりおどろおどろしきまであるに、丁子染の扇の、もてならしたまへる移り香などさへ、喩へむ方なくめでたし。<BR>⏎
 685 女君も、あやしかりし夜のことなど、思ひ出でたまふ折々なきにしもあらねば、まめやかにあはれなる御心ばへの、人に似ずものしたまふを見るにつけても、「さてあらましを」とばかりは思ひやしたまふらむ。<BR>⏎400 
d1686<P>⏎
 687 いはけなきほどにしおはせねば、恨めしき人の御ありさまを思ひ比ぶるには、何事もいとどこよなく思ひ知られたまふにや、常に隔て多かるもいとほしく、「もの思ひ知らぬさまに思ひたまふらむ」など思ひたまひて、今日は、御簾の内に入れたてまつりたまひて、母屋の簾に几帳添へて、我はすこしひき入りて対面したまへり。<BR>⏎401 
d1688<P>⏎
cd2:1689-690 「わざと召しとはべらざりしかど、例ならず許させたまへりし喜びに、すなはちも参らまほしくはべりしを、宮渡らせたまふと承りしかば、折悪しくやはとて、今日になしはべりにける。さるは年ごろの心のしるしもやうやうあらはれはべるにや、隔てすこし薄らぎはべりにける御簾の内よ。めづらしくはべるわざかな」<BR>⏎
<P>⏎
402 「わざと召しとはべらざりしかど、例ならず許させたまへりし喜びに、すなはちも参らまほしくはべりしを、宮渡らせたまふと承りしかば、折悪しくやはとて、今日になしはべりにける。さるは年ごろの心のしるしもやうやうあらはれはべるにや、隔てすこし薄らぎはべりにける御簾の内よ。めづらしくはべるわざかな」<BR>⏎
 691 とのたまふに、なほいと恥づかしく、言ひ出でむ言葉もなき心地すれど、<BR>⏎403 
d1692<P>⏎
 693 「一日、うれしく聞きはべりし心の内を、例の、ただ結ぼほれながら過ぐしはべりなば、思ひ知る片端をだに、いかでかはと、口惜しさに」<BR>⏎404 
d1694<P>⏎
cd2:1695-696 といとつつましげにのたまふが、いたくしぞきて、絶え絶えほのかに聞こゆれば、心もとなくて、<BR>⏎
<P>⏎
405 といとつつましげにのたまふが、いたくしぞきて、絶え絶えほのかに聞こゆれば、心もとなくて、<BR>⏎
 697 「いと遠くもはべるかな。まめやかに聞こえさせ、承らまほしき世の御物語もはべるものを」<BR>⏎406 
d1698<P>⏎
cd2:1699-700 とのたまへば、げにと思して、すこしみじろき寄りたまふけはひを聞きたまふにも、ふと胸うちつぶるれど、さりげなくいとど静めたるさまして、宮の<A HREF="#k32">御心ばへ</A><A NAME="t32">、</A>思はずに<A HREF="#k33">浅う</A><A NAME="t33">お</A>はしけりとおぼしく、かつは言ひも疎め、また慰めも、かたがたにしづしづと聞こえたまひつつおはす。<BR>⏎
<P>⏎
407 とのたまへば、げにと思して、すこしみじろき寄りたまふけはひを聞きたまふにも、ふと胸うちつぶるれど、さりげなくいとど静めたるさまして、宮の<A HREF="#k32">御心ばへ</A><A NAME="t32">、</A>思はずに<A HREF="#k33">浅う</A><A NAME="t33">お</A>はしけりとおぼしく、かつは言ひも疎め、また慰めも、かたがたにしづしづと聞こえたまひつつおはす。<BR>⏎
text49701 <A NAME="in45">[第五段 中君、薫に宇治への同行を願う]</A><BR>408 
d1702<P>⏎
cd16:8703-718 女君は、人の御恨めしさなどは、うち出で語らひきこえたまふべきことにもあらねば、ただ<A HREF="#no27">世やは憂きなど</A><A NAME="te27">や</A>うに思はせて、言少なに紛らはしつつ、山里にあからさまに渡したまへとおぼしく、いとねむごろに思ひてのたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
 「それはしも、心一つにまかせては、え仕うまつるまじきことにはべり。なほ宮にただ心うつくしく<A HREF="#k34">聞こえさせたまひて</A><A NAME="t34">、</A>かの御けしきに従ひてなむよくはべるべき。さらずは、すこしも違ひ目ありて、心軽くもなど思しものせむに、いと悪しくはべりなむ。さだにあるまじくは、道のほども御送り迎へも、おりたちて仕うまつらむに、何の憚りかははべらむ。うしろやすく人に似ぬ心のほどは、宮も皆知らせたまへり」<BR>⏎
<P>⏎
 などは言ひながら、折々は、過ぎにし方の悔しさを忘るる折なく、<A HREF="#no28">ものにもがなや</A><A NAME="te28">と</A>取り返さまほしきと、ほのめかしつつ、やうやう暗くなりゆくまでおはするに、いとうるさくおぼえて、<BR>⏎
<P>⏎
 「さらば心地も悩ましくのみはべるを、またよろしく思ひたまへられむほどに、何事も」<BR>⏎
<P>⏎
 とて入りたまひぬるけしきなるが、いと口惜しければ、<BR>⏎
<P>⏎
 「さてもいつばかり思し立つべきにか。いとしげくはべし道の草も、すこしうち払はせはべらむかし」<BR>⏎
<P>⏎
 と心とりに聞こえたまへば、しばし入りさして、<BR>⏎
<P>⏎
 「この月は過ぎぬめれば、朔日のほどにも、とこそは思ひはべれ。ただいと忍びてこそよからめ。何か世の許しなどことことしく」<BR>⏎
<P>⏎
409-416 女君は、人の御恨めしさなどは、うち出で語らひきこえたまふべきことにもあらねば、ただ<A HREF="#no27">世やは憂きなど</A><A NAME="te27">や</A>うに思はせて、言少なに紛らはしつつ、山里にあからさまに渡したまへとおぼしく、いとねむごろに思ひてのたまふ。<BR>⏎
 「それはしも、心一つにまかせては、え仕うまつるまじきことにはべり。なほ宮にただ心うつくしく<A HREF="#k34">聞こえさせたまひて</A><A NAME="t34">、</A>かの御けしきに従ひてなむよくはべるべき。さらずは、すこしも違ひ目ありて、心軽くもなど思しものせむに、いと悪しくはべりなむ。さだにあるまじくは、道のほども御送り迎へも、おりたちて仕うまつらむに、何の憚りかははべらむ。うしろやすく人に似ぬ心のほどは、宮も皆知らせたまへり」<BR>⏎
 などは言ひながら、折々は、過ぎにし方の悔しさを忘るる折なく、<A HREF="#no28">ものにもがなや</A><A NAME="te28">と</A>取り返さまほしきと、ほのめかしつつ、やうやう暗くなりゆくまでおはするに、いとうるさくおぼえて、<BR>⏎
 「さらば心地も悩ましくのみはべるを、またよろしく思ひたまへられむほどに、何事も」<BR>⏎
 とて入りたまひぬるけしきなるが、いと口惜しければ、<BR>⏎
 「さてもいつばかり思し立つべきにか。いとしげくはべし道の草も、すこしうち払はせはべらむかし」<BR>⏎
 と心とりに聞こえたまへば、しばし入りさして、<BR>⏎
 「この月は過ぎぬめれば、朔日のほどにも、とこそは思ひはべれ。ただいと忍びてこそよからめ。何か世の許しなどことことしく」<BR>⏎
 719 とのたまふ声の、「いみじくらうたげなるかな」と、常よりも昔思ひ出でらるるに、えつつみあへで、寄りゐたまへる<A HREF="#k35">柱もとの</A><A NAME="t35">簾</A>の下より、やをらおよびて、御袖をとらへつ。<BR>⏎417 
d1720<P>⏎
text49721 <A NAME="in46">[第六段 薫、中君に迫る]</A><BR>418 
d1722<P>⏎
cd2:1723-724 女「さりやあな心憂」と思ふに、何事かは言はれむ、ものも言はで、いとど引き入りたまへば、それにつきていと馴れ顔に、半らは内に入りて添ひ臥したまへり。<BR>⏎
<P>⏎
419 女「さりやあな心憂」と思ふに、何事かは言はれむ、ものも言はで、いとど引き入りたまへば、それにつきていと馴れ顔に、半らは内に入りて添ひ臥したまへり。<BR>⏎
 725 「あらずや。忍びてはよかるべく思すこともありけるがうれしきは、ひが耳か、聞こえさせむとぞ。疎々しく思すべきにもあらぬを、心憂のけしきや」<BR>⏎420 
d1726<P>⏎
 727 と怨みたまへば、いらへすべき心地もせず、思はずに憎く思ひなりぬるを、せめて思ひしづめて、<BR>⏎421 
d1728<P>⏎
 729 「思ひの外なりける御心のほどかな。人の思ふらむことよ。あさまし」<BR>⏎422 
d1730<P>⏎
 731 とあはめて、泣きぬべきけしきなる、すこしはことわりなれば、いとほしけれど、<BR>⏎423 
d1732<P>⏎
 733 「これは咎あるばかりのことかは。かばかりの対面は、いにしへをも思し出でよかし。過ぎにし人の御許しもありしものを。いとこよなく思しけるこそ、なかなかうたてあれ。好き好きしくめざましき心はあらじと、心やすく思ほせ」<BR>⏎424 
d1734<P>⏎
cd4:2735-738 とていとのどやかにはもてなしたまへれど、月ごろ悔しと思ひわたる心のうちの、苦しきまでなりゆくさまを、つくづくと言ひ続けたまひて、許すべきけしきにもあらぬに、せむかたなく、いみじとも世の常なり。なかなか、むげに心知らざらむ人よりも、恥づかしく心づきなくて、泣きたまひぬるを、<BR>⏎
<P>⏎
 「こはなぞ。あな若々し」<BR>⏎
<P>⏎
425-426 とていとのどやかにはもてなしたまへれど、月ごろ悔しと思ひわたる心のうちの、苦しきまでなりゆくさまを、つくづくと言ひ続けたまひて、許すべきけしきにもあらぬに、せむかたなく、いみじとも世の常なり。なかなか、むげに心知らざらむ人よりも、恥づかしく心づきなくて、泣きたまひぬるを、<BR>⏎
 「こはなぞ。あな若々し」<BR>⏎
 739 とは言ひながら、言ひ知らずらうたげに、心苦しきものから、用意深く恥づかしげなるけはひなどの、見しほどよりも、こよなくねびまさりたまひにけるなどを見るに、「心からよそ人にしなして、<A HREF="#k36">かく</A><A NAME="t36">や</A>すからずものを思ふこと」と悔しきにも、またげに音は泣かれけり。<BR>⏎427 
d1740<P>⏎
text49741 <A NAME="in47">[第七段 薫、自制して退出する]</A><BR>428 
d1742<P>⏎
 743 近くさぶらふ女房二人ばかりあれど、すずろなる男のうち入り来たるならばこそは、こはいかなることぞとも、参り寄らめ、疎からず聞こえ交はしたまふ御仲らひなめれば、さるやうこそはあらめと思ふに、かたはらいたければ、知らず顔にてやをらしぞきぬるに、いとほしきや。<BR>⏎429 
d1744<P>⏎
 745 男君は、いにしへを悔ゆる心の忍びがたさなども、いと静めがたかりぬべかめれど、昔だにありがたかりし心の用意なれば、なほいと思ひのままにももてなしきこえたまはざりけり。かやうの筋は、こまかにもえなむまねび続けざりける。かひなきものから、人目のあいなきを思へば、よろづに思ひ返して出でたまひぬ。<BR>⏎430 
d1746<P>⏎
 747 まだ宵と思ひつれど、暁近うなりにけるを、見とがむる人もやあらむと、わづらはしきも、女の御ためのいとほしきぞかし。<BR>⏎431 
d1748<P>⏎
cd4:2749-752 「悩ましげに聞きわたる御心地は、ことわりなりけり。いと恥づかしと思したりつる腰のしるしに、多くは心苦しくおぼえてやみぬるかな。例のをこがましの心や」と思へど、「情けなからむことは、なほいと本意なかるべし。またたちまちのわが心の乱れにまかせて、あながちなる心をつかひて後、心やすくしもはあらざらむものから、わりなく忍びありかむほども心尽くしに、女のかたがた思し乱れむことよ」<BR>⏎
<P>⏎
 などさかしく思ふにせかれず、<A HREF="#no29">今の間も恋しき</A><A NAME="te29">ぞ</A>わりなかりける。さらに見ではえあるまじくおぼえたまふも、返す返すあやにくなる心なりや。<BR>⏎
<P>⏎
432-433 「悩ましげに聞きわたる御心地は、ことわりなりけり。いと恥づかしと思したりつる腰のしるしに、多くは心苦しくおぼえてやみぬるかな。例のをこがましの心や」と思へど、「情けなからむことは、なほいと本意なかるべし。またたちまちのわが心の乱れにまかせて、あながちなる心をつかひて後、心やすくしもはあらざらむものから、わりなく忍びありかむほども心尽くしに、女のかたがた思し乱れむことよ」<BR>⏎
 などさかしく思ふにせかれず、<A HREF="#no29">今の間も恋しき</A><A NAME="te29">ぞ</A>わりなかりける。さらに見ではえあるまじくおぼえたまふも、返す返すあやにくなる心なりや。<BR>⏎
text49753 <H4>第五章 中君の物語 中君、薫の後見に感謝しつつも苦悩す</H4>434 
text49754 <A NAME="in51">[第一段 翌朝、薫、中君に手紙を書く]</A><BR>435 
d1755<P>⏎
 756 昔よりはすこし細やぎて、あてにらうたかりつるけはひなどは、立ち離れたりともおぼえず、身に添ひたる心地して、さらに異事もおぼえずなりにたり。<BR>⏎436 
d1757<P>⏎
cd2:1758-759 「宇治にいと渡らまほしげに思いためるを、さもや渡しきこえてまし」など思へど、「まさに宮は許したまひてむや。さりとて、忍びてはた、いと便なからむ。<A HREF="#k37">いかさまにして</A><A NAME="t37">か</A>は、人目見苦しからで、思ふ心のゆくべき」と、心もあくがれて眺め臥したまへり。<BR>⏎
<P>⏎
437 「宇治にいと渡らまほしげに思いためるを、さもや渡しきこえてまし」など思へど、「まさに宮は許したまひてむや。さりとて、忍びてはた、いと便なからむ。<A HREF="#k37">いかさまにして</A><A NAME="t37">か</A>は、人目見苦しからで、思ふ心のゆくべき」と、心もあくがれて眺め臥したまへり。<BR>⏎
 760 まだいと深き朝に御文あり。例の、うはべはけざやかなる立文にて、<BR>⏎438 
d1761<P>⏎
cd3:1762-764 「いたづらに分けつる道の露しげみ<BR>⏎
  昔おぼゆる秋の空かな<BR>⏎
<P>⏎
439 「いたづらに分けつる道の露しげみ<BR>  昔おぼゆる秋の空かな<BR>⏎
 765 <A HREF="#no30">御けしきの心憂さ</A><A NAME="te30">は</A>、ことわり知らぬつらさのみなむ。聞こえさせむ方なく」<BR>⏎440 
d1766<P>⏎
 767 とあり。御返しなからむも、人の、例ならずと見とがむべきを、いと苦しければ、<BR>⏎441 
d1768<P>⏎
 769 「承りぬ。いと悩ましくて、え聞こえさせず」<BR>⏎442 
d1770<P>⏎
 771 とばかり書きつけたまへるを、「あまり言少ななるかな」とさうざうしくて、をかしかりつる御けはひのみ恋しく思ひ出でらる。<BR>⏎443 
d1772<P>⏎
 773 すこし世の中をも知りたまへるけにや、さばかりあさましくわりなしとは思ひたまへりつるものから、ひたぶるにいぶせくなどはあらで、いとらうらうじく恥づかしげなるけしきも添ひて、さすがになつかしく言ひこしらへなどして、出だしたまへるほどの心ばへなどを思ひ出づるも、ねたく悲しく、さまざまに心にかかりて、わびしくおぼゆ。何事も、いにしへにはいと多くまさりて思ひ出でらる。<BR>⏎444 
d1774<P>⏎
cd4:2775-778 「何かは。この宮離れ果てたまひなば、我を頼もし人にしたまふべきにこそはあめれ。さてもあらはれて心やすきさまにえあらじを、忍びつつまた思ひます人なき、心のとまりにてこそはあらめ」<BR>⏎
<P>⏎
 などただこの事のみ、つとおぼゆるぞ、けしからぬ心なるや。さばかり心深げにさかしがりたまへど、男といふものの心憂かりけることよ。亡き人の御悲しさは、言ふかひなきことにて、いとかく苦しきまではなかりけり。これはよろづにぞ思ひめぐらされたまひける。<BR>⏎
<P>⏎
445-446 「何かは。この宮離れ果てたまひなば、我を頼もし人にしたまふべきにこそはあめれ。さてもあらはれて心やすきさまにえあらじを、忍びつつまた思ひます人なき、心のとまりにてこそはあらめ」<BR>⏎
 などただこの事のみ、つとおぼゆるぞ、けしからぬ心なるや。さばかり心深げにさかしがりたまへど、男といふものの心憂かりけることよ。亡き人の御悲しさは、言ふかひなきことにて、いとかく苦しきまではなかりけり。これはよろづにぞ思ひめぐらされたまひける。<BR>⏎
 779 「今日は、宮渡らせたまひぬ」<BR>⏎447 
d1780<P>⏎
cd2:1781-782 など人の言ふを聞くにも、後見の心は失せて、胸<A HREF="#k38">うちつぶれて</A><A NAME="t38">、</A>いとうらやましくおぼゆ。<BR>⏎
<P>⏎
448 など人の言ふを聞くにも、後見の心は失せて、胸<A HREF="#k38">うちつぶれて</A><A NAME="t38">、</A>いとうらやましくおぼゆ。<BR>⏎
text49783 <A NAME="in52">[第二段 匂宮、帰邸して、薫の移り香に不審を抱く]</A><BR>449 
d1784<P>⏎
 785 宮は、日ごろになりにけるは、わが心さへ恨めしく思されて、にはかに<A HREF="#k39">渡りたまへる</A><A NAME="t39">な</A>りけり。<BR>⏎450 
d1786<P>⏎
 787 「何かは、心隔てたるさまにも見えたてまつらじ。山里にと思ひ立つにも、頼もし人に思ふ人も、疎ましき心添ひたまへりけり」<BR>⏎451 
d1788<P>⏎
 789 と見たまふに、世の中いと所狭く思ひなられて、「<A HREF="#no31">なほいと憂き身なりけり</A><A NAME="te31">」</A>と、「ただ消えせぬほどは、あるにまかせて、おいらかならむ」と思ひ果てて、いとらうたげに、うつくしきさまにもてなしてゐたまへれば、いとどあはれにうれしく思されて、日ごろのおこたりなど、限りなくのたまふ。<BR>⏎452 
d1790<P>⏎
cd10:5791-800 御腹もすこしふくらかになりにたるに、かの恥ぢたまふしるしの帯の引き結はれたるほどなど、いとあはれに、まだかかる人を近くても見たまはざりければ、めづらしくさへ思したり。うちとけぬ所にならひたまひて、よろづのこと、心やすくなつかしく思さるるままに、おろかならぬ事どもを、尽きせず<A HREF="#k40">契りのたまふ</A><A NAME="t40">を</A>聞くにつけても、かくのみ言よきわざにやあらむと、あながちなりつる人の御けしきも思ひ出でられて、年ごろあはれなる心ばへなどは思ひわたりつれど、かかる方ざまにては、あれをもあるまじきことと思ふにぞ、この御行く先の頼めは、いでやと思ひながらも、すこし耳とまりける。<BR>⏎
<P>⏎
 「さてもあさましくたゆめたゆめて、入り来たりしほどよ。昔の人に疎くて過ぎにしことなど語りたまひし心ばへは、げにありがたかりけりと、なほうちとくべくはた、あらざりけりかし」<BR>⏎
<P>⏎
 などいよいよ心づかひせらるるにも、久しくとだえたまはむことは、いともの恐ろしかるべくおぼえたまへば、言に出でては言はねど、過ぎぬる方よりは、すこしまつはしざまにもてなしたまへるを、宮はいとど限りなくあはれと思ほしたるに、かの人の御移り香の、いと深くしみたまへるが、世の常の香の香に入れ薫きしめたるにも似ず、しるき匂ひなるを、その道の人にしおはすれば、あやしととがめ出でたまひて、いかなりしことぞと、けしきとりたまふに、ことのほかにもて離れぬことにしあれば、言はむ方なくわりなくて、いと苦しと思したるを、<BR>⏎
<P>⏎
 「さればよ。かならずさることはありなむ。よもただには思はじ、と思ひわたることぞかし」<BR>⏎
<P>⏎
 と御心騷ぎけり。さるは単衣の御衣なども、脱ぎ替へたまひてけれど、あやしく心より外にぞ身にしみにける。<BR>⏎
<P>⏎
453-457 御腹もすこしふくらかになりにたるに、かの恥ぢたまふしるしの帯の引き結はれたるほどなど、いとあはれに、まだかかる人を近くても見たまはざりければ、めづらしくさへ思したり。うちとけぬ所にならひたまひて、よろづのこと、心やすくなつかしく思さるるままに、おろかならぬ事どもを、尽きせず<A HREF="#k40">契りのたまふ</A><A NAME="t40">を</A>聞くにつけても、かくのみ言よきわざにやあらむと、あながちなりつる人の御けしきも思ひ出でられて、年ごろあはれなる心ばへなどは思ひわたりつれど、かかる方ざまにては、あれをもあるまじきことと思ふにぞ、この御行く先の頼めは、いでやと思ひながらも、すこし耳とまりける。<BR>⏎
 「さてもあさましくたゆめたゆめて、入り来たりしほどよ。昔の人に疎くて過ぎにしことなど語りたまひし心ばへは、げにありがたかりけりと、なほうちとくべくはた、あらざりけりかし」<BR>⏎
 などいよいよ心づかひせらるるにも、久しくとだえたまはむことは、いともの恐ろしかるべくおぼえたまへば、言に出でては言はねど、過ぎぬる方よりは、すこしまつはしざまにもてなしたまへるを、宮はいとど限りなくあはれと思ほしたるに、かの人の御移り香の、いと深くしみたまへるが、世の常の香の香に入れ薫きしめたるにも似ず、しるき匂ひなるを、その道の人にしおはすれば、あやしととがめ出でたまひて、いかなりしことぞと、けしきとりたまふに、ことのほかにもて離れぬことにしあれば、言はむ方なくわりなくて、いと苦しと思したるを、<BR>⏎
 「さればよ。かならずさることはありなむ。よもただには思はじ、と思ひわたることぞかし」<BR>⏎
 と御心騷ぎけり。さるは単衣の御衣なども、脱ぎ替へたまひてけれど、あやしく心より外にぞ身にしみにける。<BR>⏎
 801 「かばかりにては、残りありてしもあらじ」<BR>⏎458 
d1802<P>⏎
cd2:1803-804 とよろづに聞きにくくのたまひ続くるに、心憂くて、身ぞ置き所なき。<BR>⏎
<P>⏎
459 とよろづに聞きにくくのたまひ続くるに、心憂くて、身ぞ置き所なき。<BR>⏎
 805 「思ひきこゆるさまことなるものを、我こそ先になど、かやうにうち背く際はことにこそあれ。また御心おきたまふばかりのほどやは経ぬる。思ひの外に憂かりける御心かな」<BR>⏎460 
d1806<P>⏎
cd12:5807-818 とすべてまねぶべくもあらず、いとほしげに聞こえ<A HREF="#k41">たまへど</A><A NAME="t41">、</A>ともかくもいらへたまはぬさへ、いとねたくて、<BR>⏎
<P>⏎
 「また人に馴れける袖の移り香を<BR>⏎
  わが身にしめて恨みつるかな」<BR>⏎
<P>⏎
 女は、あさましくのたまひ続くるに、言ふべき方もなきを、いかがは、とて<BR>⏎
<P
>⏎
 「みなれぬる中の衣と頼めしを<BR>⏎
  かばかりにてやかけ離れなむ」<BR>⏎
<P>⏎
 とてうち泣きたまへるけしきの、限りなくあはれなるを見るにも、「かかればぞかし」と、いと心やましくて、我もほろほろとこぼしたまふぞ、色めかしき御心なるや。まことにいみじき過ちありとも、ひたぶるにはえぞ疎み果つまじく、らうたげに心苦しきさまのしたまへれば、えも怨み果てたまはず、のたまひさしつつ、かつはこしらへきこえたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
461-465 とすべてまねぶべくもあらず、いとほしげに聞こえ<A HREF="#k41">たまへど</A><A NAME="t41">、</A>ともかくもいらへたまはぬさへ、いとねたくて、<BR>⏎
