第三十二帖 梅枝

光る源氏の太政大臣時代三十九歳一月から二月までの物語

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注釈

第一章 光る源氏の物語 薫物合せ


第一段 六条院の薫物合せの準備

1.1.1 注釈1 【御裳着のこと、思しいそぐ御心おきて、世の常ならず】 明石姫君の裳着。明石姫君、十一歳。裳着の儀式は女性の成人式。
1.1.1 注釈2 【春宮も同じ二月に、御かうぶりのことあるべければ】 朱雀院の皇子、十三歳。元服は男性の成人式。明石姫君と東宮が共に成人式を挙げ結婚の準備に入る。
1.1.1 注釈3 【やがて御参りもうち続くべきにや】 「御参り」は入内をいう。「べき」(推量の助動詞)「に」(断定の助動詞)「や」(係助詞、疑問の意)は語り手の推測を表す。
1.1.2 注釈4 【正月の晦日なれば】 時節は春正月の下旬。正月の年中行事なども終わってのんびりとしたころ。
1.1.2 注釈5 【大弐の奉れる香ども】 太宰大弍は系図不詳の人。源氏に献上した香。中国舶来の品である。
1.1.2 注釈6 【御覧ずるに】 主語は源氏。
1.1.2 注釈7 【なほ、いにしへのには劣りてやあらむ】 源氏の感想。今のものより昔のものがよかったとする尚古思想が窺える。
1.1.3 注釈8 【錦、綾なども、なほ古きものこそなつかしうこまやかにはありけれ】 源氏の感想。「なつかし」は、手放したくない、慕わしいの意。昔が思い出されるの意は後世。しかし文脈上「古きものこそなつかしう」とあるから、一種の懐古趣味。
1.1.4 注釈9 【故院の御世の初めつ方】 桐壷院をさす。
1.1.4 注釈10 【このたびの綾、羅などは】 大弍が献上した品物をいう。
1.1.6 注釈11 【二種づつ合はせさせたまへ】 源氏の言葉。使者に言わせた内容。「させ」「給へ」二重敬語。会話文中の用法。
1.1.7 注釈12 【聞こえさせたまへり】 「聞こえ」(「言う」の謙譲語)「させ」(使役の助動詞)「給へ」(尊敬の補助動詞)「り」(完了の助動詞)。使者をして御夫人方に申し上げさせなさったの意。
1.1.7 注釈13 【内にも外にも】 「内」は六条院、「外」は二条院、二条東院などをさす。
1.1.7 注釈14 【かしかまし】 「姦 カシカマシ」(名義抄)。近世以後「かしがまし」と濁音化する。
1.1.8 注釈15 【承和の御いましめの二つの方を】 承和の御戒め。仁明天皇が男子には伝えぬようにと戒めた二種の調合法。「黒方」と「侍従」である。『河海抄』所引「合香秘方」に「此両種方不伝男耳。承和仰事也」とある。
1.1.8 注釈16 【いかでか御耳には伝へたまひけむ】 語り手の疑問、挿入句。
1.1.9 注釈17 【上は、東の中の放出に】 紫の上をいう。「上」という呼称。
1.1.9 注釈18 【御しつらひことに深う】 『完訳』は「秘法保持のため格別に慎重」と注す。
1.1.9 注釈19 【しなさせたまひて】 「させ」使役の助動詞。女房らをして準備させなさって。
1.1.9 注釈20 【八条の式部卿の御方を】 仁明天皇の第七皇子本康親王。「御方」は黒方と侍従をさす。
1.1.9 注釈21 【かたみに挑み合はせたまふほど】 源氏と紫の上。
1.1.10 注釈22 【匂ひの深さ浅さも、勝ち負けの定めあるべし】 源氏の言葉。
1.1.11 注釈23 【人の御親げなき御あらそひ心なり】 語り手の評言。『一葉抄』が「草子詞也」と指摘。「人」は明石の姫君をさす。
1.1.12 注釈24 【調度】 『色葉字類抄』には「調」「度」ともに濁点を付す。『集成』「でうど」のルビを付ける。
1.1.12 注釈25 【所々の心を尽くしたまへらむ】 あちらこちらで一生懸命に薫物を調合していらっしゃるであろう。「らむ」は推量の助動詞、視界外推量の意。源氏の所から推量するニュアンス。

