第四十四帖 竹河 薫君の中将時代十五歳から十九歳までの物語 |
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注釈番号 |
注釈見出し |
注釈 |
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第一章 鬚黒一族の物語 玉鬘と姫君たち |
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第一段 鬚黒没後の玉鬘と子女たち |
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1.1.1 | 注釈1 | 【これは、源氏の御族にも離れたまへりし、後の大殿わたりにありける悪御達の】 | 『弄花抄』は「凡此物語を紫式部か作とも見せす其意也紫式部か決したる語也古き事と見えたり紫式部が作せさる心也」。『玉の小櫛』は「上の語をうけて、此物語の作りぬしのいふ也。そは後の大殿わたりの女房は、紫上の御方の女房の、源氏君の御末々の人々の事を、かたりおきたるは、ひがことども多きを、我らが申す、此大殿わたりの事共は、みなまこと也とて、語りたる。二方ともに、年老いたる人々の、語りしことなれば、いづ方かまことならん、ともにさだかならぬ事なれども、まづ聞きたるまゝに、いづ方をもすてず、しるしおくぞといふ意にて、その紫上の御方の女房の語れるは、匂宮の巻、後の大殿わたりの女房のかたれるは、即ち此巻也。さて此物語は、すべてみな作り物がたりなるを、実に世に有し事を、人の語れるを聞て、書るごとく、ことさらおぼめきて、かくいへるも一つの興也」と指摘する。鬚黒大将家の物語。 【悪御達の】-『集成』は「おしゃべりな女房たちで」。『完訳』は「いかがわしい女房たちの」と訳す。 | |
1.1.1 | 注釈2 | 【源氏の御末々に】 | 以下「ひがことにや」まで、鬚黒周辺の御達の噂。 | |
1.1.2 | 注釈3 | 【尚侍の御腹に】 | 玉鬘をさす。 | |
1.1.2 | 注釈4 | 【いつしかといそぎ思しし御宮仕へも】 | 姫君の入内の件。 | |
1.1.3 | 注釈5 | 【領じたまふ所々のなど】 | 大島本は「所々の」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「所々」と「の」を削除する。『新大系』は底本のままとする。 | |
1.1.4 | 注釈6 | 【御仲らひの】 | 格助詞「の」は同格。 | |
1.1.4 | 注釈7 | 【心おかれたまふこともありけるゆかりにや】 | 語り手の挿入句。 | |
1.1.4 | 注釈8 | 【誰れにも】 | 『集成』が「ご兄弟のどなたとも」と注す。 | |
1.1.5 | 注釈9 | 【六条院には、すべて、なほ昔に変らず数まへきこえたまひて】 | 「六条院」は源氏をさす。生前のこと。『集成』は「家族の一員として」と注す。 | |
1.1.5 | 注釈10 | 【中宮の御次に】 | 明石中宮の次に。 | |
1.1.5 | 注釈11 | 【右の大殿などは】 | 夕霧。 | |
第二段 玉鬘の姫君たちへの縁談 |
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1.2.1 | 注釈12 | 【殿のおはせでのち】 | 大島本は「殿の」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「殿」と「の」を削除する。『新大系』は底本のままとする。 | |
1.2.1 | 注釈13 | 【おのづからなり出でたまひぬべかめり】 | 推量助動詞「めり」主観的推量のニュアンスは語り手のもの。 | |
1.2.2 | 注釈14 | 【内裏にも】 | 帝に対してもの意。 | |
1.2.2 | 注釈15 | 【おとなびたまひぬらむ】 | 推量助動詞「らむ」、作中人物の帝の視界外推量のニュアンス。 | |
1.2.2 | 注釈16 | 【推し量らせたまひて】 | 帝の動作についての最高尊敬。 | |
1.2.2 | 注釈17 | 【中宮の、いよいよ並びなく】 | 『完訳』は「以下、玉鬘の心」と注す。 | |
1.2.2 | 注釈18 | 【皆人無徳にものしたまふめる末に参りて】 | 『集成』は「どなたも形なしといった有様でいらっしゃる末席に列なって」。『完訳』は「どなたもみなあってなきがごとくでいらっしゃる、その末席に連なって」と訳す。 | |
1.2.2 | 注釈19 | 【遥かに目を側められたてまつらむも】 | 『奥入』は「未だに君王に面を見ること得ること容されざるに已に楊妃に遥かに目を側められたり」(白氏文集、上陽白髪人)を指摘。 | |
1.2.3 | 注釈20 | 【冷泉院よりは】 | 大島本は「れせい院よりハ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「冷泉院より」と「は」を削除する。『新大系』は底本のままとする。 | |
1.2.3 | 注釈21 | 【尚侍の君の、昔、本意なくて過ぐしたまうし辛さを】 | 玉鬘が尚侍として冷泉院の在位中にに出仕したにもかかわらず鬚黒の北の方となってしまったことをさす。 | |
1.2.4 | 注釈22 | 【今は、まいて】 | 以下「譲りたまへ」まで、冷泉院の詞。 | |
1.2.4 | 注釈23 | 【さだ過ぎ、すさまじきありさまに】 | 冷泉院自身の退位した有様をいう。 | |
1.2.5 | 注釈24 | 【いかがはあるべきことならむ】 | 以下「御覧じ直されまし」まで、玉鬘の心中。 | |
第三段 夕霧の息子蔵人少将の求婚 |
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1.3.1 | 注釈25 | 【三条殿の御腹にて】 | 雲居雁所生の子。 | |
1.3.2 | 注釈26 | 【いづ方につけても、もて離れたまはぬ御仲らひなれば】 | 玉鬘の姫君と夕霧の子の蔵人少将は、玉鬘と夕霧は義理の姉弟、また玉鬘と雲居雁は異腹の姉妹の関係である。 | |
1.3.2 | 注釈27 | 【尚侍の殿も】 | 玉鬘。尚侍の殿という呼称。 | |
1.3.3 | 注釈28 | 【母北の方】 | 蔵人少将の母雲居雁。 | |
1.3.3 | 注釈29 | 【いと軽びたるほどにはべるめれど、思し許す方もや】 | 雲居雁の手紙文かと思えるが、後文により、夕霧の詞である。「母北の方の」云々と「大臣も」云々が並列の構文になっている。 | |
1.3.4 | 注釈30 | 【姫君をば、さらにただのさまにも思しおきてたまはず】 | 「姫君」は大君。臣下との結婚、すなわち蔵人少将との結婚は考えていない。 | |
1.3.4 | 注釈31 | 【中の君をなむ】 | 玉鬘は、蔵人少将を中君の結婚相手に考えている。 | |
1.3.4 | 注釈32 | 【今すこし世の聞こえ軽々しからぬほどになずらひならば】 | 主語は蔵人少将。 | |
1.3.4 | 注釈33 | 【あな、かしこ。--過ち引き出づな】 | 玉鬘の詞。 | |
1.3.4 | 注釈34 | 【朽たされてなむ、わづらはしがりける】 | 主語は、姫君付の女房たち。 | |
第四段 薫君、玉鬘邸に出入りす |
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1.4.1 | 注釈35 | 【朱雀院の宮の御腹に生まれたまへりし君】 | 朱雀院の内親王女三の宮が生んだ源氏の子、薫、の意。 | |
1.4.1 | 注釈36 | 【四位侍従、そのころ十四、五ばかりにて】 | 『完訳』は「十四歳の二月に侍従、秋、右近中将に昇進(匂宮巻)。侍従は従五位下。官位相当より上の位の者は、位を示して呼ぶ」と注す。 | |
1.4.1 | 注釈37 | 【尚侍の君は】 | 玉鬘は夕霧の子の蔵人少将よりも源氏の子の薫四位侍従を重んじ、中君の婿にと思っている。 | |
1.4.2 | 注釈38 | 【この殿は】 | 玉鬘邸。 | |
1.4.2 | 注釈39 | 【三条の宮と】 | 薫邸。母女三の宮邸。 | |
1.4.2 | 注釈40 | 【見えしらひさまよふ中に】 | 大島本は「見えしらひ」とある。『集成』『完本』『新大系』は諸本に従って「見えしらがひ」と「が」を補訂する。 | |
1.4.3 | 注釈41 | 【六条院の御けはひ近うと思ひなすが、心ことなるにやあらむ】 | 『完訳』は「源氏の子と世人が思い込むせいか。源氏の子でない真相を知ったうえでの、語り手の言辞」と注す。 | |
1.4.3 | 注釈42 | 【もてかしづかれたまへる人】 | 大島本は「もてかしつかれ給へる人」とある。『集成』『完本』『新大系』は諸本に従って「人なり」と「なり」を補訂する。 | |
1.4.3 | 注釈43 | 【若き人びと】 | 玉鬘邸の若い女房たち。 | |
1.4.3 | 注釈44 | 【げにこそ、めやすけれ】 | 玉鬘の詞。 | |
1.4.4 | 注釈45 | 【院の御心ばへを】 | 以下「かたきを」まで、玉鬘の詞。 | |
1.4.5 | 注釈46 | 【兄弟のつらに思ひきこえたまへれば】 | 玉鬘は薫を弟(義理弟)と思っている。 | |
1.4.5 | 注釈47 | 【かの君も】 | 薫をさす。薫も玉鬘邸を姉の邸と思って。 | |
1.4.5 | 注釈48 | 【ここかしこの若き人ども】 | 三条宮邸や玉鬘邸の若い女房たち。 | |
第二章 玉鬘邸の物語 梅と桜の季節の物語 |
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第一段 正月、夕霧、玉鬘邸に年賀に参上 |
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2.1.1 | 注釈49 | 【尚侍の君の御兄弟の大納言】 | 玉鬘の実の姉弟の紅梅大納言。ただし異母姉弟。 | |
2.1.1 | 注釈50 | 【高砂」謡ひしよ】 | 『弄花抄』は「注也」。『評釈』は「大納言についての説明。大納言はすでに「紅梅」の巻で活躍しているから、説明がなくても一応は判るが、語り手は一言つけ加えた。その理由の一つはこの巻の語り手が、それまでと違ってかんの君方の古女房だからである。他の一つはこういうさりげない一言で、物語の世界に深みをあたえ、時間的遠近法の効果をはかった」と注す。 | |
2.1.1 | 注釈51 | 【藤中納言、故大殿の太郎、真木柱の一つ腹など】 | 藤中納言の説明。故鬚黒の太郎君で真木柱の姫君と同腹の人、という説明。 | |
2.1.1 | 注釈52 | 【右の大臣も、御子ども六人ながらひき連れておはしたり】 | 『集成』は「北の方(雲居の雁)腹の長男、三、五、六男と、藤典侍腹の二、四男。蔵人の少将は、五男であろう」と注す。 | |
2.1.2 | 注釈53 | 【何ごと思ふらむと】 | 大島本は「なにこと」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「何ごとを」と「を」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.1.2 | 注釈54 | 【思ふことあり顔なり】 | 恋煩いのさま。 | |
2.1.4 | 注釈55 | 【そのこととなくて】 | 以下「いましめはべり」まで、夕霧の玉鬘への詞。 | |