 「また人に馴れける袖の移り香を<BR>  わが身にしめて恨みつるかな」<BR>⏎
 女は、あさましくのたまひ続くるに、言ふべき方もなきを、いかがは、とて<BR>⏎
 「みなれぬる中の衣と頼めしを<BR>  かばかりにてやかけ離れなむ」<BR>⏎
 とてうち泣きたまへるけしきの、限りなくあはれなるを見るにも、「かかればぞかし」と、いと心やましくて、我もほろほろとこぼしたまふぞ、色めかしき御心なるや。まことにいみじき過ちありとも、ひたぶるにはえぞ疎み果つまじく、らうたげに心苦しきさまのしたまへれば、えも怨み果てたまはず、のたまひさしつつ、かつはこしらへきこえたまふ。<BR>⏎
text49819 <A NAME="in53">[第三段 匂宮、中君の素晴しさを改めて認識]</A><BR>466 
d1820<P>⏎
 821 またの日も、心のどかに大殿籠もり起きて、御手水、御粥などもこなたに参らす。御しつらひなども、さばかりかかやくばかり、高麗、唐土の錦綾を裁ち重ねたる目移しには、世の常にうち馴れたる心地して、人びとの姿も、萎えばみたるうち混じりなどして、いと静かに見まはさる。<BR>⏎467 
d1822<P>⏎
 823 君は、なよよかなる薄色どもに、撫子の細長重ねて、うち乱れたまへる御さまの、何事もいとうるはしく、ことことしきまで盛りなる人の<A HREF="#k42">御匂ひ</A><A NAME="t42">、</A>何くれに<A HREF="#k43">思ひ比ぶれど</A><A NAME="t43">、</A>気劣りてもおぼえず、なつかしくをかしきも、心ざしのおろかならぬに恥なきなめりかし。まろにうつくしく肥えたりし人の、すこし細やぎたるに、色はいよいよ白くなりて、あてにをかしげなり。<BR>⏎468 
d1824<P>⏎
 825 かかる御移り香などのいちじるからぬ折だに、愛敬づきらうたきところなどの、なほ人には多くまさりて思さるるままには、<BR>⏎469 
d1826<P>⏎
 827 「これをはらからなどにはあらぬ人の、気近く言ひかよひて、事に触れつつ、おのづから声けはひをも聞き<A HREF="#k44">見馴れむ</A><A NAME="t44">は</A>、いかでかただにも思はむ。かならずしか思しぬべきことなるを」<BR>⏎470 
d1828<P>⏎
cd2:1829-830 とわがいと隈なき御心ならひに思し知らるれば、常に心をかけて、「しるきさまなる文などやある」と、近き御厨子、小唐櫃などやうのものをも、さりげなくて探したまへど、さるものもなし。ただいとすくよかに言少なにて、なほなほしきなどぞ、わざともなけれど、ものにとりまぜなどしてもあるを、「あやし。なほいとかうのみはあらじかし」と疑はるるに、いとど今日はやすからず思さるる、ことわりなりかし。<BR>⏎
<P>⏎
471 とわがいと隈なき御心ならひに思し知らるれば、常に心をかけて、「しるきさまなる文などやある」と、近き御厨子、小唐櫃などやうのものをも、さりげなくて探したまへど、さるものもなし。ただいとすくよかに言少なにて、なほなほしきなどぞ、わざともなけれど、ものにとりまぜなどしてもあるを、「あやし。なほいとかうのみはあらじかし」と疑はるるに、いとど今日はやすからず思さるる、ことわりなりかし。<BR>⏎
 831 「かの人のけしきも、心あらむ女の、あはれと思ひぬべきを、などてかは、ことの他にはさし放たむ。いとよきあはひなれば、かたみにぞ思ひ交はすらむかし」<BR>⏎472 
d1832<P>⏎
cd2:1833-834 と思ひやるぞ、わびしく腹立たしくねたかりける。なほいとやすからざりければ、その日もえ出でたまはず。六条院には、御文をぞ二度三度たてまつりたまふを、<BR>⏎
<P>⏎
473 と思ひやるぞ、わびしく腹立たしくねたかりける。なほいとやすからざりければ、その日もえ出でたまはず。六条院には、御文をぞ二度三度たてまつりたまふを、<BR>⏎
 835 「いつのほどに積もる御言の葉ならむ」<BR>⏎474 
d1836<P>⏎
 837 とつぶやく老い人どもあり。<BR>⏎475 
d1838<P>⏎
text49839 <A NAME="in54">[第四段 薫、中君に衣料を贈る]</A><BR>476 
d1840<P>⏎
 841 中納言の君は、かく宮の籠もりおはするを聞くにしも、心やましくおぼゆれど、<BR>⏎477 
d1842<P>⏎
 843 「わりなしや。これはわが心のをこがましく悪しきぞかし。うしろやすくと思ひそめてしあたりのことを、かくは思ふべしや」<BR>⏎478 
d1844<P>⏎
cd2:1845-846 としひてぞ思ひ返して、「さはいへど、え思し捨てざめりかし」と、うれしくもあり、「人びとのけはひなどの、なつかしきほどに萎えばみためりしを」と思ひやりたまひて、母宮の御方に参りたまひて、<BR>⏎
<P>⏎
479 としひてぞ思ひ返して、「さはいへど、え思し捨てざめりかし」と、うれしくもあり、「人びとのけはひなどの、なつかしきほどに萎えばみためりしを」と思ひやりたまひて、母宮の御方に参りたまひて、<BR>⏎
 847 「よろしきまうけのものどもやさぶらふ。使ふべきこと」<BR>⏎480 
d1848<P>⏎
 849 <A HREF="#k45">など</A><A NAME="t45">申</A>したまへば、<BR>⏎481 
d1850<P>⏎
 851 「例の、立たむ月の法事の料に、白きものどもやあらむ。染めたるなどは、今はわざともしおかぬを、急ぎてこそせさせめ」<BR>⏎482 
d1852<P>⏎
 853 とのたまへば、<BR>⏎483 
d1854<P>⏎
 855 「何か。ことことしき用にもはべらず。さぶらはむにしたがひて」<BR>⏎484 
d1856<P>⏎
cd5:2857-861 とて御匣殿などに問はせたまひて、女の装束どもあまた領に、細長どもも、ただあるにしたがひて、ただなる絹綾などとり具したまふ。みづからの御料と思しきには、わが御料にありける紅の擣目なべて<A HREF="#k46">ならぬ</A><A NAME="t46">に</A>、白き綾どもなど、あまた重ねたまへるに、袴の具はなかりけるに、いかにしたりけるにか、腰の一つあるを、引き結び加へて、<BR>⏎
<P>⏎
 「結びける契りことなる下紐を<BR>⏎
  ただ一筋に恨みやはする」<BR>⏎
<P>⏎
485-486 とて御匣殿などに問はせたまひて、女の装束どもあまた領に、細長どもも、ただあるにしたがひて、ただなる絹綾などとり具したまふ。みづからの御料と思しきには、わが御料にありける紅の擣目なべて<A HREF="#k46">ならぬ</A><A NAME="t46">に</A>、白き綾どもなど、あまた重ねたまへるに、袴の具はなかりけるに、いかにしたりけるにか、腰の一つあるを、引き結び加へて、<BR>⏎
 「結びける契りことなる下紐を<BR>  ただ一筋に恨みやはする」<BR>⏎
 862 大輔の君とて、大人しき人の、睦ましげなるにつかはす。<BR>⏎487 
d1863<P>⏎
 864 「とりあへぬさまの見苦しきを、つきづきしくもて隠して」<BR>⏎488 
d1865<P>⏎
 866 などのたまひて、御料のは、しのびやかなれど、筥にて包みも異なり。御覧ぜさせねど、さきざきも、かやうなる御心しらひは、常のことにて目馴れにたれば、けしきばみ返しなど、ひこしろふべきにもあらねば、いかがとも思ひわづらはで、人びとにとり散らしなどしたれば、おのおのさし縫ひなどす。<BR>⏎489 
d1867<P>⏎
 868 若き人びとの、御前近く仕うまつるなどをぞ、取り分きては繕ひたつべき。下仕へどもの、いたく萎えばみたりつる姿どもなどに、白き袷などにて、掲焉ならぬぞなかなかめやすかりける。<BR>⏎490 
d1869<P>⏎
text49870 <A NAME="in55">[第五段 薫、中君をよく後見す]</A><BR>491 
d1871<P>⏎
 872 誰かは、何事をも後見かしづききこゆる人のあらむ。宮は、おろかならぬ御心ざしのほどにて、「よろづをいかで」と思しおきてたれど、こまかなるうちうちのことまでは、いかがは思し寄らむ。限りもなく人にのみかしづかれてならはせたまへれば、世の中うちあはずさびしきこと、いかなるものとも知りたまはぬ、ことわりなり。<BR>⏎492 
d1873<P>⏎
 874 艶にそぞろ寒く、花の露をもてあそびて世は過ぐすべきものと思したるほどよりは、思す人のためなれば、おのづから折節につけつつ、まめやかなることまでも扱ひ知らせたまふこそ、ありがたくめづらかなることなめれば、「いでや」など、誹らはしげに聞こゆる御乳母などもありけり。<BR>⏎493 
d1875<P>⏎
cd2:1876-877 童べなどの、なりあざやかならぬ、折々うち混じりなどしたるをも、女君は、いと恥づかしく、「なかなかなる住まひにもあるかな」など、人知れずは思すこと<A HREF="#k47">なきにしも</A><A NAME="t47">あ</A>らぬに、ましてこのころは、世に響きたる御ありさまのはなやかさに、かつは「宮のうちの人の見思はむことも、人げなきこと」と、思し乱るることも添ひて嘆かしきを、中納言の君は、いとよく推し量りきこえたまへば、疎からむあたりには、見苦しくくだくだしかりぬべき心しらひのさまも、あなづるとはなけれど、「何かは、ことことしくしたて顔ならむも、なかなかおぼえなく見とがむる人やあらむ」と、思すなりけり。<BR>⏎
<P>⏎
494 童べなどの、なりあざやかならぬ、折々うち混じりなどしたるをも、女君は、いと恥づかしく、「なかなかなる住まひにもあるかな」など、人知れずは思すこと<A HREF="#k47">なきにしも</A><A NAME="t47">あ</A>らぬに、ましてこのころは、世に響きたる御ありさまのはなやかさに、かつは「宮のうちの人の見思はむことも、人げなきこと」と、思し乱るることも添ひて嘆かしきを、中納言の君は、いとよく推し量りきこえたまへば、疎からむあたりには、見苦しくくだくだしかりぬべき心しらひのさまも、あなづるとはなけれど、「何かは、ことことしくしたて顔ならむも、なかなかおぼえなく見とがむる人やあらむ」と、思すなりけり。<BR>⏎
 878 今ぞまた、例のめやすきさまなるものどもなどせさせたまひて、御小袿織らせ、綾の料賜はせなどしたまひける。この君しもぞ、宮に劣りきこえたまはず、さま異にかしづきたてられて、かたはなるまで心おごりもし、世を思ひ澄まして、あてなる心ばへはこよなけれど、故親王の御山住みを見そめたまひしよりぞ、「さびしき所のあはれさはさま異なりけり」と、心苦しく思されて、なべての世をも思ひめぐらし、深き情けをもならひたまひにける。いとほしの人ならはしや、とぞ。<BR>⏎495 
d1879<P>⏎
text49880 <A NAME="in56">[第六段 薫と中君の、それぞれの苦悩]</A><BR>496 
d1881<P>⏎
cd2:1882-883 「かくてなほいかでうしろやすく大人しき人にてやみなむ」と思ふにも、したがはず、心にかかりて苦しければ、御文などを、ありしよりはこまやかにて、ともすれば、忍びあまりたるけしき見せつつ聞こえたまふを、女君、いとわびしきこと添ひたる身と思し嘆かる。<BR>⏎
<P>⏎
497 「かくてなほいかでうしろやすく大人しき人にてやみなむ」と思ふにも、したがはず、心にかかりて苦しければ、御文などを、ありしよりはこまやかにて、ともすれば、忍びあまりたるけしき見せつつ聞こえたまふを、女君、いとわびしきこと添ひたる身と思し嘆かる。<BR>⏎
 884 「ひとへに知らぬ人なれば、あなものぐるほしと、はしたなめさし放たむにもやすかるべきを、昔よりさま異なる頼もし人にならひ来て、今さらに仲悪しくならむも、なかなか人目悪しかるべし。さすがに、あさはかにもあらぬ御心ばへありさまの、あはれを知らぬにはあらず。さりとて、心交はし顔にあひしらはむもいとつつましく、いかがはすべからむ」<BR>⏎498 
d1885<P>⏎
cd2:1886-887 とよろづに思ひ乱れたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
499 とよろづに思ひ乱れたまふ。<BR>⏎
 888 さぶらふ人びとも、すこしものの言ふかひありぬべく若やかなるは、皆あたらし、見馴れたるとては、かの山里の古女ばらなり。思ふ心をも、同じ心になつかしく言ひあはすべき人のなきままには、故姫君を思ひ出できこえたまはぬ折なし。<BR>⏎500 
d1889<P>⏎
 890 「おはせましかば、この人もかかる心を添へたまはましや」<BR>⏎501 
d1891<P>⏎
cd2:1892-893 といと悲しく、宮のつらくなりたまはむ嘆きよりも、このこといと苦しくおぼゆ。<BR>⏎
<P>⏎
502 といと悲しく、宮のつらくなりたまはむ嘆きよりも、このこといと苦しくおぼゆ。<BR>⏎
text49894 <H4>第六章 薫の物語 中君から異母妹の浮舟の存在を聞く</H4>503 
text49895 <A NAME="in61">[第一段 薫、二条院の中君を訪問]</A><BR>504 
d1896<P>⏎
 897 男君も、しひて思ひわびて、例の、しめやかなる夕つ方おはしたり。やがて端に御茵さし出でさせたまひて、「いと悩ましきほどにてなむ、え聞こえさせぬ」と、人して聞こえ出だしたまへるを聞くに、いみじくつらくて、涙落ちぬべきを、人目につつめば、しひて紛らはして、<BR>⏎505 
d1898<P>⏎
 899 「悩ませたまふ折は、知らぬ僧なども近く参り寄るを。医師などの列にても、御簾の内にはさぶらふまじくやは。かく人伝てなる御消息なむ、かひなき心地する」<BR>⏎506 
d1900<P>⏎
cd6:3901-906 とのたまひていとものしげなる御けしきなるを、一夜もののけしき見し人びと、<BR>⏎
<P>⏎
 「げにいと見苦しくはべるめり」<BR>⏎
<P>⏎
 とて母屋の御簾うち下ろして、夜居の僧の座に入れたてまつるを、女君、まことに心地もいと苦しけれど、人のかく言ふに、掲焉にならむも、またいかが、とつつましければ、もの憂ながらすこしゐざり出でて、対面したまへり。<BR>⏎
<P>⏎
507-509 とのたまひていとものしげなる御けしきなるを、一夜もののけしき見し人びと、<BR>⏎
 「げにいと見苦しくはべるめり」<BR>⏎
 とて母屋の御簾うち下ろして、夜居の僧の座に入れたてまつるを、女君、まことに心地もいと苦しけれど、人のかく言ふに、掲焉にならむも、またいかが、とつつましければ、もの憂ながらすこしゐざり出でて、対面したまへり。<BR>⏎
 907 いとほのかに、時々もののたまふ御けはひの、昔人の悩みそめたまへりしころ、まづ思ひ出でらるるも、ゆゆしく悲しくて、かきくらす心地したまへば、とみにものも言はれず、ためらひてぞ聞こえたまふ。<BR>⏎510 
d1908<P>⏎
 909 こよなく奥まりたまへるもいとつらくて、簾の下より几帳をすこしおし入れて、例の、なれなれしげに近づき寄りたまふが、いと苦しければ、わりなしと思して、少将といひし人を近く呼び寄せて、<BR>⏎511 
d1910<P>⏎
 911 「胸なむ痛き。しばしおさへて」<BR>⏎512 
d1912<P>⏎
 913 とのたまふを聞きて、<BR>⏎513 
d1914<P>⏎
 915 「胸はおさへたるは、いと苦しくはべるものを」<BR>⏎514 
d1916<P>⏎
 917 とうち嘆きて、ゐ直りたまふほども、げにぞ下やすからぬ。<BR>⏎515 
d1918<P>⏎
cd2:1919-920 「いかなればかくしも常に悩ましくは思さるらむ。人に問ひはべりしかば、しばしこそ心地は悪しかなれ、さてまた、よろしき折あり、などこそ教へはべしか。あまり若々しくもてなさせたまふなめり」<BR>⏎
<P>⏎
516 「いかなればかくしも常に悩ましくは思さるらむ。人に問ひはべりしかば、しばしこそ心地は悪しかなれ、さてまた、よろしき折あり、などこそ教へはべしか。あまり若々しくもてなさせたまふなめり」<BR>⏎
 921 とのたまふに、いと恥づかしくて、<BR>⏎517 
d1922<P>⏎
 923 「胸は、いつともなくかくこそははべれ。昔の人もさこそはものしたまひしか。長かるまじき人のするわざとか、人も言ひはべるめる」<BR>⏎518 
d1924<P>⏎
cd2:1925-926 とぞのたまふ。「げに<A HREF="#no32">誰も千年の松ならぬ世を</A><A NAME="te32">」</A>と思ふには、いと心苦しくあはれなれば、この召し寄せたる人の聞かむもつつまれず、かたはらいたき筋のことをこそ選りとどむれ、昔より思ひきこえしさまなどを、かの御耳一つには心得させながら、人はかたはにも聞くまじきさまに、さまよくめやすくぞ言ひなしたまふを、「げにありがたき御心ばへにも」と聞きゐたりけり。<BR>⏎
<P>⏎
519 とぞのたまふ。「げに<A HREF="#no32">誰も千年の松ならぬ世を</A><A NAME="te32">」</A>と思ふには、いと心苦しくあはれなれば、この召し寄せたる人の聞かむもつつまれず、かたはらいたき筋のことをこそ選りとどむれ、昔より思ひきこえしさまなどを、かの御耳一つには心得させながら、人はかたはにも聞くまじきさまに、さまよくめやすくぞ言ひなしたまふを、「げにありがたき御心ばへにも」と聞きゐたりけり。<BR>⏎
text49927 <A NAME="in62">[第二段 薫、亡き大君追慕の情を訴える]</A><BR>520 
d1928<P>⏎
 929 何事につけても、故君の御事をぞ尽きせず思ひたまへる。<BR>⏎521 
d1930<P>⏎
 931 「いはけなかりしほどより、世の中を思ひ離れてやみぬべき心づかひをのみならひはべしに、さるべきにやはべりけむ、疎きものからおろかならず思ひそめきこえはべりしひとふしに、かの本意の聖心は、さすがに違ひやしにけむ。<BR>⏎522 
d1932<P>⏎
 933 慰めばかりに、ここにもかしこにも行きかかづらひて、人のありさまを見むにつけて、紛るることもやあらむなど、思ひ寄る折々はべれど、さらに他ざまにはなびくべくもはべらざりけり。<BR>⏎523 
d1934<P>⏎
 935 よろづに思ひたまへ<A HREF="#k48">わびては</A><A NAME="t48">、</A>心の引く方の強からぬわざなりければ、好きがましきやうに思さるらむと、恥づかしけれど、あるまじき心の、かけてもあるべくはこそめざましからめ、ただかばかりのほどにて、時々思ふことをも聞こえさせ承りなどして、隔てなくのたまひ<A HREF="#k49">かよはむを</A><A NAME="t49">、</A>誰れかはとがめ出づべき。世の人に似ぬ心のほどは、皆人にもどかるまじくはべるを、なほうしろやすく思したれ」<BR>⏎524 
d1936<P>⏎
cd7:3937-943 など<A HREF="#k50">怨み</A><A NAME="t50">泣</A>きみ聞こえたまふ。<BR>⏎

<P>⏎
 「うしろめたく思ひきこえば、かくあやしと人も見思ひぬべきまでは聞こえはべるべくや。年ごろ、こなたかなたにつけつつ、見知ることどものはべりしかばこそ、さま異なる頼もし人にて、今はこれよりなどおどろかし<A HREF="#k50">きこゆれ」</A><BR>⏎
<P>⏎
 <A NAME="t50">と</A>のたまへば、<BR>⏎
<P>⏎
525-527 など<A HREF="#k50">怨み</A><A NAME="t50">泣</A>きみ聞こえたまふ。<BR>⏎
 「うしろめたく思ひきこえば、かくあやしと人も見思ひぬべきまでは聞こえはべるべくや。年ごろ、こなたかなたにつけつつ、見知ることどものはべりしかばこそ、さま異なる頼もし人にて、今はこれよりなどおどろかし<A HREF="#k51">きこゆれ」</A><BR>⏎
 <A NAME="t51">と</A>のたまへば、<BR>⏎
 944 「さやうなる折もおぼえはべらぬものを、いとかしこきことに思しおきてのたまはするや。この御山里出で立ち急ぎに、からうして召し使はせたまふべき。それもげに、御覧じ知る方ありてこそはと、おろかにやは思ひはべる」<BR>⏎528 
d1945<P>⏎
 946 などのたまひて、なほいともの恨めしげなれど、聞く人あれば、思ふままにもいかでかは続けたまはむ。<BR>⏎529 
d1947<P>⏎
text49948 <A NAME="in63">[第三段 薫、故大君に似た人形を望む]</A><BR>530 
d1949<P>⏎
 950 外の方を眺め出だしたれば、やうやう暗くなりにたるに、虫の声ばかり紛れなくて、山の方小暗く、何のあやめも見えぬに、いとしめやかなるさまして寄りゐたまへるも、わづらはしとのみ内には思さる。<BR>⏎531 
d1951<P>⏎
 952 「<a href="#no33">限りだにある</a>」<BR>⏎532 
d1953<P>⏎
cd2:1954-955 など忍びやかにうち誦じて、<BR>⏎
<P>⏎
533 など忍びやかにうち誦じて、<BR>⏎
 956 「思うたまへわびにてはべり。音無の里<a name="te34">求</a>めまほしきを、かの山里のわたりに、わざと寺などはなくとも、昔おぼゆる人形をも作り、絵にも描きとりて、行なひはべらむとなむ、思うたまへなりにたる」<BR>⏎534 
d1957<P>⏎
 958 とのたまへば、<BR>⏎535 
d1959<P>⏎
 960 「あはれなる御願ひに、またうたて御手洗川近き心地する人形こそ、思ひやりいとほしくはべれ。黄金求むる絵師もこそなど、うしろめたくぞはべるや」<BR>⏎536 
d1961<P>⏎
 962 とのたまへば、<BR>⏎537 
d1963<P>⏎
 964 「そよ。その工も絵師も、いかでか心には叶ふべきわざならむ。近き世に花降らせたる工もはべりけるを、さやうならむ変化の人もがな」<BR>⏎538 
d1965<P>⏎
cd2:1966-967 ととざまかうざまに忘れむ方なきよしを、嘆きたまふけしきの、心深げなるもいとほしくて、今すこし近くすべり寄りて、<BR>⏎
<P>⏎
539 ととざまかうざまに忘れむ方なきよしを、嘆きたまふけしきの、心深げなるもいとほしくて、今すこし近くすべり寄りて、<BR>⏎
 968 「人形のついでに、いとあやしく思ひ寄るまじきことをこそ、思ひ出ではべれ」<BR>⏎540 
d1969<P>⏎
 970 とのたまふけはひの、すこしなつかしきも、いとうれしくあはれにて、<BR>⏎541 
d1971<P>⏎
 972 「何ごとにか」<BR>⏎542 
d1973<P>⏎
 974 と言ふままに、几帳の下より手を捉ふれば、いとうるさく思ひならるれど、「いかさまにして、かかる心をやめて、なだらかにあらむ」と思へば、この近き人の思はむことのあいなくて、さりげなくもてなしたまへり。<BR>⏎543 
d1975<P>⏎
text49976 <a name="in64">[第四段 中君、異母妹の浮舟を語る]</a><BR>544 
d1977<P>⏎
 978 「年ごろは、世にやあらむとも知らざりつる人の、この夏ごろ、遠き所よりものして尋ね出でたりしを、疎くは思ふまじけれど、またうちつけに、さしも何かは睦び思はむ、と思ひはべりしを、さいつころ来たりしこそ、あやしきまで、昔人の御けはひにかよひたりしかば、あはれにおぼえなりにしか。<BR>⏎545 
d1979<P>⏎
cd2:1980-981 形見など、かう思しのたまふめるは、なかなか何事も、あさましくもて離れたりとなむ、見る人びとも言ひはべりしを、いとさしもあるまじき人の、いかでかはさはありけむ」<BR>⏎