第二段 二月十日、薫物合せ

1.2.1 注釈26 【二月の十日、雨すこし降りて、御前近き紅梅盛りに、色も香も似るものなきほどに】 二月十日、六条院に蛍兵部卿宮参上し、薫物合せを試みる。
1.2.1 注釈27 【兵部卿宮渡りたまへり】 源氏の弟宮蛍兵部卿宮。趣味人、風流人である。
1.2.1 注釈28 【御いそぎの今日明日になりにけることども、訪らひきこえたまふ】 大島本「こととも」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「ことと」と校訂する。明石の姫君の裳着の儀式が間近に迫ったことへの挨拶に参上。
1.2.1 注釈29 【花をめでつつ】 「花」は紅梅をさす。
1.2.1 注釈30 【前斎院】 朝顔斎院をさす。
1.2.1 注釈31 【散りすきたる梅の枝につけたる御文】 『異本紫明抄』は「春過ぎて散りはてにける梅の花ただ香ばかりぞ枝に残れる」(拾遺集雑春、一〇六三、如覚法師)を指摘する。その歌の詞書に「比叡の山に住みはべりけるころ、人の薫物を乞ひてはべりければ、はべりけるまゝに、少しを、梅の花のわづかに散り残りてはべる枝につけてつかはしける」とある。その趣向を踏まえる。『集成』は「散り過ぎたる」と解し、『新大系』『古典セレクション』は「散りすきたる」と解す。
1.2.1 注釈32 【聞こしめすこともあれば】 源氏が朝顔姫君に執心であったということ。「朝顔」巻に語られている。
1.2.2 注釈33 【いかなる御消息のすすみ参れるにか】 蛍兵部卿宮の詞。
1.2.4 注釈34 【いと馴れ馴れしき】 以下「たまへるなめり」まで、源氏の返事。薫物合せの依頼をさす。「いと馴れ馴れしきこと」(大層無遠慮なこと)と謙辞する。「を」接続助詞、順接の意。「な」(断定の助動詞)「めり」(推量の助動詞)。
1.2.6 注釈35 【瑠璃の坏二つ据ゑて】 紺瑠璃と白瑠璃の坏、二脚。前者に黒方、後者に梅花香が入れてある。
1.2.6 注釈36 【梅を選りて】 古来二説あり、『集成』は「選りて」と解し、『古典セレクション』は「彫りて」と解す。『新大系』は仮名表記「えりて」とし、「古来、「彫(ゑ)りて」、「選りて」両説あり。「彫りて」は、彫金の心葉をいう」と注する。
1.2.6 注釈37 【なよびやかに】 大島本は「なよひやかに」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「なよびかに」と校訂する。
1.2.7 注釈38 【艶あるもののさまかな】 大島本は「えんある」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「艶なる」と校訂する。蛍兵部卿宮の詞。感嘆の気持ち。
1.2.8 注釈39 【御目止めたまへるに】 大島本は「とめ」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「とどめ」と校訂する。
1.2.9 注釈40 【花の香は散りにし枝にとまらねど--うつらむ袖に浅くしまめや】 「散りにし枝」は自分(朝顔)を譬え、「うつらむ袖」は明石姫君を喩える。「浅くしま」「め」(推量の助動詞)「や」(係助詞)、反語表現。浅く薫りましょうか、いや深く薫ることでしょうの意。『集成』は「自分を卑下し、姫君の若さを讃えた歌」という。
1.2.10 注釈41 【ほのかなるを】 薄墨でうっすらと書いてある筆跡。
1.2.11 注釈42 【宰相中将】 夕霧。
1.2.11 注釈43 【御使尋ねとどめさせたまひて、いたう酔はしたまふ】 主語は夕霧。「させ」使役の助動詞。
1.2.11 注釈44 【御返りもその色の紙にて】 源氏の返事。紅梅襲と同じ色の紙。
1.2.11 注釈45 【御前の花を折らせてつけさせたまふ】 紅梅の花。「せ」使役の助動詞。
1.2.13 注釈46 【うちのこと】 以下「隠したまふ」まで、蛍兵部卿宮の心中。「うちのこと」は手紙の中身の意。好奇心と嫉妬心。
1.2.15 注釈47 【何ごとかはべらむ】 大島本は「なにことか」とある。「新大系』は底本のまま。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「何ごとかは」と「は」を補訂する。以下「苦しけれ」まで、源氏の詞。
1.2.17 注釈48 【花の枝にいとど心をしむるかな--人のとがめむ香をばつつめど】 源氏の返歌。「花の枝」は朝顔を譬える。ますます魅力を感じるという意。「梅の花立ち寄るばかりありしより人のとがむる香にぞしみぬる」(古今集春上、三五、読人しらず)「梅の花香を吹きかくる春風に心をそめば人やとがめむ」(後撰集春上、三一、読人しらず)
1.2.18 注釈49 【とやありつらむ】 語り手の推測。『集成』は「と書いてあったのだろうか。そっと兵部卿の宮に見せた様子を窺わせる書き方。草子地」と注す。『完訳』は「語り手の推測。宮もこの返歌を見ていないことになる」と注す。
1.2.19 注釈50 【まめやかには、好き好きしきやうなれど】 以下「かたじけなくてなむ」まで、源氏の詞。『集成』は「(薫物合せなどを方々に依頼するのは)物好きのようですが」の意に解し、『完訳』は「薫物合せへの熱中は物好きに過ぎるようだが、の意」と解す。
1.2.19 注釈51 【またもなかめる人の上にて】 明石姫君をさす。
1.2.19 注釈52 【思ひたまへなしてなむ】 「たまへ」(謙譲の補助動詞)、主語は源氏。
1.2.19 注釈53 【いと醜ければ】 娘の明石姫君の器量をさしていう。源氏の謙辞。
1.2.19 注釈54 【中宮まかでさせたてまつりて】 秋好中宮。「させ」(使役の助動詞)「たてまつり」(謙譲の補助動詞)。『完訳』は「姫君を格上げすべく、秋好中宮を裳着の腰結役とする魂胆」と注す。
1.2.19 注釈55 【思ひたまふる】 「たまふる」(謙譲の補助動詞、連体中止法)は、言いさした形で含みのあるニュアンス。
1.2.19 注釈56 【何ごとも世の常にて見せたてまつらむ、かたじけなくてなむ】 『完訳』は「姫君の裳着、入内に関して」と注する。「世の常」以上のことを源氏は考えていると示唆する。
1.2.21 注釈57 【あえものも、げに、かならず思し寄るべきことなりけり】 蛍兵部卿宮の詞。「あえもの」は、あやかりもの、の意。「げに」は源氏の真意を理解して発した言葉。おっしゃる通り将来の中宮の位にということなのですね、の意。