2.1.4 | 注釈56 | 【他のありき】 | 大島本は「ありき」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「ありきなど」と「など」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.1.6 | 注釈57 | 【今は、かく】 | 以下「思うたまへられける」まで、玉鬘の詞。 | |
2.1.7 | 注釈58 | 【院より】 | 冷泉院。 | |
2.1.7 | 注釈59 | 【ほのめかし聞こえたまふ】 | 主語は玉鬘。『完訳』は「冷泉院の、姫君に参院せよとの仰せ言。蔵人の少将の求婚を婉曲に断るために言い出したか」と注す。 | |
2.1.8 | 注釈60 | 【はかばかしう】 | 以下「なむわづらふ」まで、玉鬘の詞。 | |
2.1.8 | 注釈61 | 【思ひたまへ】 | 大島本は「おもひたまへ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「かたがた思ひたまへ」と「かたがた」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.1.10 | 注釈62 | 【内裏に仰せらるること】 | 以下「とどこほることもはべらじ」まで、夕霧の詞。 | |
2.1.10 | 注釈63 | 【よろしう生ひ出づる女子はべらましかば】 | 大島本は「侍らましかハ」とある。『集成』『完本』『新大系』は諸本に従って「はべらましかばと」と「と」を補訂する。夕霧の娘。六人。うち大君は東宮に、中君は二の宮に入内。六の君は美貌で知られる。 | |
2.1.11 | 注釈64 | 【女一の宮の女御は】 | 女一の宮の母女御の意。冷泉院の弘徽殿女御。 | |
2.1.13 | 注釈65 | 【女御なむ、つれづれに】 | 以下「思ひたまへよるになむ」まで、玉鬘の詞。 | |
2.1.13 | 注釈66 | 【後見て、慰めまほしきを】 | 玉鬘の大君を。 | |
2.1.15 | 注釈67 | 【これかれ、ここに集まりたまひて】 | 夕霧右大臣や紅梅大納言らが玉鬘邸に参集なさって、の意。 | |
2.1.15 | 注釈68 | 【三条の宮に】 | 薫の母宮、女三の宮邸。 | |
2.1.15 | 注釈69 | 【入道宮をば】 | 源氏の正妻女三の宮。 | |
2.1.15 | 注釈70 | 【参りたまふなめり】 | 語り手の推量。 | |
2.1.15 | 注釈71 | 【この殿の左近中将、右中弁、侍従の君なども】 | 玉鬘邸の子息たち三人。 | |
第二段 薫君、玉鬘邸に年賀に参上 |
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2.2.1 | 注釈72 | 【四位侍従】 | 薫。 | |
2.2.1 | 注釈73 | 【この君の立ち出でたまへる】 | 薫が姿を見せた。 | |
2.2.1 | 注釈74 | 【例の、ものめでする若き人たちは】 | 玉鬘邸の若い女房たち。 | |
2.2.1 | 注釈75 | 【なほ、ことなりけり】 | 玉鬘邸の若い女房たちの詞。薫を絶賛。 | |
2.2.2 | 注釈76 | 【この殿の姫君の】 | 以下「さしな並べて見め」まで、女房の詞。玉鬘の大君と薫の結婚を仮想。 | |
2.2.3 | 注釈77 | 【げに、いと若う】 | 『林逸抄』は「双紙の詞也」と注す。「げに」は語り手が女房の詞に納得する気持ち。 | |
2.2.3 | 注釈78 | 【姫君と聞こゆれど】 | 『一葉抄』は「傍人の批判したる也」と注す。 | |
2.2.3 | 注釈79 | 【見知りたまふらむかし」とぞおぼゆる】 | 語り手の感想。 | |
2.2.4 | 注釈80 | 【こなたに】 | 玉鬘の詞。薫を招く。 | |
2.2.4 | 注釈81 | 【いと好かせたてまほしきさま】 | 大島本は「すかせたてまほしき」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「すかせたてまつらまほしき」と「まつら」を補訂する。『新大系』は底本のままとし、「「好(す)かせたつ」で一語」と注す。 | |
2.2.4 | 注釈82 | 【宰相の君と聞こゆる上臈の詠みかけたまふ】 | 『集成』は「「聞こゆる」は、下の「たまふ」とともに、語り手の女房より宰相の君に対する敬語」。『完訳』は「螢に登場する女房とは別人か」と注す。 | |
2.2.5 | 注釈83 | 【折りて見ばいとど匂ひもまさるやと--すこし色めけ梅の初花】 | 宰相の君から薫への贈歌。真淵『新釈』は「よそにのみあはれとぞ見し梅の花あかぬ色香は折りてなりけり(古今集春上、三七、素性法師)を指摘。『完訳』は「「折りて見る」は情交を暗示。「梅の初花」は薫。女から男に戯れた歌」と注す。 | |
2.2.7 | 注釈84 | 【よそにてはもぎ木なりとや定むらむ--下に匂へる梅の初花】 | 薫の返歌。「梅の初花」の語句をそのまま用いて返す。『完訳』は「内心の魅力を主張して戯れた歌」と注す。 | |
2.2.8 | 注釈85 | 【さらば袖触れて見たまへ】 | 薫の歌に添えた言葉。『源氏釈』は「色よりも香こそあはれと思ほゆれたが袖触れし宿の梅ぞも」(古今集春上、三三、読人しらず)を指摘。 | |
2.2.9 | 注釈86 | 【まことは色よりも】 | 女房の詞。「香が素晴らしい」の意が下に省略。 | |
2.2.11 | 注釈87 | 【うたての御達や】 | 以下「面無けれ」まで、玉鬘の詞。 | |
2.2.12 | 注釈88 | 【のたまふなり】 | 「なり」伝聞推定の助動詞。薫に即した表現。 | |
2.2.12 | 注釈89 | 【まめ人とこそ】 | 以下「いと屈じたる名かな」まで、薫の心中。 | |
2.2.12 | 注釈90 | 【主人の侍従、殿上などもまだせねば】 | 玉鬘と鬚黒の三男。薫と区別するために「主人の」と言った。『完訳』は「侍従は従五位下だが、新任のためか勅許がない」と注す。 | |
2.2.13 | 注釈91 | 【大臣は】 | 以下「おはしけむかし」まで、玉鬘の詞。 | |
2.2.13 | 注釈92 | 【もてなししもぞ】 | 大島本は「もてなしゝもそ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「もてなしぞ」と「し」を削除する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.2.14 | 注釈93 | 【思ひ出でられたまひて】 | 大島本は「思いてられ給て」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「思ひ出できこえたまひて」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.2.14 | 注釈94 | 【うちしほれたまふ】 | 大島本は「うちしほれ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「うちしほたれ」と「た」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.2.14 | 注釈95 | 【名残さへ】 | 薫が立ち去った後の残香。 | |
第三段 梅の花盛りに、薫君、玉鬘邸を訪問 |
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2.3.1 | 注釈96 | 【二十余日のころ、梅の花盛りなるに】 | 正月二十日過ぎ。梅の花盛り。 | |
2.3.1 | 注釈97 | 【匂ひ少なげに】 | 以下「ならはむかし」まで、薫の心中。 | |
2.3.1 | 注釈98 | 【取りなされじ】 | 「じ」について、『集成』は、過去助動詞「し」に解し、『完訳』、打消推量助動詞「じ」に解す。 | |
2.3.1 | 注釈99 | 【藤侍従の御もとに】 | 玉鬘の三男。前出の「主人の侍従」。 | |
2.3.2 | 注釈100 | 【隠れなむと思ひけるを】 | 相手の男。先に来ていた男の動作。 | |
2.3.2 | 注釈101 | 【ひきとどめたれば】 | 主語は薫。 | |
2.3.2 | 注釈102 | 【少将なりけり】 | 夕霧の子息。 | |
2.3.3 | 注釈103 | 【寝殿の西面に】 | 以下「深かるべきわざかな」まで、薫の心中。 | |
2.3.3 | 注釈104 | 【心を惑はして立てるなめり】 | 薫と語り手が一体化した視点で語る。 | |
2.3.4 | 注釈105 | 【いざ、しるべしたまへ。まろは、いとたどたどし】 | 薫の蔵人少将への詞。叔父甥の関係でもある。 | |
2.3.5 | 注釈106 | 【梅が枝】 | 梅が枝に 来居る鴬 や 春かけて はれ 春かけて 鳴けどもいまだ や 雪は降りつつ あはれ そこよしや 雪は降りつつ(催馬楽-梅が枝)(text44.html 出典3から転載) | |
2.3.5 | 注釈107 | 【呂の歌は】 | 律はわが国固有の俗楽的音階で秋の調べ、呂は中国伝来の正式な音階で春の調べという。 | |
2.3.5 | 注釈108 | 【いたしと思ひて】 | 主語は薫。敬語が付かないのは緊張した臨場感を出すためである。 | |
2.3.5 | 注釈109 | 【今一返り、をり返し歌ふ】 | 大島本は「おりかへしうたふ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「をり返しうたふを」と「を」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。主語は侍従の君。 | |
2.3.6 | 注釈110 | 【ゆゑありて】 | 以下「あたりぞかし」まで、薫の感想。 | |
2.3.6 | 注釈111 | 【はかなしごとなども言ふ】 | 主語は薫。ここでも敬語が付かない。 | |
2.3.7 | 注釈112 | 【かたみに譲りて】 | 薫と蔵人少将とが互いに。 | |
2.3.7 | 注釈113 | 【侍従の君して】 | 玉鬘の三男、侍従の君。 | |
2.3.8 | 注釈114 | 【故致仕の大臣の】 | 以下「誘はれたまへ」まで、玉鬘の薫への詞。和琴の弾奏をすすめる。 | |
2.3.8 | 注釈115 | 【鴬にも誘はれたまへ】 | 『奥入』は「花の香を風のたよりにたぐへてぞ鴬誘ふしるべにはやる(古今集春上、一三、紀友則)。『異本紫明抄』は「鴬の声に誘引せられて花の下に来る草の色に拘留せられて水の辺に坐り」(白氏文集巻十八、春江・和漢朗詠集上、春、鴬)を指摘。 | |
2.3.9 | 注釈116 | 【爪くふべきことにもあらぬを】 | 薫の心中。 | |
2.3.10 | 注釈117 | 【常に見たてまつり】 | 以下「おぼえつれ」まで、玉鬘の詞。薫の和琴を聴いて、亡き父致仕太政大臣を思い出す。 | |
2.3.11 | 注釈118 | 【故大納言の御ありさまに】 | 柏木。薫の実の父親。 | |
2.3.12 | 注釈119 | 【古めいたまふしるしの、涙もろさにや】 | 語り手の批評。『首書』は「草子地也」と指摘。『完訳』は「語り手の言辞。薫の出生の秘事をはぐらかし、老の涙かとする」と注す。 | |
第四段 得意の薫君と嘆きの蔵人少将 |
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2.4.1 | 注釈120 | 【さき草」謡ふ】 | 『源氏釈』は「この殿は 宜も 宜も富みけり 三枝の あはれ 三枝の はれ 三枝の 三つば四つばの中に 殿づくりせりや 殿づくりせりや」(催馬楽、この殿は)を指摘。 | |