<P>⏎
546 形見など、かう思しのたまふめるは、なかなか何事も、あさましくもて離れたりとなむ、見る人びとも言ひはべりしを、いとさしもあるまじき人の、いかでかはさはありけむ」<BR>⏎
 982 とのたまふを、夢語りか、とまで聞く。<BR>⏎547 
d1983<P>⏎
 984 「さるべきゆゑあればこそは、さやうにも睦びきこえらるらめ。などか今まで、かくもかすめさせたまはざらむ」<BR>⏎548 
d1985<P>⏎
 986 とのたまへば、<BR>⏎549 
d1987<P>⏎
cd2:1988-989 「いさやそのゆゑも、いかなりけむこととも思ひ分かれはべらず。ものはかなきありさまどもにて、世に落ちとまりさすらへむとすらむこと、とのみうしろめたげに思したりしことどもを、ただ一人かき集めて思ひ知られはべるに、またあいなきことをさへうち添へて、人も聞き伝へむこそ、いといとほしかるべけれ」<BR>⏎
<P>⏎
550 「いさやそのゆゑも、いかなりけむこととも思ひ分かれはべらず。ものはかなきありさまどもにて、世に落ちとまりさすらへむとすらむこと、とのみうしろめたげに思したりしことどもを、ただ一人かき集めて思ひ知られはべるに、またあいなきことをさへうち添へて、人も聞き伝へむこそ、いといとほしかるべけれ」<BR>⏎
 990 とのたまふけしき見るに、「宮の忍びてものなどのたまひけむ人の、<a href="#no35">忍草摘みおき</a><a name="te35">た</a>りけるなるべし」と<a href="#k53">見知りぬ</a><a name="t53">。</a><BR>⏎551 
d1991<P>⏎
 992 似たりとのたまふゆかりに耳とまりて、<BR>⏎552 
d1993<P>⏎
 994 「かばかりにては。同じくは言ひ果てさせたまうてよ」<BR>⏎553 
d1995<P>⏎
cd4:2996-999 といぶかしがりたまへど、さすがにかたはらいたくて、えこまかにも聞こえたまはず。<BR>⏎
<P>⏎
 「尋ねむと思す心あらば、そのわたりとは聞こえつべけれど、詳しくしもえ知らずや。またあまり言はば、心劣りもしぬべきことになむ」<BR>⏎
<P>⏎
554-555 といぶかしがりたまへど、さすがにかたはらいたくて、えこまかにも聞こえたまはず。<BR>⏎
 「尋ねむと思す心あらば、そのわたりとは聞こえつべけれど、詳しくしもえ知らずや。またあまり言はば、心劣りもしぬべきことになむ」<BR>⏎
 1000 とのたまへば、<BR>⏎556 
d11001<P>⏎
cd6:31002-1007 「世を海中にも、魂のありか尋ねには、心の限り進みぬべきを、いとさまで思ふべきにはあらざなれど、いとかく慰めむ方なきよりはと、思ひ寄りはべる人形の願ひばかりには、などかは山里の本尊にも思ひはべらざらむ。なほ確かにのたまはせよ」<BR>⏎
<P>⏎
 とうちつけに責めきこえたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
 「いさやいにしへの御ゆるしもなかりしことを、かくまで漏らしきこゆるも、いと口軽けれど、変化の工求めたまふいとほしさにこそ、かくも」とて、「いと<a href="#k54">遠き</a><a name="t54">所</a>に年ごろ経にけるを、母なる人のうれはしきことに思ひて、あながちに尋ね寄りしを、はしたなくもえいらへではべりしに、ものしたりしなり。ほのかなりしかばにや、何事も思ひしほどよりは見苦しからずなむ見えし。これをいかさまにもてなさむ、と<a href="#k55">嘆くめりしに</a><a name="t55">、</a>仏にならむは、いとこよなきことにこそはあらめ、さまではいかでかは」<BR>⏎
<P>⏎
557-559 「世を海中にも、魂のありか尋ねには、心の限り進みぬべきを、いとさまで思ふべきにはあらざなれど、いとかく慰めむ方なきよりはと、思ひ寄りはべる人形の願ひばかりには、などかは山里の本尊にも思ひはべらざらむ。なほ確かにのたまはせよ」<BR>⏎
 とうちつけに責めきこえたまふ。<BR>⏎
 「いさやいにしへの御ゆるしもなかりしことを、かくまで漏らしきこゆるも、いと口軽けれど、変化の工求めたまふいとほしさにこそ、かくも」とて、「いと<A HREF="#k54">遠き</A><A NAME="t54">所</A>に年ごろ経にけるを、母なる人のうれはしきことに思ひて、あながちに尋ね寄りしを、はしたなくもえいらへではべりしに、ものしたりしなり。ほのかなりしかばにや、何事も思ひしほどよりは見苦しからずなむ見えし。これをいかさまにもてなさむ、と<A HREF="#k55">嘆くめりしに</A><A NAME="t55">、</A>仏にならむは、いとこよなきことにこそはあらめ、さまではいかでかは」<BR>⏎
 1008 など聞こえたまふ。<BR>⏎560 
d11009<P>⏎
text491010<a name="in65">[第五段 薫、なお中君を恋慕す]</a><BR>561 
d11011<P>⏎
 1012 「さりげなくて、かくうるさき心をいかで言ひ放つわざもがな、と思ひたまへる」と見るはつらけれど、さすがにあはれなり。「あるまじきこととは深く思ひたまへるものから、顕証にはしたなきさまには、えもてなしたまはぬも、見知りたまへるにこそは」と思ふ心ときめきに、夜もいたく更けゆくを、内には人目いとかたはらいたくおぼえたまひて、うちたゆめて入りたまひぬれば、男君、ことわりとは返す返す思へど、なほいと恨めしく口惜しきに、思ひ静めむ方もなき心地して、涙のこぼるるも人悪ろければ、よろづに思ひ乱るれど、ひたぶるにあさはかならむもてなしはた、なほいとうたて、わがためもあいなかるべければ、念じ返して、常よりも嘆きがちにて出でたまひぬ。<BR>⏎562 
d11013<P>⏎
 1014 「かくのみ思ひては、いかがすべからむ。苦しくもあるべきかな。いかにしてかは、おほかたの世にはもどきあるまじきさまにて、さすがに思ふ心の叶ふわざをすべからむ」<BR>⏎563 
d11015<P>⏎
cd2:11016-1017 などおりたちて練じたる心ならねばにや、わがため人のためも、心やすかるまじきことを、わりなく思し<a href="#k56">明かすに</a><a name="t56">、</a>「似たりとのたまひつる人も、いかでかは真かとは見るべき。さばかりの際なれば、思ひ寄らむに、難くはあらずとも、人の本意にもあらずは、うるさくこそあるべけれ」など、なほそなたざまには心も立たず。<BR>⏎
<P>⏎
564 などおりたちて練じたる心ならねばにや、わがため人のためも、心やすかるまじきことを、わりなく思し<A HREF="#k56">明かすに</A><A NAME="t56">、</A>「似たりとのたまひつる人も、いかでかは真かとは見るべき。さばかりの際なれば、思ひ寄らむに、難くはあらずとも、人の本意にもあらずは、うるさくこそあるべけれ」など、なほそなたざまには心も立たず。<BR>⏎
text491018 <h4>第七章 薫の物語 宇治を訪問して弁の尼から浮舟の詳細について聞く</h4>565 
text491019 <a name="in71">[第一段 九月二十日過ぎ、薫、宇治を訪れる]</a><BR>566 
d11020<P>⏎
 1021 宇治の宮を久しく見たまはぬ時は、いとど昔遠くなる心地して、すずろに心細ければ、九月二十余日ばかりにおはしたり。<BR>⏎567 
d11022<P>⏎
 1023 いとどしく風のみ吹き払ひて、心すごく荒ましげなる水の音のみ宿守にて、人影もことに見えず。見るには、まづかきくらし、悲しきことぞ限りなき。弁の尼召し出でたれば、障子口に、青鈍の几帳さし出でて参れり。<BR>⏎568 
d11024<P>⏎
 1025 「いとかしこけれど、ましていと恐ろしげにはべれば、つつましくてなむ」<BR>⏎569 
d11026<P>⏎
cd2:11027-1028 とまほには出で来ず。<BR>⏎
<P>⏎
570 とまほには出で来ず。<BR>⏎
 1029 「いかに眺めたまふらむと思ひやるに、同じ心なる人もなき物語も聞こえむとてなむ。はかなくも積もる年月かな」<BR>⏎571 
d11030<P>⏎
cd2:11031-1032 とて涙を一目浮けておはするに、老い人はいとどさらにせきあへず。<BR>⏎
<P>⏎
572 とて涙を一目浮けておはするに、老い人はいとどさらにせきあへず。<BR>⏎
 1033 「人の上にて、あいなくものを思すめりしころの空ぞかし、と思ひたまへ出づるに、<a href="#no36">いつとはべらぬ</a><a name="te36">な</a>るにも、<a href="#no37">秋の風は身にしみて</a><a name="te37">つ</a>らくおぼえはべりて、げにかの嘆かせたまふめりしもしるき世の中の御ありさまを、ほのかに承るも、さまざまになむ」<BR>⏎573 
d11034<P>⏎
 1035 と聞こゆれば、<BR>⏎574 
d11036<P>⏎
cd4:21037-1040 「とあることもかかることも、ながらふれば、直るやうもあるを、あぢきなく思ししみけむこそ、わが過ちのやうに、なほ悲しけれ。このころの御ありさまは、何かそれこそ世の常なれ。されどうしろめたげには見えきこえざめり。言ひても言ひても、むなしき空に昇りぬる煙のみこそ、誰も逃れぬことながら、<a href="#no38">後れ先だつほど</a><a name="te38">は</a>、なほいと言ふかひなかりけり」<BR>⏎
<P>⏎
 とてもまた泣きたまひぬ。<BR>⏎
<P>⏎
575-576 「とあることもかかることも、ながらふれば、直るやうもあるを、あぢきなく思ししみけむこそ、わが過ちのやうに、なほ悲しけれ。このころの御ありさまは、何かそれこそ世の常なれ。されどうしろめたげには見えきこえざめり。言ひても言ひても、むなしき空に昇りぬる煙のみこそ、誰も逃れぬことながら、<A HREF="#no38">後れ先だつほど</A><A NAME="te38">は</A>、なほいと言ふかひなかりけり」<BR>⏎
 とてもまた泣きたまひぬ。<BR>⏎
text491041 <a name="in72">[第二段 薫、宇治の阿闍梨と面談す]</a><BR>577 
d11042<P>⏎
 1043 阿闍梨召して、例の、かの忌日の経仏などのことのたまふ。<BR>⏎578 
d11044<P>⏎
cd4:21045-1048 「さてここに時々ものするにつけても、かひなきことのやすからずおぼゆるが、いと益なきを、この寝殿こぼちて、かの山寺のかたはらに堂建てむ、となむ思ふを、同じくは疾く始めてむ」<BR>⏎
<P>⏎
 とのたまひて、堂いくつ廊ども僧房など、あるべきことども、書き出でのたまはせさせたまふを、<BR>⏎
<P>⏎
579-580 「さてここに時々ものするにつけても、かひなきことのやすからずおぼゆるが、いと益なきを、この寝殿こぼちて、かの山寺のかたはらに堂建てむ、となむ思ふを、同じくは疾く始めてむ」<BR>⏎
 とのたまひて、堂いくつ廊ども僧房など、あるべきことども、書き出でのたまはせさせたまふを、<BR>⏎
 1049 「いと尊きこと」<BR>⏎581 
d11050<P>⏎
 1051 と聞こえ知らす。<BR>⏎582 
d11052<P>⏎
 1053 「昔の人の、ゆゑある御住まひに占め造りたまひけむ所を、ひきこぼたむ、情けなきやうなれど、その御心ざしも功徳の方には進みぬべく<a href="#k57">思しけむを</a><a name="t57">、</a>とまりたまはむ人びと思しやりて、えさはおきてたまはざりけるにや。<BR>⏎583 
d11054<P>⏎
cd2:11055-1056 今は、兵部卿宮の北の方こそは、知りたまふべければ、かの宮の御料とも言ひつべくなりにたり。さればここながら寺になさむことは、便なかるべし。心にまかせてさもえせじ。所のさまもあまり川づら近く、顕証にもあれば、なほ寝殿を失ひて、異ざまにも造り変へむの心にてなむ」<BR>⏎
<P>⏎
584 今は、兵部卿宮の北の方こそは、知りたまふべければ、かの宮の御料とも言ひつべくなりにたり。さればここながら寺になさむことは、便なかるべし。心にまかせてさもえせじ。所のさまもあまり川づら近く、顕証にもあれば、なほ寝殿を失ひて、異ざまにも造り変へむの心にてなむ」<BR>⏎
 1057 とのたまへば、<BR>⏎585 
d11058<P>⏎
cd2:11059-1060 「とざまかうざまに、いともかしこく尊き御心なり。昔別れを悲しびて、屍を包みてあまたの年首に掛けてはべりける人も、仏の御方便にてなむ、かの<a href="#k58">屍の</a><a name="t58">袋</a>を捨てて、つひに聖の道にも入りはべりにける。この寝殿を御覧ずるにつけて、御心動きおはしますらむ、一つにはたいだいしきことなり。また後の世の勧めともなるべきことにはべりけり。急ぎ仕うまつるべし。暦の博士はからひ申してはべらむ日を承りて、もののゆゑ知りたらむ工、二三人を賜はりて、こまかなることどもは、仏の御教へのままに仕うまつらせはべらむ」<BR>⏎
<P>⏎
586 「とざまかうざまに、いともかしこく尊き御心なり。昔別れを悲しびて、屍を包みてあまたの年首に掛けてはべりける人も、仏の御方便にてなむ、かの<A HREF="#k58">屍の</A><A NAME="t58">袋</A>を捨てて、つひに聖の道にも入りはべりにける。この寝殿を御覧ずるにつけて、御心動きおはしますらむ、一つにはたいだいしきことなり。また後の世の勧めともなるべきことにはべりけり。急ぎ仕うまつるべし。暦の博士はからひ申してはべらむ日を承りて、もののゆゑ知りたらむ工、二三人を賜はりて、こまかなることどもは、仏の御教へのままに仕うまつらせはべらむ」<BR>⏎
 1061 と申す。とかくのたまひ定めて、御荘の人ども召して、このほどのことども、阿闍梨の言はむままにすべきよしなど仰せたまふ。はかなく暮れぬれば、その夜はとどまりたまひぬ。<BR>⏎587 
d11062<P>⏎
text491063 <a name="in73">[第三段 薫、弁の尼と語る]</a><BR>588 
d11064<P>⏎
 1065 「このたびばかりこそ見め」と思して、立ちめぐりつつ見たまへば、仏も皆かの寺に移してければ、尼君の行なひの具のみあり。いとはかなげに住まひたるを、あはれに、「いかにして過ぐすらむ」と見たまふ。<BR>⏎589 
d11066<P>⏎
 1067 「この寝殿は、変へて造るべきやうあり。造り出でむほどは、かの廊にものしたまへ。京の宮にとり渡さるべきものなどあらば、荘の人召して、あるべからむやうにものしたまへ」<BR>⏎590 
d11068<P>⏎
cd2:11069-1070 などまめやかなることどもを語らひたまふ。他にては、かばかりにさだ過ぎなむ人を、何かと見入れたまふべきにもあらねど、夜も近く臥せて、昔物語などせさせたまふ。故権大納言の君の御ありさまも、聞く人なきに心やすくて、いとこまやかに聞こゆ。<BR>⏎
<P>⏎
591 などまめやかなることどもを語らひたまふ。他にては、かばかりにさだ過ぎなむ人を、何かと見入れたまふべきにもあらねど、夜も近く臥せて、昔物語などせさせたまふ。故権大納言の君の御ありさまも、聞く人なきに心やすくて、いとこまやかに聞こゆ。<BR>⏎
 1071 「今はとなりたまひしほどに、めづらしくおはしますらむ御ありさまを、<a href="#k59">いぶかしき</a><a name="t59">も</a>のに思ひきこえさせたまふめりし御けしきなどの思ひたまへ出でらるるに、かく思ひかけはべらぬ世の末に、かくて見たてまつりはべるなむ、かの御世に睦ましく仕うまつりおきし験のおのづからはべりけると、うれしくも悲しくも思ひたまへられはべる。心憂き命のほどにて、さまざまのことを見たまへ過ぐし、思ひたまへ知りはべるなむ、いと<a href="#k60">恥づかしく</a><a name="t60">心</a>憂くはべる。<BR>⏎592 
d11072<P>⏎
 1073 宮よりも、時々は参りて見たてまつれ、おぼつかなく絶え籠もり果てぬるは、こよなく思ひ隔てけるなめりなど、のたまはする折々はべれど、ゆゆしき身にてなむ、阿弥陀仏より他には、見たてまつらまほしき人もなくなりてはべる」<BR>⏎593 
d11074<P>⏎
 1075 など聞こゆ。故姫君の御ことども、はた尽きせず、年ごろの御ありさまなど語りて、何の折何とのたまひし、花紅葉の色を見ても、はかなく詠みたまひける歌語りなどを、つきなからず、うちわななきたれど、こめかしく言少ななるものから、をかしかりける人の御心ばへかなとのみ、いとど聞き添へたまふ。<BR>⏎594 
d11076<P>⏎
 1077 「宮の御方は、今すこし今めかしきものから、心許さざらむ人のためには、はしたなくもてなしたまひつべくこそものしたまふめるを、我にはいと心深く情け情けしとは見えて、いかで過ごしてむ、とこそ思ひたまへれ」<BR>⏎595 
d11078<P>⏎
cd2:11079-1080 など心のうちに思ひ比べたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
596 など心のうちに思ひ比べたまふ。<BR>⏎
text491081 <a name="in74">[第四段 薫、浮舟の件を弁の尼に尋ねる]</a><BR>597 
d11082<P>⏎
cd2:11083-1084 さてもののついでに、かの形代のことを言ひ出でたまへり。<BR>⏎
<P>⏎
598 さてもののついでに、かの形代のことを言ひ出でたまへり。<BR>⏎
 1085 「京に、このころ、はべらむとはえ知りはべらず。人伝てに承りしことの筋ななり。故宮の、まだかかる山里住みもしたまはず、故北の方の亡せたまへりけるほど近かりけるころ、中将の君とてさぶらひける上臈の、心ばせなどもけしうはあらざりけるを、<a href="#k61">いと忍びて、はかなきほどにもののたまはせける</a><a name="t61">、</a>知る人もはべらざりけるに、女子をなむ産みてはべりけるを、さもやあらむ、と思すことのありけるからに、あいなくわづらはしくものしきやうに思しなりて、またとも御覧じ入るることもなかりけり。<BR>⏎599 
d11086<P>⏎
cd2:11087-1088 あいなくそのことに思し懲りて、やがておほかた聖にならせたまひにけるを、はしたなく思ひて、えさぶらはずなりにけるが、陸奥国の守の妻になりたりけるを、一年上りて、その君平らかにものしたまふよし、このわたりにもほのめかし申したりけるを、聞こしめしつけて、さらにかかる消息あるべきことにもあらずとのたまはせ放ちければ、かひなくてなむ嘆きはべりける。<BR>⏎
<P>⏎
600 あいなくそのことに思し懲りて、やがておほかた聖にならせたまひにけるを、はしたなく思ひて、えさぶらはずなりにけるが、陸奥国の守の妻になりたりけるを、一年上りて、その君平らかにものしたまふよし、このわたりにもほのめかし申したりけるを、聞こしめしつけて、さらにかかる消息あるべきことにもあらずとのたまはせ放ちければ、かひなくてなむ嘆きはべりける。<BR>⏎
 1089 さてまた、常陸になりて下りはべりにけるが、この年ごろ、音にも聞こえたまはざりつるが、この春上りて、かの宮には尋ね参りたりけるとなむ、ほのかに聞きはべりし。<BR>⏎601 
d11090<P>⏎
 1091 かの君の年は、二十ばかりになりたまひぬらむかし。いとうつくしく生ひ出でたまふがかなしき<a href="#k62">などこそ</a><a name="t62">、</a>中ごろは、文にさへ書き続けてはべめりしか」<BR>⏎602 
d11092<P>⏎
 1093 と聞こゆ。<BR>⏎603 
d11094<P>⏎
cd2:11095-1096 詳しく聞きあきらめたまひて、「さらばまことにてもあらむかし。見ばや」と思ふ心出で来ぬ。<BR>⏎
<P>⏎
604 詳しく聞きあきらめたまひて、「さらばまことにてもあらむかし。見ばや」と思ふ心出で来ぬ。<BR>⏎
 1097 「昔の御けはひに、かけても<a href="#k63">触れたらむ人は</a><a name="t63">、</a>知らぬ国までも尋ね知らまほしき心あるを、数まへたまはざりけれど、近き人にこそはあなれ。わざとはなくとも、このわたりにおとなふ折あらむついでに、かくなむ言ひし、と伝へたまへ」<BR>⏎605 
d11098<P>⏎
 1099 などばかりのたまひおく。<BR>⏎606 
d11100<P>⏎
 1101 「母君は、故北の方の御姪なり。弁も離れぬ仲らひにはべるべきを、そのかみは他々にはべりて、詳しくも見たまへ馴れざりき。<BR>⏎607 
d11102<P>⏎
cd2:11103-1104 さいつころ、京より、大輔がもとより申したりしは、かの君なむ、いかでかの御墓にだに参らむと、のたまふなる、さる<a href="#k64">心せよ</a><a name="t64">、</a>などはべりしかど、まだここに、さしはへてはおとなはずはべめり。今さらばさやのついでに、かかる仰せなど伝へはべらむ」<BR>⏎
<P>⏎
608 さいつころ、京より、大輔がもとより申したりしは、かの君なむ、いかでかの御墓にだに参らむと、のたまふなる、さる<A HREF="#k64">心せよ</A><A NAME="t64">、</A>などはべりしかど、まだここに、さしはへてはおとなはずはべめり。今さらばさやのついでに、かかる仰せなど伝へはべらむ」<BR>⏎
 1105 と聞こゆ。<BR>⏎609 
d11106<P>⏎
text491107 <a name="in75">[第五段 薫、二条院の中君に宇治訪問の報告]</a><BR>610 
d11108<P>⏎
 1109 明けぬれば帰りたまはむとて、昨夜、後れて持て参れる絹綿などやうのもの、阿闍梨に贈らせたまふ。尼君にも賜ふ。法師ばら、尼君の下衆どもの料にとて、布などいふものをさへ、召して賜ぶ。心細き住まひなれど、かかる御訪らひたゆまざりければ、身のほどにはめやすく、しめやかにてなむ行なひける。<BR>⏎611 
d11110<P>⏎
 1111 木枯しの堪へがたきまで吹きとほしたるに、残る梢もなく散り敷きたる<a href="#no39">紅葉を、踏み分けける跡</a><a name="te39">も</a>見えぬを見渡して、とみにもえ出でたまはず。いとけしきある深山木に宿りたる蔦の色ぞまだ残りたる。こだになどすこし引き取らせたまひて、宮へと思しくて、持たせたまふ。<BR>⏎612 
d11112<P>⏎
cd3:11113-1115 「宿り木と思ひ出でずは木のもとの<BR>⏎
  旅寝もいかにさびしからまし」<BR>⏎
<P>⏎
613 「宿り木と思ひ出でずは木のもとの<BR>  旅寝もいかにさびしからまし」<BR>⏎
 1116 と独りごちたまふを聞きて、尼君、<BR>⏎614 
d11117<P>⏎
cd3:11118-1120 「<a href="#no40">荒れ果つる朽木</a><a name="te40">の</a>もとを宿りきと<BR>⏎
  思ひおきけるほどの悲しさ」<BR>⏎
<P>⏎
615 「<A HREF="#no40">荒れ果つる朽木</A><A NAME="te40">の</A>もとを宿りきと<BR>  思ひおきけるほどの悲しさ」<BR>⏎
 1121 あくまで古めきたれど、ゆゑなくはあらぬをぞ、いささかの慰めには思しける。<BR>⏎616 
d11122<P>⏎
 1123 宮に紅葉たてまつれたまへれば、男宮おはしましけるほどなりけり。<BR>⏎617 