第三段 御方々の薫物

1.3.2 注釈58 【この夕暮れのしめりにこころみむ】 源氏の詞を使者に言わせたもの。
1.3.3 注釈59 【奉りたまへり】 大島本は「たてまつり」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「奉れ」と校訂する。
1.3.4 注釈60 【これ分かせたまへ。誰れにか見せむ】 源氏の詞。「君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る」(古今集春上、三八、紀友則)
1.3.6 注釈61 【知る人にもあらずや】 蛍兵部卿宮の返事。「君ならで」歌の文句を引用して答える。
1.3.7 注釈62 【かのわが御二種のは】 「承和の御いましめの二つの方」の「黒方」と「侍従」の香。
1.3.8 注釈63 【右近の陣の御溝水のほとりになずらへて】 『河海抄』に「承和御時、右近陣の御溝の辺の地にうづまる。後代相伝して其所をたがへず云々」とある。承和の御時になぞらえた趣向。
1.3.8 注釈64 【惟光の宰相の子の兵衛尉】 惟光は宰相(参議)に昇進。その子も兵衛尉の任官。初出。
1.3.9 注釈65 【いと苦しき判者にも当たりてはべるかな。いと煙たしや】 蛍兵部卿宮の素晴しさに辟易した詞。
1.3.10 注釈66 【同じうこそは】 以下「いと多かり」まで、語り手の推量や判断を交えた叙述。『評釈』は「兵部卿の宮が心に思ったのか、語り手の批評か、作者の言葉か。いずれとも決しがたいところが物語らしい」という。
1.3.11 注釈67 【さいへども】 前斎院が和歌で謙遜していたことをさす。
1.3.11 注釈68 【すぐれてなまめかしうなつかしき香なり】 蛍宮の源氏の「侍従」の判定。斎院の黒方は地の文に折り込んで語る。
1.3.12 注釈69 【三種ある中に】 黒方、侍従、梅香をさす。「黒方」は冬の香、「心にくくしづやかなる匂い」。「侍従」は秋の香、「なまめかしくなつかしき香」。「梅花」は春の香、「はなやかに今めかし」とある。
1.3.13 注釈70 【このころの風にたぐへむには、さらにこれにまさる匂ひあらじ】 蛍宮の梅香に対する批評。梅香方は春の香である。「風にたぐへむ」は「花の香を風のたよりにたぐへてぞ鴬誘ふしるべにはやる」(古今集春上、一三、紀友則)を踏まえる。
1.3.15 注釈71 【夏の御方には】 花散里をいう。
1.3.15 注釈72 【煙をさへ思ひ消え】 「薫物」の縁で「煙」「消え」という。
1.3.15 注釈73 【荷葉を一種】 夏の香。「しめやかなる香」「あはれになつかし」とある。
1.3.16 注釈74 【冬の御方にも】 明石御方をいう。
1.3.16 注釈75 【時々によれる匂ひの定まれるに消たれむもあいなし】 『完訳』は「黒方が冬、侍従が秋、梅花が春、荷葉が夏などと季節が一定。その型どおりの調合では他に圧倒されよう、そこで一趣向を案出」と注す。 【消たれむは】-「は」(係助詞)際立たせるニュアンスが加わる。「消つ」は「薫物」の縁でいう。
1.3.16 注釈76 【前の朱雀院のをうつさせたまひて、公忠朝臣の、ことに選び仕うまつれりし百歩の方など】 「させ」(尊敬の助動詞)「たまひ」(尊敬の補助動詞)、最高敬語。『集成』は「前の朱雀院のご調合法を(朱雀院が)お学びあそばして、公忠の朝臣が特に工夫を凝らして献上した百歩の方」と解す。「百歩の方」は薫衣香の調合法の一つ。「なまめかしき」とある。
1.3.16 注釈77 【世に似ずなまめかしさを取り集めたる、心おきてすぐれたり】 地の文が蛍の宮の詞に移っている。
1.3.17 注釈78 【心ぎたなき判者なめり】 源氏の詞。『完訳』は「当りさわりのない批評と冗談にけなす」と注す。