2.4.1 | 注釈121 | 【故大臣に】 | 鬚黒。 | |
2.4.1 | 注釈122 | 【似たてまつりたまへるにや】 | 語り手の想像。 | |
2.4.1 | 注釈123 | 【寿詞をだにせむや】 | 薫または蔵人少将の詞。 | |
2.4.1 | 注釈124 | 【竹河」を同じ声に】 | 『源氏釈』は「竹河の 橋のつめなるや 橋のつめなるや 花園に はれ 花園に 我をば放てや 我をば放てや少女伴へて」(催馬楽、竹河)を指摘。 | |
2.4.2 | 注釈125 | 【酔のすすみては】 | 以下「もてないたまふぞ」まで、薫の詞。『源氏釈』は「思ふには忍ぶることぞ負けにける色に出でじと思ひしものを」(古今集恋一、五〇三、読人しらず)を指摘。 | |
2.4.3 | 注釈126 | 【被けたまふ】 | 主語は玉鬘。玉鬘が薫に。 | |
2.4.3 | 注釈127 | 【何ぞもぞ】 | 薫の詞。男踏歌にちなんだ言葉遣い。 | |
2.4.3 | 注釈128 | 【侍従は、主人の君にうち被けて去ぬ】 | 薫源侍従がこの家の藤侍従に与えて、の意。 | |
2.4.3 | 注釈129 | 【水駅にて夜更けにけり】 | 薫の詞。『集成』は「ちょっと立ち寄ったつもりが、つい夜更かししました」と注す。 | |
2.4.4 | 注釈130 | 【この源侍従の君の】 | 以下「思ひ弱りて」まで、蔵人少将の心中。末尾は地の文に流れる。 | |
2.4.5 | 注釈131 | 【人はみな花に心を移すらむ--一人ぞ惑ふ春の夜の闇】 | 蔵人少将の詠歌。真淵『新釈』は「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる」(古今集春上、四一、凡河内躬恒)を指摘。 | |
2.4.7 | 注釈132 | 【をりからやあはれも知らむ梅の花--ただ香ばかりに移りしもせじ】 | 女房の返歌。「香ばかり」「かばかり」の掛詞。蔵人少将を慰める。 | |
2.4.9 | 注釈133 | 【昨夜は】 | 以下「いかに見たまひけむ」まで、薫の文。 | |
2.4.10 | 注釈134 | 【仮名がちに書きて】 | 大島本は「かなかちにかきて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「仮名がちに書きて、端に」と「端に」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.4.11 | 注釈135 | 【竹河の橋うちいでし一節に--深き心の底は知りきや】 | 薫から玉鬘への贈歌。催馬楽「竹河」の詞章を踏まえる。「橋」と「端」の掛詞。「竹」-「節」、「河」-「深き」-「底」は縁語。 | |
2.4.12 | 注釈136 | 【これかれ見たまふ】 | 玉鬘や姫君たちが。 | |
2.4.13 | 注釈137 | 【手なども】 | 以下「こそあめれ」まで、玉鬘の詞。 | |
2.4.13 | 注釈138 | 【いかなる人、今より】 | 『集成』は「いかなる前世の因縁か、という気持」。『完訳』は「どんな前世の因縁を持つ人が」と訳す。 | |
2.4.14 | 注釈139 | 【この君たちの、手など】 | 玉鬘の子供たちの筆跡。 | |
2.4.14 | 注釈140 | 【げに、いと若く】 | 「げに」は語り手の納得した気持ち。 | |
2.4.15 | 注釈141 | 【昨夜は、水駅をなむ】 | 以下、歌の終わりまで、藤侍従の文。 | |
2.4.16 | 注釈142 | 【竹河に夜を更かさじといそぎしも--いかなる節を思ひおかまし】 | 藤侍従の返歌。「夜」と「よ(竹の節と節の間)」の掛詞。「竹」-「節」は縁語。 | |
2.4.17 | 注釈143 | 【げに、この節をはじめにて】 | 「げに」は語り手の感情移入による。 | |
2.4.17 | 注釈144 | 【この君の御曹司に】 | 藤侍従。 | |
2.4.17 | 注釈145 | 【少将の推し量りしもしるく】 | 蔵人少将の心配は、前に「この源侍従の君の」(第二章四段)以下に語られていた。 | |
第五段 三月、花盛りの玉鬘邸の姫君たち |
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2.5.1 | 注釈146 | 【咲く桜あれば、散りかひくもり】 | 『源氏釈』は「桜咲く桜の山の桜花咲く桜あれば散る桜あり」(出典未詳)「桜花散りかひ曇れ老いらくの来むといふなる道まがふがに」(古今集賀、三四九、在原業平)を指摘。 | |
2.5.1 | 注釈147 | 【のどやかにおはする所は】 | 玉鬘邸。 | |
2.5.1 | 注釈148 | 【端近なる罪もあるまじかめり】 | 「めり」は語り手の推量。 | |
2.5.2 | 注釈149 | 【そのころ、十八、九のほどやおはしけむ】 | 玉鬘の娘姉妹の年齢。『評釈』は「古女房が昔の有様を思い出して語っている痕跡の一つである。「けむ」と推量しているのは語り手の女房である」と注す。 | |
2.5.2 | 注釈150 | 【姫君は、いとあざやかに】 | 大君。 | |
2.5.2 | 注釈151 | 【げに、ただ人にて見たてまつらむは】 | 語り手が作中人物に納得同意する気持ち。 | |
2.5.4 | 注釈152 | 【今一所は、薄紅梅に】 | 中の君。 | |
2.5.4 | 注釈153 | 【桜色にて】 | 大島本は「さくら色にて」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「御髪いろにて」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.5.4 | 注釈154 | 【たをたをとたゆみ】 | 大島本は「たゆみ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「見ゆ」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
2.5.4 | 注釈155 | 【こよなしとぞ】 | 『完訳』は「大君のほうが格別と」と注す。 | |
2.5.5 | 注釈156 | 【兄君たちさしのぞきたまひて】 | 藤侍従の兄、左中将と右中弁。 | |
2.5.6 | 注釈157 | 【侍従のおぼえ】 | 以下「許されにけるをや」まで、兄君の詞。 | |
2.5.8 | 注釈158 | 【宮仕へのいそがしう】 | 以下「本意なきわざかな」まで、左近中将の詞。 | |
2.5.10 | 注釈159 | 【弁官は、まいて】 | 以下「思し捨てむ」まで、右中弁の詞。 | |
2.5.10 | 注釈160 | 【さのみやは思し捨てむ】 | 反語表現。『集成』は「そうまでお見捨てになっていいものでしょうか」と訳す。 | |
2.5.12 | 注釈161 | 【内裏わたりなど】 | 以下「多くこそ」まで、左中将の詞。 | |
2.5.12 | 注釈162 | 【故殿おはしまさましかば】 | 左中将や右中弁らの父、鬚黒。 | |
2.5.13 | 注釈163 | 【二十七、八のほどにものしたまへば】 | 左中将の年齢。『完訳』は「左近中将の誕生は、真木柱。今は二十五歳のはず」と注す。 | |
2.5.13 | 注釈164 | 【いかで、いにしへ】 | 以下「違へずもがな」まで、左中将の心中。 | |
2.5.14 | 注釈165 | 【他のには似ずこそ】 | 姫君の詞。係助詞「こそ」の下に「はべれ」などの語句が省略。 | |
2.5.15 | 注釈166 | 【幼くおはしましし時】 | 以下「思ひたまへられしはや」まで、左中将の詞。 | |
2.5.15 | 注釈167 | 【上は】 | 母上は、の意。 | |
2.5.15 | 注釈168 | 【いとさは泣きののしらねど、やすからず思ひたまへられしはや】 | 『集成』は「父母が姫君たちにかまけて自分を顧みてくれない、と思った幼時の回想」と注す。 | |
2.5.15 | 注釈169 | 【この桜の】 | 以下「止めがたうこそ」まで、左中将の詞。 | |
2.5.16 | 注釈170 | 【人の婿になりて】 | 他家の婿に入って。 | |
第六段 玉鬘の大君、冷泉院に参院の話 |
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2.6.1 | 注釈171 | 【尚侍の君、かくおとなしき人の親になりたまふ御年のほど思ふよりは】 | 玉鬘は、二十七八歳の左中将らの母親、四十八歳。 | |
2.6.1 | 注釈172 | 【冷泉院の帝は、多くは】 | 『完訳』は「大君参院を望む理由の大半は、後宮に入らなかった玉鬘への未練」と注す。 | |
2.6.1 | 注釈173 | 【何につけてかは】 | 冷泉院の心中。 | |
2.6.1 | 注釈174 | 【この君たちぞ】 | 左中将や右中弁ら。 | |
2.6.2 | 注釈175 | 【なほ、ものの栄なき心地】 | 以下「春宮はいかが」まで、左中将らの詞。 | |
2.6.2 | 注釈176 | 【げに、いと見たてまつらまほしき御ありさまは】 | 冷泉院の美しい姿態。 | |
2.6.2 | 注釈177 | 【盛りならぬ心地】 | 退位後という感じ。 | |
2.6.2 | 注釈178 | 【花鳥の色をも音をも】 | 花鳥の色をも音をもいたづらにもの憂かる身は過ぐすのみなり(後撰集夏-二一二 藤原雅正)(text44.html 出典10から転載) | |
2.6.4 | 注釈179 | 【いさや】 | 以下「たまひてましを」 まで、玉鬘の詞。 | |
2.6.4 | 注釈180 | 【やむごとなき人の、かたはらもなきやうにてのみ】 | 夕霧の大君が入内していることをいう。 | |
2.6.4 | 注釈181 | 【おはせましかば】 | 「もてなしたまひてましを」 に係る反実仮想の構文。 | |
第七段 蔵人少将、姫君たちを垣間見る |
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2.7.2 | 注釈182 | 【三番に、数一つ勝ちたまはむ方には、なほ花を寄せてむ】 | 大島本は「かたにハ猶花を」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「方に花を」と「ハ猶」を削除する。『新大系』は底本のままとする。姫君たちの詞。 | |
2.7.3 | 注釈183 | 【暗うなれば、端近うて打ち果てたまふ】 | 「なれば」は単純な順接。「端近うて」は挿入句。 | |
2.7.3 | 注釈184 | 【うち連れて出でたまひにければ】 | 侍従が兄左中将や右中弁らと一緒に。 | |
2.7.4 | 注釈185 | 【かう、うれしき折を見つけたるは】 | 蔵人少将と語り手の地の文が一体化した叙述。 | |
2.7.4 | 注釈186 | 【はかなき心になむ】 | 語り手の蔵人少将の心情批評。『全集』は「語り手の評」と注す。 | |
2.7.4 | 注釈187 | 【桜色のあやめも】 | 大君の衣裳。 | |
2.7.4 | 注釈188 | 【げに、散りなむ後の形見にも】 | 「げに」語り手の同意納得する気持ち。『奥入』は「さくら色に衣は深く染めて着む花の散りなむ後の形見に(古今集春上、六六、紀有朋)を指摘。 | |
2.7.4 | 注釈189 | 【異ざまになりたまひなむこと】 | 大君が他人に嫁ぐこと。 | |
2.7.4 | 注釈190 | 【右勝たせたまひぬ】 | 中君が勝つ。「せたまふ」最高敬語。玉鬘邸の古女房の語りという性格上、敬語の使用基準も従来と異なる。 | |