d11124<P>⏎
 1125 「南の宮より」<BR>⏎618 
d11126<P>⏎
cd2:11127-1128 とて何心もなく持て参りたるを、女君、「例のむつかしきこともこそ」と苦しく思せど、取り隠さむやは。宮、<BR>⏎
<P>⏎
619 とて何心もなく持て参りたるを、女君、「例のむつかしきこともこそ」と苦しく思せど、取り隠さむやは。宮、<BR>⏎
 1129 「をかしき蔦かな」<BR>⏎620 
d11130<P>⏎
cd2:11131-1132 とただならずのたまひて、召し寄せて見たまふ。御文には、<BR>⏎
<P>⏎
621 とただならずのたまひて、召し寄せて見たまふ。御文には、<BR>⏎
 1133 「日ごろ、何事かおはしますらむ。山里にものしはべりて、いとど<a href="#no41">峰の朝霧に</a><a name="te41">惑</a>ひはべりつる御物語も、みづからなむ。かしこの寝殿、堂になすべきこと、阿闍梨に言ひつけはべりにき。御許しはべりてこそは、他に移すこともものしはべらめ。弁の尼に、さるべき仰せ言はつかはせ」<BR>⏎622 
d11134<P>⏎
 1135 などぞある。<BR>⏎623 
d11136<P>⏎
cd2:11137-1138 「よくもつれなく書きたまへる文かな。まろありとぞ聞きつらむ」<BR>⏎
<P>⏎
624 「よくもつれなく書きたまへる文かな。まろありとぞ聞きつらむ」<BR>⏎
 1139 とのたまふも、すこしは、げにさやありつらむ。女君は、ことなきをうれしと思ひたまふに、あながちにかくのたまふを、わりなしと思して、うち怨じてゐたまへる御さま、よろづの罪許しつべくをかし。<BR>⏎625 
d11140<P>⏎
 1141 「返り事書きたまへ。見じや」<BR>⏎626 
d11142<P>⏎
cd2:11143-1144 とて他ざまに向きたまへり。あまえて書かざらむもあやしければ、<BR>⏎
<P>⏎
627 とて他ざまに向きたまへり。あまえて書かざらむもあやしければ、<BR>⏎
 1145 「山里の御ありきのうらやましくもはべるかな。かしこは、げにさやにてこそよく、と思ひたまへしを、ことさらにまた<a href="#no42">巌の中求めむ</a><a name="te42">よ</a>りは、荒らし果つまじく思ひはべるを、いかにもさるべきさまになさせたまはば、おろかならずなむ」<BR>⏎628 
d11146<P>⏎
 1147 と聞こえたまふ。「かく憎きけしきもなき御睦びなめり」と見たまひながら、わが御心ならひに、ただならじと思すが、やすからぬなるべし。<BR>⏎629 
d11148<P>⏎
text491149 <a name="in76">[第六段 匂宮、中君の前で琵琶を弾く]</a><BR>630 
d11150<P>⏎
 1151 枯れ枯れなる前栽の中に、<a href="#no43">尾花の、ものよりことにて手をさし出で招く</a><a name="te43">が</a>をかしく見ゆるに、まだ穂に出でさしたるも、<a href="#no44">露を貫きとむる玉の緒</a><a name="te44">、</a>はかなげにうちなびきたるなど、例のことなれど、夕風なほあはれなるころなりかし。<BR>⏎631 
d11152<P>⏎
cd3:11153-1155 「<a href="#no45">穂に出でぬもの思ふらし</a><a name="te45">篠</a>薄<BR>⏎
  招く袂の露しげくして」<BR>⏎
<P>⏎
632 「<A HREF="#no45">穂に出でぬもの思ふらし</A><A NAME="te45">篠</A>薄<BR>  招く袂の露しげくして」<BR>⏎
 1156 なつかしきほどの御衣どもに、直衣ばかり着たまひて、<a href="#k65">琵琶を</a><a name="t65">弾</a>きゐたまへり。黄鐘調の掻き合はせを、いとあはれに弾きなしたまへば、女君も心に入りたまへることにて、もの怨じもえし果てたまはず、小さき御几帳のつまより、脇息に寄りかかりて、ほのかにさし出でたまへる、いと見まほしくらうたげなり。<BR>⏎633 
d11157<P>⏎
cd2:11158-1159 「秋果つる野辺のけしきも篠薄<BR>⏎
  ほのめく風につけてこそ知れ<BR>⏎
634 「秋果つる野辺のけしきも篠薄<BR>  ほのめく風につけてこそ知れ<BR>⏎
 1160 <a href="#no46">わが身一つの</a><a name="te46">」</a><BR>⏎635 
d11161<P>⏎
 1162 とて涙ぐまるるが、さすがに恥づかしければ、扇を紛らはしておはする御心の内も、らうたく推し量らるれど、「かかるにこそ、人もえ思ひ放たざらめ」と、疑はしきがただならで、恨めしきなめり。<BR>⏎636 
d11163<P>⏎
 1164 菊の、まだよく移ろひ果てで、わざとつくろひたてさせたまへるは、なかなか遅きに、いかなる一本にか<a href="#k66">あらむ</a><a name="t66">、</a>いと見所ありて移ろひたるを、取り分きて折らせたまひて、<BR>⏎637 
d11165<P>⏎
 1166 「<a href="#no47">花の中に偏に</a><a name="te47">」</a><BR>⏎638 
d11167<P>⏎
 1168 と誦じたまひて、<BR>⏎639 
d11169<P>⏎
cd4:21170-1173 「なにがしの皇子の、花めでたる夕べぞかし。いにしへ天人の翔りて、琵琶の手教へけるは。何事も浅くなりにたる世は、もの憂しや」<BR>⏎
<P>⏎
 とて御琴さし置きたまふを、口惜しと思して、<BR>⏎
<P>⏎
640-641 「なにがしの皇子の、花めでたる夕べぞかし。いにしへ天人の翔りて、琵琶の手教へけるは。何事も浅くなりにたる世は、もの憂しや」<BR>⏎
 とて御琴さし置きたまふを、口惜しと思して、<BR>⏎
 1174 「心こそ浅くもあらめ、昔を伝へたらむことさへは、などてかさしも」<BR>⏎642 
d11175<P>⏎
cd6:31176-1181 とておぼつかなき手などをゆかしげに思したれば、<BR>⏎
<P>⏎
 「さらば独り琴はさうざうしきに、さしいらへしたまへかし」<BR>⏎
<P>⏎
 とて人召して、箏の御琴とり寄せさせて、弾かせたてまつりたまへど、<BR>⏎
<P>⏎
643-645 とておぼつかなき手などをゆかしげに思したれば、<BR>⏎
 「さらば独り琴はさうざうしきに、さしいらへしたまへかし」<BR>⏎
 とて人召して、箏の御琴とり寄せさせて、弾かせたてまつりたまへど、<BR>⏎
 1182 「昔こそ、まねぶ人もものしたまひしか、はかばかしく弾きもとめずなりにしものを」<BR>⏎646 
d11183<P>⏎
cd6:31184-1189 とつつましげにて手も触れたまはねば、<BR>⏎
<P>⏎
 「かばかりのことも、隔てたまへるこそ心憂けれ。このころ、見るわたり、まだいと心解くべきほどにも<a href="#k67">あらねど</a><a name="t67">、</a>かたなりなる初事をも隠さずこそあれ。すべて女は、やはらかに心うつくしきなむよきこととこそ、その中納言も定むめりしか。かの君に、はたかくもつつみたまはじ。こよなき御仲なめれば」<BR>⏎
<P>⏎
 などまめやかに怨みられてぞ、うち嘆きてすこし調べたまふ。ゆるびたりければ、盤渉調に合はせたまふ。掻き合はせなど、爪音けをかしげに聞こゆ。「<a href="#no48">伊勢の海</a><a name="te48">」</a>謡ひたまふ御声のあてにをかしきを、女房も、物のうしろに近づき参りて、笑み広ごりてゐたり。<BR>⏎
<P>⏎
647-649 とつつましげにて手も触れたまはねば、<BR>⏎
 「かばかりのことも、隔てたまへるこそ心憂けれ。このころ、見るわたり、まだいと心解くべきほどにも<A HREF="#k67">あらねど</A><A NAME="t67">、</A>かたなりなる初事をも隠さずこそあれ。すべて女は、やはらかに心うつくしきなむよきこととこそ、その中納言も定むめりしか。かの君に、はたかくもつつみたまはじ。こよなき御仲なめれば」<BR>⏎
 などまめやかに怨みられてぞ、うち嘆きてすこし調べたまふ。ゆるびたりければ、盤渉調に合はせたまふ。掻き合はせなど、爪音けをかしげに聞こゆ。「<A HREF="#no48">伊勢の海</A><A NAME="te48">」</A>謡ひたまふ御声のあてにをかしきを、女房も、物のうしろに近づき参りて、笑み広ごりてゐたり。<BR>⏎
 1190 「二心おはしますはつらけれど、それもことわりなれば、なほわが御前をば、幸ひ人とこそは申さめ。かかる御ありさまに交じらひたまふべくもあらざりし所の御住まひを、また帰りなまほしげに思して、のたまはするこそ、いと心憂けれ」<BR>⏎650 
d11191<P>⏎
cd2:11192-1193 などただ言ひに言へば、若き人びとは、<BR>⏎
<P>⏎
651 などただ言ひに言へば、若き人びとは、<BR>⏎
 1194 「あなかまや」<BR>⏎652 
d11195<P>⏎
 1196 など制す。<BR>⏎653 
d11197<P>⏎
text491198 <a name="in77">[第七段 夕霧、匂宮を強引に六条院へ迎え取る]</a><BR>654 
d11199<P>⏎
cd2:11200-1201 御琴ども教へたてまつりなどして、三四日籠もりおはして、御物忌などことつけたまふを、かの殿には恨めしく思して、大臣、内裏より出でたまひけるままに、ここに参りたまへれば、宮、<BR>⏎
<P>⏎
655 御琴ども教へたてまつりなどして、三四日籠もりおはして、御物忌などことつけたまふを、かの殿には恨めしく思して、大臣、内裏より出でたまひけるままに、ここに参りたまへれば、宮、<BR>⏎
 1202 「ことことしげなるさまして、何しにいましつるぞとよ」<BR>⏎656 
d11203<P>⏎
cd2:11204-1205 とむつかりたまへど、あなたに渡りたまひて、対面したまふ。<BR>⏎
<P>⏎
657 とむつかりたまへど、あなたに渡りたまひて、対面したまふ。<BR>⏎
 1206 「ことなることなきほどは、この院を見で久しくなりはべるも、あはれにこそ」<BR>⏎658 
d11207<P>⏎
cd6:31208-1213 など<a href="#k68">昔の御物語</a><a name="t68">ど</a>もすこし聞こえたまひて、やがて引き連れきこえたまひて出でたまひぬ。御子どもの殿ばら、さらぬ上達部、殿上人なども、いと多くひき続きたまへる勢ひ、こちたきを見るに、並ぶべくもあらぬぞ、屈しいたかりける。人びと覗きて見たてまつりて、<BR>⏎
<P>⏎
 「さもきよらにおはしける大臣かな。さばかり、いづれとなく、若く盛りにてきよげにおはさうずる御子どもの、似たまふべきもなかりけり。あなめでたや」<BR>⏎
<P>⏎
 と言ふもあり。また<BR>⏎
<P>⏎
659-661 など<A HREF="#k68">昔の御物語</A><A NAME="t68">ど</A>もすこし聞こえたまひて、やがて引き連れきこえたまひて出でたまひぬ。御子どもの殿ばら、さらぬ上達部、殿上人なども、いと多くひき続きたまへる勢ひ、こちたきを見るに、並ぶべくもあらぬぞ、屈しいたかりける。人びと覗きて見たてまつりて、<BR>⏎
 「さもきよらにおはしける大臣かな。さばかり、いづれとなく、若く盛りにてきよげにおはさうずる御子どもの、似たまふべきもなかりけり。あなめでたや」<BR>⏎
 と言ふもあり。また<BR>⏎
 1214 「さばかりやむごとなげなる御さまにて、わざと迎へに参りたまへるこそ憎けれ。やすげなの世の中や」<BR>⏎662 
d11215<P>⏎
cd2:11216-1217 などうち嘆くもあるべし。御みづからも、来し方を思ひ出づるよりはじめ、かのはなやかなる御仲らひに立ちまじるべくもあらず、かすかなる身のおぼえをと、いよいよ心細ければ、「なほ心やすく籠もりゐなむのみこそ目やすからめ」など、いとどおぼえたまふ。はかなくて年も暮れぬ。<BR>⏎
<P>⏎
663 などうち嘆くもあるべし。御みづからも、来し方を思ひ出づるよりはじめ、かのはなやかなる御仲らひに立ちまじるべくもあらず、かすかなる身のおぼえをと、いよいよ心細ければ、「なほ心やすく籠もりゐなむのみこそ目やすからめ」など、いとどおぼえたまふ。はかなくて年も暮れぬ。<BR>⏎
text491218 <H4>第八章 薫の物語 女二の宮、薫の三条宮邸に降嫁</H4>664 
text491219 <a name="in81">[第一段 新年、薫権大納言兼右大将に昇進]</a><BR>665 
d11220<P>⏎
 1221 正月晦日方より、例ならぬさまに悩みたまふを、宮、まだ御覧じ知らぬことにて、いかならむと、思し嘆きて、御修法など、所々にてあまたせさせたまふに、またまた始め添へさせたまふ。いといたくわづらひたまへば、后の宮よりも御訪らひあり。<BR>⏎666 
d11222<P>⏎
 1223 かくて三年になりぬれど、一所の御心ざしこそおろかならね、おほかたの世には、<a href="#k69">ものものしくも</a><a name="t69">も</a>てなしきこえたまはざりつるを、この折ぞ、いづこにもいづこにも<a href="#k70">聞こしめしおどろきて、御訪ぶらひども</a><a name="t70">聞</a>こえたまひける。<BR>⏎667 
d11224<P>⏎
 1225 中納言の君は、宮の思し騒ぐに劣らず、いかにおはせむと嘆きて、心苦しくうしろめたく思さるれど、限りある御訪らひばかりこそあれ、あまりもえ<a href="#k71">参うで</a><a name="t71">た</a>まはで、忍びてぞ御祈りなどもせさせたまひける。<BR>⏎668 
d11226<P>⏎
cd2:11227-1228 さるは女二の宮の御裳着、ただこのころになりて、世の中響きいとなみののしる。よろづのこと、帝の御心一つなるやうに思し急げば、御後見なきしもぞ、なかなかめでたげに見えける。<BR>⏎
<P>⏎
669 さるは女二の宮の御裳着、ただこのころになりて、世の中響きいとなみののしる。よろづのこと、帝の御心一つなるやうに思し急げば、御後見なきしもぞ、なかなかめでたげに見えける。<BR>⏎
 1229 女御のしおきたまへることをばさるものにて、作物所、さるべき受領どもなど、とりどりに仕うまつることども、いと限りなしや。<BR>⏎670 
d11230<P>⏎
 1231 やがてそのほどに、参りそめたまふべきやうにありければ、男方も心づかひしたまふころなれど、例のことなれば、そなたざまには心も入らで、この御事のみいとほしく嘆かる。<BR>⏎671 
d11232<P>⏎
 1233 如月の朔日ごろに、直物とかいふことに、権大納言になりたまひて、右大将かけたまひつ。右の大殿、左にておはしけるが、辞したまへる所なりけり。<BR>⏎672 
d11234<P>⏎
cd6:31235-1240 喜びに所々ありきたまひて、この宮にも参りたまへり。いと苦しくしたまへば、こなたにおはしますほどなりければ、やがて参りたまへり。僧などさぶらひて便なき方に、とおどろきたまひて、あざやかなる御直衣、御下襲などたてまつり、<a href="#k72">ひきつくろひたまひて</a><a name="t72">、</a>下りて答の拝したまふ御さまどもとりどりにいとめでたく、<BR>⏎
<P>⏎
 「やがて官の禄賜ふ饗の所に」<BR>⏎
<P>⏎
 と請じたてまつりたまふを、悩みたまふ人によりてぞ、思したゆたひたまふめる。右大臣殿のしたまひけるままにとて、六条の院にてなむありける。<BR>⏎
<P>⏎
673-675 喜びに所々ありきたまひて、この宮にも参りたまへり。いと苦しくしたまへば、こなたにおはしますほどなりければ、やがて参りたまへり。僧などさぶらひて便なき方に、とおどろきたまひて、あざやかなる御直衣、御下襲などたてまつり、<A HREF="#k72">ひきつくろひたまひて</A><A NAME="t72">、</A>下りて答の拝したまふ御さまども とりどりにいとめでたく、<BR>⏎
 「やがて官の禄賜ふ饗の所に」<BR>⏎
 と請じたてまつりたまふを、悩みたまふ人によりてぞ、思したゆたひたまふめる。右大臣殿のしたまひけるままにとて、六条の院にてなむありける。<BR>⏎
 1241 垣下の親王たち上達部、大饗に劣らず、あまり騒がしきまでなむ集ひたまひける。この宮も渡りたまひて、静心なければ、まだ事果てぬに急ぎ帰りたまひぬるを、大殿の御方には、<BR>⏎676 
d11242<P>⏎
 1243 「いと飽かずめざまし」<BR>⏎677 
d11244<P>⏎
 1245 とのたまふ。劣るべくもあらぬ御ほどなるを、ただ今のおぼえのはなやかさに思しおごりて、おしたちもてなしたまへるなめりかし。<BR>⏎678 
d11246<P>⏎
text491247 <a name="in82">[第二段 中君に男子誕生]</a><BR>679 
d11248<P>⏎
cd4:21249-1252 からうして、その暁、男にて生まれたまへるを、宮もいとかひありてうれしく思したり。大将殿も、喜びに添へて、うれしく思す。昨夜おはしましたりしかしこまりに、やがてこの御喜びもうち添へて、立ちながら参りたまへり。かく籠もりおはしませば、参りたまはぬ人なし。<BR>⏎
<P>⏎
 御産養、三日は、例のただ宮の御私事にて、五日の夜、大将殿より屯食五十具碁手の銭椀飯などは、世の常のやうにて、子持ちの御前の衝重三十、稚児の御衣五重襲にて、御襁褓などぞ、ことことしからず忍びやかにしなしたまへれど、こまかに見れば、わざと目馴れぬ心ばへなど見えける。<BR>⏎
<P>⏎
680-681 からうして、その暁、男にて生まれたまへるを、宮もいとかひありてうれしく思したり。大将殿も、喜びに添へて、うれしく思す。昨夜おはしましたりしかしこまりに、やがてこの御喜びもうち添へて、立ちながら参りたまへり。かく籠もりおはしませば、参りたまはぬ人なし。<BR>⏎
 御産養、三日は、例のただ宮の御私事にて、五日の夜、大将殿より屯食五十具碁手の銭椀飯などは、世の常のやうにて、子持ちの御前の衝重三十、稚児の御衣五重襲にて、御襁褓などぞ、ことことしからず忍びやかにしなしたまへれど、こまかに見れば、わざと目馴れぬ心ばへなど見えける。<BR>⏎
 1253 宮の御前にも浅香の折敷、高坏どもにて、粉熟参らせたまへり。女房の御前には、衝重をばさるものにて、桧破籠三十、さまざまし尽くしたることどもあり。人目にことことしくは、ことさらにしなしたまはず。<BR>⏎682 
d11254<P>⏎
 1255 七日の夜は、后の宮の御産養なれば、参りたまふ人びといと多かり。宮の大夫をはじめて、殿上人、上達部、数知らず参りたまへり。内裏にも聞こし召して、<BR>⏎683 
d11256<P>⏎
 1257 「宮のはじめて大人びたまふなるには、いかでか」<BR>⏎684 
d11258<P>⏎
 1259 とのたまはせて、御佩刀奉らせたまへり。<BR>⏎685 
d11260<P>⏎
 1261 九日も、大殿より仕うまつらせたまへり。よろしからず思すあたりなれど、宮の思さむところあれば、御子の公達など参りたまひて、すべていと思ふことなげにめでたければ、御みづからも、月ごろもの思はしく心地の悩ましきにつけても、心細く思したりつるに、かくおもだたしく今めかしきことどもの多かれば、すこし慰みもやしたまふらむ。<BR>⏎686 
d11262<P>⏎
cd2:11263-1264 大将殿は、「かくさへ大人び果てたまふめれば、いとどわが方ざまは気遠くやならむ。また宮の御心ざしもいとおろかならじ」と思ふは口惜しけれど、また初めよりの心おきてを思ふには、いとうれしくもあり。<BR>⏎
<P>⏎
687 大将殿は、「かくさへ大人び果てたまふめれば、いとどわが方ざまは気遠くやならむ。また宮の御心ざしもいとおろかならじ」と思ふは口惜しけれど、また初めよりの心おきてを思ふには、いとうれしくもあり。<BR>⏎
text491265 <a name="in83">[第三段 二月二十日過ぎ、女二の宮、薫に降嫁す]</a><BR>688 
d11266<P>⏎
cd2:11267-1268 かくてその月の二十日あまりにぞ、藤壺の宮の御裳着の事ありて、またの日なむ、大将参りたまひける。夜のことは忍びたるさまなり。天の下響きていつくしう見えつる御かしづきに、ただ人の具したてまつりたまふぞ、なほ飽かず心苦しく見ゆる。<BR>⏎
<P>⏎
689 かくてその月の二十日あまりにぞ、藤壺の宮の御裳着の事ありて、またの日なむ、大将参りたまひける。夜のことは忍びたるさまなり。天の下響きていつくしう見えつる御かしづきに、ただ人の具したてまつりたまふぞ、なほ飽かず心苦しく見ゆる。<BR>⏎
 1269 「さる御許しはありながらも、ただ今、かく急がせたまふまじきことぞかし」<BR>⏎690 
d11270<P>⏎
cd2:11271-1272 とそしらはしげに思ひのたまふ人もありけれど、思し立ちぬること、すがすがしくおはします御心にて、来し方ためしなきまで、同じくはもてなさむと、思しおきつるなめり。帝の御婿になる人は、昔も今も多かれど、かく盛りの御世に、ただ人のやうに、婿取り急がせたまへるたぐひは、すくなくやありけむ。<a href="#k73">右の大臣</a><a name="t73">も</a>、<BR>⏎
<P>⏎
691 とそしらはしげに思ひのたまふ人もありけれど、思し立ちぬること、すがすがしくおはします御心にて、来し方ためしなきまで、同じくはもてなさむと、思しおきつるなめり。帝の御婿になる人は、昔も今も多かれど、かく盛りの御世に、ただ人のやうに、婿取り急がせたまへるたぐひは、すくなくやありけむ。<A HREF="#k73">右の大臣</A><A NAME="t73">も</A>、<BR>⏎
 1273 「めづらしかりける人の御おぼえ、宿世なり。故院だに、朱雀院の御末にならせたまひて、今はとやつしたまひし際にこそ、かの母宮を得たてまつりたまひしか。我はまして、人も許さぬものを拾ひたりしや」<BR>⏎692 
d11274<P>⏎
 1275 とのたまひ出づれば、宮は、げにと思すに、恥づかしくて御いらへもえしたまはず。<BR>⏎693 
d11276<P>⏎
cd4:21277-1280 三日の夜は、大蔵卿よりはじめて、かの御方の心寄せになさせたまへる人びと、家司に仰せ言賜ひて、忍びやかなれど、かの御前随身車副舎人まで禄賜はす。そのほどの事どもは、私事のやうにぞありける。<BR>⏎
<P>⏎
 かくて後は、忍び忍びに参りたまふ。心の内には、なほ忘れがたきいにしへざまのみおぼえて、昼は里に起き臥し眺め暮らして、暮るれば心より外に急ぎ参りたまふをも、ならはぬ心地にいともの憂く苦しくて、「まかでさせたてまつらむ」とぞ思しおきてける。<BR>⏎
<P>⏎
694-695 三日の夜は、大蔵卿よりはじめて、かの御方の心寄せになさせたまへる人びと、家司に仰せ言賜ひて、忍びやかなれど、かの御前随身車副舎人まで禄賜はす。そのほどの事どもは、私事のやうにぞありける。<BR>⏎
 かくて後は、忍び忍びに参りたまふ。心の内には、なほ忘れがたきいにしへざまのみおぼえて、昼は里に起き臥し眺め暮らして、暮るれば心より外に急ぎ参りたまふをも、ならはぬ心地にいともの憂く苦しくて、「まかでさせたてまつらむ」とぞ思しおきてける。<BR>⏎
 1281 母宮は、いとうれしきことに思したり。おはします寝殿譲りきこゆべくのたまへど、<BR>⏎696 
d11282<P>⏎
 1283 「いとかたじけなからむ」<BR>⏎697 