第四段 薫物合せ後の饗宴

1.4.1 注釈79 【月さし出でぬれば】 十日の月。夕刻やや早めに出る。
1.4.1 注釈80 【霞める月の影心にくきを、雨の名残の風すこし吹きて、花の香なつかしきに、御殿のあたり言ひ知らず匂ひ満ちて、人の御心地いと艶あり】 二月十日の六条院の風情。 【人の御心地いと艶あり】-大島本は「えんあり」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「艶なり」と校訂する。語り手の評言。
1.4.2 注釈81 【蔵人所の方にも】 六条院の蔵人所。摂関家にも置かれた。
1.4.3 注釈82 【内の大殿の頭中将、弁少将なども】 内大臣の太郎君柏木と二郎君、後の紅梅大納言。
1.4.4 注釈83 【折にあひたる調子】 『集成』は「春だから双調であろう」と注す。
1.4.4 注釈84 【梅が枝」出だしたるほど】 催馬楽「梅が枝」呂。「梅が枝に 来居る鴬 や 春かけて はれ 春かけて 鳴けどもいまだ や 雪は降りつつ あはれ そこよしや 雪は降りつつ」
1.4.4 注釈85 【童にて、韻塞ぎの折、「高砂」謡ひし君なり】 「賢木」巻(第六章三段)に見える。
1.4.6 注釈86 【鴬の声にやいとどあくがれむ--心しめつる花のあたりに】 蛍宮の和歌。「鴬」は催馬楽「梅が枝」の語句を受け、「しめつる」は薫物の縁で用いたもの。
1.4.7 注釈87 【千代も経ぬべし】 「いつまでか野辺に心のあくがれむ花し散らずは千代も経ぬべし」(古今集春下、九六、素性法師)
1.4.9 注釈88 【色も香もうつるばかりにこの春は--花咲く宿をかれずもあらなむ】 源氏の唱和歌。「なむ」終助詞、他者に対するあつらえの気持ちを表す。
1.4.11 注釈89 【鴬のねぐらの枝もなびくまで--なほ吹きとほせ夜半の笛竹】 柏木の唱和歌。夕霧の横笛を誉める。
1.4.13 注釈90 【心ありて風の避くめる花の木に--とりあへぬまで吹きや寄るべき】 夕霧の唱和歌。「取りあへぬ」の音に「鳥」(鴬)を響かす。「吹き」に風が吹くと笛を吹くの意を掛ける。「や」(係助詞)「べき」(推量の助動詞)反語表現。
1.4.14 注釈91 【情けなく】 和歌に添えた言葉。『集成』は「(それでは花が散るではありませんか)思いやりのないことだ、おっしゃると」の意に解す。
1.4.16 注釈92 【霞だに月と花とを隔てずは--ねぐらの鳥もほころびなまし】 弁少将の唱和歌。「ほころぶ」は「花」の縁語。
1.4.17 注釈93 【御車にたてまつらせたまふ】 「せ」(使役の助動詞)「給ふ」(尊敬の補助動詞)。源氏が人をして宮のお車までお届させなさる意。
1.4.18 注釈94 【花の香をえならぬ袖にうつしもて--ことあやまりと妹やとがめむ】 蛍宮のお礼の歌。「花の香」は梅花香をさす。「妹」は妻をいう。
1.4.20 注釈95 【いと屈したりや】 大島本は「くつしたりや」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「屈(くん)じたりや」と校訂する。源氏の詞。『集成』は「(奥方を怖れて)ひどく気弱ですね」の意に解す。『新大系』は「大変な恐妻家ですね。ただし兵部卿宮には現在、北の方はいない」と注す。
1.4.21 注釈96 【御車かくるほどに】 お車の轅を牛に付ける時に、の意。
1.4.22 注釈97 【めづらしと故里人も待ちぞ見む--花の錦を着て帰る君】 源氏の返歌。「故里人」は家にいる妻をさす。『完訳』は「宮邸にいる人の意」と解す。「錦を着て帰る」は『史記』項羽本紀の「富貴にして故郷に帰らざるは、繍を着て夜行くが如し」による。
1.4.23 注釈98 【またなきことと思さるらむ】 源氏の歌に添えた詞。『集成』は「夫人のない兵部卿の宮を、めったに外泊しない恐妻家に見立ててからかう」と注す。
1.4.24 注釈99 【いといたうからがりたまふ】 『完訳』は「宮は六条院を讃美したつもりだが、源氏の大仰な表現に屈伏」と解す。