2.7.4 | 注釈191 | 【高麗の乱声、おそしや】 | 右方の女房の詞。右方が勝ったので、「高麗楽の乱声」を催促。高麗楽は右楽、唐楽は左楽。 | |
2.7.5 | 注釈192 | 【右に心を寄せたてまつりて】 | 大島本は「心越よせ」とある。『完本』は諸本に従って「心寄せ」と「を」を削除する。『集成』『新大系』は底本のままとする。以下「ありつるぞかし」まで、右方の女房の詞。 | |
2.7.5 | 注釈193 | 【西の御前に寄りてはべる木を】 | 西の庭先すなわち右方にあった桜の木を、の意。 | |
2.7.5 | 注釈194 | 【左になして】 | 父鬚黒が大君のものだと言ったことで。 | |
2.7.6 | 注釈195 | 【をかしと聞きて】 | 主語は蔵人少将。 | |
2.7.6 | 注釈196 | 【うちとけたまへる折、心地なくやは】 | 蔵人少将の心中。 | |
2.7.6 | 注釈197 | 【また、かかる紛れもや】 | 蔵人少将の心中。下に「あらむ」などの語句が省略。 | |
第八段 姫君たち、桜花を惜しむ和歌を詠む |
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2.8.2 | 注釈198 | 【桜ゆゑ風に心の騒ぐかな--思ひぐまなき花と見る見る】 | 大君の詠歌。『全集』は「折りて見ば近まさりせよ桃の花思ひ暮らして桜惜しまじ」(紫式部集)を指摘。 | |
2.8.4 | 注釈199 | 【咲くと見てかつは散りぬる花なれば--負くるを深き恨みともせず】 | 大君方の女房宰相の君の唱和歌。 | |
2.8.6 | 注釈200 | 【風に散ることは世の常枝ながら--移ろふ花をただにしも見じ】 | 中君の詠歌。 | |
2.8.8 | 注釈201 | 【心ありて池のみぎはに落つる花--あわとなりてもわが方に寄れ】 | 中君方の女房大輔の君の唱和歌。『河海抄』は「枝よりもあだに散りにし花なれば落ちても水の泡とこそなれ」(古今集春下、八一、菅野高世)を指摘。 | |
2.8.9 | 注釈202 | 【勝ち方の童女】 | 右方の童女。 | |
2.8.10 | 注釈203 | 【大空の風に散れども桜花--おのがものとぞかきつめて見る】 | 右方の童女の詠歌。 | |
2.8.12 | 注釈204 | 【桜花匂ひあまたに散らさじと--おほふばかりの袖はありやは】 | 左方の童女なれきの反論歌。『河海抄』は「大空におほふばかりの袖もがな春咲く花を風にまかせじ」(後撰集春中、六四、読人しらず)を指摘。 | |
第三章 玉鬘の大君の物語 冷泉院に参院 |
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第一段 大君、冷泉院に参院決定 |
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3.1.1 | 注釈205 | 【院よりは、御消息日々にあり】 | 冷泉院から大君入内の要請がある。 | |
3.1.1 | 注釈206 | 【女御】 | 冷泉院の弘徽殿女御。 | |
3.1.2 | 注釈207 | 【うとうとしう】 | 以下「思し立ちね」まで、弘徽殿女御の詞。 | |
3.1.2 | 注釈208 | 【上は、ここに聞こえ疎むるなめりと】 | お上は、わたし弘徽殿女御があなた玉鬘の大君の入内を邪魔しているようだと。 | |
3.1.3 | 注釈209 | 【さるべきにこそは】 | 以下「かたじけなし」まで、玉鬘の心中。同じ妻妾の関係にある女性は嫉妬したり妨害するのだが、好意的に勧誘している。 | |
3.1.4 | 注釈210 | 【これを聞くに】 | 玉鬘の大君の冷泉院入内のこと。 | |
3.1.4 | 注釈211 | 【母北の方をせめたてまつれば】 | 雲居雁を。雲居雁は玉鬘と異母姉妹の関係。 | |
3.1.5 | 注釈212 | 【いとかたはらいたきことに】 | 以下「慰めさせたまへ」まで、雲居雁から玉鬘への文。 | |
3.1.5 | 注釈213 | 【闇の惑ひに】 | 『異本紫明抄』は「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな」(後撰集雑一、一一〇二、藤原兼輔)を指摘。 | |
3.1.6 | 注釈214 | 【苦しうもあるかな】 | 玉鬘の心中。 | |
3.1.7 | 注釈215 | 【いかなることと】 | 以下「なだらかならむ」まで、玉鬘の雲居雁への返書。 | |
3.1.7 | 注釈216 | 【まめやかなる御心ならば】 | 蔵人少将の気持ちが。 | |
3.1.7 | 注釈217 | 【このほどを思ししづめて、慰めきこえむさまをも】 | 大君の冷泉院入内の後に考えるところ、すなわち中君を許してもよい、という含み。 | |
3.1.8 | 注釈218 | 【この御参り過ぐして、中の君をと思すなるべし】 | 手紙の趣を語り手が解説してみせる。『紹巴抄』は「此注也」。『全集』は「語り手の解説」と注す。 | |
3.1.8 | 注釈219 | 【さし合はせては】 | 以下「あさへたるほどを」まで、玉鬘の心中。 | |
3.1.8 | 注釈220 | 【男は】 | 蔵人少将。 | |
3.1.8 | 注釈221 | 【思ひ移るべくもあらず】 | 大君から中君に心を移す意。 | |
3.1.8 | 注釈222 | 【いかならむ折に】 | 蔵人少将の心中。 | |
第二段 蔵人少将、藤侍従を訪問 |
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3.2.1 | 注釈223 | 【侍従の曹司】 | 玉鬘邸の藤侍従の部屋。 | |
3.2.1 | 注釈224 | 【源侍従】 | 薫。 | |
3.2.1 | 注釈225 | 【見ゐたまへりける】 | 主語は藤侍従。 | |
3.2.1 | 注釈226 | 【さなめりと見て、奪ひ取りつ】 | 主語は蔵人少将。 | |
3.2.1 | 注釈227 | 【そこはかとなく】 | 大島本は「そこはかとなくて(て$、#)」とある。すなわち、「て」をミセケチにした後、さらに抹消している。『集成』『完本』は諸本に従って「そこはかとなくて」と底本の訂正以前本文に従う。『新大系』は底本の訂正に従って「て」を削除する。 | |
3.2.1 | 注釈228 | 【世を恨めしげに】 | 「世」は男女関係。 | |
3.2.2 | 注釈229 | 【つれなくて過ぐる月日をかぞへつつ--もの恨めしき暮の春かな】 | 薫から藤侍従への贈歌。 | |
3.2.3 | 注釈230 | 【人はかうこそ】 | 以下「あなづりそめられにたる」まで、蔵人少将の心中。係助詞「こそ」は「ねたげなめれ」に係る。逆接用法。「わが」と対比。 | |
3.2.3 | 注釈231 | 【あなづりそめられにたる」など】 | 大島本は「たるなと」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「…たる」と」と「な」を削除する。『新大系』は底本のままとする。 | |
3.2.3 | 注釈232 | 【中将の御許】 | 大君付の女房。 | |
3.2.3 | 注釈233 | 【例の、かひあらじかし】 | 蔵人少将の心中。 | |
3.2.4 | 注釈234 | 【この返りことせむ】 | 薫への返事。 | |
3.2.4 | 注釈235 | 【上に参りたまふを】 | 母上玉鬘のもとへ、返事の相談に行く。 | |
3.2.5 | 注釈236 | 【前申し】 | 一語。取り次ぎ役、中将の御許のこと。 | |
3.2.5 | 注釈237 | 【いとほしと思ひて】 | 主語は中将の御許。 | |
3.2.6 | 注釈238 | 【さばかりの夢をだに】 | 以下「まことなりけれ」まで、蔵人少将の詞。 | |
3.2.6 | 注釈239 | 【つらきもあはれ、といふことこそ、まことなりけれ】 | 『花鳥余情』は「立ち返りあはれとぞ思ふよそにても人に心をおきつ白波」(古今集恋一、四七四、在原元方)。『弄花抄』は「うれしくは忘るる事もありなましつらきぞ長き形見なりける」(新古今集恋五、一四〇三、清原深養父)を指摘。【あはれと】-大島本は「あハれと」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「あはれとて」と「て」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。以下「添ひたるならむ」まで、中将の御許の心中。 | |
3.2.7 | 注釈240 | 【慰めたまふらむ御さま】 | 大島本は「なくさめ給らん」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「慰めたまはむ」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。玉鬘からの返事に、中君を結婚相手にとあったことをさす。 | |
3.2.8 | 注釈241 | 【聞こしめさせたらば】 | 以下「御心なりけり」まで、中将のおもとの詞。蔵人少将が垣間見たということを姫君がお知りになったら、の意。 | |
3.2.8 | 注釈242 | 【心苦しと思ひきこえつる心】 | 中将の御許が蔵人少将を気の毒だと思う気持ち。 | |
3.2.10 | 注釈243 | 【いでや】 | 以下「こよなからましものを」まで、蔵人少将の詞。 | |
3.2.10 | 注釈244 | 【目くはせたてまつらましかば】 | 碁にこっそり助言してやれたものを、の意。 | |
3.2.11 | 注釈245 | 【いでやなぞ数ならぬ身にかなはぬは--人に負けじの心なりけり】 | 蔵人少将の詠歌。『集成』は「「数」「負く」は、会話から続いて、碁の縁語」と注す。 | |
3.2.13 | 注釈246 | 【わりなしや強きによらむ勝ち負けを--心一つにいかがまかする】 | 中将の御許の返歌。「強き」「勝ち負け」は碁の縁語。「強き」は冷泉院を暗示。 | |
3.2.15 | 注釈247 | 【あはれとて手を許せかし生き死にを--君にまかするわが身とならば】 | 蔵人少将の詠歌。『集成』は「「手をゆるす」は、碁で相手に何目か置き意志を許すこと。「生き死に」は碁の縁語」と注す。 | |
第三段 四月一日、蔵人少将、玉鬘へ和歌を贈る |
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3.3.1 | 注釈248 | 【兄弟の君たち】 | 蔵人少将の兄弟たち。夕霧右大臣の子息。 | |
3.3.2 | 注釈249 | 【院の聞こしめすところもあるべし】 | 以下「え違へたまはざらまし」まで、夕霧の詞。冷泉院が蔵人少将の執心ぶりを聞いたら不快に思うだろう、の意。 | |
3.3.2 | 注釈250 | 【何にかは】 | 「聞き入れむ」に係る。反語表現。 | |
3.3.2 | 注釈251 | 【対面のついでにも】 | 玉鬘との面会の折。 | |
3.3.2 | 注釈252 | 【申さましかば】 | 「え違へたまはざらまし」に係る、反実仮想の構文。 | |
3.3.4 | 注釈253 | 【花を見て春は暮らしつ今日よりや--しげき嘆きの下に惑はむ】 | 蔵人少将の独詠歌。「嘆き」に「木」を響かせ、「繁き」と縁語。 | |
3.3.6 | 注釈254 | 【御前にて】 | 大君の御前。 | |
3.3.6 | 注釈255 | 【この御懸想人の】 | 蔵人少将ら求婚者をいう。 | |