d11284<P>⏎
cd2:11285-1286 とて御念誦堂のあはひに、廊を続けて造らせたまふ。西面に移ろひたまふべきなめり。東の対どもなども、焼けて後、うるはしく新しくあらまほしきを、いよいよ磨き添へつつ、こまかにしつらはせたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
698 とて御念誦堂のあはひに、廊を続けて造らせたまふ。西面に移ろひたまふべきなめり。東の対どもなども、焼けて後、うるはしく新しくあらまほしきを、いよいよ磨き添へつつ、こまかにしつらはせたまふ。<BR>⏎
 1287 かかる御心づかひを、内裏にも聞かせたまひて、ほどなくうちとけ移ろひたまはむを、いかがと思したり。帝と聞こゆれど、<a href="#no49">心の闇は同じごと</a><a name="te49">な</a>むおはしましける。<BR>⏎699 
d11288<P>⏎
 1289 母宮の御もとに、御使ありける御文にも、ただこのことをなむ聞こえさせたまひける。故朱雀院の、取り分きて、この尼宮の御事をば聞こえ置かせたまひしかば、かく世を背きたまへれど、衰へず、何事も元のままにて、奏せさせたまふことなどは、かならず聞こしめし入れ、御用意<a href="#k74">深かりけり</a><a name="t74">。</a><BR>⏎700 
d11290<P>⏎
cd2:11291-1292 かくやむごとなき御心どもに、かたみに限りもなくもてかしづき騒がれたまふおもだたしさも、いかなるにかあらむ、心の内にはことにうれしくもおぼえず、なほともすればうち眺めつつ、宇治の寺造ることを急がせたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
701 かくやむごとなき御心どもに、かたみに限りもなくもてかしづき騒がれたまふおもだたしさも、いかなるにかあらむ、心の内にはことにうれしくもおぼえず、なほともすればうち眺めつつ、宇治の寺造ることを急がせたまふ。<BR>⏎
text491293 <a name="in84">[第四段 中君の男御子、五十日の祝い]</a><BR>702 
d11294<P>⏎
cd4:21295-1298 宮の若君の五十日になりたまふ日数へ取りて、その餅の急ぎを心に入れて、籠物桧破籠などまで見入れたまひつつ、世の常のなべてにはあらずと思し心ざして、沈紫檀黄金など、道々の細工どもいと多く召しさぶらはせたまへば、我劣らじと、さまざまのことどもをし出づめり。<BR>⏎
<P>⏎
 みづからも、例の、宮のおはしまさぬ隙におはしたり。心のなしにやあらむ、今すこし重々しくやむごとなげなるけしきさへ添ひにけりと見ゆ。「今は、さりとも、むつかしかりしすずろごとなどは紛れたまひにたらむ」と思ふに、心やすくて、対面したまへり。されどありしながらのけしきに、まづ涙ぐみて、<BR>⏎
<P>⏎
703-704 宮の若君の五十日になりたまふ日数へ取りて、その餅の急ぎを心に入れて、籠物桧破籠などまで見入れたまひつつ、世の常のなべてにはあらずと思し心ざして、沈紫檀黄金など、道々の細工どもいと多く召しさぶらはせたまへば、我劣らじと、さまざまのことどもをし出づめり。<BR>⏎
 みづからも、例の、宮のおはしまさぬ隙におはしたり。心のなしにやあらむ、今すこし重々しくやむごとなげなるけしきさへ添ひにけりと見ゆ。「今は、さりとも、むつかしかりしすずろごとなどは紛れたまひにたらむ」と思ふに、心やすくて、対面したまへり。されどありしながらのけしきに、まづ涙ぐみて、<BR>⏎
 1299 「心にもあらぬまじらひ、いと思ひの外なるものにこそと、世を思ひたまへ乱るることなむ、まさりにたる」<BR>⏎705 
d11300<P>⏎
cd2:11301-1302 とあいだちなくぞ愁へたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
706 とあいだちなくぞ愁へたまふ。<BR>⏎
 1303 「いとあさましき御ことかな。人もこそおのづからほのかにも<a href="#k75">漏り聞き</a><a name="t75">は</a>べれ」<BR>⏎707 
d11304<P>⏎
cd2:11305-1306 などはのたまへど、かばかりめでたげなることどもにも慰まず、「忘れがたく思ひたまふらむ心深さよ」とあはれに思ひきこえたまふに、おろかにもあらず思ひ知られたまふ。「おはせましかば」と、口惜しく思ひ出できこえたまへど、「それもわがありさまのやうに、うらやみなく身を恨むべかりけるかし。何事も数ならでは、世の人めかしきこともあるまじかりけり」とおぼゆるにぞ、いとどかのうちとけ果てでやみなむと思ひたまへりし心おきては、なほいと重々しく思ひ出でられたまふ。<BR>⏎
<P>⏎
708 などはのたまへど、かばかりめでたげなることどもにも慰まず、「忘れがたく思ひたまふらむ心深さよ」とあはれに思ひきこえたまふに、おろかにもあらず思ひ知られたまふ。「おはせましかば」と、口惜しく思ひ出できこえたまへど、「それもわがありさまのやうに、うらやみなく身を恨むべかりけるかし。何事も数ならでは、世の人めかしきこともあるまじかりけり」とおぼゆるにぞ、いとどかのうちとけ果てでやみなむと思ひたまへりし心おきては、なほいと重々しく思ひ出でられたまふ。<BR>⏎
text491307 <a name="in85">[第五段 薫、中君の若君を見る]</a><BR>709 
d11308<P>⏎
 1309 若君を切にゆかしがりきこえたまへば、恥づかしけれど、「何かは隔て顔にもあらむ、わりなきこと一つにつけて恨みらるるよりほかには、いかでこの人の御心に違はじ」と思へば、みづからはともかくもいらへきこえたまはで、乳母してさし出でさせたまへり。<BR>⏎710 
d11310<P>⏎
cd2:11311-1312 さらなることなれば、憎げならむやは。ゆゆしきまで白くうつくしくて、たかやかに物語し、うち笑ひなどしたまふ顔を見るに、わがものにて見まほしくうらやましきも、世の思ひ離れがたくなりぬるにやあらむ。されど「言ふかひなくなりたまひにし人の、世の常のありさまにて、かやうならむ人をもとどめ置きたまへらましかば」とのみおぼえて、このころおもだたしげなる御あたりに、いつしかなどは思ひ寄られぬこそ、あまりすべなき君の御心なめれ。かく女々しくねぢけて、まねびなすこそいとほしけれ。<BR>⏎
<P>⏎
711 さらなることなれば、憎げならむやは。ゆゆしきまで白くうつくしくて、たかやかに物語し、うち笑ひなどしたまふ顔を見るに、わがものにて見まほしくうらやましきも、世の思ひ離れがたくなりぬるにやあらむ。されど「言ふかひなくなりたまひにし人の、世の常のありさまにて、かやうならむ人をもとどめ置きたまへらましかば」とのみおぼえて、このころおもだたしげなる御あたりに、いつしかなどは思ひ寄られぬこそ、あまりすべなき君の御心なめれ。かく女々しくねぢけて、まねびなすこそいとほしけれ。<BR>⏎
 1313 しか悪ろびかたほならむ人を、帝の取り分き切に近づけて、睦びたまふべきにもあらじものを、「まことしき方ざまの御心おきてなどこそは、めやすくものしたまひけめ」とぞ推し量るべき。<BR>⏎712 
d11314<P>⏎
cd2:11315-1316 げにいとかく幼きほどを<a href="#k76">見せたまへる</a><a name="t76">も</a>あはれなれば、例よりは物語などこまやかに聞こえたまふほどに、暮れぬれば、心やすく夜をだに更かすまじきを、苦しうおぼゆれば、嘆く嘆く<a href="#k77">出でたまひぬ</a><a name="t77">。</a><BR>⏎
<P>⏎
713 げにいとかく幼きほどを<A HREF="#k76">見せたまへる</A><A NAME="t76">も</A>あはれなれば、例よりは物語などこまやかに聞こえたまふほどに、暮れぬれば、心やすく夜をだに更かすまじきを、苦しうおぼゆれば、嘆く嘆く<A HREF="#k77">出でたまひぬ</A><A NAME="t77">。</A><BR>⏎
 1317 「をかしの人の御匂ひや。<a href="#no50">折りつれば</a><a name="te50">、</a>とかや言ふやうに、<a href="#k78">鴬も</a><a name="t78">尋</a>ね来ぬべかめり」<BR>⏎714 
d11318<P>⏎
cd2:11319-1320 などわづらはしがる若き人もあり。<BR>⏎
<P>⏎
715 などわづらはしがる若き人もあり。<BR>⏎
text491321 <a name="in86">[第六段 藤壺にて藤の花の宴催される]</a><BR>716 
d11322<P>⏎
 1323 「夏にならば、三条の宮塞がる方になりぬべし」と定めて、四月朔日ごろ、節分とかいふこと、まだしき先に渡したてまつりたまふ。<BR>⏎717 
d11324<P>⏎
 1325 明日とての日、藤壺に主上渡らせたまひて、藤の花の宴せさせたまふ。南の廂の御簾上げて、椅子立てたり。公わざにて、主人の<a href="#k79">宮の</a><a name="t79">仕</a>うまつりたまふにはあらず。上達部、殿上人の饗など、内蔵寮より仕うまつれり。<BR>⏎718 
d11326<P>⏎
 1327 <a href="#k80">右の大臣</a><a name="t80">、</a>按察使大納言、藤中納言、左兵衛督。親王たちは、三の宮、常陸宮などさぶらひたまふ。南の庭の藤の花のもとに、殿上人の座はしたり。後涼殿の東に、楽所の人びと召して、暮れ行くほどに、双調に吹きて、上の御遊びに、宮の御方より、御琴ども笛など出ださせたまへば、大臣をはじめたてまつりて、御前に取りつつ参りたまふ。<BR>⏎719 
d11328<P>⏎
 1329 故六条の院の御手づから書きたまひて、入道の宮にたてまつらせたまひし琴の譜二巻、五葉の枝に付けたるを、大臣取りたまひて奏したまふ。<BR>⏎720 
d11330<P>⏎
 1331 次々に、箏の御琴、琵琶、和琴など、朱雀院の物どもなりけり。笛は、かの夢に伝へしいにしへの形見のを、「またなき物の音なり」と賞でさせたまひければ、「この折のきよらより、またはいつかは映え映えしきついでのあらむ」と思して、取う出で<a href="#k81">たまへるなめり</a><a name="t81">。</a><BR>⏎721 
d11332<P>⏎
 1333 大臣和琴、三の宮琵琶など、とりどりに賜ふ。大将の御笛は、今日ぞ、世になき音の限りは吹き立てたまひける。殿上人の中にも、唱歌につきなからぬどもは、召し出でて、おもしろく遊ぶ。<BR>⏎722 
d11334<P>⏎
 1335 宮の御方より、粉熟参らせたまへり。沈の折敷四つ、紫檀の高坏、藤の村濃の打敷に、折枝縫ひたり。銀の様器、瑠璃の御盃、瓶子は紺瑠璃なり。兵衛督、御まかなひ仕うまつりたまふ。<BR>⏎723 
d11336<P>⏎
 1337 御盃参りたまふに、大臣、しきりては便なかるべし、宮たちの御中にはた、さるべきもおはせねば、大将に譲りきこえたまふを、憚り申したまへど、御けしきもいかがありけむ、御盃ささげて、「をし」とのたまへる声づかひもてなしさへ、例の公事なれど、人に似ず見ゆるも、今日はいとど見なしさへ添ふにやあらむ。さし返し賜はりて、下りて舞踏したまへるほど、いとたぐひなし。<BR>⏎724 
d11338<P>⏎
 1339 上臈の親王たち、大臣などの賜はりたまふだにめでたきことなるを、これはまして御婿にてもてはやされたてまつりたまへる、御おぼえ、おろかならずめづらしきに、限りあれば、下りたる座に帰り着きたまへるほど、心苦しきまでぞ見えける。<BR>⏎725 
d11340<P>⏎
text491341 <a name="in87">[第七段 女二の宮、三条宮邸に渡御す]</a><BR>726 
d11342<P>⏎
cd11:51343-1353 按察使大納言は、「我こそかかる目も見むと思ひしか、ねたのわざや」と思ひたまへり。この宮の御母女御をぞ、昔心かけきこえたまへりけるを、参りたまひて後も、なほ思ひ離れぬさまに聞こえ通ひたまひて、果ては宮を得たてまつらむの心つきたりければ、御後見望むけしきも漏らし申しけれど、聞こし召しだに伝へずなりにければ、いと心やましと思ひて、<BR>⏎
<P>⏎
 「人柄は、げに契りことなめれど、なぞ時の帝のことことしきまで婿かしづきたまふべき。またあらじかし。九重のうちに、おはします殿近きほどにて、ただ人のうちとけ訪らひて、果ては宴や何やともて騒がるることは」<BR>⏎
<P>⏎
 などいみじく誹りつぶやき申したまひけれど、さすがゆかしければ、参りて、心の内にぞ腹立ちゐたまへりける。<BR>⏎
<P>⏎
 紙燭さして歌どもたてまつる。文台のもとに寄りつつ置くほどのけしきは、おのおのしたり顔なりけれど、例の、「いかにあやしげに古めきたりけむ」と思ひやれば、あながちに皆もたづね書かず。上の町も、上臈とて、御口つきどもは、異なること見えざめれど、しるしばかりとて、一つ二つぞ問ひ聞きたりし。これは大将の君の、下りて御かざし折りて参りたまへりけるとか。<BR>⏎
<P>⏎
 「すべらきのかざしに折ると藤の花<BR>⏎
  及ばぬ枝に袖かけてけり」<BR>⏎
<P>⏎
727-731 按察使大納言は、「我こそかかる目も見むと思ひしか、ねたのわざや」と思ひたまへり。この宮の御母女御をぞ、昔心かけきこえたまへりけるを、参りたまひて後も、なほ思ひ離れぬさまに聞こえ通ひたまひて、果ては宮を得たてまつらむの心つきたりければ、御後見望むけしきも漏らし申しけれど、聞こし召しだに伝へずなりにければ、いと心やましと思ひて、<BR>⏎
 「人柄は、げに契りことなめれど、なぞ時の帝のことことしきまで婿かしづきたまふべき。またあらじかし。九重のうちに、おはします殿近きほどにて、ただ人のうちとけ訪らひて、果ては宴や何やともて騒がるることは」<BR>⏎
 などいみじく誹りつぶやき申したまひけれど、さすがゆかしければ、参りて、心の内にぞ腹立ちゐたまへりける。<BR>⏎
 紙燭さして歌どもたてまつる。文台のもとに寄りつつ置くほどのけしきは、おのおのしたり顔なりけれど、例の、「いかにあやしげに古めきたりけむ」と思ひやれば、あながちに皆もたづね書かず。上の町も、上臈とて、御口つきどもは、異なること見えざめれど、しるしばかりとて、一つ二つぞ問ひ聞きたりし。これは大将の君の、下りて御かざし折りて参りたまへりけるとか。<BR>⏎
 「すべらきのかざしに折ると藤の花<BR>  及ばぬ枝に袖かけてけり」<BR>⏎
 1354 うけばりたるぞ、憎きや。<BR>⏎732 
d11355<P>⏎
cd11:41356-1366 「<a href="#no51">よろづ世をかけて匂はむ</a><a name="te51">花</a>なれば<BR>⏎
  今日をも飽かぬ色とこそ見れ」<BR>⏎
<P>⏎
 「君がため折れるかざしは<a href="#no52">紫の<BR>⏎
  雲に劣らぬ</a><a name="te52">花</a>のけしきか」<BR>⏎
<P>⏎
 「世の常の色とも見えず雲居まで<BR>⏎
  たち昇りたる藤波の花」<BR>⏎
<P>⏎
 「これやこの腹立つ大納言のなりけむ」と見ゆれ。かたへは、ひがことにもやありけむ。かやうにことなるをかしきふしもなくのみぞあなりし。<BR>⏎
<P>⏎
733-736 「<A HREF="#no51">よろづ世をかけて匂はむ</A><A NAME="te51">花</A>なれば<BR>  今日をも飽かぬ色とこそ見れ」<BR>⏎
 「君がため折れるかざしは<A HREF="#no52">紫の<BR>  雲に劣らぬ</A><A NAME="te52">花</A>のけしきか」<BR>⏎
 「世の常の色とも見えず雲居まで<BR>  たち昇りたる藤波の花」<BR>⏎
 「これやこの腹立つ大納言のなりけむ」と見ゆれ。かたへは、ひがことにもやありけむ。かやうにことなるをかしきふしもなくのみぞあなりし。<BR>⏎
 1367 夜更くるままに、御遊びいとおもしろし。大将の君、「<a href="#no53">安名尊</a><a name="te53">」</a>謡ひたまへる声ぞ、限りなくめでたかりける。按察使も、昔すぐれたまへりし御声の名残なれば、今もいとものものしくて、うち合はせたまへり。<a href="#k82">右の大殿</a><a name="t82">の</a>御七郎、童にて笙の笛吹く。いとうつくしかりければ、御衣賜はす。大臣下りて舞踏したまふ。<BR>⏎737 
d11368<P>⏎
cd2:11369-1370 暁近うなりてぞ帰らせたまひける。禄ども、上達部親王たちには、主上より賜はす。殿上人、楽所の人びとには、宮の御方より品々に賜ひけり。<BR>⏎
<P>⏎
738 暁近うなりてぞ帰らせたまひける。禄ども、上達部親王たちには、主上より賜はす。殿上人、楽所の人びとには、宮の御方より品々に賜ひけり。<BR>⏎
 1371 その夜ふさりなむ、宮まかでさせたてまつりたまひける。儀式いと心ことなり。主上の女房さながら御送り仕うまつらせたまひける。庇の御車にて、庇なき糸毛三つ、黄金づくり六つ、ただの檳榔毛二十、網代二つ、童、下仕へ八人づつさぶらふに、また御迎への出車どもに、本所の人びと乗せてなむありける。御送りの上達部、殿上人、六位など、言ふ限りなききよらを尽くさせたまへり。<BR>⏎739 
d11372<P>⏎
cd2:11373-1374 かくて心やすくうちとけて見たてまつりたまふに、いとをかしげにおはす。ささやかにしめやかにて、ここはと見ゆるところなくおはすれば、「宿世のほど口惜しからざりけり」と、心おごりせらるるものから、過ぎにし方の忘らればこそはあらめ、なほ紛るる折なく、もののみ恋しくおぼゆれば、<BR>⏎
<P>⏎
740 かくて心やすくうちとけて見たてまつりたまふに、いとをかしげにおはす。ささやかにしめやかにて、ここはと見ゆるところなくおはすれば、「宿世のほど口惜しからざりけり」と、心おごりせらるるものから、過ぎにし方の忘らればこそはあらめ、なほ紛るる折なく、もののみ恋しくおぼゆれば、<BR>⏎
 1375 「この世にては慰めかねつべきわざなめり。仏になりてこそは、あやしくつらかりける契りのほどを、何の報いと諦めて思ひ離れめ」<BR>⏎741 
d11376<P>⏎
 1377 と思ひつつ、寺の急ぎにのみ心を入れたまへり。<BR>⏎742 
d11378<P>⏎
text491379 <H4>第九章 薫の物語 宇治で浮舟に出逢う</H4>743 
text491380 <a name="in91">[第一段 四月二十日過ぎ、薫、宇治で浮舟に邂逅]</a><BR>744 
d11381<P>⏎
 1382 賀茂の祭など、騒がしきほど過ぐして、二十日あまりのほどに、例の、宇治へおはしたり。<BR>⏎745 
d11383<P>⏎
cd2:11384-1385 造らせたまふ御堂見たまひて、すべきことどもおきてのたまひ、さて例の、朽木のもとを見たまへ過ぎむが、なほあはれなれば、そなたざまにおはするに、女車のことことしきさまにはあらぬ一つ、荒らましき東男の、腰に物負へる、あまた具して、下人も数多く頼もしげなるけしきにて、橋より今渡り来る見ゆ。<BR>⏎
<P>⏎
746 造らせたまふ御堂見たまひて、すべきことどもおきてのたまひ、さて例の、朽木のもとを見たまへ過ぎむが、なほあはれなれば、そなたざまにおはするに、女車のことことしきさまにはあらぬ一つ、荒らましき東男の、腰に物負へる、あまた具して、下人も数多く頼もしげなるけしきにて、橋より今渡り来る見ゆ。<BR>⏎
 1386 「田舎びたる者かな」と見たまひつつ、殿はまづ入りたまひて、御前どもは、まだ立ち騷ぎたるほどに、「この車もこの宮をさして来るなりけり」と見ゆ。御随身どもも、かやかやと言ふを制したまひて、<BR>⏎747 
d11387<P>⏎
 1388 「何人ぞ」<BR>⏎748 
d11389<P>⏎
 1390 と問はせたまへば、声うちゆがみたる者、<BR>⏎749 
d11391<P>⏎
 1392 「常陸の前司殿の姫君の、初瀬の御寺に詣でて戻りたまへるなり。初めもここになむ宿りたまへし」<BR>⏎750 
d11393<P>⏎
 1394 と申すに、<BR>⏎751 
d11395<P>⏎
cd2:11396-1397 「おいや聞きし人ななり」<BR>⏎
<P>⏎
752 「おいや聞きし人ななり」<BR>⏎
 1398 と思し出でて、人びとを異方に隠したまひて、<BR>⏎753 
d11399<P>⏎
cd4:11400-1403 「はや御車入れよ。ここにまた<BR>⏎
<P>⏎
 
<a href="#k83">人</a><a name="t83">宿</a>りたまへど、北面になむ」<BR>⏎
<P>⏎
754 「はや御車入れよ。ここにまた<A HREF="#k83">人</A><A NAME="t83">宿</A>りたまへど、北面になむ」<BR>⏎
 1404 と言はせたまふ。<BR>⏎755 
d11405<P>⏎
 1406 御供の人も、皆狩衣姿にて、ことことしからぬ<a href="#k84">姿ども</a><a name="t84">な</a>れど、なほけはひやしるからむ、わづらはしげに思ひて、馬ども引きさけなどしつつ、かしこまりつつぞをる。車は入れて、廊の西のつまにぞ寄する。この寝殿はまだあらはにて、簾もかけず。下ろし籠めたる中の二間に立て隔てたる障子の穴より覗きたまふ。<BR>⏎756 
d11407<P>⏎
 1408 御衣の鳴れば、脱ぎおきて、直衣指貫の限りを着てぞおはする。とみにも降りで、尼君に消息して、かくやむごとなげなる人のおはするを、「誰れぞ」など案内するなるべし。君は、車をそれと聞きたまひつるより、<BR>⏎757 
d11409<P>⏎
 1410 「<a href="#k85">ゆめ</a><a name="t85">、</a>その人にまろありとのたまふな」<BR>⏎758 
d11411<P>⏎
cd2:11412-1413 とまづ口かためさせたまひてければ、皆さ心得て、<BR>⏎
<P>⏎
759 とまづ口かためさせたまひてければ、皆さ心得て、<BR>⏎
 1414 「早う降りさせたまへ。客人はものしたまへど、異方になむ」<BR>⏎760 
d11415<P>⏎
 1416 と言ひ出だしたり。<BR>⏎761 
d11417<P>⏎
text491418 <a name="in92">[第二段 薫、浮舟を垣間見る]</a><BR>762 
d11419<P>⏎
cd2:11420-1421 若き人のある、まづ降りて、簾うち上ぐめり。御前のさまよりは、このおもと馴れてめやすし。また大人びたる人いま一人降りて、「早う」と言ふに、<BR>⏎
<P>⏎
763 若き人のある、まづ降りて、簾うち上ぐめり。御前のさまよりは、このおもと馴れてめやすし。また大人びたる人いま一人降りて、「早う」と言ふに、<BR>⏎
 1422 「あやしくあらはなる心地こそすれ」<BR>⏎764 
d11423<P>⏎
 1424 と言ふ声、ほのかなれどあてやかに聞こゆ。<BR>⏎765 
d11425<P>⏎
cd4:21426-1429 「例の御事。こなたは、さきざきも下ろし籠めてのみこそははべれ。さてはまたいづこのあらはなるべきぞ」<BR>⏎
<P>⏎
 と心をやりて言ふ。つつましげに降るるを見れば、まづ頭つき、様体、細やかにあてなるほどは、いとよくもの思ひ出でられぬべし。扇子をつとさし隠したれば、顔は見えぬほど心もとなくて、胸うちつぶれつつ見たまふ。<BR>⏎
<P>⏎
766-767 「例の御事。こなたは、さきざきも下ろし籠めてのみこそははべれ。さてはまたいづこのあらはなるべきぞ」<BR>⏎