第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の裳着


第一段 明石の姫君の裳着

2.1.1 注釈100 【かくて、西の御殿に】 六条院の秋の町の寝殿。
2.1.1 注釈101 【戌の時に渡りたまふ】 午後七時から九時までの頃。主語は明石姫君。
2.1.1 注釈102 【やがてこなたに参れり】 御髪上の内侍たちが中宮に従って六条院西の御殿に参上していた、の意。
2.1.1 注釈103 【上も、このついでに、中宮に御対面あり】 「上」は紫の上をいう。明石姫君の養母という立場。「このついで」とはその姫君の御裳着の儀式の折の意。初対面。
2.1.2 注釈104 【子の時に御裳たてまつる】 中宮が腰結役を務める。
2.1.3 注釈105 【思し捨つまじきを頼みにて】 以下「忍びたまふる」まで、源氏の詞。「思し捨つ」の主語は中宮、目的語は明石姫君。
2.1.3 注釈106 【なめげなる姿を】 娘の童女姿を親として失礼な姿と謙っていう。
2.1.3 注釈107 【後の世のためしにやと】 『集成』は「中宮の行啓を仰いで、腰結役をお願いするのは、前例がない名誉という」と注す。
2.1.5 注釈108 【いかなるべきこととも思うたまへ分きはべらざりつるを】 以下「心おかれぬべく」まで、中宮の返事。
2.1.6 注釈109 【のたまひ消つほどの御けはひ】 『集成』は「何でもないことのようにおっしゃるご様子が」。『完訳』は「こともなげに仰せになる」と解す。
2.1.6 注釈110 【母君の、かかる折だにえ見たてまつらぬを】 明石御方が娘の姫君を裳着の儀式に。
2.1.6 注釈111 【参う上らせやせまし】 源氏の心。儀式に参列させようかしら、の意。
2.1.7 注釈112 【かかる所の儀式は】 以下「こまかに書かず」まで、語り手の省筆の弁。『評釈』は「作者の言葉。「書く」という言葉を用いるのは珍しい。普通は「語る」「言ふ」である。この所は私の物語音読論の立場からすると困る例と見られようが、これは我々に語ってくれる女房に資料を提供してくれる女房がいて、それが現実に前の「御方々の女房、おし合せたる、数しらず見えたり」の中にいて、後々の例になるようにと思ってこの儀式のことを書き記した。それにこのように「こまかに書かず」という断わり書があった。それを物語り手が我々にそのまま語ってくれると解したい」と注す。『集成』は「物語筆記者が省筆をことわる草子地」と注す。

第二段 明石の姫君の入内準備

2.2.1 注釈113 【春宮の御元服は、二十余日のほどになむありける】 東宮の御元服も同じ二月の二十日過ぎに行われた。「けり」過去の助動詞。儀式の終わった後から語るという語り口。
2.2.1 注釈114 【心ざし思すなれど】 「なれ」伝聞推定の助動詞。
2.2.1 注釈115 【左の大臣なども】 系図不詳の人。「行幸」「真木柱」に登場。
2.2.1 注釈116 【思しとどまるなるを】 「なる」伝聞推定の助動詞。
2.2.2 注釈117 【いとたいだいしきことなり】 以下「世に映えあらじ」まで、源氏の詞。
2.2.2 注釈118 【宮仕への筋は、あまたあるなかに、すこしのけぢめを挑まむこそ本意ならめ】 宮仕えというものは大勢の妃方の中でわずかの優劣を競うのが本当だという考え。作者紫式部の後宮に対する考え方である。
2.2.3 注釈119 【御参り延びぬ】 『集成』は「ほかの人々に譲る気持。余裕のある態度」と注す。
2.2.3 注釈120 【左大臣殿の三の君参りたまひぬ。麗景殿と聞こゆ】 「真木柱」巻の冷泉帝の後宮に「中宮、弘徽殿の女御、この宮の女御、左の大殿の女御などさぶらひたまふ」(第四章一段)とあるから、冷泉帝の左大臣の女御の妹三の君であろう。麗景殿女御。後の「宿木」巻に藤壷女御と呼称される。『集成』は「元服の副臥(春宮、皇子などの元服の夜、選ばれて添い寝する姫)である。権勢のある公卿の娘が選ばれ、皇妃の中では重い地位を占める」と注す。なお花散里が三の君でその姉が桐壺帝の麗景殿女御とあったという設定同じである。
2.2.4 注釈121 【この御方は、昔の御宿直所、淑景舎を改めしつらひて】 明石の姫君は源氏の昔の宿直所、淑景舎を修繕して局とする。東宮は梨壷にいるので、桐壺はその北隣の殿舎である。
2.2.4 注釈122 【宮にも心もとながらせたまへば】 春宮も明石姫君の入内を待ち遠しく思っている。
2.2.4 注釈123 【四月にと定めさせたまふ】 「させ」「たまふ」(最高敬語)、主語は春宮。明石姫君の入内を四月にと春宮が御決定あそばすという意。