3.3.7 | 注釈256 | 【生き死にをと】 | 以下「心苦しげなりし」まで、中将の御許の詞。 | |
3.3.8 | 注釈257 | 【大臣、北の方】 | 以下「はえばえしからぬを」まで、玉鬘の心中。末尾は地の文に流れる。 | |
3.3.8 | 注釈258 | 【取り替へありて思すこの御参りを】 | 大君に代えて中君を蔵人少将にと考えている、この大君の冷泉院入内を、の意。「思す」という敬語の前後は地の文。 | |
3.3.8 | 注釈259 | 【さまたげやうに思ふらむ】 | 主語は夕霧や雲居雁。敬語抜きの表現。推量助動詞「らむ」視界外推量、はるかに想像しているニュアンス。 | |
3.3.8 | 注釈260 | 【故殿の思しおきてたりしものを】 | 故鬚黒の遺言。 | |
3.3.8 | 注釈261 | 【御文取り入れてあはれがる】 | 主語は女房たち。 | |
3.3.8 | 注釈262 | 【御返事】 | 大島本は「御返事」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「御返し」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
3.3.9 | 注釈263 | 【今日ぞ知る空を眺むるけしきにて--花に心を移しけりとも】 | 『集成』は「中将のおもとがしたのだろう」。『完訳』は「女房の代作である」と注す。 | |
3.3.10 | 注釈264 | 【あな、いとほし】 | 以下「取りなすかな」まで、女房の詞。 | |
第四段 四月九日、大君、冷泉院に参院 |
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3.4.1 | 注釈265 | 【九日にぞ、参りたまふ】 | 『河海抄』は、藤原時平の娘が宇多上皇に四月九日に入内した例を引く。 | |
3.4.1 | 注釈266 | 【年ごろさもあらざりしに、この御ことゆゑ、しげう聞こえ通ひたまへるを】 | 雲居雁と玉鬘は姉妹でありながら、長年親しく文通してこなかったが、蔵人少将の大君への求婚の件で頻繁に文を交わすようになったのだが、の意。 | |
3.4.2 | 注釈267 | 【あやしう、うつし心もなきやうなる人の】 | 以下「うとうとしくなむ」まで、雲居雁から玉鬘への文。子息蔵人少将の落胆ぶりを訴える。 | |
3.4.2 | 注釈268 | 【承りとどむることもなかりけるを】 | 大君の冷泉院入内の件。 | |
3.4.2 | 注釈269 | 【おどろかさせたまはぬ】 | 主語はあなた玉鬘。「驚かす」は、知らせる意。「せたまふ」二重敬語表現。 | |
3.4.3 | 注釈270 | 【ほのめかしたまへるを】 | 『集成』は「それとなく恨み言をおっしゃっているのを」と訳す。 | |
3.4.4 | 注釈271 | 【みづからも参るべきに】 | 以下「召し使はせたまへ」まで、夕霧から玉鬘への文。 | |
3.4.5 | 注釈272 | 【源少将、兵衛佐など】 | 夕霧の子息、蔵人少将の兄弟たち。源少将は四男(藤典侍腹)、兵衛佐は六男。蔵人少将は五男。 | |
3.4.5 | 注釈273 | 【情けはおはすかし】 | 玉鬘のお礼の詞。 | |
3.4.5 | 注釈274 | 【大納言殿よりも】 | 紅梅大納言。玉鬘の実家の主人、姉弟でもある。 | |
3.4.5 | 注釈275 | 【真木柱の姫君なれば】 | 真木柱は故鬚黒と北の方の娘、蛍兵部卿宮に嫁して死別後、紅梅大納言の後の北の方となる。玉鬘の継子でもある。 | |
3.4.6 | 注釈276 | 【藤中納言は】 | 鬚黒の長男。真木柱の兄。大君とは異母兄妹。 | |
3.4.6 | 注釈277 | 【中将、弁の君たち、もろともに】 | 玉鬘腹の子息の左中将と右中弁。 | |
第五段 蔵人少将、大君と和歌を贈答 |
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3.5.1 | 注釈278 | 【蔵人の君】 | 夕霧の子息、蔵人少将。 | |
3.5.1 | 注釈279 | 【例の人に】 | 中将の御許に。 | |
3.5.2 | 注釈280 | 【今は限りと思ひはべる命の】 | 大島本は「思はへる」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「思ひ果つる」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。以下「ながらへやせむ」まで、蔵人少将の手紙。 | |
3.5.3 | 注釈281 | 【持て参りて見れば】 | 中将の御許が大君のもとに持参して様子を見ると、の意。 | |
3.5.3 | 注釈282 | 【中の戸ばかり隔てたる西東】 | 『集成』は「「中の戸」は、中仕切りの戸。障子(襖)であろう」と注す。 | |
3.5.3 | 注釈283 | 【よそよそにならむことを思すなりけり】 | 前の「いといたう屈じたまへり」の理由説明の叙述。『完訳』「別れの悲しみに、あらためて気づく気持」と注す。 | |
3.5.4 | 注釈284 | 【取りて見たまふ】 | 大君が蔵人少将からの手紙を。 | |
3.5.4 | 注釈285 | 【大臣、北の方の、さばかり立ち並びて】 | 以下「思ひ言ふらむ」まで、大君の心中。蔵人少将の両親揃っていることを思い比べる。 | |
3.5.4 | 注釈286 | 【限り」とあるを】 | 蔵人少将の手紙に「今は限りと思ひはべる命」とあったことをさす。 | |
3.5.4 | 注釈287 | 【まことや」と思して】 | 大島本は「まことや」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「まことにや」と「に」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
3.5.5 | 注釈288 | 【あはれてふ常ならぬ世の一言も--いかなる人にかくるものぞは】 | 大君の返歌。「あはれと思ふとばかりだに一言のたまはせば」とあったことを受けて返す。 | |
3.5.6 | 注釈289 | 【ゆゆしき方にてなむ、ほのかに思ひ知りたる】 | 歌に添えた文言。「あはれ」を愛情としてでなく無常一般のこととした。 | |
3.5.7 | 注釈290 | 【かう言ひやれかし】 | 『集成』は「こう言っておやり。書き換えて返事せよ、の意」。『完訳』は「清書して伝えよ、の気持か」と注す。 | |
3.5.7 | 注釈291 | 【とのたまふを、やがてたてまつれたる】 | 接続助詞「を」逆接の意。大君の言葉に反して、中将の御許は書き変えずそのまま蔵人少将に与えた。 | |
3.5.7 | 注釈292 | 【折思しとむる】 | 大島本は「おり」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「をりを」と「を」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。『集成』は「院に御参りの当日、最後の折であることをお心に止めて返事を下さったのも(胸に迫って)」。『完訳』は「参院の当日、最後の機会と思って返事をくれたのも」と注す。 | |
3.5.8 | 注釈293 | 【誰が名は立たじ】 | 『源氏釈』は「恋ひ死なば誰が名は立たじ世の中の常なきものと言ひはなすとも」(古今集恋二、六〇三、清原深養父)を踏まえたものであることを指摘。 | |
3.5.8 | 注釈294 | 【かことがましくて】 | 『集成』は「恨みがましく書いて」と訳す。 | |
3.5.9 | 注釈295 | 【生ける世の死には心にまかせねば--聞かでややまむ君が一言】 | 蔵人少将の返歌。『完訳』は「死ねば「あはれ」と思ってくれるとのこと、生きている限りは「あはれ」と言ってくれぬのか」と訳す。 | |
3.5.10 | 注釈296 | 【塚の上にも掛けたまふべき御心のほど】 | 大島本は「ほと」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「ほどと」と「と」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。以下「急がれはべらましを」まで、歌に添えた文言。『源氏釈』は、季札の剣の故事(史記、呉世家・和漢朗詠集下、風)を踏まえることを指摘。 | |
3.5.10 | 注釈297 | 【思ひたまへましかば】 | 「たまへ」下二段活用、謙譲の補助動詞。主語は蔵人少将。「ましかば」--「まし」反実仮想の構文。死に急ぐ気になれない、生きて「あはれ」と言ってもらいたい、の意。 | |
3.5.11 | 注釈298 | 【うたてもいらへをしてけるかな。書き変へでやりつらむよ】 | 大君の心中。 | |
第六段 冷泉院における大君と薫君 |
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3.6.1 | 注釈299 | 【ととのへられたり】 | 「られ」尊敬の助動詞。「たまふ」より敬意が軽い。 | |
3.6.1 | 注釈300 | 【まづ、女御の御方に渡りたまひて、尚侍の君は、御物語など聞こえたまふ】 | 冷泉院の弘徽殿の女御に玉鬘は挨拶する。弘徽殿の女御は玉鬘の異母姉、女一の宮の母女御として最も気をつかうところ。 | |
3.6.2 | 注釈301 | 【后、女御など、みな年ごろ経て】 | 秋好中宮は五十三歳、弘徽殿女御は四十五歳など。 | |
3.6.2 | 注釈302 | 【などてかはおろかならむ】 | 語り手の感情移入の句。 | |
3.6.2 | 注釈303 | 【ただ人だちて、心やすく】 | 冷泉院が。譲位後の堅苦しくない生活の様子。 | |
3.6.3 | 注釈304 | 【口惜しう心憂しと思したり】 | 主語は冷泉院。 | |
3.6.4 | 注釈305 | 【げに、ただ昔の光る源氏の】 | 語り手の感想を交えた表現。 | |
3.6.4 | 注釈306 | 【生ひ出でたまひしに劣らぬ人の御おぼえなり】 | 『集成』は「ご成人なさった時に劣らぬご寵愛ぶりである」と訳す。 | |
3.6.4 | 注釈307 | 【この御方にも】 | 大君。 | |
3.6.4 | 注釈308 | 【心寄せあり顔にもてなして】 | 主語は薫。 | |
3.6.5 | 注釈309 | 【世の中恨めしげにかすめつつ語らふ】 | 『集成』は「敬語がないのは、薫に密着した書き方」と注す。 | |
3.6.6 | 注釈310 | 【手にかくるものにしあらば藤の花--松よりまさる色を見ましや】 | 薫の詠歌。『集成』は「私の力の及ぶものなら、姫君を人のものにはしなかったのに、の含意」と注す。大君を藤の花に喩える。 | |
3.6.7 | 注釈311 | 【わが心にあらぬ世のありさまにほのめかす】 | 冷泉院への憚りから。 | |
3.6.8 | 注釈312 | 【紫の色はかよへど藤の花--心にえこそかからざりけれ】 | 藤侍従の返歌。「色は通へど」は大君と姉弟であることをいう。「藤に花」「かかる」は縁語。 | |
第七段 失意の蔵人少将と大君のその後 |
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3.7.1 | 注釈313 | 【母北の方の御恨みにより】 | 蔵人少将の母北の方、雲居雁。 | |
3.7.2 | 注釈314 | 【殿上の方にさしのぞきても】 | 冷泉院の御所の殿上間。 | |