 と心をやりて言ふ。つつましげに降るるを見れば、まづ頭つき、様体、細やかにあてなるほどは、いとよくもの思ひ出でられぬべし。扇子をつとさし隠したれば、顔は見えぬほど心もとなくて、胸うちつぶれつつ見たまふ。<BR>⏎
 1430 車は高く、降るる所は下りたるを、この人びとはやすらかに降りなしつれど、いと苦しげにややみて、ひさしく降りて、ゐざり入る。濃き袿に、撫子とおぼしき細長、若苗色の小袿着たり。<BR>⏎768 
d11431<P>⏎
 1432 四尺の屏風を、この障子に添へて立てたるが、上より見ゆる穴なれば、残るところなし。こなたをばうしろめたげに思ひて、あなたざまに向きてぞ、添ひ臥しぬる。<BR>⏎769 
d11433<P>⏎
cd6:31434-1439 「さも苦しげに思したりつるかな。泉川の舟渡りも、まことに、今日はいと恐ろしくこそありつれ。この如月には、水のすくなかりしかばよかりしなりけり」<BR>⏎
<P>⏎
 「いでや歩くは、東路思へば、いづこか恐ろしからむ」<BR>⏎
<P>⏎
 など二人して苦しとも思ひたらず言ひゐたるに、主は音もせでひれ臥したり。腕をさし出でたるが、まろらかにをかしげなるほども、常陸殿などいふべくは見えず、まことにあてなり。<BR>⏎
<P>⏎
770-772 「さも苦しげに思したりつるかな。泉川の舟渡りも、まことに、今日はいと恐ろしくこそありつれ。この如月には、水のすくなかりしかばよかりしなりけり」<BR>⏎
 「いでや歩くは、東路思へば、いづこか恐ろしからむ」<BR>⏎
 など二人して苦しとも思ひたらず言ひゐたるに、主は音もせでひれ臥したり。腕をさし出でたるが、まろらかにをかしげなるほども、常陸殿などいふべくは見えず、まことにあてなり。<BR>⏎
 1440 やうやう腰痛きまで立ちすくみたまへど、人のけはひせじとて、なほ動かで見たまふに、若き人、<BR>⏎773 
d11441<P>⏎
cd2:11442-1443 「あな香ばしや。いみじき香の香こそすれ。尼君の焚きたまふにやあらむ」<BR>⏎
<P>⏎
774 「あな香ばしや。いみじき香の香こそすれ。尼君の焚きたまふにやあらむ」<BR>⏎
 1444 老い人、<BR>⏎775 
d11445<P>⏎
 1446 「まことにあなめでたの物の香や。京人は、なほいとこそ雅びかに今めかしけれ。天下にいみじきことと思したりしかど、東にてかかる薫物の香は、え合はせ出でたまはざりきかし。この尼君は、住まひかくかすかにおはすれど、装束のあらまほしく、鈍色青色といへど、いときよらにぞあるや」<BR>⏎776 
d11447<P>⏎
cd2:11448-1449 などほめゐたり。あなたの簀子より童来て、<BR>⏎
<P>⏎
777 などほめゐたり。あなたの簀子より童来て、<BR>⏎
 1450 「御湯など参らせたまへ」<BR>⏎778 
d11451<P>⏎
cd4:21452-1455 とて折敷どもも取り続きてさし入る。果物取り寄せなどして、<BR>⏎
<P>⏎
 「ものけたまはるこれ」<BR>⏎
<P>⏎
779-780 とて折敷どもも取り続きてさし入る。果物取り寄せなどして、<BR>⏎
 「ものけたまはるこれ」<BR>⏎
 1456 など起こせど、起きねば、二人して、栗やなどやうのものにや、ほろほろと食ふも、聞き知らぬ心地には、かたはらいたくてしぞきたまへど、またゆかしくなりつつ、なほ立ち寄り立ち寄り見たまふ。<BR>⏎781 
d11457<P>⏎
 1458 これよりまさる際の人びとを、后の宮をはじめて、ここかしこに、容貌よきも心あてなるも、ここら飽くまで見集めたまへど、おぼろけならでは、目も心もとまらず、あまり人にもどかるるまでものしたまふ心地に、ただ今は、何ばかりすぐれて見ゆることもなき人なれど、かく立ち去りがたく、あながちにゆかしきも、いとあやしき心なり。<BR>⏎782 
d11459<P>⏎
text491460 <a name="in93">[第三段 浮舟、弁の尼と対面]</a><BR>783 
d11461<P>⏎
 1462 尼君は、この殿の御方にも、御消息聞こえ出だしたりけれど、<BR>⏎784 
d11463<P>⏎
 1464 「御心地悩ましとて、今のほどうちやすませたまへるなり」<BR>⏎785 
d11465<P>⏎
cd2:11466-1467 と御供の人びと心しらひて言ひたりければ、「この君を尋ねまほしげにのたまひしかば、かかるついでにもの言ひ触れむと思ほすによりて、日暮らしたまふにや」と思ひて、かく覗きたまふらむとは知らず。<BR>⏎
<P>⏎
786 と御供の人びと心しらひて言ひたりければ、「この君を尋ねまほしげにのたまひしかば、かかるついでにもの言ひ触れむと思ほすによりて、日暮らしたまふにや」と思ひて、かく覗きたまふらむとは知らず。<BR>⏎
 1468 例の、御荘の預りどもの参れる、破籠や何やと、こなたにも入れたるを、東人どもにも食はせなど、事ども行なひおきて、うち化粧じて、客人の方に来たり。ほめつる装束、げにいとかはらかにて、みめもなほよしよししくきよげにぞある。<BR>⏎787 
d11469<P>⏎
cd2:11470-1471 「昨日おはし着きなむと待ちきこえさせしを、などか今日も日たけては」<BR>⏎
<P>⏎
788 「昨日おはし着きなむと待ちきこえさせしを、などか今日も日たけては」<BR>⏎
 1472 と言ふめれば、この老い人、<BR>⏎789 
d11473<P>⏎
 1474 「いとあやしく苦しげにのみせさせたまへば、昨日はこの泉川のわたりにて、今朝も無期に御心地ためらひてなむ」<BR>⏎790 
d11475<P>⏎
 1476 といらひて、起こせば、今ぞ起きゐたる。尼君を恥ぢらひて、そばみたるかたはらめ、これよりはいとよく見ゆ。まことにいとよしあるまみのほど、髪ざしのわたり、かれをも、詳しくつくづくとしも見たまはざりし御顔なれど、これを見るにつけて、ただそれと思ひ出でらるるに、例の、涙落ちぬ。<BR>⏎791 
d11477<P>⏎
cd6:31478-1483 尼君のいらへうちする声けはひ、宮の御方にもいとよく似たりと聞こゆ。<BR>⏎
<P>⏎
 「あはれなりける人かな。かかりけるものを、今まで尋ねも知らで過ぐしけることよ。これより口惜しからむ際の品ならむゆかりなどにてだに、かばかりかよひきこえたらむ人を得ては、おろかに思ふまじき心地するに、ましてこれは、知られたてまつらざりけれど、まことに故宮の御子にこそはありけれ」<BR>⏎
<P>⏎
 と見なしたまひては、限りなくあはれにうれしくおぼえたまふ。「ただ今も、はひ寄りて、世の中におはしけるものを」と言ひ慰めまほし。蓬莱まで尋ねて、釵の限りを伝へて見たまひけむ帝は、なほいぶせかりけむ。「これは異人なれど、慰め所ありぬべきさまなり」とおぼゆるは、この人に契りのおはしけるにやあらむ。<BR>⏎
<P>⏎
792-794 尼君のいらへうちする声けはひ、宮の御方にもいとよく似たりと聞こゆ。<BR>⏎
 「あはれなりける人かな。かかりけるものを、今まで尋ねも知らで過ぐしけることよ。これより口惜しからむ際の品ならむゆかりなどにてだに、かばかりかよひきこえたらむ人を得ては、おろかに思ふまじき心地するに、ましてこれは、知られたてまつらざりけれど、まことに故宮の御子にこそはありけれ」<BR>⏎
 と見なしたまひては、限りなくあはれにうれしくおぼえたまふ。「ただ今も、はひ寄りて、世の中におはしけるものを」と言ひ慰めまほし。蓬莱まで尋ねて、釵の限りを伝へて見たまひけむ帝は、なほいぶせかりけむ。「これは異人なれど、慰め所ありぬべきさまなり」とおぼゆるは、この人に契りのおはしけるにやあらむ。<BR>⏎
 1484 尼君は、物語すこしして、とく入りぬ。人のとがめつる薫りを、「近く覗きたまふなめり」と心得てければ、うちとけごとも語らはずなりぬるなるべし。<BR>⏎795 
d11485<P>⏎
text491486<a name="in94">[第四段 薫、弁の尼に仲立を依頼]</a><BR>796 
d11487<P>⏎
 1488 日暮れもていけば、君もやをら出でて、御衣など着たまひてぞ、例召し出づる障子の口に、尼君呼びて、ありさまなど問ひたまふ。<BR>⏎797 
d11489<P>⏎
 1490 「折しもうれしく参で逢ひたるを。いかにぞ、かの聞こえしことは」<BR>⏎798 
d11491<P>⏎
 1492 とのたまへば、<BR>⏎799 
d11493<P>⏎
cd2:11494-1495 「しか仰せ言はべりし後は、さるべきついではべらば、と待ちはべりしに、去年は過ぎて、この二月になむ、初瀬詣でのたよりに対面してはべりし。<BR>⏎
<P>⏎
800 「しか仰せ言はべりし後は、さるべきついではべらば、と待ちはべりしに、去年は過ぎて、この二月になむ、初瀬詣でのたよりに対面してはべりし。<BR>⏎
 1496 かの母君に、思し召したるさまは、ほのめかしはべりしかば、いとかたはらいたく、かたじけなき御よそへにこそははべるなれ、などなむはべりしかど、そのころほひは、のどやかにもおはしまさずと承りし、折便なく思ひたまへつつみて、かくなむ、とも聞こえさせはべらざりしを、またこの月にも詣でて、今日帰りたまふなめり。<BR>⏎801 
d11497<P>⏎
 1498 行き帰りの中宿りには、かく睦びらるるも、ただ過ぎにし御けはひを尋ねきこゆるゆゑになむはべめる。かの母君も、障ることありて、このたびは、独りものしたまふめれば、かくおはしますとも、何かは、ものしはべらむとて」<BR>⏎802 
d11499<P>⏎
 1500 と聞こゆ。<BR>⏎803 
d11501<P>⏎
cd2:11502-1503 「田舎びたる人どもに、忍びやつれたるありきも見えじとて、口固めつれど、いかがあらむ。下衆どもは隠れあらじかし。さていかがすべき。独りものすらむこそ、なかなか心やすかなれ。かく契り深くてなむ、参り来あひたる、と伝へたまへかし」<BR>⏎
<P>⏎
804 「田舎びたる人どもに、忍びやつれたるありきも見えじとて、口固めつれど、いかがあらむ。下衆どもは隠れあらじかし。さていかがすべき。独りものすらむこそ、なかなか心やすかなれ。かく契り深くてなむ、参り来あひたる、と伝へたまへかし」<BR>⏎
 1504 とのたまへば、<BR>⏎805 
d11505<P>⏎
 1506 「うちつけに、いつのほどなる御契りにかは」<BR>⏎806 
d11507<P>⏎
cd9:41508-1516 とうち笑ひて、<BR>⏎
<P>⏎
 「さらばしか伝へはべらむ」<BR>⏎
<P>⏎
 とて<a href="#k86">入るに</a><a name="t86">、</a><BR>⏎
<P>⏎
 「貌鳥の声も聞きしにかよふやと<BR>⏎
  茂みを分けて今日ぞ尋ぬる」<BR>⏎
<P>⏎
807-810 とうち笑ひて、<BR>⏎
 「さらばしか伝へはべらむ」<BR>⏎
 とて<A HREF="#k86">入るに</A><A NAME="t86">、</A><BR>⏎
 「貌鳥の声も聞きしにかよふやと<BR>  茂みを分けて今日ぞ尋ぬる」<BR>⏎
 1517 ただ口ずさみのやうにのたまふを、入りて語りけり。<BR>⏎811 
d31518-1520

<P>⏎
text491521<a name="in101">【出典】<BR>812 
c11522</a><a name="no1">出典1</a> 送春唯有酒 銷日不過棋<春を送るには唯酒有り 日を銷するには棋に過ぎず>(白氏文集巻十六-九二〇 官舎閑題)<a href="#te1">(戻)</a><BR>⏎
813<A NAME="no1">出典1</A> 送春唯有酒 銷日不過棋<春を送るには唯酒有り 日を銷するには棋に過ぎず>(白氏文集巻十六-九二〇 官舎閑題)<A HREF="#te1">(戻)</A><BR>⏎
 1523<a name="no2">出典2</a> 聞得園中花養艶 請君許折一枝春<聞き得たり園の中に花の艶を養ふことを 君に請ふ一枝の春を折らむことを許せ>(和漢朗詠集下恋-七八四 無名)<a href="#te2">(戻)</a><BR>⏎814 
 1524<a name="no3">出典3</a> などてかく逢ふごかたみになりにけむ水漏らさじと結びしものを(伊勢物語-六一)<a href="#te3">(戻)</a><BR>⏎815 
 1525<a name="no4">出典4</a> 散りぬべき花心ぞとかつ見つつ頼みそめけむ我やなになる(元良親王集-九四)<a href="#te4">(戻)</a><BR>⏎816 
 1526<a name="no5">出典5</a> 世の憂き目見えぬ山路へ入らむには思ふ人こそほだしなりけれ(古今集雑下-九五五 物部吉名)<a href="#te5">(戻)</a><BR>⏎817 
 1527<a name="no6">出典6</a> 朝顔は常なき花の色なれや明くる間咲きて移ろひにけり(花鳥余情所引-出典未詳)<a href="#te6">(戻)</a><BR>⏎818 
 1528<a name="no7">出典7</a> 朝顔を何は悲しと思ひけむ人をも花はさこそ見るらめ(拾遺集哀傷-一二八三 藤原道信)<a href="#te7">(戻)</a><BR>⏎819 
 1529<a name="no8">出典8</a> 女郎花憂しと見つつぞ行き過ぐる男山にしたてりと思へば(古今集秋上-二二七 布留今道)<a href="#te8">(戻)</a><BR>⏎820 
 1530<a name="no9">出典9</a> 出典未詳、参考 頼めおく言の葉だにもなきものを何にかかれる露の命ぞ(金葉集恋上-四二〇 皇后宮女別当)<a href="#te9">(戻)</a><BR>⏎821 
 1531<a name="no10">出典10</a> 大底四時心惣苦 就中腸断是秋天<大底四時心惣て苦し 就中腸の断ゆることは是れ秋の天>(白氏文集巻十四-七九〇 暮立)<a href="#te10">(戻)</a><BR>⏎822 
 1532<a name="no11">出典11</a> 里は荒れて人は古りにし宿なれや籬も秋の野良なる(古今集秋上-二四八 僧正遍昭)<a href="#te11">(戻)</a><BR>⏎823 
 1533<a name="no12">出典12</a> 山里は物ぞわびしきことこそあれ世の憂きよりは住みよかりけり(古今集雑下-九四四 読人しらず)<a href="#te12">(戻)</a><BR>⏎824 
c11534<a name="no13">出典13</a> 幾世しもあらじ我が身をなもかく海人の刈る藻に思ひ乱るる(古今集雑下-九三四 読人しらず)<a href="#te13">(戻)</a><BR>⏎
825<A NAME="no13">出典13</A> 幾世しもあらじ我が身をなもかく海人の刈る藻に思ひ乱るる(古今集雑下-九三四 読人しらず)<A HREF="#te13">(戻)</A><BR>⏎
 1535<a name="no14">出典14</a> 大空の月だに宿は入るものを雲のよそにも過ぐる君かな(元良親王集-一五〇)<a href="#te14">(戻)</a><BR>⏎826 
 1536<a name="no15">出典15</a> 涙川水増さればやしきたへの枕の浮きて止まらざるらむ(拾遺集雑恋-一二五八 読人しらず)<a href="#te15">(戻)</a><BR>⏎827 
c11537<a name="no16">出典16</a> 我が心慰めかねつ更級や姥捨山に照る月を見て(古今集雑上-八七八読人しらず)<a href="#te16">(戻)</a><BR>⏎
828<A NAME="no16">出典16</A> 我が心慰めかねつ更級や姥捨山に照る月を見て(古今集雑上-八七八 読人しらず)<A HREF="#te16">(戻)</A><BR>⏎
 1538<a name="no17">出典17</a> 優婆塞が行ふ山の椎本あなそばそばし床にしあらねば(宇津保物語-二一二)<a href="#te17">(戻)</a><BR>⏎829 
 1539<a name="no18">出典18</a> 独り寝の侘しきままに起きゐつつ月をあはれと忌みぞかねつる(後撰集恋二-六八四 読人しらず)<a href="#te18">(戻)</a><BR>⏎830 
 1540<a name="no19">出典19</a> 長しとも思ひぞはてぬ昔より逢ふ人からの秋の夜なれば(古今集恋三-六三六 凡河内躬恒)<a href="#te19">(戻)</a><BR>⏎831 
 1541<a name="no20">出典20</a> 有りはてぬ命待つ間のほどばかり憂きことしげく思はずもがな(古今集雑下-九六五 平貞文)<a href="#te20">(戻)</a><BR>⏎832 
 1542<a name="no21">出典21</a> こりずまに又もなき名は立ちぬべし人憎からぬ世にしすまへば(古今集恋三-六三一 読人しらず)<a href="#te21">(戻)</a><BR>⏎833 
 1543<a name="no22">出典22</a> いなせとも言ひはなたれず憂きものは身を心ともせぬ世なりけり(後撰集恋五-九三七 伊勢)<a href="#te22">(戻)</a><BR>⏎834 
 1544<a name="no23">出典23</a> ひぐらしの鳴きつるなへに日は暮れぬと思ふは山の蔭にぞありける(古今集秋上-二〇四 読人しらず)<a href="#te23">(戻)</a><BR>⏎835 
 1545<a name="no24">出典24</a> 恋をしてねをのみ泣けばしきたへの枕の下に海人ぞ釣する(源氏釈所引-出典未詳)<a href="#te24">(戻)</a><BR>⏎836 
c11546<a name="no25">出典25</a> 浅くこそ人は見るらめ関川の絶ゆる心はあらじとぞ思ふ 関川の岩間を潜る水浅み絶えぬべくのみ見ゆる心を(大和物語-一六一一六二)<a href="#te25">(戻)</a><BR>⏎
837<A NAME="no25">出典25</A> 浅くこそ人は見るらめ関川の絶ゆる心はあらじとぞ思ふ 関川の岩間を潜る水浅み絶えぬべくのみ見ゆる心を(大和物語-一六一一六二)<A HREF="#te25">(戻)</A><BR>⏎
 1547<a name="no26">出典26</a> 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな(後撰集雑一-一一〇二 藤原兼輔)<a href="#te26">(戻)</a><BR>⏎838 
 1548<a name="no27">出典27</a> 世やは憂き人のつらき海人の刈る藻に棲む虫のわれからぞ憂き(紫明抄所引-出典未詳)<a href="#te27">(戻)</a><BR>⏎839 
 1549<a name="no28">出典28</a> 取り返す物にもがなや世の中をありしながらのわが身と思はむ(源氏釈所引-出典未詳)<a href="#te28">(戻)</a><BR>⏎840 
 1550<a name="no29">出典29</a> 逢はざりし時いかなりしものとてかただ今の間も見ねば恋しき(後撰集恋一-五六三 読人しらず)<a href="#te29">(戻)</a><BR>⏎841 
 1551<a name="no30">出典30</a> 身を知れば恨みぬものをなぞもかくことわり知らぬ涙なるらむ(源氏釈所引-出典未詳)<a href="#te30">(戻)</a><BR>⏎842 
c11552<a name="no31">出典31</a> 憂きながら消えせぬは身なりけりうらやましきは水の泡かな(拾遺集哀傷-一三一三 中務)<a href="#te31">(戻)</a><BR>⏎
843<A NAME="no31">出典31</A> 憂きながら消えせぬは身なりけりうらやましきは水の泡かな(拾遺集哀傷-一三一三 中務)<A HREF="#te31">(戻)</A><BR>⏎
 1553<a name="no32">出典32</a> 憂くも世に思ふ心にかなはぬか誰も千歳の松ならなくに(古今六帖四-二〇九六)<a href="#te32">(戻)</a><BR>⏎844 
 1554<a name="no33">出典33</a> 恋しさの限りだにある世なりせば年経て物は思はざらまし(古今六帖五-二五七一)<a href="#te33">(戻)</a><BR>⏎845 
 1555<a name="no34">出典34</a> 恋ひ侘びぬねをだに泣かむ声立てていづこなるらむ音無の里(拾遺集恋二-七四九 読人しらず)<a href="#te34">(戻)</a><BR>⏎846 
 1556<a name="no35">出典35</a> 結びおきし形見の子だになかりせば何に忍ぶの草を摘ままし(後撰集雑二-一一八七 藤原兼忠)<a href="#te35">(戻)</a><BR>⏎847 
 1557<a name="no36">出典36</a> いつとても恋しからずはあらねども秋の夕べは恋しかりけり(古今集恋一-五四六 読人しらず)<a href="#te36">(戻)</a><BR>⏎848 
 1558<a name="no37">出典37</a> 秋吹くはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらむ(和泉式部集-一三二)<a href="#te37">(戻)</a><BR>⏎849 
 1559<a name="no38">出典38</a> 末の露本の雫や世の中の後れ先立つためしなるらむ(古今六帖一-五九三)<a href="#te38">(戻)</a><BR>⏎850 
 1560<a name="no39">出典39</a> 秋は来ぬ紅葉は宿に降りしきぬ道踏み分けて訪ふ人はなし(古今集秋下-二八七 読人しらず)<a href="#te39">(戻)</a><BR>⏎851 
 1561<a name="no40">出典40</a> 形こそ深山隠れの朽木なれ心は花になさばなりなむ(古今集雑上-八七五 兼芸法師)<a href="#te40">(戻)</a><BR>⏎852 
 1562<a name="no41">出典41</a> 雁の来る峰の朝霧晴れずのみ思ひつきせぬ世の中の憂さ(古今集雑下-九三五 読人しらず)<a href="#te41">(戻)</a><BR>⏎853 
 1563<a name="no42">出典42</a> いかならむ巌の中に住まばかは世の憂きことの聞こえ来ざらむ(古今集雑下-九五二 読人しらず)<a href="#te42">(戻)</a><BR>⏎854 
 1564<a name="no43">出典43</a> 秋の野の袂か花薄穂に出でて招く袖と見ゆらむ(古今集秋上-二四三 在原棟梁)<a href="#te43">(戻)</a><BR>⏎855 
 1565<a name="no44">出典44</a> 置きもあへずはかなき露をいかにして貫き留めむ玉の緒もがな(小大君集-五〇)<a href="#te44">(戻)</a><BR>⏎856 
 1566<a name="no45">出典45</a> 我ぎ妹子に逢坂山の篠薄穂には出でずも恋ひわたるかな(古今集墨滅歌-一一〇七 読人しらず)<a href="#te45">(戻)</a><BR>⏎857 
 1567<a name="no46">出典46</a> おほかたのわが身一つの憂きからになべての世をも恨みつるかな(拾遺集恋五-九五三 紀貫之)<a href="#te46">(戻)</a><BR>⏎858 