第三段 源氏の仮名論議

2.3.1 注釈124 【よろづのこと】 以下「かどや後れたらむ」まで、源氏の詞。当代の女性の仮名論。尚古思想。仮名だけは現代の方が優れているという。
2.3.1 注釈125 【古き跡は、定まれるやうにはあれど、広き心ゆたかならず、一筋に通ひてなむありける】 昔の書は一定の書法があるが、窮屈で一様で、個性的な豊さがないと批判。
2.3.2 注釈126 【外よりてこそ】 『集成』は「近頃になってから」、『完訳』は「後の時代になってはじめて」の意に解す。文字は「外によりて」と当てる。
2.3.2 注釈127 【女手】 『集成』は「「女手」は、一般に「男手」(漢字)に対する語で、女の書く文字、すなわち平仮名のこととされるが、後文によると、仮名の一体とすべきもののようである」と注す。
2.3.2 注釈128 【中宮の母御息所の】 六条御息所の筆跡について、「際ことにおぼえしはや」と感想を述べる。
2.3.3 注釈129 【さて、あるまじき御名も立てきこえしぞかし】 源氏は、御息所の筆跡の見事さに引かれて恋するようになったと、紫の上を前にしていう。
2.3.3 注釈130 【さしもあらざりけり】 源氏の自己弁護。それほど冷淡ではなかったのだ、という。
2.3.4 注釈131 【宮の御手は】 秋好中宮の筆跡について、「こまかにをかしげなれど、才や遅れたらむ」と批評。
2.3.6 注釈132 【故入道宮の御手は】 以下「ここにとこそは書きたまはめ」まで、源氏の詞。藤壷の筆跡について、「いと気色深くなまめいたる筋はありしかど弱き所つきてにほひぞ少なかりし」と批評。
2.3.7 注釈133 【院の尚侍こそ】 朧月夜の筆跡について、「今の世の上手にはおはすれど、あまりそぼれて癖ぞ添ひためる」と批評。
2.3.7 注釈134 【かの君と、前斎院と、ここにとこそは、書きたまはめ】 朧月夜君と朝顔姫君と紫の上は上手に書く人だ、の意。
2.3.9 注釈135 【この数には、まばゆくや】 紫の上の謙遜の詞。
2.3.11 注釈136 【いたうな過ぐしたまひそ】 以下「しどけなき文字こそ混じるめれ」まで、源氏の詞。紫の上の筆跡について、「にこやかなるかたの御なつかしさはことなるものを」と批評。
2.3.11 注釈137 【真名のすすみたるほどに、仮名はしどけなき文字こそ混じるめれ】 漢字と仮名文字を用いる男性への一般論。「ほどに」を、『集成』は「すればするだけ」の意に、『完訳』は「するわりには」の意に解す。
2.3.13 注釈138 【兵部卿宮、左衛門督などにものせむ】 以下「え書き並べじや」まで、源氏の詞。「兵部卿宮」は蛍宮、「左衛門督」はここだけに登場する系図不明の人。

第四段 草子執筆の依頼

2.4.2 注釈139 【この、もの好みする若き人びと、試みむ】 源氏の詞。
2.4.4 注釈140 【葦手、歌絵を、思ひ思ひに書け】 源氏の詞。
2.4.6 注釈141 【例の寝殿に離れおはしまして書きたまふ】 源氏、寝殿で草子を書く。「例の」は薫物合せの時と同様にの意。
2.4.6 注釈142 【花ざかり過ぎて、浅緑なる空うららかなるに】 「花」は桜の花。晩春の景色。
2.4.6 注釈143 【草のも、ただのも、女手も、いみじう書き尽くしたまふ】 「草」は草仮名。しかし、「ただ」と「女手」の相違がはっきりしない。『集成』は「「女手」は、一般に「男手」(漢字)に対する語で、女の書く文字、すなわち平仮名のこととされるが、後文(この箇所)によると、仮名の一体とすべきもののようである」という。『完訳』は「「ただ」は普通の仮名、平仮名か。「女て」も平仮名とすると、「ただ」との違いが不明。「ただ」と「女て」を同格とみるべきか」と注す。
2.4.8 注釈144 【飽く世なくめでたし】 その場を見聞した語り手の感想。『評釈』は「作者はその姿を「あく世なくめでたし」と賞賛する」という。
2.4.8 注釈145 【見知らむ人は、げにめでぬべき御ありさまなり】 その場を見聞した語り手の感想。『評釈』は「作者はその姿を「見しらむ人は、げにめでぬべき御有様なり」と賞賛した」という。