3.7.3 | 注釈315 | 【内裏には、故大臣の心ざしおきたまへるさまことなりしを、かく引き違へたる御宮仕へを】 | 今上帝は故鬚黒大臣が大君を入内させたい旨奏上していたが、冷泉院に参院してしまったことをいぶかしく思う。 | |
3.7.3 | 注釈316 | 【中将を召して】 | 故鬚黒と玉鬘の長男。左近中将。 | |
3.7.4 | 注釈317 | 【御けしきよろしからず】 | 以下「あぢきなくなむはべる」まで、左中将の詞。 | |
3.7.4 | 注釈318 | 【かかる仰せ言のはべれば】 | 帝の御不快の言葉。 | |
3.7.6 | 注釈319 | 【いさや。ただ今】 | 以下「これもさるべきにこそは」まで玉鬘の詞。 | |
3.7.6 | 注釈320 | 【あながちに、いとほしうのたまはせしかば】 | 主語は冷泉院。 | |
3.7.6 | 注釈321 | 【後見なき交じらひの内裏わたりは】 | 今上帝の後宮生活をいう。 | |
3.7.6 | 注釈322 | 【今は心やすき御ありさまなめるに】 | 冷泉院の後宮生活をいう。 | |
3.7.6 | 注釈323 | 【誰れも誰れも、便なからむ事は、ありのままにも諌めたまはで】 | 『完訳』は「実際には中将たちが参院に反対した。これは当座の言いのがれ」と注す。 | |
3.7.8 | 注釈324 | 【その昔の】 | 以下「聞き耳もはべらむ」まで、左中将の詞。 | |
3.7.8 | 注釈325 | 【思しのたまはするを】 | 主語は帝。 | |
3.7.8 | 注釈326 | 【中宮を憚りきこえたまふとて】 | 明石中宮。源氏の娘。玉鬘の娘大君とは叔母姪の関係妹。 | |
3.7.8 | 注釈327 | 【院の女御をば、いかがしたてまつりたまはむとする】 | 冷泉院の弘徽殿の女御。故致仕大臣の娘。玉鬘の娘大君とは伯母姪の関係。『完訳』は「入内の場合、明石の中宮に遠慮すべきとはいえ、参院の場合、弘徽殿女御には遠慮がいらぬのか」と注す。 | |
3.7.9 | 注釈328 | 【異人は交じらひたまはずや】 | 係助詞「や」反語表現。後宮には大勢の妃がいるものだ、という趣旨。 | |
3.7.9 | 注釈329 | 【君に仕うまつることは】 | 帝に入内することをいう。 | |
3.7.9 | 注釈330 | 【女御は】 | 弘徽殿女御。 | |
3.7.9 | 注釈331 | 【よろしからず思ひきこえたまはむに】 | 主語は弘徽殿女御。推量助動詞「む」仮定の意。 | |
3.7.9 | 注釈332 | 【ひがみたるやうに】 | 伯母姪の関係でうまくいっていない。 | |
3.7.10 | 注釈333 | 【二所して】 | 左中将と右中弁の兄弟して。 | |
3.7.10 | 注釈334 | 【さるは、限りなき御思ひのみ、月日に添へて】 | 『集成』は「とはいえ、(大君に対しては)院のこの上なもないご寵愛が、ただもう月日のたつにつれてまさる」と訳す。 | |
3.7.11 | 注釈335 | 【七月よりはらみたまひにけり】 | 四月九日に冷泉院に参院した。大君の懐妊。 | |
3.7.11 | 注釈336 | 【うち悩みたまへるさま】 | 悪阻のさま。 | |
3.7.11 | 注釈337 | 【げに、人のさまざまに聞こえわづらはすも、ことわりぞかし】 | 語り手の批評。『紹巴抄』は「双地」と指摘。 | |
3.7.11 | 注釈338 | 【いかでかはかからむ人を、なのめに見聞き過ぐしてはやまむ」とぞおぼゆる】 | 語り手の感想。『細流抄』は「草子地也」と指摘。 | |
3.7.11 | 注釈339 | 【侍従も気近う召し入るれば】 | 冷泉院が薫を側近くに招き入れる。 | |
3.7.11 | 注釈340 | 【御琴の音などは】 | 大君が弾く琴の音。 | |
3.7.11 | 注釈341 | 【中将の御許】 | 大君の女房として一緒に冷泉院に入っている。 | |
第四章 玉鬘の物語 玉鬘の姫君たちの物語 |
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第一段 正月、男踏歌、冷泉院に回る |
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4.1.1 | 注釈342 | 【男踏歌せられけり】 | 正月十四日、宮中で行われる。女踏歌は毎年行われたが、男踏歌は隔年または数年間を置いて行われた。 | |
4.1.1 | 注釈343 | 【四位の侍従】 | 薫。 | |
4.1.1 | 注釈344 | 【楽人の数のうちにありけり】 | 『完訳』は「音楽を奏する役、九人」と注す。 | |
4.1.2 | 注釈345 | 【御前より出でて、冷泉院に参る】 | 踏歌のコースは宮中の清涼殿東庭から、院、中宮、春宮の順に回り、暁に宮中に帰って来る。 | |
4.1.2 | 注釈346 | 【この御息所も】 | 大君をいう。御子出産の妃をいう呼称。まだ御子は誕生していない。四月に女宮が生まれる。 | |
4.1.2 | 注釈347 | 【上に御局して見たまふ】 | 冷泉院御所の寝殿の一角に部屋を設けての意。 | |
4.1.3 | 注釈348 | 【右の大殿、致仕の大殿の族を離れて】 | 夕霧と致仕大臣の一族(紅梅大納言他)以外は、の意。 | |
4.1.3 | 注釈349 | 【見たまふらむかし】 | 主語は大君。 | |
4.1.4 | 注釈350 | 【過ぎにし夜のはかなかりし遊びも】 | 昨年正月二十日過ぎの玉鬘邸の夜のこと。 | |
4.1.4 | 注釈351 | 【思ひ出でられければ】 | 主語は蔵人少将。 | |
4.1.5 | 注釈352 | 【后の宮の御方に参れば】 | 秋好中宮の御殿。冷泉院の中の御殿。 | |
4.1.5 | 注釈353 | 【上もそなたに渡らせたまひて御覧ず】 | 冷泉院も秋好中宮の御殿に移って一緒に御覧になる。 | |
4.1.5 | 注釈354 | 【夜深くなるままに】 | 大島本は「夜ふかく」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「夜累ふかう」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
4.1.5 | 注釈355 | 【いかに見たまふらむとのみ】 | 蔵人少将は大君(御息所)がどのように見ているかと。 | |
4.1.5 | 注釈356 | 【さして一人をのみとがめらるるは】 | 名指しで一人だけ飲みぶりが悪いと責められる意。 | |
第二段 翌日、冷泉院、薫を召す |
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4.2.1 | 注釈357 | 【あな、苦し。しばし休むべきに】 | 薫の詞。 | |
4.2.1 | 注釈358 | 【御前のことどもなど問はせたまふ】 | 主語は冷泉院。冷泉院が薫に。 | |
4.2.2 | 注釈359 | 【歌頭は】 | 以下「心にくかりけり」まで、冷泉院の詞。 | |
4.2.3 | 注釈360 | 【うつくしと思しためり】 | 推量の助動詞「めり」主観的推量のニュアンスは語り手の推測。 | |
4.2.3 | 注釈361 | 【万春楽」を御口ずさみにしたまひつつ】 | 主語は冷泉院。 | |
4.2.3 | 注釈362 | 【御供に参りたまふ】 | 主語は薫。 | |
4.2.3 | 注釈363 | 【物見に参りたる里人多くて】 | 男踏歌見物に来た冷泉院の後宮の実家の人々。 | |
4.2.5 | 注釈364 | 【一夜の月影は】 | 以下「さしも見えざりき」まで、薫の詞。 | |
4.2.5 | 注釈365 | 【雲の上近くては】 | 宮中をさす。 | |
4.2.7 | 注釈366 | 【闇はあやなきを】 | 以下「定めきこえし」まで、女房の詞。『源氏釈』は「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる」(古今集春上、四一、凡河内躬恒)を指摘。 | |
4.2.7 | 注釈367 | 【今すこし】 | 蔵人少将に比較してあなた薫は、の意。 | |
4.2.8 | 注釈368 | 【竹河のその夜のことは思ひ出づや--しのぶばかりの節はなけれど】 | 女房から薫への贈歌。「夜」と「世」の掛詞。「竹」と「よ(節と節の間)」と「節」は縁語。 | |
4.2.9 | 注釈369 | 【みづから思ひ知らる】 | 主語は薫。 | |
4.2.10 | 注釈370 | 【流れての頼めむなしき竹河に--世は憂きものと思ひ知りにき】 | 薫の返歌。「竹河」の語句を用いて返す。「竹」と「よ(節と節の間)」と「節」は縁語。 | |
4.2.11 | 注釈371 | 【さるは、おり立ちて】 | 『紹巴抄』は「双地」と指摘。『全集』は「語り手の薫評」と注す。 | |
4.2.11 | 注釈372 | 【人のやうにも】 | 蔵人少将のようには、の意。 | |
4.2.12 | 注釈373 | 【うち出で過ぐすことも】 | 以下「あなかしこ」まで、薫の詞。 | |
4.2.13 | 注釈374 | 【こなたに】 | 冷泉院の詞。使者が伝えたもの。 | |
4.2.14 | 注釈375 | 【故六条院の】 | 以下「をかしかりけむ」まで、冷泉院の詞。「初音」巻に見える男踏歌の後の管弦の遊びをいう。 | |
4.2.14 | 注釈376 | 【女楽にて】 | 大島本は「女かく」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「女方にて」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
4.2.14 | 注釈377 | 【いと物の上手なる女さへ多く集まりて】 | 六条院の女性をいう。 | |
4.2.15 | 注釈378 | 【御琴ども調べさせたまひて】 | 主語は冷泉院。「せたまふ」は最高敬語。 | |
4.2.15 | 注釈379 | 【いとよう教へないたてまつりたまひてけり】 | 主語は冷泉院。語り手の立ち入った批評的叙述ともまた薫の感想とも読める叙述。 | |
4.2.15 | 注釈380 | 【何ごとも、心もとなく、後れたることはものしたまはぬ人なめり】 | 語り手の批評。 | |
4.2.16 | 注釈381 | 【をかしかべしと、なほ心とまる】 | 主語は薫。 | |
4.2.16 | 注釈382 | 【いかが思しけむ、知らずかし】 | 『一葉抄』は「双紙詞也」と指摘。『集成』は「語り手の言葉をそのまま記す体」。『完訳』は「語り手の、薫の独自な内心に注目させる言辞」と注す。 | |
第三段 四月、大君に女宮誕生 |
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4.3.1 | 注釈383 | 【卯月に、女宮生まれたまひぬ】 | 御息所、女宮を出産。冷泉院の御子は弘徽殿女御の生んだ女一の宮がいるのみ。したがって、女二の宮の誕生となる。 | |
4.3.1 | 注釈384 | 【院の御けしきに従ひて】 | 院が喜ぶ気持ちによって、それを無視できない。 | |
4.3.1 | 注釈385 | 【疾う参りたまふべきよしのみあれば】 | 出産は里に下がって行われる。 | |
4.3.1 | 注釈386 | 【五十日のほどに参りたまひぬ】 | 生後五十日のお食初めの祝いがある。 | |
4.3.2 | 注釈387 | 【いといみじう思したり】 | はなはだ嬉しい気持ち。 | |