 1568<a name="no47">出典47</a> 不是花中偏愛菊 此花開後更無花<是れ花の中に偏へに菊を愛するにはあらず 此の花開けて後更に花の無ければなり>(和漢朗詠集上-二六七 元*、*=禾+真)<a href="#te47">(戻)</a><BR>⏎859 
 1569<a name="no48">出典48</a> 伊勢の海の 清き渚に しほがひに なのりそや摘まむ 貝拾はむや 玉や拾はむ(催馬楽-伊勢の海)<a href="#te48">(戻)</a><BR>⏎860 
 1570<a name="no49">出典49</a> 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな(後撰集雑一-一一〇二 藤原兼輔)<a href="#te49">(戻)</a><BR>⏎861 
 1571<a name="no50">出典50</a> 折りつれば袖こそ匂へ梅の花有りとやここに鴬の鳴く(古今集春上-三二 読人しらず)<a href="#te50">(戻)</a><BR>⏎862 
 1572<a name="no51">出典51</a> かくてこそ見まくほしけれ万世をかけて匂へる藤波の花(新古今集春下-一六三 延喜御歌)<a href="#te51">(戻)</a><BR>⏎863 
 1573<a name="no52">出典52</a> 藤の花宮の内には紫の雲かとのみぞあやまたれる(拾遺集雑春-一〇六八 皇太后宮権大夫国章)<a href="#te52">(戻)</a><BR>⏎864 
 1574<a name="no53">出典53</a> あな尊 今日の尊さ や いにしへも かくやありけむ や今日の尊さ あはれ そこよしや 今日の尊さ(催馬楽-あな尊)<a href="#te53">(戻)</a><BR>⏎865 
d11575
text491576<p><a name="in102">【校訂】<BR>866 
 1577備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△<BR>⏎867 
cd94:921578-1671</a><a name="k01">校訂1</a><a name="in102"> たてまつらせ--たてまつり(り/#)らせ</a><a href="#t01">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k02">校訂2</a><a name="in102"> 頼もし人--たのもしき(き/#)人</a><a href="#t02">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k03">校訂3</a><a name="in102"> 人--人/\(/\/#)</a><a href="#t03">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k04">校訂4</a><a name="in102"> 数--(/+数<朱>)</a><a href="#t04">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k05">校訂5</a><a name="in102"> おはせば--おはせし(し/#)は</a><a href="#t05">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k06">校訂6</a><a name="in102"> 右の大殿--右大臣(臣/#)殿</a><a href="#t06">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k07">校訂7</a><a name="in102"> 思ひ--思(/+ひ)</a><a href="#t07">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k08">校訂8</a><a name="in102"> 例ならず--例の(の/$)ならす</a><a href="#t08">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k09">校訂9</a><a name="in102"> 右の大殿--右大臣(臣/#)殿</a><a href="#t09">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k10">校訂10</a><a name="in102"> 思ふ思ふ--思(/+ふ)/\</a><a href="#t10">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k11">校訂11</a><a name="in102"> したがひつつ--したかひて(て/$<朱>)つゝ</a><a href="#t11">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k12">校訂12</a><a name="in102"> まどろまず--まとろむ(む/$)ます</a><a href="#t12">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k13">校訂13</a><a name="in102"> 見過ぎて--見すく(く/#)きて</a><a href="#t13">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k14">校訂14</a><a name="in102"> きこゆべき--*きこえへき</a><a href="#t14">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k15">校訂15</a><a name="in102"> 心苦しき--心くるし(し/+き)</a><a href="#t15">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k16">校訂16</a><a name="in102"> はべりしに--侍へ(へ/#)しに</a><a href="#t16">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k17">校訂17</a><a name="in102"> のたまはせよ--の給(給/+は)せよ</a><a href="#t17">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k18">校訂18</a><a name="in102"> ゐなばや、など--ゐなはやと(と/#)なと</a><a href="#t18">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k19">校訂19</a><a name="in102"> おきたまひて--をきて(て/#)給て</a><a href="#t19">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k20">校訂20</a><a name="in102"> 折ふし--(/+おり)ふし</a><a href="#t20">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k21">校訂21</a><a name="in102"> のたまへば--(/+の給へは)</a><a href="#t21">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k22">校訂22</a><a name="in102"> べけれとて--へき(き/#)けれとて</a><a href="#t22">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k23">校訂23</a><a name="in102"> ためらはぬ--え(え/#)ためらはぬ</a><a href="#t23">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k24">校訂24</a><a name="in102"> されど--*さりと</a><a href="#t24">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k25">校訂25</a><a name="in102"> たまひし--給う(う/#)し</a><a href="#t25">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k26">校訂26</a><a name="in102"> 宮をおきたてまつりて--宮をゝきて(て/#)たてまつりて</a><a href="#t26">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k27">校訂27</a><a name="in102"> さまの--さま/\(/\/$<朱>)の</a><a href="#t27">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k28">校訂28</a><a name="in102"> 縁を--えん(ん/+を)</a><a href="#t28">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k29">校訂29</a><a name="in102"> 渡りなむ--わたりなむと(と/#)</a><a href="#t29">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k30">校訂30</a><a name="in102"> いとほしくと--いとほし(し/+く<朱>)と</a><a href="#t30">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k31">校訂31</a><a name="in102"> さりぬべく--さりぬへき(き/#)く</a><a href="#t31">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k32">校訂32</a><a name="in102"> 御心ばへ--御こゝろはへも(も/$<朱>)</a><a href="#t32">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k33">校訂33</a><a name="in102"> 浅う--あさまし(まし/$)う</a><a href="#t33">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k34">校訂34</a><a name="in102"> 聞こえさせたまひて--きこえさせて(て/#)給て</a><a href="#t34">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k35">校訂35</a><a name="in102"> 柱もとの--はしらの(の/$)もとの</a><a href="#t35">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k36">校訂36</a><a name="in102"> かく--かく(かく/$<朱>)かく</a><a href="#t36">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k37">校訂37</a><a name="in102"> いかさまにして--いかさまし(し/$)にして</a><a href="#t37">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k38">校訂38</a><a name="in102"> うちつぶれて--(/+うち<朱>)つふれて</a><a href="#t38">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k39">校訂39</a><a name="in102"> 渡りたまへる--わたりぬ(ぬ/#)給へる</a><a href="#t39">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k40">校訂40</a><a name="in102"> 契りのたまふ--ちきり給(給/$)のたまふ</a><a href="#t40">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k41">校訂41</a><a name="in102"> たまへど--給へとも(も/#<朱>)</a><a href="#t41">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k42">校訂42</a><a name="in102"> 御匂ひ--御(御/&御)にほ(にほ/#にほ<朱>)ひ</a><a href="#t42">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k43">校訂43</a><a name="in102"> 思ひ比ぶれど--思くらふれは(は/#<朱>)と</a><a href="#t43">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k44">校訂44</a><a name="in102"> 見馴れむ--見なん(ん/#)れん</a><a href="#t44">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k45">校訂45</a><a name="in102"> など--なん(ん/$)と</a><a href="#t45">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k46">校訂46</a><a name="in102"> ならぬ--ならす(す/#<朱>)ぬ</a><a href="#t46">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k47">校訂47</a><a name="in102"> なきにしも--なきに(に/#<朱>)にしも</a><a href="#t47">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k48">校訂48</a><a name="in102"> わびては--わひてはの(の/#<朱>)</a><a href="#t48">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k49">校訂49</a><a name="in102"> かよはむを--かよはさ(さ/#<朱>)むを</a><a href="#t49">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k50">校訂50</a><a name="in102"> 怨み--うらみゝ(ゝ/#)</a><a href="#t50">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k51">校訂51</a><a name="in102"> きこゆれ」と--きこゆれは(は/$<朱>)と</a><a href="#t51">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k52">校訂52</a><a name="in102"> 山里--(/+山)さと</a><a href="#t52">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k53">校訂53</a><a name="in102"> 見知りぬ--見知(知/#<朱>)しりぬ</a><a href="#t53">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k54">校訂54</a><a name="in102"> 遠き--とを/\(/\/#<朱>)き</a><a href="#t54">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k55">校訂55</a><a name="in102"> 嘆くめりしに--なけくめりしを(を/#<朱>)に</a><a href="#t55">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k56">校訂56</a><a name="in102"> 明かすに--あかす(す/+に)</a><a href="#t56">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k57">校訂57</a><a name="in102"> 思しけむを--おほしけん(ん/+を)</a><a href="#t57">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k58">校訂58</a><a name="in102"> 屍の--かはねを(を/#)の</a><a href="#t58">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k59">校訂59</a><a name="in102"> いぶかしき--いふかしく(く/#<朱>)き</a><a href="#t59">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k60">校訂60</a><a name="in102"> 恥づかしく--はつかく(く/#<朱>)しく</a><a href="#t60">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k61">校訂61</a><a name="in102"> いと忍びて、はかなきほどにもののたまはせける--(/+いと忍ひてはかなき程に物の給はせける<朱>)</a><a href="#t61">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k62">校訂62</a><a name="in102"> などこそ--*なとゝそ</a><a href="#t62">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k63">校訂63</a><a name="in102"> 触れたらむ人は--*ふれたらんは人は</a><a href="#t63">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k64">校訂64</a><a name="in102"> 心せよ--*心よせ</a><a href="#t64">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k65">校訂65</a><a name="in102"> 琵琶を--ひは(は/#<朱>)わを</a><a href="#t65">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k66">校訂66</a><a name="in102"> あらむ--あらむは(は/#)</a><a href="#t66">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k67">校訂67</a><a name="in102"> あらねど--な(な/#あ)らねと</a><a href="#t67">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k68">校訂68</a><a name="in102"> 昔の御物語--むかし(し/+の御<朱>)ものかたり</a><a href="#t68">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k69">校訂69</a><a name="in102"> ものものしくも--もの/\しく(く/+も<朱>)</a><a href="#t69">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k70">校訂70</a><a name="in102"> 聞こしめしおどろきて、御訪ぶらひども--*他本により補入</a><a href="#t70">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k71">校訂71</a><a name="in102"> 参うで--*まかて</a><a href="#t71">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k72">校訂72</a><a name="in102"> ひきつくろひたまひて--ひきつくろひて(て/#<朱>)給て</a><a href="#t72">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k73">校訂73</a><a name="in102"> 右の大臣--ひたり(ひたり/$右)のおとゝ</a><a href="#t73">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k74">校訂74</a><a name="in102"> 深かりけり--ふかく(く/#<朱>)かりけり</a><a href="#t74">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k75">校訂75</a><a name="in102"> 漏り聞き--と(と/$も<朱>)りきゝ</a><a href="#t75">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k76">校訂76</a><a name="in102"> 見せたまへる--みせはや(はや/$)給へる</a><a href="#t76">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k77">校訂77</a><a name="in102"> 出でたまひぬ--いてぬ(ぬ/#<朱>)給ぬ</a><a href="#t77">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k78">校訂78</a><a name="in102"> 鴬も--うくひも(も/$)すも</a><a href="#t78">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k79">校訂79</a><a name="in102"> 宮の--宮(宮/+の<朱>)</a><a href="#t79">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k80">校訂80</a><a name="in102"> 右の大臣--ひたり(ひたり/#みき)のおとゝ</a><a href="#t80">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k81">校訂81</a><a name="in102"> たまへるなめり--給へり(り/#)るなめり</a><a href="#t81">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k82">校訂82</a><a name="in102"> 右の大殿--ひたり(ひたり/#みき)のおとゝ</a><a href="#t82">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k83">校訂83</a><a name="in102"> 人--(/+人<朱>)</a><a href="#t83">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k84">校訂84</a><a name="in102"> 姿ども--すかたとん(ん/$も<朱>)</a><a href="#t84">(戻)</a><a name="in102"><BR>⏎