第五段 兵部卿宮、草子を持参

2.5.1 注釈146 【兵部卿宮渡りたまふ】 女房の詞。
2.5.2 注釈147 【つれづれに籠もり】 以下「渡らせたまへる」まで、源氏の詞。歓迎の挨拶言葉。
2.5.2 注釈148 【心ののどけさに】 大島本は「こゝろの」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「ころの」と校訂する。
2.5.3 注釈149 【かの御草子待たせて渡りたまへるなりけり】 蛍宮が来訪した事情を説明した文。『細流抄』は「草子地」と指摘。「せ」(使役の助動詞)、供人に持たせての意。
2.5.3 注釈150 【やがて御覧ずれば】 人々の仮名を批評する。源氏の目(批評眼)を通して語る。
2.5.3 注釈151 【すぐれてしもあらぬ御手を】 蛍宮の筆跡についての批評。
2.5.3 注釈152 【ただかたかどに】 『集成』は「未熟ながら才気にまかせて」の意に解し、『完訳』は「それが一つの才能だが、の意。具体的には、次の「いといたう--けしき」(じつにすっきりと、あかぬけた感じ、の意)」と注す。
2.5.3 注釈153 【いといたう筆澄みたるけしきありて】 蛍宮の筆跡についての批評。
2.5.3 注釈154 【歌も、ことさらめき、そばみたる古言どもを選りて】 『完訳』は「技巧をこらして、変った好みの古歌。風流人らしい撰歌である」という。
2.5.3 注釈155 【文字少なに】 「文字」について『集成』は「仮名だけで書かず、漢字まじりにしたので、字数が少なくなっているのであろう」と字数の意に解し、『完訳』は「ほとんど全部仮名で」と漢字の意に解す。
2.5.4 注釈156 【かうまでは】 以下「投げ捨てつべしや」まで、源氏のお世辞の詞。
2.5.6 注釈157 【かかる御中に】 以下「思うたまふる」まで、蛍宮の冗談をまじえた返答。自負も窺える。
2.5.9 注釈158 【唐の紙の、いとすくみたるに、草書きたまへる】 中国舶来の紙、ぱりっとした紙に草仮名で書いた。「いとすぐれてめでたし」と批評する。
2.5.9 注釈159 【高麗の紙の、肌こまかに和うなつかしきが、色などははなやかならで、なまめきたるに、おほどかなる女手の、うるはしう心とどめて書きたまへる】 高麗舶来の紙、紙質がきめこまやかで柔らかく温かい感じのする紙で、色も落ち着いた優雅な感じのする紙に女手で書いた。「たとふべきかたなし」と批評する。
2.5.10 注釈160 【色あひはなやかなるに】 大島本は「色あひ」とある。『集成』『新大系』は底本のままとする。『古典セレクション』は諸本に従って「色あはひ」と校訂する。
2.5.10 注釈161 【しどろもどろに】 「よしとてもよき名も立たず刈萱のいざ乱れなむしどろもどろに」(紫明抄所引、出典未詳)「まめなれどよき名も立たず刈萱のいざ乱れなむしどろもどろに」(古今六帖六、かるかや、三七八五)

第六段 他の人々持参の草子

2.6.2 注釈162 【女の御は】 大島本は「女の御ハ」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「女のは」と校訂する。
2.6.2 注釈163 【はかなうをかしき】 『集成』は「整った正式の書体に対して下絵に合せて乱れ書いたものについての感じ」という。
2.6.3 注釈164 【こなたかなた】 『集成』は「〔流れや葦が〕あちらこちらと」と解し、『完訳』は「葦と文字があちこち入り交じり」と解す。
2.6.3 注釈165 【いといかめしう】 大島本は「いかめかしう」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「いまめかしう」と校訂する。
2.6.4 注釈166 【目も及ばず。これは暇いりぬべきものかな】 蛍宮の讃辞。『集成』は「手間のかかりそうなものですね」の意に解し、『完訳』は「観賞に時間がかかるの意。一説に葦手書きするのに、とする」と注す。

第七段 古万葉集と古今和歌集

2.7.2 注釈167 【古万葉集】 『万葉集』をさす。『万葉集』の古称。
2.7.3 注釈168 【尽きせぬものかな】 以下「こそありけれ」まで、源氏の詞。
2.7.5 注釈169 【女子などを持てはべらましにだに、をさをさ見はやすまじきには伝ふまじきを、まして、朽ちぬべき】 蛍宮の詞。「まし」(推量の助動詞、反実仮想)、「だに」は打消や反語の表現を伴って、述語の表す動作・状態に対して、例外的、逆接的な事物、事態であることを示す。~でさえ、~さえもの意。女の子を仮にもっていましたにしても、その時でさえも、見る目を持たない者には、伝えないでしょうが、まして、女の子がいないのだから、このまま持っているのは、埋もれさせてしまうことだから、の意。
2.7.7 注釈170 【またこのころは、ただ仮名の定めをしたまひて】 源氏、姫君のための書画類を調える。
2.7.7 注釈171 【尋ねつつ書かせたまふ】 大島本は「尋つゝ」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「尋ねて」と校訂する。
2.7.8 注釈172 【かの『須磨の日記』は、末にも伝へ知らせむと思せど、「今すこし世をも思し知りなむに」と思し返して】 源氏の心中を叙述。

第三章 内大臣家の物語 夕霧と雲居雁の物語


第一段 内大臣家の近況

3.1.1 注釈173 【姫君の御ありさま、盛りにととのひて】 雲居雁、二十歳。
3.1.1 注釈174 【心弱く進み寄らむも】 以下「なびきなましかば」まで、内大臣の心中。「なりし」の「し」(過去の助動詞)、過去を振り返ったニュアンス。「な」(完了の助動詞)「ましか」(反実仮想の助動詞)「ば」(係助詞、仮定)。
3.1.1 注釈175 【罪をもおほせたまはず】 大島本は「おほせ給ハす」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「え負ほせたまはず」と校訂する。
3.1.2 注釈176 【戯れにくき折】 「ありぬやとこころみがてらあひ見ねばたはぶれにくきまでぞ恋しき」(古今集俳諧歌、一〇二五、読人しらず)
3.1.2 注釈177 【浅緑」聞こえごちし】 浅緑の袍は六位の装束。