4.3.2 | 注釈388 | 【いとかからでありぬべき世かな】 | 弘徽殿女御方の女房の詞。 | |
4.3.3 | 注釈389 | 【かの中将の君の】 | 左中将、御息所の兄。 | |
4.3.3 | 注釈390 | 【のたまひしことかなひて】 | 主語は左中将。弘徽殿方からよくない事が起こるだろうという予言。 | |
4.3.3 | 注釈391 | 【むげにかく言ひ言ひの果て】 | 以下「苦しくもあるべきかな」まで、玉鬘の心中。『異本紫明抄』は「世の中をかくいひいひのはてはいかにやいかにやならむとすらむ」(拾遺集雑上、五〇七、読人しらず)を指摘。 | |
4.3.3 | 注釈392 | 【年経てさぶらひたまふ御方々】 | 秋好中宮や弘徽殿女御ら。 | |
4.3.3 | 注釈393 | 【内裏には、まことにものしと】 | 帝。大君の参院を不快に思っていた。 | |
4.3.3 | 注釈394 | 【公ざまにて交じらはせたてまつらむことを思して、尚侍を譲りたまふ】 | 玉鬘は中君を一般の女官として帝に出仕させるべく、自らの尚侍の官職を譲ることを申し出る。 | |
4.3.4 | 注釈395 | 【朝廷、いと難うしたまふことなりければ】 | 朝廷は尚侍辞任をそう簡単に許可しないのが普通なので、の意。 | |
4.3.4 | 注釈396 | 【故大臣の御心を思して】 | 主語は帝。鬚黒が娘を入内させたいと奏上していたこと。 | |
4.3.4 | 注釈397 | 【昔の例など引き出でて】 | 『集成』は「尚侍を母娘譲任の史上の例は現存文献の上に見出せない」と注す。 | |
4.3.4 | 注釈398 | 【この君の御宿世にて、年ごろ申したまひしは難きなりけり、と見えたり】 | 長年尚侍辞任を申し出ていたが、娘の中君が尚侍を譲り受けるべき宿縁にあって、それまで願いが叶わなかったように思えたという意。語り手の推測判断。 | |
第四段 玉鬘、夕霧へ手紙を贈る |
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4.4.1 | 注釈399 | 【かくて、心やすくて】 | 「かくて」以下「したまへかし」まで、玉鬘の思い。「かくて」は地の文とも心中文とも読める。 | |
4.4.1 | 注釈400 | 【いとほしう、少将のことを】 | 以下「いかに思ひたまふらむ」まで、玉鬘の心中。蔵人少将とその母雲居雁のことが気になる。 | |
4.4.2 | 注釈401 | 【弁の君して、心うつくしきやうに、大臣に聞こえたまふ】 | 玉鬘の二郎、右中弁を使いとして夕霧に他意ないことを申し上げる。 | |
4.4.3 | 注釈402 | 【内裏より、かかる仰せ言のあれば】 | 以下「わづらひぬる」まで、玉鬘から夕霧への文。 | |
4.4.3 | 注釈403 | 【あながちなる交じらひの好みと、世の聞き耳も】 | 『完訳』は「高望みして宮仕えをしたがると。予想される世間の悪評に先手を打つ形で、縁談を断ったと弁解」と注す。 | |
4.4.5 | 注釈404 | 【内裏の御けしきは】 | 以下「思し立つべきになむ」まで、夕霧の返書。 | |
4.4.7 | 注釈405 | 【中宮の御けしき取りてぞ参りたまふ】 | 明石中宮に御機嫌伺いの後に、中君参内。 | |
4.4.7 | 注釈406 | 【大臣おはせましかば、おし消ちたまはざらまし】 | 玉鬘の心中。 | |
4.4.7 | 注釈407 | 【あはれなることどもをなむ】 | 下に「思しける」「思しのたまひける」などの語句が省略。 | |
4.4.7 | 注釈408 | 【姉君は、容貌など名高う、をかしげなりと、聞こしめしおきたりけるを】 | 主語は帝。大君は美貌であるという評判を聞いていた。 | |
4.4.7 | 注釈409 | 【これもいとらうらうじく、心にくくもてなしてさぶらひたまふ】 | 中君をいう。才気あり奥ゆかしく振る舞う。 | |
第五段 玉鬘、出家を断念 |
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4.5.1 | 注釈410 | 【前の尚侍の君、容貌を変へてむと思し立つを】 | 玉鬘出家を決意。尚侍の職を中君に譲ったので、「前の尚侍の君」と呼称される。 | |
4.5.2 | 注釈411 | 【かたがたに扱ひきこえたまふほどに】 | 以下「勤めたまへ」まで、「君たち」左中将・右中弁らの詞。「方々に」は大君・中君をさす。 | |
4.5.3 | 注釈412 | 【内裏には、時々】 | 「院には」云々と並列構文。 | |
4.5.3 | 注釈413 | 【院には、わづらはしき御心ばへのなほ絶えねば】 | 冷泉院の玉鬘への執心が未だに絶えない。 | |
4.5.3 | 注釈414 | 【いにしへを思ひ出でしが】 | 以下、玉鬘と御息所の心中に密着した長い叙述になる。 | |
4.5.3 | 注釈415 | 【かたじけなうおぼえしかしこまりに】 | 在位中の冷泉院の意向に反して鬚黒の北の方となったこと。 | |
4.5.3 | 注釈416 | 【人の皆許さぬことに思へりしを】 | 左中将や右中弁らが大君の冷泉院への参院に対して反対していた。 | |
4.5.3 | 注釈417 | 【参らせたてまつりて】 | 大君を冷泉院へ参院させた。 | |
4.5.3 | 注釈418 | 【さる罪によりと】 | 大島本は「つ(つ&つ、つ=いイ)ミにより」とある。すなわち「「つ」の上に重ねて「つ」と書き、異本には「い」とあることを記す。『集成』『完本』は諸本と底本の異本に従って「忌(いみ)」と校訂する。『新大系』は底本の本行本文のままとする。 | |
4.5.3 | 注釈419 | 【われを、昔より】 | 以下、御息所の心中に即した叙述となる。 | |
4.5.3 | 注釈420 | 【故大臣は取り分きて思しかしづき】 | 「尚侍の君は」云々の並列構文。父鬚黒は私大君をかわいがってくれた。 | |
4.5.3 | 注釈421 | 【尚侍の君は、若君を】 | 母玉鬘は妹の中君を大事にした。 | |
4.5.4 | 注釈422 | 【古めかしき】 | 以下「ことわりなり」まで、冷泉院の御息所への詞。『集成』は「はなやかな宮中には時々参内して、と裏に皮肉をこめる」と注す。 | |
4.5.5 | 注釈423 | 【あはれにのみ思しまさる】 | 『完訳』は「大君がひがんでいるのを」と注す。 | |
第六段 大君、男御子を出産 |
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4.6.1 | 注釈424 | 【年ごろありて】 | 『完訳』は「年立では五年経過」と注す。 | |
4.6.1 | 注釈425 | 【おろかならざりける御宿世】 | 大君の宿縁。『集成』は「子供が生れるのは、前世からの深い宿縁によると考えられていた」と注す。 | |
4.6.1 | 注釈426 | 【帝は、まして限りなくめづらしと】 | 冷泉院。院の帝、の意。今上帝は内裏(うち)と呼称している。 | |
4.6.1 | 注釈427 | 【おりゐたまはぬ世ならましかば】 | 以下「いと口惜し」まで、冷泉院の心中。 | |
4.6.2 | 注釈428 | 【あまりかうてはものしからむ】 | 弘徽殿女御の気持ち。 | |
4.6.3 | 注釈429 | 【隔たるべかめり】 | 語り手の推測。 | |
4.6.3 | 注釈430 | 【世のこととして】 | 『林逸抄』は「双紙也」と指摘。 | |
4.6.3 | 注釈431 | 【もとよりことわりえたる方にこそ】 | 『集成』は「もとからの妻だという言い分のある者の方に」。『完訳』は「本妻の地位にあたる人」と注す。 | |
4.6.3 | 注釈432 | 【いとやむごとなくて、久しくなりたまへる御方に】 | 女一の宮の母弘徽殿女御。 | |
4.6.3 | 注釈433 | 【この方ざまを】 | 大島本は「この方さま」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「御方」と「御」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。大君をさす。 | |
4.6.4 | 注釈434 | 【さればよ。悪しうやは聞こえおきける】 | 大君の兄弟、左中将や右中弁らの玉鬘への詞。連語「やは」反語表現。 | |
4.6.5 | 注釈435 | 【心やすからず、聞き苦しきままに】 | 主語は玉鬘。 | |
4.6.6 | 注釈436 | 【かからで、のどやかに】 | 以下「思ひ寄るまじきわざなりけり」まで玉鬘の心中。 | |
4.6.6 | 注釈437 | 【限りなき幸ひなくて】 | 『集成』は「この上もなく幸運に恵まれた人でなくては」。『完訳』は「中宮・国母として最高の地位につくのでないと苦労するばかり」と訳す。 | |
4.6.7 | 注釈438 | 【大上は嘆きたまふ】 | 玉鬘。大君に男御子が誕生したことにより呼称が「大上」となる。 | |
第七段 求婚者たちのその後 |
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4.7.1 | 注釈439 | 【聞こえし人びとの、めやすくなり上りつつ】 | 薫や蔵人少将ら、かつての求婚者。 | |
4.7.1 | 注釈440 | 【さてもおはせましに】 | 『集成』は「婿君になっていらしたとしても」。「まし」反実仮想の助動詞。 | |
4.7.1 | 注釈441 | 【あまたあるや】 | 間投助詞「や」詠嘆。語り手の口吻。 | |
4.7.1 | 注釈442 | 【匂ふや、薫るや」と】 | 「匂兵部卿、薫中将」と「匂宮」巻にあった。 | |
4.7.1 | 注釈443 | 【げに、いと人柄】 | 「げに」は語り手の納得した気持ちの現れ。 | |
4.7.1 | 注釈444 | 【そのかみは】 | 以下「ねびまさりぬべかめり」まで、玉鬘の詞。 | |
4.7.3 | 注釈445 | 【容貌さへ、あらまほしかりきや】 | 女房の詞。 | |
4.7.5 | 注釈446 | 【うるさげなる御ありさまよりは】 | 女房の詞。冷泉院より三位中将のほうがよかったという意。 | |
4.7.6 | 注釈447 | 【いとほしうぞ見えし】 | 玉鬘の様子。『首書或抄』は「草子地也」と指摘。 | |
4.7.7 | 注釈448 | 【この中将は、なほ思ひそめし心絶えず】 | 三位中将。大君を思う気持ちが今だに絶えない。 | |
4.7.7 | 注釈449 | 【左大臣の御女を得たれど】 | この左大臣は系図不詳。竹河左大臣。夕霧右大臣の上位者。 | |
4.7.7 | 注釈450 | 【道の果てなる常陸帯の】 | 三位中将の詞。『源氏釈』は「東路の道の果てなる常陸帯のかごとばかりもあひ見てしがな」(古今六帖五、帯)を指摘。 | |
4.7.7 | 注釈451 | 【いかに思ふやうのあるにかありけむ】 | 『一葉抄』は「双紙詞也」と指摘。『完訳』は「語り手の評」と注す。 | |
4.7.8 | 注釈452 | 【尚侍の君、思ひしやうにはあらぬ御ありさまを、口惜しと思す】 | 玉鬘。『集成』は「「尚侍の君」と呼ぶのは、次に、現在の尚侍である中の君を「内裏の君」と呼ぶからであろう」と注す。 | |
4.7.8 | 注釈453 | 【内裏の君は、なかなか今めかしう】 | 中君。尚侍。姉の御息所に比較して「なかなか」とある。 | |
第五章 薫君の物語 人びとの昇進後の物語 |
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第一段 薫、玉鬘邸に昇進の挨拶に参上 |