</a><a name="
k85">校訂85</a><a name="in102"> ゆめ--ゆめの(の/$)</a><a href="#t85">(戻)</a><a href="#k51"><BR>⏎
</a><a name="k86">校訂86</a><a href="#k51"> 入るに--弁のあま(弁のあま/$)いるに</a><a href="#t86">(戻)</a><a href="#k51"><BR>⏎
</a></p>⏎
<p><a href="index.html">源氏物語の世界ヘ</a><a href="#k51"><BR>⏎
</a><a href="r
oman49.html">ローマ字版</a><a href="#k51"><BR>⏎
</a><a href="version49.html">現代語訳 </a><a href="#k51"><BR>⏎
</a><a href="note
49.html">注釈</a><a href="#k51"><BR>⏎
</a><a href="data49.html">大島本</a><a href="#k51"><BR>⏎
</a><a href="okuiri49.html">
自筆本奥入</a><a href="#k51"><BR>⏎
</a></p>⏎
868-959<A NAME="k01">校訂1</A> たてまつらせ--たてまつり(り/#)らせ<A HREF="#t01">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k02">校訂2</A> 頼もし人--たのもしき(き/#)人<A HREF="#t02">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k03">校訂3</A> 人--人/\(/\/#)<A HREF="#t03">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k04">校訂4</A> 数--(/+数<朱>)<A HREF="#t04">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k05">校訂5</A> おはせば--おはせし(し/#)は<A HREF="#t05">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k06">校訂6</A> 右の大殿--右大臣(臣/#)殿<A HREF="#t06">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k07">校訂7</A> 思ひ--思(/+ひ)<A HREF="#t07">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k08">校訂8</A> 例ならず--例の(の/$)ならす<A HREF="#t08">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k09">校訂9</A> 右の大殿--右大臣(臣/#)殿<A HREF="#t09">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k10">校訂10</A> 思ふ思ふ--思(/+ふ)/\<A HREF="#t10">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k11">校訂11</A> したがひつつ--したかひて(て/$<朱>)つゝ<A HREF="#t11">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k12">校訂12</A> まどろまず--まとろむ(む/$)ます<A HREF="#t12">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k13">校訂13</A> 見過ぎて--見すく(く/#)きて<A HREF="#t13">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k14">校訂14</A> きこゆべき--*きこえへき<A HREF="#t14">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k15">校訂15</A> 心苦しき--心くるし(し/+き)<A HREF="#t15">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k16">校訂16</A> はべりしに--侍へ(へ/#)しに<A HREF="#t16">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k17">校訂17</A> のたまはせよ--の給(給/+は)せよ<A HREF="#t17">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k18">校訂18</A> ゐなばや、など--ゐなはやと(と/#)なと<A HREF="#t18">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k19">校訂19</A> おきたまひて--をきて(て/#)給て<A HREF="#t19">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k20">校訂20</A> 折ふし--(/+おり)ふし<A HREF="#t20">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k21">校訂21</A> のたまへば--(/+の給へは)<A HREF="#t21">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k22">校訂22</A> べけれとて--へき(き/#)けれとて<A HREF="#t22">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k23">校訂23</A> ためらはぬ--え(え/#)ためらはぬ<A HREF="#t23">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k24">校訂24</A> されど--*さりと<A HREF="#t24">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k25">校訂25</A> たまひし--給う(う/#)し<A HREF="#t25">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k26">校訂26</A> 宮をおきたてまつりて--宮をゝきて(て/#)たてまつりて<A HREF="#t26">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k27">校訂27</A> さまの--さま/\(/\/$<朱>)の<A HREF="#t27">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k28">校訂28</A> 縁を--えん(ん/+を)<A HREF="#t28">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k29">校訂29</A> 渡りなむ--わたりなむと(と/#)<A HREF="#t29">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k30">校訂30</A> いとほしくと--いとほし(し/+く<朱>)と<A HREF="#t30">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k31">校訂31</A> さりぬべく--さりぬへき(き/#)く<A HREF="#t31">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k32">校訂32</A> 御心ばへ--御こゝろはへも(も/$<朱>)<A HREF="#t32">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k33">校訂33</A> 浅う--あさまし(まし/$)う<A HREF="#t33">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k34">校訂34</A> 聞こえさせたまひて--きこえさせて(て/#)給て<A HREF="#t34">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k35">校訂35</A> 柱もとの--はしらの(の/$)もとの<A HREF="#t35">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k36">校訂36</A> かく--かく(かく/$<朱>)かく<A HREF="#t36">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k37">校訂37</A> いかさまにして--いかさまし(し/$)にして<A HREF="#t37">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k38">校訂38</A> うちつぶれて--(/+うち<朱>)つふれて<A HREF="#t38">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k39">校訂39</A> 渡りたまへる--わたりぬ(ぬ/#)給へる<A HREF="#t39">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k40">校訂40</A> 契りのたまふ--ちきり給(給/$)のたまふ<A HREF="#t40">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k41">校訂41</A> たまへど--給へとも(も/#<朱>)<A HREF="#t41">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k42">校訂42</A> 御匂ひ--御(御/&御)にほ(にほ/#にほ<朱>)ひ<A HREF="#t42">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k43">校訂43</A> 思ひ比ぶれど--思くらふれは(は/#<朱>)と<A HREF="#t43">(戻)</A><BR>⏎
<
A NAME="k44">校訂44</A> 見馴れむ--見なん(ん/#)れん<A HREF="#t44">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k45">校訂45</A> など--なん(ん/$)と<A HREF="#t45">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k46">校訂46</A> ならぬ--ならす(す/#<朱>)ぬ<A HREF="#t46">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k47">校訂47</A> なきにしも--なきに(に/#<朱>)にしも<A HREF="#t47">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k48">校訂48</A> わびては--わひてはの(の/#<朱>)<A HREF="#t48">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k49">校訂49</A> かよはむを--かよはさ(さ/#<朱>)むを<A HREF="#t49">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k50">校訂50</A> 怨み--うらみゝ(ゝ/#)<A HREF="#t50">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k51">校訂51</A> きこゆれ」と--きこゆれは(は/$<朱>)と<A HREF="#t51">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k52">校訂52</A> 山里--(/+山)さと<A HREF="#t52">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k53">校訂53</A> 見知りぬ--見知(知/#<朱>)しりぬ<A HREF="#t53">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k54">校訂54</A> 遠き--とを/\(/\/#<朱>)き<A HREF="#t54">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k55">校訂55</A> 嘆くめりしに--なけくめりしを(を/#<朱>)に<A HREF="#t55">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k56">校訂56</A> 明かすに--あかす(す/+に)<A HREF="#t56">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k57">校訂57</A> 思しけむを--おほしけん(ん/+を)<A HREF="#t57">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k58">校訂58</A> 屍の--かはねを(を/#)の<A HREF="#t58">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k59">校訂59</A> いぶかしき--いふかしく(く/#<朱>)き<A HREF="#t59">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k60">校訂60</A> 恥づかしく--はつかく(く/#<朱>)しく<A HREF="#t60">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k61">校訂61</A> いと忍びて、はかなきほどにもののたまはせける--(/+いと忍ひてはかなき程に物の給はせける<朱>)<A HREF="#t61">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k62">校訂62</A> などこそ--*なとゝそ<A HREF="#t62">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k63">校訂63</A> 触れたらむ人は--*ふれたらんは人は<A HREF="#t63">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k64">校訂64</A> 心せよ--*心よせ<A HREF="#t64">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k65">校訂65</A> 琵琶を--ひは(は/#<朱>)わを<A HREF="#t65">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k66">校訂66</A> あらむ--あらむは(は/#)<A HREF="#t66">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k67">校訂67</A> あらねど--な(な/#あ)らねと<A HREF="#t67">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k68">校訂68</A> 昔の御物語--むかし(し/+の御<朱>)ものかたり<A HREF="#t68">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k69">校訂69</A> ものものしくも--もの/\しく(く/+も<朱>)<A HREF="#t69">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k70">校訂70</A> 聞こしめしおどろきて、御訪ぶらひども--*他本により補入<A HREF="#t70">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k71">校訂71</A> 参うで--*まかて<A HREF="#t71">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k72">校訂72</A> ひきつくろひたまひて--ひきつくろひて(て/#<朱>)給て<A HREF="#t72">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k73">校訂73</A> 右の大臣--ひたり(ひたり/$右)のおとゝ<A HREF="#t73">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k74">校訂74</A> 深かりけり--ふかく(く/#<朱>)かりけり<A HREF="#t74">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k75">校訂75</A> 漏り聞き--と(と/$も<朱>)りきゝ<A HREF="#t75">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k76">校訂76</A> 見せたまへる--みせはや(はや/$)給へる<A HREF="#t76">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k77">校訂77</A> 出でたまひぬ--いてぬ(ぬ/#<朱>)給ぬ<A HREF="#t77">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k78">校訂78</A> 鴬も--うくひも(も/$)すも<A HREF="#t78">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k79">校訂79</A> 宮の--宮(宮/+の<朱>)<A HREF="#t79">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k80">校訂80</A> 右の大臣--ひたり(ひたり/#みき)のおとゝ<A HREF="#t80">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k81">校訂81</A> たまへるなめり--給へり(り/#)るなめり<A HREF="#t81">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k82">校訂82</A> 右の大殿--ひたり(ひたり/#みき)のおとゝ<A HREF="#t82">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k83">校訂83</A> 人--(/+人<朱>)<A HREF="#t83">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k84">校訂84</A> 姿ども--すかたとん(ん/$も<朱>)<A HREF="#t84">(戻)</A><BR>⏎
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A NAME="k85">校訂85</A> ゆめ--ゆめの(の/$)<A HREF="#t85">(戻)</A><BR>⏎
<A NAME="k86">校訂86</A> 入るに--弁のあま(弁のあま/$)いるに<A HREF="#t86">(戻)</A><BR>⏎
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A HREF="index.html">源氏物語の世界ヘ</A><BR>⏎
<A HREF="roman49.html">ローマ字版 </A><BR>⏎
<A HREF="version49.html">現代語訳 </A><BR>⏎
<A HREF="note49.html">注釈</A><BR>⏎
<A HREF="data49.html">大島本</A><BR>⏎
<A HREF="okuiri49.html">自筆本奥入</A><BR>⏎
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 1673</body>⏎961 
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