第二段 源氏、夕霧に結婚の教訓

3.2.1 注釈178 【大臣は】 源氏をさす。
3.2.1 注釈179 【あやしう浮きたるさまかな】 源氏の心中。結婚の決まらない夕霧の身の上を心配。
3.2.2 注釈180 【かのわたりのこと】 以下「思ひ定められよ」まで、源氏の夕霧への詞。「かのわたり」は雲居雁をさす。「右大臣」「中務宮」はここだけの登場人物。「気色ばみいはせ給ふ」は娘を夕霧に縁づけたい意向をいう。「られ」は尊敬の助動詞。比較的軽い敬語。
3.2.3 注釈181 【御さまにてさぶらひたまふ】 大島本は「御さまにて」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「さまにて」と「御」を削除する。
3.2.4 注釈182 【かやうのことは】 以下「ぞ深うあるべき」まで、源氏の夕霧への諭しの詞。
3.2.4 注釈183 【かしこき御教へに】 故桐壺院の諭をさす。
3.2.6 注釈184 【限りのあるものから】 大島本は「かきりのある」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「限りある」と「の」を削除する。
3.2.6 注釈185 【いはけなくより、宮の内に生ひ出でて】 以下、源氏の幼少時代の回想。
3.2.7 注釈186 【思ひしづむべきくさはひ】 妻子などをさす。
3.2.8 注釈187 【人の名をも立て】 相手の浮名を立てること。
3.2.9 注釈188 【御心づかひをのみ】 大島本は「御心つかひ」とある。『新大系』は底本のままとする。『集成』『古典セレクション』は諸本に従って「心づかひ」と「御」を削除する。

第三段 夕霧と雲居の雁の仲

3.3.1 注釈189 【恥づかしう、憂き身と思し沈めど】 『集成』は「顔向けできぬ思いで、情けない身の上と悲観していらっしゃるが。親不孝を恥じる気持」と注す。『完訳』は「自分のせいで父を嘆かせる思うと恥ずかしい。深窓の姫君らしい素直な性格」と注す。
3.3.1 注釈190 【上はつれなくおほどかにて】 「葦根はふうきは上こそつれなけれ下はえならず思ふ心を(拾遺集恋四、八九三、読人しらず)
3.3.2 注釈191 【御文は、思ひあまりたまふ折々】 夕霧から雲居雁への手紙。
3.3.2 注釈192 【誰がまことをか」と】 「いつはりと思ふものから今さらに誰がまことをか我は頼まむ(古今集恋四、七一三、読人しらず)
3.3.2 注釈193 【世馴れたる人こそ、あながちに人の心をも疑ふなれ、あはれと見たまふふし多かり】 語り手の批評。『新釈』は「記者の批評を挿入したものである」と注す。
3.3.3 注釈194 【中務宮なむ】 以下「思し交したなる」まで、女房の内大臣への注進。
3.3.4 注釈195 【大臣は、ひき返し御胸ふたがるべし】 語り手の内大臣の心中を推測。『完訳』は「雲居雁入内を断念したのに続いて夕霧との結婚をも危ぶむ気持」と注す。
3.3.5 注釈196 【さることをこそ聞きしか】 以下「人笑へならましこと」まで、内大臣の詞。雲居雁を前にしていう。
3.3.5 注釈197 【情けなき人の御心にもありけるかな】 夕霧をさす。
3.3.5 注釈198 【大臣の、口入れたまひしに、執念かりきとて】 源氏の大臣が夕霧と雲居雁との結婚に口添えなさったのに(「行幸」第二章二段にみえる)、強情にも内大臣がそれに従わなかったからといって、の意。
3.3.5 注釈199 【引き違へたまふなるべし】 夕霧と中務宮の姫君とを結婚させようとなさるのだろう、の意。
3.3.5 注釈200 【心弱くなびきても】 『完訳』は「源氏におもねる不面目。内大臣はこれまでも「人笑へ」を頻発。権門特有の家の恥の意識である」と注す。
3.3.7 注釈201 【いかにせまし。なほや進み出でて、けしきをとらまし】 内大臣の心中。
3.3.9 注釈202 【あやしく、心おくれても進み出でつる涙かな。いかに思しつらむ】 雲居雁の心中。
3.3.10 注釈203 【さすがにぞ見たまふ】 『集成』は「夕霧が怨めしいが、それでもやはりお手紙を御覧になる」と注す。
3.3.11 注釈204 【つれなさは憂き世の常になりゆくを--忘れぬ人や人にことなる】 夕霧から雲居雁への贈歌。
3.3.12 注釈205 【けしきばかりもかすめぬ、つれなさよ】 夕霧の和歌を見た雲居雁の心。「けしき」は夕霧と中務宮の姫君との縁談をさす。
3.3.13 注釈206 【限りとて忘れがたきを忘るるも--こや世になびく心なるらむ】 雲居雁の返歌。「世」「忘れ」の語句を用いて返す。「世になびく」に縁談のことを言い含む。
3.3.14 注釈207 【あやし】 夕霧が雲居雁の和歌を見た心。『集成』は「夕霧は、変なことが書いてあると、手紙を下にも置かず、じっと持ったまま不審そうに見ていらっしゃる。ほかの縁談に心を移すことなど、夢にも考えられないので、雲居の雁の歌の意味がすぐに分らないのである」と注す。
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