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5.1.1 | 注釈454 | 【右は左に】 | 夕霧は右大臣から左大臣に。『集成』は「ただし、後の宇治十帖を通じて、夕霧は右大臣のままである」と注す。 | |
5.1.1 | 注釈455 | 【藤大納言、左大将かけたまへる右大臣になりたまふ】 | 紅梅大納言は左大将兼右大臣に。『集成』は「ただしこの人、後の宿木、東屋の巻には、按察使の大納言のままである」。『完訳』は「右の昇進人事のうち、夕霧左大臣と紅梅の右大臣は宇治十帖での官と符合しない」と注す。 | |
5.1.1 | 注釈456 | 【この薫中将は、中納言に】 | 宰相中将の薫は中納言に。『集成』は「紅梅に「源中納言」とあり、椎本に中納言昇進のことが見える」と注す。 | |
5.1.1 | 注釈457 | 【三位の君は、宰相になりて】 | 三位中将、もと蔵人少将であった人。薫の後任宰相中将となる。 | |
5.1.3 | 注釈458 | 【かく、いと草深くなりゆく】 | 以下「思ひ出でられてなむ」まで、玉鬘の詞。 | |
5.1.3 | 注釈459 | 【葎の門を】 | 『集成』は「見捨てられた家という歌語的表現」と注す。 | |
5.1.3 | 注釈460 | 【昔の御こと】 | 『完訳』は「源氏生前の昔。源氏が自分を養女にしたから、薫も親しむ」と注す。 | |
5.1.4 | 注釈461 | 【古りがたくもおはするかな】 | 以下「引き出でたまひてむ」まで、薫の感想と思い。 | |
5.1.5 | 注釈462 | 【喜びなどは】 | 以下「うちかへさせたまふにや」まで、薫の玉鬘への詞。 | |
5.1.5 | 注釈463 | 【御覧ぜられにこそ】 | 敬語はあなた、玉鬘に御覧になっていただきたいために、の意。 | |
5.1.5 | 注釈464 | 【よきぬなどのたまはするは】 | 「避き」は上二段動詞、未然形。「ぬ」打消の助動詞。玉鬘の詞「葎の門をよきたまはぬ」を受ける。 | |
5.1.5 | 注釈465 | 【おろかなる罪にうちかへさせたまふにや】 | 『完訳』は「わざと反対のことを言われたのか。薫のまわりくどい応じ方」と注す。 | |
5.1.6 | 注釈466 | 【今日は】 | 以下「もどかしくなむ」まで、玉鬘の詞。 | |
5.1.7 | 注釈467 | 【院にさぶらはるるが】 | 大君をさす。 | |
5.1.7 | 注釈468 | 【世の中を思ひ乱れ】 | 冷泉院の後宮生活。 | |
5.1.7 | 注釈469 | 【中空なるやうにただよふを】 | 里がちな生活をいう。 | |
5.1.7 | 注釈470 | 【なめげに心ゆかぬものに】 | 大島本は「心ゆかぬ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「ゆるさぬ」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
5.1.7 | 注釈471 | 【宮たちは、さてさぶらひたまふ】 | 女二の宮と男宮を冷泉院に残したまま里下がりしている意。 | |
5.1.7 | 注釈472 | 【かくて心やすくだにながめ過ぐいたまへ】 | 玉鬘の大君への助言。 | |
5.1.8 | 注釈473 | 【思しのたまはすなる】 | 「なる」伝聞推定の助動詞。 | |
5.1.8 | 注釈474 | 【とざまかうざまに】 | 中宮や弘徽殿女御に。 | |
5.1.8 | 注釈475 | 【幼うおほけなかりけるみづからの心を、もどかしくなむ】 | 後見もなく娘を院に参院させ、このような事態が起こることを見通せなかった、幼稚で身分不相応な我が身であったと後悔。 | |
5.1.9 | 注釈476 | 【と、うち泣いたまふけしきなり】 | 『完訳』は「簾越しに感取される」と注す。断定助動詞「なり」は登場人物薫と語り手の判断が一体化した表現。 | |
第二段 薫、玉鬘と対面しての感想 |
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5.2.1 | 注釈477 | 【さらにかうまで】 | 以下「はべらぬことになむ」まで、薫の詞。 | |
5.2.1 | 注釈478 | 【いかがいどましく】 | 「なからむ」に係る反語表現。 | |
5.2.2 | 注釈479 | 【心動かいたまふこと】 | 大島本は「心うこかひ」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「心を」と「を」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
5.2.2 | 注釈480 | 【男の方にて、奏すべきことにもはべらぬことになむ】 | 『完訳』は「後宮の女たちの葛藤は、公的立場の男子官僚には関わらぬこととして、玉鬘の懇願を冷たく突き放す。薫らしい冷静な反応に注意」と注す。 | |
5.2.4 | 注釈481 | 【対面のついでに】 | 以下「御ことわりや」まで、玉鬘の詞。 | |
5.2.4 | 注釈482 | 【あはの御ことわりや】 | 『集成』は「「あは」は「淡し」の語幹。「ことわる」は、是非を判断する意」と注す。 | |
5.2.5 | 注釈483 | 【いと若やかにおほどいたる心地す】 | 『集成』は「大層若々しくおっとりとした感じがする。薫の印象」と注す。 | |
5.2.5 | 注釈484 | 【御息所も】 | 以下「をかしきぞかし」まで、薫の感想。 | |
5.2.5 | 注釈485 | 【かやうにぞ】 | 大君も母玉鬘同様に若々しく魅力的な女性だろうの意。 | |
5.2.5 | 注釈486 | 【宇治の姫君の心とまりておぼゆるも】 | 宇治八の宮の大君をさす。『完訳』は「紅梅巻末「八の宮の姫君」と同じく、やや唐突。構想・成立上の問題点とされる。女君たちを次々と連想する点が、薫らしい」と注す。 | |
5.2.6 | 注釈487 | 【尚侍も】 | 中君。 | |
5.2.6 | 注釈488 | 【こなたかなた住みたまへるけはひをかしう】 | 寝殿の東西の部屋に。参院・参内以前にも同様に住んでいた。 | |
5.2.6 | 注釈489 | 【簾の内、心恥づかしうおぼゆれば、心づかひせられて】 | 主語は薫。 | |
5.2.6 | 注釈490 | 【大上は、「近うも見ましかば」と】 | 玉鬘。「ましかば」反実仮想。薫を婿として世話するのだったらと思う。 | |
第三段 右大臣家の大饗 |
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5.3.1 | 注釈491 | 【大臣の殿は、ただこの殿の東なりけり】 | 先に右大臣に昇進した紅梅大納言邸。もと致仕太政大臣の後継者(一男の柏木は死去)。玉鬘邸の東に位置する。 | |
5.3.1 | 注釈492 | 【大饗の垣下の君達など、あまた集ひたまふ】 | 右大臣昇進の祝宴。 | |
5.3.1 | 注釈493 | 【左の大臣殿の賭弓の還立、相撲の饗応などには】 | 夕霧。先の人事で左大臣に昇進。「賭弓の還立」は匂宮巻の「賭弓の帰饗」をさす。「相撲の饗応」は、七月の相撲の節会に催される。 | |
5.3.2 | 注釈494 | 【心にくくもてかしづきたまふ姫君たちを】 | 紅梅右大臣が大切に育てている姫君たち。中君と宮の御方。大君は春宮に入内。宮の御方は後の北の方真木柱の連れ子、蛍兵部卿宮との間の子。 | |
5.3.2 | 注釈495 | 【思ひきこえたまふべかめれど、宮ぞ、いかなるにかあらむ】 | 推量の助動詞「めり」は語り手の推量、「宮ぞいかなるにかあらむ」は挿入句、語り手の疑問提示。 | |
5.3.2 | 注釈496 | 【大臣も北の方も】 | 紅梅右大臣と北の方真木柱。 | |
5.3.3 | 注釈497 | 【昔のこと思ひ出でられて】 | 主語は玉鬘。夫鬚黒生前の頃の事が。 | |
5.3.4 | 注釈498 | 【故宮亡せたまひて】 | 以下「いづれにかよるべき」まで、玉鬘の詞。「故宮」は蛍兵部卿宮。蛍兵部卿宮が薨じて後、その北の方の真木柱のもとに紅梅大納言が通うようになり、やがて真木柱は紅梅大納言の今の北の方となった。蛍兵部卿宮はかつて玉鬘に懸想した人でもあった。 | |
5.3.4 | 注釈499 | 【通ひたまひしほどを】 | 大島本は「ほとを」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「ことを」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
5.3.4 | 注釈500 | 【かくてものしたまふも】 | 大島本は「かくてものし給」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「思ひも消えずかくて」と「思ひも消えず」を補訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
5.3.4 | 注釈501 | 【さすがなる方に】 | 大島本は「さすかなるかたに」とある。『集成』『完本』は諸本に従って「さすがさる方に」と校訂する。『新大系』は底本のままとする。 | |
5.3.4 | 注釈502 | 【いづれにか寄るべき】 | 『集成』は「継子の真木柱の再婚生活の幸福、実子の御息所の苦労など、つい比較しての感慨」と注す。 | |
第四段 宰相中将、玉鬘邸を訪問 |
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5.4.1 | 注釈503 | 【左の大殿の宰相中将】 | 夕霧の子、元の蔵人少将。薫と同時に昇進。 | |
5.4.2 | 注釈504 | 【朝廷のかずまへたまふ】 | 以下「はるけむ方なきこと」まで宰相中将の詞。 | |
5.4.4 | 注釈505 | 【見苦しの君たちの】 | 以下「心は乱らまし」まで、玉鬘の詞。宰相中将の詞に対する批判。 | |
5.4.4 | 注釈506 | 【いますがらふや】 | 『集成』は「いますからふや」と清音。『完訳』は「いますがらふや」と濁音に読む。 | |
5.4.4 | 注釈507 | 【故殿のおはせましかば】 | 「心は乱らまし」に係る反実仮想の構文。 | |
5.4.4 | 注釈508 | 【ここなる人びとも】 | 我が子たちも。 | |
5.4.5 | 注釈509 | 【右兵衛督、右大弁にて、皆非参議なるを、うれはしと思へり】 | もと左中将は右兵衛督(従四位下相当官)に、またもと右中弁は右大弁(従四位上相当官)に、わずかずつ昇進、しかし参議にはなれない。かつての蔵人少将は宰相中将になり、四位侍従の薫は中納言に昇っている。『完訳』は「宰相中将が参議なのに、自分の子らが資格があっても参議になれないのを悲嘆」と注す。 | |
5.4.5 | 注釈510 | 【侍従と聞こゆめりしぞ、このころ、頭中将と聞こゆめる】 | 頭中将はエリートコースのポスト、従四位下相当官。二人の兄に比較して日の当たる官職。推量の助動詞「めり」。語り手の婉曲的推量のニュアンス。 | |
5.4.5 | 注釈511 | 【宰相は、とかくつきづきしく】 | 宰相中将。『集成』は「玉鬘の姫君にかかわる貴公子として、薫よりはこの人を終始表面に立てた書き方」。『完訳』は「後続の物語があるような巻末形式である」と注す。 | |
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